説明

誘導加熱装置及びその構築方法

【課題】連結される一方の誘導加熱ユニットの管体の端部と他方の誘導加熱ユニットの管体の端部との芯ずれを吸収でき、発熱する各管体の端部がその並設方向に揃うことによって非加熱領域が生じてしまうことを回避した誘導加熱装置及びその構築方法を提供する。
【解決手段】被加熱部材11と被加熱部材11に複数並設された管体12とを備えた誘導加熱ユニット10aを直列に連結する。連結される誘導加熱ユニット10を、隣り合う管体12の端部12aの位置が異なるように構成し、連結される一方の誘導加熱ユニット10aの管体12の端部12aと、他方の誘導加熱ユニット10aの管体12の端部12aとの間に、屈曲可能な中間管17を介設する。これにより連結される双方の管体12の端部12a同士の芯ずれを吸収できる。また、隣り合う管体12の端部12aの位置が異なるため発熱位置が補完し合って非加熱領域の発生を回避できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導電流によって発熱する管体が複数並設された誘導加熱ユニットを、直列に連結して成る誘導加熱装置及びその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導加熱装置として、水門、道路、鉄塔又は橋梁等の凍結防止部に配設された略板状の被加熱部材と、被加熱部材上に複数並設された管体と、管体に挿通された絶縁電線とを備え、絶縁電線に交流電流を通電することで管体に誘導電流を生じさせて管体を発熱させ、管体の熱で被加熱部材を加熱するようにしたものが知られている(特許文献1〜3参照)。かかる誘導加熱装置は、例えば、水門設備に適用した場合、水門の扉体が戸当たり金物に氷着することを防止し、道路に適用した場合、車道面や歩道面を融雪して凍結を防止し、鉄塔や橋梁に適用した場合、冠雪や着雪を防止することができる。
【0003】
上述した誘導加熱装置の管体及び被加熱部材は、水門、道路、鉄塔又は橋梁等の凍結防止部に沿って配設されるため、凍結防止部の長さに合わせて、管体及び被加熱部材も長くする必要がある。このため、従来、所定長さの被加熱部材及び管体を有する誘導加熱ユニットを予め複数製造しておき、これら誘導加熱ユニットを直列に連結することで、実際の凍結防止部の長さに合致した誘導加熱装置を構築するようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭57−40293号公報
【特許文献2】特開2009−243190号公報
【特許文献3】特開2009−256942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、誘導加熱ユニット同士を直列に連結する際には、連結される一方の誘導加熱ユニットに備えられた複数の管体と、他方の誘導加熱ユニットに備えられた複数の管体とを、芯合わせして連結する。この芯合わせは、従来、連結される双方の誘導加熱ユニットを大凡の位置に対向させて配置した後、一方の誘導加熱ユニットを微少に移動させることで、一方の誘導加熱ユニットの各管体の芯を他方の誘導加熱ユニットの各管体の芯に合わせるようにしていた。
【0006】
しかし、誘導加熱ユニットの重量が一定以上に重い場合には、誘導加熱ユニットを微少に移動させて上述した芯合わせを行うことが非常に困難となり、施工期間の長期化を招くという問題があった。例えば、この誘導加熱装置を水門設備に適用する場合、水門の扉体が当接される戸当たり金物が被加熱部材となり、被加熱部材の長さを数メートル程度に設定しても、その重量は数トン程度となり得る。このように重い被加熱部材(戸当たり金物)を有する誘導加熱ユニットを微少に移動させて、上述した芯合わせを行うことは非常に困難であった。
【0007】
また、連結される一方の誘導加熱ユニットの各管体と、他方の誘導加熱ユニットの各管体とは、管継手によって接続される。この管継手の部分においては、管体の部分と異なり、誘導電流による適切な発熱が期待できない。従来、誘導加熱ユニットの各管体の端部の位置がその並設方向に揃っていたため、各管体の端部に装着される管継手も並設方向に揃ってしまい、それら管継手の部分において管体の並設方向に非加熱領域が生じて、被加熱部材(戸当たり板)を加熱することができない領域が発生するという問題があった。
【0008】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、連結される一方の誘導加熱ユニットの管体の端部と他方の誘導加熱ユニットの管体の端部との芯ずれを容易に吸収でき、且つ発熱する各管体の端部がその並設方向に揃うことによって非加熱領域が生じてしまうことを回避できる誘導加熱装置及びその構築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために創案された本発明に係る誘導加熱装置の構築方法は、被加熱部材と被加熱部材に複数並設された管体とを有する誘導加熱ユニットを複数直列に連結して、各誘導加熱ユニットの被加熱部材同士及び管体同士を接続し、管体に挿通させた絶縁電線に交流電流を通電することで管体に誘導電流を生じさせて管体を発熱させるようにした誘導加熱装置の構築方法であって、連結される各誘導加熱ユニットを、その誘導加熱ユニットに複数並設される管体の隣り合う端部の位置が異なるように、夫々構成する第1工程と、連結される一方の誘導加熱ユニットの被加熱部材と他方の誘導加熱ユニットの被加熱部材とを接合する第2工程と、一方の誘導加熱ユニットの管体の端部と、他方の誘導加熱ユニットの管体の端部との間に、屈曲可能な中間管を介設させる第3工程とを有することを特徴とする誘導加熱装置の構築方法である。
【0010】
本発明に係る誘導加熱装置は、被加熱部材と被加熱部材に複数並設された管体とを有する誘導加熱ユニットを複数直列に連結して、各誘導加熱ユニットの被加熱部材同士及び管体同士を接続し、管体に挿通させた絶縁電線に交流電流を通電することで管体に誘導電流を生じさせて管体を発熱させるようにした誘導加熱装置であって、連結される各誘導加熱ユニットが、その誘導加熱ユニットに複数並設される管体の隣り合う端部の位置が異なるように夫々構成され、連結される一方の誘導加熱ユニットの被加熱部材と他方の誘導加熱ユニットの被加熱部材とが接合され、一方の誘導加熱ユニットの管体の端部と、他方の誘導加熱ユニットの管体の端部との間に、屈曲可能な中間管が介設されたことを特徴とする誘導加熱装置である。
【0011】
中間管が、中間管本体と、中間管本体の両端に装着されて管体の端部に連結される管継手とを備えていてもよい。
【0012】
中間管本体が、管継手に装着される厚肉部と、厚肉部よりも薄く形成されて屈曲し易い薄肉部とを有していてもよい。
【0013】
中間管本体に、屈曲のための蛇腹部が形成されていてもよい。
【0014】
中間管本体が、磁性体から成っていてもよい。
【0015】
中間管本体が、非磁性体から成っていてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る誘導加熱装置及びその構築方法によれば、連結される一方の誘導加熱ユニットの管体の端部と他方の誘導加熱ユニットの管体の端部との芯ずれを容易に吸収でき、且つ発熱する各管体の端部がその並設方向に揃うことによって非加熱領域が生じてしまうことを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態に係る誘導加熱装置が備えられた水門設備(ラジアルゲート)の説明図であり、(a)は水門設備の側断面図、(b)は(a)のb−b線断面図である。
【図2】図1に示す誘導加熱装置の全体を示す斜視図である。
【図3】図2に示す誘導加熱装置を構成する誘導加熱ユニット同士を連結する際の最初の工程(誘導加熱装置の構築方法の第1工程)を示す平面図である。
【図4】同じく第2工程、第3工程を示す平面図である。
【図5】図4の第3工程で用いられる中間管の説明図であり、(a)は芯ずれが無い場合の説明図、(b)は芯ずれを吸収した場合の説明図である。
【図6】図4、図5の中間管に用いられる管継手(食い込み式管継手)の説明図であり、(a)は食い込み式管継手の半断面図、(b)は食い込み式管継手に管体と中間管本体とを連結させた様子を示す半断面図である。
【図7】図4に続く最後の工程を示す平面図である。
【図8】本発明の変形実施形態を示す説明図であり、(a)は第2実施形態に係る誘導加熱装置の中間管の説明図、(b)は第3実施形態に係る誘導加熱装置の中間管の説明図である。
【図9】本発明の第4実施形態に係る誘導加熱装置の概要を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0019】
(水門設備1)
本発明の第1実施形態に係る誘導加熱装置が組み込まれた水門設備を図1(a)、図1(b)を用いて説明する。図1(a)は水門設備(ラジアルゲート)の側断面図、図1(b)は図1(a)のb−b線断面図である。
【0020】
この水門設備1は、河川等の底部に間隔を隔てて立設されたコンクリート製の堰柱2と、各堰柱2に回動可能に取り付けられたアーム3と、隣り合う堰柱2のアーム3同士を架け渡して設けられた扉体4とを備えており、アーム3を図示しないジャッキ等のアクチュエータで回動軸5回りに回動させることで、扉体4を昇降させて開閉するもの(ラジアルゲート)である。なお、図1の矢印6は水流の方向を示す。
【0021】
堰柱2には、扉体4の幅方向の端部が嵌り込む段差部7が形成されており、段差部7には、扉体4の端部に装着された止水シール8が押し付けられる戸当たり金物(戸当たり板)9が、段差部7の下端7aから上端7bに亘って設けられている。段差部7の内部のコンクリートには、戸当たり板9を加熱する誘導加熱装置10が埋設されている。誘導加熱装置10は、冬季や厳冬期に、戸当たり板9を加熱することで、扉体4の止水シール8が戸当たり板9に氷着して扉体4が開閉不能となる事態を防止する。
【0022】
(誘導加熱装置10)
堰柱2の段差部7内に設けられた誘導加熱装置10の概要を図2を用いて説明する。図2は誘導加熱装置10の斜視図である。誘導加熱装置10は、被加熱部材11としての戸当たり板9と、被加熱部材11(戸当たり板9)に複数並設された管体12と、管体12に挿通された絶縁電線13と、絶縁電線13に接続された交流電源14とを備え、絶縁電線13に交流電流を通電することで管体12に誘導電流を生じさせて管体12を発熱させ、管体12の熱で被加熱部材11(戸当たり板9)を加熱するものである。
【0023】
(被加熱部材11)
被加熱部材11としての戸当たり板9は、図2では、説明の便宜上、平板状に表されているが、実際には、図1(a)に示す堰柱2の段差部7の下端7aから上端7bに架けて、扉体4の回動軌跡に沿った弧状に形成されている。また、かかる戸当たり板9に取り付けられる管体12も、同様の理由により、実際には弧状に形成されている。戸当たり板9の材質には、防錆を考慮してステンレスが用いられることが多いが、防錆用の塗装を施せば炭素鋼等を用いてもよい。なお、戸当たり板9は、断面板状のものに限られず、H型鋼やI型鋼等を用いても構わない。
【0024】
(管体12)
戸当たり板9には、誘導電流によって発熱する管体12が、段差部7の下端7aから上端7bに亘って弧状に複数並設されている。管体12の並設本数は、図2では4本であるが2本以上であれば本数は限られない。管体12の材質には、管体12に挿通された絶縁電線13に交流電流を通電したとき誘導電流が生起され易い材質として、磁性体(SGP、STK、STKN等の炭素鋼の他、コバルト、ニッケル等)が用いられている。本実施形態では、管体12に鋼管(SGP管:配管用炭素鋼管)を用いている。
【0025】
(絶縁電線13)
管体12には、絶縁電線13が挿通されている。絶縁電線13は、図2に示すように、1本の絶縁電線13を並設された複数の管体12に折り返すように挿通してその両端に交流電源14を接続した直列式としてもよいが、並列式としてもよい。並列式とする場合、並設された各管体12に絶縁電線13をそれぞれ挿通し、それら絶縁電線13の両端部を纏め、交流電源14に接続する。交流電源14には、50Hz又は60Hzの商用周波数の交流電源を用いてもよいが、これに限られるものではない。
【0026】
絶縁電線13は、管体12に挿通されているため、堰柱2のコンクリート打設時の水分や鋭利な突起等から防護される。また、絶縁電線13は、管体12に引き抜き可能に挿通されており、数年から数十年毎に行われるメンテナンス時に、絶縁電線13の端部を把持して牽引することで、管体12から引き抜かれる。
【0027】
絶縁電線13には、耐熱絶縁電線(耐熱絶縁ケーブル)が用いられている。絶縁電線13に交流電流を通電した際、管体12が発熱するため、その熱によって絶縁電線13が熱損傷することを回避する必要があるからである。なお、絶縁電線13は、絶縁性を有しているため、交流電流を通電した際、その交流電流が絶縁電線13から管体12を介して被加熱部材11(戸当たり板9)へ漏電することを防止できることは勿論である。
【0028】
(短絡板15)
並設された各管体12には、図2に示すように、それらを並設方向に架け渡すように配置された短絡板15が、管体12の長手方向に間隔を隔てて配設されている。短絡板15は、並設された各管体12同士を電気的に接続し、管体12(鋼管)の外周面に発生する交流磁界を相殺する機能を発揮する。これにより、管体12に生起された誘導電流が管体12の外周面から漏電することを回避できる。
【0029】
(伝熱セメント16)
管体12は、被加熱部材11(戸当たり板9)に近くなるように(望ましくは接するように)配置された状態で、溶接によって被加熱部材11に仮止めされており、管体12と戸当たり板9との接続部には、伝熱セメント16が充填されている。伝熱セメント16は、粉末状の炭素、セラミック、珪酸ソーダ、カルシウムシリケイト等から構成されており、管体12と被加熱部材11とを繋ぐことで、誘導電流によって発熱した管体12の熱を効率よく被加熱部材11に伝導する。
【0030】
伝熱セメント16は、本実施形態では、図2に示すように、各管体12の全周を覆って各管体12が一塊りとなるように塊状に施工されているが、各管体12と被加熱部材11(戸当たり板9)とを繋ぐように、図2において各管体12の下部と被加熱部材11(戸当たり板9)との接続部のみに施工されてもよい。なお、溶接を省略し、管体12を伝熱セメント16によって被加熱部材11(戸当たり板9)に取り付けるようにしてもよい。
【0031】
(誘導加熱ユニット10a)
誘導加熱装置10の加熱対象である被加熱部材11(戸当たり板9)は、図1(a)に示す堰柱2の段差部7の下端7aから上端7bに架けての部分(凍結防止部7c)に弧状に配設される。よって、堰柱2の段差部7の下端7aから上端7bまでの長さに合わせて、被加熱部材11(戸当たり板9)及びそれに装着される管体12も長く設定する必要がある。このため、図2に示す誘導加熱装置10の被加熱部材11(戸当たり板9)及び管体12を長手方向に複数分割して成る、定長さの被加熱部材11(戸当たり板9)及び管体12を有する誘導加熱ユニット10a(図3参照)を予め複数製造しておき、これら誘導加熱ユニット10aを直列に連結することで、全体として凍結防止部7cの長さに合致した誘導加熱装置10を構築する。
【0032】
図3に示すように、連結される誘導加熱ユニット10aは、所定長さに形成された被加熱部材11(戸当たり板9)と、その戸当たり板9に複数並設された管体12とを備えており、管体12に挿通された絶縁電線13(図4参照)に交流電源14(図2参照)から交流電流を通電することで管体12に誘導電流を生じさせ、管体12を発熱させて被加熱部材11(戸当たり板9)を加熱するものである。かかる誘導加熱ユニット10aにおいて、被加熱部材11としての戸当たり板9の長さ及び戸当たり板9に装着される管体12の長さは、図1(a)に示す堰柱2の段差部7の下端7aから上端7bに架けての凍結防止部7cの長さを、連結すべき誘導加熱ユニット10aの数やサイズに応じて分割した長さとなっている。これら誘導加熱ユニット10aの管体12は、隣り合う管体12の端部12aの位置が階段状に異なるようにずらされて戸当たり板9に取り付けられ、それら端部12aを除く部分が伝熱セメント16によって覆われている。
【0033】
(誘導加熱ユニット10aの連結)
かかる誘導加熱ユニット10aは、次のようにして連結される。先ず、図4に示すように、連結される一方の誘導加熱ユニット10aの被加熱部材11(戸当たり板9)と他方の誘導加熱ユニット10aの被加熱部材11(戸当たり板9)を突き合わせて接合(溶接)する。この際、接合される双方の被加熱部材11(戸当たり板9)の表面に段差が生じないように、被加熱部材11(戸当たり板9)同士を接合する。戸当たり板9の接合部に段差が存在すると、止水シール8(図1(b)参照)による止水性が低下してしまうからである。この時点で、一方の誘導加熱ユニット10aの管体12の芯と、他方の誘導加熱ユニット10aの管体12の芯とがずれていても構わない。
【0034】
(中間管17)
次に、接続すべき一方の管体12の端部12aと他方の管体12の端部12aとの距離Aを測定し、この距離Aを基準として屈曲可能な中間管17を製作する。中間管17は、中間管本体18と、中間管本体18の両端に装着されて管体12の端部12aに連結される管継手19とを有する。中間管17を図5、図6を用いて説明する。図5(a)は管体12の端部12a同士に芯ずれが無い場合の中間管17の説明図、図5(b)は芯ずれがあった場合の中間管17の説明図、図6(a)は中間管17の管継手(食い込み式管継手)19の部分の半断面図、図6(b)は、食い込み式管継手19の両端に管体12と中間管本体18とを夫々連結させた様子を示す半断面図である。
【0035】
中間管17は、中間管本体18と、中間管本体18の両端に装着された食い込み式管継手19とを有し、中間管本体18は、食い込み式管継手19に装着される丈夫な厚肉部18aと、厚肉部18aよりも薄く形成されて屈曲し易い薄肉部18bとを有する。食い込み式管継手19は、中央にナット部19aが形成された筒状の継手本体19bと、継手本体19bの両端外周に形成された雄ネジに螺号されたナット19cと、ナット19cの内方に配設されナット19cをネジ込むことで継手本体19bの両端内周に形成されたスロープ19dに乗り上がる締め付け部19eとを有する。
【0036】
かかる中間管17は、図5(a)に示すように、中間管本体18の両端の厚肉部18aが夫々食い込み式管継手19に挿入されてナット19cがネジ込まれることによって、中間管本体18の両端の厚肉部18aに食い込み式管継手19が装着された状態となっている。ここで、中間管本体18は、薄肉部18bではなく厚肉部18aが食い込み式管継手19に挿入されているため、ナット19cがネジ込まれた際に締め付け部19eによって厚肉部18aが締め付けられても、損傷することはない。すなわち、中間管本体18の厚肉部18aの肉厚は、食い込み式管継手19のナット19cをネジ込んで締め付け部19eによって締め付けられた際、損傷しない肉厚(例えば2.3mm)に設定されている。中間管本体18は、食い込み式管継手19に装着される斯様な丈夫な厚肉部18aと、屈曲を許容する薄肉部18bとから構成されることで、耐久性と屈曲性とを両立できる。
【0037】
薄肉部18b及び厚肉部18aから成る中間管本体18の材質には、本実施形態では磁性体(SGP、STK、STKN等の炭素鋼の他、コバルト、ニッケル等)が用いられている。よって、図4に示すように、中間管本体18に挿通された絶縁電線13に交流電流を通電することで、中間管本体18に誘導電流が生起され、中間管本体18が発熱することになる。ここで、中間管本体18の薄肉部18bの肉厚は、絶縁電線13に交流電流を通電することによって絶縁電線13の周囲に生じる交番磁束を的確に捉え、誘導電流に転換して薄肉部18bを適切に発熱させることができる肉厚に設定されている。この肉厚は、交流電流が50Hzの場合、例えば.1.0mmに設定される。
【0038】
また、この薄肉部18bの板厚(例えば1.0mm)は、連結される一方の誘導加熱ユニット10aの管体12の端部12aと他方の誘導加熱ユニット10aの管体12の端部12aとの芯ずれを吸収するように薄肉部18bが屈曲された際(図5(b)参照)、その屈曲を容易に許容すると共に薄肉部18bが損傷しない肉厚でもある。具体的には、中間管本体18にサイズ10AのSGP管(配管用鋼管)を用い、薄肉部18bの長さを200〜400mm、板厚を1.0mm、厚肉部18aの長さを20mm、板厚を2.3mmとした場合、3mm程度の芯ずれを吸収して屈曲しても薄肉部18bは損傷しない。
【0039】
このような中間管17は、図4に示すように、連結される一方の誘導加熱ユニット10aの管体12の端部12aと他方の誘導加熱ユニット10aの管体12の端部12aとの間に、次のようにして装着される。先ず、中間管17の一方の食い込み式管継手19を一方の管体12の端部12aに被せ、中間管本体18の薄肉部18bを屈曲させつつ、中間管17の他方の食い込み式管継手19を他方の管体12の端部12aを被せ、最後に屈曲させた中間管本体18の薄肉部18bを極力平らになるように変形させて、中間管17を双方の管体12の端部12aの間に装着する。その後、食い込み式管継手19の管体12側のナット19cをネジ込み、管体12の端部12aに食い込み式管継手19を固定する。その後、図7に示すように、中間管17を覆うように新たな伝熱セメント16aを施工することで、誘導加熱装置10が構築される。
【0040】
(作用・効果)
本実施形態に係る誘導加熱装置10及びその構築方法によれば、連結される一方の誘導加熱ユニット10aの被加熱部材11(戸当たり板9)と他方の誘導加熱ユニット10aの被加熱部材11(戸当たり板9)とを突き合わせた状態で、一方の誘導加熱ユニット10aの管体12の端部12aと他方の誘導加熱ユニット10aの管体12の端部12aとに芯ずれが生じていたとしても、その芯ずれは、中間管17が図5(b)に示すように屈曲することによって容易に吸収できる。よって、例えば、図1に示す水門設備1の凍結防止部7cに誘導加熱装置10を設置する場合等、誘導加熱ユニット10aの重量が数トン程度と重くなり、その設置位置を微調節することで管体12の芯ずれを修正することが困難な場合であっても、容易に誘導加熱装置10を構築でき、コストダウンを推進できる。
【0041】
図4に示すように、各誘導加熱ユニット10aにおいては、誘導電流によって発熱する各管体12の端部12aの位置がその並設方向にずらされているので、管体12の端部12aでの発熱位置が隣り合う管体12同士で補完し合うことになる。すなわち、各管体12の端部12aに取り付けられる中間管17の食い込み管継手19の部分では、管体12の部分と異なり、絶縁電線13の交流電流を通電しても誘導電流による適切な発熱が期待できないが、その食い込み式管継手19に隣接する管体12の端部12aが発熱するため、全体として並設方向の何れかの管体12の端部12aによって被加熱部材11(戸当たり板9)を加熱できる。よって、被加熱部材11(戸当たり板9)に、その長手方向に沿った非加熱領域が生じることはない。
【0042】
また、隣り合う管体12の端部12aの位置をずらすことで、各管体12の端部12aに装着される食い込み式管継手19の位置もずれるため、管体12の並設方向に隣り合う食い込み式管継手19同士が干渉することを回避できる。よって、管体12の並設ピッチを、或る管体12の端部12aに装着された食い込み式管継手19とその隣の管体12の端部12aとが接触する直前まで、狭めることができる。このように管体12の並設ピッチを狭めることで、各管体12から被加熱部材11(戸当たり板9)への入熱密度(単位面積当たりの入熱量)を高めることができる。
【0043】
本実施形態では、中間管本体18が磁性体から構成されているので、絶縁電線13に交流電流を通電したときに、中間管本体18にも誘導電流が生起されて中間管本体18も発熱する。よって、各管体12の端部12aのみならず、それら端部12aに装着された中間管17の中間管本体18によっても被加熱部材11(戸当たり板9)を加熱できる。但し、中間管本体18を誘導電流が生じ難い非磁性体(ステンレス、樹脂、ゴム等)によって構成しても、図4に示すように、全体として何れかの管体12の端部12aによって被加熱部材11(戸当たり板9)を加熱できるため、被加熱部材11(戸当たり板9)にその長手方向に沿った非加熱領域が生じることはない。
【0044】
(変形実施形態)
本発明の変形実施形態を図8を用いて説明する。図8(a)は第2実施形態に係る誘導加熱装置の中間管17xの説明図、図8(b)は第3実施形態に係る誘導加熱装置の中間管17yの説明図である。第2及び第3実施形態は、図1〜図7を用いて説明した第1実施形態と基本的な構成要素は同一であり、中間管17の中間管本体18の部分が相違する。よって、第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0045】
図8(a)に示すように、第2実施形態に係る誘導加熱装置の中間管17xには、中間管本体18の薄肉部18bの部分に、屈曲を容易にするための蛇腹部18cが設けられている。蛇腹部18cは、薄肉部18bの外周面に溝を螺旋状に形成する、或いは薄肉部18bの外周面に環状の溝を間隔を隔てて複数形成することで構成されている。蛇腹部18cは、薄肉部18bの外周面にのみ形成され、内周面は平坦となっている。よって、蛇腹部18cが形成された薄肉部18bの内方に絶縁電線13を挿通する際、絶縁電線13が薄肉部18bの内周面に引っ掛かることはない。蛇腹部18cは、磁性体又は非磁性体のどちらで構成されていても構わない。薄肉部18bに蛇腹部18cを形成することで屈曲性が向上するため、第1実施形態よりも大きな芯ずれを吸収できる。
【0046】
次に、図8(b)に示す第3実施形態に係る誘導加熱装置の中間管17yは、中間管本体18の薄肉部18bの部分が、屈曲が容易なゴム管(又は樹脂管)18dから構成されている。ゴム管(又は樹脂管)18dは、非磁性体なので誘導電流が生起されることはなく、それ自体発熱しないが、容易に屈曲するため第1実施形態よりも大きな芯ずれを吸収できる。なお、これら第2及び第3実施形態の基本的な作用効果は、第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0047】
本発明の更に別の変形実施形態を図9を用いて説明する。図9は第4実施形態に係る誘導加熱装置10xの概要を示す平面図である。第4実施形態は、上述した第1実施形態と基本的な構成要素は同一であり、連結される誘導加熱ユニット10aの管体12の端部12aの位置が、伝熱セメント16からの距離が長い位置と短い位置とに並設方向に交互に設定されてジグザグとなっている点が相違する。よって、第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0048】
第4実施形態においても、隣り合う管体12の端部12aの位置を異ならせて管体12の発熱位置を補完し合う点は第1実施形態と同様である。また、中間管17の中間管本体18を磁性体から構成することで、中間管本体18にも誘導電流が生起されて発熱が生じ、中間管本体18によって被加熱部材11(戸当たり板9)を加熱することが可能となる。従って、被加熱部材11(戸当たり板9)に、その長手方向に沿った非加熱領域が生じることはない。
【0049】
また、誘導加熱ユニット10aの管体12の端部12aの並設方向の配置が管体12の長手方向にジグザグとなっていることで、図4に示す第1実施形態よりも連結に必要な長さB(一方の誘導加熱ユニット10aの伝熱セメント16の端部と他方の誘導加熱ユニット10aの伝熱セメント16の端部との間の長さB)を短くできる。よって、図7に示す最後に施工される伝熱セメント16aの量を低減でき、施工時間の短縮化を図ることができる。なお、第4実施形態の基本的な作用効果は、第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0050】
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した各実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例又は修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、被加熱部材と被加熱部材に複数並設された管体とを有する誘導加熱ユニットを複数直列に連結して成る誘導加熱装置及びその構築方法に利用できる。
【符号の説明】
【0052】
10 誘導加熱装置
10a 誘導加熱ユニット
11 被加熱部材
12 管体
12a 端部
13 絶縁電線
14 交流電源
17 中間管
18 中間管本体
18a 厚肉部
18b 薄肉部
18c 蛇腹部
19 管継手(食い込み式管継手)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱部材と該被加熱部材に複数並設された管体とを有する誘導加熱ユニットを複数直列に連結して、各誘導加熱ユニットの被加熱部材同士及び管体同士を接続し、前記管体に挿通させた絶縁電線に交流電流を通電することで前記管体に誘導電流を生じさせて前記管体を発熱させるようにした誘導加熱装置の構築方法であって、
連結される各誘導加熱ユニットを、その誘導加熱ユニットに複数並設される管体の隣り合う端部の位置が異なるように、夫々構成する第1工程と、
連結される一方の誘導加熱ユニットの被加熱部材と他方の誘導加熱ユニットの被加熱部材とを接合する第2工程と、
一方の誘導加熱ユニットの管体の端部と、他方の誘導加熱ユニットの管体の端部との間に、屈曲可能な中間管を介設させる第3工程と
を有することを特徴とする誘導加熱装置の構築方法。
【請求項2】
被加熱部材と該被加熱部材に複数並設された管体とを有する誘導加熱ユニットを複数直列に連結して、各誘導加熱ユニットの被加熱部材同士及び管体同士を接続し、前記管体に挿通させた絶縁電線に交流電流を通電することで前記管体に誘導電流を生じさせて前記管体を発熱させるようにした誘導加熱装置であって、
連結される各誘導加熱ユニットが、その誘導加熱ユニットに複数並設される管体の隣り合う端部の位置が異なるように夫々構成され、
連結される一方の誘導加熱ユニットの被加熱部材と他方の誘導加熱ユニットの被加熱部材とが接合され、
一方の誘導加熱ユニットの管体の端部と、他方の誘導加熱ユニットの管体の端部との間に、屈曲可能な中間管が介設された
ことを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項3】
前記中間管が、中間管本体と、該中間管本体の両端に装着されて前記管体の端部に連結される管継手とを備えた請求項2に記載の誘導加熱装置。
【請求項4】
前記中間管本体が、前記管継手に装着される厚肉部と、該厚肉部よりも薄く形成されて屈曲し易い薄肉部とを有する請求項3に記載の誘導加熱装置。
【請求項5】
前記中間管本体に、屈曲のための蛇腹部が形成された請求項3又は4に記載の誘導加熱装置。
【請求項6】
前記中間管本体が、磁性体から成る請求項3から5の何れか1項に記載の誘導加熱装置。
【請求項7】
前記中間管本体が、非磁性体から成る請求項3から5の何れか1項に記載の誘導加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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