説明

試薬調製装置および検体分析装置

【課題】分析結果の信頼性を向上させることが可能な試薬調製装置を提供する。
【解決手段】この試薬調製装置3は、純水および高濃度試薬から希釈試薬を調製する希釈部36や攪拌部37などの試薬調製部と、調製された希釈試薬のpH値(水素イオン指数)を測定するpH監視部39と、所定の処理を実行するCPU44aとを備え、CPU44aは、pH監視部39により測定されたpH値(水素イオン指数)に基づいて、実行する処理を変更するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試薬調製装置および検体分析装置に関し、特に、純水と所定の試薬とを含む希釈試薬を調製可能な試薬調製装置および検体分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、純水と所定の試薬とを含む希釈試薬を調製可能な試薬調製装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、攪拌タンク内で濃縮液(試薬原液)と純水とを混合することによって所望濃度の試薬を調製可能な試薬調製装置が開示されている。
【0004】
ここで、上記特許文献1の試薬調製装置などにおいて、試薬原液の品質は、通常、試薬製造者により品質管理されており略一定であると考えられる。また、純水も、純水製造装置により精製され、品質が略一定であると考えられる。このような品質が略一定であると考えられる試薬原液および純水を所定の割合で混合することによって、品質が略一定の試薬を得ることが可能であると考えられる。
【0005】
また、従来、調製された試薬の電気伝導度を測定することによって、試薬の濃度が略一定に保たれていることを確認可能な試薬調製装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−167660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
試薬調製装置を用いて調製された試薬の品質は、略一定に保たれていると考えられるにもかかわらず、所定の項目について分析結果に誤差が生じてしまう場合があった。そのため、試薬調製装置によって調製された試薬を用いて分析される検体の分析結果の信頼性の向上が求められていた。しかしながら、従来、分析結果の誤差の原因を特定することが困難であり、このような原因不明の誤差を抑制する技術については、全く知られていなかった。
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、分析結果の信頼性を向上させることが可能な試薬調製装置および検体分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0009】
上記目的を達成するために、本願発明者が鋭意検討した結果、純水と所定の試薬とを用いて調製された希釈試薬の水素イオン指数が所定の範囲外にある場合に、所定の項目についての分析結果に誤差が生じることを新たに見い出した。そして、この新たに見い出した水素イオン指数に関する知見に基づいて、本願発明者は以下の発明を創出した。すなわち、この発明の第1の局面における試薬調製装置は、純水および所定の試薬を含む希釈試薬を調製する試薬調製部と、試薬調製部により調製された希釈試薬の水素イオン指数を測定する水素イオン指数測定部と、所定の処理を実行する制御部とを備え、制御部は、水素イオン指数測定部により測定された水素イオン指数に基づいて、実行する処理を変更するように構成されている。
【0010】
この発明の第1の局面による試薬調製装置では、上記のように、試薬調製部により調製された希釈試薬の水素イオン指数を測定する水素イオン指数測定部と、所定の処理を実行する制御部とを設け、制御部を、水素イオン指数測定部により測定された水素イオン指数に基づいて、実行する処理を変更するように構成することによって、水素イオン指数が所定の範囲外である場合には、検体測定部への希釈試薬の供給を禁止したり、測定された水素イオン指数を検体測定部に通知し、検体測定部に記憶したりすることが可能となる。これにより、水素イオン指数が所定の範囲外である希釈試薬を用いて検体が測定されてしまうことを防止したり、測定によって得られた検体の分析結果を報告する前に、記憶されている水素イオン指数を確認することが可能となるため、分析結果の信頼性を向上させることができる。
【0011】
上記第1の局面による試薬調製装置において、好ましくは、制御部は、水素イオン指数測定部により測定された水素イオン指数が所定の範囲外の場合に、希釈試薬を用いて検体を測定する検体測定部への希釈試薬の供給を禁止するように構成されている。このように構成すれば、検体測定部への希釈試薬の供給を禁止することによって、水素イオン指数が所定の範囲外である希釈試薬が測定に用いられるのを確実に防止することができるので、所定の項目について分析結果に誤差が生じるのを抑制することができる。その結果、分析結果の信頼性をより向上させることができる。
【0012】
この場合、好ましくは、試薬調製部により調製された希釈試薬を廃棄する廃棄部をさらに備え、制御部は、希釈試薬を廃棄するように廃棄部を制御することによって、検体測定部への希釈試薬の供給を禁止するように構成されている。このように構成すれば、希釈試薬の水素イオン指数が所定の範囲外の場合に、廃棄部により希釈試薬が廃棄されるので、水素イオン指数が所定の範囲外である希釈試薬が測定に用いられるのを容易に防止することができる。これにより、容易に、所定の項目について分析結果に誤差が生じるのを抑制することができる。
【0013】
上記制御部が希釈試薬の供給を禁止する構成において、好ましくは、試薬調製部により調製された希釈試薬を検体測定部に供給するための流路を開閉する流路開閉部をさらに備え、制御部は、流路を閉鎖するように流路開閉部を制御することによって、検体測定部への希釈試薬の供給を禁止するように構成されている。このように構成すれば、希釈試薬の水素イオン指数が所定の範囲外の場合に、流路開閉部の閉鎖により希釈試薬が検体測定部に供給されるのが停止されるので、水素イオン指数が所定の範囲外である希釈試薬が測定に用いられるのを容易に防止することができる。これにより、容易に、所定の項目について分析結果に誤差が生じるのを抑制することができる。
【0014】
上記第1の局面による試薬調製装置において、好ましくは、試薬調製装置は、希釈試薬を試薬調製装置から吸引し、検体を測定する検体測定部に接続されており、制御部は、水素イオン指数測定部により測定された水素イオン指数が所定の範囲外の場合に、希釈試薬の吸引を禁止する吸引禁止指示を検体測定部に送信するように構成されている。このように構成すれば、希釈試薬の水素イオン指数が所定の範囲外の場合に、検体測定部に吸引禁止指示が送信されるので、吸引禁止指示に基づいて検体測定部側で希釈試薬の吸引を停止することができる。これにより、水素イオン指数が所定の範囲外である希釈試薬が測定に用いられるのを容易に防止することができるので、容易に、所定の項目について分析結果に誤差が生じるのを抑制することができる。
【0015】
上記制御部が希釈試薬の供給を禁止する構成において、好ましくは、制御部は、供給が禁止された希釈試薬の供給を再開させる供給再開指示を受け付け、供給再開指示を受け付けると、希釈試薬の供給を再開させる処理を実行するように構成されている。このように構成すれば、検体測定部への供給を再開させることによって、水素イオン指数が所定の範囲外である希釈試薬を測定部に供給することができる。これにより、たとえば、水素イオン指数のばらつきによる影響が少ない項目についてのみ分析結果を得たい場合などに、希釈試薬を無駄にすることなく所望の分析結果を得ることができる。
【0016】
上記第1の局面による試薬調製装置において、好ましくは、表示部をさらに備え、制御部は、水素イオン指数測定部により測定された水素イオン指数が所定の範囲外の場合に、水素イオン指数が所定の範囲外である旨を表示するように表示部を制御するように構成されている。このように構成すれば、ユーザは、調製された希釈試薬の水素イオン指数が所定の範囲外であることを、表示部により視覚を通じて容易に認識することができる。
【0017】
上記第1の局面による試薬調製装置において、好ましくは、希釈試薬の温度を測定する温度測定部をさらに備え、温度測定部により測定された希釈試薬の温度に基づいて、水素イオン指数測定部により測定された水素イオン指数が補正されるように構成されている。このように構成すれば、温度測定部により測定された希釈試薬の温度に基づいて補正された補正後の水素イオン指数を用いて、制御部は実行する処理を変更することができる。
【0018】
上記第1の局面による試薬調製装置において、好ましくは、制御部は、水素イオン指数測定部により測定された水素イオン指数が所定の範囲外の場合に、水素イオン指数が所定の範囲外である旨を希釈試薬を用いて検体を測定する検体測定部に通知するように構成されている。このように構成すれば、水素イオン指数が所定の範囲外である旨の通知に基づいて、検体測定部側で、供給される希釈試薬の水素イオン指数が所定の範囲外であることを把握することができる。これにより、たとえば、分析結果を表示する際に、水素イオン指数が所定の範囲外である希釈試薬を用いて測定を行ったことを合わせて表示することができる。
【0019】
上記第1の局面による試薬調製装置において、好ましくは、制御部は、水素イオン指数測定部により測定された水素イオン指数が所定の範囲外の場合に、希釈試薬の調製動作を停止する処理を実行するように構成されている。このように構成すれば、希釈試薬の水素イオン指数が所定の範囲外の場合に、試薬調製部による希釈試薬の調製が停止されるので、水素イオン指数が所定の範囲外である希釈試薬が測定に用いられるのを容易に防止することができる。これにより、容易に、所定の項目について分析結果に誤差が生じるのを抑制することができる。
【0020】
上記第1の局面による試薬調製装置において、好ましくは、試薬調製部により調製された希釈試薬の電気伝導度を測定する電気伝導度測定部をさらに備え、制御部は、電気伝導度測定部により測定された電気伝導度が所定の範囲外である希釈試薬の、希釈試薬を用いて検体を測定する検体測定部への供給を禁止するように構成されている。このように希釈試薬の水素イオン指数に加えて電気伝導度を測定することによって、所望濃度以外の濃度の希釈試薬が検体測定部に供給されるのも防止することができるので、分析結果の信頼性をより向上させることができる。
【0021】
上記第1の局面による試薬調製装置において、好ましくは、希釈試薬を用いて検体を測定する検体測定部に接続されており、検体測定部は、血液中の血球を測定し、MCV値を取得するように構成されている。このように構成すれば、水素イオン指数が分析結果に影響を及ぼすと考えられるMCV値を取得する検体測定部に、水素イオン指数が所定の範囲外である希釈試薬が供給されるのを防止することができるので、MCV値に誤差が生じるのを抑制することができる。
【0022】
この発明の第2の局面における検体分析装置は、純水および所定の試薬を含む希釈試薬を調製する試薬調製部と、試薬調製部により調製された希釈試薬を用いて検体を測定する検体測定部と、試薬調製部により調製された希釈試薬の水素イオン指数を測定する水素イオン指数測定部と、所定の処理を実行する制御部とを備え、制御部は、水素イオン指数測定部により測定された水素イオン指数に基づいて、実行する処理を変更するように構成されている。
【0023】
この発明の第2の局面による検体分析装置では、上記のように、試薬調製部により調製された希釈試薬の水素イオン指数を測定する水素イオン指数測定部と、所定の処理を実行する制御部とを設け、制御部を、水素イオン指数測定部により測定された水素イオン指数に基づいて、実行する処理を変更するように構成することによって、水素イオン指数が所定の範囲外である場合には、検体測定部への希釈試薬の供給を禁止したり、測定された水素イオン指数を検体測定部に通知し、検体測定部に記憶したりすることが可能となる。これにより、水素イオン指数が所定の範囲外である希釈試薬を用いて検体が測定されてしまうことを防止したり、測定によって得られた検体の分析結果を報告する前に、記憶されている水素イオン指数を確認することが可能となるため、分析結果の信頼性を向上させることができる。
【0024】
上記第2の局面による検体分析装置において、好ましくは、検体測定部は、水素イオン指数測定部により測定された水素イオン指数に基づいて、検体測定部により検体を測定して得られた分析結果を補正するように構成されている。このように構成すれば、希釈試薬の水素イオン指数が所定の範囲外である場合でも、分析結果を補正することによって、所定の項目について分析結果に誤差が生じるのを抑制することができる。
【0025】
この発明の第3の局面における試薬調製装置は、純水および所定の試薬を含む希釈試薬を調製する試薬調製部と、希釈試薬の調製に用いられる前の純水の水素イオン指数を取得する水素イオン指数取得手段と、所定の処理を実行する制御部とを備え、制御部は、水素イオン指数取得手段により取得された水素イオン指数に基づいて、実行する処理を変更するように構成されている。
【0026】
この発明の第3の局面による試薬調製装置では、上記のように、希釈試薬の調製に用いられる前の純水の水素イオン指数を取得する水素イオン指数取得手段と、所定の処理を実行する制御部とを設け、制御部を、水素イオン指数取得手段により取得された水素イオン指数に基づいて、実行する処理を変更するように構成することによって、純水の水素イオン指数が所定の範囲外である場合には、当該純水が希釈試薬の調製に用いられるのを禁止したり、取得された水素イオン指数を検体測定部に通知し、検体測定部に記憶したりすることが可能となる。これにより、水素イオン指数が所定の範囲外である純水を用いて調製された希釈試薬を用いて検体が測定されてしまうことを防止したり、測定によって得られた検体の分析結果を報告する前に、記憶されている水素イオン指数を確認することが可能となるため、分析結果の信頼性を向上させることができる。
【0027】
上記第3の局面による試薬調製装置において、好ましくは、水素イオン指数取得手段は、希釈試薬の調製に用いられる前の純水の水素イオン指数を測定する水素イオン指数測定部を含む。このように構成すれば、水素イオン指数測定部により測定された水素イオン指数に基づいて、制御部は実行する処理を変更することができる。
【0028】
この発明の第4の局面における検体分析装置は、純水および所定の試薬を含む希釈試薬を調製する試薬調製部と、試薬調製部により調製された希釈試薬を用いて検体を測定する検体測定部と、希釈試薬の調製に用いられる前の純水の水素イオン指数を測定する水素イオン指数測定部と、所定の処理を実行する制御部とを備え、制御部は、水素イオン指数測定部により測定された水素イオン指数に基づいて、実行する処理を変更するように構成されている。
【0029】
この発明の第4の局面による検体分析装置では、上記のように、希釈試薬の調製に用いられる前の純水の水素イオン指数を測定する水素イオン指数測定部と、所定の処理を実行する制御部とを設け、制御部を、水素イオン指数測定部により測定された水素イオン指数に基づいて、実行する処理を変更するように構成することによって、純水の水素イオン指数が所定の範囲外である場合には、当該純水が希釈試薬の調製に用いられるのを禁止したり、取得された水素イオン指数を検体測定部に通知し、検体測定部に記憶したりすることが可能となる。これにより、水素イオン指数が所定の範囲外である純水を用いて調製された希釈試薬を用いて検体が測定されてしまうことを防止したり、測定によって得られた検体の分析結果を報告する前に、記憶されている水素イオン指数を確認することが可能となるため、分析結果の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態による試薬調製装置を備えた血液検体分析装置の全体構成を示した全体構成図である。
【図2】図1に示した第1実施形態による試薬調製装置の構成を示した概略図である。
【図3】ある検査施設における1日毎のMCV値の平均値を示した棒グラフである。
【図4】ある検査施設において、各日に測定に用いられた希釈試薬の電気伝導度を示す折れ線グラフである。
【図5】ある検査施設において、各日に測定に用いられた希釈試薬のpH値を示す折れ線グラフである。
【図6】図1に示した第1実施形態による試薬調製装置の構成を示したブロック図である。
【図7】図1に示した第1実施形態による試薬調製装置の試薬調製処理動作を説明するためのフローチャートである。
【図8】本発明の第2実施形態による試薬調製装置の試薬調製処理動作を説明するためのフローチャートである。
【図9】本発明の第2実施形態による試薬調製装置の試薬調製処理動作を説明するための画面図である。
【図10】本発明の第3実施形態による試薬調製装置の構成を示した概略図である。
【図11】本発明の第1実施形態による試薬調製装置の変形例を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0032】
(第1実施形態)
まず、図1〜図6を参照して、本発明の第1実施形態による試薬調製装置3の構成について説明する。なお、第1実施形態では、血液検査を行うための血液検体分析装置1の一部として、本発明の第1実施形態による試薬調製装置3を用いる場合について説明する。
【0033】
血液検体分析装置1は、図1に示すように、中央制御装置2と、試薬調製装置3と、2台の測定装置5および6とを備えている。
【0034】
中央制御装置2は、試薬調製装置3と通信可能に構成されている。また、中央制御装置2は、試薬調製装置3から送信される情報を蓄積する機能を有している。また、中央制御装置2は、図1に示すように、本体部21、表示部22と、入力部23とから主として構成されている。
【0035】
試薬調製装置3は、水道水から純水を生成し、生成した純水を外部装置に提供する純水提供装置200に接続されている。純水提供装置200は、イオン交換により純水を生成する装置であってもよいし、逆浸透膜を用いて純水を生成する装置であってもよい。試薬調製装置3は、試薬原液としての高濃度試薬を純水と混和させることにより所望濃度の試薬(以下、希釈試薬)を調製した後、調製した希釈試薬を測定装置5(6)の後述する測定部51(61)に供給するために設けられている。この試薬調製装置3には、図2に示すように、比較的大容量の純水を定量して希釈部36に供給するための純水定量タンク32および微量の純水を定量して希釈部36に供給するための純水用定量ポンプ(ダイヤフラムポンプ)33とが設けられている。また、試薬調製装置3には、高濃度試薬を収容するための試薬定量タンク34および高濃度試薬を定量して希釈部36に供給するための高濃度試薬用定量ポンプ(ダイヤフラムポンプ)35が設けられている。なお、試薬調製装置3により純水と混和される高濃度試薬は、試薬調製装置3の外部の収容部34aに収容されている。また、試薬調製装置3は、希釈部36と、攪拌部37と、濃度監視部38と、pH監視部39と、試薬貯留タンク40と、循環ポンプ41と、フィルタ42と、試薬供給タンク43と、試薬調製装置3の動作を統括する制御部44と、表示部45(図1参照)とを含んでいる。
【0036】
純水定量タンク32は、純水提供装置200に接続されており、希釈部36に純水を提供するときには、純水提供装置200から純水が提供される。また、純水用定量ポンプ(ダイヤフラムポンプ)33は、純水定量タンク32から所定量の純水を吸引し、希釈部36に吐出するように構成されている。なお、純水とは、例として、RO水、精製水、脱イオン水、および蒸留水等が挙げられ、不純物を取り除く処理が実施された水であるが、その純度は特に限定されない。
【0037】
試薬定量タンク34は、装置の外部の収容部34aに収容される高濃度試薬を定量して貯留する機能を有している。高濃度試薬を収容した収容部34aは、収容部34aの重量を検出する機能を有する重量センサ34bに載置されている。重量センサ34bの検知結果に基づいて、制御部44により高濃度試薬の残量を確認することが可能である。また、高濃度試薬用定量ポンプ(ダイヤフラムポンプ)35は、一定量の液体を吐出する機能を有しており、試薬定量タンク34から一定量の高濃度試薬を希釈部36に吐出するように構成されている。
【0038】
希釈部36は、純水および高濃度試薬を受け入れて混和するために設けられている。また、希釈部36は、電磁バルブ300を介して廃棄流路に接続されている。また、希釈部36は、外部に設けられた空圧部36aに接続されており、空圧部36aにより内部が陽圧状態または陰圧状態となるように構成されている。また、希釈部36の内部には、攪拌部37の後述の攪拌翼37aと、濃度監視部38の後述の導電率センサ38aと、pH監視部39の後述のpH電極39aとが配置されている。
【0039】
攪拌部37は、希釈部36内の純水および高濃度試薬を攪拌するための攪拌翼37aを有している。
【0040】
濃度監視部38は、希釈部36に収容される希釈試薬に接触する導電率センサ38aを有しており、希釈部36内の希釈試薬の電気伝導度を測定するように構成されている。導電率センサ38aは、図示しない温度センサと一体的に設けられている。そして、濃度監視部38により測定された電気伝導度は、後述する制御部44に送信されて、制御部44により、測定された電気伝導度が所定範囲に入るか否かが判断される。なお、電気伝導度とは、電解質水溶液(第1実施形態では、希釈試薬)で満たされた電極間の電解質水溶液の電気抵抗の逆数で定義され、電解質水溶液を流れる電気の流れやすさを示す指標である。第1実施形態において、希釈試薬の電気伝導度を測定するのは、電気伝導度が希釈部36に供給される高濃度試薬の供給量(イオン量)に依存して変化するため、調製される希釈試薬の電気伝導度の変化を濃度の変化として捕らえることができるからである。また、電気伝導度は、電解質水溶液の温度の変化に依存して値が変化するため、図示しない温度センサにより希釈試薬の温度が監視されている。そして、温度により変動した電気伝導度は、制御部44により補正される。
【0041】
pH監視部39は、希釈部36に収容される希釈試薬に接触するpH電極39aを有しており、希釈部36内の希釈試薬のpH値(水素イオン指数)を測定するように構成されている。pH電極39aは、図示しない温度センサとともに、上記の導電率センサ38aと一体的に設けられている。第1実施形態において、希釈試薬のpH値を測定するのは、本願発明者が、希釈試薬のpH値が測定装置5および6によるMCV値(平均赤血球容積)の分析結果に影響することを見い出したからである。以下、この点について詳細に説明する。
【0042】
本願発明者は、調製された希釈試薬を用いて検体を測定することによって、図3に示すように、各検体のMCV値を取得した。図3には、2008年4月8日〜2008年4月28日における1日毎のMCV値の平均値を示す棒グラフが示されている。MCV値の平均値は、ある検査施設の1日毎の総データの平均値である。また、本願発明者は、図4に示すように、検体の測定に用いた希釈試薬の電気伝導度を測定した。図4には、2008年4月11日〜2008年4月22日において各日に測定に用いられた希釈試薬の電気伝導度を示す折れ線グラフが示されている。また、本願発明者は、図5に示すように、検体の測定に用いた希釈試薬のpH値を測定した。図5には、2008年4月16日〜2008年4月22日において各日に測定に用いられた希釈試薬のpH値を示す折れ線グラフが示されている。
【0043】
MCV値は、一般的に、被験者の病気の有無にかかわらず略一定であることが知られている。そして、MCV値の変動範囲は、最大約1%であると言われている。ここで、図3に示す2008年4月16日〜2008年4月19日の4日間について見ると、1日毎のMCV値の平均値が上記4日間以外の日のMCV値の平均値と比べて飛び抜けて高くなっていることが分かる。具体的には、上記4日間以外の日のMCV値の平均値が89.6(fl)または89.7(fl)であるのに対して、2008年4月16日、2008年4月17日、2008年4月18日および2008年4月19日のMCV値の平均値は、それぞれ、90.1(fl)、90.4(fl)、90.6(fl)および91.0(fl)である。すなわち、2008年4月19日、2008年4月18日、2008年4月17日および2008年4月16日の順で、上記4日間以外の日のMCV値の平均値との乖離幅が大きく、上記4日間のMCV値の平均値は、異常値であると考えられる。
【0044】
上記2008年4月16日〜2008年4月19日の4日間で測定に用いられた希釈試薬の電気伝導度を確認すると、図4に示すように、上記4日間以外の日の希釈試薬の電気伝導度と同様に、上記4日間のいずれの日の希釈試薬の電気伝導度も所定範囲(上限値:13.3(mS/cm)、下限値:13.2(mS/cm))内であることが分かる。すなわち、上記2008年4月16日〜2008年4月19日の4日間のいずれの日においても、測定に用いられた希釈試薬の濃度は、所望濃度であったことが分かる。なお、希釈試薬の濃度は、希釈試薬の電気伝導度と相関しており、希釈試薬の電気伝導度を所定範囲内とすることによって、希釈試薬の濃度を所望濃度にすることが可能である。
【0045】
次に、上記2008年4月16日〜2008年4月19日の4日間で測定に用いられた希釈試薬のpH値を確認すると、図5に示すように、上記4日間以外の日の希釈試薬のpH値が所定範囲(上限値:7.85、下限値:7.75)内であるのに対して、上記4日間の希釈試薬のpH値は所定範囲外であることが分かる。具体的には、2008年4月16日、2008年4月17日、2008年4月18日および2008年4月19日のpH値は、それぞれ、7.68、7.65、7.61および7.59である。すなわち、2008年4月19日、2008年4月18日、2008年4月17日および2008年4月16日の順で、pH値の所定範囲(上限値:7.85、下限値:7.75)からの乖離幅が大きい。
【0046】
これらから、本願発明者は、MCV値と希釈試薬のpH値との間に相関があり、希釈試薬の電気伝導度が所定範囲内(希釈試薬が所望濃度)である場合でも、pH値のばらつきによりMCV値に誤差が生じることを見い出した。言い換えると、本願発明者は、希釈試薬のpH値を所定範囲内に保つことによって、MCV値の分析結果に誤差が生じるのを抑制することができるということを見い出した。
【0047】
試薬貯留タンク40は、所定の濃度(電気伝導度が所定範囲内)に設定された希釈部36内の希釈試薬を受け入れるために設けられている。したがって、収容部34aに収容される高濃度試薬が無くなった場合でも、試薬貯留タンク40に所定量の希釈試薬が貯留されているので、直ちに、試薬調製装置3から測定装置5および6に希釈試薬が供給されなくなるのを抑制することが可能となる。
【0048】
循環ポンプ41は、試薬貯留タンク40に貯留される希釈試薬を、フィルタ42を介して、試薬供給タンク43および試薬貯留タンク40へと循環させるために設けられている。そして、フィルタ42を通過した希釈試薬の一部は試薬供給タンク43に貯留されて、試薬供給タンク43から希釈試薬が測定装置5(6)の後述する測定部51(61)に供給される。
【0049】
制御部44は、図6に示すように、CPU44aと、ROM44bと、RAM44cと、通信インタフェース44dと、I/O(Input/Output)部44eと、記憶部44fとを含んでいる。
【0050】
CPU44aは、ROM44bに記憶されているコンピュータプログラムおよびRAM44cにロードされたコンピュータプログラムを実行するために設けられている。また、CPU44aは、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、RAM44cを作業領域として利用するように構成されている。
【0051】
通信インタフェース44dは、試薬調製装置3を中央制御装置2と測定装置5および6とに情報通信可能に接続するように構成されている。
【0052】
I/O部44eは、各回路を介して、試薬調製装置3内の各部に接続されている。具体的には、I/O部44eは、各センサ回路を介して、純水定量タンク32、試薬定量タンク34、希釈部36、試薬貯留タンク40および試薬供給タンク43に設けられた図示しないフロートスイッチから信号が入力されるように構成されている。フロートスイッチからの信号に基づいて、CPU44aにより、各タンク内の液量が確認される。また、I/O部44eは、濃度監視部38およびpH監視部39から信号が入力されるように構成されている。また、I/O部44eは、電磁バルブ300および図示しない他の電磁バルブを制御するために、CPU44aからの信号を各駆動回路に出力するように構成されている。また、I/O部44eは、攪拌部37および空圧部36aの駆動を制御するために、CPU44aからの信号を各駆動回路に出力するように構成されている。また、I/O部44eは、表示部45に接続され、CPU44aからの画像信号などを表示部45に出力するとともに、タッチパネル式の表示部45を介して入力されるユーザからの指示信号をCPU44aに伝達するように構成されている。
【0053】
記憶部44fは、不揮発性メモリからなり、濃度監視部38から得られた電気伝導度および温度情報と、pH監視部39から得られたpH値および温度情報とを記憶可能に構成されている。
【0054】
表示部45は、CPU44aから送信される画像(映像)信号などに基づいた画像(映像)を表示する機能を有している。また、表示部45は、タッチパネル式であり、ユーザから入力される指示に基づく信号をCPU44aに伝達するように構成されている。
【0055】
測定装置5および6は、それぞれ、血液中の赤血球の個数、白血球の個数およびMCV値(平均赤血球容積)などを算出する血球測定装置である。また、測定装置5および6は、図1に示すように、互いに同様の構成を有しており、それぞれ、測定部51および61と、検体搬送部52および62と、分析部53および63とを備えている。
【0056】
測定部51(61)は、電気抵抗法およびフローサイトメトリー法により、血液中の赤血球、白血球、網状赤血球および血小板の測定を行うように構成されている。また、測定部51(61)は、図2に示すように、試薬調製装置3の試薬供給タンク43に流路により接続されている。また、測定部51(61)は、試薬調製装置3の試薬供給タンク43から調製された希釈試薬を吸引するための吸引部511(611)と、吸引部511(611)の動作を制御する制御部512(612)とを有している。測定部51(61)は、希釈試薬が必要となったときに、制御部512(612)により吸引部511(611)を駆動して所定量の希釈試薬を試薬供給タンク43から吸引するように構成されている。吸引部511(611)は、制御部512(612)による制御に基づいて、図示しない電磁バルブの開閉と、図示しない空圧部による陰圧および陽圧とによって、希釈試薬の吸引動作を行うように構成されている。なお、試薬調製装置3から測定部51(61)に供給された希釈試薬は、吸引部511(611)および測定部51(61)を洗浄する洗浄液としても使用される。
【0057】
検体搬送部52(62)は、複数の検体を順次測定部51(61)に搬送する機能を有している。
【0058】
分析部53(63)は、測定部51(61)により得られる血液中の赤血球、白血球、網状赤血球および血小板の測定データに基づいて、血液中の赤血球の個数、白血球の個数およびMCV値(平均赤血球容積)などを算出する機能を有している。また、分析部53(63)は、図1に示すように、表示部531(631)を有し、分析結果を表示部531(631)に表示することが可能である。また、分析部53(63)は、試薬調製装置3から後述する情報通知を受信した場合には、表示部531(631)に分析結果と合わせて分析結果の精度を保証することができない旨の表示を行う。
【0059】
次に、図7を参照して、試薬調製装置3の試薬調製処理動作について説明する。
【0060】
まず、図7のステップS1において、CPU44aにより、高濃度試薬および純水を希釈部36に供給する。具体的には、高濃度試薬用定量ポンプ(ダイヤフラムポンプ)35により所定量の高濃度試薬が試薬定量タンク34から希釈部36に供給されるとともに、所定量の純水が純水定量タンク32から希釈部36に供給される。この際、高濃度試薬を所望濃度に希釈するのに必要な液量よりも少ない量の純水が希釈部36に供給される。これは、後述するように、希釈部36で希釈試薬の電気伝導度を監視しながら純水を微量ずつ投入することによって、精度よく高濃度試薬を所望濃度に希釈するためである。
【0061】
そして、ステップS2において、CPU44aにより、攪拌部37を駆動させることによって、攪拌翼37aで希釈部36内の希釈試薬を攪拌する。その後、ステップS3において、CPU44aは、導電率センサ38aの検知結果に基づく希釈試薬の電気伝導度を濃度監視部38から取得する。そして、ステップS4において、CPU44aにより、取得した電気伝導度が所定範囲に入っているか否かが判断される。すなわち、CPU44aは、希釈部36内の希釈試薬が所望濃度であるか否かを判断する。電気伝導度が所定範囲内でない場合には、ステップS5において、CPU44aにより、電気伝導度が所定範囲を下回っているか否かが判断される。電気伝導度が所定範囲を下回るとは、希釈試薬の濃度が所望濃度よりも低くなっている状態である。すなわち、高濃度試薬の液量に対して、純水の液量が多すぎる状態である。
【0062】
電気伝導度が所定範囲を下回っていない場合には、所望濃度に対して希釈試薬の濃度が高すぎるため、ステップS6において、CPU44aにより、純水の追加投入量が決定される。具体的には、追加投入量は、純水用定量ポンプ(ダイヤフラムポンプ)33の動作回数により決定されるため、CPU44aは、純水用定量ポンプ(ダイヤフラムポンプ)33の動作回数を決定する。
【0063】
次に、純水用定量ポンプ(ダイヤフラムポンプ)33の動作回数を求める式を以下の式(1)に示す。
【0064】
T1=α×(ρ0−ρM)/V・・・・・(1)
上記式(1)において、T1は、純水用定量ポンプ(ダイヤフラムポンプ)33の動作回数、ρ0は、電気伝導度初期値、ρMは、所望の電気伝導度範囲の中央値、Vは、純水用定量ポンプ(ダイヤフラムポンプ)33の1回の動作で変動する電気伝導度の量、αは、0から1までの係数(たとえば、0.8)をそれぞれ表す。
【0065】
なお、ρ0は、所定時間攪拌した後の希釈試薬(濃度ムラがなくなるまで攪拌された希釈試薬)の電気伝導度を10回測定してその平均値を求めたものである。また、Vは、実験的に予め求めることが可能である。αは、純水を投入しすぎないようにするために設けられる(純水用定量ポンプ(ダイヤフラムポンプ)33を多くの回数動作させると、その誤差が累積されるため、純水を入れすぎることがある)。また、αは、実験的にあるいは経験的に決めることが可能である。
【0066】
次に、ステップS7において、CPU44aにより、決定された純水用定量ポンプ(ダイヤフラムポンプ)33の動作回数分の液量の純水が希釈部36に追加投入され、動作がステップS2に移行される。そして、電気伝導度が所定範囲内に入るまでステップS2〜ステップS7の動作が繰り返される。なお、ステップS5において、電気伝導度が所定範囲を下回っている場合には、ステップS12に進み、後述するように、CPU44aにより、調製した希釈試薬が希釈部36から廃棄される。これにより、所望濃度以外の希釈試薬の測定部51(61)への供給が禁止される。
【0067】
ステップS2〜ステップS7の動作により、電気伝導度が所定範囲内に入ると、ステップS8において、CPU44aは、pH電極39aの検知結果に基づいた希釈試薬のpH値をpH監視部39から取得する。そして、ステップS9において、CPU44aにより、取得したpH値が所定範囲(たとえば、温度が25℃±0.1℃の範囲でのpH値が7.75以上7.85以下の±0.1の範囲(7.65以上7.95以下))に入っているか否かが判断される。なお、pH値は、温度によって変化するので、図示しない温度センサにより検知される希釈部36内の希釈試薬の温度によって補正されたpH値を用いて、pH値が所定範囲内であるか否かを判断する。pH値が所定範囲内である場合には、ステップS10において、CPU44aは、調製した希釈試薬を希釈部36から試薬貯留タンク40に移送する。そして、ステップS11において、CPU44aは、希釈試薬を試薬貯留タンク40から循環ポンプ41およびフィルタ42を介して試薬供給タンク43に移送する。
【0068】
ここで、第1実施形態では、pH値が所定範囲に入っていない場合には、ステップS12において、CPU44aにより、調製した希釈試薬が希釈部36から廃棄される。具体的には、CPU44aは、電磁バルブ300を開放させるとともに、空圧部36aにより希釈部36に陽圧を供給することによって、希釈試薬を希釈部36内から廃棄流路に押し出す。これにより、所定範囲外のpH値を有する希釈試薬の測定部51(61)への供給が禁止される。
【0069】
第1実施形態では、上記のように、調製された希釈試薬のpH値(水素イオン指数)を測定するpH監視部39と、pH監視部39により測定されたpH値(水素イオン指数)が所定範囲外の場合に調製された希釈試薬を廃棄するCPU44aとを設けることによって、pH値(水素イオン指数)が所定範囲外である希釈試薬が測定に用いられるのを防止することができるので、MCV値(平均赤血球容積)などのpH値と相関がある測定項目について分析結果に誤差が生じるのを抑制することができる。その結果、試薬調製装置3によって調製された試薬を用いて分析される検体の分析結果の信頼性を向上させることができる。
【0070】
また、第1実施形態では、調製された希釈試薬の電気伝導度を測定する濃度監視部38を設け、濃度監視部38により測定された電気伝導度が所定範囲外である希釈試薬の測定部51(61)への供給を禁止するために、電気伝導度が所定範囲外である希釈試薬を廃棄するようにCPU44aを構成することによって、所望濃度以外の濃度の希釈試薬が測定部51(61)に供給されるのを防止することができるので、分析結果に誤差が生じるのをより抑制することができる。
【0071】
(第2実施形態)
次に、図8および図9を参照して、第2実施形態について説明する。この第2実施形態では、上記第1実施形態と異なり、試薬調製処理において、pH値が所定範囲を外れた場合に、試薬調製動作を停止してユーザからの指示を受け付けるように構成された試薬調製装置3について説明する。
【0072】
本発明の第2実施形態による試薬調製装置3の試薬調製処理動作について説明する。なお、図8において、第1実施形態と同様の動作を行うステップについては、図7に示した第1実施形態の試薬調製処理動作と同じステップ番号を付している。
【0073】
図8に示すように、ステップS1〜ステップS8の動作により、所望濃度に希釈された希釈試薬のpH値を取得した後、ステップS201において、CPU44aは、取得した電気伝導度、pH値および希釈試薬の温度情報を記憶部44fに記憶する。これにより、後に、試薬調製装置3で調製された希釈試薬がどのような試薬であったかを確認することが可能となる。そして、ステップS9において、CPU44aにより、pH値が所定範囲内(たとえば、温度が25℃±0.1℃の範囲でのpH値が7.75以上7.85以下の±0.1の範囲(7.65以上7.95以下))であるか否かが判断され、pH値が所定範囲内であれば、ステップS10およびステップS11を経て動作が終了される。
【0074】
一方、pH値が所定範囲を外れている場合には、ステップS202において、試薬調製動作が一旦停止される。具体的には、CPU44aは、各タンク間での液体の移送動作を停止する。そして、ステップS203において、CPU44aは、図9に示すように、表示部45にpH値が所定範囲外である旨を示す警告画面451を表示させる。警告画面451には、pH値が所定範囲外である旨とともに、調製を続行させるための続行ボタン451aと、希釈試薬を廃棄させるための廃棄ボタン452bとが表示される。これにより、ユーザは、調製された希釈試薬のpH値が所定範囲から外れていることを容易に確認可能であるとともに、調製された希釈試薬の取り扱いを決定して容易に指示することが可能である。
【0075】
次に、ステップS204において、ユーザから調製続行指示または廃棄指示を受け付ける。ユーザは、表示部45に表示された警告画面451上の続行ボタン451aを押下することによって、調製続行指示を入力し、廃棄ボタン452bを押下することによって、廃棄指示を入力することが可能である。そして、ステップS205において、CPU44aは、ユーザからの指示が廃棄指示であるか否かを判断し、廃棄指示である場合には、ステップS12に移行する。一方、廃棄指示でない場合、すなわち、ユーザが続行ボタン451aを押下した場合には、ステップS206において、CPU44aは、通信インタフェース44dを介して、情報通知を測定装置5および6に送信する。具体的には、CPU44aは、情報通知として、希釈試薬のpH値が所定範囲外である旨の情報を測定装置5および6に送信する。そして、測定装置5(6)では、分析結果を表示部531(631)に表示する際に、分析結果の精度を保証することができない旨を分析結果と合わせて表示する。
【0076】
なお、第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0077】
第2実施形態では、上記のように、調製動作が停止された後、希釈試薬の供給を再開させるための調製続行指示を受け付けるようにCPU44aを構成することによって、ユーザは、pH値が所定範囲外の希釈試薬の測定部51(61)への供給を再開させることができる。これにより、たとえば、pH値(水素イオン指数)のばらつきによる影響が少ない項目についてのみ分析結果を得たい場合などに、希釈試薬を無駄にすることなく所望の分析結果を得ることができる。
【0078】
また、第2実施形態では、pH監視部39により測定されたpH値(水素イオン指数)が所定範囲外の場合に、pH値(水素イオン指数)が所定範囲外である旨を表示する表示部45を設けることによって、ユーザは、調製された希釈試薬のpH値(水素イオン指数)が所定範囲外であることを、表示部45により視覚を通じて容易に認識することができる。
【0079】
また、第2実施形態では、pH監視部39により測定されたpH値(水素イオン指数)が所定範囲外の場合に、pH値(水素イオン指数)が所定範囲外である旨を測定部51(61)に通知するようにCPU44aを構成することによって、試薬調製装置3から送信される情報通知に基づいて、測定部51(61)側で、供給される希釈試薬のpH値(水素イオン指数)が所定範囲外であることを把握することができる。これにより、分析結果を表示する際に、pH値(水素イオン指数)が所定範囲外である希釈試薬を用いて測定を行ったため、分析結果の精度を保証することができない旨の表示を分析結果と合わせて表示することができる。
【0080】
なお、第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0081】
(第3実施形態)
次に、図10を参照して、第3実施形態について説明する。この第3実施形態では、上記第1実施形態と異なり、pH監視部39のpH電極39aが純水定量タンク32内に設けられている試薬調製装置103について説明する。
【0082】
本発明の第3実施形態による試薬調製装置103の純水定量タンク32は、図10に示すように、電磁バルブ301を介して廃棄流路に接続されている。また、純水定量タンク32は、空圧部36aに接続されている。また、純水定量タンク32内には、pH監視部39のpH電極39aが設置されている。pH電極39aは、純水定量タンク32に収容される純水に接触するように配置され、純水定量タンク32内の純水のpH値(水素イオン指数)を測定するように構成されている。すなわち、pH電極39aは、希釈試薬の調製に用いられる前の純水のpH値(水素イオン指数)を測定するように構成されている。
【0083】
ここで、第3実施形態では、CPU44aは、試薬調製処理時において、純水定量タンク32内の純水のpH値を監視し、純水のpH値が所定範囲外である場合には、純水を純水定量タンク32から廃棄するように構成されている。具体的には、CPU44aは、電磁バルブ301を開放し、空圧部36aによる陽圧によって、純水定量タンク32内の純水を廃棄流路に押し出す。すなわち、pH値が所定範囲外である純水の希釈部36への供給が禁止される。
【0084】
なお、第3実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0085】
第3実施形態では、上記のように、希釈試薬の調製に用いられる前の純水(純水定量タンク32内の純水)のpH値(水素イオン指数)を測定するpH監視部39と、pH監視部39により測定されたpH値(水素イオン指数)が所定範囲外の場合に、純水定量タンク32から純水を廃棄するCPU44aとを設けることによって、pH値(水素イオン指数)が所定範囲外である純水が試薬調製に用いられるのを防止することができるので、調製される希釈試薬のpH値(水素イオン指数)がばらつくのを抑制することができる。これにより、MCV値(平均赤血球容積)などのpH値と相関がある測定項目について分析結果に誤差が生じるのを抑制することができるので、試薬調製装置によって調製された試薬を用いて分析される検体の分析結果の信頼性を向上させることができる。
【0086】
なお、第3実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0087】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0088】
たとえば、上記第1実施形態では、希釈試薬のpH値が所定範囲外の場合には、希釈試薬を希釈部36から電磁バルブ300を介して廃棄する構成の例を示したが、本発明はこれに限らず、図11に示すように、試薬供給タンク43から測定部51および61に繋がる流路上にそれぞれ電磁バルブ302および303を設け、希釈試薬のpH値が所定範囲外の場合に、電磁バルブ302および303を閉鎖することによって、pH値が所定範囲外の希釈試薬が測定部51および61に供給されるのを禁止するように構成してもよい。このように構成すれば、pH値(水素イオン指数)が所定範囲外である希釈試薬が測定に用いられるのを容易に防止することができる。
【0089】
また、上記第1実施形態〜第3実施形態では、pH値が所定範囲外の希釈試薬を廃棄し、または、pH値が所定範囲外の純水を廃棄することによって、pH値が所定範囲外の希釈試薬の測定部51(61)への供給を禁止する構成の例を示したが、本発明はこれに限らず、希釈試薬のpH値が所定範囲外の場合に、試薬調製装置3のCPU44aが希釈試薬の吸引を禁止する吸引禁止信号を測定部51(61)に送信することによって、測定部51(61)の制御部512(612)により、吸引部511(611)による希釈試薬の吸引動作を停止する構成であってもよい。このように構成すれば、pH値(水素イオン指数)が所定範囲外である希釈試薬が測定に用いられるのを容易に防止することができる。
【0090】
また、上記第1実施形態〜第3実施形態では、試薬調製装置の一例として、血液測定に用いられる試薬を調製する試薬調製装置を示したが、本発明はこれに限らず、血液測定以外の他の測定に用いられる試薬を調製する試薬調製装置であってもよい。
【0091】
また、上記第2実施形態では、ユーザからの調製続行指示に基づいてpH値が所定範囲外の希釈試薬を測定部51(61)に供給した場合に、測定装置5(6)において、分析結果の精度を保証することができない旨を分析結果と合わせて表示する構成の例を示したが、本発明はこれに限らず、測定装置5(6)の分析部53(63)により、得られた分析結果をpH値に基づいて補正して、表示部531(631)に補正後の分析結果を表示する構成であってもよい。なお、補正に用いる補正式は、実験などから決定することができる。
【0092】
また、上記第2実施形態では、希釈試薬のpH値が所定範囲外の場合に、試薬調製装置の表示部にpH値が所定範囲外である旨を示す警告画面を表示する構成の例を示したが、本発明はこれに限らず、希釈試薬のpH値が所定範囲外の場合に、試薬調製装置から測定装置に希釈試薬のpH値が所定範囲外である旨の情報を送信し、測定装置の表示部にpH値が所定範囲外である旨を示す警告画面を表示する構成であってもよい。また、この際、測定装置の表示部を介して、ユーザから調製続行指示および廃棄指示を受け付ける構成であってもよい。
【0093】
また、上記第1実施形態〜第3実施形態において、測定装置5(6)の分析部53(63)を通信ネットワーク(インターネットなど)を介してサーバコンピュータに接続するとともに、希釈試薬のpH値が所定範囲外の場合に、試薬調製装置3から希釈試薬のpH値が所定範囲外である旨のpH情報を測定装置5(6)に送信するように構成してもよい。そして、受信したpH情報を通信ネットワークを介してサーバコンピュータに送信するように測定装置5(6)の分析部53(63)を構成する。これにより、希釈試薬のpH情報をサーバコンピュータで一元管理することができる。
【0094】
また、上記第1実施形態および第2実施形態では、pH値(水素イオン指数)の所定範囲を25℃±0.1℃で7.75以上7.85以下(±0.1)とする例を示したが、本発明はこれに限らず、pH値(水素イオン指数)の所定範囲を25℃±0.1℃で7.75以上7.85以下(±0.1)以外の範囲としてもよい。
【0095】
また、上記第1実施形態および第2実施形態では、希釈試薬のpH値が所定範囲外の場合に、希釈試薬の供給を禁止する例を示したが、本発明はこれに限らず、希釈試薬のpH値が所定範囲外の場合に、希釈試薬の供給は禁止せず、測定されたpH値を測定部51(61)に通知し、測定部51(61)が、通知されたpH値を、検体の分析結果と対応付けて記憶してもよい。これにより、血液検体分析装置1の使用者は、分析結果の信頼性が高いか低いかを確認することが可能となり、分析結果の信頼性の向上につながる。
【0096】
また、上記第3実施形態では、pH監視部39は純水定量タンク32内に設けられている例を示したが、本発明はこれに限らず、純水提供装置200(図1参照)が、pH監視部39が設置された純水タンクと、測定されたpH値を試薬調製装置103に送信する送信機とを備え、試薬調製装置103が、純水提供装置200から送信されたpH値を受信する受信機を備え、受信したpH値に応じてCPU44aによって実行される処理を変更する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0097】
1 血液検体分析装置
3 試薬調製装置
5、6 測定装置
32 純水定量タンク
33 純水用定量ポンプ
34 試薬定量タンク
35 高濃度試薬用定量ポンプ
36 希釈部
36a 空圧部
37 攪拌部
38 濃度監視部
39 pH監視部
40 試薬貯留タンク
41 循環ポンプ
42 フィルタ
43 試薬供給タンク
44a CPU
45 表示部
51、61 測定部
300、301、302、303 電磁バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純水および所定の試薬を含む希釈試薬を調製する試薬調製部と、
前記試薬調製部により調製された前記希釈試薬の水素イオン指数を測定する水素イオン指数測定部と、
所定の処理を実行する制御部とを備え、
前記制御部は、前記水素イオン指数測定部により測定された水素イオン指数に基づいて、実行する処理を変更するように構成されている、試薬調製装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記水素イオン指数測定部により測定された水素イオン指数が所定の範囲外の場合に、前記希釈試薬を用いて検体を測定する検体測定部への前記希釈試薬の供給を禁止するように構成されている、請求項1に記載の試薬調製装置。
【請求項3】
前記試薬調製部により調製された前記希釈試薬を廃棄する廃棄部をさらに備え、
前記制御部は、前記希釈試薬を廃棄するように前記廃棄部を制御することによって、前記検体測定部への前記希釈試薬の供給を禁止するように構成されている、請求項2に記載の試薬調製装置。
【請求項4】
前記試薬調製部により調製された前記希釈試薬を前記検体測定部に供給するための流路を開閉する流路開閉部をさらに備え、
前記制御部は、前記流路を閉鎖するように前記流路開閉部を制御することによって、前記検体測定部への前記希釈試薬の供給を禁止するように構成されている、請求項2に記載の試薬調製装置。
【請求項5】
前記試薬調製装置は、前記希釈試薬を前記試薬調製装置から吸引し、検体を測定する検体測定部に接続されており、
前記制御部は、前記水素イオン指数測定部により測定された水素イオン指数が所定の範囲外の場合に、前記希釈試薬の吸引を禁止する吸引禁止指示を前記検体測定部に送信するように構成されている、請求項1に記載の試薬調製装置。
【請求項6】
前記制御部は、供給が禁止された前記希釈試薬の供給を再開させる供給再開指示を受け付け、前記供給再開指示を受け付けると、前記希釈試薬の供給を再開させる処理を実行するように構成されている、請求項2に記載の試薬調製装置。
【請求項7】
表示部をさらに備え、
前記制御部は、前記水素イオン指数測定部により測定された水素イオン指数が所定の範囲外の場合に、前記水素イオン指数が前記所定の範囲外である旨を表示するように前記表示部を制御するように構成されている、請求項1に記載の試薬調製装置。
【請求項8】
前記希釈試薬の温度を測定する温度測定部をさらに備え、
前記温度測定部により測定された前記希釈試薬の温度に基づいて、前記水素イオン指数測定部により測定された水素イオン指数が補正されるように構成されている、請求項1に記載の試薬調製装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記水素イオン指数測定部により測定された水素イオン指数が所定の範囲外の場合に、前記水素イオン指数が前記所定の範囲外である旨を前記希釈試薬を用いて検体を測定する検体測定部に通知するように構成されている、請求項1に記載の試薬調製装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記水素イオン指数測定部により測定された水素イオン指数が所定の範囲外の場合に、前記希釈試薬の調製動作を停止する処理を実行するように構成されている、請求項1に記載の試薬調製装置。
【請求項11】
前記試薬調製部により調製された前記希釈試薬の電気伝導度を測定する電気伝導度測定部をさらに備え、
前記制御部は、前記電気伝導度測定部により測定された電気伝導度が所定の範囲外である前記希釈試薬の、前記希釈試薬を用いて検体を測定する検体測定部への供給を禁止するように構成されている、請求項1に記載の試薬調製装置。
【請求項12】
前記希釈試薬を用いて検体を測定する検体測定部に接続されており、
前記検体測定部は、血液中の血球を測定し、MCV値を取得するように構成されている、請求項1に記載の試薬調製装置。
【請求項13】
純水および所定の試薬を含む希釈試薬を調製する試薬調製部と、
前記試薬調製部により調製された前記希釈試薬を用いて検体を測定する検体測定部と、
前記試薬調製部により調製された前記希釈試薬の水素イオン指数を測定する水素イオン指数測定部と、
所定の処理を実行する制御部とを備え、
前記制御部は、前記水素イオン指数測定部により測定された水素イオン指数に基づいて、実行する処理を変更するように構成されている、検体分析装置。
【請求項14】
前記検体測定部は、前記水素イオン指数測定部により測定された水素イオン指数に基づいて、前記検体測定部により検体を測定して得られた分析結果を補正するように構成されている、請求項13に記載の検体分析装置。
【請求項15】
純水および所定の試薬を含む希釈試薬を調製する試薬調製部と、
前記希釈試薬の調製に用いられる前の純水の水素イオン指数を取得する水素イオン指数取得手段と、
所定の処理を実行する制御部とを備え、
前記制御部は、前記水素イオン指数取得手段により取得された水素イオン指数に基づいて、実行する処理を変更するように構成されている、試薬調製装置。
【請求項16】
前記水素イオン指数取得手段は、前記希釈試薬の調製に用いられる前の純水の水素イオン指数を測定する水素イオン指数測定部を含む、請求項15に記載の試薬調製装置。
【請求項17】
純水および所定の試薬を含む希釈試薬を調製する試薬調製部と、
前記試薬調製部により調製された前記希釈試薬を用いて検体を測定する検体測定部と、
前記希釈試薬の調製に用いられる前の純水の水素イオン指数を測定する水素イオン指数測定部と、
所定の処理を実行する制御部とを備え、
前記制御部は、前記水素イオン指数測定部により測定された水素イオン指数に基づいて、実行する処理を変更するように構成されている、検体分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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