説明

誘電体バリア放電ランプの設計方法、照明装置及びその製造方法

【課題】電極部分のガラスにピンホールを発生させない設計ができる誘電体バリア放電ランプの設計方法、またそのような設計思想に基づいて製造する照明装置の製造方法及びそれによって製造された照明装置を提供する。
【解決手段】本発明は、外面に電流導体層が外部電極4、5として少なくとも一対配設されたガラス管1を備えた誘電体バリア放電ランプの設計方法及びその誘電体バリア放電ランプを光源とする照明装置の製造方法において、当該ランプの仕様又は点灯条件に応じて、そのガラス管の肉厚d、ガラス管に掛ける電圧V、ガラス管の単位面積当たりの抵抗R、ランプ点灯周波数fの間で、所定の関係に基づいてd、V、R又はfを設定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体バリア放電ランプの設計方法、照明装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ランプ外部に電極を備える、所謂、外部電極型の誘電体バリア放電ランプは、例えば、実開昭61−126559号公報(特許文献1)より知られている。図1、図2は、従来の誘電体バリア放電ランプの構造を示している。図1、図2において、ガラス管1の内壁に蛍光体層2が形成され、ガラス管1の内部放電空間には水銀とネオン、アルゴン、キセノン等の希ガスとを混合した放電ガス3が封入され、ガラス管1の両端が封止されている。ガラス管1の両端の外表面には金属導体層で成る外部電極4、5が形成されている。このような構成の誘電体バリア放電ランプを点灯させる場合、ガラス管1の両端の両極4、5間に高周波点灯装置(インバータ)6から高周波電圧を印加すると、外部電極4、5の内側のガラス部分のC成分を介してガラス管1内の放電空間に高周波電力が注入され、ガラス管1内で持続放電が生じてランプが発光する。
【0003】
この誘電体バリア放電ランプが不点灯となる1つの原因として、図3に示すように外部電極4、5の内側のガラス部分に直径0.1mm程度の穴(ピンホール)10が開いてリークし、ランプが不点灯になる現象の生じることがある(特開2001−76682号公報―特許文献2の第6欄の段落0032)。
【0004】
この現象は、図4に示すプロセスにより発生する。すなわち、電源6の投入で電極4、5の内側のガラス部分の温度Tが上昇してガラス管の単位面積当たりの抵抗R[Ω]が低下し(ステップS1〜S5)、ガラス部内を定常的に電流Iが流れてV=IRが成立し、ジュール熱(Q=IR)が発生し(ステップS7〜S11)、これがガラス温度をさらに上昇させて熱暴走モードに入る(ステップS13〜S19)。この現象によって、該電極部の内側のガラス部分にピンホールが発生する。このピンホールの発生現象を防止するために、特許文献2では、電極部に放熱部材を取り付けて電極部の温度が上昇しないように強制冷却する構成を提案している。
【0005】
ところが、この特許文献2の方法を採用したとしても、電極温度を何℃以下にすればピンホールの発生を防止できるのか明らかではなく、安全を見て電極温度を常温(25℃)程度まで下げており、それには過度の強制冷却が必要であり、そのためには大きな放熱部材を取り付けることが必要となる。そして大きな放熱部材を取り付けるとなると、その放熱部材を収めるスペースが必要となる。しかしながら、本誘電体バリア放電ランプを例えば液晶テレビ用バックライト光源として用いる場合、あるいは看板照明用光源として用いる場合、筐体のスペースが限られているために放熱部材を電極に取り付けることができない。このように、従来、ガラス管の電極配設部のピンホール発生を確実に防止する対策が見いだされていない問題点があった。
【特許文献1】実開昭61−126559号公報
【特許文献2】特開2001−76682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような従来の問題点に鑑みてなされたもので、電極配設部分のガラス管にピンホールを発生させない設計ができる誘電体バリア放電ランプの設計方法、またこの設計条件により製造され、光源としての誘電体バリア放電ランプのガラス管にピンホールを発生させることがない照明装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、外面に電流導体層が外部電極として少なくとも一対配設されたガラス管を備えた誘電体バリア放電ランプの設計方法において、当該ランプの仕様又は点灯条件に応じて、そのガラス管の肉厚d[m]、ガラス管に掛ける電圧V[Vrms]、ガラス管の単位面積当たりの抵抗R[Ω]、ランプ点灯周波数f[Hz]の間で、電子のガラス内ドリフト速度に関する定数kを用いて表した条件式、
【数J】

を満たすように前記d、V、R又はfを設計することを特徴とするものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の誘電体バリア放電ランプの設計方法において、前記ガラス管の単位面積当たりの抵抗R[Ω]を当該ガラス管の電極配設部のガラス管温度T[K]を用いて次の式で表した場合に、
【数K】

前記ガラス管温度T[K]が次の式、
【数L】

を満たすように前記d、V、R又はfを設計することを特徴とするものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項2の誘電体バリア放電ランプの設計方法において、前記ガラス管の素材がコバール封着用ホウ珪酸ガラスである場合に、定数A=14531、B=−7.9157、k=29440を用いて前記d、V、R又はfを設計することを特徴とするものである。
【0010】
請求項4の発明は、外面に電流導体層が外部電極として少なくとも1対配設されたガラス管を備えた誘電体バリア放電ランプを光源とし、この外部電極間に高周波電力を印加して前記ランプを放電点灯させる照明装置において、前記ランプの仕様又は点灯条件に応じて、そのガラス管の肉厚d[m]、ガラス管に掛ける電圧V[Vrms]、ガラス管の単位面積当たりの抵抗R[Ω]、ランプ点灯周波数f[Hz]の間で、電子のガラス内ドリフト速度に関する定数kを用いて表した条件式、
【数M】

を満たすように前記d、V、R又はfを設定したことを特徴とするものである。
【0011】
請求項5の発明は、請求項4の照明装置において、前記ガラス管の単位面積当たりの抵抗R[Ω]を当該ガラス管の電極配設部のガラス管温度T[K]を用いて次の式で表した場合に、
【数N】

前記ガラス管温度T[K]が次の式、
【数O】

を満たすように前記d、V、R又はfを設定したことを特徴とするものである。
【0012】
請求項6の発明は、請求項5の照明装置において、前記ガラス管の素材がコバール封着用ホウ珪酸ガラスである場合に、定数A=14531、B=−7.9157、k=29440を用いて前記d、V、R又はfを設定したことを特徴とするものである。
【0013】
請求項7の発明は、外面に電流導体層が外部電極として少なくとも1対配設されたガラス管を備えた誘電体バリア放電ランプを光源とし、この外部電極間に高周波電力を印加して前記ランプを放電点灯させる照明装置の製造方法において、前記ランプの仕様又は点灯条件に応じて、そのガラス管の肉厚d[m]、ガラス管に掛ける電圧V[Vrms]、ガラス管の単位面積当たりの抵抗R[Ω]、ランプ点灯周波数f[Hz]の間で、電子のガラス内ドリフト速度に関する定数kを用いて表した条件式、
【数P】

を満たすように前記d、V、R又はfを設定することを特徴とするものである。
【0014】
請求項8の発明は、請求項7の照明装置の製造方法において、前記ガラス管の単位面積当たりの抵抗R[Ω]を当該ガラス管の電極配設部のガラス管温度T[K]を用いて次の式で表した場合に、
【数Q】

前記ガラス管温度T[K]が次の式、
【数R】

を満たすように前記d、V、R又はfを設定することを特徴とするものである。
【0015】
請求項9の発明は、請求項8の照明装置の製造方法において、前記ガラス管の素材がコバール封着用ホウ珪酸ガラスである場合に、定数A=14531、B=−7.9157、k=29440を用いて前記d、V、R又はfを設定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、外部電極部のガラスにピンホールが発生しない条件で誘電体バリア放電ランプの仕様、点灯条件を設定することができ、照明装置の光源として誘電体バリア放電ランプを装着し高周波電力を印加して放電点灯させる実際の使用状態で電極部にピンホールが発生するのを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて詳説する。
【0018】
本願発明者らは、種々の実験を繰り返すうち、図1、図2に示した構成の外部電極型の誘電体バリア放電ランプを点灯させているときに、図3に示すようにその電極4、5の内側のガラス部分にピンホール10が発生する現象について、次の発見をした。電極部ピンホール発生のプロセスには、以下の2つの段階がある。
【0019】
I.ピンホールが発生する条件(すなわち、熱暴走モードに入る条件)が成立するか否かの段階。
【0020】
II.ピンホール発生の条件が成立し、熱暴走モードに入ってからの段階。
【0021】
まず、Iの段階において、熱暴走モードに入るためには、ガラス管1の電極4、5の内側のガラス部分でV=IRの関係が定常的に成立し、ジュール熱が発生する必要がある。ここで、Rはガラス管1の電極4、5の内側のガラス部分の単位面積当たり抵抗である。また、V=IRの関係が定常的に成立するためには、図5のモデルに示すように、ランプに印加される高周波電圧Vの半周期の間に最低1個の電子がガラスの厚みを走り切るための条件が成り立つ必要がある。この条件が成り立つと、次の高周波電圧Vの半周期の間にも、最低1個分の電流が同じガラス中の経路を逆方向に走ることが可能となり、すなわち、交番電界に対して電子1個分の電流が流れることになるので、V=IRの開係が定常的に成立する。このとき、電流によりジュール熱(Q=IR)が発生し、熱暴走モードに入るきっかけとなる。
【0022】
図5のモデルにおいて、電子のガラス厚み方向への、電界による速度vは、
【数1】

【0023】
と表すことができる。ここで、V[Vrms]はガラス管壁に印加される高周波電圧(周波数:f[Hz])であり、1個の電子が半周期の間にガラスの厚みd[m]を走り切らない条件が成り立つ場合、
【数2】

【0024】
が成り立ち、ガラス部内を実際には電流が流れず、ジュール熱は発生しない。この場合、熱暴走しないのでピンホール10は発生しない。ただし、電極部全体では電子の出入りがあるので、回路上、高周波点灯装置・ランプ間を電流(I=V/R)が流れているように見える。
【0025】
ここで、V=IRから、Vが一定でRが温度変化により1/2になった場合、Iは2倍になる。つまり、電子の速度v=μ×(V/d)が2倍になると、単位時間内にガラス部内を通過する電子の数も2倍になるので、電流も2倍になる。
【0026】
上の数2式が成立する状態、すなわち電子がガラスの厚みdを走り切らない場合において、ガラスの抵抗値が1/2になって電流が2倍になる(このとき、V、dは一定である)ということは、上記のように電子の速度v=μ×(V/d)が2倍になることを表す。
【0027】
ここで、μは固体状のガラス内における電子のドリフト速度を表し、
【数3】

【0028】
と表すことができる。ただし、kはガラスによる定数、Rはガラスの単位面積当たりの抵抗である。
【0029】
この数3式を数1式に代入し、すなわち1個の電子が半周期の間にガラスの厚みdを走り切らない条件は、dをガラス管1の肉厚、Vをガラス管1にかかる電圧、Rをガラス管1の単位面積当たりの抵抗、fをランプ点灯周波数、kを電子のガラス内ドリフト速度に関する定数として、
【数4】

【0030】
と表すことができる。この条件式に関して、左辺をそれぞれd、R、V、fとすると、次の数5式〜数8式が得られる。
【数5】

【数6】

【数7】

【数8】

【0031】
すなわち数5式〜数8式の何れかを満たすよう、ランプの仕様及び点灯条件を設定することで、ピンホールの発生を防止できる。ここで、さらに、A、Bはガラスの材質による定数であるとして、ガラス管1の単位面積当たりの抵抗Rは、温度Tの関数として
【数9】

【0032】
と表すことができる。ここで、A、Bはガラス管1の材質による定数である。この数9式は、固体状のガラス内におけるイオン伝導あるいは電子伝導を表す公知の関係式から類推したものであり、定数A、Bは、後述するように、ガラスの温度変化に対する体積抵抗率ρの変化を実測した図7に示すグラフにより求めることができる。
【0033】
このようにして得られた、数9式を数5式〜数8式にそれぞれ代入してd、V、T、fに関するピンホールが発生しないための条件式を求めると、次の数10式〜数13式が得られる。
【数10】

【数11】

【数12】

【数13】

【0034】
ただし、dはガラス管1の肉厚、Vはガラス管1にかかる電圧、fはランプ点灯周波数、kは電子のガラス内ドリフト速度に関する定数である。
【0035】
すなわち、数10式〜数13式の何れかを満たすようにランプの仕様及び使用条件を設定することで、ピンホールの発生を防止できるのである。そしてガラス管1にかかる電圧Vが低くなるほど、ガラス管1の厚みdが厚くなるほど、また周波数fが高くなる程ピンホールが発生し難いといえる。
【0036】
ピンホール発生の条件が成立した、ピンホール発生プロセスのIIの段階における挙動は、ガラス管1内を定常的に電流が流れ、すなわちV=IRの関係が成立しているので、図6に示すように、ガラス管壁を次の数14式で表される微小抵抗Rの集合体であるとみなし、
【数14】

【0037】
ピンホール発生までの抵抗値低下による温度上昇の逐次計算によりシミュレーションできる。ただし、A、Bはガラスの定数、dはガラスの厚み、Sは微小抵抗Rを想定したガラス円柱底面積である。
【0038】
すなわち、ガラス部内で発生するジュール熱とガラスの温度の開係は、
【数15】

【0039】
とおくと、
【数16】

【数17】

【数18】

【0040】
の関係式が得られるので、数14式、数16式、数17式、数18式を纏めて、次の数19式が得られる。
【数19】

【0041】
この数19式は、図4に示したピンホール発生プロセスの慨念と一致する。
【0042】
以下に、本発明の1つの実施の形態として、図1、図2に示した構成の外部電極型誘電体バリア放電ランプを光源として用い、図3に示す構成の照明装置を構成する場合の誘電体バリア放電ランプの設計方法、またこの設計方法に基づいて製造する照明装置の製造方法及び得られた照明装置について説明する。
【0043】
ガラス管1としてコバール封着用ホウ珪酸ガラスを用いた場合、体積抵抗率ρに関する定数A、Bは図7のグラフより、A=14247、B=−8.5115が求められる。また、種々のガラスメーカーからコバール封着用ホウ珪酸ガラスを入手して、各社のガラス成分のバラツキにより、A=14247±2%、B=−8.5115±7%程度以内のバラツキがあることが判明している。特に、A及びBの値が大きいほどガラスの電気抵抗は大きくなり、数11式で得られる電極部のピンホール発生温度上限Tは大きくなるので、本タイプの誘電体バリア放電ランプを設計する際には、電気抵抗の高いガラスを選ぶことが重要になる。そこで、本実施の形態では、A=14531、B=−7.9157とした。
【0044】
ガラス内での電子のドリフト速度に関する定数kを決めるに当たっては、種々の条件を変えて実験を繰返し、ピンホール発生現象を観察した。ピンホールが発生した実験の一例を示すと、数20式の点灯条件でピンホールが発生した。
【数20】

【0045】
ここで、外部電極として金属薄膜(厚さ10μm)を用いているので、外部電極の熱容量は外部電極配設部内側のガラス管(厚み0.3mm)の熱容量に比べて十分小さいので、外部電極表面温度は電極配設部のガラス管自身の温度と等しいと考えることができる。したがって、kを求める際の電極配設部ガラス管温度Tは、電極表面温度の値を用いた。
【0046】
また、外部電極として金属バンド(厚み0.1mm)等の熱容量の大きいもの、若しくはアルミテープ(金属に比べて熱伝導性の悪いシリコーン性樹脂等を基材とした接着剤でガラス表面に接着されている)を外部電極としたものは、電極配設部のガラス管自身の温度よりも電極表面の温度が低くなるが、このときには、熱容量及び放熱性を考慮してガラス管自身の温度を求める必要がある。例えば、金属バンド(厚み0.1mm)をガラス管に巻き付けてハンダで固定したタイプの外部電極は、電極表面温度に比べて電極配設部ガラス管温度が約10〜20℃高くなるので、それを考慮したランプの仕様及び点灯条件の設計が必要である。
【0047】
外部電極配設部でのガラス管静電容量C[F]は以下の数21式で求めた。ただし、φはランプ外径、dは肉厚、Lは電極長−ガラス管封着部の寸法(封着寸法は約2mm程度)、εoは真空中の誘電率、εsはガラスの比誘電率(コバール封着用ホウ珪酸ガラスの場合、約5.3mm)である。
【数21】

【0048】
また、電極配設部のガラス管に掛かる電圧V[Vrms]は、ランプ電流I[A]、静電容量C[F]、点灯周波数f[Hz]として、
【数22】

【0049】
から求めた。
【0050】
以上の計算からkを求めると、k=34635が求められる。なお、このkの値も、ガラス管の体積抵抗に関する定数A、Bと同様、種々のガラスメーカーのコバール封着用ガラス管を取り入れて、n増し試験を行った結果、k=34635±20%以内のバラツキがあることが判明した。特に、kの値が小さくなる程ガラスの電気抵抗(体積抵抗)は大きくなり、数11式で得られる電極ピンホール発生温度上限Tは大きくなるので、本タイプの誘電体バリア放電ランプを設計する際には、電気抵抗の高いガラスを選択することが重要となる。このことに鑑みて、kとしてバラツキの下限値、k=27708を選択するのが好ましい。
【0051】
これらの定数を用いると、本仕様の誘電体バリア放電ランプは、本点灯条件において、170℃〜212℃を超えると電極部ガラス管にピンホールが発生することが予測される。したがって、ガラス管ピンホールの発生を防止するためには、
(i)電極配設部ガラス管に掛かっている電圧を下げるために電極長を伸ばす、若しくはランプ外径を太くする、(ii)ランプ電流を減らす、(iii)点灯周波数を高くする、(iv)ガラス管の肉厚を厚くする、等の方策をとればよい。例えば、次の数23式の設計をすれば、ピンホール発生温度を213〜259℃の範囲まで上げることができる。
【数23】

【0052】
また、ランプ点灯時、外部電極4、5に給電部材14、15を通じてインバータ電源6から1325Vrms以上の電圧が印加されると、図8〜図10に示すように外部電極4、5とガラス管1(浮遊容量Csを介してアースされている)の間でコロナ放電A1、A2が発生し、オゾンが発生する。例えば、液晶テレビ用バックライト光源としてランプを組み込んだ際に、オゾンが発生すると、周辺部材を劣化させて製品寿命を縮めるおそれがあるので、外部電極に印加される電圧は、1300Vrms以下に抑える必要がある。実際には、マージンをとって1000Vrms以下に抑えるのが望ましいので、ランプ仕様及び点灯条件を設計する際には、このことにも考慮する必要がある。例えば、図8に示すフローティング出力型インバータ6でランプを点灯する際には、電極自身に印加される電圧は、ランプ両端に印加される電圧の1/2となるので、ランプ両端に印加する電圧は2600Vrms以下、若しくはマージンをとって2000Vrms以下とすることにも注意する必要がある。
【0053】
本実施の形態の設計方法は、現在の誘電体バリア放電ランプのランプ仕様及び点灯条件でピンホールが発生する可能性があるか否かを確認する信頼性保証の手段としても利用できる。例えば、数24式の仕様の液晶テレビバックライト用誘電体バリア放電ランプの場合について考察する。
【数24】

【0054】
このような仕様の誘電体バリア放電ランプのピンホール発生温度予測値は201〜245℃である。ところが、実際に液晶テレビに組み込んだ際の温度は約110℃であった。この場合、ピンホール発生温度予測値に対して十分なマージンがあり、電極部に放熱フィン等の放熱部材を取り付けなくても電極部ガラス管ピンホールは発生しないと結論できる。また、電極部に放熱フィン等を取り付けて強制冷却すると、電極部温度がランプ発光部(電極がない部分)よりも低い温度となり、その結果、ランプ内に封入している水銀が電極部に集まってランプ発光部の水銀蒸気が枯渇し、十分な輝度が得られない不具合の発生することがあったが、ランプ発光部のガラス管表面温度は60℃であり、電極部はこれよりも高い温度であったので、長時間点灯中に電極部にこのような不具合が発生することはなかった。さらに、電極部印加電圧に関しては、本ランプをフローティング出力型インバータで点灯することにより、820Vrms(ランプ両端の印加電圧1640Vrms)であったので、コロナ放電の発生もないランプ及び点灯条件の設計ができていると結論できる。
【0055】
以上により、本実施の形態の誘電体バリア放電ランプの設計方法、照明装置及びその製造方法によれば、外部電極4、5の内側のガラス部分にピンホールが発生する条件を満たさないようにランプ仕様を決定し、あるいは点灯条件を設定することによって当該ガラス部分のピンホール発生を防止し、誘電体バリア放電ランプの長期間の使用を可能にする。
【0056】
なお、本発明は外部電極型の誘電体バリア放電ランプの設計方法にとどまらず、当該設計思想に基づいて製造された誘電体バリア放電ランプに電力を供給する電源装置の仕様、点灯条件、またこれら誘電体バリア放電ランプと電源装置を含む照明装置、さらにはこれらの製造方法をも技術的範囲とする。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】従来の誘電体バリア放電ランプの正面図。
【図2】従来の誘電体バリア放電ランプの軸方向断面図。
【図3】従来の誘電体バリア放電ランプにおいてピンホールが発生した状態を示す断面図。
【図4】従来の誘電体バリア放電ランプでピンホール発生のメカニズムを示すフローチャート。
【図5】外部電極型誘電体バリア放電ランプにおけるピンホール発生前のガラス内電子伝導を示す説明図。
【図6】外部電極型誘電体バリア放電ランプにおけるピンホール発生条件成立後のガラスモデルの説明図。
【図7】本発明の1つの実施の形態で採用したコバール封着用ホウ珪酸ガラスのガラス温度と体積抵抗率ρとの関係を示すグラフ。
【図8】誘電体バリア放電ランプを点灯させる時にコロナ放電が発生しやすい場所を示す説明図。
【図9】図8におけるコロナ放電発生部分の拡大図。
【図10】本発明の1つの実施の形態において電極印加電圧とオゾン濃度との関係の測定結果を示すグラフ。
【符号の説明】
【0058】
1 ガラス管
2 蛍光体層
3 放電ガス
4 外部電極
5 外部電極
6 インバータ電源
14 給電部材
15 給電部材
A、B ガラスの抵抗に関する定数
d ガラスの厚み
S 微小抵抗Rを想定したガラス徴細円柱の底面積
Dg ガラスの比熱
V ガラスヘの印加電圧
Tn−1 ジュール熱によって上昇する直前のガラスの温度
Tn ジュール熱によって上昇した直後のガラスの温度
h ガラスの放熱定数
T0 周囲温度
Qn−1 ジュール熱によるガラスの発熱量
ΔT ジュール熱によるガラスの上昇温度
I 微小抵抗Rを流れる電流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面に電流導体層が外部電極として少なくとも1対配設されたガラス管を備えた誘電体バリア放電ランプの設計方法において、
当該ランプの仕様又は点灯条件に応じて、そのガラス管の肉厚d[m]、ガラス管に掛ける電圧V[Vrms]、ガラス管の単位面積当たりの抵抗R[Ω]、ランプ点灯周波数f[Hz]の間で、電子のガラス内ドリフト速度に関する定数kを用いて表した条件式、
【数A】

を満たすように前記d、V、R又はfを設計することを特徴とする誘電体バリア放電ランプの設計方法。
【請求項2】
前記ガラス管の単位面積当たりの抵抗R[Ω]を当該ガラス管の電極配設部のガラス管温度T[K]を用いて次の式で表した場合に、
【数B】

前記ガラス管温度T[K]が次の式、
【数C】

を満たすように前記d、V、R又はfを設計することを特徴とする請求項1に記載の誘電体バリア放電ランプの設計方法。
【請求項3】
前記ガラス管の素材がコバール封着用ホウ珪酸ガラスである場合に、定数A=14531、B=−7.9157、k=29440を用いて前記d、V、R又はfを設計することを特徴とする請求項2に記載の誘電体バリア放電ランプの設計方法。
【請求項4】
外面に電流導体層が外部電極として少なくとも1対配設されたガラス管を備えた誘電体バリア放電ランプを光源とし、この外部電極間に高周波電力を印加して前記ランプを放電点灯させる照明装置において、
前記ランプの仕様又は点灯条件に応じて、そのガラス管の肉厚d[m]、ガラス管に掛ける電圧V[Vrms]、ガラス管の単位面積当たりの抵抗R[Ω]、ランプ点灯周波数f[Hz]の間で、電子のガラス内ドリフト速度に関する定数kを用いて表した条件式、
【数D】

を満たすように前記d、V、R又はfを設定したことを特徴とする照明装置。
【請求項5】
前記ガラス管の単位面積当たりの抵抗R[Ω]を当該ガラス管の電極配設部のガラス管温度T[K]を用いて次の式で表した場合に、
【数E】

前記ガラス管温度T[K]が次の式、
【数F】

を満たすように前記d、V、R又はfを設定したことを特徴とする請求項4に記載の照明装置。
【請求項6】
前記ガラス管の素材がコバール封着用ホウ珪酸ガラスである場合に、定数A=14531、B=−7.9157、k=29440を用いて前記d、V、R又はfを設定したことを特徴とする請求項5に記載の照明装置。
【請求項7】
外面に電流導体層が外部電極として少なくとも1対配設されたガラス管を備えた誘電体バリア放電ランプを光源とし、この外部電極間に高周波電力を印加して前記ランプを放電点灯させる照明装置の製造方法において、
前記ランプの仕様又は点灯条件に応じて、そのガラス管の肉厚d[m]、ガラス管に掛ける電圧V[Vrms]、ガラス管の単位面積当たりの抵抗R[Ω]、ランプ点灯周波数f[Hz]の間で、電子のガラス内ドリフト速度に関する定数kを用いて表した条件式、
【数G】

を満たすように前記d、V、R又はfを設定することを特徴とする照明装置の製造方法。
【請求項8】
前記ガラス管の単位面積当たりの抵抗R[Ω]を当該ガラス管の電極配設部のガラス管温度T[K]を用いて次の式で表した場合に、
【数H】

前記ガラス管温度T[K]が次の式、
【数I】

を満たすように前記d、V、R又はfを設定することを特徴とする請求項7に記載の照明装置の製造方法。
【請求項9】
前記ガラス管の素材がコバール封着用ホウ珪酸ガラスである場合に、定数A=14531、B=−7.9157、k=29440を用いて前記d、V、R又はfを設定することを特徴とする請求項8に記載の照明装置の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−190645(P2006−190645A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−307647(P2005−307647)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【Fターム(参考)】