説明

試験試料調製装置

【課題】密閉状態で且つ簡便に前処理を行うことができる試験試料調製装置の提供。
【解決手段】試験試料に対して、溶解、液−液抽出、固−液抽出、ろ過、分液、吸着及び反応のうちから選択される1以上の分離抽出工程により被検物質を分離抽出する1以上の分離精製工程に必要な数の単位容器を用い、単位容器間で試験試料を遣り取りしながら順次行う試験試料調製装置であって、第1容器本体部20と第2容器本体部23との間で試験試料を遣り取りするために、連通状態及び遮断状態の間で両者の間を切り替える装置である。密閉状態(a)から連通切り替え部材26を(b)の位置まで移動させることで、閉塞部材21及び24を取り除き且つ両者の間を連通孔261により連通する。その後、両者を再び密閉状態に戻すために、連通切り替え部材26を(c)の位置にまで移動させることでシール部材29により端面部材22及び25に設けられた端面部材連通孔を塞ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験試料から被検物質を分離抽出する試験試料調製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、ある特定物質の存在の有無や、その含有量を判別するための手法としては、クロマトグラフィーや質量分析などを測定原理とする機器分析と呼ばれる手法が主流である。
【0003】
これらの機器分析では、複数の物質の原子・分子レベルでの識別も可能であり、分析機器を用いない他の分析法と比べて非常に高感度であることが知られている。
【0004】
しかし、高感度であるということは、分析試料中に含まれる測定対象物質以外の物質、すなわち夾雑物も高感度で検出してしまう可能性もある。夾雑物が検出されると、場合によっては分析が行えないなどの悪影響が見られ、分析結果の信頼性が著しく低下する。そのため、測定試料中の夾雑物除去は正確な分析のために非常に重要である。
【0005】
河川水・土壌・食品などのさまざまな物質を含む分析試料中に含まれる測定対象物質を分析する必要がある場合、機器分析では分析前に、分析試料中から測定対象物質を優先的に抽出・精製する前処理と呼ばれる工程を行うことが主流である。これら前処理には分析試料の溶解、液−液抽出、固−液抽出、遠心分離、ゲル電気泳動、蒸留、カラムクロマトグラフィー、溶媒の気化による濃縮などの多種多様な操作を複数組み合わせることが多い。
【0006】
また、昨今では抗原抗体反応などの生体分子または生物体を使用したバイオアッセイと呼ばれる手法も普及し始めている。これらの手法は一般的には抗体の物質識別能の高さを生かし、測定物質を特異的に検出できる手法として知られている。そのため、夾雑物の影響は少ないとされている。 しかしながら、土壌中の重金属、キレート化物質など分析試料中に含まれる物質の種類によっては分析結果の信頼性が著しく低下することがある。そのため、バイオアッセイであっても機器分析に類似した前処理を行う必要が生じる場合もある。
【0007】
このように、分析試料から測定物質を抽出・精製する前処理は、多様な分析法において必要性が高い重要な作業である。
【0008】
例えば、PCB汚染物質の測定を例に挙げて説明すると、非特許文献1(P.16〜)にあるように、一般的には、濃縮、カラムクロマトグラフィ、酸性処理、ヘキサン抽出という作業を繰り返すという高度な研究レベルの手法により精製を行う。結果として、これらの公定法では80%以上の抽出率と高い再現性が得られることが最大のポイントである。
【非特許文献1】低濃度PCB汚染物に関する測定法調査中間報告書、平成17年5月、低濃度PCB汚染物質対策検討委員会測定法ワーキンググループ
【非特許文献2】「絶縁油中のポリ塩素化ビフェニル(PCB)の分析方法規程」、JEAC 1201-1991、(社)日本電気協会
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
技術背景で述べたが、分析試料から測定物質を抽出・精製する前処理は、多様な分析法において必要性が高い重要な作業である。これら前処理には分析試料の溶解、液−液抽出、固−液抽出、遠心分離、ゲル電気泳動、蒸留、カラムクロマトグラフィー、溶媒の気化による濃縮などの多種多様な操作を複数組み合わせることが多い。これは一例に過ぎないが、汎用されている分液ロートを用いた液−液抽出を例に挙げると、二種の液体を混合した後、分離した二液間の界面を目視で確認し、一方の溶液のみを三角フラスコに手作業で回収するという換作を行う。
【0010】
分液ロートはすりあわせで蓋をしているだけのガラス器具であり、操作中の液漏れなどにより操作者が化学薬品に暴露する可能性が高い。また、三角フラスコなどの上部開放型のガラス容器を使用する機会も多く、化学薬品の種類によっては揮発による暴露の可能性も高い。また、ガラス器具を洗浄して再使用することが主流であることから、洗浄の際に化学薬品に曝露する可能性もある。ガラス器具であることから、破損による曝露の危険性も高い。
【0011】
また、前処理は分析試料および測定対象物質ごとに方法が異なるため、方法が多岐にわたる。そのため、ルーチンワーク化しにくいため自動分析装置等を用いることも困難であるケースも多く、操作者の人為ミス等が発生しやすいことも問題となっている。
【0012】
さらに、分液ロートでの作業例のように、作業者の視力、判断基準、操作の俊敏さなどに依存する操作が多く、作業者ごとに分析結果がバラつくという人為的な分析精度低下の原因となっている。
【0013】
例えば、非特許文献2にあるように、前処理工程としては、シリカゲルカラムによる精製や分液ロートを使った液抽出が多く用いられており、これらの工程は、手先の器用さ、俊敏さ、視力、判断力など作業者に高度な専門技術を要する。従って、作業者により測定結果がばらつくという問題点があり、分析の普及を妨げている。
【0014】
本発明では上記実情に鑑み完成されたものであり、複雑な前処理が必要な分析方法において、密閉状態で且つ簡便に前処理を行うことができる試験試料調製装置を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0015】
上記課題を解決する本発明の試験試料調製装置は、固体状乃至液状の試験試料に対して、溶解、液−液抽出、固−液抽出、ろ過、分液、吸着及び反応のうちから選択される1以上の分離抽出工程により被検物質を分離抽出する試験試料調製装置である。これらの分離抽出工程を行うに当たり、1以上の分離精製工程に必要な数の単位容器を用い、該単位容器間で該試験試料を遣り取りしながら順次行うものである。つまり、試験試料は単位容器間を順次移動することで前処理を進行する。単位容器内には行う分離抽出工程に対応した分離抽出部材を内部空間に有することが可能であり、効率的な分離抽出工程が実現できる。
【0016】
ここで、前記単位容器は、容器本体部と連通路形成部材とを備え、
該容器本体部は前記試験試料を収容可能に区画された内部空間をもち、
該連通路形成部材は、該容器本体部に連結し且つ他の単位容器が備える該連通路形成部材に密閉状態で接続できる接続部と、密閉状態で接続した状態で自身の前記容器本体部の内部空間と接続した相手の該容器本体部の内部空間との間で連通状態及び遮断状態の切り替え可能で且つ該連通状態で該試験試料を遣り取りできる切替部とをもつ、
ことを特徴とする。
【0017】
つまり、試験試料に対する前処理をすべて密閉状態で行うために、試験試料を移動させていく単位容器間において、2つの単位容器を密閉状態で接続した後、内部を連通させるようにすることで、前処理時に添加する種々の部材(例えば、溶解・抽出を行う溶媒など)を外部から遮断したまま、一方の容器から他方の容器に移動させることが可能になる。また、密閉状態を保ったまま両者の間の連通を遮断して両者を分離できるようにしたことで、次の前処理工程にも密閉状態のまま、移行することができる。密閉状態にて前処理を完了できるので、PCB汚染物質の測定など、試験試料が有害物質にて汚染されているような場合でも安全に測定を行うことができる。
【0018】
ここで、組み合わされる単位容器は同じ物を採用することもできると共に、前記複数の単位容器のうちの少なくとも一部は、残余の該単位容器と異なった構造を有することもできる。同じ物を採用するか異なるものを採用するかは、そこで行われる分離抽出工程に応じて適正に選択できる。
【0019】
例えば、単位容器としては、順次、試験試料や分離抽出部材を移動させる際に実際に接続を行う単位容器の連通路形成部材間で接続が実現できればその他の部分(例えば容器本体部の形状・大きさ・内部に配置された分離抽出部材の種類、連通路形成部材の構造(互いに接続できるが同じ構造ではない物)・大きさ)の構成は特に限定しない。その他、前記容器本体部又は前記連通路形成部材に連結し且つ外部と連通する空気弁を有することもできる。ここで、前記容器本体部は内壁に凹凸部をもつことで、撹拌効果の向上が期待できるので望ましい。
【0020】
ここで、前記分離抽出工程が溶解工程である場合の前記分離抽出部材としては溶解液が例示される。また、前記分離抽出工程が液−液抽出工程及び/又は固−液抽出工程である場合の前記分離抽出部材は抽出液が例示される。そして、前記分離抽出工程がろ過工程である場合の前記分離抽出部材はろ過部材が例示できる。
【0021】
そして、前記分離抽出工程が分液工程である場合の前記分離抽出部材は、先端が分液する2液の界面近傍に位置する管状部材と、該管状部材から前記試験試料の上層部分を吸引する吸引手段とを備えることが例示される。また、前記分離抽出工程が分液工程である場合の前記分離抽出部材は、分液する2液の下層が一方の容器から他方の容器に移動した場合の液面に先端が位置し内部にコックを持つ管状部材であるものが例示される。
【0022】
また、前記分離抽出工程が分液工程である場合の前記分離抽出部材は、分液する2液の親水性及び/又は親油性の程度の差を利用して選択的なろ過を行う、表面の親水性及び/又は親油性が制御されたろ過部材が例示される。更に、前記分離抽出工程が吸着工程である場合の前記分離抽出部材は吸着部材が例示される。
【0023】
互いに接続可能な連通路形成部材の組の具体例を挙げると、
(1)端面に偏心して設けられた円筒部材連通孔をもつ円筒部材と、該円筒部材の該端面と略同形状であって同程度の偏心をもって設けられた回動部材連通孔をもち、該端面に密着した状態で且つ前記円筒部材連通孔及び前記回動部材連通孔が一致する位置とずれる位置との間で回動可能に配設されている回動部材とを備え、
互いの円筒部材連通孔の位置を合わせ且つ回動部材を接触させて接続し、それぞれの回動部材を合わせて回動させることで連通状態と遮蔽状態との切り替えを行う部材。
【0024】
(2)互いに接続される1組の前記連通路形成部材のうち、
一方の該連通路形成部材は、端面に設けられた円筒部材連通孔をもつ円筒部材と、該円筒部材連通孔を閉塞できる閉塞部材と、該閉塞部材を該円筒部材の内部から該円筒部材連通孔に向けて付勢する付勢手段とを備え、
他方の該連通路形成部材は、一方の該連通路形成部材に接続するときに、一方の該連通路形成部材の前記閉塞部材を前記円筒部材内部に移動させる閉塞部材移動手段を備える部材。
【0025】
(3)互いに接続された1組の前記連通路形成部材は、互いに対向する端面に設けられた端面部材連通孔をもつ2つの端面部材と、該端面部材の間であって該端面部材の該端面に沿って移動可能に介設され、且つ、該2つの端面部材の該端面部材連通孔の間を連通させる連通孔が形成された連通切り替え部材と、該連通切り替え部材の移動に追随し、該2つの端面部材の間から該連通切り替え部材を引き抜いたときに該端面部材連通孔に密着して閉塞する薄膜状のシール部材と、を備える部材。
【0026】
(4)互いに接続される1組の前記連通路形成部材のうち、
一方の該連通路形成部材は、弾性材料により端面に形成された密着部材を備え、
他方の該連通路形成部材は、一方の該連通路形成部材の該密着部材を突き刺して、連通状態にする管である針状部材を備える部材が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の試験試料調製装置について、以下、詳細に説明を行う。本実施形態の試験試料調製装置は試験試料中に含まれる被検物質について複数の工程にて分離抽出する場合に用いられる装置である。例えば、PCB汚染物質の測定における試験試料の前処理に好適に用いることができる。
【0028】
試験試料としては、固体状、液状を問わず対象にできる。また、液体中に固体が分散した懸濁液やスラリーについても対象にすることができる。試験試料に対する前処理としては、溶解、液−液抽出、固−液抽出、ろ過、分液、吸着及び反応のうちから選択される1以上の工程に適用することができる。前処理は最終的に試験試料中から測定対象である被検物質を分離抽出する工程であり、その際に、測定に影響を与える不純物を混入しないようにするものである。
【0029】
分離抽出工程のうち、溶解は固体状、懸濁液、スラリーなどを溶解液に溶解させて均質な溶液にする工程である。液−液抽出は液状若しくは溶解液に溶解させた試験試料から液体により被検物質を抽出する工程である。液状の試験試料とは混合しない液体である抽出液を混合し、被検物質を抽出液中に移行させた後に、抽出液を分離することで、目的とする被検物質を分離できる。反対に不純物のみを溶解する抽出液を用いて試験試料から不純物を除去する工程として採用することもできる。固−液抽出は固体である試験試料から被検物質を分離抽出する他、不純物を分離除去する工程として採用することも可能である。
【0030】
ろ過は液体状乃至は溶液状の試験試料から不純物である固体を分離除去したり、被検物質を含む固体を分離抽出する工程である。分液は液−液抽出などの工程で採用した2つの混合しない溶媒を分離する工程である。吸着は液状の試験試料から不純物を吸着して除去したり、被検物質を吸着により分離抽出する工程である。被検物質を吸着により分離抽出する場合には吸着させた後に、何らかの抽出溶媒(溶出溶媒)により被検物質を溶出させる。反応は試験試料に対して前処理を行うにあたって、試験試料中に液体や固体などの反応試薬を新たに添加する場合である。
【0031】
分離抽出工程は、これらの工程を1つ又は2以上組み合わせて用いることで、試験試料から被検物質を分離抽出し、分析に影響を与えない程度まで不純物の含有量を低減させる工程である。この組み合わせとしては被検物質により大きく異なるので特に限定できない。
【0032】
本実施形態の試験試料調製装置では、これらの分離抽出工程を行うに当たり、単位容器を複数個組み合わせて行う。用いられる複数個の単位容器は全て同じものであっても良いし、異なるものであっても良い。それぞれの単位容器内で行われる分離抽出工程は、それぞれ異なることが多いと考えられるので、複数の単位容器は全て同じものではない場合も考えられる。
【0033】
単位容器は、容器本体部と連通路形成部材と必要に応じて有するその他の構成要素とをもつ。容器本体部は試験試料などを収容可能に区画された内部空間をもち、分離抽出工程を行う場所である。分離抽出工程は複数の単位容器内で試験試料を順次移動させることで行うことができるほか、他の単位容器と1つの単位容器との間で、分離抽出に用いる部材(分離抽出部材)を遣り取りさせることで1つの単位容器内で完結させることもできる。つまり、それぞれの工程が適用された後、試験試料がどの単位容器に移動するかは特に限定しない。
【0034】
容器本体部の大きさ・内容量は対象となる試験試料の量や操作のし易さなどにより適正に決定できる。容器本体部の内壁には撹拌効果を向上する目的で凹凸部をもつことができる。更に、内部の液体の流出を制御するために、空気(抜き)弁や加圧手段、減圧手段を接続しても良い。加圧手段や減圧手段としてはシリンジのように、筒状部材と、その内部を移動するピストンとの組み合わせや、スポイトなどで採用される弾性体から形成されるゴム袋などが採用できる。
【0035】
容器本体部には外部から試験試料を導入する導入路である試験試料導入路を設けることができる。試験試料が固体や液体である場合には一般的な蓋などが採用でき、液体である場合には更に弾性体から構成される膜なども採用できる。蓋は嵌め外しにより開口部を形成し、その開口部から試験試料を導入するものである。弾性体からなる膜は、シリンジなどを用い、注射針などを突き刺して内部に試験試料を導入する経路になるものである。
【0036】
連通路形成部材は接続部と切替部とをもつ。接続部は容器本体部に連結し且つ他の単位容器が備える連通路形成部材に密閉状態で接続できる部材である。切替部は密閉状態で接続した状態で自身の容器本体部の内部空間と接続した相手の容器本体部の内部空間との間で連通状態及び遮断状態の切り替え可能で且つ連通状態で試験試料を遣り取りできる部材である。それぞれの単位容器内の間で連通状態になることで、必要な分離抽出部材や試験試料の遣り取りを行うことができる。
【0037】
接続部はそれぞれの単位容器における容器本体部に設けた開口部にて行う。この開口部の間を密閉状態で接続する。切替部はこの開口部を開閉できる手段である。従って、接続部と切替部とは互いに関連性が高い部材であり、その構成も密接に関係している。
【0038】
ここで、切替部は2つの単位容器を分離した場合でも、両者それぞれの密閉性(特に試験試料が移る側の容器や有害物質が存在する側の容器における密閉性)を確保できることが望ましい。
【0039】
具体的な連通路形成部材の構成について説明を行う。連通路形成部材は2つを組み合わせて接続する物であるので、以下、2つ1組にて説明を行う。以下、一方を第1単位容器と称し、他方を第2単位容器と便宜的に称する。第1(第2)単位容器は第1(第2)容器本体部と第1(第2)連通路形成部材とをもつ。
【0040】
(1)2つの連通路形成部材の間を接続する構造としては、円筒部材と回動部材とを備えるものが挙げらる。この構造は、図1に示すように、第1連通路形成部材の円筒部材10と回動部材11との間、そして、第2連通路形成部材の円筒部材13と回動部材12との間はそれぞれ回動自在に配設されている。
【0041】
第1連通路形成部材における円筒部材10は端面に円筒部材連通孔101と端面から突出する回動規制ピン102が形成されている。円筒部材連通孔101は円筒部材10の端面において偏心して形成されている。円筒部材10の端面には回動部材11が回動自在に設けられている。回動部材11は回動部材連通孔111と円筒部材10の反対方向に突出する回動規制ピン112と回動規制溝113とをもつ。円筒部材10の回動規制ピン102は回動部材11の回動規制溝113内に挿入されて、図2(a)に示すように、(a−1)と(a−2)との間で回動範囲を規制している。(a−1)の位置は円筒部材10の円筒部材連通孔101と回動部材連通孔111との間がずれて遮断状態になっている。(a−2)の位置は(a−1)の位置から反時計回りに90°回転した状態で、円筒部材10の円筒部材連通孔101と回動部材連通孔111との間が一致して連通状態になっている。
【0042】
第2連通路形成部材における円筒部材13は端面に円筒部材連通孔131と回動規制溝132が形成されている。円筒部材13の端面には回動部材12が回動自在に設けられている。回動部材12は回動部材連通孔121と円筒部材13側に突出する回動規制ピン122と回動規制溝123とをもつ。回動部材12の回動規制ピン122は円筒部材13の回動規制溝132内に挿入されて、図2(c)に示すように、(c−1)と(c−2)との間で回動範囲を規制している。(c−1)の位置は円筒部材13の円筒部材連通孔131と回動部材連通孔121との間がずれて遮断状態になっている。(c−2)の位置は(c−1)の位置から反時計回りに90°回転した状態で、円筒部材13の円筒部材連通孔131と回動部材連通孔121との間が一致して連通状態になっている。
【0043】
第1連通路形成部材における回動部材11と第2連通路形成部材における回動部材12との間で重ね合わせることで、第1容器と第2容器との間の接続が行われる。第1連通路形成部材の回動部材11における回動規制ピン112は第2連通路形成部材における回動規制溝123内に挿入されて、図2(b)に示すように、(b−1)と(b−2)との間で回動範囲を規制している。(b−1)の位置は回動部材連通孔111と回動部材連通孔121との間がずれて遮断状態になっている。(b−2)の位置は(b−1)の位置から反時計回りに90°回転した状態で、回動部材連通孔111と回動部材連通孔121との間が一致して連通状態になっている。
【0044】
従って、全体としては、第1連通路形成部材における円筒部材連通孔101及び回動部材連通孔111、第2連通路形成部材における回動部材連通孔121及び円筒部材連通孔131の間がすべて一致する(a−2)、(b−2)及び(c−2)の状態(第2の状態)から、時計回りに360°回動させることで、すべての連通孔101、111、121及び131の間がすべてずれている(a−1)、(b−1)、そして(c−1)の状態(第1の状態)にまで変化させることができる。
【0045】
従って、遮断状態である第1の状態で、第1容器の第1連通路形成部材と第2容器の第2連通路形成部材との間を接続した上で、第2の状態にまで両者を回動させることで第1容器内と第2容器内とが連通した連通状態にさせて、分離抽出工程に必要な分離抽出部材の遣り取りを行った後、反対側に回動させることで第1の状態にして再度、遮断状態にすることが可能になる。
【0046】
更に、円筒部材の端面や回動部材の表面には、汚染防止のためにワイパー(図略)を設けることもできる。ワイパーはそれぞれの表面であって半径方向に延びる線状の突起として設けることができる。円筒部材の端面及び回動部材、又は、回動部材同士の間にこの突起を設けることで、それぞれの間を回動させる際に突起が接する相手側の表面に残存する液体などを拭き取ることができる。
【0047】
・また、第2連通路形成部材としては、上記構成に代えて、図3に示す構成を採用することができる。まず、第1連通路形成部材における円筒部材の端面10’に円筒部材連通孔101’が設けられ、更に、回動部材連通孔111’が設けられた回動部材11’がその端面10’に回動自在に設けられている点では上記構成と同じである。
【0048】
また、第2連通路形成部材における円筒部材の端面13’にも円筒部材連通孔131’が設けられ、更に、回動部材連通孔121’が設けられた回動部材12’がその端面13’に回動自在に設けられている点でも上記構成と同じである。
【0049】
これら第1連通路形成部材と第2連通路形成部材とを突き合わせて接続する。両者の接続は円筒部材の端面10’における円筒部材連通孔101’の位置と円筒部材の端面13’における円筒部材連通孔131’の位置とを合わせると共に、回動部材11’における回動部材連通孔111’の位置と回動部材12’における回動部材連通孔121’の位置とについても合わせるように接続する。
【0050】
そうすると、回動部材11’及び12’のそれぞれに設けた回動爪114’及び124’の位置も合うことになる。この回動爪114’及び124’を使って回動部材11’及び12’を回動させ、円筒部材連通孔101’、回動部材連通孔111’、回動部材連通孔121’及び円筒部材連通孔131’の位置を一致させることで、第1容器と第2容器との間を連通状態にすることができる。
【0051】
更に、回動爪114’及び124’を使って回動部材11’及び12’を回動させ、円筒部材連通孔101’、回動部材連通孔111’、回動部材連通孔121’及び円筒部材連通孔131’の位置をずらすことで、第1容器と第2容器との間を遮断状態にすることができる。
【0052】
・更に、第2連通路形成部材としては、上記構成に代えて、図4に示す構成を採用することができる。図4は、第1容器と第2容器とを組み合わせた状態を示している。第1容器本体部20と第2容器本体部23とは端面部材22と端面部材25とを所定間隔を介して対向するように配設している。
【0053】
端面部材22及び25はそれぞれ端面部材連通孔をもち、その連通孔は閉塞部材21及び24にて閉塞されている。端面部材22及び25の間には連通切り替え部材26を介装している。連通切り替え部材26は連通孔261をもつ。連通切り替え部材26は端面部材22及び25の間で端面に沿って(図面左方から右方)移動可能である。
【0054】
連通切り替え部材26を移動すると、まず閉塞部材21及び24が連通切り替え部材26により取り外される。そして、連通切り替え部材26の連通孔261が端面部材22及び24の端面部材連通孔と一致することで、第1容器本体部20及び第2容器本体部23の間を連通状態にする(図4(b))。
【0055】
その後、更に連通切り替え部材26を移動させると、連通孔261の位置が端面部材連通孔の位置からずれて、第1容器本体部20及び第2容器本体部23の間が遮断状態になる。ここで、連通切り替え部材26の移動する方向に対して反対側の端部にはシール部材29が接続されている。シール部材29は収納部28に収納されており、連通切り替え部材26を移動させると、連通切り替え部材26に連られて端面部材22及び25の端面を覆うように引き延ばされ、最終的には端面部材22及び24の端面を覆って、それぞれの端面部材連通孔を閉塞することになる。
【0056】
・そして、図5に示すように、第1容器本体部30と第1連通路形成部材としての連結部位31とをもつ第1容器と、第2容器本体部32と閉塞部材33とバネ34と基台35とをもつ第2容器との組み合わせが挙げられる。連結部位31は第1容器本体部30の底に設けられた管状の部材で図面には示さないが、内部に切り替えコックを有し、第1容器本体部30内の液体の流通を制御している。
【0057】
第2容器本体部32は上面に連結孔321を有する。この連結孔321を閉塞する閉塞部材33は基台35上に一端部が固定バネ34の他端部に固定されており、常に連結孔321側に付勢されている。
【0058】
従って、通常は第2容器の連結孔321は閉塞した状態になっており、密閉状態が保たれる。そして、第2容器の上方から第1容器を接近させると、連結部位31により閉塞部材33が第2容器本体部32の内部に押し入れられて連結孔321が開口する。その結果、第1容器本体部30と第2容器本体部32との間は連通状態になり、連結部位31にも受けられた切り替えコックの操作によって第1容器本体部30内の液体は第2容器本体部32内に移動することができる。
【0059】
・その他にも、弾性体を用いて第1容器本体部と第2容器本体部との間を区画した上で、弾性体を外部から変形させることで第1容器本体部及び第2容器本体部の間を連通状態とすることもできる。この場合に、弾性体には切り欠きなどの隙間を形成する。この隙間は弾性体が変形していない場合には、密着して第1容器本体部及び第2容器本体部の間を遮断状態とし、弾性体を変形した場合には隙間が大きくなって両者の間を連通状態にするものである。
【0060】
また、第1容器本体部又は第2容器本体部のうちの少なくとも一方であって、第1容器本体部又は第2容器本体部のうちの他方に接する壁を部分を弾性体で形成した上で、他方の接する部分に注射針のような管状の針状部材を設けることもできる。両者の間を接近させる前は弾性体で壁を形成した側の容器は密閉状態が保たれている。その後、針状部材を設けた容器を接近させて、針状部材を弾性体に突き刺すことで、両者の容器の間を連通状態にすることができる。その後、両者を引き離すことで、針状部材は弾性体から引き抜かれる。弾性体は自身の弾性により針状部材が突き刺さった孔を塞ぎ、再び密閉状態になる。
【0061】
分離抽出部材は対応する分離抽出工程に応じて選択される。例えば、分離抽出工程が溶解工程である場合の分離抽出部材は溶解液である。また、分離抽出工程が液−液抽出工程及び/又は固−液抽出工程である場合の分離抽出部材は抽出液である。そして、分離抽出工程がろ過工程である場合の前記分離抽出部材はろ過部材である。
【0062】
また、分離抽出工程が分液工程である場合の分離抽出部材は、(i)先端が分液する2液の界面近傍に位置する管状部材と、その管状部材から2液の上層部分を吸引する吸引手段とを備えることができる。また、(ii)分液する2液の下層が一方の容器から他方の容器に移動した場合の液面に先端が位置し内部にコックを持つ管状部材が採用できる。更に、(iii)分液する2液の親水性及び/又は親油性の程度の差を利用して選択的なろ過を行う、表面の親水性及び/又は親油性が制御されたろ過部材が採用できる。
【0063】
(i)の部材は下側にある容器から上側にある容器に向けて液体を吸い取るものである。具体的には、先端部が分液すべき2液の界面近傍にあることで、吸い込むことができる液体は2液の上層部分に限定される。
【0064】
(ii)の部材は(i)とは反対に上側にある容器から下側にある容器に向けて液体を移動させるものである。具体的には、上側の容器と下側の容器とを連通する流路の下側の容器における先端が、2液の下層が一方(上側)の容器から他方(下側)の容器に移動した場合の液面の位置に設定していることで、2液の下層がすべて下側に移動した後はそれ以上液体が下側の容器に移動することができなくなる。(i)及び(ii)の両部材とも2つの容器を連通する流路にはコックなどを設けることが望ましい。なお、下側の容器から上側の容器に上層部分を吸い出す部材である(i)の部材は上層部分を確実に分離することを望む場合に好適であり、反対に下方向に下層の液体を流出させる(ii)の部材は下層部分を確実に分離することを望む場合に好適である。
【0065】
(iii)の部材は分液すべき2液の親水性及び/又は親油性が異なる場合に適用できる部材である。例えば親水性の液体と親油性の液体との混合物から親水性(親油性)の液体を分離する場合には表面を親水化(親油化)したフィルターによりろ過することで、親水性(親油性)の液体だけをろ過分離することができる。
【0066】
分離抽出工程が吸着工程である場合の分離抽出部材は吸着部材である。例えば、親水性の液体と親油性の液体とが混合されている試験試料から親油性の液体を吸着する工程の場合に、吸着剤としてウレタンやポリオレフィン製の多孔質材料を採用することで、その多孔質により親油性の液体を吸着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】連通路形成部材の一例を示した概略説明図である。
【図2】連通路形成部材の一例を示した概略説明図である。
【図3】連通路形成部材の一例を示した概略説明図である。
【図4】連通路形成部材の一例を示した概略説明図である。
【図5】連通路形成部材の一例を示した概略説明図である。
【符号の説明】
【0068】
10、10’、13、13’…円筒部材
101、131、101’、131’…円筒部材連通孔
11、11’、12、12’…回動部材
111、111’、121、121’…回動部材連通孔
114’、124’…回動爪
102、112、122…回動規制ピン
113、123、132…回動規制溝
20…第1容器本体部 21、24…閉塞部材 22、25…端面部材 23…第2容器本体部 26…連通切り替え部材 261…連通孔 29…シール部材
30…第1容器本体部 31…連結部位 32…第2容器本体部 33…閉塞部材 34…バネ 35…基台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体状乃至液状の試験試料に対して、溶解、液−液抽出、固−液抽出、ろ過、分液、吸着及び反応のうちから選択される1以上の分離抽出工程により被検物質を分離抽出する1以上の分離精製工程に必要な数の単位容器を用い、該単位容器間で該試験試料を遣り取りしながら順次行う試験試料調製装置であって、
前記単位容器は、容器本体部と連通路形成部材とを備え、
該容器本体部は前記試験試料を収容可能に区画された内部空間をもち、
該連通路形成部材は、該容器本体部に連結し且つ他の単位容器が備える該連通路形成部材に密閉状態で接続できる接続部と、密閉状態で接続した状態で自身の前記容器本体部の内部空間と接続した相手の該容器本体部の内部空間との間で連通状態及び遮断状態の切り替え可能で且つ該連通状態で該試験試料を遣り取りできる切替部とをもつ、
ことを特徴とする試験試料調製装置。
【請求項2】
前記分離抽出工程に用い且つ前記本体部の内部空間内に配設される分離抽出部材を有する請求項1に記載の試験試料調製装置。
【請求項3】
前記容器本体部若しくは前記連通路形成部材に連結し且つ外部と連通する空気弁を有するか、又は、前記容器本体部は内壁に凹凸部をもつ請求項1又は2に記載の試験試料調製装置。
【請求項4】
前記分離抽出部材は、
前記分離抽出工程が溶解工程である場合は溶解液であり、
前記分離抽出工程が液−液抽出工程及び/又は固−液抽出工程である場合は抽出液であり、
前記分離抽出工程がろ過工程である場合はろ過部材である請求項1〜3のいずれかに記載の試験試料調製装置。
【請求項5】
前記分離抽出工程が分液工程である場合の前記分離抽出部材は、
先端が分液する2液の界面近傍に位置する管状部材と、該管状部材から前記試験試料の上層部分を吸引する吸引手段とを備えるか、又は、
分液する2液の下層が一方の容器から他方の容器に移動した場合の液面に先端が位置し内部にコックを持つ管状部材を備える請求項1〜4のいずれかに記載の試験試料調製装置。
【請求項6】
前記分離抽出工程が分液工程である場合の前記分離抽出部材は、分液する2液の親水性及び/又は親油性の程度の差を利用して選択的なろ過を行う、表面の親水性及び/又は親油性が制御されたろ過部材である請求項1〜5のいずれかに記載の試験試料調製装置。
【請求項7】
前記分離抽出工程が吸着工程である場合の前記分離抽出部材は吸着部材である請求項1〜6のいずれかに記載の試験試料調製装置。
【請求項8】
前記連通路形成部材は、
端面に偏心して設けられた円筒部材連通孔をもつ円筒部材と、該円筒部材の該端面と略同形状であって同程度の偏心をもって設けられた回動部材連通孔をもち、該端面に密着した状態で且つ前記円筒部材連通孔及び前記回動部材連通孔が一致する位置とずれる位置との間で回動可能に配設されている回動部材とを備え、
互いの円筒部材連通孔の位置を合わせ且つ回動部材を接触させて接続し、それぞれの回動部材を合わせて回動させることで連通状態と遮蔽状態との切り替えを行う請求項1〜7のいずれかに記載の試験試料調製装置。
【請求項9】
互いに接続される1組の前記連通路形成部材のうち、
一方の該連通路形成部材は、端面に設けられた円筒部材連通孔をもつ円筒部材と、該円筒部材連通孔を閉塞できる閉塞部材と、該閉塞部材を該円筒部材の内部から該円筒部材連通孔に向けて付勢する付勢手段とを備え、
他方の該連通路形成部材は、一方の該連通路形成部材に接続するときに、一方の該連通路形成部材の前記閉塞部材を前記円筒部材内部に移動させる閉塞部材移動手段を備える請求項1〜7のいずれかに記載の試験試料調製装置。
【請求項10】
互いに接続された1組の前記連通路形成部材は、互いに対向する端面に設けられた端面部材連通孔をもつ2つの端面部材と、該端面部材の間であって該端面部材の該端面に沿って移動可能に介設され、且つ、該2つの端面部材の該端面部材連通孔の間を連通させる連通孔が形成された連通切り替え部材と、該連通切り替え部材の移動に追随し、該2つの端面部材の間から該連通切り替え部材を引き抜いたときに該端面部材連通孔に密着して閉塞する薄膜状のシール部材と、を備える請求項1〜7のいずれかに記載の試験試料調製装置。
【請求項11】
互いに接続される1組の前記連通路形成部材のうち、
一方の該連通路形成部材は、弾性材料により端面に形成された密着部材を備え、
他方の該連通路形成部材は、一方の該連通路形成部材の該密着部材を突き刺して、連通状態にする管である針状部材を備える請求項1〜7のいずれかに記載の試験試料調製装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate