説明

誘導加熱装置

【課題】トレイがレールに焼き付くことのない誘導加熱装置を提供する。
【解決手段】誘導加熱装置50は、誘導加熱コイル52a,52b,52c、非磁性のパイプレール57およびトレイTRを備える。非磁性のパイプレールは、誘導加熱コイルの内部空間に通される。このパイプレールの内部には、冷却媒体が流される。トレイは、パイプレール上を移動可能に設置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
過去に「誘導加熱装置において筒状加熱室の底面にレールを敷設し、そのスライドレールに沿ってトレイをスライド移動させる」ことが提案されている(例えば、特許文献1、2及び3参照)。
【特許文献1】特開平7−256334号公報
【特許文献2】特開平8−85826号公報
【特許文献3】特開平11−251044号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、加熱温度が比較的高い場合において、レール及びトレイが共に耐火物で形成されていると、トレイがレールに焼き付いてトレイが動かなくなるという不具合があった。
【0004】
本発明の課題は、トレイがレールに焼き付くのを防止することができる誘導加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1発明に係る誘導加熱装置は、誘導加熱コイル、非磁性のパイプレールおよびトレイを備える。なお、パイプレールの本数は特に制限されず1本であってもよいし2本以上であってもよい。非磁性のパイプレールは、誘導加熱コイルの内部空間に通される。なお、このパイプレールの内部には、冷却媒体が流される。また、この「冷却媒体」は、特に限定されず水やエチレングリコール等であってよい。また、冷却媒体をパイプレール内に流す方法としては、ポンプを利用する方法や、位置エネルギーを利用する方法などが例示される。また、誘導加熱コイルとバイプレールとの間には壁等が存在してもよい。トレイは、パイプレール上を移動可能に設置される。なお、このトレイには、加熱対象物が置かれる。
【0006】
この誘導加熱装置では、非磁性のパイプレールの内部に冷却媒体が流され、パイプレールが冷却される。また、この誘導加熱装置では、レールに接触するトレイも同時に冷却される。このため、この誘導加熱装置では、トレイがレールに焼き付くのを防止することができる。
【0007】
第2発明に係る誘導加熱装置は、第1発明に係る誘導加熱装置であって、パイプレールは、トレイと線接触する。なお、パイプレールの断面形状は、例えば、円形や、三角形、菱形等である。
【0008】
このため、この誘導加熱装置では、パイプレールとトレイとの接触面積が極めて小さくなりスライド移動に対する抵抗が小さくなる。したがって、この誘導加熱装置では、トレイがスライド移動しやすくなる。
【0009】
第3発明に係る誘導加熱装置は、第1発明又は第2発明に係る誘導加熱装置であって、パイプレールは、トレイと異なる素材から形成される。
【0010】
このため、この誘導加熱装置では、トレイがレールに焼き付くおそれを低減することができる。
【0011】
第4発明に係る誘導加熱装置は、第3発明に係る誘導加熱装置であって、パイプレールは、ステンレス鋼から形成されている。また、トレイは、セラミックから形成されている。
【0012】
このため、この誘導加熱装置では、トレイがレールに焼き付くおそれの低減を安価に行うことができる。
【0013】
第5発明に係る誘導加熱装置は、第1発明から第4発明のいずれかに係る誘導加熱装置であって、誘導加熱コイルは、複数、直列的に設けられる。また、パイプレールは、全ての誘導加熱コイルに亘って連続している。
【0014】
このため、この誘導加熱装置では、パイプレールに段差が生じるのを防止することができる。
【発明の効果】
【0015】
第1発明に係る誘導加熱装置では、非磁性のパイプレールの内部に冷却媒体が流され、パイプレールが冷却される。また、この誘導加熱装置では、レールに接触するトレイも同時に冷却される。このため、この誘導加熱装置では、トレイがレールに焼き付くのを防止することができる。
【0016】
第2発明に係る誘導加熱装置では、パイプレールとトレイとの接触面積が極めて小さくなりスライド移動に対する抵抗が小さくなる。したがって、この誘導加熱装置では、トレイがスライド移動しやすくなる。
【0017】
第3発明に係る誘導加熱装置では、トレイがレールに焼き付くおそれを低減することができる。
【0018】
第4発明に係る誘導加熱装置では、トレイがレールに焼き付くおそれの低減を安価に行うことができる。
【0019】
第5発明に係る誘導加熱装置では、パイプレールに段差が生じるのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に係る誘導加熱装置1は、図1に示されるように、主に、予備加熱装置10、トレイ搬送装置30及び本加熱装置50から構成される。以下、各装置について詳述する。
【0021】
<誘導加熱装置の構成要素の詳細>
(1)予備加熱装置
予備加熱装置10は、図2に示されるように、主に、第1誘導加熱炉11a、第2誘導加熱炉11b、第3誘導加熱炉11c、第1プッシャー16、第1非接触式温度センサ19および第1制御装置18から構成されている。
【0022】
第1誘導加熱炉11a、第2誘導加熱炉11bおよび第3誘導加熱炉11cは、直列的に連結されている。なお、本実施の形態において、第1誘導加熱炉11aは金属ビレットWKの投入側に配置され、第3誘導加熱炉11cは金属ビレットWKの排出側に配置されている。また、これらの誘導加熱炉11a,11b,11cは、全て同一の構成を有している。したがって、ここでは、第1誘導加熱炉11aについてのみ説明を行う。
【0023】
第1誘導加熱炉11aは、図2に示されるように、主に、外壁14a、内壁13aおよび誘導加熱コイル12aから構成されている。外壁14aは、略円筒形の壁であって、耐火物から形成されている。内壁13aは、外壁14aよりも小さな径を有する略円筒形の壁であって、外壁14aと同様に耐火物から形成されている。誘導加熱コイル12aは、内壁13a及び外壁14aの間に位置し、内壁13aを囲うように設けられている。また、この誘導加熱コイル12aは、第1制御装置18に接続されており、制御装置18によって出力調整される。
【0024】
第1プッシャー16は、いわゆる油圧シリンダであって、第1金属ビレット設置台15に取り付けられており、一定時間おきに第3誘導加熱炉11cに向かって金属ビレットWKを押し出す。この結果、金属ビレットWKは、第1誘導加熱炉11aに投入された後に第3誘導加熱炉11cから順次排出される。なお、第3誘導加熱炉11cから排出された金属ビレットWKは、図3に示されるトレイTRに載せられた後、トレイ搬送装置30により本加熱装置50に送られる。なお、トレイTRは、金属ビレットWKが第3誘導加熱炉11cから排出される前にトレイ搬送装置30によってトレイ設置台17に置かれる。
【0025】
第1非接触式温度センサ19は、第3誘導加熱炉11cの排出口付近に取り付けられており、金属ビレットWKの表面温度を計測する。そして、計測されたビレットWKの表面温度は、電気信号として第1制御装置18に送られた後、A/D変換されてデータ化され(以下、このデータを「表面温度データ」という)、第1制御装置18に蓄積される。
【0026】
第1制御装置18は、表面温度データが常に設定値以下となるように誘導加熱コイル12a,12b,12cの出力をフィードバック制御する。なお、本実施の形態において、設定値は、金属ビレットWKの変態点よりも低く設定されている。また、炭素鋼は700℃付近に変態点を有する。
【0027】
(2)トレイ搬送装置
トレイ搬送装置30は、いわゆるアームロボットであって、二本の爪をトレイTRの両脇に差し込んでトレイTRを持ち上げて移動させる。なお、本実施の形態において、トレイ搬送装置30は、空のトレイTRを予備加熱装置10のトレイ設置台17に置く第1動作と、金属ビレットWKが載ったトレイTRをトレイ設置台17から本加熱装置50の第2金属ビレット設置台55(図4参照)に移動させる第2動作とを繰り返す。
【0028】
なお、本実施の形態において、トレイTRは、カーボンセラミック製であって、金属ビレットWKと接触する面には耐熱性の無機塗膜が形成されている。
【0029】
(3)本加熱装置
本加熱装置50は、図4、図5および図6に示されるように、主に、第4誘導加熱炉51a、第5誘導加熱炉51b、第6誘導加熱炉51c、第2プッシャー56、ガイドレール57、冷却媒体循環装置60、第2非接触式温度センサ59および第2制御装置58から構成されている。
【0030】
第4誘導加熱炉51a、第5誘導加熱炉51bおよび第6誘導加熱炉51cは、直列的に連結されている。なお、本実施の形態において、第4誘導加熱炉51aは金属ビレットWKの投入側に配置され、第6誘導加熱炉51cは金属ビレットWKの排出側に配置されている。また、これらの誘導加熱炉51a,51b,51cは、全て同一の構成を有している。したがって、ここでは、第4誘導加熱炉51aについてのみ説明を行う。なお、第6誘導加熱炉51cは、主に均熱処理のために設けられている。
【0031】
第4誘導加熱炉51aは、図4および図5に示されるように、主に、外壁54a、内壁53aおよび誘導加熱コイル52aから構成されている。外壁54aは、略円筒形の壁であって、耐火物から形成されている。内壁53aは、外壁54aよりも小さな径を有する略円筒形の壁であって、外壁54aと同様に耐火物から形成されている。なお、第4誘導加熱炉54aの外壁54a及び内壁53aは、トレイTR付き金属ビレットWKが通過できるように第1誘導加熱炉11aのそれよりも径が大きく設計されている。誘導加熱コイル52aは、内壁53a及び外壁54aの間に位置し、内壁53aを囲うように設けられている。なお、この誘導加熱コイル52aもまた上記の事情により第1誘導加熱炉11aの誘導加熱コイル12aよりも径が大きく設計されている。また、この誘導加熱コイル52aは、第2制御装置58に接続されており、第2制御装置58によって出力調整される。
【0032】
第2プッシャー56は、いわゆる油圧シリンダであって、第2金属ビレット設置台55に取り付けられており、一定時間おきに第6誘導加熱炉51cに向かってトレイTR付き金属ビレットWKを押し出す。この結果、トレイTR付き金属ビレットWKは、第4誘導加熱炉51aに投入された後に第6誘導加熱炉51cから順次排出される。なお、第6誘導加熱炉51cから排出されたトレイTR付き金属ビレットWKは、図示しないアームロボットによって図示しない成形機に投入される。
【0033】
ガイドレール57は、図4、図5及び図6に示されるように、1本のステンレス製(非磁性体)のパイプレールであって、第4誘導加熱炉51a、第5誘導加熱炉51bおよび第6誘導加熱炉51cの内壁53a,53b,53cの内部の下方に敷設されている。このガイドレール57は、図6に示されるように略「コ(U)」の字状に成形されており、図5および図6に示されるように一端が冷却媒体循環装置60の入口に接続されており、他端が冷却媒体循環装置60の出口に接続されている。そして、このガイドレール57の内部には、冷却媒体循環装置60により冷却媒体(水、塩化カルシウム水溶液、エチレングリコール等)が流される。なお、トレイTRは、このガイドレール57に沿って第6誘導加熱炉51cに向かって移動する。
【0034】
冷却媒体循環装置60は、主に、冷凍機、液体ポンプおよび冷却媒体貯留タンクから構成されており、ガイドレール57の内部に低温の冷却媒体を送出し、戻ってきた高温の冷却媒体を再冷却して、再度、ガイドレール57の内部に低温の冷却媒体を送出する。
【0035】
第2非接触式温度センサ59は、第4誘導加熱炉51aの誘導加熱コイル52aと第5誘導加熱炉51bの誘導加熱コイル52bとの間、第5誘導加熱炉51bの誘導加熱コイル52bと第6誘導加熱炉51cの誘導加熱コイル52cとの間、および第6誘導加熱炉51cの排出口付近に取り付けられており(図4では排出口付近のもののみ表示されている)、金属ビレットWKの表面温度を計測する。そして、計測されたビレットWKの表面温度は、電気信号として第2制御装置58に送られた後、A/D変換されてデータ化され、第2制御装置58に蓄積される。
【0036】
第2制御装置58は、表面温度データが常に設定範囲内となるように誘導加熱コイル52a,52b,52cの出力をフィードバック制御する。なお、本実施の形態において、設定範囲は、金属ビレットWKが半溶融状態となる温度範囲とされている。また、炭素鋼が半溶融状態となる温度範囲は、1160〜1220℃である。
【0037】
<誘導加熱装置の特徴>
(1)
本実施の形態に係る本加熱装置50では、ガイドレール57の内部に冷却媒体が流され、ガイドレール57が冷却される。また、この本加熱装置50では、ガイドレール57に接触するトレイTRも同時に冷却される。このため、この本加熱装置50では、トレイTRがガイドレール57に焼き付くのを防止することができる。
【0038】
(2)
本実施の形態に係る本加熱装置50では、ガイドレール57の断面形状が円形である。このため、この本加熱装置50では、トレイTRは、ガイドレール57に線接触する。したがって、この本加熱装置50では、ガイドレール57とトレイTRとの接触面積が極めて小さくなりスライド移動に対する抵抗が小さくなる。したがって、この本加熱装置50では、トレイTRがスライド移動しやすくなる。
【0039】
(3)
本実施の形態に係る本加熱装置50では、ガイドレール57は、非磁性のステンレス鋼から形成されている。また、トレイTRは、カーボンセラミックから形成されている。このため、この本加熱装置50では、トレイTRがガイドレール57に焼き付くおそれを低減することができる。
【0040】
(4)
本実施の形態に係る本加熱装置50では、ガイドレール57は、1本のステンレス製パイプであって、全ての誘導加熱コイル52a,52b,52cに亘って連続している。このため、この本加熱装置50では、ガイドレール57に段差がなく、トレイTRのスムーズなスライド移動が可能となっている。
【0041】
<変形例>
(A)
先の実施の形態に係る誘導加熱装置1では予備加熱装置10および本加熱装置50においてそれぞれ3つの誘導加熱炉が用いられたが、誘導加熱炉の数は特に限定されず、3つよりも少なくてもよいし多くてもよい。
【0042】
(B)
先の実施の形態に係る誘導加熱装置1では非接触式温度センサ19,59により金属ビレットWKの表面温度が計測されたが、接触式温度センサにより金属ビレットWKの内部温度が計測されてもよい。
【0043】
(C)
先の実施の形態に係る誘導加熱装置1では冷却媒体循環装置60により冷却された冷却媒体がガイドレール57内部に流されたが、冷却媒体の供給方法は特に限定されず、水道から供給されてもよいし、ガイドレール57よりも高位置に設置された給水タンクから供給されてもよい。
【0044】
(D)
先の実施の形態に係る誘導加熱装置1ではガイドレール57が1本のステンレス製のパイプから形成されていたが、ガイドレールは2本の独立したパイプから構成されていてもよい。
【0045】
(E)
先の実施の形態に係る誘導加熱装置1ではガイドレール57の横断面の形状が円形とされていたが、ガイドレールの横断面の形状は特に限定されず、三角形や菱形等、トレイTRと線接触するものであればよい。
【0046】
(F)
先の実施の形態に係る誘導加熱装置1ではガイドレール57は1本の連続物とされていたが、ガイドレールは、金属ビレットWKの搬送方向下流側に向かって高さが段階的に低くなる複数の独立したレールから構成されていてもよい。
【0047】
(G)
先の実施の形態に係る誘導加熱装置1ではガイドレール57はステンレス製であったが、ガイドレールの素材は非磁性体であって加熱温度よりも高い耐熱性を有するものであれば特に限定されない。
【0048】
(H)
先の実施の形態に係る誘導加熱装置1ではトレイTRはカーボンセラミックス製であったが、トレイTRの素材は金属ビレットWKの加熱温度以上の耐熱性を有するものであれば特に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る誘導加熱装置は、トレイがレールに焼き付くのを防止することができるという特徴を有し、加熱対象物の加熱温度が比較的高い場合において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る誘導加熱装置の簡易的な全体構成図である。
【図2】本発明に係る誘導加熱装置を構成する予備加熱装置の縦断面図である。
【図3】本発明に係る誘導加熱装置において用いられるトレイの外観斜視図である。
【図4】本発明に係る誘導加熱装置を構成する本加熱装置の縦断面図である。
【図5】本発明に係る誘導加熱装置を構成する本加熱装置の横断面図である。
【図6】本発明に係る本加熱装置に敷設されるパイプレールの部分平面図である。
【符号の説明】
【0051】
50 本加熱装置(誘導加熱装置)
52a,52b,52c 誘導加熱コイル
57 パイプレール(ガイドレール)
TR トレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導加熱コイル(52a,52b,52c)と、
前記誘導加熱コイルの内部空間に通される非磁性のパイプレール(57)と、
前記パイプレール上を移動可能に設置されるトレイ(TR)と
を備える誘導加熱装置(50)。
【請求項2】
前記パイプレールは、前記トレイと線接触する
請求項1に記載の誘導加熱装置。
【請求項3】
前記パイプレールは、前記トレイと異なる素材から形成される
請求項1又は2に記載の誘導加熱装置。
【請求項4】
前記パイプレールは、ステンレス鋼から形成されており、
前記トレイは、セラミックから形成される
請求項3に記載の誘導加熱装置。
【請求項5】
前記誘導加熱コイルは、複数、直列的に設けられ、
前記パイプレールは、全ての誘導加熱コイルに亘って連続している
請求項1から4のいずれかに記載の誘導加熱装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate