説明

試料加工方法

【課題】 試料上でのエッチング加工エリアの重複部分を自動的に最適に設定することにより、効率の良いエッチング加工を行うことのできる試料加工方法を提供する。
【解決手段】 イオンビーム装置の試料室内に配置された試料6の所定領域内での複数の走査エリア31,33に対して、当該イオンビーム装置の制御部による制御に基づいて当該走査エリアごとに照射電流の異なるイオンビームの走査を実行してエッチング加工を順次行い、これにより当該所定領域全体のエッチング加工を行う試料加工方法において、直前にエッチング加工された走査エリア31の端部に形成された加工底面31bからの傾斜部分31aの立ち上がり部31cを起点として、次にエッチング加工が施される走査エリア33が当該制御部により設定される。これにより、必要最小部分のみが走査エリアの重複部分として制御部により設定され、当該重複部分の最適化を自動的に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンビーム装置を用いて、イオンビームを試料上にて走査することにより行われる試料加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透過形電子顕微鏡を用いた試料観察を行う際に、予め薄片化加工されている薄片試料が観察対象となることがある。このような薄片試料を作成する際には、集束イオンビーム装置を用いて試料のエッチング加工が実施される。
【0003】
この薄片試料を作成するために、集束イオンビーム装置を用いて試料のエッチング加工を実施する際には、オペレータが、試料上において所定の狭い間隔をおいて隣接する2つの所定領域をマニュアル操作により設定し、これら2つの所定領域にイオンビームを照射してエッチング加工を行う。このとき、上記の狭い間隔は、当該エッチング加工により作成されることとなる薄片試料の厚さに対応する。これにより、エッチング加工後の当該2つ所定領域の間に位置する試料の部分(試料上での上記狭い間隔の部分)が残る。
【0004】
その後、この残った部分(残存部分)を試料から分離して切り離すことにより、当該残存部分が薄片試料となる。そして、この薄片試料の厚さは、上述のように、上記の狭い間隔に対応している。なお、この薄片試料の分離工程は、薄片試料の輪郭となる部分に沿って別途イオンビームを照射することにより行われる。
【0005】
このような試料のエッチング加工を行う際には、一方の所定領域のエッチング加工を行い、その後、他方の所定領域のエッチング加工が行われる。ここで、これら所定領域のエッチング加工を行うにあたっては、オペレータが、各所定領域内において、粗加工、中間加工、及び仕上げ加工を行う3つのエリア(粗加工エリア、中間加工エリア、及び仕上げ加工エリア)を設けている。そして、オペレータが、各エリアごとにイオンビームの照射電流の設定を変えている。
【0006】
具体的には、粗加工エリアに照射されるイオンビームの照射電流の設定を大きくする。また、仕上げ加工エリアに照射されるイオンビームの照射電流の設定を小さくする。そして、中間加工エリアに照射されるイオンビームの照射電流は、粗加工エリアに照射されるイオンビームの照射電流と仕上げ加工エリアに照射されるイオンビームの照射電流との間で設定する。
【0007】
試料のエッチング加工時での加工レート(エッチングレート)は、試料に照射されるイオンビームの照射電流に伴って変化する。すなわち、当該イオンビームの照射電流が大きくなる程、試料の加工レートは大きくなる。また、試料のエッチング加工による加工後の表面荒さも、試料に照射されるイオンビームの照射電流に伴って変化し、当該イオンビームの照射電流が大きくなる程、表面荒さは大きくなる。
【0008】
ここで、試料上の上記所定領域内において、薄片試料となる部分(残し部分)に接する加工エリアの加工後の表面荒さは小さくする必要がある。これは、当該加工により形成される垂直方向の面が薄片試料における観察対象面となるからである。一方、当該残し部分から離れた加工エリアの加工後での表面荒さは大きくても問題はない。
【0009】
従って、当該所定領域内において、当該残し部分に対して反対側(当該残し部分から一番離れた側)から当該残し部分に向かう方向で、粗加工エリア、中間加工エリア、及び仕上げ加工エリアをこの順序で設けている。そして、各加工エリアは、該加工エリアごとに照射電流が異なるようにオペレータによって設定されたイオンビームにより個別に走査され、これにより各加工エリアのエッチング加工が施される。
【0010】
このように粗加工エリア、中間加工エリア、及び仕上げ加工エリアを上記所定領域内で設ける際には、粗加工エリアと中間加工エリアとには互いに重複する部分を設けるようにしており、また中間加工エリアと仕上げ加工エリアとにも互いに重複する部分を設けるようにしている。この理由は、例えば、粗加工エリアと中間加工エリアとが重複部分を持たずに接するように双方を設定すると、両加工エリアの間に不要なエッチング残りが生じる可能性があるからである。また、中間加工エリアと仕上げ加工エリアとについても、双方が接するように両エリアを設定すると、この両エリアの間に不要なエッチング残りが生じる可能性があるからである。そして、このようなエッチング残りが残存していると、上述した薄片試料の分離工程において、薄片試料の輪郭となる部分に沿って別途イオンビームの照射を行う際に、イオンビームが当該エッチング残りの部分により遮蔽されることとなり、イオンビームを所望の箇所に照射することができなくなり支障が生じることとなる。
【0011】
従って、上記重複部分を設けることにより、当該重複部分が確実にエッチング加工されることとなり、粗加工エリアと中間加工エリアとの間、及び中間加工エリアと仕上げ加工エリアとの間にエッチング残りが生じることを確実に防止することができる。
【0012】
なお、試料に照射されるイオンビームの照射電流量を、試料上でのイオンビームの2次元走査範囲に応じて変化させるものは、例えば特許文献1に示されている。
【0013】
【特許文献1】特開平11−260307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述のごとく、試料上の所定領域をエッチング加工する際に、オペレータが、当該所定領域内において粗加工エリア、中間加工エリア、及び仕上げ加工エリアを設け、粗加工エリアと中間加工エリアとには互いに重複する部分(重複部分)を設定するとともに、中間加工エリアと仕上げ加工エリアとにも互いに重複する部分(重複部分)を設定している。
【0015】
しかしながら、上記各重複部分を設定する際に、その設定基準は特に明確化されていないため自動的に設定することができず、オペレータが当該重複部分をマニュアル操作により適宜決めて設定していた。
【0016】
従って、オペレータの判断により、当該重複部分の領域が狭く設定された場合には上記のエッチング残りが生じる可能性が大きくなることとなる。また当該重複部分が必要以上に広く設定された場合には余分な重複部分がエッチング加工されることとなり、加工時間が余分にかかってしまい処理効率が悪くなる。
【0017】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、上記重複部分の設定の最適化を自動的に行うことにより、効率の良いエッチング加工を行うことのできる試料加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に基づく試料加工方法は、イオンビーム装置の試料室内に配置された試料の所定領域内での複数の走査エリアに対して、当該イオンビーム装置の制御部による制御に基づいて当該走査エリアごとに照射電流の異なるイオンビームの走査を実行してエッチング加工を順次行い、これにより当該所定領域全体のエッチング加工を行う試料加工方法において、直前にエッチング加工された走査エリアの端部に形成された加工底面からの傾斜部分の立ち上がり部を起点として、次にエッチング加工が施される走査エリアが当該制御部により設定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明においては、試料の所定領域内での複数の走査エリアに対して、イオンビーム装置の制御部による制御に基づいて当該走査エリアごとに照射電流の異なるイオンビームの走査を実行し、これによりエッチング加工を順次行う。このとき、直前にエッチング加工された走査エリアの端部に形成された加工底面からの傾斜部分の立ち上がり部を起点として、次にエッチング加工が施される走査エリアが当該制御部により設定される。
【0020】
従って、直前にエッチング加工された走査エリアの端部に形成された上記傾斜部分のみを含むように、エッチング加工後の走査エリア(加工エリア)と次にエッチング加工が施される走査エリア(加工エリア)との重複部分が制御部によって設定されることとなる。
【0021】
これにより、必要最小部分(上記傾斜部分)のみが当該重複部分として制御部により設定されることとなり、当該重複部分の最適化を自動的に行うことができる。よって、効率の良い試料のエッチング加工を実行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0023】
図1は、本発明における試料加工方法を実施するための集束イオンビーム装置を示す概略構成図である。同図において、1は装置本体であり、この装置本体1は、イオン光学系2と試料室3とを備えている。試料室3の内部には、試料6が配置される。
【0024】
イオン光学系2は、図示しないイオンビーム源と、当該イオンビーム源から放出されたイオンビーム7を集束させた状態で試料6上に照射するための集束手段(図示せず)と、当該イオンビームを試料6上で走査するための走査手段(図示せず)とを備えている。これらにより、イオン光学系2から試料6に向けてイオンビーム7が照射される。
【0025】
イオン光学系2には、駆動部9が接続されている。この駆動部9は、イオン光学系2に備えられた上記イオンビーム源、集束手段、及び走査手段の駆動を行うためのものである。また、駆動部9は、バスライン12を介して制御部13に接続されている。
【0026】
よって、制御部13による駆動部9を介した駆動制御により、これらイオンビーム源、集束手段、及び走査手段が駆動され、上述のごとくイオン光学系2から試料6に向けてイオンビームが照射されることとなる。このとき、制御部13によって、試料7に照射されるイオンビーム7の照射電流、試料6上での走査エリア(加工エリア)が制御される。
【0027】
試料6にイオンビーム7が照射されると、2次電子8が発生する。この2次電子8は、2次電子検出器5により検出される。2次電子検出器5は、検出した2次電子8の検出結果に基づいて、検出信号を画像データ形成部11に送る。
【0028】
画像データ形成部11は、2次電子検出器5からの検出信号に基づいて試料6の表面の画像(走査像)データを形成する。このようにして形成された画像データは、バスライン12を介して表示部16に送られる。
【0029】
表示部16は、CRTやLCD等の表示装置を備えており、取り込んだ画像データに基づいて当該表示装置により画像が表示される。
【0030】
なお、通常、試料6の表面の画像を取得して表示する際には、イオン光学系2から試料6に照射されるイオンビーム7の照射電流は、制御部13により非常に小さい値が設定される。これにより、試料6の表面がイオンビーム7の照射によりエッチングされる量を極力少なくする。
【0031】
また、後述するように、試料6のエッチング加工を行う際には、イオン光学系2から試料6に向けて照射されるイオンビーム7の照射電流は、制御部13により、上記画像取得時での照射電流よりも遙かに大きな電流値に設定される。このときのイオンビーム7の照射電流は、エッチング加工時でのエッチングレートや加工エリアの仕上がり条件に基づいて、制御部13により選択された電流値が設定されることとなる。
【0032】
なお、試料室3には、デポジション手段4が設けられている。このデポジション手段4は、試料6の表面上の特定箇所に保護被膜を形成するためのものである。これにより保護被膜が形成された試料表面上の当該箇所は、上記画像取得時における微少な照射電流とされたイオンビーム7の照射に対して、エッチングされずに保護されることとなる。
【0033】
デポジション手段4には駆動部10が接続されている。駆動部10は、デポジション手段4の駆動を行うためのものである。この駆動部10は、バスライン12を介して制御部13により制御される。なお、この制御部13には、記憶部14が接続されている。制御部13は、記憶部14に格納されている各種データを読み出し、読み出したデータに基づいて駆動部9,10の制御を自動的に行う。
【0034】
また、バスライン12には、上記表示部16が接続されているとともに、入力部15が接続されている。入力部15は、マウスやジョイスティック等のポインティングデバイス及びキーボードを備えている。オペレータは、このポインティングデバイスやキーボードを操作することにより、必要なデータを入力したり、この集束イオンビーム装置のマニュアル操作を行うことができる。
【0035】
以上は、本発明において使用される集束イオンビーム装置の構成である。次に、本発明に基づく試料加工方法について説明する。
【0036】
図2は、上述した集束イオンビーム装置の試料室3内に配置され、エッチング加工が施される試料6を示す斜視図である。同図において、試料6の表面20には、所定の狭い間隔23をおいて隣接する2つの所定領域21,22が、以下に示すオペレータによるマニュアル操作に基づいて設定される。この2つの設定領域21,22は、その形状及び大きさが等しくなるように制御部13により設定され、その後イオンビームが照射されてエッチング加工されることとなる。このときに、後述するように、各所定領域21,22内において、エッチング加工条件の異なる複数の走査エリア(加工エリア)が制御部13により設定される。
【0037】
本実施の形態においては、3つの走査エリアが制御部13により設定され、設定された各走査エリアは、それぞれ粗加工エリア、中間加工エリア、及び仕上げ加工エリアとなる。なお、これら各加工エリアは、図2においては図示していない。
【0038】
上記集束イオンビーム装置による試料6のエッチング加工を実行するのに先立って、まず試料6の表面20に、画像取得用に照射電流が設定されたイオンビーム7を走査する。このときのイオンビーム7の照射電流は、上述したように非常に小さい値が制御部13により設定される。
【0039】
このようにして試料6の表面20に当該イオンビーム7が走査されて照射されると、試料6の表面20においては2次電子8が発生する。この2次電子8は、2次電子検出器5により検出され、その検出結果は画像データ形成部11に送られる。
【0040】
画像データ形成部11は、2次電子検出器5からの検出信号に基づいて、試料6の表面20の画像データを形成する。このようにして形成された画像データは、バスライン12を介して表示部16に送られ、表示部16は取り込んだ画像データに基づいて画像(走査像)を表示する。
【0041】
オペレータは、表示部16に表示された試料6の走査像を目視にて確認し、上述した薄片試料を形成する部分を決める。
【0042】
図3は、このとき表示部16により表示された走査像の一例である。同図において、25は、表示部16において画像を表示するための表示エリアであり、この表示エリア25中に走査像24が表示されている。オペレータは、当該走査像24を目視にて確認し、走査像24中において薄片試料を形成する部分を決めることとなる。
【0043】
薄片試料を形成する部分(以下、薄片化部分という)を決めた後、先ずオペレータは、入力部を操作してデポジション手段を駆動し、当該薄片化部分の上面に保護膜を形成する。
【0044】
次に、オペレータは入力部15を操作し、この操作に基づいて制御部13が、当該薄片化部分を間に挟むようにして2つの所定領域21,22を試料6の表面20上にて設定する。この設定の具体的方法について、以下に説明する。
【0045】
オペレータは、入力部15のマウスを操作して、当該薄片化部分の幅T(図3参照)と長さX(図3参照)をマニュアル操作により設定する。この操作は、マウスをドラッグすることにより、表示部16の表示エリア25上でカーソル(図示せず)を当該幅T及び当該長さXに対応して移動させることにより行われる。このようにしてカーソルにより指定された部分は表示エリア25内において枠26(図3中に点線にて図示)として表示される。そして、この枠26内の部分が薄片化部分となる。ここで、カーソルにより指定された枠26の部分が所望とする薄片化部分からずれているときには、マウスの操作により当該枠26を移動させて所望とする薄片化部分に一致させるようにする。
【0046】
次に、薄片化部分の高さに相当する加工深さZを指定する。この深さZの指定方法は、オペレータが入力部15のキーボードを操作することにより指定してもよく、また、オペレータがマウスを用いて予め登録されている複数の深さZの値のうちから適当な値を選択するようにしてもよい。
【0047】
このようにして、オペレータによる入力部15の操作により薄片化部分の幅T、長さX及び高さ(加工深さ)Zの指定がされると、本実施の形態においては、エッチング加工するべき試料6上での所定領域21,22が、上記マニュアル操作に基づいて制御部13により自動的に設定されることとなる。ここで、当該所定領域21,22は、双方ともに長方形状とされ、上述したように、その形状及び大きさが等しくなるように制御部13により設定される。
【0048】
すなわち、当該所定領域21,22を決定するための長さXについては上記のオペレータによるマニュアル操作により入力されているので、当該入力値に基づいて制御部13により決められる。また、所定領域21,22を決定するためのその幅Y(図3参照)については、上記長さXの2〜3倍とすることで、制御部13による演算により決定する。このようにして所定領域21,22の幅Y及び長さXが決定されることにより、長方形状とされた2つの所定領域21,22が制御部13により自動的に設定される。
【0049】
なお、長さXに対する幅Yの割合(2倍,3倍等)のデータは、記憶部14内に記憶されており、制御部13が、記憶部14に記憶された当該データと、入力部15を介して入力された長さXのデータとに基づいて幅Yの値を演算により算出する。
【0050】
このようにして制御部13により設定された2つの所定領域21,22が、図3中において一点鎖線からなる長方形部分として示されている。そして、同図に図示する所定領域21,22内において、粗加工エリア、中間加工エリア、及び仕上げ加工エリアが、後述するようにそれぞれ制御部13により設定されることとなる。
【0051】
そして、オペレータは、粗加工エリアでのイオンビームの照射電流(以下、粗加工用照射電流という)、中間加工エリアでのイオンビームの照射電流(以下、中間加工用照射電流という)、及び仕上げ加工エリアでのイオンビームの照射電流(以下、仕上げ加工用照射電流という)のマニュアル操作による設定を行う。この設定は、オペレータによる入力部15のキーボードを用いたキー入力もしくはマウスを用いた選択入力により行われる。さらに、オペレータは、試料6の表面20の構成材料(すなわち、エッチング加工される被加工材料)に関する情報を入力する。例えば、試料6がシリコン(Si)から構成されるものであれば、被加工材料がシリコンである旨の入力を行う。
【0052】
ここで、記憶部14には、イオンビームの各照射電流値ごとの加工レート(エッチングレート)のデータと、エッチング加工時に加工エリアの端部に形成されるテーパ部の傾斜幅(テーパ幅)のデータとが、主要な被加工材料ごとに記憶されている。よって、上記によりオペレータによって設定された粗加工用照射電流、中間加工用照射電流、及び仕上げ加工用照射電流、並びに被加工材料の情報に基づいて、各照射電流ごとにその加工レートとテーパ幅とが制御部13により自動的に判断される。
【0053】
制御部13は、これにより判断された各照射電流ごとのテーパ幅に基づいて、所定領域21,22内において設けられる粗加工エリア、中間加工エリア、及び仕上げ加工エリアの各加工エリアの設定の最適化を自動的に行う。
【0054】
また、制御部13は、上記により判断された各照射電流ごとの加工レートから、上記粗加工エリア、中間加工エリア、及び仕上げ加工エリアそれぞれについてのイオンビーム走査のフレーム数を設定する。そして、後述する各加工エリアのエッチング加工におけるイオンビームの走査は、これにより設定された各フレーム数だけ制御部13による制御により実行されることとなる。
【0055】
次に、図4を参照して、試料6の表面20上での所定領域21,22内における粗加工エリア、中間加工エリア、及び仕上げ加工エリアの制御部13による設定方法について説明する。ここで、図4(A)は、試料6の表面20を示す平面図である。また、図4(B)は、図4(A)におけるA−A断面図である。これら各加工エリアは、各所定領域21,22内において、薄片化部分27に対して反対側(当該薄片化部分27から一番離れた側)から当該薄片化部分27に向かう方向で、粗加工エリア、中間加工エリア、及び仕上げ加工エリアの順で制御部13により設定されることとなる。
【0056】
先ず、制御部13は、図4(A)に示すように、所定領域21,22内において最初にエッチング加工される粗加工エリア31,32を設定する。この粗加工エリア31,32は、それぞれ所定領域21,22内において、薄片化部分27に対して反対側に制御部13により設定される。
【0057】
このようにして設定された粗加工エリア31,32に対して粗加工を実行する。すなわち、制御部13により粗加工用の照射電流が設定されたイオンビームを、試料表面20上の粗加工エリア31に所定フレーム数だけ走査することにより、エッチング加工を行う。
【0058】
図4(B)には、このようにして粗加工が実行された後の試料6の断面が示されている。同図に示すように、各粗加工エリア31,32は、粗加工条件とされたイオンビームによりエッチング加工され、その周囲部(端部)には、それぞれ加工底面31b,32bからの傾斜部分31a,32aが形成されている。ここで、この傾斜部分31a,32aにおける加工底面31b,32bからの境界部を、立ち上がり部31c,32cということとする。なお、参考として、粗加工エリア31,32の粗加工が実施された後の試料6の斜視図を図5に示す。
【0059】
次いで、制御部13は、図6(A)に示すように、所定領域21,22(図4(A)参照)内において次にエッチング加工される中間加工エリア33,34を設定する。この中間加工エリア33,34は、それぞれ所定領域21,22内において、粗加工エリア31,32と一部が重複するように制御部13により設定される。このとき、粗加工エリア(直前に粗加工によるエッチングが実行されたイオンビームの走査エリア)31,32の端部に形成された加工底面31b,32bからの傾斜部分31a,32aの立ち上がり部31c,32cを起点として、中間加工エリア(次にエッチング加工が施される走査エリア)33,34が制御部13により自動的に設定される。
【0060】
そして、このようにして設定された中間加工エリア33,34に対して中間加工を実行する。すなわち、制御部13により中間加工用の照射電流が設定されたイオンビームを、試料表面20上の中間加工エリア33,34に設定フレーム数だけ走査することにより、エッチング加工を行う。このとき、各中間加工エリア33,34のエッチング加工においては、上記傾斜部分31a,32aの立ち上がり部31c,32cからイオンビームの走査を行う。
【0061】
図7(A)には、このようにして中間加工が実行された後の試料表面20の平面図が示されている。また、図7(B)には、図7(A)におけるB−B断面図が示されている。図7において、41,42は、上記粗加工工程及び中間加工工程によって試料6に形成された凹部である。
【0062】
図7(B)に示すように、各中間加工エリア33,34(図6(A)参照)は、中間加工用の照射電流とされたイオンビームによりエッチング加工され、その周囲部(端部)には、それぞれ加工底面(中間加工による加工底面)33b,34bからの傾斜部分33a,34aが形成されている。ここで、この傾斜部分33a,34aにおける加工底面33b,34bからの境界部を、立ち上がり部33c,34cということとする。
【0063】
次いで、制御部13は、図8(A)に示すように、所定領域21,22(図4(A)参照)内において次にエッチング加工される仕上げ加工エリア35,36を設定する。この仕上げ加工エリア35,36は、それぞれ所定領域21,22内において、中間加工エリア33,34と一部が重複するように制御部13により設定される。このとき、中間加工エリア(直前に中間加工によりエッチングが施される走査エリア)35,36の端部に形成された加工底面33b,34bからの傾斜部分33a,34aの立ち上がり部33c,34cを起点として、仕上げ加工エリア(次にエッチング加工が施される走査エリア)35,36が制御部13により自動的に設定される。
【0064】
そして、このようにして設定された仕上げ加工エリア35,36に対して仕上げ加工を実行する。すなわち、制御部13により仕上げ加工用の照射電流が設定されたイオンビームを、試料表面20上の仕上げ加工エリア35,36に設定フレーム数だけ走査することにより、エッチング加工を行う。このとき、各仕上げ加工エリア35,36のエッチング加工においては、上記傾斜部分33a,34aの立ち上がり部33c,34cからイオンビームの走査を行う。
【0065】
図9(A)には、このようにして仕上げ加工が実行された後の試料表面20の平面図が示されている。また、図9(B)には、図9(A)におけるC−C断面図が示されている。図9において、51,52は、上記粗加工工程、中間加工工程、及び仕上げ加工工程によって試料6に形成された凹部である。
【0066】
図9(B)に示すように、各仕上げ加工エリア35,36(図8(A)参照)は、仕上げ加工とされたイオンビームによりエッチング加工され、これにより加工底面(仕上げ加工による加工底面)35b,36bからほぼ垂直に立ち上がる断面部35c,36cを有する薄片化部分27が形成される。なお、参考として、仕上げ加工エリア35,36の仕上げ加工が実施された後の試料6の斜視図を図10に示す。
【0067】
ここで、上述した粗加工工程、中間加工工程、及び仕上げ加工工程において設定されるイオンビームの照射電流、各エリアにおけるイオンビームによる走査フレーム数、及び各エリアにおける上記各重複部分は、入力部15からの入力設定値及び記憶部14に記憶されたデータに基づいて、制御部13が自動的に演算して設定することとなる。
【0068】
このようにして形成された薄片化部分(残存部分)27は、薄片試料の輪郭となる部分に沿って別途イオンビームを照射することにより、試料6からの分離が行われる。これにより試料6から分離されて作成された薄片試料は、図示しない透過形電子顕微鏡の試料室内に配置され、試料観察が行われることとなる。
【0069】
このように、本発明においては、試料の所定領域内での複数の走査エリアに対して、イオンビーム装置の制御部による制御に基づいて当該走査エリアごとに照射電流の異なるイオンビームの走査を実行し、これによりエッチング加工を順次行う。このとき、直前にエッチング加工された走査エリアの端部に形成された加工底面からの傾斜部分の立ち上がり部を起点として、次にエッチング加工が施される走査エリアが当該制御部により設定される。
【0070】
従って、直前にエッチング加工された走査エリアの端部に形成された上記傾斜部分のみを含むように、エッチング加工後の走査エリア(加工エリア)と次にエッチング加工が施される走査エリア(加工エリア)との重複部分が制御部によって設定されることとなる。
【0071】
これにより、必要最小部分(上記傾斜部分)のみが当該重複部分として制御部により設定されることとなり、当該重複部分の最適化を自動的に行うことができる。よって、効率の良い試料のエッチング加工を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明における試料加工方法を実施するための集束イオンビーム装置を示す概略構成図である。
【図2】本発明においてエッチング加工が施される試料を示す斜視図である。
【図3】表示部により表示された試料の走査像の一例を示す図である。
【図4】図4(A)は、粗加工が実行された後の試料表面を示す平面図である。図4(B)は、図4(A)におけるA−A断面図である。
【図5】粗加工エリアの粗加工が実施された後の試料を示す斜視図である。
【図6】図6(A)は、中間加工エリアの設定を説明するための試料表面を示す平面図である。図6(B)は、図6(A)におけるB−B断面図である。
【図7】図7(A)は、中間加工が実施された後の試料表面を示す平面図である。図7(B)は、図7(A)におけるB−B断面図である。
【図8】図8(A)は、仕上げ加工エリアの設定を説明するための試料表面を示す平面図である。図8(B)は、図8(A)におけるB−B断面図である。
【図9】図9(A)は、仕上げ加工が実施された後の試料表面を示す平面図である。図9(B)は、図9(A)におけるC−C断面図である。
【図10】仕上げ加工エリアの仕上げ加工が実施された後の試料を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0073】
1…集束イオンビーム装置本体、2…イオン光学系、3…試料室、4…デポジション手段、5…2次電子検出器、6…試料、7…イオンビーム、8…2次電子、20…試料表面、31,32…粗加工エリア、31a,32a…傾斜部分、31b,32b…加工底面、31c,32c…立ち上がり部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビーム装置の試料室内に配置された試料の所定領域内での複数の走査エリアに対して、当該イオンビーム装置の制御部による制御に基づいて当該走査エリアごとに照射電流の異なるイオンビームの走査を実行してエッチング加工を順次行い、これにより当該所定領域全体のエッチング加工を行う試料加工方法において、直前にエッチング加工された走査エリアの端部に形成された加工底面からの傾斜部分の立ち上がり部を起点として、次にエッチング加工が施される走査エリアが当該制御部により設定されることを特徴とする試料加工方法。
【請求項2】
前記照射電流ごとに、そのイオンビームによるエッチング加工により形成される加工底面からの傾斜部分の幅が前記制御部により判断され、これに基づいて当該傾斜部分の立ち上がり部を起点として、次にエッチング加工が施される走査エリアが前記制御部により設定されることを特徴とする請求項2記載の試料加工方法。
【請求項3】
前記制御部は、前記複数の走査エリアを、粗加工エリアと、当該粗加工エリアに走査されるイオンビームよりも照射電流が小さいイオンビームが走査される中間加工エリアと、当該中間加工エリアに走査されるイオンビームよりも照射電流が小さいイオンビームが走査される仕上げ加工エリアとからなるように設定することを特徴とする請求項1若しくは2記載の試料加工方法。
【請求項4】
直前にエッチング加工された前記走査エリアの端部に形成された傾斜部分の立ち上がり部から、次にエッチング加工が施される前記走査エリアにおけるイオンビームの走査が前記制御部による制御に基づいて実行されることを特徴とする請求項1乃至3何れか記載の試料加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−164792(P2006−164792A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−355522(P2004−355522)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【出願人】(000152619)日本電子テクニクス株式会社 (4)
【Fターム(参考)】