説明

試料抽出キット

【課題】 比較的短い綿棒が使用され感染力が高い病原体が対象となる臨床検査等において、検査中の感染を一層効果的に予防できる試料抽出キットを提供する。
【解決手段】 本試料抽出キットは、臨床検査等において使用される綿球1の先端から棒体2の自由端に至る綿棒長さL2を有する綿棒10と、上端開口部3aを有し内部に溶液を保持できる容器本体3と、上端開口部3aを封止するキャップ7とを備え、容器本体3の下部には上端開口部3aから下向きに挿入される綿球1がこすりつけられることにより、綿球1に付着する試料を抽出する抽出部5が形成され、抽出部5の下方には綿球1が押し込まれることにより綿球1を固定する収納部4が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床検査等において使用される綿棒を含む試料抽出キットに関するものである。さらに詳しくは、本発明は、眼科領域や食中毒患者の吐瀉物等の検査において使用される比較的短めの綿棒を含む試料抽出キットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
綿棒を使用し綿球を患部に接触させ試料を採取した上で、容器内部に溜められた溶液へ試料に含まれる可能性がある病原体を抽出するための試料抽出キットが知られている。
【0003】
綿棒の全長は、綿棒の自由端付近を、検査者が手の指でつまんで綿球を患部へ至らしめる関係上、様々である。例えば、耳鼻科領域では、綿球が咽頭、鼻腔等へ接触する必要があるため、耳鼻科領域で使用される綿棒の全長は比較的長い。一方、眼科領域では、患部は目の結膜など外部へ露呈する部分であることが多いため、眼科領域用の綿棒の全長は比較的短い。
【0004】
例えば、眼科領域の疾病であるウイルス性結膜炎では、病原体はアデノウイルスである。このアデノウイルスのようにきわめて感染力が強い病原体の有無を検査する際には、患者の液体試料から検査者への感染、さらに検査者が第三者へ感染を広める二次感染を、有効に防止するための配慮が不可欠となる。一方、眼科領域のみならず、食中毒の病原体にもノロウイルスや腸管出血性大腸菌O157等感染力が強いものがあり、食中毒患者の吐瀉物等の検査を行う場合にも、前提となる事情は同様であり、したがって、上述と同様の配慮が必要となる。また、いずれにしても、検査者がいったん感染してしまうと、検査の精度が著しく低下してしまう。即ち、この種の試料抽出キットにおいて、感染の予防は重要なポイントとなることは言うまでもない。
【0005】
感染を予防する点を考慮した検査用ボトル(例えば、特許文献1:実用新案登録第3000661号公報参照。)、検体抽出用容器(例えば、特許文献2:特開2006−138748号公報参照。)が提案されているが、特に感染力が高い病原体が対象となる領域の特性に合っているとは言い難く、抽出がやりにくいし、抽出時及び抽出後の時点において綿球の位置が定まらず不安定で、感染の予防対策及び使い勝手の点において十分とはいえない。当該領域で使用される綿棒は比較的短いから、容器内における試料抽出後には、直ちに容器内へ密閉しその状態を維持したまま廃棄できることが理想である。
【特許文献1】実用新案登録第3000661号公報
【特許文献2】特開2006−138748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、比較的短い綿棒が使用され感染力が高い病原体が対象となる領域において、検査中の感染を一層効果的に予防でき、かつ使い勝手の良い試料抽出キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明に係る試料抽出キットは、試料を抽出するために使用され、先端部の綿球と綿球に連続する棒体とをそれぞれ有し、綿球の先端から棒体の自由端に至る綿棒長さを有する綿棒と、上端開口部を有し内部に溶液を保持できる容器本体と、容器本体の上端開口部を開閉自在に封止するキャップとを備える試料抽出キットであって、容器本体の下部には上端開口部から下向きに挿入される綿球がこすりつけられることにより、綿球に付着する試料を抽出する抽出部が形成され、容器本体において抽出部の下方には綿球が押し込まれることにより綿球を固定する収納部が形成されている。
【0008】
この構成により、検査者は、比較的短め(全長:綿棒長さ)の棒体の自由端付近を指でつまみ綿球を患部へ接触させて試料を採取する。次に、キャップが外されることにより開放される上端開口部から容器本体の内部へ綿球を先頭に綿棒が挿入される。ここで、容器本体の下部には抽出部が形成され、さらにその下には収納部が形成されているが、収納部に綿球が全体的に入り込むには、綿球を下方に押し込む必要がある。したがって、綿球を強く押し込まない限り、綿球は、いきなり収納部へ入り込むことはなく、抽出部において上下方向に一旦停止する。この状態で、検査者は綿球を抽出部へこすりつけ、これにより試料の抽出が実行される。そして検査者は、抽出完了後、綿球を直ちに押し込むと、綿球は抽出部を超えて収納部に固定されることになる。これにより、抽出完了後、検査者が綿球をよほど無理に引き抜こうとしない限り、綿球は上下方向に移動できなくなる。この後、検査者は、綿棒を容器本体内に固定した状態(言い換えれば、綿棒は容器本体内において動きがたく安定した状態となる。)を維持したまま、直ちにキャップで上端開口部を封止でき、感染が予防される。
【0009】
よって、抽出時には綿球は一旦収納部に邪魔されて、抽出部に保持された状態となるので、試料の抽出を容易に実施できる。また、抽出完了後、綿球は収納部へ固定されるため、あやまって綿球や試料などが容器本体外へ漏れるおそれはきわめて少ない。
【0010】
第2の発明に係る試料抽出キットでは、第1の発明に加え、収納部の内径は、綿球の外径より小である。
【0011】
この構成により、検査者は、収納部により、綿棒の上下方向の移動が規制されるまで、綿棒をスムーズに挿入できるし、試料の抽出を円滑に実施できる。
【0012】
第3の発明に係る試料抽出キットでは、第1の発明に加え、綿球が抽出部に位置する際、綿棒の自由端が上端開口部から突出する長さは、綿棒の自由端が指によりつかまれ得る程度のつかみしろとなっており、綿球が収納部に押し込まれると綿棒の自由端は上端開口部からつかみしろよりも短い突出長さだけ突出する。
【0013】
この構成により、キャップを外した状態において、検査者はつかみしろを利用し、抽出部に綿球をこすりつけ試料の抽出を行えるし、綿球が収納部に押し込まれた後は、綿棒の自由端が上端開口部から突出する長さが短くなり、綿棒長さのほとんどが容器本体内に位置することとなるから、キャップの封止時に綿棒の自由端がキャップの動きを邪魔せず、円滑かつ短時間でキャップで上端開口部を封止でき、綿棒が外気に触れている時間を短縮できる。即ち、感染防止の観点から極めて有利となる。
【0014】
第4の発明に係る試料抽出キットでは、第1の発明に加え、抽出部の内面は、粗面となっている。
【0015】
この構成により、粗面に綿球をこすりつけ、効率よく試料を抽出できる。
【0016】
第5の発明に係る試料抽出キットでは、第1の発明に加え、棒体の直径をd1とし、綿球の直径をd2とし、収納部の内直径をd3とすると、d1<d3<d2である。
【0017】
これらの径の大小関係を採用するだけで、抽出部において綿球の上下方向の移動を一旦停止させて試料を抽出でき、その後、綿球を収納部へ押し込んで綿球を固定することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、検査者が特段の注意を払わなくとも、抽出部に綿球を一旦停止させた状態で試料を抽出でき、その後直ちに収納部へ綿球を固定でき、すみやかにキャップで上端開口部を封止できるから、感染を効果的に予防できるだけでなく、比較的短い綿棒が使用される領域において試料を円滑に抽出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施の形態における試料抽出キットの断面図である。
【0020】
図1に示すように、実施の形態1の試料抽出キットは、大きく分けて、綿棒10と、容器本体3と、キャップ7の3つの部品を具備する。綿棒10は、容器本体3及びキャップ7とは、別体に構成されるが、キャップ7と容器本体3とは、必要に応じ図示しない接続片を用いて連結してもよいし、図示しているように、別個の部品としてもよい。
【0021】
キャップ7と容器本体3とは、ネジで螺合してもよいし、爪又はラッチ等を用いて雄雌係合させてもよい。いうまでもないが、キャップ7と容器本体3とを連結した後、内部の液体が外部へ漏れないように配慮する必要がある。また、キャップ7と容器本体3の間に、抽出された試料とそれを保持する溶液を外部へ滴下するための、ノズル(図示せず)を介在させるのもきわめて望ましい。
【0022】
キャップ7と容器本体3とは、合成樹脂を材料とする射出成型品であることが望ましい。こうすれば、安価に製造でき、使い捨ての使用態様を採用できるし、堅牢であるため、破損のおそれは少ない。
【0023】
綿棒10は、試料(例えば、涙、吐瀉物等)を抽出するために使用されるものであり、先端部の綿球1と綿球1に連続する棒体2とをそれぞれ有する。綿棒長さL1は、綿球1の先端(綿棒10の下端)から棒体2の自由端(綿棒の上端)に至る長さである。
【0024】
容器本体3は、透明又は半透明の樹脂などによりなり、その内部空間は、概ね、先細り(上方が太く、下方に至るに従い細くなる)形状をなす。こうすれば、検査者は、容器本体3の外部から、内部空間の様子を視認することができ、操作の確実性を向上できる。また、この内部空間は、容器本体3の上端に開口する上端開口部3aを介して、外部空間と接する。したがって、上端開口部3aは、キャップ7によりできるだけすみやかに封止され、容器本体3の内部空間が外部空間と接触する時間を短くすることが、感染防止のため望ましい。
【0025】
容器本体3の上方外径方向には、円状をなすフランジ6が周設され、フランジ6は、キャップ7が装着されたときに、キャップ7の下端縁に当接しこれを支持する。
【0026】
容器本体3の下部には、抽出部5が形成されている。本形態では、抽出部5の内径d4は、上端開口部3の内径よりは小さいが、綿球1の直径d2よりもやや幅広に形成される(d4>d2)。また、抽出部5の内面は、縦溝、複数の突起群あるいは凹凸などを形成し、粗面とすることが、綿球1を抽出部5にこすりつけた際の抽出効率の点から望ましい。なお、抽出部5は、可撓性の材料で構成することが望ましい。なぜなら、そうすれば、検査者は、抽出部5を外側から指でもみほぐす操作をすることができ、抽出効率を一層向上できるからである。
【0027】
抽出部5の直下には、内側にくぼむ段差5aが形成され、この段差5aよりも下方(容器本体3の内部空間の最下部)は、綿球1の直径(外径)d2よりもやや小さい直径(内径)d3を有する収納部4となっている。ここで、容器深さL2は、容器本体3の内部空間の全深さであり、収納部4の高さは、この部分に綿球1が押し込まれることから、押し込みしろL3である。容器深さL2は、綿棒長さL1よりやや小さく設定されている。なお、図示していないが、容器本体3の内部空間の下方(抽出部5及び収納部4)には、抽出された試料を混合・保持するため、通常、溶液(図示せず)が溜められている。
【0028】
次に、図2〜図4を参照しながら、本形態による試料抽出キットを用いた試料の抽出プロセスを説明する。
【0029】
まず、キャップ7を外した状態の容器本体3を適宜、垂直に支持し、検査者は、綿棒長さL1(綿棒としては、比較的短めである。)の棒体の自由端付近を指でつまみ、綿球を患部へ接触させて試料を採取する。
【0030】
次に、検査者は、上端開口部3aから容器本体3の内部へ綿球1を先頭に綿棒10を挿入する。ここで、上述したように、d4>d2であるから、綿球1は何ら障害なしに、抽出部5まで至り、綿球1の下部が段差5aに当接する。その結果、綿球1は、段差5aに邪魔されて、抽出部5付近に溜められた溶液に接触する。また、d2>d3であるから、綿球1は抽出部5において下方向の移動を一旦停止する。そして、検査者は、綿球1を抽出部5にこすりつけ、綿球1に付着する試料(粘液等)が綿球1からはなれて溶液と混合される。この際、抽出部5は粗面となっているので、検査者は、矢印N1で示すように数回、棒体2を回転させるとよい。このとき、上述のように、容器深さL2は、綿棒長さL1よりやや小さく設定されているから、綿棒10の自由端は、上端開口部3aからさらに、つかみしろL4だけ突出する。このつかみしろL4は、その名の通り、検査者が指で綿棒10の自由端側を、指でつかみうる程度とする。
【0031】
つぎに、抽出が終了したら、検査者は、図3の矢印N2で示すように、上から下向きに綿棒10の自由端を押し込む。その結果、d3<d2なる大小関係により、抽出部5に一旦停止していた綿球1は、段差5aを乗り越えて、収納部4内に押し込まれ、収納部4とかみ合って固定される。したがって、この後は、強い引く力を綿棒10に無理に作用させない限り、綿棒10は図3に示される位置を保持する。つまり、綿棒10のほとんどは、容器本体3の内部に安定的に固定される。また、このとき、容器深さL2は、綿棒長さL1よりやや小さく設定されているから、綿棒10の自由端は上端開口部3aから上向きに小さな突出長さL5だけ突出することになる。ここで、綿球1が収納部4内に押し込まれた結果、突出長さL5は、つかみしろL4よりも小となる。
【0032】
この後、望ましくは直ちに、図4に示すように、キャップ7を容器本体3の上部に装着し、上端開口部3aを外部空間から遮断し、容器本体3の内部空間を密閉する。これにより、感染を予防することができる。
【0033】
図4をみれば理解されるように、キャップ7を装着する前後において、綿棒10の自由端は上端開口部3aから上向きに小さな突出長さL5だけ突出するのであるため、綿棒10の自由端付近により、キャップ7(あるいはさらにノズルも含め)の装着が妨げられることはない。図4からわかるように、結局のところ、突出長さL5は、綿棒長さL1から容器深さL2を引いた長さになるので、これを考えて設計事項を定めるとよい。また、押し込みしろL3は、綿球1の軸方向長さとほぼ一致させるか、または、やや短く設定するとよい。ここで一般に、綿棒が容器本体内にすっぽり入ってしまうように設定すると、つかみしろを指でつかんで抽出するための操作(回転等)が不可能になる。逆に、綿棒の自由端側が長く容器本体から突出するようにすると、今度は、突出する自由端に邪魔されてキャップによる封止が実施しにくくなる。本形態の試料抽出キットは、この両点のいずれをも解決するものであって、顕著な効果を奏する。
【0034】
以上の説明から、綿球1からの抽出、収納部4による綿球1の固定もスムーズに短時間に実施できるし、綿球1に付着する試料あるいは溶液が外部に漏れ出にくくなっている点は、容易に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施の形態における試料抽出キットの断面図
【図2】本発明の一実施の形態における試料抽出キットによる抽出プロセス説明図
【図3】本発明の一実施の形態における試料抽出キットによる抽出プロセス説明図
【図4】本発明の一実施の形態における試料抽出キットによる抽出プロセス説明図
【符号の説明】
【0036】
1 綿球
2 棒体
3 容器本体
3a 上端開口部
4 収納部
5 抽出部
6 フランジ
7 キャップ
10 綿棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を抽出するために使用され、先端部の綿球と前記綿球に連続する棒体とをそれぞれ有し、前記綿球の先端から前記棒体の自由端に至る綿棒長さを有する綿棒と、
上端開口部を有し内部に溶液を保持できる容器本体と、
前記容器本体の前記上端開口部を開閉自在に封止するキャップとを備える試料抽出キットであって、
前記容器本体において前記容器本体の下部には前記上端開口部から下向きに挿入される前記綿球がこすりつけられることにより、前記綿球に付着する試料を抽出する抽出部が形成され、
前記抽出部の下方には前記綿球が押し込まれることにより前記綿球を固定する収納部が形成されていることを特徴とする試料抽出キット。
【請求項2】
前記収納部の内径は、前記綿球の外径より小であることを特徴とする請求項1記載の試料抽出キット。
【請求項3】
前記綿球が前記抽出部に位置する際、前記綿棒の自由端が前記上端開口部から突出する長さは、前記綿棒の自由端が指によりつかまれ得る程度のつかみしろとなっており、前記綿球が前記収納部に押し込まれると前記綿棒の自由端は前記上端開口部から前記つかみしろよりも短い突出長さだけ突出することを特徴とする請求項1または2記載の試料抽出キット。
【請求項4】
前記抽出部の内面は、粗面となっている請求項1から3のいずれかに記載の試料抽出キット。
【請求項5】
前記棒体の直径をd1とし、前記綿球の直径をd2とし、前記収納部の内直径をd3とすると、d1<d3<d2である請求項1から4のいずれかに記載の試料抽出キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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