説明

試料保持体及び試料検査装置並びに試料検査方法

【課題】大量に保持体を形成できる試料保持体、同保持体を用いた試料観察・検査方法、及び、試料観察・検査装置を提供する。
【解決手段】開口150bが形成された本体部150aと、開口150bを覆う試料保持膜150cとを備える試料保持体150を用い、支持手段311への接触により支持された状態で、試料保持体150の試料保持膜150cにおける開放された第1の面に保持された試料315に、試料保持膜150cにおいて真空雰囲気に接する第2の面側から、試料保持膜150cを介して、試料観察又は検査のための一次線320が照射可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子線やイオンビームを用いた試料の観察・検査において、水分などの液体成分を含む試料を高分解能で観察・検査することのできる試料保持体及び試料検査装置並びに試料検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」という)の構成を備える試料検査装置では、観察・検査対象とされる試料は、真空引きにより減圧された試料室内に配置される。そして、このように減圧雰囲気の試料室内に配置された試料に電子線が照射され、当該照射により試料から発生する反射電子(後方散乱電子)や二次電子等の二次的信号が検出される。
【0003】
また、透過型電子顕微鏡(以下、「TEM」という)、あるいは、走査型透過電子顕微鏡(以下、「STEMという」)の構成を備える試料観察・検査装置でも、観察・検査対象とされる試料は、真空引きにより減圧された試料室内に配置される。TEMやSTEMの場合には、試料室内に配置された試料に電子線が照射され、当該試料を透過した透過電子線が検出されることとなる。
【0004】
このような試料観察・検査装置を用いた試料観察・検査においては、試料室内において試料が減圧雰囲気に晒されることとなる。従って、水分を含有する試料が観察・検査対象であるときには、減圧雰囲気とされた試料室内に試料をそのまま配置すると、試料から水分が蒸発してしまう。この場合には、水分が含まれた状態での試料の観察・検査に支障をきたすこととなる。
【0005】
このように試料が減圧雰囲気に晒されることなくSEMを用いて試料観察・検査を行う例の一つとして、電子線を透過しかつ気体を透過しない膜を用いて常圧雰囲気と真空雰囲気を分けて、かつ、常圧雰囲気側に試料を配置する方法が示されている(特許文献1、2参照)。
【0006】
ここでは、観察・検査を行う際に、真空雰囲気側から当該膜を介して常圧雰囲気側に配置された試料に電子線が照射される。電子線が照射された試料からは反射電子が発生し、この反射電子は当該膜を通過して、真空雰囲気側に設けられた反射電子検出器によって検出される。これにより、SEMによる像(SEM像)が取得されることとなる。
【0007】
また、電子線が透過する一対の膜を備えるセル構造(試料ホルダ)をTEMの試料室内に設置し、当該セル構造内に試料を配置して電子線を試料に照射し、試料を透過した透過電子線を検出する例は、特許文献3及び特許文献4に記載されている。
【0008】
【特許文献1】特開2006−123711号公報
【特許文献2】特開2006−123712号公報
【特許文献3】特開昭47−24961号公報
【特許文献4】特開平6−318445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のSEM用試料保持体においては、特許文献1および特許文献2で薄膜を利用し液体を含む試料を観察・検査しているが、膜厚は10nm以上であり、撮像に二次電子を用いることは困難で反射電子(後方散乱電子)を用いている。このため、分解能を向上することはできなかった。
【0010】
一方、従来のTEM用試料保持体は、カーボンフィルムとメッシュを使用していた。この場合、試料をある程度減圧をした環境に配置するならば良いが、1気圧の耐性を得ることは容易でなかった。また、試料保持体を完全に手作業で組み立てるため、手間がかかるので大量の試料には対応できない。手作業で組み立てるため、カーボンフィルム間の間隔を狭めることは困難であり、分解能が低下するという問題もあった。
【0011】
SEMやTEMに共通の問題点として、試料をフィルターに通す、あるいは、試料に薬液を混合する場合には、1ml以上の試料が必要であった。
【0012】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、MEMS工程やナノインプリント工程を用いて形成するため、大量に保持体を形成できる試料保持体、同保持体を用いた試料観察・検査方法、及び、試料観察・検査装置を提供することを目的とする。この場合、SEM用では、厚さ10nm未満の薄い薄膜を用いたときに、2次電子を検出することが可能となり、より高分解能の観察・検査を実現できる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に基く試料保持体は、開口が形成された本体部と、該開口を覆う試料保持膜とを備える試料保持体であって、支持手段への接触により支持された状態で、該試料保持体の試料保持膜における開放された第1の面に保持された試料に、該試料保持膜において真空雰囲気に接する第2の面側から、該試料保持膜を介して、試料観察又は検査のための一次線が照射可能であることを特徴とする。
【0014】
本発明に基く試料検査装置は、前記試料保持体を用いて試料の観察又は検査を行う試料検査装置であって、前記試料保持体が載置される載置手段と、前記試料保持体の試料保持膜における第1の面に保持された試料に、該試料保持膜を介して一次線を照射する一次線照射手段と、該一次線の照射により試料から発生する二次的信号を検出する信号検出手段とを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明に基く試料検査方法は、前記試料保持体の試料保持膜における第1の面に試料を配置し、該試料に該試料保持膜を介して一次線を照射し、この一次線の照射により試料から発生する二次的信号を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、前記膜を、窒化シリコンを含むMEMSプロセスで形成すること、あるいは、ナノインプリントプロセスで形成することにより、微細加工が可能なため、試料に薬液を混合するなどする場合に試料の量を少なくできる。さらには、MEMSプロセス、あるいは、ナノインプリントプロセスを利用することにより、試料保持体を大量生産できる。
【0017】
また、前記膜の第1の面を開放し、前記試料保持体の外部から試料に対して、マニピュレータによりアクセス可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1の試料保持体、および、これを用いた耐圧実験を行う構成を示す図である。
【図2】実施例1の試料保持体の構成を示す図である。
【図3】実施例1の格子を有する試料保持体の構成を示す図である
【図4】実施例1の試料保持体の耐圧を示す図である。
【図5】実施例2の試料保持体の作製方法を説明する図である。
【図6】実施例2の試料保持体の作製方法を説明する図である。
【図7】実施例2の試料保持体の作製方法を説明する図である。
【図8】実施例3の全体構成を説明する図である。
【図9】実施例4の全体構成を説明する図である。
【図10】実施例5の試料保持体の構成を示す図である。
【図11】実施例5の試料保持体にパイプを接続する状態を示す図である。
【図12】実施例5の全体構成を説明する図である。
【図13】実施例6の試料保持体の作製方法を説明する図である。
【図14】実施例6の試料保持体の作製方法を説明する図である。
【図15】実施例7の試料保持体の構成を示す図である。
【図16】実施例7の試料保持体の作製方法を説明する図である。
【図17】実施例7の試料保持体にパイプを接続する状態を示す図である。
【図18】実施例8の全体構成を説明する図である。
【図19】実施例9の試料保持体の構成を示す図である。
【図20】実施例10の試料保持体の構成を示す図である。
【図21】実施例11の試料保持体の構成を示す図である。
【図22】実施例12の試料保持体の構成を示す図である。
【図23】実施例13の全体構成を説明する図である。
【図24】実施例13のステージ傾斜時の全体構成を説明する図である。
【図25】実施例14の試料保持体の構成を示す図である。
【図26】実施例14の長さの標準パターンの例を示す図である。
【図27】実施例15の全体構成を説明する図である。
【図28】実施例17の試料保持体の構成を示す図である。
【図29】実施例17の試料保持体の作製方法を説明する図である。
【図30】実施例17の全体構成を説明する図である。
【図31】実施例18の試料保持体の構成を示す図である。
【図32】実施例19の試料保持体の構成を示す図である。
【図33】実施例19の試料保持体の作製方法を説明する図である。
【図34】実施例20の試料保持体の構成を示す図である。
【図35】実施例21の試料保持体の構成を示す図である。
【図36】実施例22の全体構成を説明する図である。
【図37】実施例23の全体構成を説明する図である。
【図38】実施例25の試料保持体の構成を示す図である。
【図39】実施例26の試料保持体の構成を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明における各実施例について説明する。
【実施例1】
【0020】
図1に、本実施例における試料保持体、および、これを用いた耐圧実験を行う構成を示す。試料保持体102に形成されている試料保持膜101の第一の面に載置されることとなる試料(図示せず)は基本的に大気圧下(大気圧雰囲気)に置かれる。
【0021】
一方、一次線(電子線やイオン線)は試料保持膜101を介して試料に照射されるので、試料保持膜101の第二の面に接する雰囲気は一次線を(散乱を防いで)通すために真空にすることが必要となる。その為、試料保持膜101は最低でも各面に接する雰囲気の差圧で1気圧の耐性が必要である。本発明では、余裕を持ち、2気圧の耐性が必要であるとし、その条件を見出した。
【0022】
実験は、図1のように、試料保持体102の本体部となる枠状部材102aと、枠状部材102aの開口102bを覆う試料保持膜101とを具備する試料保持体102を、Oリング103とOリング104で挟み、さらにこれらOリング103と104をケース105およびケース106で押さえ込む。これにより空間107と空間108の間で気体の流出入が無くなった。ここでは、空間108に接する試料保持膜102の面を、試料を保持(載置)する第一の面とした。したがって、空間108の気圧を上昇させ(空間107は大気圧)、試料保持膜101が破壊される圧力を測定する。この実験を様々な大きさの試料保持膜(厚みD[μm]、試料保持膜の試料保持体もしくは格子との境界での周囲長L[μm]がパラメータとなる)で行った。
【0023】
ここで、Lの定義について説明する。図2は試料保持体102を空間107方向から見た図である。この図でLは周囲110の周囲長となる。すなわち、試料保持膜101において、枠状部材102aの開口102bを覆っている部分の周囲110の長さが、周囲長Lである。
【0024】
また、図3に示すように、枠状部材102aの開口102bに、試料保持膜101の補強用に格子111がある場合、Lは周囲112の周囲長となる。すなわち、試料保持膜101において、格子111の開口部111bを覆っている部分の周囲の長さが、周囲長Lである。
【0025】
実験の結果を図4に示す。この結果、膜の破壊強度とL/Dは線形の関係であり、2気圧の耐性のある条件はL/D<200000であることが分かった。また、これとは逆に、空間108を大気圧として、空間107のほうに圧力をかけた場合、図4の結果よりも低い圧力で試料保持膜101が破壊されることが分かった。したがって、試料は、空間108に接する試料保持膜101の面に載置させた方が膜破壊の危険性を低減させることができる。
【0026】
この実験結果より、L/D<200000の場合、耐圧が2気圧以上あることがわかった。現実的なLの最大値は、歩留まりなどを考えると20mm程度であると考えられる。これに対応する最も薄いDは、100nmである。これよりDが厚いと急速に保護膜101による散乱が大きくなり、観察・検査の際の分解能が劣化する。このため、Dは100nm未満とすることが望ましい。
【0027】
一方、上記実験結果より、厚みが僅かD=10nmであってもL<2000μm以下、D=1nmであってもL<200μmであれば、試料保持膜101の第一の面に試料を大気圧下で載置して、第二の面を真空にしても試料保持膜101が破壊されないことがわかった。この状態で、第二の面から電子線を試料に照射させると、試料から発する二次電子も試料保持膜101を透過する(二次電子の平均工程は10nm程度)ことととなり、第二の面に接する雰囲気(真空室)に置かれた二次電子検出器で二次電子を検出し、二次電子像を得ることができる。二次電子像は表面に敏感で、高分解能な像が得られることが知られており、本発明でもそれを確認することができる。このため、より望ましくは、Dは10nm未満とするのが良い。ただし、Dを極端に薄くすると歩留まりが悪くなるために、1nm以上の厚さとすることが望ましい。
【0028】
従来、厚い膜しか作れなかったので、二次電子像は不可能で後方散乱電子像を用いており、分解能は低かった。本発明では二次電子を利用できるために、高分解能で観察・検査することができる。また、MEMS工程を用いて形成するため、大量に保持体を形成できる。
【実施例2】
【0029】
試料保持体の作り方を図5に示す。両面をミラー研磨したシリコン基板201の両面に、化学的気相成長法(CVD)を用いて窒化シリコン膜211、212を形成する(図5(a))。次に、フォトレジストとリソグラフィーを用いてレジストパターン221を形成した後、本レジストパターンをマスクにRIE(リアクティブイオンエッチング)を用いて選択的に窒化シリコン膜211をエッチングする(図5(b))。硫酸でレジストパターン221を除去した後、窒化シリコン膜211をマスクとしてKOH液を用いることにより、シリコン基板201をウェットエッチングする(図5(c))。
本工程により、窒化シリコン膜212を有する試料保持体を形成することができる。
【0030】
次に、薄膜の上に格子が形成された試料保持体の形成方法について説明する。両面をミラー研磨したSOI(シリコンオンインシュレーター)ウェハ202(図6(a))の両面に、化学的気相成長法(CVD)を用いて窒化シリコン膜211、212を形成する(図6(a))。
【0031】
次に、フォトレジストとリソグラフィーを用いてレジストパターン221を形成した後、本レジストパターンをマスクにRIE(リアクティブイオンエッチング)を用いて選択的に窒化シリコン膜211をエッチングする(図6(b))。硫酸でレジストパターン221を除去した後、窒化シリコン膜211をマスクとしてKOH液を用いてシリコン基板203をウェットエッチングする。
【0032】
そして、BHF(バッファードフッ酸)を用いて、酸化シリコン膜231を選択的に除去する(図6(c))。スプレーでレジストを塗布した後、リソグラフィーを用いて格子のパターンを形成する。このレジストパターン222をマスクとして、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液)によりシリコン204を選択的にエッチングする(図6(d))。最後に硫酸を用いて、レジストパターン222を除去する。
【0033】
これにより、格子パターンを形成することができる。格子を形成することにより保持膜の周囲長Lを小さくできるために、保持膜をより薄くすることができる。
【0034】
また、格子の別の形成方法についても説明する。両面をミラー研磨したシリコン基板201の両面に、化学的気相成長法(CVD)を用いて窒化シリコン膜211、212を形成する。その後、片側の面に、CVDを用いて酸化シリコン膜232を形成する。(図7(a))酸化シリコン膜232上に、フォトレジストとリソグラフィーを用いて格子のレジストパターン223を形成する(図7(b))。
【0035】
レジストパターン223をマスクとして、BHFを用いたウェットエッチングで酸化シリコン232を選択的に除去し、格子パターンを形成する。硫酸を用いて、レジストを除去する(図7(c))。反対側の面にレジストを塗布し、フォトレジストとリソグラフィーを用いてレジストパターン221を形成する。
【0036】
これを用いて、格子がない試料保持体を形成したのと同様な方法で、シリコン201をエッチングする(図7(e))。ただし、本工程においては、KOHのかわりに、酸化シリコンをエッチングしないTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液)を用いた。本工程を用いると、価格の高いSOIウェハを使わずに格子を形成できる。
【実施例3】
【0037】
図8に、本発明の一実施例である観察・検査装置の概略構成を示す。本実施例は、電子源301、コンデンサーレンズ302、対物レンズ303、走査ユニット304よりなる電子線鏡筒305、反射電子検出器306、2次電子検出器307、真空チャンバー308、試料移動機構309、及び実施例2に記載の試料保持体150より成る。試料保持体150はチャンバー308にOリング(試料保持体150を支持するための支持手段)310、311を用いて接触しているため、チャンバー308内部を真空あるいは減圧状態にできる。
【0038】
試料保持体150は、上述と同様に、開口150bが形成された枠状部材(本体部)150aと、開口150bを覆う試料保持膜150cから構成されている。試料保持膜150cには、例えば液体を含む試料315が保持される。また、このような構成としているために、大気圧の試料315に、試料保持体150の試料保持膜150cを介して電子線320を照射した際に、試料315から発生する反射電子、および、二次電子を検出することができる。これにより、大気圧雰囲気に配置された試料315のSEM像を高分解能で得られる。
【0039】
本実施例では電子線を用いた構成を示したが、イオン線を用いて観察をすることもできる。特に、集束ヘリウムイオンを用いることにより、前記試料保持膜150cの劣化が少ない観察を行うことができる。
【実施例4】
【0040】
図9に、本発明の実施例の概略構成を示す。本実施例は、実施例8と類似である。ただし、試料保持体の配置方法が、実施例3ではOリング310、311を用いて試料保持体の上下から固定していたのに対し、試料保持体150とチャンバー308の間にのみOリング(支持手段)310を配置した点が異なる。また、液体を含む試料315がこぼれないように、まわりにシャーレ130を配置した点も異なる。これらの結果、チャンバー308内を減圧するため、Oリング310のみで真空を保持できる。これにより、簡単に試料保持体を固定できる。Oリング310の代わりにグリスを用いることもできる。以下の実施例においても、同様にグリスを用いることができる。
【実施例5】
【0041】
本実施例の試料保持体151の構造を、図10に示す。図10(a)は保持体を上から見た図であるが、図10(b)は図10(a)のA−A’断面、図10(c)はB−B’断面、図10(d)はC−C’断面である。試料保持体151は、保持体ベース401、保持体キャップ402より成る。また、図10に示すように、保持体ベース401に入口408a、出口408b、及び流路408cを設けた。保持体キャップ402には、開口413aが形成されており、これにより膜411の一部が露出されている。膜411の開口413aの下には、試料保持空間408dが位置している。
【0042】
試料保持体151の形成方法は、実施例2の場合と類似である。保持体ベース401と保持体キャップ402をそれぞれ独立に、実施例2と同様な方法で形成する。ただし、保持体ベース401を形成する際には、シリコンのエッチングを途中で停止し、流路408cの深さを制御する。このようにして形成した保持体ベース401と保持体キャップ402を、図10のように接着する。
【0043】
図11に示すように、試料保持体151の入口408aと出口408bの双方にパイプを接続して、入口408aに接続されたパイプ422aを介して試料を試料保持体151の流路408cに供給する。流路408cの出口408bに接続されたパイプ422bから、試料が適宜排出される。
【0044】
上記試料保持体を用いた観察・検査用装置全体の構成を、図12に示す。基本的な構成は、実施例4の場合と同様である。ただし、シャーレはなく、液体を含む試料がこぼれないようにするために流路を用いている。
【0045】
このような構造を用いることにより、試料保持体151に簡単に試料を入れることができる。また、開口413aを介して、試料保持体151内部の流路408c内に配置された試料414に集束した電子線320を照射・走査することができるとともに、この電子線320により発生した反射電子、あるいは、二次電子を反射電子検出器306、あるいは、二次電子検出器307で検出できる。これにより、試料414の走査電子顕微鏡像(SEM像)を得ることができる。このような構成とすることにより、液体を含む試料を観察・検査することができる。
【実施例6】
【0046】
本実施例の構成は、実施例5の場合と類似である。ただし、試料保持体151の薄膜部分に、格子構造を配置した点が異なる。このような構造とすることにより、より薄い薄膜を用いることができる。
【0047】
本試料保持体の形成方法は、次の通りである。実施例2と同様な工程により、保持体キャップ402を形成する(図13参照)。また、保持体ベース401を形成する(図14参照)。最後に保持体ベース401と保持体キャップ402を接着する(図14参照)。
【0048】
このような構成とすることにより、より薄い薄膜を用いた保持体を形成できる。これにより、液体を含む試料を、高い分解能で観察・検査することができる。
【実施例7】
【0049】
本実施例は、基本的に実施例5と同様である。ただし、複数の入口408a、出口408b、流路408c、試料保持空間408dを、同一の試料保持体152の上に形成した点が異なる (図15参照)。ただし、図15(b)は図15(a)のA−A’断面、図15(c)はB−B’断面、図15(d)はC−C’断面である。試料保持体の構成方法は、実施例6の場合と同様であるが、その概略を図16に示す。また、図17に、上記セルに試料を導入するためのパイプ422を接続する際の概略を示す。このような構成とすることにより、複数の試料を効率よく観察・検査できる。
【実施例8】
【0050】
本実施例は、実施例5と類似である。ただし、電子線を上から下向きに照射できるようにした点が異なる(図18参照)。このような構成とすることにより、電子線鏡筒内部にゴミが入るのを低減できる。
【実施例9】
【0051】
図19に、本実施例の試料保持体153の概略を示す。図19(a)は、試料保持体153を上から見た図であるが、図19(b)は図19(a)のA−A’断面、図19(c)はB−B’断面である。本試料保持体153は、実施例5と類似な方法で構成する。ただし、入口408a、出口408bの他に、引出口408eを設けた点が異なる。また、流路408cの他に、分岐路(流路)430、分岐路(流路)431、引出路408fを設けた。ここで、分岐路(流路)の深さ(膜411に垂直方向の幅)を流路408cよりも浅くした点が特徴的である。
【0052】
特に、膜411部分直下の観察部455の厚さ、すなわち、膜411に垂直方向の幅を10nm〜20μm(試料に含まれた構成物の大きさの1.1〜1.2倍にすると特によい)にする。これにより、液体成分を含む試料を試料保持体153内部に導入する際に、観察・検査対象となる構造物が膜411に近接することとなるので、膜411と該構造物との間に介在する液体成分等によって電子線が散乱される度合いを小さくすることができる。これにより、観察領域内部全域で良好な走査電子顕微鏡像を得ることができる。なお、試料に大気が含まれる場合でも同様である。
【0053】
次に、膜411部分直下の観察部455の深さ、すなわち、膜411に垂直方向の分岐路(流路)430、431の幅を10nm〜5μmとする。これにより、液体成分を含む試料を試料保持体153内部に導入する際に、試料保持体153内部における電子線の経路が短くなるために、液体や気体による電子線の散乱を少なくすることができる。これにより、観察領域内部全域で良好な走査電子顕微鏡像を得ることができる。
【実施例10】
【0054】
図20に、本実施例の試料保持体154の断面を示す。本試料保持体の構造は、実施例9の場合と類似であるが、分岐路(流路)430、分岐路(流路)431の一部の深さ(膜411に垂直方向の幅)が連続的に変化している点が異なる。また、このような連続的な深さ制御を行うために、保持体ベース403をPDMS(ポリジメチルシロキサン)を用いて構成する。
【0055】
このような構成とすることにより、液体を含む試料中の構造物をスムースに観察部に導くことができる。また、特に観察部直下において連続的に深さを変化させることにより、大きさの異なる構造物を異なる位置に配置できる。これによって、観察・検査を容易にすることができる。
【実施例11】
【0056】
本実施例の試料保持体155は、実施例9と同様である。ただし、流路408cに接続されている断面積の小さな分岐路(流路)430に、図21に示すように、フィルター462a、462b、462c、462dをそれぞれ設けた点が異なる。これらのフィルターとして、図21に示す突起物(円柱)415を設けた。フィルター462a、462b、462c、462dで、それぞれ突起物の間隔が異なるフィルターを採用する。
【0057】
このような構成とすることにより、観察部455に大きさの異なる構造物を導くことができる。この結果、大きさの異なる構造物を選択的に観察・検査することができる。なお、突起物としては、円柱形状のものの他に突起(凸部)を配置することもできる。また、ボール(球体)を配置した構造にすることもできる。
【実施例12】
【0058】
本実施例の試料保持体156は、実施例11と同様である。ただし、分岐路(流路)430の観察部455と引出路408fとの間に位置する部分に、462a〜462dとは異なるフィルター463a、463b、463c、463dをそれぞれ設置した点が異なる(図22参照)。これらのフィルターは、実施例11と同様に突起で構成する。ただし、463a−dを、上記フィルター462a−dよりも間隔が狭い突起で構成した点が特徴的である。
【0059】
本実施例の動作は、次のとおりである。最初に、実施例11と同様に、入口408aから出口408bに向けて試料を導入し、流路408cを試料で満たす。次に、引き口408eを減圧し、観察部455に連通する分岐路(流路)430に試料を満たす。この際、フィルター462により、大きさの異なる構造物がそれぞれの観察部455の下に入る。
【0060】
次に、入口408a、出口408b、引き口408eの圧力をほぼ同等にした上で、出口408bから試料を排出する。この際、観察部455に試料が残り、かつ、流路408cから試料がなくなるようにする。この状態で引き口408eを減圧することにより、フィルター463を介して液体成分のみを分岐路(流路)430及び引出路408fを通じて引き口408eから排出することができる。これにより、観察部455には、液体成分のない構造物だけを選択的に残すことができる。
【0061】
膜411に入射した電子線320は、試料保持体152内部に液体が有る場合、液体により散乱される。これに対し、本実施例では液体を選択的に排除し構造物だけを観察部455に配置することができるために、液体による散乱をなくすことができる。このため電子線320の散乱が少なくなるので、観察・検査時の分解能を向上することができる。
【実施例13】
【0062】
本実施例は、試料保持体151を、真空チャンバー308内部に入れた(図23参照)。また、試料保持体151を移動するためのステージ(支持手段)313を設置する。さらには、試料保持体151は、真空チャンバー308に入れる前に入口308aと出口308bを封止する。
【0063】
このような構造とすることにより、試料315を簡単に傾斜して観察・検査できる(図24参照)。
【実施例14】
【0064】
本実施例は、実施例7と類似である。ただし、試料保持体157の一部分に寸法の基準を寸法指標として示す指標パターン180を形成した点が異なる。
【0065】
本実施例による試料保持体157の構成を、図25に示す。試料保持体157の表面であって、各観察部455の近傍に、長さの標準パターン(指標パターン)180を形成する。長さの標準パターンの例を、図26に示す。間隔や周期の異なるラインアンドスペースなどから成る。
試料観察・検査の際に、このような長さ標準の画像を取得し、試料中の構造物の画像と比較・参照することにより、試料中の構造物の正確な寸法がわかる。
【実施例15】
【0066】
本実施例は、実施例4と類似である。ただし、試料315に前処理を行い、試料へ蛍光マーカーを付加した点、および、検出器に蛍光検出器325を付加した点が異なる(図27参照)。具体的には、蛍光マーカーを付加した抗体を、抗原抗体反応を用いることにより試料に付加する。
【0067】
試料に集束電子線を照射した際に、上記蛍光マーカーはカソードルミネッセンスにより発光する。これにより発生した光は、蛍光検出器325で検出される。本実施例では観察・検査の際に、最初、反射電子あるいは二次電子を検出して電子線320のフォーカス・スティグマなどの調整を行った上で、蛍光検出器325を用いて蛍光する場所を特定する。
【0068】
これにより、目的とするタンパク質あるいはその複合体がどの位置にあるのかを知ることができる。その後、再び反射電子あるいは二次電子を検出することにより、蛍光部位の近傍を詳細に観察・検査できる。
【実施例16】
【0069】
本実施例は、実施例15と類似である。ただし、前処理において、金属のマーカー付加処理を行った点が異なる。具体的には、金マーカーを付加した抗体を、抗原抗体反応を用いることにより試料に付加する。このとき、直径10nm〜50nmの金粒子をマーカーとして用いる。
【0070】
試料に集束電子線を照射した際に、上記金属マーカーは生体部分よりも原子量が大きいために、反射電子像として明瞭に観察・検査することができる。これにより、目的とするタンパク質あるいはその複合体がどの位置にあるのかを知ることができる。また、その近傍を詳細に観察・検査できる。
【実施例17】
【0071】
図28に、本実施例に用いた試料保持体160の構造を示す。ただし、図28(a)は試料保持体160を上から見た図であるが、図28(b)は図28(a)のA−A’断面である。試料の入口408a、出口408b、流路408c、分岐路(流路)430、431、観察部(試料保持空間)455を設けた。これらの入口408aと出口408bには、実施例7と同様に試料の供給と排出用のパイプ422を接続することができる。入口408aと出口408bの間には、流路408cを設けた。試料は入口408aより注入され、流路408cを通って出口408bより抽出される。
【0072】
流路408cから分岐する複数の分岐路(流路)430を設け、各分岐路(流路)430、431は観察部455に連通する。各観察部455は、電子線を透過する対向配置された2つの膜の間隙部から構成される(図28(b))。これにより、各観察部455内に導入された試料は、一方の膜を介して電子線が照射される。また、試料を透過した透過電子線は、他方の膜を介してセル外に到達する。この観察部455を用いて、その内部に配置された試料の走査型透過電子顕微鏡観察・検査、あるいは、透過電子顕微鏡観察・検査ができる。
【0073】
本セルの作成方法を記載する(図29参照)。樹脂491と樹脂492に、それぞれ射出整形技術やナノインプリント技術を用いて、流路、分岐路(流路)、および観察部をそれぞれ設けた(図29(a))。樹脂491と樹脂492の接着面に、それぞれスプレーで接着剤493、494を塗布し、それぞれの樹脂491、492に膜495、496を接着する(図29(b))。2枚の膜495、496が薄い隙間をもって接着できるように、一方の膜496に接着剤497を塗布した後、双方の膜495、496を接着する。接着剤はメタルマスク498を用いることにより、必要な部分のみ塗布する(図29(c))。接着剤の分量、粘性、接着時の圧力を制御することにより、膜間の隙間を制御することができる(図29(d))。あるいは、2枚の膜495、496間にスペーサーを入れて、隙間を制御することもできる。これらの接着を行った後、余分な膜をカットする。さらに別のメタルマスク499とイオンビーム500を用いて、流路の中心付近にある膜を除去する(図29(e))。流路のキャップになる部分501を射出整形、あるいは、ナノインプリントで形成した後、スプレーで接着剤502を塗布した上で樹脂491と接着する(図29(f))。これらの工程により、試料保持体160を形成する。
【0074】
走査透過電子像を観察・検査するための全体構成を、図30に示す。電子源301、コンデンサーレンズ302、対物レンズ303、走査ユニット304よりなる電子線鏡筒305、真空チャンバー308、上部電子線検出器503、軸上電子線検出器504、軸外電子線検出器506、試料保持体160、試料保持体160を支持するためのステージ(支持手段)507より成る。
【0075】
本構造を用いることにより、試料保持体160の観察部455内部の試料に集束した電子線320を照射・走査することができるとともに、同電子線320により発生した反射電子、あるいは、2次電子を上部電子線検出器503で検出できる。これにより、試料の走査電子顕微鏡像を得ることができる。また、同時に軸上電子線検出器504と軸外電子線検出器505を用いることにより、走査透過型電子線顕微鏡像を得ることができる。
【0076】
さらに、膜495、496のサポートとして、実施例2と類似な格子構造を配置したものを形成する。この場合、膜の外周を小さくできるために、より薄い膜を用いることができる。これにより、さらに分解能を向上することができる。
本実施例では電子線を用いた構成を示したが、イオンを用いて観察をすることもできる。特に、ヘリウムイオンを用いることにより、前記試料保持膜の劣化が少ない観察を行うことができる。この場合、軸上電子線検出器504、軸外電子線検出器506のかわりに、それぞれ軸上イオン検出器と軸外イオン検出器を用いる。
【実施例18】
【0077】
本実施例の試料保持体161は、実施例17と同様である。ただし、実施例9と同様に、流路408cに連通する入口408a、出口408bに加えて、引き口408e、引出路408fを付加した点が異なる。
【0078】
本実施例の概略構成を、図31に示す。図31(a)は試料保持体161を上から見た図である。入口408aから出口408bに至る流路408cに、断面積の小さな分岐路(流路)430、分岐路(流路)431が接続されている。これらの分岐路(流路)430、431は、観察部455を通って引出口408eにつながる引出路408fに接続されている。入口408aから出口408bに向けて試料を導入することにより、流路408cには試料が入る。分岐路(流路)430、431にも通常毛細管現象で試料が入るが、分岐路(流路)430、431の断面積が著しく小さな場合では、十分な量の試料が観察部455に導入されない場合がある。これに対し、本実施例では、引出口408eの圧力を入口408a及び出口408bに対して低くすることにより、分岐路(流路)430、431を介して観察部455に十分な量の試料を入れることができる。
【0079】
このような構成とすることにより、断面積の小さな分岐路(流路)430、431を介して観察部455に試料を導入することができるので、小さな構造物を観察・検査することができる。
【実施例19】
【0080】
本実施例の試料保持体162は、実施例18と同様である。ただし、構成する材料をシリコン系とした点が異なる。具体的な構成を、図32に示す。図32(a)は、上から見た図であり、図32(b)は(a)のA−A’断面である。
【0081】
本試料保持体の形成方法を、図33を用いて示す。両面をミラー研磨したシリコン基板201の両面に、CVD法を用いて窒化シリコン膜211、212を形成する。次に、その片面にCVD法を用いて酸化シリコン膜膜231を形成する(図33(a))。次に、窒化シリコン膜のみを形成した側に、フォトレジストとリソグラフィーで形成したマスクとドライエッチングを用いて、窒化シリコン膜212をパターン加工する。この窒化シリコン膜のパターンをマスクとして、TMAHを用いてウェットエッチングにより、シリコン基板201を途中までエッチングする(図33(b))。その後、酸化シリコン膜231を形成した側に、同様にフォトレジストとリソグラフィーを用いたマスクを用いて酸化シリコン膜231を部分的に加工した後、あらたなフォトレジストのマスクを用いて窒化シリコン膜211をエッチングする。これにより、図33(c)の形状を形成する。そして、窒化シリコン膜212だけの面と酸化シリコン膜231を形成した面の両側を、TMAHを用いてシリコン基板201のエッチングを行い、図33(d)の構造を得る。最後に、このようにして形成した構造を2つ準備し、互いに酸化シリコン膜231を形成した面をあわせて接着することにより、試料保持体162を完成する(図33(e))。
【0082】
なお、対向する2枚の試料保持膜の間隔は、1nmから1μmの間になるように制御する。1μmより厚いと試料保持膜による電子線の散乱が大きくなり分解能が大きく劣化し、また、1nmより薄いと試料が膜の間に入らないためである。
【0083】
このようにシリコン系の材料を用いて試料保持体を形成したため、形成の工程を単純化できる。
【実施例20】
【0084】
本実施例は、実施例19と同様である。ただし、流路408cに接続されている断面積の小さな分岐路(流路)430に、図34に示すように、フィルター462a、462b、462c、462dをそれぞれ設けた点が異なる。これらのフィルターは、図34に示す突起物415で構成する。フィルター462a、462b、462c、462dで、それぞれ突起物の間隔が異なるフィルターを採用する。
【0085】
このような構成とすることにより、観察部455に大きさの異なる構造物を導くことができる。この結果、大きさの異なる構造物を選択的に観察・検査することができる。
【実施例21】
【0086】
本実施例の試料保持体163は、実施例20と同様である。ただし、観察部455と引出路408eとの間にフィルター462とは別のフィルター463a、463b、463c、463dをそれぞれ設置した点が異なる(図35参照)。これらのフィルター463は、実施例40と同様に突起415で構成する。ただし、フィルター463を、上記フィルター462よりも間隔が狭い突起で構成した点が特徴的である。
【0087】
本実施例の動作は、次のとおりである。最初に、実施例40と同様に、入口408aから出口408bに向けて試料を導入し、流路408cを試料で満たす。次に、引き口408eを減圧し、観察部455に連通する分岐路(流路)430に試料を満たす。この際、フィルター462により、大きさの異なる構造物がそれぞれの観察部455の下に入る。
【0088】
次に、入口408a、出口408b、引出口408eの圧力をほぼ同等にした上で、出口408bから試料を排出する。この際、観察部455に試料が残り、かつ、流路408cから試料がなくなるようにする。この状態で引出口408eを減圧することにより、フィルター463を介して液体成分のみを引出路408fを通じて引出口408eから排出することができる。これにより、観察部455には、液体成分のない構造物だけを選択的に残すことができる。
【0089】
膜411に入射した電子線320は、試料保持体163内部に液体が有る場合、液体により散乱される。これに対し、本実施例では液体を選択的に排除し構造物だけを観察部455に配置することができるために、液体による散乱をなくすことができる。このため電子線320の散乱が少なくなるので、観察・検査時の分解能を向上することができる。
【実施例22】
【0090】
本実施例は、実施例17と類似である。ただし、試料を透過した電子を結像するための結像レンズ330を付加した点が異なる。(図36参照)。
【0091】
このような構成とすることにより、通常の透過型電子顕微鏡像を得ることができる。このため、通常の透過電子顕微鏡で取得した画像と比較をしやすい。なお、図中の331は、高感度電子線カメラである。
本実施例では電子線を用いた構成を示したが、イオンを用いて観察をすることもできる。特に、ヘリウムイオンを用いることにより、前記試料保持膜の劣化が少ない観察を行うことができる。この場合、高感度電子線カメラ331のかわりに、高感度イオンカメラを用いる。
【実施例23】
【0092】
本実施例は、実施例17と類似である。ただし、前処理の最初に試料への蛍光マーカー付加処理を行った点、および、検出器に蛍光検出器325を付加した点が異なる(図37参照)。具体的には、蛍光マーカーを付加した抗体を、抗原抗体反応を用いることにより試料に付加する。
【0093】
試料に集束電子線を照射した際に、上記蛍光マーカーはカソードルミネッセンスを起こす。これにより発生した光は、蛍光検出器325で検出される。本実施例では観察・検査の際に、最初、透過電子を検出して電子線320のフォーカス・スティグマなどの調整を行った上で、蛍光検出器325を用いて蛍光する場所を特定し、最後に再び透過電子検出器を用いて透過電子像を取得する。このような工程とすることにより、どの部位が蛍光しているかがわかるため、目的としているタンパク質やその複合体がある位置を特定できる。また、透過電子観察・検査を行うことにより、これらの部位の近傍を詳細に観察・検査できる。
【実施例24】
【0094】
本実施例は、実施例23と類似である。ただし、前処理の最初に試料への金属のマーカー付加処理を行った点が異なる。具体的には、金マーカーを付加した抗体を、抗原抗体反応を用いることにより試料に付加する。このとき、直径10nm〜50nmの金粒子をマーカーとして用いた。
【0095】
試料に集束電子線を照射した際に、上記金属マーカーは生体部分よりも原子量が大きいために、透過電子像として明瞭に観察・検査することができる。マーカーを用いることにより、目的としているタンパク質やその複合体がある位置を特定できる。また、透過電子観察・検査を行うことにより、これらの部位の近傍を詳細に観察・検査できる。
【実施例25】
【0096】
本実施例の試料保持体は、試料と薬品をセル内で混合できるように、同一の流路408cに連通する複数の入口408aが設けられ、それぞれの流路408c内で試料と薬液とが混合できるように構成されている点が異なる(図38参照)。
【0097】
このような構成とすることにより、セル上で試料と薬品の混合を行うことができる。
【0098】
この混合により生じた物質を、流路430を通して試料保持空間455に導入する。試料保持空間455の周囲の構造は、実施例5あるいは実施例17のようになっている。セルを走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡、走査型透過電子顕微鏡の試料室に設置する。セルの試料保持空間に存在する該物質に電子線を照射させ、これにより発生する二次的信号、もしくは透過電子を検出して試料の情報を取得することができる。
【0099】
本実施例では、試料と一つの薬品を混合する構成としたが、試料と複数の薬品を混合できる構成も可能である。また、流路にディレイ等を配置することにより、薬液の混合タイミングを制御できる。
【実施例26】
【0100】
本実施例は、実施例25と類似である。ただし、薬液と試料の混合過程を観察・検査できるように、薬液と試料が混合される位置の近傍を直接観察・検査できるようにした点が異なる(図39参照)。また、全体をシリコン系の材料で構成している。このような構造とすることにより、薬液と試料が反応する過程を高分解能で計測できる。
【0101】
このように、本発明における試料保持体は、枠状部材102a,150aの開口102b,150bが膜101,150cにより覆われており、該膜の第1の面に試料315を保持するための試料保持体であって、該膜の厚みDと、該膜において該枠状部材の開口を覆っている部分の周囲長Lとの関係が、L/D<200000であることを特徴としている。
【0102】
また、本発明における試料保持体は、枠状部材102a,150の開口102b,150bに格子111が形成され、少なくとも該格子の開口部111bが膜101,150cにより覆われており、該膜の第1の面に試料315を保持するための試料保持体であって、該膜の厚みDと、該膜において該格子の開口部を覆っている部分の周囲長Lとの関係が、L/D<200000であることを特徴としている。
【0103】
この場合、前記膜の厚みを、1nm以上100nm未満とすることができる。さらに、前記膜の厚みを、1nm以上10nm未満とすることができる。また、前記膜を、窒化シリコンで形成することができる。
【0104】
さらに、上記試料保持体において、前記膜の第1の面を、探針を備えるマニピュレータ(図示せず)により外部からアクセス可能に開放することができる。
【0105】
そして、上記試料保持体を構成部材として2つ配置して互いに対向させ、その間に試料を保持することができる。
【0106】
また、上記試料保持体と、該試料保持体に対向して配置されたベースとを用意し、該試料保持体と該ベースとの間に試料保持空間を形成して、該試料保持空間に試料を供給する為の流路を設け、該流路を介して外部から試料を該試料保持空間に供給することが可能である。
【0107】
この場合、前記流路及び前記試料保持空間のうちの少なくとも一方に、試料中の構成物を分別するフィルター構造を備えることができる。
【0108】
また、上記試料保持体を2つ配置して互いに対向させ、その間に試料保持空間を形成し、該試料保持空間に試料を供給する為の流路を設け、該流路を介して外部から試料を該試料保持空間に供給することが可能である。
【0109】
この場合にも、前記流路及び前記試料保持空間のうちの少なくとも一方に、試料中の構成物を分別するフィルター構造を備えることができる。
【0110】
前記フィルター構造は、試料中の構成物の大きさを分別する機能を備えることができる。さらに、前記フィルター構造は、段差部、傾斜部、幅の長さが特定された部分、柱部、試料中の特定構成物を吸着するための吸着機能を有する部分のうちの少なくとも一つを具備することができる。
【0111】
そして、前記試料保持空間に、試料の少なくとも一部分を引き出すための引出路を接続することができる。
【0112】
また、互いに対向配置されている前記膜の間隔、若しくは前記膜と前記ベースとの間隔を、0.01μm以上1μm以下とすることができる。
【0113】
本発明における観察・検査方法は、上記何れかの試料保持体における前記膜の第1の面に保持された試料に、該膜の第2の面を介して一次線を照射し、これにより試料の観察又は検査を行うことを特徴としている。
【0114】
この場合、前記膜の第2の面に接する雰囲気を減圧した状態で、前記一次線を照射することができる。
【0115】
さらに、前記膜の第1の面を開放し、前記試料保持体の外部から試料に対して、探針を備えるマニピュレータ(図示せず)によりアクセス可能とすることができる。
【0116】
また、試料保持体の外側を減圧した状態で、該試料保持体に保持されている試料に一次線を照射し、これにより試料の観察又は検査を行うことができる。
【0117】
本発明における観察・検査装置は、上記何れかの試料保持体を支持するための支持手段と、該試料保持体の前記膜を介して試料に一次線を照射する一次線照射手段と、該一次線の照射に応じて該試料から発生する二次的信号を検出する信号検出手段とを有することを特徴としている。
【0118】
また、本発明における観察・検査装置は、上記何れかの試料保持体を支持するための支持手段と、該試料保持体の前記膜の第2の面に接する雰囲気を減圧する真空室と、該真空室に接続され、該膜の第1の面に保持された試料に該膜を介して一次線を照射する一次線照射手段と、該一次線の照射に応じて該試料から発生する二次的信号を検出する信号検出手段とを有することを特徴としている。
【0119】
ここで、前記一次線を電子線もしくはイオン線とし、前記二次的信号を、二次電子、反射電子又は蛍光のうちの少なくとも一つとすることができる。
【0120】
また、本発明の観察・検査装置では、支持手段に支持された試料保持体の前記膜を介して試料に一次線を照射する一次線照射手段を備えるとともに、前記一次線の照射により前記試料から発生する二次的信号又は該試料を透過した透過信号を検出して試料の情報を得ることもできる。
【0121】
そして、支持手段に支持された試料保持体の前記膜の試料に対面していない側に接する雰囲気を減圧する真空室と、該真空室に接続され該膜を介して試料に一次線を照射する一次線照射手段とを備えるとともに、該照射により該試料から発生する二次的信号又は該試料を透過した透過信号を検出して試料の情報を得ることもできる。
【0122】
ここで、前記一次線を電子線、もしくはイオン線とし、前記二次的信号を、二次電子、反射電子、もしくは蛍光とすることができる。
【符号の説明】
【0123】
101・・・試料保持膜
102・・・試料保持体
102a・・・枠状部材
102b・・・開口
103、104・・・Oリング
105、106・・・ケース
107、108・・・空間
110・・・周囲
111・・・格子
111b・・・開口部
112・・・周囲
130・・・シャーレ
150・・・試料保持体(単純)
150a・・・枠状部材
150b・・・開口
150c・・・試料保持膜
151・・・試料保持体(流路付,格子付も含む)
152・・・試料保持体(複数流路)
153・・・試料保持体(引出路付)
154・・・試料保持体(引出路付,樹脂)
155・・・試料保持体(フィルター)
156・・・試料保持体(ダブルフィルター)
157・・・試料保持体(寸法標準付)
160・・・試料保持体(TEM用樹脂)
161・・・試料保持体(TEM用樹脂 引出路)
162・・・試料保持体(TEM用Si系 引出路)
180・・・長さの標準パターン
201・・・シリコン基板
202・・・SOI(シリコンオンインシュレーター)ウェハ
203、204・・・シリコン
211、212・・・窒化シリコン膜
221、222、223・・・レジストパターン
231、232・・・酸化シリコン膜
301・・・電子源
302・・・コンデンサーレンズ
303・・・対物レンズ
304・・・走査ユニット
305・・・電子線鏡筒
306・・・反射電子検出器
307・・・2次電子検出器
308・・・真空チャンバー
309・・・試料移動機構
310、311・・・Oリング
313・・・ステージ
315・・・試料
320・・・電子線
325・・・蛍光検出器
330・・・結像レンズ
331・・・高感度電子線カメラ
401・・・保持体ベース
402・・・保持体キャップ
403・・・保持体ベース(PDMS製)
408a・・・入口
408b・・・出口
408c・・・流路
408d・・・試料保持空間
408e・・・引出口
408f・・・引出路(流路)
411・・・膜
413a・・・開口
414・・・試料
415・・・突起物(円柱)
422、422a、422b・・・パイプ
430、431・・・分岐路(流路)
455・・・観察部
462a,462b,462c,462d・・・フィルター
463a,463b,463c,463d・・・フィルター
491、492・・・樹脂
493,494・・・接着剤
495,496・・・膜
497・・・接着剤
498、499・・・メタルマスク
500・・・イオンビーム
501・・・流路のキャップになる部分
502・・・接着剤
503・・・上部電子線検出器
504・・・軸上電子線検出器
506・・・軸外電子線検出器
507・・・ステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口が形成された本体部と、該開口を覆う試料保持膜とを備える試料保持体であって、支持手段への接触により支持された状態で、該試料保持体の試料保持膜における開放された第1の面に保持された試料に、該試料保持膜において真空雰囲気に接する第2の面側から、該試料保持膜を介して、試料観察又は検査のための一次線が照射可能であることを特徴とする試料保持体。
【請求項2】
前記本体部はシリコン基板であり、前記試料保持膜は窒化シリコンであることを特徴とする請求項1記載の試料保持体。
【請求項3】
前記試料保持膜の厚みが1nm以上100nm未満であることを特徴とする請求項1又は2記載の試料保持体。
【請求項4】
前記本体部の周囲にシャーレが配置されることを特徴とする請求項1乃至3何れか記載の試料保持体。
【請求項5】
前記支持手段は、Oリングであることを特徴とする請求項1乃至4何れか記載の試料保持体。
【請求項6】
前記一次線は、電子線若しくはイオン線であることを特徴とする請求項1乃至5何れか記載の試料保持体。
【請求項7】
請求項1乃至6何れか記載の試料保持体を用いて試料の観察又は検査を行う試料検査装置であって、前記試料保持体が載置される載置手段と、前記試料保持体の試料保持膜における第1の面に保持された試料に、該試料保持膜を介して一次線を照射する一次線照射手段と、該一次線の照射により試料から発生する二次的信号を検出する信号検出手段とを備える試料検査装置。
【請求項8】
前記試料保持膜における第2の面に接する雰囲気を真空雰囲気とするための真空室を備えることを特徴とする請求項7記載の試料検査装置。
【請求項9】
前記一次線は、電子線若しくはイオン線であり、前記二次的信号は、二次電子、反射電子又は蛍光のうちの少なくとも一つであることを特徴とする請求項7又は8記載の試料検査装置。
【請求項10】
前記試料保持膜において試料が保持される第1の面が該膜の上面となっており、第2の面が該膜の下面となっていることを特徴とする請求項7乃至9何れか記載の試料検査装置。
【請求項11】
請求項1乃至6何れか記載の試料保持体の試料保持膜における第1の面に試料を配置し、該試料に該試料保持膜を介して一次線を照射し、この一次線の照射により試料から発生する二次的信号を検出することを特徴とする試料検査方法。
【請求項12】
前記一次線の照射時には、前記試料保持体の試料保持面における第2の面が真空雰囲気に接しており、該真空雰囲気を通して該一次線が照射されることを特徴とする請求項11記載の試料検査方法。
【請求項13】
前記一次線は、電子線若しくはイオン線であり、前記二次的信号は、二次電子、反射電子又は蛍光のうちの少なくとも一つであることを特徴とする請求項11又は12記載の試料検査方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate

【図34】
image rotate

【図35】
image rotate

【図36】
image rotate

【図37】
image rotate

【図38】
image rotate

【図39】
image rotate


【公開番号】特開2012−227170(P2012−227170A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−182884(P2012−182884)
【出願日】平成24年8月22日(2012.8.22)
【分割の表示】特願2007−333483(P2007−333483)の分割
【原出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】