説明

詰め綿、その製造方法及びこれを用いた製品

【課題】フィラメント繊維を花糸に使用してループ状に固定することにより、嵩高性を発現させ、かつ嵩耐久性のある詰め綿とその製造方法及びこれを用いた詰め綿製品を提供する。
【解決手段】本発明の詰め綿は、複数のループ状繊維(14)を芯糸(12a,12b)で撚り、かつ一体化した詰め綿であって、ループ状繊維(14)はマルチフィラメント繊維であって、かつ開繊されており、前記芯糸(12a,12b)は融点が異なる少なくとも2種類の糸で構成され、熱融着して前記ループ状繊維(14)を一体化している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラメント繊維をループ状に固定した詰め綿とその製造方法及びこれを用いた製品に関する。
【背景技術】
【0002】
羽毛布団、羽毛ジャケットなどの羽毛製品に充填される羽毛は、一般的には水鳥の羽毛が使用されている。水鳥としてはグース(ガチョウ)、ダック(アヒル)、北極圏の海岸線に生息するアイダー(野生の鴨)などである。羽毛には、胸毛にあたるダウンと、羽根と呼ばれるフェザーがあり、ともに羽毛製品に使われている。羽毛の産地はポーランド、ハンガリーなどの中欧、スカンジナビア半島を含む北欧、中国などである。羽毛は、嵩高性に優れ、暖かく、掛け布団や羽毛ジャケットの羽毛製品として高級素材の地位を占めている。
【0003】
しかし、天然の羽毛は水鳥に依存しており、その供給量には限度がある上、自然条件や厄病(例えば鳥ウィルス)の影響によって供給量も変動するという問題がある。あるいは自然保護の観点から、野生の鳥を補足することには限度がある。その上、天然の羽毛は、洗いが不充分であると悪臭の原因となるため、事前に悪臭の原因となる汚物を除去し、羽毛の洗浄の程度を見る清浄度と酸素計数を一定のレベルに保つ管理が必要である。加えて、羽毛布団、羽毛ジャケットなどの羽毛製品の洗濯は容易ではないという問題がある。
【0004】
そこで、従来から詰め綿は多くの提案がある。特許文献1には短繊維をループ状に屈曲させ、集中点を固着することが提案されている。特許文献2にはエアーノズルを用いて芯繊維とループ繊維とを空気交絡させた後に融着することが提案されている。特許文献3にはポリエステル繊維を加熱処理により収縮させて捲縮を発現させ、嵩高と弾力性を持たせることが提案されている。特許文献4には無撚の短繊維を低融点繊維で結束し、融着させることが提案されている。
【0005】
しかし、特許文献1,4のように短繊維を花糸に使用した例では、嵩はへたり易く、嵩の耐久性に問題があった。また、特許文献2のように、単に空気交絡をさせ融着する方法では十分な嵩高性が得られなかった。特許文献3のように繊維自体の捲縮だけで嵩高性を発現させた例でも、やはり嵩はへたり易く、嵩の耐久性に問題があった。そのため、現在に至るまで実用化されているのはカード開繊綿であるという問題があった。
【特許文献1】特開昭55−158366号公報
【特許文献2】特開昭58−146385号公報
【特許文献3】特開平6−93513号公報
【特許文献4】WO2006/104010A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、フィラメント繊維を花糸に使用してループ状に固定することにより、嵩高性を発現させ、かつ嵩耐久性のある詰め綿とその製造方法及びこれを用いた製品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の詰め綿は、複数のループ状繊維を芯糸で一体化した詰め綿であって、前記ループ状繊維はマルチフィラメント繊維で構成され、かつ開繊されており、前記芯糸は、融点が異なる少なくとも2種類の糸で構成され、熱融着して前記ループ状繊維を一体化していることを特徴とする。
【0008】
本発明の別の詰め綿は、複数のループ状繊維を芯糸で一体化した詰め綿であって、前記ループ状繊維はマルチフィラメント繊維で構成され、かつ開繊されており、前記芯糸は、融点が異なる2以上のポリマーで構成される複合繊維を少なくとも含み、熱融着して前記ループ状繊維を一体化していることを特徴とする。
【0009】
本発明の詰め綿の製造方法は、複数のループ状フィラメント繊維を芯糸で撚り、かつ一体化した詰め綿の製造方法であって、
花糸をウエストゲージに回転又は糸振りさせて供給し、
融点が異なる少なくとも2種類の芯糸は、前記花糸の少なくとも一部を挟み込むように前記ウエストゲージに供給し、
前記花糸と芯糸をまとめて撚りを掛け、ループヤーンを形成する工程と、
前記ループヤーンを熱処理して、前記芯糸のうち融点の低いほうの糸を融着させることにより、撚りを固定する第一熱処理工程と、
前記撚りを固定したループヤーンを熱処理して前記芯糸のうち融点の高いほうの糸を熱融着させて前記ループ状繊維を一体化する第二熱処理工程を含み、かつ、
前記第一熱処理工程以降の任意の工程で前記花糸のループ状繊維を開繊する工程を含むことを特徴とする詰め綿の製造方法。
【0010】
本発明の別の詰め綿の製造方法は、複数のループ状フィラメント繊維を芯糸で撚り、かつ一体化した詰め綿の製造方法であって、
花糸をウエストゲージに回転又は糸振りさせて供給し、
融点が異なる2以上のポリマーで構成される複合繊維を少なくとも含む芯糸は、前記花糸の少なくとも一部を挟み込むように前記ウエストゲージに供給し、
前記花糸と芯糸をまとめて撚りを掛け、ループヤーンを形成する工程と、
前記ループヤーンを熱処理して、前記芯糸のうち融点の低いほうの糸を融着させることにより、撚りを固定する第一熱処理工程と、
前記撚りを固定したループヤーンを熱処理して前記芯糸のうち融点の高いほうの糸を熱融着させて前記ループ状繊維を一体化する第二熱処理工程を含み、かつ、
前記第一熱処理工程以降の任意の工程で前記花糸のループ状繊維を開繊する工程を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の詰め綿製品は、前記の詰め綿を生地内に充填したものである。ここで詰め綿製品とは、布団、毛布、寝袋、枕、クッション、マット、ぬいぐるみ、ひざ掛け、ジャケット、ベスト、コート、羽毛服などをいう。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、マルチフィラメント繊維が開繊され、複数のループ状繊維を形成し、芯糸は前記ループ繊維を撚り込み、熱融着して前記ループ状繊維を一体化していることにより、風合いは羽毛に近似し、嵩高であり、へたりにくく嵩耐久性のある詰め綿とその製造方法及びこれを用いた詰め綿製品を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の詰め綿は、複数のループ状繊維(花糸ともいう。)と芯糸で構成される。ループ状繊維は長繊維であるマルチフィラメント繊維で構成され、かつ開繊されている。ループ状繊維を長繊維であるマルチフィラメント繊維で構成し、かつ開繊したことにより、風合いは羽毛に近似し、嵩高であり、へたりにくく嵩耐久性のある詰め綿とすることができる。すなわち、マルチフィラメント繊維を用いて複数回芯部を往復させ、複数のループを形成することにより、ループ自体の構造により、嵩高とへたりにくさを付与できる。また、ループ状繊維を開繊したことにより、風合いは柔軟なものとなるとともに嵩高性を実使用可能な程度まで向上させることができる。その結果、全体として空気を多く含み、風合いは天然の羽毛に近似したものとなる。ここで開繊とは、収束された繊維群を単繊維が実質的にフリーになるように開くことをいう。開繊は完全に行われていてもよいし、部分的に開繊されていてもよい。
【0014】
ループ状繊維はマルチフィラメント繊維であれば、どのようなものでも使用できる。例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン等の合成繊維、レーヨン等の再生繊維、絹等の天然繊維を挙げることができる。弾力性及び嵩高性を考慮すると、中空状、W状、星状等の異形断面繊維や高強力繊維、特に中空状ポリエステル繊維や高強力ポリエステル繊維が好ましい。また、弾力性及び嵩高性向上としてマルチフィラメント繊維とともにモノフィラメント繊維を加えてもよい。
【0015】
複数のループ状マルチフィラメント繊維は、ストレート繊維と収縮繊維で構成してもよい。このようにすると、収縮繊維が内側に入り、ストレート繊維が外側に配置され、2層構造の詰め綿となり、ボリューム感がさらに高くなる。
【0016】
複数のループ状繊維のループの平均長さは1〜200mmの範囲が好ましく、更に平均長さは5〜50mmの範囲が好ましく、とくに10〜40mmの範囲が好ましい。ループ繊維が前記の範囲であれば、風合いと嵩高性と嵩耐久性を更に高めることができる。
【0017】
ループ状繊維の単繊維繊度が0.1〜300dtex、かつトータル繊度が10〜600dtex(dtexはdeci texを示す。)の範囲が好ましい。更に好ましくは単繊維繊度が1.0〜50dtex、かつトータル繊度が20〜250dtexの範囲であり、特に好ましくは単繊維繊度が2.0〜25dtex、かつトータル繊度が30〜100dtexの範囲である。繊度が前記の範囲であれば、へたりにくく、かつ風合いも良好である。
【0018】
芯糸は、融点が異なる少なくとも2種類の糸で構成されている。相対的に低融点の芯糸は、熱融着させてループ状繊維と相対的に高融点の芯糸を一体化するのに使用し、又は花糸を撚り込んだ後の撚り止め(仮止め)に使用する。相対的に高融点の芯糸は、低融点の芯糸の熱融着時に芯糸の糸切れを防止するため使用し又は熱融着させてループ状繊維を一体化するのに使用する。熱融着の際には、芯糸を同時に熱収縮させても良い。芯糸を熱収縮させる場合は芯糸をフリーな状態で加熱させればよく、熱収縮させない場合は緊張もしくは定長状態で加熱するか、又は加熱ロールで押圧して加熱する。
【0019】
芯糸はポリプロピレン繊維(融点160〜165℃)、プロピレン−エチレンランダムコポリマー繊維(融点135〜150℃)、プロピレン−エチレンブロックコポリマー繊維(融点160〜165℃)、高密度ポリエチレン(融点123〜135℃)、中密度ポリエチレン(融点120〜123℃)、低密度ポリエチレン(融点105〜120℃)、低融点ポリエステル繊維(融点160〜190℃)、低融点熱接着繊維糸(低融点ナイロン、融点110〜113℃、東レ社製商品名“エルダー”)など特に制限されない任意の繊維から、融点の異なる少なくとも2種の繊維を選択して使用する。本発明においては、花糸と芯糸とを熱融着させた後に開繊処理を行うため、花糸と芯糸とがより強固に接着しているのが好ましく、当該観点より低融点の芯糸としては、低融点ポリエステル繊維、低融点ナイロン繊維が好ましい。特に好ましくは低融点ナイロン繊維である。
【0020】
芯糸は、融点が異なる2以上のポリマーで構成される複合繊維を少なくとも含む構成でもよい。融点が異なる2以上のポリマーで構成される複合繊維としては、融点の異なるポリマーを芯鞘状などに複合したコンジュゲート繊維などが例示され、具体的には、高融点ポリマーがポリプロピレンポリマーであり、低融点ポリマーが、ポリエチレンポリマーまたは低融点ポリプロピレンポリマーから成る芯鞘繊維等が挙げられる。融点が異なる2以上のポリマーで構成される複合繊維は、単独で芯糸を構成してもよく、また他の芯糸と組み合わせて、芯糸を構成してもよい。ループ状繊維をより確実に一体化する観点から、芯鞘繊維を低融点熱接着繊維糸と組み合わせて用いるのが好ましい。
【0021】
前記融点が異なる少なくとも2種類の芯糸又は融点が異なる2以上のポリマーの融点差は、10〜200℃あることが好ましい。
【0022】
複数のループ状繊維と芯糸の重量比は、ループ状繊維と芯糸を母数にしたとき、ループ状繊維の割合は51〜99wt%の範囲が好ましい。更に好ましくは80〜98wt%の範囲、特に好ましくは85〜97wt%の範囲である。前記範囲であれば、芯糸による固定一体化はしっかりしたものとなり、かつ風合いも良好となる。
【0023】
本発明の詰め綿の連続状であるか又は1個あたりの平均重量は、0.1〜1000mgの範囲が好ましく、更に好ましくは1〜100mgであり、特に好ましくは2〜50mgの範囲である。なお、平均重量が前記の範囲であれば、取り扱い性がよく、詰物などの羽毛製品にしたときに良好な風合いを発揮できる。なお、本発明における1個あたりの平均重量の算出は、まず30g分の詰め綿を採取し、当該30gに含まれる付詰め綿の個数を計測する。その後、1個あたりの平均重量(mg)を計算により算出する。
【0024】
本発明の詰め綿には、さらにシリコーン処理剤が熱固定されていることが好ましい。シリコーン処理剤の好ましい付着量は、ループ繊維(花糸)と芯糸の合計量に対して0.1〜1.0wt%の範囲である。さらに、硬さ調整のためアクリル樹脂、ウレタン樹脂等を固定しても良い。
【0025】
本発明の詰め綿の一実施例の製造方法について、以下図面を用いて説明する。各図面において、同一符号は同一部分を示す。図1Aは、本発明の一例の製造工程を示す説明図、図2は撚糸工程の概略説明図である。図1Aに示すように、花糸1と芯糸2をウエストゲージ3に供給し、撚糸工程4で撚糸する。具体的には図2に示すように、花糸11をウエストゲージ13に回転又は糸振りさせて供給し、融点が異なる少なくとも2種類の芯糸12a,12bは、花糸11の少なくとも一部を挟み込むようにウエストゲージ13に供給する。ここでウエストゲージとは、漏斗状の器具であり、上部が大きく開放され、ここに糸を落とすことができ、下部出口は狭くなっていて、糸を一時的に貯めることができる器具をいう。
【0026】
次いで、花糸11と芯糸12a,12bをまとめて撚りを掛け、ループヤーン14を形成する。ループヤーン14は撚糸機20によって実撚りを掛けて形成される。すなわち、モーター15、ベルト16を介してボビン17が回転され、この周りのリング18にトラベラー19が組み込まれ、ボビン17の回転より遅れて回転することにより、トラベラー19を通過するループヤーン14には実撚りが掛けられる。好ましい撚り数は150〜350回/mである。得られたループヤーン14の拡大図を図3に示す。花糸11はループを形成し、芯糸12a,12bは撚り掛けされて、全体をまとめている。
【0027】
このようにして得られたループヤーン14はボビン17から解舒し、図1Aに示す第一熱処理工程5で熱処理する。熱処理温度は、相対的に低融点の芯糸が融着する例えば90〜160℃、熱処理時間は1秒〜20分程度が好ましい。さらに、1kg/cm2以上の圧力を加えるとより好ましい。この第一熱処理により、相対的に低融点の芯糸が融着され、ループ繊維は撚り止め(仮止め)される。得られたループヤーン21の概略断面図を図4に示す。22は融着された芯糸である。
【0028】
次に、撚り止め(仮止め)されたループヤーンは、図1Aに示す揉み工程6で開繊処理される。揉み工程では、ゴム、織物、不織布、樹脂シート等を2枚擦り合わせることにより、間に入れたループヤーン21は揉まれ、図5に示すループ繊維24のように開繊される。このような開繊処理を行うことで、40mm以上の嵩高性を得ることができる。また、花糸として前記中空状や高強力ポリエステル繊維を選択し開繊処理を組合せたり、30dtex以下のポリエステルモノフィラメント繊維をマルチフィラメント繊維に加え開繊処理を組合せることにより、50mm以上150mm程度の嵩高性を発現させることが可能となる。なお、第一熱処理工程後に開繊処理を施さない場合では嵩高性は30mm程度しか発現しない。この揉み工程6は、第二熱処理の後で実施してもよいが、糸形状を保っている第一熱処理工程の後のほうが、開繊効率は良い。なお、第一熱処理工程の後及び第二熱処理工程の後に2回開繊処理を行うのがより好ましい。これにより、70mm以上150mm程度までの嵩高性を得ることが可能となる。開繊するには揉み手段のほか、叩いたり、ブラッシング処理を採用することもできる。機械的揉み機の揉み部材としては、ゴム(ネオプレンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム等)発泡体(ウレタンフォーム、シリコーンゴムフォーム、エチレン−ビニルアルコール(EVA)系発泡体、セルロース系発泡体等)、不織布、人工皮革等がある。また、ブラシの場合は、ナイロン、ポリエステル、ポリオレフィン、塩化ビニル、アクリル、アラミド、フッ素樹脂等の合成繊維;羊毛、馬毛、鹿毛、豚毛等の獣毛繊維、金属線等のブラシがある。
【0029】
揉み工程で開繊処理されたループヤーンは、次にカット工程7で所定の長さにカットされる。好ましいカット長は20〜50mmである。
【0030】
カットされたループヤーンは、次にシリコーン樹脂散布工程8において、シリコーン樹脂が散布される。シリコーン樹脂としては、分子末端がハイドロジェン基(−OH)、ビニル基(−CH=CH2)等を有する反応性シリコーン処理剤を使用するのが好ましい。例えば、松本油脂製薬社製“TERON E 530”バルキーシリコン、“TERON E 731”、“TERON E 722”等のソフトシリコーンを使用できる。散布量は、乾燥重量で詰め綿に対し0.1〜1.0wt%散布するのが好ましい。
【0031】
次に第二熱処理工程9において、例えば120〜200℃で1秒〜20分程度熱処理し、芯糸のうち融点の高いほうの糸を熱融着させてループ状繊維を一体化又はシリコーン処理剤を詰め綿に熱固定する。このようにして得られた詰め綿10は、図6に示すように開繊されたループ状繊維23と芯糸が熱融着している芯部22とからなる。
【0032】
図1Bは別の実施例における詰め物の製造例である。図1Aと異なる部分は、まず、カット工程7を第二熱処理工程9の後に移動させたこと、及びカット工程7の後に第2開繊(揉み)工程を加えたことである。カット工程7は省略することもできる。
【0033】
本発明の詰め綿は、布団、毛布、寝袋、枕、クッション、マット、ぬいぐるみ、ひざ掛け、ジャケット、ベスト、コート、羽毛服などに好適である。
【実施例】
【0034】
以下実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
図2に示す花糸11として、PETマルチフィラメント繊維(トータル繊度280 dtex,フィラメント数24本、ストレート糸)と、PETマルチフィラメント繊維(トータル繊度84 dtex,フィラメント数12本、高収縮糸)をウェストケージ13に回転又は糸振りさせて供給した。一例として、糸振りの場合は往復距離が約40mm、回転の場合はループの中央部で摘み上げたときの片側のループが約20mmとなるようにした。
【0036】
芯糸12aとして低融点熱接着繊維糸(低融点ナイロン、融点110〜113℃、東レ社製商品名“エルダー”,110 dtexの単糸)と、芯糸12bとして鞘部がポリプロピレン成分(融点160〜165℃)で芯部が中密度ポリエチレン(融点120〜123℃,380 dtexの双糸)からなる芯鞘型複合繊維糸(以下PP/PE複合糸という)をウェストケージ13に供給した。このとき、芯糸12a,12bにより、花糸11のループを挟み込むように供給した。ついで、花糸11と芯糸12a,12bをまとめて撚りを掛け、ループヤーン14を形成した。ループヤーン14は撚糸機20によって実撚りを掛けた。撚り数は250回/mであった。得られたループヤーン14は図3に示す。
【0037】
このようにして得られたループヤーン14はボビン17から解舒し、図1Aに示す第一熱処理工程5で熱処理した。熱処理温度は、“エルダー”糸が融着する120℃、熱処理時間は5秒とした。この第一熱処理により、“エルダー”糸が融着され、ループ繊維は撚り止め(仮止め)された。得られたループヤーン21の概略断面図を図4に示す。22は融着された芯糸である。
【0038】
次に、撚り止め(仮止め)されたループヤーンは、図1Aに示す揉み工程6で開繊処理した。揉み工程では、ゴム、織物、不織布、樹脂シート等を2枚擦り合わせることにより、間に入れたループヤーン21は揉まれ、図5に示すループ繊維24のように開繊された。
【0039】
揉み工程で開繊処理されたループヤーンは、次にカット工程7でカット長20〜30mmにカットした。
【0040】
カットされたループヤーンは、次にシリコーン樹脂散布工程8において、シリコーン樹脂を散布した。シリコーン樹脂としては、例えば、松本油脂製薬社製“TERON E 530”バルキーシリコン、“TERON E 731”、“TERON E 722”等のソフトシリコンを使用した。散布量は、乾燥重量で詰め綿に対し0.5wt%散布した。
【0041】
次に第二熱処理工程9において、170℃で10分間熱処理し、芯糸のうち融点の高いほうのPP/PE複合糸を熱収縮かつ熱融着させてループ状繊維を一体化した。この第二熱処理工程においては、同時にシリコーン処理剤を詰め綿に熱固定した。このようにして得られた詰め綿10は、図6に示すように開繊されたループ状繊維23と芯糸が収縮かつ熱融着している芯部22とから形成されていた。
【0042】
得られた詰め綿を、シングル掛け布団の側地内に1.3kg充填し、実用試験をしたところ、天然の羽毛と遜色のない暖かさと風合いがあり、嵩高であった。3月間継続して使用したが、へたりはほとんど起きなかった。このことから嵩耐久性のある詰め綿であることが確認できた。
【0043】
(実施例2)
図2に示す花糸11として、PETマルチフィラメント繊維(トータル繊度140dtex、フィラメント数24本、ユニチカ社製商品名“タフリーE”)をウェストケージ13に回転又は糸振りさせて供給した。一例として、糸振りの場合は往復距離が約40mm、回転の場合はループの中央部で摘み上げたときの片側のループが約20mmとなるようにした。
【0044】
芯糸12aとして低融点熱接着繊維糸(低融点ナイロン、融点110〜130℃、東レ社製商品名“エルダー”、78dtexの単糸)と、芯糸12bとしてPETモノフィラメント繊維(融点250〜260℃、繊度17dtex)をウェストケージ13に供給した。このとき、芯糸12a、12bにより、花糸11のループを挟み込むように供給した。ついで、花糸11と芯糸12a、12bをまとめて撚りを掛け、ループヤーン14を形成した。ループヤーン14は撚糸機20によって実撚りを掛けた。撚り数は250回/mであった。得られたループヤーン14は図3に示す。
【0045】
このようにして得られたループヤーン14はボビン17から解舒し、図1Bに示す第一熱処理工程5で熱処理した。熱処理温度は、“エルダー”糸が融着する170℃、熱処理時間は約5秒とした。この第一熱処理により、“エルダー”糸が融着され、ループ繊維は芯糸と融着された。得られたループヤーン21の概略断面図を図4に示す。22は融着された芯糸である。
【0046】
次に、撚り止め(仮止め)されたループヤーンは、図1に示す揉み工程6で開繊処理した。揉み工程では、ゴム、織物、不織布、樹脂シート等を2枚擦り合わせることにより、間に入れたループヤーン21は揉まれ、図5に示すループ繊維24のように開繊された。
【0047】
得られた開繊処理ループヤーンは、次にシリコーン樹脂散布工程8において、シリコーン樹脂を散布した。シリコーン樹脂としては、例えば、松本油脂製薬社製“TERON E 530”バルキーシリコン、“TERON E 731”、“TERON E 722”等のソフトシリコーンを使用した。散布量は、乾燥重量で人工羽毛に対し0.5wt%散布した。
【0048】
次に第二熱処理工程9において、160℃で10分間熱処理し、シリコーン処理剤を詰め綿に熱固定した。このようにして得られた詰め綿10は、開繊されたループ状繊維23と芯糸が熱融着しており、実施例1と異なる点は、熱収縮させていない点である。
【0049】
シリコーン処理された詰め綿は、次にカットエ程7でカット長30〜40mmにカットした。なお、一部詰め綿については、再度揉み工程を実施した。
【0050】
得られた詰め綿を、シングル掛け布団の側地内に1.3kg充填し、実用試験をしたところ、天然の羽毛と遜色のない暖かさと風合いがあり、嵩高であった。3月間継続して使用したが、へたりはほとんど起きなかった。このことから嵩耐久性のある詰め綿であることが確認できた。
【0051】
(実施例3)
下記の表1に示す以外は実施例2と同一条件で詰め綿を作成した。表1において、嵩高性の試験方法は、JIS L 1903:1998(7.2:かさ高性)に記載される試験法に従って測定した。この試験法は、直径28cmの筒の中に詰め綿30gを入れ、次に荷重120gの中落とし蓋を載せ、中落とし蓋につないだ紐を徐々に延ばして中落とし蓋を下に落とし、落ち切った時点で2分間放置し、、その後、中落とし蓋を引き上げて荷重を取り除いたときの詰め綿の高さを測定した。機械揉み(1回)と第2熱処理工程後に再度揉みを行う2回揉みをしたのは、機械揉みでは完全に開繊していない部分が残ったためであり、2回揉みでは完全に近い開繊ができた。条件と結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1において、詰め綿1個あたりの平均重量は、実験例1〜6が約10mg、実験例7〜8が約3mgであった。
【0054】
また、比較例として、通常のカード綿の嵩高性を測定したところ、カード綿の嵩高性:74mmであった。さらに、実験番号1で開繊処理しない(機械揉みと2回揉み工程無し)場合の嵩高性は、30mmであった。
【0055】
表1から明らかなとおり、本発明の実施例品は嵩高性が高かった。
【0056】
(実施例4)
実施例3の実験番号7で得られた機械揉みの詰め綿と、比較例として一般的なPET短繊維カード開繊綿(繊度18.9dtex,繊維長64mm)の保温性試験を行った。Referenceとして、綿を使わない例も試験した。保温性試験の断面図は図7に示すとおりであり、説明は次のとおりである。
容器:200mlPP製サンプラカップ
温度計:記憶計 SK-L200T 株式会社佐藤計量器製作所製
乾燥機:44℃ 設定
冷温機:15℃ 設定
操作手順:
(1)外径直径70mm、高さ80mmのポリプロピレン製容器30に詰め綿31を5g秤量して入れる。
(2)詰め綿31を入れた後に、中央部の上からガラス製の外径25mm、高さ50mm、容量20mlのバイアル瓶32を押し込むように入れる。
(3)バイアル瓶の中に温水33を10ml入れる。
(4)上部全体にポリウレタン樹脂フォームからなる断熱材34を被せ、中央にあけた穴から温度センサー35をバイアル瓶32のお湯33の中に浸かるように入れる。
(5)各試料を入れた容器2つを乾燥機に入れる。
(6)44℃から45℃程度で2つの容器内のお湯の温度差がなくなるまで加温する。
(7)44℃〜45℃程度で温度差がなくなったら、容器ごと15℃設定の冷温機に入れ替える。
(8)記憶計で2つの試料の温度を記録する。
(9)15℃〜17℃で平衡になったら記録を終了させる。
【0057】
測定結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
表2から本発明の実施例品は、従来のカード開繊綿に比較して、保温性が高いことが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1A】図1Aは、本発明の一実施例における製造工程を示す説明図である。
【図1B】図1Aは、本発明の別の実施例における製造工程を示す説明図である。
【図2】図2は、本発明の一実施例における撚糸工程の概略説明図である。
【図3】図3は同、撚糸工程におけるループヤーンの拡大側面図である。
【図4】図4は同、撚り止め(仮止め)されたループヤーンの概略断面図である。
【図5】図5は同、揉み工程でループ繊維が開繊された状態のループヤーンの概略側面図である。
【図6】図6は同、得られた詰め綿の概略側面図である。
【図7】図7は同、保温性試験の断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1,11 花糸
2,12a,12b 芯糸
3,13 ウエストゲージ
4 撚糸工程
5 第一熱処理工程
6 揉み工程
7 カット工程
8 シリコーン樹脂散布工程
9 第二熱処理工程
10 詰め綿
14,21 ループヤーン
15 モーター
16 ベルト
17 ボビン
18 リング
19 トラベラー
20 撚糸機
22 融着芯糸
23 ループ状繊維
30 詰め綿用容器
31 詰め綿
32 温水用バイアル瓶
33 温水
34 断熱材
35 温度センサー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のループ状繊維を芯糸で一体化した詰め綿であって、
前記ループ状繊維はマルチフィラメント繊維で構成され、かつ開繊されており、
前記芯糸は、融点が異なる少なくとも2種類の糸で構成され、熱融着して前記ループ状繊維を一体化していることを特徴とする詰め綿。
【請求項2】
複数のループ状繊維を芯糸で一体化した詰め綿であって、
前記ループ状繊維はマルチフィラメント繊維で構成され、かつ開繊されており、
前記芯糸は、融点が異なる2以上のポリマーで構成される複合繊維を少なくとも含み、熱融着して前記ループ状繊維を一体化していることを特徴とする詰め綿。
【請求項3】
前記複数のループ状繊維は、芯糸で撚りを掛けられている請求項1又は2に記載の詰め綿。
【請求項4】
前記複数のループ状繊維のループの平均長さが1〜200mmの範囲である請求項1〜3のいずれか1項に記載の詰め綿。
【請求項5】
前記複数のループ状繊維と前記芯糸の重量比は、ループ状繊維と芯糸を母数にしたとき、ループ状繊維の割合は51〜99wt%の範囲である請求項1〜4のいずれか1項に記載の詰め綿。
【請求項6】
前記複数のループ状繊維の単繊維繊度が0.1〜300dtex、かつトータル繊度が10〜600dtexの範囲である請求項1〜5のいずれか1項に記載の詰め綿。
【請求項7】
前記詰め綿は連続状であるか又は1個あたりの平均重量が、0.1〜1000mgの範囲である請求項1〜6のいずれか1項に記載の詰め綿。
【請求項8】
前記複数のループ状マルチフィラメント繊維は、ストレート繊維と収縮繊維で構成されている請求項1〜7のいずれか1項に記載の詰め綿。
【請求項9】
前記融点が異なる少なくとも2種類の芯糸又は前記融点が異なる2以上のポリマーの融点差は、10〜200℃である請求項1〜8のいずれか1項に記載の詰め綿。
【請求項10】
前記詰め綿には、さらにシリコーン処理剤が熱固定されている請求項1〜9のいずれか1項に記載の詰め綿。
【請求項11】
複数のループ状フィラメント繊維を芯糸で撚り、かつ一体化した詰め綿の製造方法であって、
花糸をウエストゲージに回転又は糸振りさせて供給し、
融点が異なる少なくとも2種類の芯糸は、前記花糸の少なくとも一部を挟み込むように前記ウエストゲージに供給し、
前記花糸と芯糸をまとめて撚りを掛け、ループヤーンを形成する工程と、
前記ループヤーンを熱処理して、前記芯糸のうち融点の低いほうの糸を融着させることにより、撚りを固定する第一熱処理工程と、
前記撚りを固定したループヤーンを熱処理して前記芯糸のうち融点の高いほうの糸を熱融着させて前記ループ状繊維を一体化する第二熱処理工程を含み、かつ、
前記第一熱処理工程以降の任意の工程で前記花糸のループ状繊維を開繊する工程を含むことを特徴とする詰め綿の製造方法。
【請求項12】
複数のループ状フィラメント繊維を芯糸で撚り、かつ一体化した詰め綿の製造方法であって、
花糸をウエストゲージに回転又は糸振りさせて供給し、
融点が異なる2以上のポリマーで構成される複合繊維を少なくとも含む芯糸は、前記花糸の少なくとも一部を挟み込むように前記ウエストゲージに供給し、
前記花糸と芯糸をまとめて撚りを掛け、ループヤーンを形成する工程と、
前記ループヤーンを熱処理して、前記芯糸のうち融点の低いほうの糸を融着させることにより、撚りを固定する第一熱処理工程と、
前記撚りを固定したループヤーンを熱処理して前記芯糸のうち融点の高いほうの糸を熱融着させて前記ループ状繊維を一体化する第二熱処理工程を含み、かつ、
前記第一熱処理工程以降の任意の工程で前記花糸のループ状繊維を開繊する工程を含むことを特徴とする詰め綿の製造方法。
【請求項13】
前記第一熱処理工程と前記第二熱処理工程との間に、シリコーン処理剤を付与する工程を含み、前記第二熱処理工程において、前記シリコーン処理剤を前記詰め綿に熱固定する請求項11又は12に記載の詰め綿の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の詰め綿を生地内に充填した詰め綿製品。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−52183(P2009−52183A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87537(P2008−87537)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【出願人】(596075945)イシケン株式会社 (2)
【Fターム(参考)】