説明

試料収容方法

【課題】 試料を収容容器に収容するにあたり水分との接触や水分の混入を容易に防ぎながら収容することができる試料収容方法と、低温分解性物質や禁水性物質を熱測定装置にて高い精度で分析することができる熱測定方法を提供する。
【解決手段】 試料収容方法は、少なくとも一部が透明である被覆材2で形成された密閉空間内に収容容器1を設置するとともに、該密閉空間内を乾燥ガス雰囲気にしておき、シリンジの針3aを前記被覆材2に貫通させてシリンジ3に採取した試料12を収容容器1に注入する。熱測定方法は、低温解性物質や禁水性物質を熱測定装置にて分析するにあたり、分析に供する物質を前記本発明の試料収容方法により熱測定装置の試料容器に収容する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、低温で保管されている試料を熱測定装置の収容容器に収容するにあたり、試料を低温に保持しつつ水分との接触や水分の混入を容易に防ぎながら収容することができる試料収容方法とそれに用いる試料収容装置、および低温での分解性および/または水に対する反応性を有する物質を熱測定装置にて高い精度で分析することができる熱測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物質の熱安定性等を評価する方法として、熱測定装置であるARC(Accelerating Rate Calorimeter)等の断熱熱量計にて分析する方法が広く採用されている(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照)。
【0003】
熱測定装置による評価においては、従来から、低温(例えば氷点下の温度)で分解する物質(以下「低温分解性物質」と称する)を試料とする場合に正確な評価が行なえないことがあった。つまり、低温分解性物質を試料とする場合、該物質を合成してから分析に供するまでの間、分解が生じないよう低温に保持するべく冷却しておく必要があるが、その際に周囲の空気中の水分が結露して試料中に混入し、正確な分析を妨げるのである。
【0004】
また、試料中への水分の混入は、水に対して反応性を有する物質(以下「禁水性物質」と称する)を試料とする場合においても、分析の精度を低下させる要因となる。特に、禁水性物質の場合には、ごく少量の水分が混入しただけで試料物質の分解を招くことになるので、試料を冷却するなどしなくても、通常の空気に接触することでだけで正確な分析ができなくなる。
【0005】
そこで、従来、低温分解性物質や禁水性物質を熱測定装置で分析する場合には、一般に、熱測定装置の試料容器を、乾燥ガスや窒素等の不活性ガスの雰囲気とした、いわゆるグローブボックス内に置いておき、保管容器等から採取した試料をグローブボックス内の試料容器にできるだけ素早く入れることで、試料が空気に触れることを避け水分の混入を防ぐように配慮されていた。
【0006】
【非特許文献1】田村昌三編、「化学プロセス安全ハンドブック」、(株)朝倉書店、2000年3月1日、p.66〜68
【非特許文献2】「住友化学 1989-I」、住友化学工業(株)、1989年5月29日、p.61〜81
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のような方法で操作することだけでは、試料中への水分の混入を確実に防止できているとは言えないのが現状であった。つまり、グローブボックス内に設置した試料容器に試料を入れる時にはグローブボックスの扉を開放しなければならず、その際いかに素早く操作しても、少なからずボックス外部の外気がボックス内に入り込んでしまうからである。
【0008】
そこで、本発明の課題は、試料を収容容器に収容するにあたり水分との接触や水分の混入を容易に防ぎながら、しかも試料を低温に保持した状態で収容することができる試料収容方法とそれに用いる試料収容装置、および低温分解性物質や禁水性物質を熱測定装置にて高い精度で分析することができる熱測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、従来のいわゆるグローブボックスに代えて、一部が透明でありシリンジの針が貫通可能に構成された被覆材で形成した密閉空間内に収容容器を設置することとし、密閉空間内を乾燥ガス雰囲気にしておき、試料を採取したシリンジの針を前記被覆材に貫通させて試料を収容容器に注入することにより、試料は収容容器に収容されるまでの間、常に乾燥ガス雰囲気に曝された状態となり、水分との接触や水分の混入を容易に防ぎながら収容することが可能になる、ことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)少なくとも一部が透明である被覆材で形成された密閉空間内に収容容器を設置するとともに、該密閉空間内を乾燥ガス雰囲気にしておき、シリンジの針を前記被覆材に貫通させてシリンジに採取した試料を収容容器に注入する、ことを特徴とする試料収容方法。
(2)前記被覆材にシリンジの針を挿入するための小孔をあらかじめ穿設しておき、前記密閉空間に乾燥ガスを供給しながら前記小孔から流出させることにより該密閉空間を乾燥ガス雰囲気とする前記(1)記載の試料収容方法。
(3)前記被覆材の一部には、密閉空間の外側から手を挿入するグローブ部が形成されている前記(1)または(2)記載の試料収容方法。
(4)前記密閉空間には、収容した試料の重さを測定するための重量測定器が配置されている前記(1)〜(3)のいずれかに記載の試料収容方法。
(5)前記シリンジおよび前記収容容器の内容物を低温に保持するための手段が設けられている前記(1)〜(4)のいずれかに記載の試料収容方法。
(6)密閉空間を形成するための被覆材と、該密閉空間内に設置された収容容器と、該収容容器に試料を注入するためのシリンジとから構成される装置であって、前記被覆材は、少なくとも一部が透明であり、前記密閉空間内を乾燥ガス雰囲気とするためのガス導入孔を備えるとともに、シリンジの針が貫通可能に構成されており、さらに、前記被覆材の一部には前記密閉空間の外側から手を挿入するグローブ部が形成されている、ことを特徴とする試料収容装置。
(7)前記被覆材は、前記シリンジの針を貫通させるための小孔を備えている前記(6)記載の試料収容装置。
(8)前記密閉空間に、収容した試料の重さを測定するための重量測定器が配置されている前記(6)または(7)記載の試料収容装置。
(9)前記シリンジおよび前記収容容器の内容物を低温に保持するための手段が設けられている前記(6)〜(8)のいずれかに記載の試料収容装置。
(10)低温での分解性および/または水に対する反応性を有する物質を熱測定装置にて分析するにあたり、分析に供する物質を前記(1)〜(5)のいずれかに記載の試料収容方法により熱測定装置の試料容器に収容する、ことを特徴とする熱測定方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、試料を収容容器に収容するにあたり、水分との接触や水分の混入を容易に防ぎながら収容することができる。また、それによって、低温分解性物質や禁水性物質を熱測定装置で分析する際にも、高い精度で分析することが可能になる。
また、本発明の試料収容方法によれば、保管容器等に入った試料を簡便な操作で素早く収容容器に収容できるので、試料を採取してから収容までの所要時間は、グローブボックスを用いた従来の方法よりも短縮できる、という効果も得られる。従来の方法では、低温分解性物質を試料とする場合、例えば収容容器の開口部が狭いとグローブボックス内での操作に手間取るなどして試料の採取から収容までの間に時間がかかり、たとえ保管容器および収容容器を低温に保持していても採取から収容までの間に試料温度が昇温してしまうといった問題があったところ、本発明の試料収容方法によれば、試料を採取してから収容までの所要時間が極めて短いので、低温保持を確実に、かつ容易に行なうことができる。この試料の低温保持を確実に行なえるという効果は、上記(5)のようにシリンジおよび収容容器の内容物を低温に保持するための手段が設けられている態様においては、より顕著に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(試料収容方法および試料収容装置)
まず、本発明の試料収容方法において好適に用いられる本発明の試料収容装置について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の試料収容装置の一実施形態を説明する概略図である。
【0013】
図1において、収容容器1は、全体が透明な被覆材2で形成された密閉空間内に設置されている。
前記密閉空間を形成している被覆材2は、開口部がチャック等の手段で開閉自在になっている袋状の材料であって、市販のチャック付ビニール袋を利用したものである。この被覆材2には、収容容器1の開口部のほぼ真上に位置する部分に、シリンジ3の針3aを挿入するための小孔2aが穿設されているととともに、任意の部分に乾燥ガスXを供給するためのガス導入孔4が設けられている。また、被覆材2の任意の部分(好ましくは、収容容器1に栓7をするなどの操作がし易い部分)には、密閉空間の外側から手を挿入するグローブ部2bがあらかじめ形成されている。なお、被覆材2に形成される小孔2aおよびガス導入孔4の孔径は、特に制限されないが、例えば、小孔2aの孔径は3〜10mm程度、ガス導入孔4の孔径は6〜10mm程度であるのがよい。
【0014】
前記被覆材2で囲われた前記密閉空間には、ガス導入孔4から乾燥ガスXが供給され、供給された乾燥ガスXは小孔2aから流出するようになっている。これにより、被覆材2がドーム状に膨らんで空間が形成されるとともに、該空間の内部は常に乾燥ガスで満たされた状態(乾燥ガス雰囲気)となり、外気の流入が阻止される。乾燥ガスXとしては、例えば、あらかじめ乾燥剤等で脱湿処理を施した脱湿空気のほか、アルゴンガス、窒素ガスなどの不活性ガス等が用いられる。
なお、前記密閉空間には、空間内の水分量をより確実に低減する目的で、シリカゲルや石灰等の乾燥材8が配置されているが、密閉空間が乾燥状態に保持される限り、この乾燥材8はなくてもよい。
【0015】
さらに、前記密閉空間の中には、その上に収容容器1を載置して、収容された試料の重さを測定するための重量測定器5が配置されている。また、収容容器1の周囲には、収容された試料を低温に保持するための手段(以下「低温保持手段」と称する)としてドライアイス6aが配置されている。具体的には、収容容器1の底部の形状と合致する凹部を備えたドライアイス6aの中に(凹部内に)収容容器1が載置されている。なお、収容容器1の低温保持手段は、ドライアイスのほか、例えば、液体窒素等の冷媒、保冷材等を用いて積極的に冷却を行なう手段であってもよいし、発泡スチロール等の断熱材を用いて保冷を行なう手段であってもよい。
【0016】
他方、本発明の試料収容装置は、前記密閉空間の外側には、試料を採取するためのシリンジ3を備えている。シリンジ3の周囲には、シリンジ内の試料を低温に保持するための手段(低温保持手段)として保冷材6bが巻きつけられている。なお、シリンジ3の低温保持手段は、保冷材のほか、例えば、液体窒素等の冷媒、ドライアイス等を用いて積極的に冷却を行なう手段であってもよいし、発泡スチロール等の断熱材を用いて保冷を行なう手段であってもよい。
【0017】
上記実施形態において、前記密閉空間は、開口部がチャック等の手段によって開閉自在になっている袋状の被覆材(具体的には、チャック開閉式のポリ袋)によって形成されているが、これに限定されるものではなく、例えば、シート状の透明材料の周囲を粘着テープ等で床面に貼り付けて密閉性を確保するなどしてもよい。
【0018】
上記実施形態においては、被覆材2に小孔2aが穿設されていることで、該被覆材はシリンジの針が貫通可能な構成となっているが、例えば、被覆材の素材としてシリンジの針3aが容易に突き刺さる素材を選択するようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、全体が透明である被覆材2を採用しているが、この点でも限定されるものではなく、密閉空間を形成する被覆材の少なくとも一部が透明であり、被覆材の他の部分は別の素材で構成されていてもよい。被覆材の少なくとも一部を透明にするのは、密閉空間の内部で行なう操作等を外部から目視可能にするためである。したがって、少なくとも小孔2aの周辺部分と収容容器1を正面もしくは上方から目視できる部分とが透明になっていればよい。
上記実施形態における被覆材2は、透明性および気密性を有する材質であること以外は特に制限されず、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのビニル系プラスチック、フッ化樹脂、メタクリル酸メチル樹脂(PMMA)のような樹脂が好ましく用いられる。なお、被覆材は、全てが透明である形態に限定されるものではなく、例えば、透明性を有さない材質の材料と透明性を有する材質の材料とを貼り合わせるなどして、一部が透明となるようにした形態であってもよい。
【0019】
次に、本発明の試料収容方法の一実施形態として、図1に示した上記試料収容装置を用いて試料を収容する方法について説明する。
図1に示す試料収容装置においては、まず、前述したように、密閉空間に乾燥ガスXを供給するとともに小孔2aから乾燥ガスXを流出させる。この状態を保持したままで、次に、試料12を保管容器等からシリンジ3に採取する。その後、シリンジの針3aを被覆材2の小孔2aから密閉空間に挿入し、シリンジ3内の試料12を収容容器1に注入する。このような方法によれば、収容容器1に収容された試料が水分と接触したり、水分が混入したりするのを容易に防ぐことができる。さらに、必要に応じて、試料を注入した後、グローブ部2bから手を挿入して収容容器1に栓7を嵌める操作を行なっておくと、収容容器1を密閉空間から取り出した際にも、水分との接触や水分の混入を確実に防止することができる。
【0020】
上記図1に示す装置を用いた実施形態では、被覆材2にシリンジの針3aを挿入するための小孔2aをあらかじめ穿設しておき、前記密閉空間に乾燥ガスXを供給しながら前記小孔2aから流出させることにより,密閉空間を乾燥ガス雰囲気としているが、例えば、小孔2aを有さない被覆材2にシリンジの針3aを突き刺さすことによって貫通させる場合、あらかじめ密閉空間内を乾燥ガスで確実に置換したのち該空間を完全な密閉状態にしておくことで、乾燥ガス雰囲気を形成すればよい。なお、本明細書では、便宜上、小孔2aやガス導入孔4を有する場合も「密閉空間」と称しているが、ここで言う「完全な密閉状態」は小孔2aやガス導入孔4などを有さない被覆材で囲われた空間を意味するものである。
また、本発明の試料収容方法および試料収容装置においては、試料への水分の接触や混入を防ぐことを目的としているため、密閉空間内を乾燥ガス雰囲気としたが、例えば、空気中の酸素に対して反応性を有する物質を試料とする場合であれば、前記密閉空間を不活性ガスなど酸素を含まないガスの雰囲気とすることにより、試料と酸素との接触を回避することができる。このように、目的に応じて密閉空間内の雰囲気を選択することにより、種々の試料の収容に適用することが可能である。
【0021】
(熱測定方法)
本発明の熱測定方法は、低温での分解性および/または水に対する反応性を有する物質(すなわち、低温分解性物質および/または禁水性物質)を熱測定装置にて分析するものであり、その際、分析に供する物質(試料)を前述した本発明の試料収容方法により熱測定装置の試料容器に収容するものである。
【0022】
本発明の熱測定方法において分析に供される低温分解性物質とは、具体的には、熱に不安であり、一般に室温以下の温度で分解してしまう物質を意味するものであり、例えば、有機過酸化物等が挙げられる。また、本発明の熱測定方法において分析に供される禁水性物質とは、具体的には、水に対して反応性を有する物質を意味するものであり、例えば、金属の水素化物、有機金属化合物等が挙げられる。このような低温分解性物質や禁水性物質を熱測定装置で分析する場合、試料を採取して分析に供するまでの間に試料に水分が接触したり混入したりするため、正確な評価ができないことが多いのであるが、本発明によれば、前述した本発明の試料収容方法により熱測定装置の試料容器に試料を収容することにより、低温分解性物質や禁水性物質を試料として分析する際にも、容易に水分との接触や水分の混入を防ぎ、正確な評価を行なうことができるのである。
【0023】
本発明の熱測定方法において用いられる熱測定装置としては、示差走査熱量計、示差熱分析計、熱天秤、熱流速型熱量計、断熱熱量計、恒温壁熱量計等の公知の熱量計が挙げられる。例えば、示差走査熱量計としてはDSC(Differential Scanning Calorimettry)等が、示差熱分析計としてはDTA(Differential Thermal Analysis)等が、熱天秤としてはTG(Thermo Gravimetry)等があり、SII(Seiko Instruments Inc.)社製、島津製作所製、TA Instruments社製、METTLER TOLEDO社製等のものが知られている。また、熱流速型熱量計としてはSETARAM社製「C-80」等があり、断熱熱量計としては、CSI(Columbia Scientific Industries)社製の「CSI-ARCTM」、THT(Thermal Hazard Technology)社製の「ARCTM」、TIAX社製の「New ARCTM」、FAI(Fauske & Associates,Inc.)社製の「ARSSTTM(The Advanced Reactive System Screening Tool)」、HEL(Hazard Evaluation Laboratory Limited)社製の「TSU(Thermal Screening Unit)」等があり、恒温壁熱量計としてはSYSTAG社製の「RADEX」等がある。
【0024】
以下、本発明の熱測定方法において用いられる熱測定装置の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図2は、本発明の熱測定方法において用いられることのできる熱測定装置である断熱熱量計の一実施形態を示す構成図である。
【0025】
図2において、断熱熱量計11は、断熱材保温部15と、断熱材保温部15の内部に設置されている放射熱ヒーター14aとジャケットヒーター14b、14cおよび14dとからなる加熱部14と、この加熱部14で囲まれた内側に設置された、試料12を入れるための試料容器1とを備えている。なお、格納容器19は測定中の試料容器1の破裂等に備えて設置されるが、爆発等のおそれがない場合には格納容器19は設置しなくてもよい。
【0026】
本発明においては、図2における試料容器1を前記収容容器1として、前述した本発明の試料収容方法を実施する。試料容器1は、通常は、図2に示すように球形部に試料の導入管が取り付けられた形状を有しているが、試料容器1の形状は特に限定されるものではなく、例えば円筒状等であってもよい。試料容器1は、通常、ハステロイC、チタン、ステンレス鋼などの金属からなる。図2における試料容器1には、球形部に試料温度測定用の熱電対(図示せず)を固定するために熱電対固定金具(図示せず)が取り付けられているが、熱電対を針金で容器に固定することもできる。
【0027】
放射熱ヒーター14aは、試料容器1内の試料12を熱量測定時の設定温度まで加熱するためのものであり、ジャケットヒーター14b、14cおよび14dは、これらのジャケットヒーターで囲まれた内側の空気を加熱して試料12と試料容器1周辺との温度差を一定範囲内(例えば0.05℃以内)に制御し、試料12を断熱状態に維持するためのものである。ジャケットヒーター14b、14cおよび14dの近傍には、ヒーター温度測定用の熱電対18が埋め込まれている。また、断熱材保温部15は、試料12の断熱状態を維持するためのものである。
【0028】
分析に際し試料容器1内の圧力変化は、圧力センサー16で測定される。また、圧力測定用の配管20から分岐した配管21を設けることによって、試料容器1の内部を窒素、アルゴン、酸素等のガスによって置換する。
【0029】
以上のような断熱熱量計11による熱量測定は、例えば、次のようにして行うことができる。すなわち、試料容器1の下方に設置されている放射熱ヒーター14aにより試料12の温度(実際には試料容器1の温度)を初期の熱量測定温度まで加熱し、一定の待ち時間(通常5〜10分程度)の後に試料12の発熱の有無を確認する探索過程に入る。その探索過程において一定の自己発熱速度(通常0.02℃/分程度)以上の温度上昇が検出されないときは、さらに放射熱ヒーター14aにより試料12の温度(実際には試料容器1の温度)を数℃(通常は5℃程度)上げ、同じような断熱下での操作を繰り返す。上記した一定の自己発熱速度を超える発熱現象が検出されると、熱電対17で測定される試料容器1の温度と熱電対18で測定されるジャケットヒーター14b、14cおよび14dの近傍の温度との差が、例えば0.05℃以内となるように制御され、試料12の温度が断熱的に上昇する。このように試料12の温度が断熱的に上昇し反応熱が蓄積されていくにつれて、試料12の温度が指数関数的に上昇し、最大反応速度を経て最高温度に達する。このようにして試料12の熱的特性を断熱下で測定することができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例)
【0031】
(試料の収容)
試料としては、硫塩化リンとメタノールとの反応マスを使用した。硫塩化リンは、水に対して反応性を有する禁水性物質であり、前記反応マスは熱的に不安定な低温分解性物質であるので、乾燥ガス(脱湿空気)雰囲気下で温度−15℃以下に保持された保管容器に保管されている。
図1に示す試料収容装置を用い、以下のようにして、試料(前記反応マス)を保管容器から採取し、図2に示す断熱熱量計(「ARCTM」THT社製)11に備え付けのハステロイC−276製の球形試料容器(永岡工業(株)製:内径25.4mmφで内容積が約9cm3の球形部と、内径が約4mmφで長さが約25mmの導入管および熱電対固定金具から構成される)1に収容した。
すなわち、乾燥ガスの入り口となるガス導入孔4と乾燥ガスの出口となる小孔2aとを備えたチャック開閉式のグローブ付き透明ポリ袋(ポリエチレン製)に、シリカゲル8、重量測定器(天秤)5、試料容器1の底部形状と合致する凹部を設けたドライアイス6aおよび試料容器1を設置して密閉し、ガス導入孔4から乾燥ガス(脱湿空気)を流量300cc/分で供給した。この状態で、保冷材6bを周囲に巻き付けたシリンジ3を用いて前記反応マスを保管容器から採取したのち、速やかに、小孔2aを通じてシリンジの針3aを密閉空間に挿入し、試料容器1の中に3gの試料を注入した。注入後、密閉空間の外部からグローブに手を入れて操作することにより、試料容器1に栓7を嵌めた。
このような方法を採用したことにより、密閉空間内へのシリンジの出し入れを含め、試料の採取から収容までの全ての操作をポリ袋の外から良好な操作性で行なうことができ、所要時間も非常に短縮できた。
【0032】
(熱安定性分析)
上記のようにして、試料容器1に収容された前記反応マスを試料とし、図2に示す断熱熱量計による熱安定性分析を以下のようにして行なった。
すなわち、試料を収容した試料容器1をポリ袋の中から取り出して、図2の断熱熱量計にセットし、発熱の有無、断熱温度上昇を測定した。分析は脱湿空気雰囲気下で行い、測定温度範囲は−30〜400℃とした。
測定の結果、−3℃からの発熱分解が検出された。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の試料収容装置の一実施形態を説明する概略図である。
【図2】本発明の熱測定方法の一実施形態において用いられる断熱熱量計の構成図である。
【符号の説明】
【0034】
1 収容容器(試料容器)
2 被覆材
2a 小孔
2b グローブ部
3 シリンジ
3a 針
4 ガス導入孔
5 重量測定器
6a ドライアイス
6b 保冷材
7 栓
8 乾燥材
11 断熱熱量計(熱測定装置)
12 試料
14 加熱部
14a 放射熱ヒーター
14b、14c、14d ジャケットヒーター
15 断熱材保温部
16 圧力センサー
17、18 熱電対
19 格納容器
20、21 配管


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が透明である被覆材で形成された密閉空間内に収容容器を設置するとともに、該密閉空間内を乾燥ガス雰囲気にしておき、シリンジの針を前記被覆材に貫通させてシリンジに採取した試料を収容容器に注入する、ことを特徴とする試料収容方法。
【請求項2】
前記被覆材にシリンジの針を挿入するための小孔をあらかじめ穿設しておき、前記密閉空間に乾燥ガスを供給しながら前記小孔から流出させることにより該密閉空間を乾燥ガス雰囲気とする、請求項1記載の試料収容方法。
【請求項3】
前記被覆材の一部には、密閉空間の外側から手を挿入するグローブ部が形成されている、請求項1または2記載の試料収容方法。
【請求項4】
前記密閉空間には、収容した試料の重さを測定するための重量測定器が配置されている、請求項1〜3のいずれかに記載の試料収容方法。
【請求項5】
前記シリンジおよび前記収容容器の内容物を低温に保持するための手段が設けられている、請求項1〜4のいずれかに記載の試料収容方法。
【請求項6】
密閉空間を形成するための被覆材と、該密閉空間内に設置された収容容器と、該収容容器に試料を注入するためのシリンジとから構成される装置であって、
前記被覆材は、少なくとも一部が透明であり、前記密閉空間内を乾燥ガス雰囲気とするためのガス導入孔を備えるとともに、シリンジの針が貫通可能に構成されており、さらに、前記被覆材の一部には前記密閉空間の外側から手を挿入するグローブ部が形成されている、ことを特徴とする試料収容装置。
【請求項7】
前記被覆材は、前記シリンジの針を貫通させるための小孔を備えている、請求項6記載の試料収容装置。
【請求項8】
前記密閉空間に、収容した試料の重さを測定するための重量測定器が配置されている、請求項6または7記載の試料収容装置。
【請求項9】
前記シリンジおよび前記収容容器の内容物を低温に保持するための手段が設けられている、請求項6〜8のいずれかに記載の試料収容装置。
【請求項10】
低温での分解性および/または水に対する反応性を有する物質を熱測定装置にて分析するにあたり、分析に供する物質を請求項1〜5のいずれかに記載の試料収容方法により熱測定装置の試料容器に収容する、ことを特徴とする熱測定方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−241431(P2008−241431A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81639(P2007−81639)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】