説明

認知機能の改善のためのグリセロリン脂質

本発明は、例えば脂質の異なる起源を利用した、LA、リノレン酸(アルファ−リノレン酸、ガンマ−リノレン酸)、DHA及びエイコサペンタエノイル(EPA)の特異的な量及び特異的な接合パターンを有するセリングリセロリン脂質接合体の非哺乳類に由来する混合物を含む製剤とその使用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セリングリセロリン脂質製剤及び認知機能の改善におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
グリセロリン脂質は、リン脂質とも呼ばれ、天然に広く存在し、細胞の脂質二重層の鍵となる成分であり、細胞代謝及びシグナル伝達に関与している。リン脂質のグリセロール主鎖のヒドロキシル基は、親水性のリン酸の頭部と、無極性の脂肪酸を構成する疎水性の尾部によって置換されている。グリセロリン脂質は、例えば、ホスファチジルコリン(PC又はレシチンとも称される)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)及びホスファチジルセリン(PS)のように極性頭部の性質に基づいて、異なるクラスに細分され得る。細胞膜の主要な成分として役立ち、また、細胞内及び細胞間タンパク質のためのサイトに結合することに加えて、ホスファチジルイノシトール及びホスファチジン酸のような幾つかのグリセロリン脂質は、膜誘導二次情報伝達物質の前駆物質であるか又はそれら自体である。動物実験により、PSは神経膜の機能を増強し、それ故、認知減退を特に高齢者において遅くすることが示されている[McDaniel MA et al. Nutrition 19: 957-75 (2003)及びJorissen BL et al. Nutr Neurosci. 4(2):121-34 (2001)]。
【0003】
多くの健康利益が、ある脂肪酸の消費に起因している。例えば、オメガ−3及びオメガ−6のタイプのポリ不飽和脂肪酸(PUFA)は、循環器病、免疫障害及び炎症、腎障害、アレルギー、糖尿病、及び癌に幾つかの健康利益を有している。ドコサヘキサエン酸(DHA)のようなオメガ−3脂肪酸の脳における重要性を調査した大規模な臨床試験により、DHAの低いレベルがうつ病、記憶損失、痴呆、及び視覚問題と付随していることが発見された。研究は、DHAの血中レベルが上昇したときの高齢者の脳機能の改善を示した。さらにその上、DHAは、脳機能の増強、乳児用人工乳の栄養価の強化、糖尿病及び癌の分野で重要で有り得る。
【0004】
人体は、DHAを十分に合成しない。それ故、食事からそれを得ることが必要である。人は、初期には胎盤を通して、次いで胸部乳を通して、後には魚、赤身肉、動物の臓器の肉及び卵のような食事性の起源を通して、食事からDHAを摂取する。
【0005】
リノール酸(LA、Cl8:2、ω−6)及びα-リノレン酸(ALA、Cl8:3、ω−3)は、必須脂肪酸(EFA)として分類されている。身体はそれらを新規に合成できず、それ故、それらは、それらを「既製」で提供する食事起源を通して得る必要がある。LA及びALAは何れも、最適な成長と良好な健康のために必要である。LA及びALAの両方ともω−3及びω−6PUFAの前駆物質である。LAは、アラキドン酸(AA)(C20:4、ω−6)の合成のために必要であり、エイコサノイドの合成の鍵となる中間体であり、他方では、ALAは、部分的にエネルギー源として用いられ、また、部分的に代謝産物及び長鎖PUFAのための前駆物質として用いられる。人体内において、LA及びALAは、他のさらなる不飽和脂肪酸、それぞれ主にAA及びDHA(C22:6、ω−3)に伸張及び不飽和化されることができる。
【0006】
ダイズ、卵黄、ウシの脳及び魚は、リン脂質、特にPSを取得及び生産するための主要な天然の起源である。天然のリン脂質のsn-1及びsn-2位における脂肪性アシル残基の種類は多様であり、それらの割合は一般にそれらの起源に依存する。例えば、ダイズは、LA脂肪酸に富んでおり(約54%)、他方では、魚に由来するレシチンはDHA脂肪酸残基に富んでいる。動物の脳組織から抽出されたPSは、人の脳のPSと類似しており、ダイズリン脂質のような植物に見られるオメガ−3のレベルと比較して、比較的高レベルのオメガ−3の部分によって特徴付けられる脂肪酸含量を有する。認知機能の改善におけるダイズPSの生物学的機能性は、人の脳のPSのものとは異なることが示されている[WO 2005/037848]。
【発明の概要】
【0007】
[関連出願のクロスリファレンス]
本願は、2003年10月22日出願のイスラエル出願第158552号の優先権を主張する、2004年10月21日出願のPCT国際出願第PCT/IL2004/000957の継続である、2004年11月19日出願の米国仮出願番号10/994,175(放棄済)のCIPである、2006年4月28日出願の米国仮出願番号11/414,150の一部継続出願であるUSSN 12/215,080の優先権を主張する。それらの内容は参照によって本願に援用される。
【0008】
[発明の概要]
本願発明は、例えば脂質の異なる起源を利用して、LA、リノレン酸(アルファ−リノレン酸、ガンマ−リノレン酸)、DHA及びエイコサペンタエノイル(EPA)の特異的な量及び特異的な接合パターンを有するオメガ−3及びオメガ−6脂肪酸と接合した脂質製剤を用いて、対象の認知機能を改善する、代替の、増強された、且つ安価な方法を提供する。
【0009】
対象となる発明は、従って、セリングリセロリン脂質接合体の非哺乳類由来の混合物を含む製剤を提供する。ここにおいて、該混合物は、(a)PSに接合したリノール酸(Cl8:2)及び(b)PSに接合したDHAを含み、ここで、(a)のw/w% /(b)のw/w%は約0.09から約3.6である。
【0010】
他の側面において、本発明は、本発明の製剤を、それらを必要とする対象に投与することを含む、認知病又は認知障害を病んでいる対象の状態を改善する方法を提供する。
【0011】
さらなる側面において、本発明は、栄養組成物、医薬品組成物、又は、栄養補助組成物(nutraceutical composition)又は機能性食品の製造のための本発明の製剤の使用を提供する。
【0012】
他の側面において、本発明は、栄養組成物、医薬品組成物又は栄養補助組成物又は機能性食品において使用するための本発明の製剤を提供する。
【0013】
本発明はさらに、本発明の製剤を含む栄養組成物、医薬品組成物又は栄養補助組成物又は機能性食品を提供する
他の一つの側面において、本発明は、認知病又は認知障害を病んでいる対象の状態の改善において使用するための本発明の製剤を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の脂質製剤Aを投与した成人における、空間短期記憶、記憶想起及び記憶認知をプラセボの投与と比較して示す図表である。
【発明の詳細な説明】
【0015】
本発明の第一の側面において、セリングリセロリン脂質接合体の非哺乳類由来の混合物を含む製剤が提供される。ここで、該混合物は、(a)PSに接合したリノール酸(Cl8:2)及び(b)PSに接合したDHAを含み、ここで、(a)のw/w% /(b)のw/w% は約0.09から約3.6である。
【0016】
ここで用いられるように「脂質」という用語はここで用いられたとき、基本的に水に不溶であり、これに限定されないが、トリグリセリド、ステロール、脂肪酸などを含む、脂肪及び脂肪様化合物を包含するように理解される。
【0017】
ここで用いられるように、「グリセロリン脂質」及び「リン脂質」という用語は交換可能に用いられ、次の一般式の脂質を包含するように理解される。
【化1】

【0018】
式中、置換基R1(sn-1位における置換基)及びR2(sn-2位における置換基)は、互いに独立して、H又は飽和、モノ不飽和、及びポリ不飽和の脂肪酸から選択されるアシル基から選択される。Xがセリンである時、即ち-CH2CH(COOH)NH2であるとき、リン脂質はセリングリセロリン脂質(PS)と呼ばれる。
【0019】
ここで用いられ、上記の式中で示されているsn-1及びsn-2位は、グリセロール主鎖上のそれぞれの炭素原子を指し、R1及びR2は、対応するアシル基上の置換基である。
【0020】
本発明において、「置換された」という用語及びその言語上等価な用語、及び、「接合された」という用語及びその言語上等価な用語は、交換可能に用いられ、本発明のセリングリセロリン脂質のグリセロリン脂質主鎖に共有結合した脂肪酸アシルを包含するよう理解される。上記のように、脂肪酸は、sn-l及び/又はsn-2位に結合し得る。
【0021】
上記のように、「脂肪酸」という用語は、ここで用いられるとき、飽和又は一つの不飽和結合(モノ−不飽和脂肪酸)又は二以上の不飽和結合(ポリ−不飽和脂肪酸)を有する不飽和の何れかである、長い非分枝の脂肪族の尾部(鎖)を有するカルボン酸を包含するように理解される。「脂肪酸アシル」に言及するときは−C(=O)−R基を包含するよう理解され、ここで、Rは長い非分枝の脂肪族の尾部であり、これは飽和又は一つの不飽和結合(モノ−不飽和脂肪酸)又は二以上の不飽和結合(ポリ−不飽和脂肪酸)を有する不飽和の何れかである。
【0022】
飽和脂肪酸の非限定的な例は、酪酸(ブタン酸、C4:0)、カプロン酸(ヘキサン酸、C6:0)、カプリル酸(オクタン酸、C8:0)、カプリン酸(デカン酸、C10:0)、ラウリン酸(ドデカン酸、C12:0)、ミリスチン酸(トラデカン酸、C14:0)、パルミチン酸(ヘキサデカン酸、C16:0)、ステアリン酸(オクタデカン酸、Cl8:0)、アラキジン酸(エイコサン酸、C20:0)、ベヘン酸(ドコサン酸、C22:0)を含む。
【0023】
不飽和脂肪酸の非限定的な例は、ミリストレイン酸(C14:l、ω−5)、パルミトレイン酸(C16:l、ω−7)、オレイン酸(C18:l、ω−9)、リノール酸(Cl8:2、ω−6)、リノレン酸(C18:3)[アルファ−リノレン酸(C18:3、ω−3)、ガンマ−リノレン酸(C18:3、ω−6)]、エイコサン酸(C20:l、ω−9)、アラキドン酸(C20:4、ω−6)、エイコサペンタエン酸(C20:5、ω−3)、エルカ酸(C22:l、ω−9)、ドコサペンタエン酸(C22:5、ω−3)及びドコサヘキサエン酸(C22:6、ω−3)、ネルヴォン酸(C24:l、ω−9)を含む。
【0024】
「PSに接合した[脂肪酸]・・・」と記載するときは、脂肪酸アシルがリン脂質主鎖の位置sn−l及び/又は位置sn−2において(グリセリン酸素原子を介して)接合したPSを包含するように理解される。一つの態様において、脂肪酸は位置sn-1で接合しており、そして、位置sn−2は、非置換(例えば、グリセリン酸素上に水素原子を有する)であるか、又は、位置sn−l上の置換基と同じであるか又は異なる、飽和、モノ−不飽和及びポリ不飽和の脂肪酸から選択されるアシル基で置換される。他の態様において、脂肪酸は、位置sn−2で接合されており、そして、位置sn−lは、非置換(例えば、グリセリン酸素上に水素原子を有する)であるか、又は、位置sn−2上の置換基と同じであるか又は異なる、飽和、モノ−不飽和及びポリ不飽和の脂肪酸から選択されるアシル基で置換される。
【0025】
本発明の製剤は、典型的には、ここで開示された脂肪酸接合パターンを有する、本発明の二以上のセリングリセロリン脂質接合体の混合物を含む。
【0026】
本発明の製剤中のPSに接合した脂肪酸のw/w%を述べる場合、PSに接合した前記脂肪酸のw/w% が、製剤中のPSに接合した全ての脂肪酸の重量に対して算出されることと理解される。
【0027】
一つの態様において、セリングリセロリン脂質接合体の混合物は、製剤の少なくとも10% w/wを構成する。他の態様において、セリングリセロリン脂質接合体の混合物は、製剤の少なくとも20% w/wを構成する。さらなる態様において、セリングリセロリン脂質接合体は製剤の少なくとも40% w/wを構成する。またさらなる態様において、セリングリセロリン脂質接合体の混合物は、製剤の少なくとも50% w/wを構成する。さらなる態様において、セリングリセロリン脂質接合体の混合物は、製剤の少なくとも54% w/wを構成する。
【0028】
本発明の製剤は、脂肪酸アシルが、リン脂質のグリセロール部分のsn-l又はsn-2位置の何れか又は両方において共有結合的に付加(結合)している、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジル−イノシトール(PI)、ホスファチジルグリセロール(PG)及びホスファチジン酸(PA)のような他のリン脂質をも含み得ることは留意されるべきである。上記の任意の極性脂質の脂肪酸接合プロフィールは、ここで開示されるように、PSの脂肪酸接合プロフィールと同じであるか、又は相違し得る。
【0029】
「[PS]脂肪酸接合パターン」及び「[PS]脂肪酸接合プロフィール」という用語は、ここでは交換可能に用いられ、PSに接合した特定の脂肪酸の特定の含量及びPSグリセリン主鎖におけるそれらの置換の位置を指す。
【0030】
一つの態様において、本発明の製剤はさらに(c)PSに接合したリノレン酸(C18:3)及び(d)PSに接合したDHAを含み、ここで(c)のw/w% /(d)のw/w% は、約0.01から約0.3である。
【0031】
他の態様において、本発明の製剤は(e)PSに接合したリノール酸(C18:2)及び(f)PSに接合したEPAをさらに含み、ここにおいて、(e)のw/w% /(f)のw/w% は約0.23から約9.4である。
【0032】
さらなる態様において、本発明の製剤は(g)PSに接合したリノレン酸(Cl8:3)及び(h)PSに接合したEPAをさらに含み、ここにおいて(g)のw/w% /(h)のw/w% は約0.02から約0.8である。
【0033】
本発明の製剤は、酵素的、化学的又は分子生物学的方法により調製され得る。手短に述べると、PSは、例えば、酵素的なエステル転移反応/エステル化と、それに続いて、セリンの頭部を(PLD酵素を用いて)変換してPS−オメガ−3/オメガ−6接合体を得ることによる、オメガ−3/オメガ−6脂肪酸での天然のリン脂質/レシチンの富化のような、酵素的な方法によってオメガ−3又はオメガ−6脂肪酸に富ませることができる。他の酵素的経路は、海洋由来のレシチン(例えば、クリール、魚又は藻類)又は卵リン脂質のような天然にオメガ−3酸に富むリン脂起源を得て、それらの頭部をセリンに変換することである。この方法で得られたPSの脂肪酸含量は、起源の選択(魚、クリール、藻類、ダイズなど)によって予め決定されるオメガ−3含量を有していることは留意されるべきである。そのような方法は、WO2005/038037に記載されている。
【0034】
本発明のPS製剤は、sn-1及び2位置をオメガ−3又はオメガ−6アシル残基で富ませる化学的エステル転移反応/エステル化によって調製されることもできる。そのようなPS−オメガ−3及びPS−オメガ−6の調製方法は、WO2005/038037に記載されている。
【0035】
或いは、本発明のPS製剤は、GMO(遺伝的改変生物)/バイオテクノロジー的方法、例えば、リン脂質−産生生物にオメガ−3又はオメガ−6脂肪酸を与えてオメガ−3又はオメガ−6PSに富んだリン脂質を得る方法によって調製されることができる。動物源の使用を避けるために、遺伝子工学植物又は微生物の使用が好ましい。
【0036】
このように、本発明のセリングリセロリン脂質接合体の混合物は、天然の、合成的又は半合成的起源又はそれらの任意の組合せから調製される。本発明の一つの態様において、前記天然起源は、植物(例えばダイズ及び藻類など)、非哺乳類動物(例えば、クリール、魚(例えばニシン及びタラなど)など)、又は微生物(例えば細菌など)の起源又はそれらの任意の組合せの何れか一つに由来する。異なる起源からのPSは、異なる脂肪酸接合パターンを有している。例えば、ダイズレシチンは、高いレベルのPS接合DHA含量を有する海洋性レシチンと比較して、高いレベルのPS接合リノール酸を含む。
【0037】
さらなる態様において、前記脂質製剤の製造は酵素触媒作用に関わる。
【0038】
ウシの皮質(BC−PS)から抽出されたPSは、脳の機能及び認知能力に及ぼすポジティブな効果に関連づけられるが、一方でダイズに由来するPS(SB−PS)は、認知機能を改善する能力に関して確定的出ない結果が得られている。理論によって結び付けられていないが、有効性におけるこの相違は、二つのPS起源の脂肪酸組成が相違することに起因する。BC−PSは比較的高いDHA含量と低いLA含量を有する一方、SB−PSはLAに富んでおり、また、その主鎖に結合したDHAを有していない。それ故、LA/DHAの低い割合を有するPS組成物は、認知増強により良く貢献することが想定される。
【0039】
本発明は、驚くべきことに、認知機能を増強するそれらの能力において、低いLA/DHA比(多量のDHA)を有するPS製剤よりも有効であり、ある場合には、よりいっそう有効である、0.09〜3.6のLA/DHA比を有する特異的なPS製剤を提供する。
【0040】
対象発明は、異なる起源に由来するか、又は合成的に調製された、特異的な脂肪酸接合パターンを有するセリングリセロリン脂質の混合物を含む本発明の製剤の使用が、単一の起源に由来する脂質製剤又は単一の起源に由来する脂質製剤の脂肪酸含量を模倣して調製された製剤と比較して、同様の又は改善された認知機能をもたらすことを想定する。例えば、純粋な海洋由来の脂質製剤よりも多いLAを有するPS接合を含む脂質製剤は、一方では植物由来(ダイズのような)の脂質と、他方では海洋由来(魚のような)の脂質と比較して、認知機能に類似の又は改善された効果を有する。二以上の起源に由来するか又は二以上の起源に由来する脂質製剤の脂肪酸含量を模倣して合成的に調製されたそのような脂質製剤は、純粋な海洋由来の脂質製剤よりも調製が安価でもある。
【0041】
本発明の製剤は、流動性のオイル、粉末、顆粒、ワックス、ペースト、オイル又は水溶性エマルジョンの形態であってよく、また、標的にする適用においてその使用を可能にする任意の他の形態であってよい。
【0042】
他の一つの側面において、本発明は、栄養組成物、医薬品組成物又は栄養補助組成物又は機能性食品の製造のための、本発明の製剤の使用を提供する。
【0043】
さらなる側面において、本発明は、栄養組成物、医薬品組成物又は栄養補助組成物又は機能性食品において使用するための、本発明の製剤を提供する。
【0044】
またさらなる側面において、本発明は、本発明の製剤の含む栄養組成物、医薬品組成物又は栄養補助組成物又は機能性食品を提供する。
【0045】
栄養組成物は、ここで用いられる場合、これに限定されないが、人乳脂代用品、乳児用人工乳、酪農製品、乳粉末、飲料、アイスクリーム、ビスケット、ダイズ製品、パン菓子、ペストリー及びパン、ソース、スープ、加工食品、冷凍食品、薬味、製菓(confectionary)、オイル及び脂肪、マーガリン、スプレッド、フィリング、シリアル、インスタント製品、乳児食、幼児食、バー、スナック、キャンディー、及びチョコレート製品を含む任意の栄養組成物であってよい。
【0046】
「乳児用人工乳」という用語は、ここで用いられるとき、乳児用人工乳(新生児から6月齢の乳児のための)、フォローアップ人工乳(6〜12月齢の乳児のための)及び成長人工乳(1〜3年齢の小児のための)を包含する。
【0047】
機能性食品は、ここで用いられるとき、これに限定されないが、酪農製品、アイスクリーム、ビスケット、ダイズ製品、パン菓子、ペストリー、ケーキ及びパン、インスタント製品、ソース、スープ、加工食品、冷凍食品、薬味、製菓、オイル及び脂肪、マーガリン、スプレッド、フィリング、シリアル、インスタント製品、飲料及びシェーク、インスタント食品、バー、スナック、キャンディー、及びチョコレート製品を含む任意の機能性食品であってよい。
【0048】
栄養補助組成物は、ここで用いられるとき、任意の栄養補助食品(nutraceutical)であり、食品又は食品の一部であると見なされ、疾病又は障害の予防及び治療を含む医学的な又は健康上の利益を提供する任意の物質であってよい。そのような栄養補助組成物は、これに限定されないが、食品添加物、食品サプリメント、ダイエットのサプリメント、例えば野菜のような遺伝子工学食品、生薬製品、及びシリアル、スープ及び飲料のような加工食品及び刺激性機能性食品、医用の食品及び医薬食品(pharmafood)を含む。ダイエットのサプリメントは、ソフトゲルカプセル、錠剤、シロップ、及び他の既知のダイエットのサプリメント送達系の形態で送達されてよい。
【0049】
本発明の一つの態様において、医薬品組成物又は栄養補助組成物は、投与送達形態である。
【0050】
対象発明の組成物を投与するのに適した経路は、経口、頬側、舌下投与、栄養管を介した投与、局所的、経皮性、又は非経口的(皮下、筋肉内、静脈内及び皮内を含む)投与である。一つの態様において、該化合物は、経口的に投与される。
【0051】
組成物の投与の正確な用量と療法は、達成されるべき治療効果(例えば、認知病又は認知障害を病んでいる対象の状態の改善)に依存することが必要であり、また、特定の処方、投与経路、及び年齢及び該組成物が投与されるべき個体の状態によって変わり得る。
【0052】
それ故、本発明はまた、(薬学的に)許容される助剤及び任意に他の治療的薬剤との混合物中に本発明の医薬品組成物を提供する。助剤は、該組成物の他の成分と適合し、それらの受容者に有害ではないという意味で「許容される」必要がある。
【0053】
一つの態様において、本発明の医薬品組成物は、さらに、少なくとも一つの薬学的に活性な薬剤を含む。
【0054】
医薬品及び栄養補助組成物は、薬学の分野で周知の任意の方法によって調製され得る。そのような方法は、成分を任意の補助剤に結合させる工程を含む。補助剤は、副成分とも名づけられ、キャリア、賦形剤、結合剤、希釈剤、防湿剤、崩壊剤、潤滑剤、着色剤、調味剤、抗酸化剤、及び湿潤剤のような、当該分野で通常のものを含む。
【0055】
本発明の医薬品組成物及び栄養補助組成物は、さらに、食用繊維、芳香、食味成分、及び、物理的及び官能的性質を制御する成分を含んでよい。
【0056】
経口投与に適した医薬品組成物は、ピル、錠剤、ペレット、糖衣錠、又はカプセルのような個別の投与量ユニットとして、又は、粉末又は顆粒として、又は溶液、懸濁液、又はエリキシル剤として提供されてよい。
【0057】
非経口投与のために適した組成物は、水溶性及び非水溶性の無菌注射を含む。該組成物は、例えば、密封されたバイアル及びアンプルのような、単位用量又はマルチ用量容器中に提供されてよく、また、使用前に例えば水のような無菌液体キャリアを添加することだけが必要な凍結乾燥状態で貯蔵されてよい。経皮投与のためには、例えば、ゲル、パッチ又はスプレーが考えられる。
【0058】
組成物は、例えば、密封されたバイアル及びアンプルのような、単位用量又はマルチ用量容器中に提供されてよく、また、使用前に例えば水のような無菌液体キャリアを添加することだけが必要な凍結乾燥状態で貯蔵されてよい。
【0059】
本発明はさらに、(a)脂肪源;(b)任意に食用に適する生理的に許容されるタンパク質、炭水化物、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、ヌクレオチド及び活性又は不活性添加剤の少なくとも一つ;(c)任意に(a)及び(b)中に定義される成分を保持するための食用に適する生理的に許容されるキャリア又は希釈剤の少なくとも一つ;(d)上記(a)、(b)及び/又は(c)中で定義された成分を混合するための手段と容器;及び(e)これに限定されないが、貯蔵期間、脂肪源又は投与のための食品の調製のための説明書、必要な希釈剤、投与量、投与頻度などのような使用説明書を含む、本発明に従った、食用可能な脂肪源又は食品のような本発明の組成物を調製するための商業的パッケージ又はキットを提供する。
【0060】
本発明に従った商業的パッケージ又はキットは、本発明の脂肪源をそのまま使用できる形態で、使用説明書とともに含んでもよい。投与量は、病院所属の医師及び他の医療職員に既知の優良な医学的プラクティスに従って、通常、対象の年齢、体重、性別及び状態に従って決定される。
【0061】
他の側面において、本発明は、本発明の製剤を、それらを必要とする対象に投与することを含む、認知病又は認知障害を病んでいる対象の状態を改善する方法を提供する。
【0062】
本発明はさらに、認知病又は認知障害を病んでいる対象の状態を改善するための、栄養組成物、医薬品組成物又は栄養補助組成物又は機能性食品の製造のための本発明の製剤の使用を提供する。
【0063】
他の側面において、本発明は、認知病又は認知障害を病んでいる対象の状態の改善に使用するための本発明の製剤を提供する。
【0064】
「認知病又は認知障害」という用語は、ここで用いられる場合、いずれの認知病又は認知障害をも包含すると理解される。そのような認知病又は認知障害の非限定的な例は、注意欠陥障害(ADD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、失読症、加齢に伴う記憶障害及び学習障害、健忘症、軽度認知障害、認知障害性の非痴呆、前アルツハイマー病、アルツハイマー病、パーキンソン病、前痴呆症候群、痴呆、年齢関連性の認知減退、認知衰退、中度精神障害、加齢の結果としての精神衰退、脳波の強度及び/又は脳グルコース利用に影響する状態、ストレス、不安、うつ病、行動障害、集中及び注意障害、気分衰退、一般認知及び精神の健康、神経変性障害、ホルモン性障害又はそれらの任意の組合せである。特定の態様において、認知障害は記憶障害である。
【0065】
「認知病又は認知障害を病んでいる対象の状態の改善」という用語は、ここで用いられる場合、病、障害、又は病理学的な状態に付随する望ましくない症状の寛解;症状が起こる前の徴候の予防;病又は障害の進行の減速;病又は障害の衰退の減速;病又は障害の進行(又は慢性)段階において起こされる不可逆的なダメージの減速;(進行性の)病又は障害の発症の遅延;病又は障害の重症度の減少;病又は障害の治癒;病又は障害が一斉に生じることの予防(例えば、一般に病を起こしやすい個体において)又は上記の何れかの組合せを包含すると理解される。例えばアルツハイマー病の結果としての記憶障害を病んでいる対象における、空間短期記憶、記憶想起及び/又は記憶認知、集中及び持続的注意、学習、実行機能及び/又は精神柔軟性の衰退を含む症状は、本発明の脂質製剤の使用によって改善される。
【0066】
本発明の一つの態様において、認知病又は認知障害は、注意欠陥障害、注意欠陥多動性障害、失読症、加齢に伴う記憶障害及び学習障害、健忘症、軽度認知障害、認知障害性の非痴呆、前アルツハイマー病、アルツハイマー病、パーキンソン病、前痴呆症候群、痴呆、年齢関連性の認知減退、認知衰退、中度精神障害、加齢による精神衰退、脳波の強度及び/又は脳グルコースの利用に影響する状態、ストレス、不安、うつ病、行動障害、集中及び注意障害、気分衰退、一般認知及び精神の健康、神経変性障害、ホルモン性障害及びそれらの任意の組合せから成る群から選択される。
【0067】
本発明の組成物(医薬品組成物、栄養補助組成物、又は栄養組成物のいずれでも)又は製品(例えば機能性食品)が当該分野で既知の他の治療方法と組合せられること(即ち、混合治療)は明らかであろう。従って、本発明の組成物又は製品を用いた認知病又は認知障害の治療は、認知病又は認知障害の治療のための従来の薬剤と組み合せられることができる。
【0068】
認知病又は認知障害の治療のために示される薬剤の非限定的な例は、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、例えばアリセプト(aricept)(ドンペジル)、エクセロン(exelon)(リバスチグミン)、レミニル(reminyl)(ガランタミン)、N-メチル-D-アスパルテート(NMDA)受容体アンタゴニスト、例えばAP5(APV、R-2-アミノ-5-ホスホノペンタノエート)、AP7(2-アミノ-7-ホスホノヘプタン酸)、CPPene (3-[(R)-2-カルボキシピペラジン-4-イル]-prop-2-エニル-l-ホスホン酸)、アマンタジン(Amantadine):デキストロメトルファン、デキストロルファン、イボガイン、ケタミン、メマンチン(Memantine)、一酸化二窒素、フェンシクリジン、リルゾール(Riluzole)、チレタミン(Tiletamine)、アプチガネル(Aptiganel)、HU−211、HU−210、レマシミド(Remacimide)、1−アミノシクロプロパンカルボン酸、DCKA(5,7-ジクロロキヌレン酸)、キヌレン酸、及びラコサミド(Lacosamide)を含む。
【0069】
本発明の組成物又は製品は、これに限定されないが、葉酸、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、ヌクレオチド、抗酸化剤などを含む他の組成物と組合せて投与されてもよい。
【0070】
本発明は、特定の実施例、プロセス工程、及びプロセス工程で記載された材料に限定されず、材料はある程度変わりうることは理解されるべきである。ここで用いられる用語法は、特定の態様を記述する目的でのみ用いられており、本発明の範囲が請求の範囲とその等価物によって限定されるように限定されることを意図していないことは理解されるであろう。
【0071】
明細書及び請求の範囲で用いられているように、単数形は明らかに他のものを指示する場合を除き、複数の指示物を含むことは留意されるべきである。
【0072】
明細書及び下記の請求の範囲を通して、文脈がこれ以外を示さない限り、「含む」及び「含んでいる」のような変化形の単語は、一定の完全体又は工程又は完全体又は工程の一群の包含を意味し、しかし、任意の他の完全体又は工程又は完全体又は工程の一群を排除しないと理解される。
【0073】
以下の実施例は、本発明を実行する側面において発明者によって用いられた技術の代表である。これらの技術は本発明の実行のための好ましい態様の代表であるとは言え、当該分野の技術者は、本願の開示に照らし合わせて、本発明の精神と意図された範囲から離れることなく多くの改変が可能であると認識することは明らかである。
【実施例】
【0074】
[実施例1]
本発明の脂質製剤の調製方法
脂質製剤A、Al、A2、C、D、F、G、H、I、J、K、L、M、及びNは、以下のように調製される。
魚(主にニシンとタラ(blue Whiting))に由来するバイオマスから抽出法によって製造した海洋性レシチンを有機溶媒中に溶解し、L−セリン、CaCl2、ホスホリパーゼD(PLD)及び酢酸バッファーを含有する水溶液とpH5.6で反応させた。得られたPS製剤を、水相を除去し、有機溶媒を蒸発し、さらなる精製工程によって精製した。得られた粉末は、PS脂肪酸から44%のPSと31%のDHAを含有した。
【0075】
PCに富むダイズレシチンを、L−セリン、CaCl2、PLD及び酢酸バッファーを含有する水溶性媒体とpH5.6で反応させた。得られたPS製剤を洗浄して水溶性物質(塩、セリンなど)を除き、さらに精製した。得られた粉末は、67.4%のPSを含んだ。
【0076】
海洋性レシチン起源から得られた粉末と、ダイズ起源から得られた粉末を、表5に記載した比で混合した。
【0077】
或いは、脂質製剤A、Al、A2、C、D、F、G、H、I、J、K、L、M、及びNは、以下のように調製される。
120グラムの海洋性レシチン及び60グラムのPCに富むダイズレシチンを共に、3リットルのガラス製研究室用反応器中で有機溶媒に溶解する。記述した有機溶媒を、L−セリン、CaCl2、PLD及び酢酸バッファーを含有する水溶液とpH5.6で反応させる。得られたPSは、水相を除去し、有機溶媒を蒸発させ、さらなる精製工程によって精製する。
【0078】
脂質製剤Bを以下のように調製した。
魚(主にニシンとタラ)に由来するバイオマスから抽出法によって製造された海洋性レシチンを、有機溶媒に溶解し、L−セリン、CaCl2、ホスホリパーゼD(PLD)及び酢酸バッファーを含有する水溶液とpH5.6で反応させた。得られたPS製剤を、水相を除去し、有機溶媒を蒸発させ、さらなる精製工程によって精製した。得られた粉末は、PS脂肪酸から44%のPSと31%のDHAを含有した。
【0079】
脂質製剤Eを以下のように調製した。
PCに富むダイズレシチンを、L−セリン、CaCl2、PLD及び酢酸バッファーを含有する水溶性媒体中、pH5.6で、PSと反応させた。得られたPSを洗浄して水溶性物質(塩、セリンなど)を除き、さらに精製した。得られた粉末は、67%のPSを含んだ。
【0080】
表5は、以下の実施例の製剤A、B、C、D、E及びFの脂肪酸の比と起源の比を示す。それらの脂質製剤のそれぞれの脂肪酸及びリン脂質含量は、表2及び3にさらに明示した。
【0081】
脂質製剤A、Al及びA2は、同じ製剤の異なるバッチである。脂質製剤A、Al及びA2は、PSに接合したリノール酸(C18:2)(LA)(w/w%)とPSに接合したドコサヘキサエン酸(DHA)(w/w%)の比が約0.9〜1.4であり、PSに接合したリノレン酸(18:3)(w/w%)とPSに接合したDHA(w/w%)の比が約0.08〜0.13であり、PSに接合したLA(18:2)(w/w%)とPSに接合したEPA(w/w%)の比が約2.3〜3.5であり、PSに接合したリノレン酸(18:3)(w/w%)とPSに接合したEPA(w/w%)の比が約0.2〜0.3であり、ここで、PSに接合した全てのDHAは、PSに接合した全ての脂肪酸の約19〜22%w/wを構成する。
【0082】
脂質製剤B(100%海洋性由来)は、PSに接合したリノール酸(LA)(C18:2)(w/w%)とPSに接合したDHA(w/w%)の比が最大で約0.02であり、PSに接合したリノレン酸(18:3)(w/w%)とPSに接合したDHA(w/w%)の比が最大で約0.02であり、PSに接合したLA(18:2)(w/w%)及びPSに接合したEPA(w/w%)の比が最大で約0.05であり、PSに接合したリノレン酸(18:3)(w/w%)とPSに接合したEPA(w/w%)の比が最大で約0.05であり、ここで、PSに接合した全てのDHAは、PSに接合した全ての脂肪酸の約31%を構成する。
【0083】
脂質製剤Cは、PSに接合したリノール酸(LA)(C18:2)(w/w%)とPSに接合したDHA(w/w%)の比が約0.1であり、PSに接合したリノレン酸(18:3)(w/w%)とPSに接合したDHA(w/w%)の比が約0.01であり、PSに接合したLA(18:2)(w/w%)とPSに接合したEPA(w/w%)の比が約0.23であり、PSに接合したリノレン酸(18:3)(w/w%)とPSに接合したEPA(w/w%)の比が約0.02であり、ここで、PSに接合した全てのDHAは、PSに接合した全ての脂肪酸の約30%w/wを構成する。
【0084】
脂質製剤Dは、PSに接合したリノール酸(LA)(C18:2)(w/w%)とPSに接合したDHA(w/w%)の比が約3.6であり、PSに接合したリノレン酸(18:3)(w/w%)とPSに接合したDHA(w/w%)の比が約0.3であり、PSに接合したLA(18:2)(w/w%)とPSに接合したEPA(w/w%)の比が約9.4であり、PSに接合したリノレン酸(18:3)(w/w%)とPSに接合したDHA(w/w%)の比が約0.8であり、ここで、PSに接合した全てのDHAは、PSに接合した全ての脂肪酸の約11%w/wを構成する。
【0085】
脂質製剤E(100%ダイズ由来)は、PSに接合したリノール酸(LA)(C18:2)(w/w%)とPSに接合したDHA(w/w%)の比が100以上であり、PSに接合したリノレン酸(18:3)(w/w%)とPSに接合したDHA(w/w%)の比が10以上であり、PSに接合したLA(18:2)(w/w%)とPSに接合したEPA(w/w%)の比が100以上であり、PSに接合したリノレン酸(18:3)(w/w%)とPSに接合したEPA(w/w%)の比が10以上であり、事実上、DHAを含まない。
【0086】
脂質製剤Fは、PSに接合したリノール酸(LA)(C18:2)(w/w%)とPSに接合したDHA(w/w%)の比が約9であり、PSに接合したリノレン酸(18:3)(w/w%)とPSに接合したDHA(w/w%)の比が約0.7であり、PSに接合したLA(18:2)(w/w%)とPSに接合したEPA(w/w%)の比が約23であり、PSに接合したリノレン酸(18:3)(w/w%)とPSに接合したDHA(w/w%)の比が約1.8であり、ここで、PSに接合した全てのDHAは、PSに接合した全ての脂肪酸の約5.6%w/wを構成する。
【0087】
過剰な炎症状況を避けるために、対象に、オメガ−3脂肪酸をオメガ−6脂肪酸と釣り合った比で補充することが好ましい。オメガ3脂肪酸は、出血時間を上昇させ、血小板凝集、血液粘性及びフィブリノーゲンを減少させ、赤血球変形能を上昇させ、これによって、血栓形成の傾向を減少させる。表8に、PSに接合したオメガ6とオメガ3脂肪酸の比を示し、製剤A、C及びDが釣り合いのとれた比を有することを示した。一方、<0.01(製剤Bにおけるように)又は>10(製剤Eにおけるように)の比は釣り合いがとれていないと見なされる。
【0088】
対象発明は、製剤A、C及びDに限定されないと理解されるべきである。例えば、50%、55%、60%、65%、70%、80%、85%、及び90%の海洋性材料(即ち、50%、45%、40%、35%、30%、20%、15%、及び10%のダイズ材料)を含む他の製剤(G−N)も想定される(表9)。
【0089】
[実施例2]
脂質製剤Aの有効性
I.脂質製剤A(上記実施例1に従って調製した)の有効性を、障害性の認知性能を有する高齢者で、単一施設、二重盲検、無作為抽出、プラセボ-コントロールで、〜3ヶ月の試験において調査した。
【0090】
試験設計に従って、160人の対象が無作為抽出されるようにし、続いて、二つの試験グループの一つにスクリーニングした。各試験グループは80人の対象であった。
【0091】
(a)200mgの脂質製剤Aを含有する1カプセルを、1日3回、食事と共に投与した。
(b)260−270mgのセルロースを含有するプラセボ−1カプセルを、1日3回、食事と共に投与した。
【0092】
脂質製剤A含有カプセル及びプラセボカプセルは、外見、食味及び臭いは同じであった。
【0093】
ベースライン及び〜3ヶ月の処置後に、製剤Aの処置を受けた15人の対象と、プラセボカプセルを受けた18人の対象の記憶機能を、NexAde コンピューター神経心理学的評価ソフトウェア(NexSig Neurological Examination Technologies Ltd, Israel)を用いて試験した。
【0094】
コンピューター神経心理学的評価ソフトウェアは、次の7つの別々のタスクから成っている:シンボル位置決定、パターン識別、パターン想起、数字シンボルの置換、数字範囲の順方向(digits span forward)、数字範囲の逆方向(digits span backward)及び遅延パターン想起。一つのタスクで得られた結果に基づいて、次の8つの認知複合スコアを算出した:注意集中(視覚、聴覚又は触覚の特定の刺激に別々に反応する能力)、注意持続(連続的及び反復性の活動の間に、一貫した行動上の応答を維持する能力)、記憶認知(以前に記憶した情報を確認する能力)、記憶想起(刺激/応答基準における記憶の探求と情報の呼び戻しを含む)、視空間学習、空間短期記憶(進行中の認知タスクに役立てることができるように、数秒間で空間情報を記憶する記憶系)、実行機能(executive functions)及び精神柔軟性。認知複合スコアの全てを考慮した最終スコアも算出した。ソフトウェアは、反復試験が可能である、相違はするものの等価である試験形態を提示した。全てのタスクがコンピューター制御され、以前のコンピューターの経験又はタイピングは必要なかった(Aharonson V, Korczyn AD: Human computer interaction in the administration and analysis of neuropsychological tests, elsevier science publishers B. V. 2004;73:43-53)。
【0095】
結果
図1は、脂質製剤Aが〜3ヶ月の処置期間後に記憶パラメーターを改善したことを示している。
【0096】
図1は、試験した記憶パラメーターの3つ、即ち、記憶想起、記憶認知及び空間短期記憶を示している。記憶想起及び認知は、我々の記憶から情報を取り戻すために用いられる「プロセス」である。記憶想起は刺激/応答基準における記憶の探求と情報の呼び戻しに関わり、記憶認知は以前に記憶した情報を確認する能力を示す。
【0097】
空間短期記憶は、進行中の認知タスクに役立てることができるように、数秒間で空間情報を記憶する記憶系である。図1に示された結果は、プラセボと比較して脂質製剤Aが学習及び記憶能力の認知性能を改善したことを示している。
【0098】
このように、脂質製剤Aは、軽度認知障害及び加齢に伴う記憶障害を改善した。
【0099】
II.脂質製剤A(上記実施例1に従って調製した)の有効性をさらに、障害性認知性能を有する52人の高齢者(年齢≧60)で、単一施設において、3ヶ月の試験で調査した。
対象は、200mgの脂質製剤A(100mgのPSを含有)を含有するカプセル一つを1日3回受けた。
【0100】
対象の記憶機能を、以下の試験手法を用いて、ベースラインと3ヶ月の処置後に試験した。
【0101】
1.NexAde(登録商標)コンピューター認知評価ツール(上記と同様)。
2.Rey-聴覚言語学習試験(AVLT)(Rey A: L'Examen Clinique en Psychologie Paris: Press Universitaire de France 1964)。
【0102】
この試験は、15の普通名詞のリストから成り、5回の連続した試行(試行1〜5)において対象に読み上げられた。各読み上げ後に自由な想起タスクがあった。試行6において、15の新たな普通名詞の干渉リストが提示され、続いて、新しい名詞が自由に想起された。試行7において、さらなる読み上げなしで、対象は、再び最初のリストを想起するよう依頼された。20分後、再度、さらなる読み上げなしで、対象は、最初のリストを再度想起することを依頼された(試行8)。この試験から以下の5つの異なるスコアがもたらされた:即時記憶想起(試行1スコア)、総合即時想起(試行1及び6のスコアの合計)、最善学習(試行5)、言語総合学習(試行1〜5のスコアの合計)及び遅延記憶想起(試行8)。
【0103】
結果
表1は、脂質製剤Aがコンピューター認知評価ツールの最終スコアを著しく改善したことを示している。このスコアは、種々の複合性のスコアを合計する修正計算値である。表1は、著しく改善した個々の試験(順方向及び逆方向の数字想起)及び特定の複合スコア(注意集中、記憶想起及び記憶認知)を示している。脂質組成物Aは、注意、記憶及び学習のような多数の認知パラメーターを著しく改善すると結論付けられた。
【表1】

【0104】
表2は、脂質製剤AがRey-AVLT手法の種々のパラメーターを改善したことを示しており、これによってさらに該製剤の認知増強性質を確認している。特に、脂質組成物Aは、即時及び遅延記憶想起、最善学習、総合学習及び総合即時想起を著しく改善した。
【表2】

【0105】
結論として、脂質製剤Aは、軽度認知障害及び加齢に伴う記憶障害を改善した。
【0106】
[実施例3]
脂質製剤B、C、D、E、及びFの有効性
記述した全ての試行は、同じ集団(障害性の認知性能を有する高齢の対象)と同じ認知評価ツールを用いて試験した。
【0107】
脂質製剤Bの有効性
脂質製剤B(上記実施例1に従って調製した)の有効性を、単一施設で、オープンラベルで、〜3ヶ月の試行で、障害性の認知性能を有する16人の高齢者(年齢≧60)で調査した。
【0108】
227mgの脂質製剤B(100mgのPSを含有)を含有する1カプセルを、食事と共に1日3回投与した。対象の記憶機能を、コンピューター認知評価ツールを基本的に上記実施例2で記載したように用いて、ベースラインと3ヶ月の処置後に試験した。
【0109】
結果
表3は、脂質製剤Bがコンピューター認知評価ツールの最終スコアを改善したことを示している。その改善は統計学的に有意でなかったとはいえ、その規模は脂質製剤Aの消費後のものに匹敵した(表1を参照)。個々の試験(順方向及び逆方向の数字想起)と脂質製剤Bによって改善された特定の複合スコア(空間短期記憶、注意集中、記憶想起及び記憶認知)においても改善が認められた。再度、その効果の規模は脂質製剤Aの処置後のものに匹敵した(表1を参照)が、その改善は統計学的有意に常には達しなかった。脂質製剤Bは、脂質製剤Aと類似する幾つかの認知パラメーターを改善すると結論づけられる。しかしながら、その改善が常には統計学的有意に達しないために、脂質製剤Aは、認知スキル及び軽度認知障害の処置及び年齢に関連する記憶減退の改善において脂質製剤Bを超える優位性を有するように見える。それらの結果は、脂質製剤Aと比較して脂質製剤Bがより低いLA/DHA比(より多いDHA)を有するために、驚くべきことである。
【表3】

【0110】
脂質製剤Cの有効性
脂質製剤Cの有効性が、単一施設で、オープンラベルで、〜3ヶ月の試行で、障害性の認知性能を有する8人の高齢者で調査される。
【0111】
222mgの脂質製剤C(100mgのPSを含有)を含有する1カプセルが食事と共に1日3回投与される。コンピューター認知評価ツール及びRey-AVLT を基本的に上記実施例2で記載したように用いて対象の記憶機能が試験される。
【0112】
結果
脂質製剤Cは、〜3ヶ月の処置期間の後に、記憶想起、記憶認知、注意、集中、学習及び空間短期記憶を改善する。試験された全てのパラメーターの改善は、脂質製剤A(実施例2)での3ヶ月の処置後の改善と同様であり、脂質製剤Bでの3ヶ月の処置後の改善と同じであるか又はより良かった。
【0113】
脂質製剤Dの有効性
脂質製剤Dの有効性が、単一施設で、オープンラベルで、〜3ヶ月の試行で、障害性の認知性能を有する8人の高齢者で調査される。
【0114】
176mgの脂質製剤D(100mgのPSを含有)を含有する1カプセルが食事と共に1日3回投与される。コンピューター認知評価ツール及びRey-AVLT を基本的に上記実施例2で記載したように用いて対象の記憶機能が試験される。
【0115】
結果
脂質製剤Dは、〜3ヶ月の処置期間の後に、記憶想起、記憶認知、注意、集中、学習及び空間短期記憶を改善する。試験された全てのパラメーターの改善は、脂質製剤A(実施例2)及びCでの3ヶ月の処置後の改善と同様であり、脂質製剤Bでの3ヶ月の処置後の改善と同様であるか又はより良かった。
【0116】
脂質製剤Eの有効性
脂質製剤E(上記実施例1に従って調製した)の有効性を、単一施設で、オープンラベルで、〜3ヶ月の試行で、障害性の認知性能を有する24人の高齢者(年齢≧60)で調査した。
【0117】
150mgの脂質製剤E(100mgのPSを含有)を含有する1カプセルを食事と共に1日3回投与した。対象の記憶機能を、Rey-AVLT手法を基本的に上記実施例2で記載したように用いて、ベースラインと3ヶ月の処置後に試験した。
【0118】
結果
表4は、脂質製剤Eが、脂質製剤Aと同様に、Rey-AVLT手法で試験されたパラメーターを改善したことを示している。しかしながら、脂質製剤Aと比較して効果の大きさはかなり小さかった。脂質製剤AとEの比較は、即時想起(p=0.05)及び総合即時想起(p=0.03)及び総合学習スコアにおける傾向(p=0.13)において二つの処置の間の、製剤Aに有利な統計学的に有意な相違を明らかにした。この相違は、認知衰退の処置において脂質製剤Eを超える脂質製剤Aの優位性を示している。
【表4】

【0119】
さらに、コンピューター認知評価ツールを基本的に実施例2で記載したように用いて、対象の記憶機能がベースラインと処置3ヶ月後に試験される。
【0120】
結果
脂質製剤Eは、記憶想起、記憶認知、注意、集中、学習及び空間短期記憶を、3ヶ月の処置期間の後に、微量な範囲だけ改善する傾向がある。試験された全てのパラメーターの改善は、脂質製剤A(実施例2)、B、C及びDの何れかによる3ヶ月の処置後の改善よりも低い。
【0121】
脂質製剤Fの有効性
脂質製剤の有効性が、単一施設で、オープンラベルで、〜3ヶ月の試行で、障害性の認知性能を有する8人の高齢者で調査される。
【0122】
162mgの脂質製剤F(100mgのPSを含有)を含有する1カプセルが食事と共に1日3回投与される。コンピューター認知評価ツール及びRey-AVLT を基本的に上記実施例2で記載したように用いて、対象の記憶機能が試験される。
【0123】
結果
脂質製剤Fは、〜3ヶ月の処置期間の後に、記憶想起、記憶認知、注意、集中、学習及び空間短期記憶を微量な範囲だけ改善する傾向がある。試験された全てのパラメーターの改善は、脂質製剤A(実施例2)、B、C及びDの何れかによる3ヶ月の処置後の改善より低い。
【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリングリセロリン脂質接合体の非哺乳類由来の混合物を含む製剤、ここで、該混合物は、(a)PSに接合したリノール酸(C18:2)及び(b)PSに接合したDHAを含み、ここで、(a)のw/w% /(b)のw/w% は、約0.09から約3.6であることを特徴とする製剤。
【請求項2】
前記セリングリセロリン脂質が、前記製剤の少なくとも10% w/wを構成する、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記セリングリセロリン脂質が前記製剤の少なくとも20% w/wを構成する、請求項2に記載の製剤。
【請求項4】
前記セリングリセロリン脂質が前記製剤の少なくとも40% w/wを構成する、請求項3に記載の製剤。
【請求項5】
前記セリングリセロリン脂質が前記製剤の少なくとも50% w/wを構成する、請求項4に記載の製剤。
【請求項6】
前記セリングリセロリン脂質が前記製剤の少なくとも54% w/wを構成する、請求項5に記載の製剤。
【請求項7】
(c)PSに接合したリノレン酸(C18:3)及び(d)PSに接合したDHAをさらに含み、ここで、(c)のw/w% /(d)のw/w% が約0.01から約0.3であることを特徴とする、請求項1〜6の何れか一項に記載の製剤。
【請求項8】
(e)PSに接合したリノール酸(C18:2)及び(f)PSに接合したEPAをさらに含み、ここで、(e)のw/w% /(f)のw/w% が約0.23から約9.4であることを特徴とする、請求項7に記載の製剤。
【請求項9】
(g)PSに接合したリノレン酸(C18:3)及び(h)PSに接合したEPAをさらに含み、ここで、(g)のw/w% /(h)のw/w% が約0.02から約0.8であることを特徴とする製剤。
【請求項10】
認知病又は認知障害を病んでいる対象の状態を改善する方法であって、請求項1〜9の何れか一項に記載の製剤を、それらを必要とする対象に投与することを含む方法。
【請求項11】
前記認知病又は認知障害が、以下からなる群から選択されることを特徴とする請求項10に記載の方法:注意欠陥障害、注意欠陥多動性障害、失読症、加齢に伴う記憶障害及び学習障害、健忘症、軽度認知障害、認知障害性の非痴呆、前アルツハイマー病、アルツハイマー病、パーキンソン病、前痴呆症候群、痴呆、年齢関連性の認知減退、認知衰退、中度精神障害、加齢による精神衰退、脳波の強度及び/又は脳グルコースの利用に影響する状態、ストレス、不安、うつ病、行動障害、集中及び注意障害、気分衰退、一般認知及び精神の健康、神経変性障害、ホルモン性障害及びそれらの任意の組合せ。
【請求項12】
栄養組成物、医薬品組成物又は栄養補助組成物又は機能性食品の製造のための、請求項1〜9の何れか一項に記載の製剤の使用。
【請求項13】
前記栄養組成物、医薬品組成物又は栄養補助組成物又は機能性食品は、認知病又は認知障害を病んでいる対象の状態を改善するためのものである、請求項12に記載の製剤の使用。
【請求項14】
請求項13に記載の使用であって、前記認知病又は認知障害が、以下からなる群から選択されることを特徴とする使用:注意欠陥障害、注意欠陥多動性障害、失読症、加齢に伴う記憶障害及び学習障害、健忘症、軽度認知障害、認知障害性の非痴呆、前アルツハイマー病、アルツハイマー病、パーキンソン病、前痴呆症候群、痴呆、年齢関連性の認知減退、認知衰退、中度精神障害、加齢による精神衰退、脳波の強度及び/又は脳グルコースの利用に影響する状態、ストレス、不安、うつ病、行動障害、集中及び注意障害、気分衰退、一般認知及び精神の健康、神経変性障害、ホルモン性障害及びそれらの任意の組合せ。
【請求項15】
栄養組成物、医薬品組成物又は栄養補助組成物又は機能性食品において用いるための、請求項1〜9の何れか一項に記載の製剤。
【請求項16】
認知病又は認知障害を病んでいる対象の状態の改善に使用するための、請求項1〜9の何れか一項に記載の製剤。
【請求項17】
請求項16に記載の製剤であって、前記認知病又は認知障害が、以下からなる群から選択されることを特徴とする製剤:注意欠陥障害、注意欠陥多動性障害、失読症、加齢に伴う記憶障害及び学習障害、健忘症、軽度認知障害、認知障害性の非痴呆、前アルツハイマー病、アルツハイマー病、パーキンソン病、前痴呆症候群、痴呆、年齢関連性の認知減退、認知衰退、中度精神障害、加齢による精神衰退、脳波の強度及び/又は脳グルコースの利用に影響する状態、ストレス、不安、うつ病、行動障害、集中及び注意障害、気分衰退、一般認知及び精神の健康、神経変性障害、ホルモン性障害及びそれらの任意の組合せ。
【請求項18】
請求項1〜9の何れか一項に記載の製剤を含む、栄養組成物、医薬品組成物又は栄養補助組成物又は機能性食品。

【図1】
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【公表番号】特表2011−525525(P2011−525525A)
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515729(P2011−515729)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【国際出願番号】PCT/IL2009/000626
【国際公開番号】WO2009/156991
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(510341444)エンジモテック・リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】ENZYMOTEC LTD.
【住所又は居所原語表記】P.O.Box 6, 5 Hatasiya Street, 23106 Migdal Haemek, Israel
【Fターム(参考)】