説明

誘導加熱装置の水冷コンデンサ故障診断方法

【課題】誘導加熱装置の並列発振回路を形成する水冷コンデンサを回路から切り離すことなくオンラインで故障診断することができる、誘導加熱装置の水冷コンデンサ故障診断方法を提供することを課題とする。
【解決手段】集合体容量を複数直列につないで形成された水冷コンデンサと加熱コイルを備えた誘導加熱装置の水冷コンデンサの故障を検出する、誘導加熱装置の水冷コンデンサ故障診断方法であって、鋼板加熱直前の予備発振状態での発振周波数の実測値に基いて、前記水冷コンデンサの故障を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板を加熱するために用いる、加熱コイルと水冷コンデンサによる共振回路を備えた誘導加熱装置の水冷コンデンサ故障状態をオンラインで検出する、誘導加熱装置の水冷コンデンサ故障診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、誘導加熱装置の水冷コンデンサの内部絶縁破壊の診断には、コンデンサを回路から切り離した上でLCR測定器(インダクタンス、キャパシタンス、インピーダンス 測定器)を用いて数値を確認する方法、コンデンサを解体して内部調査する方法、または、同じく解体して内部絶縁油の成分を調査する方法が用いられていた。
【0003】
しかしながら、上記方法は、いずれもコンデンサを回路から切り離す必要があるため、オンライン状態での劣化状況の把握はもとより、故障の早期検知は不可能である。また、解体となれば、診断対象のコンデンサを再利用することさえも不可能となるという問題がある。
【0004】
これに対して、例えば、特許文献1には、加熱コイルの劣化状態を回路接続状態で把握する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭63−5871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示された技術は、本発明が対象とする誘導加熱装置の水冷コンデンサを診断するものでなく、コンデンサとともに共振回路を構成する加熱コイルを診断する方法である。さらに、診断用にパルス電圧発生回路を付加する必要があり、厳密な意味でのオンライン状態での検知方法ではないという問題がある。
【0007】
上述した、3つの水冷コンデンサの内部絶縁破壊診断方法は、いずれも調査するという目的ですらコンデンサを回路から切り離す必要があるため、オンラインでは不可能である。しかも、解体となればそのコンデンサは再利用することさえ不可能となってしまう。つまり、コンデンサ故障による回路異常が、発振不可能な状態となって初めて検出されるといった問題があった。
【0008】
本発明では、これら従来技術の問題点に鑑み考案されたものであり、誘導加熱装置の並列発振回路を形成する水冷コンデンサを回路から切り離すことなくオンラインで故障診断することができる、誘導加熱装置の水冷コンデンサ故障診断方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係る発明は、集合体容量を複数直列につないで形成された水冷コンデンサと加熱コイルを備えた誘導加熱装置の水冷コンデンサの故障を検出する、誘導加熱装置の水冷コンデンサ故障診断方法であって、鋼板加熱直前の予備発振状態での発振周波数の実測値に基いて、前記水冷コンデンサの故障を検出することを特徴とする誘導加熱装置の水冷コンデンサ故障診断方法である。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載の誘導加熱装置の水冷コンデンサ故障診断方法において、前記実測値が、正常時の前記発振周波数を所定の値以上下回った場合に、前記水冷コンデンサの内の故障した集合体容量の個数を特定することを特徴とする誘導加熱装置の水冷コンデンサ故障診断方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、オンライン状態でコンデンサの故障状態を検出できるようにしたので、内部状態を発振不可能な状態となる前に把握することが可能となった。そのため、何らかの異常が検知された時点で、誘導加熱装置が発振不可能な状態となる前に補修計画を立てられることから、不要な突発的生産活動停止などを防ぐことが可能であり、ライン生産性向上の面でも有益である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】熱間圧延工場における装置構成例を示す図である。
【図2】誘導加熱装置の構成例を示す図である。
【図3】水冷コンデンサの回路および集合容量の構造を示す図である。
【図4】エレメントの1つが絶縁不良(短絡状態)となった場合の様子を示す図である。
【図5】誘導加熱装置の回路(正常時、短絡時)を示す図である。
【図6】発振周波数の実測値の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、集合体容量を複数直列につないで形成された水冷コンデンサの内部で一部絶縁破壊が起こった場合の故障検出をオンラインで行うものである。これにより、誘導加熱装置内の水冷コンデンサが完全に発振不可能な状態となる前に、オンライン状態のままで故障の検出が可能となる。より詳しくは、鋼板加熱直前の予備発振時における発振周波数を記録し、予め求めておいた正常状態における前記発振周波数と比較することで、オンライン状態で正常か異常かの判断を行う。
【0014】
加熱コイルとコンデンサからなる共振回路を有する誘導加熱装置の発振周波数は、以下の(1)式にて表される。
【0015】
【数1】

【0016】
(1)式から、コンデンサの内部異常によりCが変化すると、その変化に応じて発振周波数fが変化する。つまり発振周波数fが異常コンデンサのC分変化することを利用し、正常状態における発振周波数とC分変化したときの発振周波数の変化を比較することで、オンライン状態でのコンデンサ異常検知を可能とする。
【0017】
なお、本発明では、発振周波数の変化を比較する際には、鋼板によるL変化分を除去するために、鋼板加熱前の予備発振時の発振周波数で比較するようにしている。
【実施例】
【0018】
熱間圧延工場での粗出側シートバーの誘導加熱装置(シートバーヒーター)における実施例を具体的に説明する。
【0019】
図1は、熱間圧延工場における装置構成例を示す図である。図2は、誘導加熱装置の構成例を示す図である。図3は、水冷コンデンサの回路および集合体容量の構造を示す図である。図4は、エレメントの1つが絶縁不良(短絡状態)となった場合の様子を示す図である。図5は、誘導加熱装置の回路(正常時、短絡時)を示す図である。さらに、図6は、発振周波数の実測値の一例を示す図である。
【0020】
図中、1は加熱炉、2は粗圧延機、3は接合装置、4は誘導加熱装置、5は仕上圧延機、6は圧延シートバー、7は加熱コイル、8は交流電源(インバータ装置)、9はブスバー、10は水冷コンデンサ、11は端子、12はエレメント、13は電極、14は水冷パイプ、15はケース、および16は集合体容量をそれぞれ表す。
【0021】
加熱炉1で抽出された被圧延材は、粗圧延機3で粗圧延されて、接合装置3で接合されて誘導加熱装置4(この例では2台並べて配置)に搬送されて誘導加熱処理を施され、最終的に仕上圧延機5で所定の厚さに仕上圧延される(図1参照)。
【0022】
誘導加熱装置4は、図2で示す構成をしており、加熱コイル1と水冷コンデンサ10を銅板などでできたブスバー9で接続して並列共振回路を構成し、これに交流電源(インバータ装置)8より高周波交流電圧を印加し、誘導電流で圧延シートバー6を誘導加熱する。
【0023】
本実施例では、全体で25個の水冷コンデンサ10を並列接続している。さらに、1個の水冷コンデンサ10は、2個の集合体容量16の端子11をブスバー9で直列に接続することで構成されている(図3(a))。ここで、集合体容量16を何個直列に接続して1個の水冷コンデンサを構成するかは、1個の水冷コンデンサに求められる必要静電容量から決めるようにすれば良い。
【0024】
集合体容量16の構造は図3(b)に示すように、ケース15の内部に、水冷用の水冷パイプ14、電極13が配され、さらにエレメント12と呼ばれる単体コンデンサ素子が並列に積み重なった構造となっている。
【0025】
次に、図4〜6を参照して、本実施例における本発明の具体的な適用について説明する。図4に示す、25個並列接続した水冷コンデンサにおける1つの直列接続した集合体容量の内部エレメントの1つが、絶縁不良(短絡状態(ショート))した場合を考える。この場合、当該エレメントを含む並列接続された集合体容量の回路全体が通電状態となってしまうため、直列接続された一方のキャパシタンス分は無効化されてしまうこととなる。
【0026】
図5に、正常時(a)および上記短絡時(b)における誘導加熱装置の回路図を示す。1つの集合体容量のキャパシタンスをC0とすると、正常時(a)の総キャパシタンスC、および上記短絡時(b)(水冷コンデンサの1つで半分ショート状態)の総キャパシタンスC’は、それぞれ(2)、(3)式のように表すことができる。
【0027】
【数2】

【0028】
【数3】

【0029】
そして、前述の(1)式ならびに(2)、(3)式から、短絡時(b)における発振周波数f’と、正常時(a)における発振周波数fとには、以下の(4)式に示す関係がある。
【0030】
【数4】

【0031】
すなわち、上記短絡時(b)(25個ある水冷コンデンサの1つで半分ショート状態)では、正常時(a)に比べて発振周波数が2%低くなることを示している。
【0032】
本実施例での誘導加熱装置(シートバーヒーター)では、発振周波数は通常約1500Hzであるため、その2%すなわち30Hzの発振周波数の変動が検知できれば、上記短絡の発生を検知できることになる。
【0033】
鋼板加熱直前の予備発振状態における発振周波数の実績値には、ばらつきはあるもののせいぜい±5Hz程度の変動である。そのため、上記30Hzの発振周波数変化は十分検知できるレベルにある。
【0034】
図6は、予備発振状態前後での発振周波数の実績値の一例を示す図である。1470Hzに異常検知のための閾値を設けている。
【0035】
図では、1つの集合体容量での短絡を見付けるために、1470Hzに異常検知のための閾値を設けているが、30Hzの整数倍で異常検知レベルを変更すれば、異常発生コンデンサ個数の把握も可能となる。
【0036】
以上説明したように、本発明は、誘導加熱装置で測定される鋼板加熱直前の予備発振状態での発振周波数の実測値に基いて、オンライン状態での誘導加熱装置の水冷コンデンサ故障診断を可能としている。これにより、水冷コンデンサの内部状態を事前に把握できるため、誘導加熱装置が発振不可能な状態となる前に補修計画を立てられることから、不要な突発的生産活動停止などを防ぐことが可能であり、ライン生産性向上の面でも有益である。
【符号の説明】
【0037】
1 加熱炉
2 粗圧延機
3 接合装置
4 誘導加熱装置
5 仕上圧延機
6 圧延シートバー
7 加熱コイル
8 交流電源(インバータ装置)
9 ブスバー
10 水冷コンデンサ
11 端子
12 エレメント
13 電極
14 水冷パイプ
15 ケース
16 集合体容量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集合体容量を複数直列につないで形成された水冷コンデンサと加熱コイルを備えた誘導加熱装置の水冷コンデンサの故障を検出する、誘導加熱装置の水冷コンデンサ故障診断方法であって、
鋼板加熱直前の予備発振状態での発振周波数の実測値に基いて、前記水冷コンデンサの故障を検出することを特徴とする誘導加熱装置の水冷コンデンサ故障診断方法。
【請求項2】
請求項1に記載の誘導加熱装置の水冷コンデンサ故障診断方法において、
前記実測値が、正常時の前記発振周波数を所定の値以上下回った場合に、前記水冷コンデンサの内の故障した集合体容量の個数を特定することを特徴とする誘導加熱装置の水冷コンデンサ故障診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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