説明

誘導発熱ローラ装置

【課題】ローラ本体、磁束発生機構及び駆動モータ等の大型化させることなく、誘導発熱ローラ装置における回転軸の固有振動数を大きくする。
【解決手段】ローラ本体2と、先端部3aがローラ本体2に固定され、後端部3bに駆動モータ6のロータ61が固定される回転軸3と、先端部がローラ本体2の中空内に延び、回転軸3における先端部3a及び後端部3bの間を先端側軸受7及び後端側軸受8により回転可能に保持するとともに、回転軸3のロータ61に対応する内周面に駆動モータ6のステータ62を有するハウジング4と、ローラ本体2の内周面に沿うようにハウジング4の先端部に設けられた磁束発生機構5とを備え、回転軸3における両軸受間の径寸法Wを、先端部3aの径寸法W及び後端部3bの径寸法Wよりも大きくしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導発熱ローラ装置に関し、特に片持ち式の誘導発熱ローラ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナイロン、ポリエステル等の合成繊維等の製造工程において、紡糸後に加熱し長さ方向に引き伸ばすことによって分子配向を整えて、引張強度等の特性を向上させる直延伸工程が行われている。
【0003】
そして、この直延伸工程においては、特許文献1に示すように、複数の誘導発熱ロール装置が用いられ、合成繊維の加熱を行うとともに、各誘導発熱ロール装置の回転速度差によって合成繊維を延伸することが一般的である。
【0004】
この特許文献1に記載の誘導発熱ローラ装置は、底部中央部に軸嵌合部を有するローラ本体と、円筒状鉄心及び誘導コイルからなり、ローラ本体内部に配置された磁束発生機構と、を備え、モータの回転軸の先端をローラ本体の軸嵌合部に嵌合連結することによりローラ本体を片持ち式に支持してモータにより直接回転させるようにしたものである。このような構成において、モータによりローラ本体を回転させ、また磁束発生機構の誘導コイルを交流電源により励磁させることにより、ローラ本体が発熱する。
【0005】
この誘導発熱ローラ装置のより具体的な構成として、ローラ本体の中空内に延びる筒部を有し、モータに一体的に連結されるフランジ部を備えている。この筒部は、ローラ本体の軸心方向に沿うようにローラ本体内部に延長させてある。そして、この筒部の外面に磁束発生機構が固定されている。また、筒部の先端側の内面と回転軸との間に軸受を設置し、この軸受により回転軸を筒部に対して回転自在に支持するようにしている。つまり、この誘導発熱ローラ装置においては、モータ内のロータ(回転子)を間に挟んで両側に2つの軸受が配置される構成である。
【0006】
しかしながら、この誘導発熱ローラ装置は、モータの回転軸がローラ本体という重量物を片持ち状に保持し、高速回転するため、その回転軸系の固有振動数において共振現象を起こし、回転軸自身又はそれを回転自在に支持している軸受あるいはモータを損傷してしまうという問題がある。
【0007】
ここで、両軸受間の剛性を高めることによって固有振動数を大きくし共振現象を防ぐためには、両軸受間の回転軸を太くすることが考えられる。しかし、両軸受間にはモータのロータが設けられていることから、回転軸の太さが制限されてしまう。そして、回転軸を太くするためには、ロータの大型化が必要となり、これに伴いステータも大型化し不必要に大きなモータになってしまうという問題がある。その結果、回転重量も重くなることから、高速運転に適さなくなってしまうという問題がある。一方、両軸受間において、ロータが取り付けられている部分以外を太くし、ロータが取り付けられている部分を細くすることも考えられるが、これでは両軸受間の剛性を大きくすることができず、また、構造も複雑化してしまうという問題がある。
【0008】
上記誘導発熱ローラ装置は、回転軸においてロータを挟んで両軸受が設けられる構成であったが、特許文献2に示すように、取付イケール(筒部)の先端部及び取付イケール(フランジ部)において、先端側軸受及び後端側軸受によって回転軸を回転自在に支持するものがある。そして、ローラ本体は回転軸において先端側軸受の先端側に設けられ、モータのロータが後端側軸受の後端側に設けられている。つまり、この誘導発熱ローラ装置においては、モータ内のロータを両軸受の外側に配置して、両軸受間の距離を小さくして固有振動数を大きくする構成である。
【0009】
しかしながら、両軸受間の距離を小さくすることだけでは、固有振動数を大きくすることに限界がある。また、固有振動数を大きくするために回転軸を太くすることが考えられるが、そうすると、回転軸を取り囲むように設けられた磁束発生機構を大きくすることが必要となり、さらにロールを大径化することが必要となる。このように磁束発生機構及びロールを大きくすると、ロール重量や慣性モーメントが大きくなり、したがって十分な回転速度を得ることができず、充分な回転速度を得るためには、それらを回転させるモータの容量を大きくする必要があるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−173758号公報
【特許文献2】特開平10−336951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決するためになされたものであり、ローラ本体、磁束発生機構及び駆動モータ等を大型化させることなく、誘導発熱ローラ装置における回転軸の固有振動数を大きくすることをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち本発明に係る誘導発熱ローラ装置は、底部中央部に軸嵌合部を有する有底円筒状のローラ本体と、前記ローラ本体の中空内に挿入され、先端部が前記ローラ本体の軸嵌合部に嵌合して固定され、後端部に駆動モータのロータが固定される回転軸と、先端部が前記ローラ本体の中空内に延び、前記回転軸における先端部及び後端部の間を先端側軸受及び後端側軸受により回転可能に保持するとともに、前記回転軸のロータに対応する内周面に駆動モータのステータを有するハウジングと、前記ローラ本体における軸方向先端側の内周面に沿うように前記ハウジングの先端部に設け、円筒状鉄心及びこの円筒状鉄心の外周面に巻装された誘導コイルからなる磁束発生機構と、を備え、前記先端側軸受を、前記ハウジングの先端部近傍に設けることにより前記ローラ本体内に位置させるとともに、前記先端側軸受を前記磁束発生機構と向かい合わない位置に配置しており、前記回転軸における先端側軸受及び後端側軸受の間の径寸法を、前記ローラ本体が固定される先端部の径寸法及び前記ロータが固定される後端部の径寸法よりも大きくしていることを特徴とする。
【0013】
このようなものであれば、磁束発生機構をハウジングの先端部に設けてローラ本体における軸方向先端側の内周面に沿うように配置し、ハウジングの先端部近傍に先端側軸受を設けて先端側軸受を前記磁束発生機構と向かい合わない位置に配置していることにより、先端側軸受が磁束発生機構の後方近傍に配置される構造としているので、磁束発生機構に邪魔されることなく、さらにはローラ本体を大径化することなく、先端側軸受及び後端側軸受の間の径寸法を大きくすることができる。
また、先端側軸受及び後端側軸受を回転軸の先端部及び後端部の間に設けているので、ロータが固定される後端部の径寸法に制約されることなく先端側軸受及び後端側軸受の間の径寸法(軸受間の径寸法)を大きくすることができる。そして、先端側軸受及び後端側軸受の間の径寸法を大きくすることによって、回転軸の固有振動数を大きくすることができ、回転危険速度を大きくすることができる。
さらに、先端側軸受を磁束発生機構の後方近傍に設けることにより、先端側軸受及び後端側軸受の間の距離を大きくすることができ、回転軸の固有振動数をさらに大きくすることができるとともに、回転軸の支持剛性を高くすることもできる。
【0014】
前記回転軸における先端側軸受の設置部の径寸法及び後端側軸受の設置部の径寸法を前記ローラ本体が固定される先端部の径寸法及び前記ロータが固定される後端部の径寸法よりも大きくしていることが望ましい。
【0015】
このように、各軸受の設置部の径寸法を大きくしていることにより、軸受の許容ラジアル荷重を増加させることができ、ラジアル荷重に対する寿命を長くすることができる。なお、軸受の転動体の相対速度が高速化することがら許容最高回転数が低下してしまうが、先端側軸受が磁束発生機構の後方に位置することから、ハウジングの軸受収容部を大きくとることができ、ラジアル荷重と回転数との両者において最適な軸受け選択が可能となる。
【0016】
ローラ本体に磁束発生機構を収容しつつも、先端側軸受を可及的にローラ本体に収容して、先端側軸受及び後端側軸受間の距離を大きくするためには、前記磁束発生機構が、前記ローラ本体の中空内において、軸方向先端側から2/3〜1/3の範囲内に設けられていることが望ましい。
【0017】
前記回転軸、前記ローラ本体及び前記ローラにより構成される回転軸系の軸長方向の重心位置が、前記先端側軸受及び前記後端側軸受の間に位置するように構成されていることが望ましい。これならば、回転軸系の重心位置が曲げ剛性の高い軸受間に存在するので、回転軸系の回転安定性が得やすく、振動加速度及び振動振幅を小さくすることができる。
【0018】
前記ハウジングにおける先端側軸受が設けられる部分に、冷却流体が流通する冷却流体通路が形成されていることが望ましい。
【0019】
先端側軸受は、ローラ本体からの伝熱又は自己発熱によって温度が経時的に変化し、その温度が定常状態になった際を想定して組み立て時の軸受隙間や予圧を考慮しなければならないが、逆に定常状態になるまでは適正な軸受隙間や予圧が得られないまま回転させることになり、軸受剛性が所定の値に至らず、不安定振動の原因となる。しかしながら、先端側軸受を冷却することより、熱的な定常状態における軸受温度を低くすることができるので、組み立て時と定常状態時との軸受隙間や予圧の差を小さくすることができ、定常状態に至るまでの間も不安定振動が発生することを抑制することができる。
【0020】
同様に、前記ハウジングにおける前記ローラ本体の内周面と対向する外周面に断熱材を設けていることによっても、定常状態における先端側軸受の温度の上昇を抑えることができ、不安定振動の発生を抑制できる。
【0021】
回転軸を支持している先端側軸受及び後端側軸受は、それが支持するラジアル荷重又はすラスト荷重に応じて、或いはその温度に応じて、寿命回転数が定まり、その寿命回転数に至る前に軸受を交換する必要がある。特に後端側軸受を交換する場合には、ロータを回転軸から取り外した後に、後端側軸受を回転軸から取り外す必要があるが、ロータは回転軸に焼き嵌めされており、容易に取り外すことができない。このような問題を解決するためには、前記ロータを前記回転軸の後端部に対して着脱自在に構成していることが望ましい。また、前記ロータが固定される後端部を、前記後端側軸受の設置部に対して着脱自在に構成していることが望ましい。
【0022】
前記先端側軸受及び前記後端側軸受が、磁気軸受であっても良い。本発明では、先端側軸受及び後端側軸受の設置部の径寸法を大きくすることができ、磁気軸受に回転軸を保持するのに充分な剛性と減衰特性を有するだけの寸法的な自由度を持たせることができる。
【発明の効果】
【0023】
このように構成した本発明によれば、ローラ本体、磁束発生機構及び駆動モータ等の大型化させることなく、誘導発熱ローラ装置における回転軸の固有振動数を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る誘導発熱ローラ装置の断面図である。
【図2】同実施形態の回転軸の側面図である。
【図3】変形実施形態に係る誘導発熱ローラ装置の断面図である。
【図4】変形実施形態に係る誘導発熱ローラ装置の断面図である。
【図5】変形実施形態に係る回転軸の側面図である。
【図6】回転軸及びロータの固定機構を主として示す断面図である。
【図7】回転軸及びロータの固定機構の変形例を主として示す断面図である。
【図8】後端側軸受の設置部及び回転軸の後端部の固定機構を主として示す断面図である。
【図9】磁気軸受を用いた場合の誘導発熱ローラ装置の断面図である。
【図10】先端側磁気軸受のステータ及びロータを示すA−A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明に係る誘導発熱ローラ装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0026】
本実施形態に係る誘導発熱ローラ装置100は、図1に示すように、ローラ本体2と、先端部3aにローラ本体2が固定され、後端部3bに駆動モータ6のロータ(回転子)61が固定される回転軸3と、回転軸3を回転可能に保持するとともに、回転軸3のロータ61に対応する内周面に駆動モータ6のステータ(固定子)62を有するハウジング4と、円筒状鉄心及びこの円筒状鉄心の外周面に巻装された誘導コイルからなる磁束発生機構5と、を備えている。
【0027】
ローラ本体2は、底部中央部において内部に突出する軸嵌合部21を有する有底円筒状をなすものである。また、ローラ本体2の側周壁22には、長手方向(軸方向)に延びる気液二相の熱媒体を封入するジャケット室22Aが、周方向に複数形成され、各ジャケット室22A内の端部は環状の孔と連通している。このジャケット室22A内に封入した気液二相の熱媒体の潜熱移動によりローラ本体2の表面温度を均一化する。また、ジャケット室22Aは、磁束発生機構5と向かい合う位置を超えて、ローラ本体2の側周壁22において軸方向略全長に亘って設けられている。
【0028】
回転軸3は、ローラ本体2の中空内に挿入され、先端部3aがローラ本体2の軸嵌合部21に嵌合して固定され、後端部3bに駆動モータ6のロータ61が固定されるものである。回転軸3の先端部3aには、ローラ本体2の軸嵌合部21に嵌合するテーパ面が形成されている。また、回転軸3の後端部3bに固定されるロータ61は周方向に等間隔に設けられている。
【0029】
ハウジング4は、先端部がローラ本体2の中空内に延び、回転軸3における先端部3a及び後端部3bの間を先端側軸受7及び後端側軸受8により回転可能に保持するとともに、回転軸3のロータ61に対応する内周面に駆動モータ6のステータ62を有する。具体的にハウジング4は、先端側軸受7及び後端側軸受8が取り付けられるハウジング本体41と、当該ハウジング本体41の後端に設けられ、ステータ62が固定されるステータ固定部42とを備えている。
【0030】
ハウジング本体41は、ローラ本体2の内径よりも小さい外径を有する円筒部411と、当該円筒部411の外径よりも大きい外径を有し、円筒部411の基端部においてローラ本体2の開口部を覆うフランジ部412と、を有する。また、ハウジング本体41の側周壁には、フランジ部412の外周面で開口し、円筒部411の先端部に延びる複数の冷却流体通路4Aが形成され、各冷却流体通路4Aは、ハウジング4の先端部で折り返してフランジ部412の外周面で開口する。この冷却流体通路4A内には、例えば水又は油等の冷却流体が供給され、この冷却流体の流通によってハウジング4を冷却し、この冷却によって磁束発生機構5及び先端側軸受7を冷却する。
【0031】
先端側軸受7は、ローラ本体2からの伝熱又は自己発熱によって温度が経時的に変化し、その温度が定常状態になった際を想定して組み立て時の軸受隙間や予圧を考慮しなければならないが、逆に定常状態になるまでは適正な軸受隙間や予圧が得られないまま回転させることになり、軸受剛性が所定の値に至らず、不安定振動の原因となる。しかしながら、このように、冷却流体通路4Aを設けて先端側軸受7を冷却することより、熱的な定常状態における軸受温度を低くすることができるので、組み立て時と定常状態時との軸受隙間や予圧の差を小さくすることができ、定常状態に至るまでの間も不安定振動が発生することを抑制することができる。
【0032】
磁束発生機構5は、ローラ本体2における軸方向先端側の内周面に沿うようにハウジング4(具体的には円筒部411)の先端部に設けられており、湾曲する磁性鋼板を放射状に円周方向に沿って配列積層して形成される円筒状鉄心と、円筒状鉄心の外周面に巻装された誘導コイルとから円筒状のものである。この磁束発生機構5は、ローラ本体2の内周面全域に向かい合って設けられるものではなく、ローラ本体2の内周面の先端側部分に向かい合うよう、すなわち側面から視て(軸線と直交する方向から視て)重なる部分があるように設けられており、ローラ本体2の中空内において、先端側から2/3〜1/3の範囲内に設けられている。つまり、磁束発生機構5は、ローラ本体2の底部近傍から開口部までの長さの2/3〜1/3の軸方向長さを有する。なお、図1においては、ローラ本体2の中空内において、軸方向先端側から約1/2の範囲内に設けられた態様を示している。
【0033】
このような磁束発生機構5により、誘導コイルに交流電圧が印加されると交番磁束が発生し、その交番磁束は円筒状鉄心及びローラ本体2の底部を経てローラ本体2の側周壁22を通過する。この通過によりローラ本体2に電流が発生し、その電流でローラ本体2はジュール発熱する。
【0034】
しかして本実施形態の誘導発熱ローラ装置100は、先端側軸受7をハウジング4の先端部近傍に設けることによりローラ本体2内に位置させるとともに、先端側軸受7を磁束発生機構5と向かい合わない位置、すなわち、側面から視て(軸線と直交する方向から視て)磁束発生機構5と先端側軸受7とが互いに異なる位置であって一部分でも実質的に重ならないように配置している。より具体的には、ハウジング4の円筒部411の先端部に設けられており、この円筒部411の先端部前方には、磁束発生機構5が設けられることから、先端側軸受7は、磁束発生機構5の後端側の後方近傍に配置される構成となる。
【0035】
また、後端側軸受8は、ハウジング4において機台9に固定される部分及びその近傍に設けられており、具体的には、フランジ部412が機台9に固定されることから、後端側軸受8は、フランジ部412内に設けられている。なお、図1においては、フランジ部412の軸方向における略中央部に設けられている態様を示している。
【0036】
さらに、図2に示すように、回転軸3における先端側軸受7及び後端側軸受8の間の径寸法Wを、ローラ本体2が固定される先端部3aの径寸法W及びロータ61が固定される後端部3bの径寸法Wよりも大きくしている。このとき、ハウジング4、具体的にはハウジング本体41に関して言うと、回転軸3の両軸受間の径寸法Wに合わせて、ハウジング本体41の回転軸収容部が大径化されている(図1中の符号X)。
【0037】
また、図2に示すように、回転軸3における先端側軸受7の設置部3cの径寸法W及び後端側軸受8の設置部3dの径寸法Wをローラ本体2が固定される先端部3aの径寸法W及びロータ61が固定される後端部3bの径寸法Wよりも大きくしている。このように、各軸受7、8の設置部3c、3dの径寸法W、Wを大きくしていることにより、軸受7、8の許容ラジアル荷重を増加させることができ、ラジアル荷重に対する寿命を長くすることができる。なお、軸受7、8の転動体の相対速度が高速化することから許容最高回転数が低下してしまうが、先端側軸受7が磁束発生機構5の後方に位置することから、ハウジング4の軸受収容部を大きくとることができ、ラジアル荷重と回転数との両者において最適な軸受選択が可能となる。
【0038】
さらに本実施形態の誘導発熱ローラ装置100においては、回転軸3における先端側軸受7及び後端側軸受8の間の径寸法Wを、ローラ本体2が固定される先端部3aの径寸法W及びロータ61が固定される後端部3bの径寸法Wよりも大きくすることによって、回転軸3、ローラ本体2及びロータ61により構成される回転軸3系の軸方向の重心位置が、先端側軸受7及び後端側軸受8の間に位置するように構成されている。また、ローラ本体2の質量と回転軸3における先端側軸受7よりも先端側の質量との合成の重心位置が、先端側軸受7及び後端側軸受8の間に位置するように構成されている。これならば、回転軸3系の重心位置が曲げ剛性の高い軸受7、8間に存在するので、回転軸3系の回転安定性が得やすく、振動加速度及び振動振幅を小さくすることができる。したがって、回転危険速度を十分に大きくすることができ、要求回転速度を満たし易くなる。
【0039】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態に係る誘導発熱ローラ装置100によれば、磁束発生機構5をハウジング4の先端部に設けてローラ本体2における軸方向先端側の内周面に沿うように配置し、ハウジング4の先端部近傍に先端側軸受7を設けて先端側軸受7を磁束発生機構5と向かい合わない位置に配置していることにより、先端側軸受7が磁束発生機構5の後方近傍に配置される構造としているので、磁束発生機構5に邪魔されることなく、さらにはローラ本体2を大径化することなく、軸受7、8間の径寸法W、先端側軸受7の設置部3cの径寸法W及び後端側軸受8の設置部3dの径寸法Wを大きくすることができる。
【0040】
また、先端側軸受7及び後端側軸受8を、回転軸3の先端部3a及び後端部3bの間に設けているので、ロータ61が固定される後端部3bの径寸法Wに制約されることなく、軸受7、8間の径寸法Wを大きくすることができる。そして、軸受7、8間の径寸法Wを大きくすることによって、回転軸3の固有振動数を大きくすることができ、回転危険速度を大きくすることができる。
【0041】
さらに、先端側軸受7を磁束発生機構5の後方近傍に設けることにより、軸受7、8間の距離を大きくすることができ、回転軸3の固有振動数をさらに大きくすることができるとともに、回転軸3の支持剛性を高くすることもできる。
【0042】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0043】
例えば、前記実施形態では、磁束発生機構5及び先端側軸受7を冷却するためにハウジング4内に冷却流体通路4Aを設けているが、その他、図3に示すように、ハウジング4におけるローラ本体2の内周面と対向する外周面(具体的には円筒部411の外周面)に断熱材10を設けるようにしても良い。これによっても、定常状態における先端側軸受7の温度の上昇を抑えることができ、不安定振動の発生を抑制できる。また、図4に示すように、断熱材10をハウジング4におけるローラ本体2の内周面と対向する外周面(具体的には円筒部411の外周面)及び磁束発生機構5の外周面に設けるようにしても良い。
【0044】
また、前記実施形態では、回転軸3における軸受7、8間の径寸法Wが、回転軸3における先端側軸受7の設置部3cの径寸法W及び後端側軸受8の設置部3dの径寸法Wよりも大きく構成されているが、図5に示すように、それらの径寸法W、W、Wを略同一(図4中W)としても良い。
【0045】
次に、変形実施形態に係る誘導発熱ローラ装置について説明する。この誘導発熱ローラ装置は、回転軸の後端側に固定されたロータ又はその近傍部材を取り外し可能に構成し、回転軸の後端側軸受の交換時にそれらが交換の邪魔にならないようにしている。
【0046】
具体的にこの誘導発熱ローラ装置100は、ロータ61を回転軸3の後端部3bに対して着脱自在に構成している。つまり、図6に示すように、回転軸3の後端部3bが後端に行くに従って縮径するテーパ状をなし、ロータ61の内周面が前記後端部3bのテーパに相対するテーパ状をなし、前記回転軸3の後端部3bにロータ61が嵌合した状態で、ボルト、ナット等の締結要素11によって後端部3bとロータ61を締結固定している。このような構成により、後端側軸受8を交換する場合には、締結要素11を取り外してロータ61を取り外せば、後端側軸受11を容易に後端側に抜くことができる。なお、このとき、ステータ62を保持しているカバー(ステータ固定部42)は予め取り外しておくことは言うまでもない。
【0047】
上記の構成ではロータ61の内面をテーパ状に加工する必要がありその加工が難しいという問題がある。そこで、図7に示すように、回転軸3の後端部3bとロータ61との間にスペーサSを介在させて、その後端部にロータ61を固定することが考えられる。つまり、回転軸3の後端部3bが後端に行くに従って縮径するテーパ状をなし、スペーサSの内周面が前記後端部3bのテーパに相対するテーパ状をなし、前記回転軸3の後端部3bにスペーサSが嵌合した状態で、ボルト、ナット等の締結要素11によって後端部3bとスペーサSとを締結固定している。なお、スペーサSの外面には、内径が軸方向に亘って同一のロータ61が例えば焼き嵌めによって固定されている。このような構成により、後端側軸受8を交換する場合には、締結要素11を取り外してスペーサSと共にロータ61を取り外せば、後端側軸受8を容易に後端側に抜くことができる。
【0048】
さらに、誘導発熱ローラ装置100は、ロータ61が固定される後端部3bを後端側軸受8の設置部3dに対して着脱自在に構成しても良い。つまり、図8に示すように、回転軸3は、後端側軸受8の設置部3d(以下、回転軸本体という。)とロータ61が固定される後端部3b(以下、後端部要素という。)とに分離されている。そして、回転軸本体3dが内面テーパ状をなす嵌合凹部3d1を有し、後端部要素3bがその嵌合凹部3d1のテーパに相対するテーパ状をなす挿入部3b1を有し、後端部要素3bの挿入部3b1を回転軸本体3dの嵌合凹部3d1に挿入して嵌合した状態で、ボルト、ナット等の締結要素11によって後端部要素3bと回転軸本体3dとを締結固定している。前記後端部要素3bにおける挿入部3b1の後端側には、ロータ61が例えば焼き嵌めによって固定されている。このような構成により、後端側軸受8を交換する場合には、締結要素11を取り外して回転軸本体3dから後端部要素3bを取り外せば、後端側軸受8を容易に後端側に抜くことができる。
【0049】
加えて前記実施形態の先端側軸受7及び後端側軸受8は転がり軸受であったが、図9に示すように、磁気軸受を用いても良い。このとき、磁気軸受のステータは、図10に示すように、回転軸3の周りに等間隔に設けられている。本発明の誘導発熱ローラ装置100においては、磁気軸受7、8の設置部の径を大きくすることができるので、回転軸3の周りに配置するステータの個数を多くすることができ、各ステータの吸引力(容積)を大きくすることなく、回転軸3を安定して支持することができる。なお、図10においては、8個のステータが周方向に等間隔に配置されているが、ステータの個数はこれに限定されない。また、回転軸3の位置を安定的に維持するため、磁気軸受の近傍に位置センサ又はギャップセンサ等を配置し、磁気軸受の電磁吸引力を能動的に制御している。この磁気軸受はホモポーラ型でもバイポーラ型であっても良い。なお、磁気軸受は、ラジアル磁気軸受だけでなく、スラスト磁気軸受を併用しても良い。また、磁気軸受を用いて回転軸を支持する場合には、磁気軸受の故障又は停電などの不測の事態に回転体とその周囲の静止体とが接触しないように、定常状態では回転体と僅かな隙間を有する緊急時用の軸受(タッチダウン軸受)が配置されている。
【0050】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0051】
100・・・誘導発熱ローラ装置
2 ・・・ローラ本体
21 ・・・軸嵌合部
3 ・・・回転軸
3a ・・・回転軸の先端部
3b ・・・回転軸の後端部
3c ・・・先端側軸受の設置部
3d ・・・後端側軸受の設置部
4 ・・・ハウジング
4A ・・・冷却流体通路
5 ・・・磁束発生機構
6 ・・・駆動モータ
61 ・・・ロータ
62 ・・・ステータ
7 ・・・先端側軸受
8 ・・・後端側軸受
・・・先端側軸受及び後端側軸受の間の径寸法
・・・回転軸の先端部の径寸法
・・・回転軸の後端部の径寸法
・・・先端側軸受の設置部の径寸法
・・・後端側軸受の設置部の径寸法
10 ・・・断熱材
11 ・・・締結要素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部中央部に軸嵌合部を有する有底円筒状のローラ本体と、
前記ローラ本体の中空内に挿入され、先端部が前記ローラ本体の軸嵌合部に嵌合して固定され、後端部に駆動モータのロータが固定される回転軸と、
先端部が前記ローラ本体の中空内に延び、前記回転軸における先端部及び後端部の間を先端側軸受及び後端側軸受により回転可能に保持するとともに、前記回転軸のロータに対応する内周面に駆動モータのステータを有するハウジングと、
前記ローラ本体における軸方向先端側の内周面に沿うように前記ハウジングの先端部に設け、円筒状鉄心及びこの円筒状鉄心の外周面に巻装された誘導コイルからなる磁束発生機構と、を備え、
前記先端側軸受を、前記ハウジングの先端部近傍に設けることにより前記ローラ本体内に位置させるとともに、前記先端側軸受を前記磁束発生機構と向かい合わない位置に配置しており、
前記回転軸における先端側軸受及び後端側軸受の間の径寸法を、前記ローラ本体が固定される先端部の径寸法及び前記ロータが固定される後端部の径寸法よりも大きくしている誘導発熱ローラ装置。
【請求項2】
前記回転軸における先端側軸受の設置部の径寸法及び後端側軸受の設置部の径寸法を前記ローラ本体が固定される先端部の径寸法及び前記ロータが固定される後端部の径寸法よりも大きくしている請求項1記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項3】
前記磁束発生機構が、前記ローラ本体の中空内において、軸方向先端側から2/3〜1/3の範囲内に設けられている請求項1又は2記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項4】
前記回転軸、前記ローラ本体及び前記ローラにより構成される回転軸系の軸方向の重心位置が、前記先端側軸受及び前記後端側軸受の間に位置するように構成されている請求項1、2又は3記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項5】
前記ハウジングにおける先端側軸受が設けられる部分に、冷却流体が流通する冷却流体通路が形成されている請求項1、2、3又は4記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項6】
前記ハウジングにおける前記ローラ本体の内周面と対向する外周面に断熱材を設けている請求項1、2、3、4又は5記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項7】
前記ロータを前記回転軸の後端部に対して着脱自在に構成している請求項1、2、3、4、5又は6記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項8】
前記ロータが固定される後端部を、前記後端側軸受の設置部に対して着脱自在に構成している請求項1、2、3、4、5又は6記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項9】
前記先端側軸受及び前記後端側軸受が、磁気軸受である請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の誘導発熱ローラ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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