説明

誘電体、及びキャパシタ型蓄電池

【課題】比誘電率が高い誘電体、並びに、それを利用した、静電容量が大きいキャパシタ型蓄電池を提供する。
【解決手段】架橋構造を有する樹脂と、金属塩構造を持つ分子鎖を有する化合物である金属イオンと、を含んで構成される誘電体10、及びそれを利用したキャパシタ型蓄電池である。架橋構造を有する樹脂はメタアクリル樹脂であり、重量平均分子量1000当たり少なくとも1個の架橋性基を有し、該架橋性基の少なくとも一部は架橋反応により架橋構造となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャパシタ型蓄電池に利用される誘電体及びそれを利用したキャパシタ型蓄
電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年地球温暖化防止のため、発電したエネルギーを効率的に蓄電保存する必要に迫られている。このような蓄電システムとしては、携帯機器用蓄電池として理論エネルギー密度に達するまでに著しく進歩したニッケル水素電池やリチウムイオン電池等の二次電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等の応用が試みられている。これらの蓄電システムは、例えば、リチウムなどの希少金属を用いた電解質を用いている(例えば、特許文献1等)。
【0003】
蓄電池に電解質を用いる場合、充電に時間を要する。また、電解質の劣化が生じるため、蓄電池の寿命が短い。また、高出力電圧を実現するためには、複数の蓄電池を直列に接続する必要があった。これに対し、キャパシタを蓄電池として使用した場合、充電時間が短く、寿命が長く、かつ高出力電圧を実現できる。しかし、キャパシタを蓄電池として使用する場合、その単位体積あたりの容量を大きくする必要がある。このためには比誘電率の高い材料が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4452830号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上記のような事情を考慮してなされたものであり、比誘電率が高い誘電体、並びに、それを利用した、静電容量が大きいキャパシタ型蓄電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち、
本発明の誘電体は、
樹脂と、
金属イオンと、
を含んで構成される誘電体である。
【0007】
本発明の誘電体において、前記金属イオンが、金属塩構造を持つ分子鎖を有する化合物であることがよい。
【0008】
本発明の誘電体において、前記樹脂は、架橋構造を有する樹脂であることがよい。
また、前記架橋構造を有する樹脂のパルスNMRの緩和時間Tは、長くとも500μsであることがよい。
また、前記架橋構造を有する樹脂は、(メタ)アクリル樹脂である場合、その架橋割合が少なくとも5%であることがよく、また、その重量平均分子量1000当たりに対して、少なくとも1個の架橋性基を持ち、当該架橋性基の少なくとも一部の架橋反応により架橋構造を有することがよい。
【0009】
本発明のキャパシタ型蓄電池は、
一対の電極と、
前記一対の電極の間に配置された誘電体であって、上記本発明のいずれか1項に記載の誘電体と、
を有するキャパシタ型蓄電池である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、比誘電率が高い誘電体、並びに、それを利用した、静電容量が大きいキャパシタ型蓄電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のキャパシタ型蓄電池の一例を示す概略構成図である。
【図2】実施例1〜14及び比較例1における、樹脂のパルスNMR緩和時間と静電容量とリーク電流の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明について詳細に説明する。
【0013】
(誘電体)
本発明の誘電体は、樹脂と、金属イオンと、を含んで構成される。
従来、樹脂のみで構成される誘電体は、分極の小さい物質で構成されるため、大きな比誘電率、つまりキャパシタ型蓄電池において静電容量を得ることができない。
これに対して、本発明の誘電体では、大きく分極可能な物質である金属イオンを樹脂に混合することで、比誘電率が大きくなる。そして、キャパシタ型蓄電池において静電容量が大きくなる。
つまり、本発明の誘電体では、金属イオンが、電界により向きを変えることにより、空間電荷分布が生じ、結果、分極することなり、比誘電率が大きくなる。
【0014】
また、本発明の誘電体において、金属イオンは、金属塩構造を持つ分子鎖を有する化合物(以下、「イオン性オリゴマー」と称して説明する)として樹脂中に含むことがよい。
金属イオン単体で樹脂中に混合すると、金属イオンが樹脂(誘電体)中で自由に移動し、例えば、誘電体と接触配置される電極に容易に到達するため、リーク電流が増加し、キャパシタ型蓄電池において長時間の蓄電保持ができなくなることがある。
また、金属塩構造を持つ分子鎖を有する化合物を樹脂とし、それそのものを誘電体として構成すると、金属イオン単体の際と同様、静電容量は向上するが、金属塩構造を持つ分子鎖が誘電体中で自由に移動、リーク電流が増加し、キャパシタ型蓄電池において長時間の蓄電保持ができなくなる。さらには、キャパシタ型蓄電池作製の際、その流動性から電極間で接触し歩留まりが悪くなることがある。
【0015】
これに対して、イオン性オリゴマーを樹脂中に混合すると、イオン性オリゴマーの分子鎖が樹脂の分子鎖に引っ掛かることで、イオン性オリゴマーは樹脂中の自由な移動が抑制されると考えられる。
つまり、イオン性オリゴマーは、金属塩構造を構成する金属イオンが分極子として機能するための配向変化(つまり空間電荷分布が生じて分極するための金属イオンの向きの変化し)できる状態で、その移動が抑制されて、樹脂中に含まれることなると考えられる。
これにより、本発明の誘電体では、イオン性オリゴマーを樹脂中に混合すると、比誘電率を向上しつつ、リーク電流も低減できる。その結果、キャパシタ型蓄電池において高い静電容量が確保されつつ、長時間の蓄電保持が可能となる。
【0016】
また、本発明の誘電体において、樹脂は、架橋構造を有していることがよい。
未架橋の樹脂中に、上記イオン性オリゴマーを混合すると、その樹脂中の移動が抑制され、リーク電流が低減されるものの、その低減が十分でない場合がある。
【0017】
これに対して、樹脂が架橋構造を有すると、その架橋構造により形成される分子鎖の網目構造により、イオン性オリゴマーは、その移動が制限されると考えられる。
つまり、イオン性オリゴマーは、樹脂の架橋構造により形成される分子鎖の網目内で、金属塩構造を構成する金属イオンが分極子として機能するための配向変化(つまり空間電荷分布が生じて分極するための金属イオンの向きの変化)できる状態となる一方で、その移動が制限されて、樹脂中に含まれることなると考えられる。
これにより、本発明の誘電体では、樹脂が架橋構造を有すると、未架橋の樹脂に比べ、より効果的に、比誘電率を向上しつつ、リーク電流も低減できる。
【0018】
以下、本発明の誘電体について、より詳細に説明する。
まず、金属イオンについて説明する。
金属イオンとしては、例えば、周期律表第1族に属する金属のイオン、周期律表2族に属する金属のイオン、周期律表13族に属する金属のイオン、のイオンから選択される1種が好適に挙げられる。
【0019】
周期律表1族に属する金属としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)が代表的に挙げられる。
周期律表2族に属する金属としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)が代表的に挙げられる。
周期律表13族に属する金属としては、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)が代表的に挙げられる。
【0020】
これら金属のイオンの中も、電気陰性度が低いことで分極を生じやすいとの観点から、周期律表1族のイオンが特に好適である。
【0021】
金属イオンの含有量は、樹脂に対して、例えば、0.5%以上50%以下がよく、望ましくは2%以上30%以下、より望ましくは5%以上20%以下である。
なお、本含有量は、金属イオン単体を樹脂に含ませる場合のものである。
【0022】
次に、イオン性オリゴマーについて説明する。
イオン性オリゴマーは、金属塩構造を持つ分子鎖を有する化合物である。つまり、イオン性オリゴマーは、分極子として機能する上記金属イオンを化合物(オリゴマー)中に含ませた状態で、樹脂中に混合するものである、
イオン性オリゴマーとして具体的には、例えば、金属塩基を持つモノマーを少なくとも重合成分として有し、重合により分子鎖(例えばアルキル鎖、アミド鎖等)が形成された重合体(例えば、モノマー結合数が10個から100個程度のオリゴマー)である。
【0023】
イオン性オリゴマーは、例えば、金属塩基を持つモノマーを少なくとも一つ、その重合成分として有するものであればよく、金属塩基を持つモノマーの単独重合体であってもよいし、他のモノマー(金属塩基を持たないモノマー)との共重合体であってもよい。
【0024】
金属塩基を持つモノマーとしては、例えば、水酸基を持つモノマーであって水酸基の水素原子を金属イオンで修飾(置換)したモノマーが挙げられる。
また、金属塩基を持つモノマーは、カルボン酸基の水素原子を金属イオンで修飾(置換)したカルボン酸金属塩基を持つモノマー、スルホン酸基の水素原子を金属イオンで修飾(置換)したスルホン酸金属塩基を持つモノマー、ホスホン酸基の水素原子を金属イオンで修飾(置換)したホスホン酸金属塩基、スルフィン酸基の水素原子を金属イオンで修飾(置換)したスルフィン酸金属塩基等も挙げられる。
【0025】
水酸基の水素原子を金属イオンで修飾したモノマーとしては、アリールアルコール、3−ブテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、3−メチル−ブテン−1−オール、シトロネロール、シンナミルアルコール等の水酸基の水素原子を修飾(置換)したもの;等が挙げられる。
なお、水酸基の水素原子に対する金属イオンの修飾(置換)は、例えば、上記アルコールに金属ナトリウム等を加えることにより行う。
【0026】
カルボン酸金属塩基を持つモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、3−ブテ酸等のモノマーのカルボン酸基の水素原子を金属イオンで修飾(置換)したものが挙げられ
る。
スルホン酸金属塩基を持つモノマーとしては、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、等のモノマーのスルホン酸基の水素原子を金属イオンで修飾(置換)したものが挙げられる。
【0027】
これらの中でも、金属塩基を持つモノマーとしては、電気陰性度が高いことで分極を生じやすいとのの観点から、スルホン基のような電子吸引基が望ましい。
【0028】
一方、他のモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アルキルアクリレート(例えば、エチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、iso−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、イソペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、tert−ブチルアクリレート等)、アルキルメタクリレート(例えば、エチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、iso−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、イソペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、tert−ブチルアクリレート等)、ヒドロキシアクリレート(例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート等)、ヒドロキシメタクリレート(例えば、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート等)、アルコキシアルキルアクリレート(例えば、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート等)、アルコキシアルキルメタクリレート(例えば、メトキシエチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート等)、アルケン(エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン等)等が挙げられる。
【0029】
これらの中でも、他のモノマーとしては、末端の官能基の分極の大きいことから、アクリル酸やメタクリル酸が望ましい。
【0030】
イオン性オリゴマーは、そのモノマー結合数が例えば10個から100個程度のものであるが、比誘電率を高く、リーク電流を低減する観点から、イオン性オリゴマーを構成するモノマーの結合数は、20以上100以下であることがよく、望ましくは40以上90以下、より望ましくは60以上85以下である。
【0031】
イオン性オリゴマーの含有量は、樹脂に対して、例えば、5%以上120%以下がよく、望ましくは20%以上100%以下、より望ましくは50%以上80%以下である
【0032】
次に、樹脂について説明する。
樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
なお、(メタ)アクリル樹脂とは、アクリル樹脂若しくはメタクリル樹脂のいずれか、又は両方であることを意味する。
【0033】
樹脂は、架橋構造を有していることがよい。これにより、効果的に、比誘電率を向上しつつ、リーク電流も低減できる。
樹脂に架橋構造を付与するには、例えば、1)架橋性基を持つ樹脂(例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、イソシアネート基等の架橋性基を持つモノマーを重合成分として有する樹脂)と共に、架橋性基と架橋反応する硬化剤(架橋剤)を併用し、モノマーの架橋性基と硬化剤(架橋剤)の架橋性基との架橋反応を生じさせること等で実現できる。
【0034】
ここで、架橋性基を持つモノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチルアクリレート等が挙げられる。
硬化剤としては、例えば、イソシアネート硬化剤、エポキシ硬化剤等が挙げられる。
【0035】
架橋構造を有する樹脂としては、比誘電率を向上させ、リーク電流を低減するという観点から、架橋構造を有する樹脂のパルスNMRの緩和時間Tは、長くとも500μsであることがよく、望ましくは長くとも300μs、より望ましくは長くとも200μsである。
このパルスNMRの緩和時間Tの調整は、例えば、樹脂の種類や架橋剤(硬化剤)添加量を調整することで行う。
【0036】
なお、パルスNMRの緩和時間Tは,パルスに対する応答信号(自由誘導減衰シグナル:FID)により得られる。応答信号は複数の成分があれば、信号は各成分の和となる。具体的には、Solid−Echo法を用いて測定、得られたFID信号を最小二乗法によって解析し、ガウス型関数及びローレンツ型関数を用いて分子運動性の低いもの(ハードセグメント)、高いもの(ソフトセグメント)のT2Hおよび各成分量の割合を求め、下記の式(1)より緩和時間Tを求める。
具体的には、架橋構造を有する樹脂全体のT
=(Maa+McTc)/(Ma+Mc)・・・式(1)
で求めることができる。
式(1)中、Taは、ソフトセグメントの緩和時間T2H(μs)を示す。Tcは、ハードセグメントの緩和時間T2H(μs)を示す。Maは、ソフトセグメントの成分量の割合(質量比)を示す。Mcは、ハードセグメントの成分量の割合(質量比)を示す。
【0037】
架橋構造を有する樹脂は、パルスNMRの緩和時間が短くとも80μs以上とし、より望ましくは100μs以上がよい。パルスNMRの緩和時間が短く樹脂のハードセグメントが高すぎると金属塩構造を構成する金属イオンの配向の阻害となることがあるためである。
【0038】
このパルスNMRの緩和時間は、樹脂の動き易さを示す指数であり、この値が小さい程、当該樹脂の分子鎖の自由度が小さくなる。言い換えれば、このパルスNMRの緩和時間は、イオン性オリゴマーの移動し易さを示す指数であり、この値が小さい程、イオン性オリゴマーの移動制限の度合いが高く、リーク電流が低減される。一方で、このパルスNMRの緩和時間が小さすぎると、樹脂の分子鎖の自由度も小さすぎることを意味し、イオン性オリゴマーの移動制限の度合いが高すぎて、静電容量が小さくなる。
【0039】
ここで、架橋構造を有する樹脂として(メタ)アクリル樹脂を適用する場合、その架橋割合は、比誘電率を向上させ、リーク電流を低減させる観点から、少なくとも5%であることがよいが、望ましくは少なくとも10%、より望ましくは少なくとも20%である。この架橋割合の調整は、例えば、架橋性基の数や、硬化剤(架橋剤)の添加量を調整することで行う。
【0040】
なお、樹脂の架橋割合は、式(限界硬化剤量/使用硬化剤量)×100で算出される値である。
ここで、限界硬化剤量は、樹脂が有する架橋性基数によって算出、具体的には、(樹脂が有する架橋性基の重量)/(硬化剤が有する反応性基率)によって算出される。
【0041】
架橋構造を有する樹脂として(メタ)アクリル樹脂を適用する場合、架橋構造を有する樹脂はその重量平均分子量1000当たりに対して、少なくとも1個の架橋性基を持ち、当該架橋性基の架橋反応(架橋性基と硬化剤との架橋反応)により架橋構造を有することがよい。
架橋性基の数を上記範囲で有することで、適度な大きさの分子鎖の網目構造が形成されて、イオン性オリゴマーの移動を制限でき、比誘電率を向上させると共に、リーク電流が抑制できる。
なお、適用する樹脂は、その重量平均分子量1000当たりに対して、1個以上10個以下の架橋性基を持つことが望ましく、より望ましくは1個以上3個以下の架橋性基を持つことである。架橋性基に対する架橋割合(架橋点)が多すぎると金属塩構造を構成する金属イオンの配向の阻害となることがあるためである。
【0042】
なお、樹脂の架橋性基の数は、架橋性基と反応する酸、塩基反応の当量数により算出、具体的には、樹脂の単位重量あたりに反応する酸または塩基物の量(重さ)によって算出される。
【0043】
架橋構造を有する樹脂として(メタ)アクリル樹脂を適用する場合、架橋構造を有する樹脂は、その重量平均分子量に対する架橋点の割合(重量平均分子量/架橋点の数)が、100以上22000以下の範囲が好ましく、より好ましくは300以上11000以下の範囲、さらに好ましくは350以上5000以下の範囲である。
ここで、架橋点の数は、架橋性基数と架橋割合とにより求められる。
【0044】
この重量平均分子量に対する架橋点の割合(重量平均分子量/架橋点の数)は、樹脂の分子鎖の網目領域の大きさを示す指数であり、この値が小さい程、当該樹脂の分子鎖の網目領域の大きさが小さくなる。
言い換えれば、この重量平均分子量に対する架橋点の割合(重量平均分子量/架橋点の数)は、イオン性オリゴマーの移動制限領域の大きさを示す指数、つまりイオン性オリゴマーの移動し易さを示す指数であり、この値が小さい程、イオン性オリゴマーの移動制限の度合いが高く、リーク電流が低減される。
一方で、この重量平均分子量に対する架橋点の割合(重量平均分子量/架橋点の数)が小さすぎると、樹脂の分子鎖の網目領域の大きさも小さすぎることを意味し、イオン性オリゴマーの移動制限の度合いが高すぎて、静電容量が小さくなる。
【0045】
次に、本発明の誘電体の製造方法について説明する。
本発明の誘電体は、例えば、樹脂(未架橋の樹脂)、イオン性オリゴマー、必要に応じて硬化剤等のその他添加剤を有機溶媒に溶解させた溶液を調整し、これを被塗布物(例えば基板や電極等)に塗布し、乾燥、必要に応じて加熱等を行い形成することができる。
【0046】
(蓄電池)
図1は、本発明の蓄電池の一例を示す概略構成図である。
本発明の蓄電池は、図1に示すように、互いに対向して配置された上部電極11及び下部電極12からなる一対の電極と、上部電極11及び下部電極12の間に配置される誘電体10と、で構成されている。
そして、誘電体10として、上記本発明の誘電体が適用されている。
【0047】
本発明の蓄電池において、一対の電極(上部電極11及び下部電極12)は、金属(例えば、金、銀、銅、ニッケル等)、金属酸化物(例えば、SnO2(酸化スズ)、In(酸化インジュウム)、ITO(酸化インジウムスズ)、IZO(酸化亜鉛インジウム))、有機材料(例えばポリピロールやポリチオフェン等)の導電材料で構成できる。
また、一対の電極(上部電極11及び下部電極12)は、樹脂基板上に上記導電材料からなる導電膜を形成したものを適用できる。
【0048】
本発明の蓄電池は、一対の電極(上部電極11及び下部電極12)の間に誘電体を配置した1つのユニットを、複数直列又は並列に接続してユニット化したものであってもよい。
本発明の蓄電池は、例えば、シート状、また、これを巻いたロール状等の形状で構成できる。
【0049】
本発明の蓄電池は、例えば、上記本発明の誘電体(本発明の高比誘電率固体材料)が含まれる塗布液を、一対の電極の一方(下部電極12)に塗布して塗膜を形成した後、一対の電極の一方の他方(上部電極11)を重ねあわせて、塗膜を挟持した後、当該塗膜を乾燥する等の処理を施すことで、誘電体10を形成し、作製できる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、これら各実施例は、本発明を制限するものではない。
【0051】
(実施例1)
・2−エチルヘキシルアクリレート/2−ヒドロキシエチルアクリレート共重合体からなる樹脂(重合比7:3、重量平均分子量20万、水酸基の数1[個/重量平均分子量1000]): 100質量部
・金属イオン(ナトリウムイオン): 10質量部
・溶媒(酢酸エチル): 100質量部
上記組成を混合して、誘電体形成用塗布液を得た。
【0052】
得られた誘電体形成用塗布液を、下部電極としての厚み0.2mmの銅板上に、バーコート法により、乾燥後の厚みが40μmとなるように塗工し、110℃で10分間乾燥して、形成した塗膜上に、上部電極としての厚み0.2mmの銅板を貼り付け、一対の電極間に誘電体が挟持されたキャパシタ型蓄電池(コンデンサ)を試作した。
【0053】
(実施例2)
・2−エチルヘキシルアクリレート/2−ヒドロキシエチルアクリレート共重合体からなる樹脂(重合比7:3、重量平均分子量20万、水酸基の数1[個/重量平均分子量1000]): 100質量部
・イオン性オリゴマーA: 80質量部
・溶媒(酢酸エチル): 100質量部
上記組成を混合して、誘電体形成用塗布液を得た。
そして、得られた誘電体形成用塗布液を用いて、実施例1と同様にして、一対の電極間に誘電体が挟持されたキャパシタ型蓄電池(コンデンサ)を試作した。
【0054】
ここで、イオン性オリゴマーAは、次のようにして作製した。
リチウム塩構造を持つ2−ヒドロキシエチルアクリレート10質量部、エチルアクリレート20質量部、及び2−エチルヘキシルアクリレート30質量部を溶剤(酢酸エチル)50質量部に添加し、110℃6時間加熱処理を行い、イオン性オリゴマーAを得た。
得られたイオン性オリゴマーは、モノマー結合数60、重量平均分子量8000であった。
【0055】
(実施例3)
・2−エチルヘキシルアクリレート/2−ヒドロキシエチルアクリレート共重合体からなる樹脂(重合比7:3、重量平均分子量20万、水酸基の数1[個/重量平均分子量1000]): 100質量部
・イソシアネート硬化剤: 0.4質量部
・イオン性オリゴマーA: 80質量部
・溶媒(酢酸エチル): 100質量部
上記組成を混合して、誘電体形成用塗布液を得た。
そして、得られた誘電体形成用塗布液を用いて、実施例1と同様にして、一対の電極間に誘電体が挟持されたキャパシタ型蓄電池(コンデンサ)を試作した。
【0056】
(実施例4〜9)
イソシアネート硬化剤の量を、1質量部(実施例4)、4質量部(実施例5)、8質量部(実施例6)、12質量部(実施例7)、16質量部(実施例8)、20質量部(実施例9)にそれぞれ変更した以外は、実施例3と同様にして誘電体形成用塗布液を得た。
そして、得られた誘電体形成用塗布液を用いて、実施例1と同様にして、一対の電極間に誘電体が挟持されたキャパシタ型蓄電池(コンデンサ)を試作した。
【0057】
(実施例10)
・ビスフェノールA/エピクロロヒドリン共重合体からなる樹脂(重合比5:5、重量平均分子量8千): 100質量部
・金属イオン(ナトリウムイオン): 10質量部
・溶媒(メチルエチルケトン): 100質量部
上記組成を混合して、誘電体形成用塗布液を得た。
そして、得られた誘電体形成用塗布液を用いて、実施例1と同様にして、一対の電極間
に誘電体が挟持されたキャパシタ型蓄電池(コンデンサ)を試作した。
【0058】
(実施例11)
・ビスフェノールA/エピクロロヒドリン共重合体からなる樹脂(重合比5:5、重量平均分子量8千): 100質量部
・イオン性オリゴマーA: 80質量部
・溶媒(メチルエチルケトン): 100質量部
上記組成を混合して、誘電体形成用塗布液を得た。
そして、得られた誘電体形成用塗布液を用いて、実施例1と同様にして、一対の電極間に誘電体が挟持されたキャパシタ型蓄電池(コンデンサ)を試作した。
【0059】
(実施例12)
・ビスフェノールA/エピクロロヒドリン共重合体からなる樹脂(重合比5:5、重量平均分子量8千): 100質量部
・イソシアネート硬化剤: 0.1質量部
・イオン性オリゴマーA: 80質量部
・溶媒(メチルエチルケトン): 100質量部
上記組成を混合して、誘電体形成用塗布液を得た。
そして、得られた誘電体形成用塗布液を用いて、実施例1と同様にして、一対の電極間に誘電体が挟持されたキャパシタ型蓄電池(コンデンサ)を試作した。
【0060】
(実施例13〜14)
イソシアネート硬化剤の量を、0.8質量部(実施例13)、1.2質量部(実施例14)、にそれぞれ変更した以外は、実施例12と同様にして誘電体形成用塗布液を得た。
そして、得られた誘電体形成用塗布液を用いて、実施例1と同様にして、一対の電極間に誘電体が挟持されたキャパシタ型蓄電池(コンデンサ)を試作した。
【0061】
(比較例1)
・2−エチルヘキシルアクリレート/2−ヒドロキシエチルアクリレート共重合体からなる樹脂(重合比7:3、重量平均分子量20万、水酸基の数1[個/重量平均分子量1000]): 100質量部
・溶媒(酢酸エチル): 100質量部
上記組成を混合して、誘電体形成用塗布液を得た。
そして、得られた誘電体形成用塗布液を用いて、実施例1と同様にして、一対の電極間に誘電体が挟持されたキャパシタ型蓄電池(コンデンサ)を試作した。
【0062】
(評価)
−静電容量(比誘電率)−
各例で作製したキャパシタ型蓄電池(コンデンサ)に対し、LCRメータを用い、周波数10Hz、10Vの条件の下、静電容量を測定した。そして、測定した静電容量に基づき、比誘電率を算出した。
【0063】
−リーク電流−
各例で作製したキャパシタ型蓄電池(コンデンサ)について、電界強度(印加電圧)の値を変化させたときのリーク電流値の変化を測定した。なお、測定面積は、0.25cm2とした。
そして、キャパシタ型蓄電池(コンデンサ)において、電界強度0〜1500V/cmの範囲で測定されたリーク電流の最大値を調べた。なお、リーク電流の最大値は、9個のキャパシタ型蓄電池(コンデンサ)の平均値である。
【0064】
各例で作製したキャパシタ型蓄電池(コンデンサ)の誘電体の詳細と共に、上記評価結果を表1に示す。
また、図2に、実施例1〜14及び比較例1における、樹脂のパルスNMR緩和時間と静電容量とリーク電流の関係をグラフで示す。
【0065】
緩和時間T2H(スピン−スピン緩和時間)測定はパルスNMRを用いて行った。測定条件は、観測核:H、磁石:永久磁石0.85T、検波方式:QD方式、パルス系列:Solid−Echo法、パルス幅:2.0μs、パルス間隔8.0μs、パルス繰り返し時間:3.0s、測定温度25℃とした。そこから得られたハードセグメント、ソフトセグメントのT2Hおよび各成分の割合を用いて上記(1)式で緩和時間Tを求めた。
【0066】
なお、表1の誘電体の詳細(実施例1〜9及び比較例1)において、樹脂の架橋割合(%)は、イソシアネート硬化剤(実施例3〜9)の限界硬化剤量は21.6質量部であり、これに基づき算出した。
また、表1の誘電体の詳細において、樹脂の分子鎖網目領域(樹脂の分子量/架橋点の数)は、未架橋の樹脂を適用した例(実施例1〜2及び比較例1)では樹脂の分子量を示している。
【0067】
【表1】

【0068】
上記結果から、実施例1は、比較例に比べ、静電容量、つまり誘電体の比誘電率が大きくなっていることがわかる。
また、イオン性オリゴマーを配合した実施例2〜9、11〜14では、金属イオンを配合した実施例1、10に比べ、リーク電流が低減されていることがわかる。
また、架橋樹脂を適用した実施例3〜9、12〜14では、未架橋樹脂を適用した実施例2、11に比べ、リーク電流が低減されていることがわかる。
【0069】
詳細には、比較例1では、リーク電流が少なく、電荷の保持特性は高いが、空間電荷分布による分極を生じせしめる金属イオンが存在しないため、静電容量が低いものとなった。
【0070】
また、実施例1、10では、空間電荷分布による分極を生じせしめる金属イオンが存在するため静電容量が高いものとなった。
【0071】
また、実施例2、11では、空間電荷分布による分極を生じせしめるイオン性オリゴマーは金属イオンよりも樹脂中の移動が抑制されることから、実施例1、10に比べ、リーク電流が少なく、電荷の保持特性は高いものとなった。
【0072】
また、実施例3〜9、12〜14では、架橋樹脂を適用しているため、その架橋樹脂の分子鎖の網目によって、空間電荷分布による分極を生じせしめるイオン性オリゴマーの移動が制限される一方で、当該網目内での移動が確保されることから、静電容量が高く維持されると共に、リーク電流が少なく、電荷の保持特性は高いものとなった。
【0073】
また、実施例3〜9、12〜14においては、硬化剤量を増やし、架橋樹脂の架橋点が多くなるほど、その架橋樹脂の分子鎖の網目内で、空間電荷分布による分極を生じせしめるイオン性オリゴマーの移動が制限される、つまり、イオン性オリゴマーの移動可能領域が狭まるため、リーク電流が少なく、電荷の保持特性は高いものとなった。
特に、実施例4〜9、13〜14では、実施例3、12に比べ、パルスNMRの緩和時間が500μs以下と短くハードセグメントの割合が多くなったことで、空間電荷分布による分極を生じせしめるイオン性オリゴマーの移動が制限されており、リーク電流が少なく、電荷の保持特性は高いものとなった。
【0074】
また、(メタ)アクリル樹脂に関しては架橋割合が少なくとも5%とすることで空間電荷分布による分極を生じせしめるイオン性オリゴマーの移動が制限されており、リーク電流が少なく、電荷の保持特性は高いものとなった。
なお、実施例3〜9、12〜14では、硬化剤量を増やし、架橋樹脂の架橋点が多くして、イオン性オリゴマーの移動可能領域が狭めても、イオン性オリゴマーが空間電荷分布による分極を生じせしめる分の移動が確保されていることから、静電容量が高く維持されているものとなった。
【符号の説明】
【0075】
10 誘電体
11 上部電極
12 下部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、
金属イオンと、
を含んで構成される誘電体。
【請求項2】
前記金属イオンが、金属塩構造を持つ分子鎖を有する化合物である請求項1に記載の誘電体。
【請求項3】
前記樹脂が、架橋構造を有する樹脂である請求項1又は2に記載の誘電体。
【請求項4】
前記架橋構造を有する樹脂のパルスNMRの緩和時間Tが、長くとも500μsである請求項3に記載の誘電体。
【請求項5】
前記架橋構造を有する樹脂が(メタ)アクリル樹脂であり、その架橋割合が少なくとも5%である請求項3又は4に記載の誘電体。
【請求項6】
前記架橋構造を有する樹脂が(メタ)アクリル樹脂であり、その重量平均分子量1000当たりに対して、少なくとも1個の架橋性基を持ち、当該架橋性基の少なくとも一部の架橋反応により架橋構造を有する請求項3〜5のいずれか1項に記載の誘電体。
【請求項7】
一対の電極と、
前記一対の電極の間に配置された誘電体であって、請求項1〜6のいずれか1項に記載の誘電体と、
を有するキャパシタ型蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−142538(P2012−142538A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72878(P2011−72878)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】