説明

試料乾燥装置およびこれを用いた質量分析装置、質量分析システム

基板(101)に流路(103)を形成し、流路(103)の一端に、多数の柱状体(105)が形成された乾燥部(107)を設ける。乾燥部(107)の上部をのぞき、流路(103)の上部に被覆(109)を設ける。試料を流路(103)に導入すると、毛細管現象により乾燥部(107)へと導かれる。乾燥部(107)をヒーター(111)で加熱して溶媒を蒸発させ、溶質を濃縮、乾燥させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、試料乾燥装置およびこれを用いた質量分析装置、質量分析システムに関する。
【背景技術】
近年、タンパク質や核酸などの分離機能をチップ上に具備するマイクロチップの研究開発が活発に行われている(特許文献1)。これらのマイクロチップには、微細加工技術を用いて微細な分離用流路等が設けられており、極めて少量の試料をマイクロチップに導入し、分離を行うことができるようになっている。
しかしながら、従来のマイクロチップを用いた分離方法では、分離された成分が溶液または分散液の状態で得られるため、最終的に乾燥物を得るためには、マイクロチップとは別に、乾燥機器が必要であった。
一方、分離された成分の解析には、通常、質量分析が用いられる。たとえば、高分子化合物を効率よくイオン化し、質量分析を行う方法として、MALDI−TOFMS(Matrix−Assisted Laser Desorption Ionization−Time of Flight Mass Spectrometer:マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析装置)による分析が提案され、プロテオミクス解析等に用いられている(特許文献2)。
ところが、質量分析に供する高分子化合物がタンパク質、核酸、多糖等の生体成分である場合、生体試料から目的成分を予め単離する必要があった。たとえば複数の成分が含まれる試料の解析を行う場合、試料を精製し、二次元電気泳動法などによって成分毎に分離を行い、分離された各スポットから各成分を回収し、回収した成分を用いて質量分析用の試料を作製していた。このため、分離過程と試料作製過程とを別々に行う必要があり、操作が煩雑であった。
ここで、MALDI−TOFMSの場合、測定試料調製は、マトリックスとよばれるイオン発生促進材料を用いる場合、試料溶液とマトリックス溶液とを混合し、金属板の表面にマイクロピペット等を用いて滴下する。また、マトリックスを用いない場合、試料溶液を同様に平板上に滴下する。
図6は、従来のMALDI−TOFMS測定用試料調製方法を説明するための図である。図6(a)は、乾燥用基板133の表面に試料溶液131を滴下した様子を示す断面図であり、図6(b)はその上面図である。図6(b)に示すように、滴下された試料溶液131の最大幅は、レーザー光の最大スポット径135に比べて著しく大きくなってしまう。このため、単位面積あたりの試料濃度が小さく、比較的大量の試料が必要であり、生体成分等微量の試料の分析には必ずしも適した試料調製ではなかった。
さらに、従来の方法では、一枚の乾燥用基板133を複数の試料に対して用いていたため、試料毎に乾燥操作を行う必要があった。
特許文献1 特開2002−207031号公報
特許文献2 特開平10−90226号公報
【発明の開示】
このように、生体試料等微量の試料を効率よく濃縮し、乾燥することができる乾燥装置が求められていた。また特に、回収された試料を効率よく乾燥し、質量分析に供するための乾燥装置が求められていた。
上記事情に鑑み、本発明の目的は、試料を簡便に効率よく濃縮し、乾燥するための小型の試料乾燥装置、特に、生体試料の分離、精製等の処理により得られた成分を連続的に効率よく乾燥する試料乾燥装置を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、試料を効率よく濃縮し、乾燥するための質量分析用試料乾燥装置を提供することにある。また、本発明のさらに別の目的は、試料の乾燥および質量分析の基板として用いられる乾燥装置を備える質量分析装置を提供することにある。
本発明によれば、試料の通る流路と、該流路に連通し開口部を有する試料乾燥部とを備え、前記試料乾燥部は、前記流路より狭幅の微細流路を有することを特徴とする試料乾燥装置が提供される。
本発明に係る試料乾燥装置では、試料乾燥部は流路の幅が狭くなっており、また試料乾燥部に開口部が設けられているため、流路内の試料は毛細管現象により試料乾燥部に速やかに誘導される。試料乾燥部に導入された試料は、速やかに乾燥が進行する。また、試料乾燥部の試料の乾燥に伴い、流路内の試料溶液が自動的に試料乾燥部に連続的に供給される。このように、本発明の乾燥装置は操作が簡便であり、試料を効率よく乾燥させることができる。
なお、本発明において、「微細流路」は、具体的には以下のものが例示される。
(i)乾燥部に設けられた複数の突起部の間隙、ビーズ等の充填部材の間隙、
(ii)乾燥部に配置された多孔質体に含まれる細孔、
(iii)流路壁面に設けられた凹部、
等により形成される。微細流路は、開口部と連通する形態であることが好ましい。こうすることにより、流路から微細流路を通じて開口部へと至る試料の乾燥経路が確保されるため、確実に乾燥を行うことができる。
本発明によれば、試料の通る主流路と、該主流路から分岐する複数の副流路と、該副流路に連通する試料乾燥部と、を備え、前記試料乾燥部は、前記副流路より狭幅の微細流路を有することを特徴とする試料乾燥装置が提供される。
この試料乾燥装置は、試料乾燥部は主流路から分岐する副流路に設けられた構成を有するため、試料の乾燥を迅速に行うことができる。副流路の幅を主流路の幅よりも狭くすれば、主流路から副流路への液体の誘導がより確実に行われる。
この構成の装置では、主流路にて所望の分離、生成、分析等を行った後、試料を副流路に誘導し、試料乾燥部で乾燥させることも可能である。たとえば、前記試料は複数の成分を含み、前記主流路に前記成分を分離するための分離部が備えられた構成とすることができる。また、このような構成とすることにより、複数の副流路に試料中の各成分を誘導し、それぞれの乾燥物を得ることも可能となる。したがって、これまで複数の装置を用いて行っていた操作を一つの試料乾燥装置を用いて複数の処理を簡便に行うことが可能となる。
本発明の試料乾燥装置において、前記試料乾燥部の温度を調節するための温度調節部を備える構成とすることができる。こうすることにより、試料乾燥部を選択的に加熱し、試料の乾燥および乾燥に伴う流路から試料乾燥部への試料の導入を連続的により一層効率よく行うことができる。
本発明の試料乾燥装置において、前記試料乾燥部は、離間して配置された複数の突起部を有する構成とすることができる。突起部同士の間隙は微細流路を構成するので、毛細管力による液体の誘導がより確実に行われ、試料の乾燥を促進することができる。
本発明の試料乾燥装置において、前記試料乾燥部に複数の粒子が充填されている構成とすることができる。このような構成は、開口部から流路に粒子を充填すれば得られるため、製造が容易である。したがって、簡便に試料乾燥部に幅狭の流路を形成することができる。
また、本発明の試料乾燥装置において、前記試料乾燥部に多孔質体が充填されている構成とすることができる。ここで、「多孔質体」とは、外部と両側で連通する微細流路を有する構造体のことをいう。
本発明の試料乾燥装置において、前記試料乾燥部の頂部が、前記開口部より突出した形状である構成とすることができる。こうすることにより、試料乾燥部の側壁の表面積をさらに増すことができるため、より一層乾燥を促進することができる。
本発明の試料乾燥装置において、前記試料乾燥部は蓋部を有し、前記蓋部に、当該試料乾燥装置の外部に連通する微細流路が設けられた構成とすることができる。外気に連通する蓋部の微細流路を設けることにより、流路から蓋部の微細流路へと毛細管現象により液体が誘導され、乾燥が効率よく行われる。また、乾燥試料が微細流路の上部に堆積されるため、蓋部の微細流路の幅を調節することにより、乾燥試料の表面積を制御することが可能となる。
本発明の試料乾燥装置において、前記乾燥部の表面に金属膜が形成された構成とすることができる。こうすれば、質量分析装置の試料保持部として用いた際に、イオン化した試料に外力を付与するための電極として好適に用いることが可能となる。
本発明によれば、前記試料乾燥装置に含まれる試料乾燥部を試料保持部として含むことを特徴とする質量分析装置が提供される。本発明に係る質量分析装置によれば、試料乾燥部を試料保持部として含むため、試料保持部を試料乾燥装置として用いることができる。このため、質量分析を行う際の前処理、すなわち測定対象の成分の分離、精製、分析などから乾燥による回収までのステップを試料保持部中で連続的に行うことが可能となり、操作性が向上する。また、乾燥された試料の表面積を試料乾燥部上の開口部の大きさにより調節することができるため、質量分析時に試料に照射するレーザー光のスポット系に対応する形状に試料を成形することができる。よって、レーザー光照射部位における試料濃度を高めることが可能となり、測定精度、感度を向上させることができる。したがって、微量の試料についても効率よく測定試料の作製を行い、分析することが可能となる。
また、本発明によれば、生体試料を分子サイズまたは性状に応じて分離する分離手段と、前記分離手段により分離された試料に対し、酵素消化処理を含む前処理を行う前処理手段と、前処理された試料を乾燥させる乾燥手段と、乾燥後の試料を質量分析する質量分析手段と、を備え、前記乾燥手段は、前記試料乾燥装置を含むことを特徴とする質量分析システムが提供される。ここで生体試料は、生体から抽出したものであってもよく、合成したものであってもよい。
以上説明したように本発明によれば、開口部を有する試料乾燥部を備え、試料乾燥部は、流路より狭幅の微細流路を有することにより、試料を簡便に効率よく濃縮または乾燥するための小型の試料乾燥装置が実現される。また、本発明によれば、試料を効率よく濃縮し、乾燥するための質量分析用試料乾燥装置が実現される。また、本発明によれば、試料の乾燥および質量分析の基板として用いられる乾燥装置を備える質量分析装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
図1は、本実施形態に係る乾燥装置の構成を示す図である。
図2は、本実施形態に係る乾燥装置の構成を示す図である。
図3は、本実施形態に係る乾燥装置の構成を示す図である。
図4は、本実施形態に係る乾燥装置の構成を示す図である。
図5は、本実施形態に係るマイクロチップの構成の概略を示す図である。
図6は、従来の質量分析用試料調製方法を説明するための図である。
図7は、本実施形態に係る乾燥装置の作製方法を示す工程断面図である。
図8は、本実施形態に係る乾燥装置の作製方法を示す工程断面図である。
図9は、本実施形態に係る乾燥装置の作製方法を示す工程断面図である。
図10は、本実施形態に係る乾燥装置に液体を充填した際の様子を説明するための図である。
図11は、本実施形態に係る乾燥装置のヒーターによって乾燥部を加熱した際の試料液体の変化を示す図である。
図12は、質量分析装置の構成を示す概略図である。
図13は、本実施形態の乾燥装置を含む質量分析システムのブロック図である。
図14は、本実施形態に係る乾燥装置の構成を示す図である。
図15は、実施例に係るチップの概略構成を示す図である。
図16は、実施例に係るチップの乾燥部に設けられた柱状体の構成を示す図である。
図17は、実施例に係るチップの乾燥部にDNAが染み出している様子を示す図である。
図18は、実施例に係るチップの乾燥部が柱状体を有しない場合の流路出口の様子を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、試料を簡便に効率よく濃縮または乾燥するための小型の乾燥装置を例に挙げて説明する。この乾燥装置は、MALDI−TOFMS等の質量分析装置の試料保持部として用いることができる。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
(第一の実施形態)
図1は、本実施形態に係る乾燥装置の構成を示す図である。図1(a)は乾燥装置129の上面図であり、図1(b)はその断面図である。
乾燥装置129においては、基板101に流路103が設けられており、流路103の一端に、多数の柱状体105が形成された乾燥部107が設けられている。流路103の上部には被覆109が設けられているが、乾燥部107の上部は被覆109が設けられておらず、開口部となっている。乾燥部107の底部は、ヒーター111により温度調節が可能となっている。
この乾燥装置129では、乾燥部107に多数の柱状体105が設けられているため、試料液体141は、乾燥部107の流路壁全面を濡らすように充填される。この様子を、図10を用いて説明する。図10は、乾燥装置129に液体を充填した際の様子を説明するための図である。図10(a)は、乾燥部107に柱状体105が設けない場合の構成を示し、図10(b)は本実施形態の構成を示す図である。
図10(a)に示すように、柱状体105が設けられていない場合、試料液体141は被覆109のふちから流路壁に沿った部分のみしか乾燥部107を濡らすことができない。一方、図10(b)では、柱状体105が設けられているため、毛細管現象により流路103から乾燥部107に試料液体141が導入され、乾燥部107全体に充填される。したがって、図10(b)の構成では、乾燥部107の上面全体を試料液体141で覆うことが可能となる。また、柱状体105が設けられているため、乾燥部107における流路の比表面積が充分に確保されている。乾燥装置129はこのような構成となっているため、乾燥効率が高い。
また、乾燥装置129は、毛細管現象により流路103から乾燥部107に試料液体が流入すると、ヒーター111によって加熱され、溶媒が効率よく蒸発する構成となっている。このとき、図10(b)の構成では、乾燥部107において流路103上に柱状体105が設けられているため、試料乾燥部は流路の比表面積、すなわち試料乾燥部の体積に対する壁面の表面積が大きく、速やかにその上面に誘導され、乾燥部107にて試料の濃縮が効率よく進行する。そして、乾燥部107表面に析出し、乾燥する。試料液体141は流路103から乾燥部107に連続的に供給されるため、操作が簡便である。これに対し、図10(a)の構成では、試料液体は流路103の底面および側面にのみ接しているため、加熱の効率が図10(b)の構成に比べて低い。
なお、ヒーター111による乾燥部107の加熱温度は、乾燥させる試料液体中に含まれる成分の性質等に応じて適宜選択することができるが、たとえば50℃以上60℃以下とする。あるいは、乾燥部107における試料液体の乾燥速度は、たとえば0.1μl/min以上10μl/min以下、たとえば1μl/minとすることができる。
なお、乾燥装置129において、蓋119の形状は、乾燥部107の上部の少なくとも一部が開口するように基板101を覆う構成であればよい。被覆109を設けることにより、流路103内を密閉することができるため、流路103中の試料液体が乾燥部107へと一層効率よく誘導される。また、開口部の大きさを調節することにより、第六の実施形態において後述するように、乾燥した試料の形状を制御することが可能となる。
基板101の材料としては、シリコンを用いる。シリコン表面にはシリコン酸化を形成することが好ましい。こうすることにより、基板表面が親水性を有することとなり、試料流路を好適に形成することが可能となる。なお、基板101の材料として石英等のガラスや、プラスチック材料等を用いてもよい。プラスチック材料として、たとえばシリコン樹脂、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)等の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂等が挙げられる。このような材料は成形加工が容易なため、乾燥装置の製造コストを抑えることができる。
また、これらの材料を用いた場合、少なくとも乾燥部107の全面に金属膜を形成してもよい。表面に金属膜を形成することにより、導電性が付与される。よって、試料を乾燥後、乾燥装置129ごとMALDI−TOFMS等の質量分析に供する場合、乾燥部107を質量分析装置の電極として、電位を印加することが可能となるため、質量分析装置を簡易化することができる。また、質量分析の際に基板101の構成材料が試料とともに昇華することを抑制することができるため、測定精度、感度を向上させることができる。
さらに、基板101に金属を用いてもよい。金属を用いた場合、試料を乾燥後、乾燥装置129ごとMALDI−TOFMSに供する場合、金属を用いることにより、乾燥部107により一層確実に電位を付与することができる。
柱状体105は、たとえば、基板101を所定のパターン形状にエッチングすることにより形成することができるが、その作製方法には特に制限はない。
また、図1の柱状体105は円柱であるが、円柱、擬円柱等に限らず、円錐、楕円錘等の錐体;三角柱、四角柱等の多角柱;その他の断面形状を有する柱体;等としてもよい。柱状体105が擬円形断面以外の断面を有する形状とすることにより、柱状体105の側面に凹凸が付与されるため、側面の表面積をより一層大きくすることができる。また毛細管現象による液体吸収力をより一層向上させることができる。
さらに、柱状体105にかわり、図1(a)の断面を有するスリットを形成してもよい。スリットを形成する場合、柱状体105はたとえばストライプ状の突起等、さまざまな形状とすることができる。スリットとする場合にも、スリットの側面に凹凸を付与することにより、側面の表面積をさらに増すことができる。
柱状体105のサイズは、例えば、幅は5nm〜100μm程度とする。また、高さは図1では流路103の深さと同程度となっている。柱状体105の高さを変化させる態様については、第四の実施形態にて後述する。
また、隣接する柱状体105の間隔は、たとえば、5nm〜10μmとする。
また、被覆109の材料としては、たとえば基板101と同様の材料の中から選択することができる。基板101と同種の材料を用いてもよいし、異なる材料としてもよい。
次に、乾燥装置129の製造方法について説明する。基板101上への流路103および柱状体105の形成は、基板101を所定のパターン形状にエッチング等を行うことができるが、その作製方法には特に制限はない。
基板101上への流路103および柱状体105の形成は、基板101を所定のパターン形状にエッチング等を行うことができるが、その作製方法には特に制限はない。
図7、図8、および図9はその一例を示す工程断面図である。各分図において、中央が上面図であり、左右の図が断面図となっている。この方法では、微細加工用レジストのカリックスアレーンを用いた電子線リソグラフィ技術を利用して柱状体105を形成する。カリックスアレーンの分子構造の一例を以下に示す。カリックスアレーンは電子線露光用のレジストとして用いられ、ナノ加工用のレジストとして好適に利用することができる。

ここでは、基板101として面方位が(100)のシリコン基板を用いる。まず、図7(a)に示すように、基板101上にシリコン酸化膜185、カリックスアレーン電子ビームネガレジスト183をこの順で形成する。シリコン酸化膜185、カリックスアレーン電子ビームネガレジスト183の膜厚は、それぞれ40nm、55nmとする。次に、電子ビーム(EB)を用い、柱状体105となる領域を露光する。現像はキシレンを用いて行い、イソプロピルアルコールによりリンスする。この工程により、図7(b)に示すように、カリックスアレーン電子ビームネガレジスト183がパターニングされる。
つづいて全面にポジフォトレジスト137を塗布する(図7(c))。膜厚は1.8μmとする。その後、流路103となる領域が露光するようにマスク露光をし、現像を行う(図8(a))。
次に、シリコン酸化膜185をCF、CHFの混合ガスを用いてRIEエッチングする。エッチング後の膜厚を40nmとする(図8(b))。レジストをアセトン、アルコール、水の混合液を用いた有機洗浄により除去した後、酸化プラズマ処理をする(図8(c))。つづいて、基板101をHBrガスを用いてECRエッチングする。エッチング後の基板101の段差、すなわち柱状体105の高さを400nmとする(図9(a))。つづいてBHFバッファードフッ酸でウェットエッチングを行い、シリコン酸化膜を除去する(図9(b))。以上により、基板101上に流路103および柱状体105が形成される。
ここで、図9(b)の工程に次いで、基板101表面の親水化を行うことが好ましい。基板101表面を親水化することにより、流路103や柱状体105に試料液体が円滑に導入される。特に、柱状体105により流路が微細化した乾燥部107においては、流路の表面を親水化することにより、試料液体の毛管現象による導入が促進され、乾燥効率が向上するため好ましい。
そこで、図9(b)の工程の後、基板101を炉に入れてシリコン熱酸化膜187を形成する(図9(c))。このとき、酸化膜の膜厚が30nmとなるように熱処理条件を選択する。シリコン熱酸化膜187を形成することにより、分離装置内に液体を導入する際の困難を解消することができる。その後、被覆189で静電接合を行い、シーリングして乾燥装置129を完成する(図9(d))。
なお、基板101の表面に金属膜を形成してもよい。金属膜の材料は、たとえばAg、Au、Pt、Al、Tiなどとすることができる。また、これらは蒸着または無電界めっき等のめっき法により形成することができる。
また、基板101にプラスチック材料を用いる場合、エッチングやエンボス成形等の金型を用いたプレス成形、射出成形、光硬化による形成等、基板101の材料の種類に適した公知の方法で行うことができる。
基板101にプラスチック材料を用いる場合にも、基板101表面の親水化を行うことが好ましい。基板101表面を親水化することにより、流路103や柱状体105に試料液体が円滑に導入される。特に、柱状体105により流路103が微細化した乾燥部107においては、流路103の表面を親水化することにより、試料液体141の毛管現象による導入が促進され、乾燥効率が向上するため好ましい。
親水性を付与するための表面処理としては、たとえば、親水基をもつカップリング剤を流路103の側壁に塗布することができる。親水基をもつカップリング剤としては、たとえばアミノ基を有するシランカップリング剤が挙げられ、具体的にはN−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等が例示される。これらのカップリング剤は、スピンコート法、スプレー法、ディップ法、気相法等により塗布することができる。
図1に戻り、図1(b)において、乾燥部107の温度を調節するためのヒーター111を基板101底部に設ける。このとき、乾燥部107の末端が選択的に加熱されるようにヒーター111を設置することにより、流路103から乾燥部107に確実に試料液体が導入されるため、乾燥部107での乾燥効率をさらに向上させることができる。
なお、乾燥部107の加熱は、断続的に行うことがより一層好ましい。図11は、ヒーター111によって乾燥部107を加熱した際の試料液体141の変化を示す図である。図11(a)に示すように、乾燥部107に試料液体141を充填した後、ヒーター111を稼働させ、加熱する。すると乾燥が進行し、図11(b)に示すように、乾燥部107中の試料液体141の量が減少していく。そこで、ある程度乾燥が進行した段階で、一度ヒーター111を停止させると、乾燥部107に再度試料液体充填される(図11(a))。そこで再びヒーター111を稼働させ、乾燥を行う(図11(b))。以上の操作を繰り返すことにより、乾燥と試料液体の導入の両方がバランスよく進行するため、乾燥効率を向上させることができる。
(第二の実施形態)
図2(b)は、本実施形態に係る乾燥装置の構成を示す図である。図2(b)の構成は、第一の実施形態に記載の乾燥装置において、乾燥部107に吸水部115が形成された構成である。吸水部115は、表面が比較的親水性の多孔質構造であり、流路103から乾燥部107に充填された吸水部115へと試料溶液が毛細管現象によって導入されるようになっている。
また、吸水部115は、流路103から毛細管現象により試料液体が乾燥部107に流入し、その上面に蒸散することができる形状であれば特に制限はない。吸水部115に用いる材料として、たとえば多孔質シリコン、ポーラスアルミナ等、リソグラフィにより作製されたエッチングの凹状構造を用いることができる。
(第三の実施形態)
図2(c)は、本実施形態に係る乾燥装置の構成を示す図である。図2(c)の構成は、第一の実施形態に記載の乾燥装置において、乾燥部107にビーズ117が充填された構成である。ビーズ117は、表面が比較的親水性の微粒子であり、流路103から乾燥部107に充填されたビーズ117へと試料溶液が毛細管現象によって導入されるようになっている。
図2(c)の構成は、第一の実施形態と同様にして基板101表面に流路103を形成した後、その一端にビーズ117を充填することにより得られる。このとき、流路103の上部が開口しているため、たとえばビーズ117を容易に充填することができ、製作が容易である。
ビーズ117となる材料は、表面が比較的親水性であれば特に制限がない。疎水性の高い材料の場合、表面を親水化してもよい。たとえば、ガラス等の無機材料や、各種有機、無機ポリマー等が用いられる。また、充填した際に水の流路が確保されればビーズ117の形状に特に制限はなく、粒子状や針状、板状等とすることができる。たとえばビーズ117を球状粒子とする場合、平均粒子径はたとえば10nm以上20μm以下とすることができる。
なお、乾燥部107に充填する材料として、たとえば金属ビーズや半導体ビーズを用いることもできる。こうすることにより、乾燥装置129ごとMALDI−TOFMS等の質量分析に供する場合、乾燥部107により一層確実に電位を付与することができる。
次に、流路103へのビーズ117の充填方法について説明する。被覆109を接合していない状態で、ビーズ117、バインダ、および水の混合体を流路103に流し込む。このとき、流路103に堰き止め部材(不図示)を設けておき、混合体が乾燥部107とする領域以外の領域に流れ出さないようにしておく。この状態で、混合体を乾燥、固化させることにより、乾燥部107を形成することが可能である。
ここで、バインダとしては、たとえばアガロースゲルやポリアクリルアミドゲルなどの吸水性ポリマーを含むゾルが例示される。これらの吸水性ポリマーを含むゾルを用いれば、自然にゲル化するため乾燥させる必要がない。また、バインダを用いずに、ビーズ117を水のみに懸濁させたものを用い、上述のようにビーズ117を流路103に充填した後、乾燥窒素ガスや乾燥アルゴンガス雰囲気下で乾燥させ、乾燥部107を形成することもできる。
(第四の実施形態)
図3(c)は、本実施形態に係る乾燥装置の構成を示す図である。図3(c)の乾燥装置は、第一の実施形態に記載の乾燥装置において、柱状体105を開口部より突出させた構成の乾燥装置である。
ここで、図3(a)は柱状体105の高さを流路103の深さよりも小さくした構成であり、図3(b)は第一の実施形態に記載の構成すなわち柱状体105の高さを流路103の深さと略等しくした構成である。図3(a)、図3(b)、図3(c)の順に柱状体105の表面積は大きくなるため、乾燥部107における乾燥効率は向上する。また、図3(c)の構成では、試料が流路103の上面よりも上部まで毛細管現象により誘導されるため、乾燥試料も流路103の上部に堆積される。乾燥した目的成分の回収を行う際の操作性が容易となる。また、乾燥部107の高さ方向に試料が濃縮されるため、MALDI−TOFMS等の質量分析を行う際にも、さらに精度良い測定が可能となる。
(第五の実施形態)
図2(a)は、本実施形態に係る乾燥装置の構成を示す図である。図2(a)の構成は、第一の実施形態に記載の乾燥装置において、乾燥部107に孔113が形成された構成である。第一の実施形態〜第四の実施形態は、流路103の底面より上部に目的成分が濃縮、乾燥され、堆積される構成であったのに対し、図2(a)の構成では、流路103の底面近傍の高さに目的成分が濃縮、乾燥し、堆積されるという点が異なる。乾燥部107に孔113を設ける構成においても、孔113によって乾燥部107における流路の表面積が増加しているため、試料液体を効率よく濃縮、乾燥させることができる。
なお、図2(a)の構成は、第一の実施形態と同様にして、たとえばエッチング等の方法によって作製することができる。
また、図2(a)の孔113は断面が円形に形成されているが、多角形その他の断面を有する形状としてもよい。また、孔113の側面に凹凸形状を付与することにより、第一の実施形態の場合と同様、孔113の側面の表面積をより一層大きくすることができる。また毛細管減少による液体吸収力をより一層向上させることができる。
さらに、孔113は、図2(a)の断面を有するスリットとしてもよい。スリットとする場合にも、スリットの側面に凹凸を付与することにより、側面の表面積をさらに増すことができる。
孔113の幅は、たとえば10nm以上20μm以下とする。また、深さはたとえば10nm以上20μm以下とする。
(第六の実施形態)
本実施形態は、流路上部に設けられた開口部を微細流路として試料を乾燥し、蓋の上面に乾燥試料を堆積させる乾燥装置に関する。図14は、本実施形態に係る乾燥装置の構成を示す図である。図14(a)は乾燥装置143の上面図であり、図14(b)は図14(a)における乾燥部107周辺領域の断面図である。乾燥装置143は、乾燥部107を含む流路103全体を覆う蓋119を備える。蓋119には微細流路である開口部121が形成されており、流路103は開口部121により外気に連通している。このため、流路103から乾燥部107に導入された試料中の液体は、毛細管現象により開口部121に導かれ、蒸発する。
蓋119を設けることにより、蓋119上面における開口部121の近傍に乾燥試料123を選択的に堆積させることができる。また、開口部121の大きさを調節することにより、乾燥試料123の表面積を調節することができる。なお、開口部121は、図14に示されるように蓋119に1個に設けても良いし、複数個設けてもよい。
蓋119に開口部121を形成する構成とすると、たとえば乾燥装置143および乾燥試料123をMALDI−TOFMS測定に供する場合、乾燥試料123の径を図6中で前述したレーザー光の最大スポット径135の大きさ程度となるよう調節することができる。したがって、レーザー光の照射部位における乾燥試料123の濃度を増加させることが可能となり、測定精度、感度を向上させることができる。
なお、乾燥装置143において、乾燥部107に第一の実施形態と同様にして柱状体105を形成してもよい。図4(a)はこの様子を示す図である。こうすることにより、乾燥部107における流路が微細化するため、より一層効率よく乾燥を行い、乾燥試料123を蓋119の上面における開口部121の近傍に堆積させることができる(図4(b))。
(第七の実施形態)
本実施形態は、第一の実施形態に記載の乾燥装置129を複数備えるマイクロチップである。図5は、本実施形態に係るマイクロチップの構成の概略を示す図である。
図5のマイクロチップには、基板(不図示)に主流路125および主流路125から分岐した複数の副流路127が形成されている。そして、それぞれの副流路127は複数の乾燥装置129に連通している。
図5のマイクロチップを用いると、複数成分を含む試料液体について精製、成分の分離等を行い、最終的に各成分を乾燥装置129にて濃縮、乾燥させ、回収することが可能となる。
たとえば、主流路125に電流を流し、副流路127にゲル等を充填することにより、二次元電気泳動法と同様の分離をマイクロチップ内で行った場合、副流路127にて分離された各成分のバンドに対応する位置に乾燥装置129が連通するよう予め設計することにより、試料からそれぞれの成分を独立して回収することが可能となる。
具体的には、たとえ血液中の水溶性タンパク等の分離を行う場合、主流路125の上流側に分離装置を設け、不溶性成分を除去する。そして血漿成分のうち、低分子成分を透過除去させる分離機構を設け、高分子画分のみを主流路125中に残存させる。残存した高分子画分を上述のように主流路125および副流路127で二次元的に分離し、乾燥装置129に導入する。なお、このとき、副流路127より上流側の主流路125に乾燥装置129を設けておくことにより、高分子画分をある程度濃縮した後分離に供することが可能となるため、分離効率をさらに向上させることができる。
なお、図5では、乾燥装置129を用いたが、本実施形態に係る他の乾燥装置の構成を採用することももちろん可能である。
(第八の実施形態)
本実施形態では、第一の実施形態に記載の乾燥装置129をMALDI−TOFMS測定用基板として用いる。以下、乾燥装置129を用いてタンパク質のMALDI−TOFMS用試料調製および測定を行う場合を例に説明する。
MALDI−TOFMS測定により、測定対象のタンパク質の詳細な情報を得るためには、1000Da程度まで低分子化する必要があるため、低分子化を行った後、マトリックス溶液と混合し、乾燥装置129にて乾燥試料とする。
まず、測定対象のタンパク質が分子内ジスルフィド結合を有する場合、DTT(ジチオスレイトール)等の還元試薬を含むアセトニトリル等の溶媒中で還元反応を行う。こうすることにより、次の分解反応が効率よく進行する。なお、還元後、チオール基をアルキル化等により保護し、再び酸化するのを抑制することが好ましい。
次に、トリプシン等のタンパク質加水分解酵素を用いて還元処理されたタンパク質分子の低分子化処理を行う。低分子化は燐酸バッファー等の緩衝液中で行われるため、反応後、脱塩および高分子画分すなわちトリプシンの除去を行う。そして、MALDI−TOFMSの基質と混合し、流路103から乾燥部107に導入される。
乾燥部107の温度をヒーター111で調節し、濃縮、乾燥を行って、柱状体105の上部にマトリックスと分解されたタンパク質の混合物を析出させる。このとき、第一の実施形態で前述したように、ヒーター111の稼働と停止を繰り返すことにより、乾燥と試料溶液の導入とを繰り返すことにより、効率よく乾燥を行うことができる。
乾燥後の試料は、乾燥装置129ごとMALDI−TOFMS装置にセットし、乾燥装置129を電極として電圧を印加し、たとえば337nmの窒素レーザー光を照射し、MALDI−TOFMS分析を行う。
ここで、本実施形態で用いる質量分析装置について簡単に説明する。図12は、質量分析装置の構成を示す概略図である。図12において、試料台上に乾燥試料が設置される。そして、真空下で乾燥試料に波長337nmの窒素ガスレーザーが照射される。すると、乾燥試料はマトリックスとともに蒸発する。試料台は電極となっており、電圧を印加することにより、気化した試料は真空中を飛行し、リフレクター検知器、リフレクター、およびリニアー検知器を含む検出部において検出される。
したがって、乾燥装置129中の液体を完全に乾燥させた後、乾燥装置129をMALDI−TOFMS装置の真空槽に設置し、これを試料台としてMALDI−TOFMSを行うことが可能である。ここで、乾燥部107の表面には金属膜が形成されており、外部電源に接続可能な構成となっているため、試料台として電位を付与することが可能となっている。
このように、乾燥装置129を用いることにより、乾燥した試料を、乾燥装置129ごとMALDI−TOFMSに供することができる。また、流路103の上流に試料の分離装置等を形成しておくことにより、目的とする成分の抽出、乾燥、および構造解析を一枚の乾燥装置129上で行うことが可能となる。このような乾燥装置129は、プロテオーム解析等にも有用である。
このとき、乾燥装置129をMALDI−TOFMS測定用チップとして用いているため、電極板を試料毎に洗浄するステップが不要となり、作業が簡便になるとともに、測定精度の向上も可能である。
ここで、MALDI−TOFMS用のマトリックスは、測定対象物質に応じて適宜選択されるが、たとえば、シナピン酸、α−CHCA(α−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸)、2,5−DHB(2,5−ジヒドロキシ安息香酸)、2,5−DHBおよびDHBs(5−メトキシサリチル酸)の混合物、HABA(2−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸)、3−HPA(3−ヒドロキシピコリン酸)、ジスラノール、THAP(2,4,6−トリヒドロキシアセトフェノン)、IAA(トランス−3−インドールアクリル酸)、ピコリン酸、ニコチン酸等を用いることができる。
以上第一の実施形態に記載の乾燥装置129を用いた場合を例に説明をしたが、その他の実施形態に記載の乾燥装置を用いることももちろん可能である。
また、以上の実施形態に記載の乾燥装置における、柱状体105、孔113、吸水部115、ビーズ117等の形成された乾燥部107上面の微細構造を調節することにより、マトリックスを用いることなく高効率で試料をイオン化させることも可能となる。この場合、タンパク質溶液をマトリックス溶液と混合する必要がないため、たとえば第七の実施形態により回収された各画分を、乾燥装置129とともにMALDI−TOFMS測定に用いることができる。
なお、図13は本実施形態の乾燥装置を含む質量分析システムのブロック図である。このシステムは、図13(a)に示すように、試料1001について、夾雑物をある程度除去する精製1002、不要成分1004を除去する分離1003、分離した試料の前処理1005、前処理後の試料の乾燥1006、質量分析による同定1007、の各ステップを実行する手段を備えている。
ここで、本実施形態の乾燥装置による乾燥は、乾燥1006のステップに対応しており、マイクロチップ1008上で行われる。また、精製1002のステップにはたとえば血球等の巨大成分のみを除去するための分離装置等を用いる。分離1003には、二次元電気泳動やキャピラリー電気泳動、アフィニティークロマトグラフィー等の手法を用いる。前処理1005では、上述のトリプシン等を用いた低分子化、マトリックスとの混合等を行う。
また、本実施形態に係る乾燥装置は流路を有しているため、図13(b)に示すように、精製1002から乾燥1006までのステップを一枚のマイクロチップ1008上で行うこともできる。試料をマイクロチップ1008上で連続的に処理することにより、微量の成分についても損出が少ない方法で効率よく確実に同定を行うことが可能となる。
このように、図13に示される試料の処理のうち、適宜選択したステップまたはすべてのステップをマイクロチップ1008上にて行うことが可能となる。
以上、本発明を実施形態に基づき説明した。これらの実施形態は例示であり、各構成要素や各製造工程の組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【実施例】
本実施例では、図1を用いて前述した柱状体を有する構成の乾燥装置を基板上に作製し、評価した。図15は乾燥装置部の概略構成を示す図である。図15(a)は、乾燥装置の上面図である。また、図15(b)は、図15(a)のA−A’断面図である。
図15において、基板201上に流路202が形成され、その上面の一部がガラスふた203により覆われている。ガラスふた203を有する部分が上流側、有しない部分が下流側である。流路202の出口領域、すなわちガラスふた203の端部の上流および下流の領域に乾燥部204が設けられている。乾燥部204には、柱状体205が形成されている。
本実施例において、流路202および柱状体205の作製には、第1の実施形態に記述した加工方法を用いた。基板として、シリコンを用いた。流路202の幅を80μmとし、深さは400nmとした。
図16は、流路202の出口領域に形成された柱状体205の走査電子顕微鏡像を示す図である。図16ならびに後述する図17および図18において、紙面下方が上流、上方が下流である。図16に示したように、本実施例の乾燥装置の乾燥部204には、幅3μmの短冊状の複数の柱状体205が、柱状体205の長手方向(図中横方向)に約1μmのピッチで等間隔の列状に配置され、さらに柱状体205の列は、柱状体205の短手方向(図中縦方向)に700nmピッチで等間隔に複数列配置されている。また、柱状体205の高さは400nmとした。
本実施例では、得られた乾燥装置を用いることにより、以下に記載するDNAの乾燥と質量分析を連続的に行った。蛍光色素で染めたDNA(100bp)を含む溶液を流路202の上流側より流路202に満たした。その後、蛍光顕微鏡で流路202の出口領域を観察した。図17は流路202の出口領域の乾燥部204に形成された柱状体205近傍の蛍光顕微鏡像を示す図である。図17より、ガラスふた203よりも下流側に、蛍光色素で明るく観察されるDNAが60μmにわたって染み出している。これより、本実施例の乾燥装置を用いることにより、図10(b)を用いて前述したように、試料が乾燥部204に安定的に導かれ、容易に乾燥させることができた。
また、比較のため、同様の方法を用いて柱状体205を有しない乾燥装置を作製した。図18は流路出口領域に柱状体205がない場合の蛍光顕微鏡像を示す図であり、DNAがガラスふた203の外に染み出していない。本実施例で用いた流路202の深さが400nmで柱状体205を設けないチップの場合、図10(a)を用いて前述した濡らす度合いはさらに少なくなり、ガラスふた203のふちから流路202の壁面に沿った部分のみにおいても乾燥部204を濡らすことができないことがわかる。
さらに、図17の乾燥装置を用いて乾燥したDNAを引き続き質量分析に供した。すなわち、基板201を超音波振動器に載せてDNAを細分化した後、溶媒を自然乾燥させた。その後、流路202の出口領域に染み出して乾燥しているDNAにマトリックスを数μL滴下し、MALDI−TOFMS分析を行った。その結果DNAに起因する分析結果を得ることができた。
以上示した通り、本実施例においては、流路202の端部に複数の柱状体205を有し、上面の少なくとも一部が開放された乾燥部204を設けることにより、乾燥部204にDNAを移動させ、簡便に乾燥させることができた。さらに、乾燥装置を質量分析装置用の試料台として用いることが可能であり、乾燥させた試料を乾燥装置から取り出すことなく質量分析を行うことが可能な乾燥装置が実現された。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の通る流路と、該流路に連通し開口部を有する試料乾燥部とを備え、前記試料乾燥部は、前記流路より狭幅の微細流路を有することを特徴とする試料乾燥装置。
【請求項2】
試料の通る主流路と、該主流路から分岐する複数の副流路と、該副流路に連通する試料乾燥部と、を備え、前記試料乾燥部は、前記副流路より狭幅の微細流路を有することを特徴とする試料乾燥装置。
【請求項3】
請求の範囲第2項に記載の試料乾燥装置において、前記試料は複数の成分を含み、前記主流路に前記成分を分離するための分離部が備えられていることを特徴とする試料乾燥装置。
【請求項4】
請求の範囲第1項乃至第3項いずれかに記載の試料乾燥装置において、前記試料乾燥部は、離間して配置された複数の突起部を有することを特徴とする試料乾燥装置。
【請求項5】
請求の範囲第4項に記載の試料乾燥装置において、前記試料乾燥部の頂部が、前記開口部より突出した形状であることを特徴とする試料乾燥装置。
【請求項6】
請求の範囲第1項乃至第5項いずれかに記載の試料乾燥装置において、前記試料乾燥部に複数の粒子が充填されていることを特徴とする試料乾燥装置。
【請求項7】
請求の範囲第1項乃至第6項いずれかに記載の試料乾燥装置において、前記試料乾燥部に多孔質体が充填されていることを特徴とする試料乾燥装置。
【請求項8】
請求の範囲第1項乃至第7項いずれかに記載の試料乾燥装置において、前記試料乾燥部は蓋部を有し、前記蓋部に、当該試料乾燥装置の外部に連通する微細流路が設けられたことを特徴とする試料乾燥装置。
【請求項9】
請求の範囲第1項乃至第8項いずれかに記載の試料乾燥装置において、前記試料乾燥部の温度を調節するための温度調節部を備えることを特徴とする試料乾燥装置。
【請求項10】
請求の範囲第1項乃至第9項いずれかに記載の試料乾燥装置に含まれる試料乾燥部を試料保持部として含むことを特徴とする質量分析装置。
【請求項11】
生体試料を分子サイズまたは性状に応じて分離する分離手段と、
前記分離手段により分離された試料に対し、酵素消化処理を含む前処理を行う前処理手段と、
前処理された試料を乾燥させる乾燥手段と、
乾燥後の試料を質量分析する質量分析手段と、
を備え、
前記乾燥手段は、請求の範囲第1項乃至第9項いずれかに記載の試料乾燥装置を含むことを特徴とする質量分析システム。

【国際公開番号】WO2004/051234
【国際公開日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【発行日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−556856(P2004−556856)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015252
【国際出願日】平成15年11月28日(2003.11.28)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】