説明

試料保存装置

【課題】 断面作製等を行った試料を簡易に真空環境下で保管でき、真空環境下で保管したまま搬送可能な試料保存装置を提供する。
【解決手段】 試料保存装置1は、試料作製装置20の加工室21に固定して取り付けられたメインケース2と、脱着型ケース10とからなる。試料保管室5及び脱着型ケース10内は、真空仕切り弁を介して加工室21と連通可能である。試料を試料保管室5及び/又は脱着型ケース10に入れ、真空仕切り弁を開けた状態で、試料作製装置20が備える真空排気装置により加工室21を真空排気すれば、試料は真空環境で保管される。真空仕切り弁を閉じれば、大気開放して試料の取り出しが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
荷電粒子線が照射されて断面の作製が行われた試料又は荷電粒子線を照射して表面の観察及び/又は分析を行う試料を保存するための試料保存装置に関わる。
【背景技術】
【0002】
走査電子顕微鏡(SEM)や透過電子顕微鏡(TEM)で観察する試料を作製する装置として、例えば特許文献1の特開2005−37164号公報に記載されているような試料作製装置が知られている。この試料作製装置は、直線的端縁部を持つ遮蔽材を試料上に配置し、端縁部の横を通過して試料に照射されるイオンビームによって試料をエッチングすることにより試料断面を作製することができる。断面作製を行う加工室はイオンビームのために真空排気できるように真空排気装置が接続されている。
【0003】
試料によっては長時間大気に曝しておくと、酸化したり大気中の水分を吸って変質したりするものがある。イオンビームによって作製した試料を実際の観察に供するまでに時間がかかることがある。イオンビームが照射された試料は温度が高いため酸化が早く進行する傾向にあるため、試料作製終了後に加工室から試料を取り出したら、できるだけ早く試料を大気から遮断することが望まれる。
【0004】
TEMで観察する試料を真空乾燥しながら保管しておいて、TEMに装着した後、短時間で観察できるようにした技術が、例えば特許文献2の特開2003−121322号公報に開示されている。
【0005】
また、特許文献3の特開2001−171751号公報には、減圧状態や無酸素条件下で少量の試料を移動する目的で使用する、携帯用デシケータに関する技術が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−37164号公報
【特許文献2】特開2003−121322号公報
【特許文献3】特開2001−171751号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来から一般に市販されている中型や大型のデシケータや特許文献2の特開2003−121322号公報に開示されているデシケータは、据置きで使用することを前提としているため持ち運びは困難である。また、多数の試料を一括保管する大型の真空デシケータは、ひとつの試料を取り出す場合でも全室内を大気開放しなければならないという不便さがある。
【0008】
また、特許文献3の特開2001−171751号公報に開示されている携帯用デシケータは、汎用の小型デシケータであり、例えば鉱物採取現場から少量の砂状の試料等を研究室に運ぶ場合などには適している。そのため、携帯用デシケータの内部を減圧するのに使用する排気装置を別に用意する必要がある。
【0009】
一方、特許文献1の特開2005−37164号公報の試料作製装置で作製された試料は特定の断面が観察に供されるため、その面を保護するように試料を保管する必要がある。また、作業者が試料作製作業を行いながら簡易に作製直後の試料を真空保管できることが望まれる。
【0010】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものであってその目的は、イオンビームを用いて断面作製等を行った試料を大気に曝す時間を最小限に抑えて、簡易に真空環境下で保管でき、必要に応じてSEMやTEM等の観察装置のある場所に真空環境下で保管したまま搬送可能な試料保存装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の問題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
荷電粒子線を照射して観察及び/又は分析を行う試料を保存するための試料保存装置であって、
真空排気装置によって排気される真空排気部に連通する真空排気可能な空間を有するメインケースと、
試料保管のための内部空間を有する脱着型ケースとを備え、
前記メインケースは前記真空排気部と前記真空排気可能な空間との真空仕切りを行う機構と、前記脱着型ケースを前記メインケースに接続するための第1の真空逆止弁機構を組み込んだ差込口を有し、
前記脱着型ケースは第2の真空逆止弁機構を組み込んだ筒口を有し、
前記メインケースの前記差込口に前記脱着型ケースの前記筒口を差し込むことにより、前記第1の真空逆止弁機構と前記第2の真空逆止弁機構を介して前記メインケースの真空排気可能な空間に連通するようにしたことを特徴とする。
【0012】
また請求項2に記載の発明は、
前記メインケースの前記真空排気可能な空間を前記試料保存装置とは別の装置の真空排気部に連通させるようにしたことを特徴とする。
【0013】
また請求項3に記載の発明は、
前記第1の真空逆止弁機構と前記第2の真空逆止弁機構は、前記差込口に前記筒口を差し込むと前記脱着型ケースの内部と前記メインケースの真空排気可能な空間とが連通するように動作し、前記脱着型ケースの内部空間が真空排気された状態で前記差込口から前記筒口を引き抜いたとき、前記第1の真空逆止弁機構により前記メインケースの内部空間の真空が保持され、前記第2の真空逆止弁機構により前記脱着型ケースの内部空間が外部に対して真空保持されるように動作する機構を備えることを特徴とする。
【0014】
また請求項4に記載の発明は、
前記メインケースから取り外された前記脱着型ケースの内部が減圧状態にあるとき、前記第2の真空逆止弁機構の大気側端部を押圧することにより、前記脱着型試料保管ケース内に大気が導入される機構を備えることを特徴とする。
【0015】
また請求項5に記載の発明は、
前記メインケースは、真空排気及び大気開放が可能な試料保管のための空間を更に備えることを特徴とする。
【0016】
また請求項6に記載の発明は、
前記メインケースの前記試料保管のための空間が減圧状態にあるとき、前記真空仕切りを行う機構が閉じられたままの状態で前記試料保管のための空間に大気を導入することができるリーク機構を備えることを特徴とする。
【0017】
また請求項7に記載の発明は、
前記メインケースは、前記脱着型ケースの前記筒口を差し込むための差込口を複数備えることを特徴とする。
【0018】
また請求項8に記載の発明は、
前記メインケースの前記試料保管のための空間は、ガラス又はプラスチック類の透明材料を用いた蓋を有し、前記試料保管のための空間内部が減圧された状態のとき、該蓋は真空シール材によって封止されるようになっていることを特徴とする。
【0019】
また請求項9に記載の発明は、
前記脱着型ケースは、ガラス又はプラスチック類の透明材料を用いた蓋を有し、前記脱着型ケース内部が減圧された状態のとき、該蓋は真空シール材によって封止されるようになっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、イオンビームを用いて試料作製を行った試料を直ちに真空状態のケースに保管できるので、酸化しやすい試料や吸湿性のある試料の保存が素早く行えるようになった。また、真空環境を得るための真空排気系として、既存装置の排気系を使用できるので、余計な設置スペースを必要とせず、設置コストを低くすることができる。さらに、試料作製装置に固定して取り付けるメインケースと持ち運びが可能な脱着型ケースとを組み合わせる構造としたため、脱着型ケースに入れた試料を、試料作製装置と離れた場所に搬送が可能となった。また、複数の脱着型ケースを用意することにより、ひとつひとつの試料を個別に真空環境で保管し、それぞれの試料を個別に観察試料として取り出すことが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。但し、この例示によって本発明の技術範囲が制限されるものでは無い。各図において、同一または類似の動作を行うものには共通の符号を付し、詳しい説明の重複を避ける。
【0022】
図1及び図2は、本発明の試料保存装置がイオンビームを用いる試料作製装置に取り付けて使用する例を表す斜視図である。図1において、試料作製装置20は加工室21にイオン銃23、ステージ24が組み込まれており、加工室21内は図示しない真空排気装置とリーク弁により、真空排気及び大気開放を行うことができる。
【0023】
試料保存装置1は試料作製装置20に固定して取り付けられているメインケース2とメインケース2に脱着可能な脱着型ケース10から構成されている。図1は脱着型ケース10がメインケース2に接続されている状態を示し、図2は脱着型ケース10がメインケース2から取り外されている状態を示している。
【0024】
メインケース2は、試料作製装置20の加工室21の外壁に設けられた開口部にアダプタ3を用いて取り付けられている。メインケース2には、加工室21と試料保存装置1との間の真空仕切り弁が設けられており、開閉つまみ4aを操作することにより真空仕切り弁の開閉を行うことができる。
【0025】
メインケース2には試料保管室5が設けられており、排気孔5aを通して真空排気が行える。試料保管室5は透明材質の蓋6とOリング7により真空封止が可能である。またリーク機構8を操作して、リーク孔5bから大気開放が可能である。脱着型ケース10は透明材質の蓋11とOリング12により真空封止が可能である。脱着型ケース10は、筒口13を差込口9に差し込むことによりメインケース2と接続する。筒口13を差込口9に差し込むと、リークバルブ14の先端部14aが図2の矢印Aの方向に押され、真空逆止弁機構15が開放の状態となる。筒口13を差込口9から引き抜くと、先端部14aが元の位置に戻り、真空逆止弁機構15により脱着型ケース10内は外部と遮断される。
【0026】
図3は、本発明の試料保存装置の構造をさらに詳しく説明するための図面である。図3(a)は、メインケース2と脱着型ケース10が接続された状態を表す平面図である。図3(b)は、図3(a)のBB断面をあらわす断面図である。図3(b)の矢印Dの方向から見た平面図が図3(a)である。図3(c)は、図3(a)のCC断面に相当する脱着型ケース10の断面図である。図3(a)に示す脱着型ケース10は、図3(c)の矢印Eの方向から見た平面図を示している。
【0027】
図3(a)において、メインケース2の差込口9の奥には真空逆止弁9aが備えられている。脱着型ケース10の筒口13が差込口9に差し込まれた状態のとき、メインケース2の内部と脱着型ケース10の内部10aとは真空逆止弁9aを介して連通する。また、メインケース2の内部が減圧状態で筒口13が差込口9から引き抜かれたとき、真空逆止弁9aによりメインケース2の内部は外部に対して真空保持されるようになっている。
【0028】
図3(c)において、脱着型ケース10の内部10aが真空封止されているとき、リークバルブ14の先端部14aは僅かに筒口13よりとび出るようになっている。脱着型ケース10がメインケース2の差込口に差し込まれたとき、リークバルブ14の先端部14aがメインケース2内部の突当部9bに当接して押圧され、14a‘の位置に移動する。すなわち、リークバルブ14の先端部14aが14a’の位置にあるとき、脱着型ケース10の内部10aは外部と連通状態となる。従って、脱着型ケース10の内部10aが減圧状態にあるとき、先端部14aを押圧すれば内部10aは大気開放され、押圧を止めれば
弾性体の作用により先端部14aは14a‘の位置から元の位置に戻るようになっている。
【0029】
次に、本発明の試料保存装置を試料作製装置に取り付けた場合の使用例について説明する。
【0030】
試料作製装置20で試料作製が終了したら、加工室21を大気開放してステージ24を引き出し、試料を取り出す。作製済み試料をメインケース2の試料保管室5に入れる場合は蓋6を開けて試料を入れる。このとき、もし試料保管室5が真空になっていれば、リーク機構8により大気開放してから蓋6を開ける。脱着型ケース10に保存する場合は蓋11を開けて内部10aに試料を入れる。脱着型ケース10の内部10aを真空排気する場合は、メインケース2に接続させる。リーク機構8を閉じて、真空仕切り弁4を開ける。
【0031】
次の試料作製を行う試料があれば、それを試料作製装置にセットして、ステージ24を閉じて加工室21の真空排気を行う。続けて試料作製を行う試料が無い場合や、作製済み試料を真空環境に保存することを優先したい場合は、次の試料をセットすること無く、直ちにステージ24を閉じて加工室21の真空排気を行えば良いことはいうまでもない。加工室21が十分真空排気されたら、真空仕切り弁4を閉じる。
【0032】
以上の手順により、簡易にメインケース2の試料保管室5、脱着型ケース10に入れた試料を真空環境下で保存することができる。また必要に応じて、脱着型ケース10内部を真空保持したままメインケース2から切り離し、脱着型ケース10のみを所望の場所に持ち運ぶことが可能である。
【0033】
上記の説明においてメインケース2に設けられている差込口はひとつであったが、メインケースを長くして、複数の差込口を設けるようにしても良い。
【0034】
また上記の説明において、本発明の試料保存装置を試料作成装置に取り付けた場合を例にとり説明したが、SEM,TEM,FIB(集束イオンビーム装置),EPMA(電子プローブマイクロアナライザ)等の真空排気装置を有する装置の真空排気系に取り付けて使用することも可能であり、本発明の技術範囲に属する。更には、専用の真空排気装置を本発明の試料保存装置に付属させるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の試料保存装置が試料作製装置に取り付けられている例を示す斜視図。
【図2】メインケースから取り外された状態の脱着型ケースを示す斜視図。
【図3】本発明の試料保存装置の詳しい構造を示す図。
【符号の説明】
【0036】
(同一または類似の動作を行うものには共通の符号を付す。)
1 試料保存装置 2 メインケース
3 アダプタ 4 真空仕切り弁
4a 開閉つまみ 5 試料保管室
5a 排気孔 5b リーク孔
6,11 蓋 7,12 Oリング
8 リーク機構 9 差込口
9a 真空逆止弁 9b 突当部
10 脱着型ケース 13 筒口
14 リークバルブ 14a 先端部
15 真空逆止弁機構 20 試料作製装置
21 加工室 23 イオン銃
24 ステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線を照射して観察及び/又は分析を行う試料を保存するための試料保存装置であって、
真空排気装置によって排気される真空排気部に連通する真空排気可能な空間を有するメインケースと、
試料保管のための内部空間を有する脱着型ケースとを備え、
前記メインケースは前記真空排気部と前記真空排気可能な空間との真空仕切りを行う機構と、前記脱着型ケースを前記メインケースに接続するための第1の真空逆止弁機構を組み込んだ差込口を有し、
前記脱着型ケースは第2の真空逆止弁機構を組み込んだ筒口を有し、
前記メインケースの前記差込口に前記脱着型ケースの前記筒口を差し込むことにより、前記第1の真空逆止弁機構と前記第2の真空逆止弁機構を介して前記メインケースの真空排気可能な空間に連通するようにしたことを特徴とする試料保存装置。
【請求項2】
前記メインケースの前記真空排気可能な空間を前記試料保存装置とは別の装置の真空排気部に連通させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の試料保存装置。
【請求項3】
前記第1の真空逆止弁機構と前記第2の真空逆止弁機構は、前記差込口に前記筒口を差し込むと前記脱着型ケースの内部と前記メインケースの真空排気可能な空間とが連通するように動作し、前記脱着型ケースの内部空間が真空排気された状態で前記差込口から前記筒口を引き抜いたとき、前記第1の真空逆止弁機構により前記メインケースの内部空間の真空が保持され、前記第2の真空逆止弁機構により前記脱着型ケースの内部空間が外部に対して真空保持されるように動作する機構を備えることを特徴とする請求項1又は2の何れか1項に記載の試料保存装置。
【請求項4】
前記メインケースから取り外された前記脱着型ケースの内部が減圧状態にあるとき、前記第2の真空逆止弁機構の大気側端部を押圧することにより、前記脱着型試料保管ケース内に大気が導入される機構を備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の試料保存装置。
【請求項5】
前記メインケースは、真空排気及び大気開放が可能な試料保管のための空間を更に備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の試料保存装置。
【請求項6】
前記メインケースの前記試料保管のための空間が減圧状態にあるとき、前記真空仕切りを行う機構が閉じられたままの状態で前記試料保管のための空間に大気を導入することができるリーク機構を備えることを特徴とする請求項5に記載の試料保存装置。
【請求項7】
前記メインケースは、前記脱着型ケースの前記筒口を差し込むための差込口を複数備えることを特徴とする請求項1又は2の何れか1項に記載の試料保存装置。
【請求項8】
前記メインケースの前記試料保管のための空間は、ガラス又はプラスチック類の透明材料を用いた蓋を有し、前記試料保管のための空間内部が減圧された状態のとき、該蓋は真空シール材によって封止されるようになっていることを特徴とする請求項5又は6の何れか1項に記載の試料保存装置。
【請求項9】
前記脱着型ケースは、ガラス又はプラスチック類の透明材料を用いた蓋を有し、前記脱着型ケース内部が減圧された状態のとき、該蓋は真空シール材によって封止されるようになっていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の試料保存装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−80005(P2009−80005A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249312(P2007−249312)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】