説明

誘電体前駆溶液、金属複合粒子及び導電性ペースト

【目的】電子部品等の多層化と高密度化に貢献でき、コスト低減に寄与し、焼成後の炭素残存量の少ない誘電体前駆溶液及び導電性ペーストを提供する。
【構成】 本発明にかかる誘電体前駆溶液は、誘電体前駆物質を異なる複数種の有機成分を含む複合系組成物で構成され、この誘電体前駆溶液と金属複合粒子を溶媒に分散させて導電性ペースト6が得られる。焼成により電極膜を形成するときに、同時に誘電体前駆化合物8から誘電体が形成される。誘電体前駆化合物8は分子サイズであるから、金属微粒子が焼結して導電性の高い緻密電極膜が形成され、同時に形成される誘電体により焼結が抑制されて熱収縮が防止される。また、この金属複合粒子粉末を提供すれば、ユーザーサイドで所望性能の導電性ペーストも調製でき、しかも誘電体前駆物質を異なる複数種の有機成分を含む複合系組成物で構成し、焼成後の炭素残存量の低減を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス電子部品等における電極、配線等を形成するための導電性ペーストの素材として適した誘電体前駆溶液、金属複合粒子及び導電性ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、この種の導電性ペーストは、導電性を与える金属微粒子と、この金属微粒子を分散させる有機溶剤と、粘度調整用の樹脂から構成されている。そして、セラミックス電子部品を製造する場合、この導電性ペーストをグリーンシートの表面に所定パターンに塗着して電極ペースト膜を形成し、このグリーンシートと電極ペースト膜を一体に焼成して、電極をセラミックス基板の上に同時に形成している。
【0003】
つまり、グリーンシートの表面にペーストを塗膜形成した後、焼成によってグリーンシートは熱収縮しながら誘電体セラミックス基板へと変化し、電極ペースト膜も熱収縮しながら有機成分が除去されて電極膜へと変化する。グリーンシートと電極ペースト膜の焼成収縮率に大きな違いがあると、電極膜がセラミックス基板から剥離したり、焼成により電極膜が局部的に球状化して電極膜に途切れが生じる可能性があった。
【0004】
そこで、金属微粒子を誘電体により修飾する技術が開発された。グリーンシートとほぼ同組成の誘電体により金属微粒子を修飾すれば、電極膜の焼成収縮率がグリーンシートの焼成収縮率に接近するから、電極膜の剥離や途切れといった弱点が改善されるというアイデアである。幾つかの修飾方法が提案されている。
【0005】
まず、下記特許文献1の特開昭57−30308号公報においては、図10の概略断面図に示すように、セラミックスからなる誘電体微粒子20を担持させた金属微粒子2が開示されている。この場合、誘電体微粒子20を事前に形成しておき、この誘電体微粒子20を金属微粒子2の表面に多数担持させているため、焼成により有機成分が除去されても、誘電体微粒子20は電極膜中に存在し、電極膜の焼成収縮率をグリーンシートの焼成収縮率に近似させることができる。
【0006】
しかし、誘電体微粒子20はセラミックスであるから電気絶縁性を有し、電極膜の導電性を低下させる作用を有しており、ときに電極ペーストの導電性能の低下が指摘されていた。特に、金属微粒子2の外周面に絶縁性の誘電体粒子20が存在するから、金属微粒子2の焼結や融合を阻害して導通性能が極端に低下する事例も生じていた。
【0007】
更に、重大な欠点は、金属微粒子2の表面に誘電体微粒子20により凹凸が生じると、複数の金属微粒子2が相互に結合し易くなり、サイズの大きな2次粒子22が形成されることである。この2次粒子22の内部には多数の微細空隙が含まれているから、焼成によりこの微細空隙が消失すると、電極膜の焼成収縮率が設計値よりかなり増大し、グリーンシートの焼成収縮率から離反する傾向を示す。従って、電極膜の剥離現象が改善できない事態が存在した。
【0008】
次に、下記特許文献2の特開2001−189227号公報においては、図11の概略断面図に示すように、誘電体層24を被覆形成した金属微粒子2が開示されている。この場合、金属微粒子2の表面を誘電体層24により完全に被覆するから、金属微粒子2の焼成による融合が阻害されて、電極膜の焼成収縮率をグリーンシートの焼成収縮率に近似させることができる。
【0009】
しかし、誘電体層24が電気絶縁性を有し、しかも金属微粒子2を完全に被覆しているため、図10に示されるものよりかなり高い電気絶縁性を発現する。その結果、電極膜の導電性能の低下が問題となっている。同時に、誘電体層24を形成すると、誘電体層24を介して2次粒子22を形成し易くなり、2次粒子内部の空隙により焼成収縮率が増大する欠点が明らかとなっている。
【特許文献1】特開昭57−30308
【特許文献2】特開2001−189227
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、金属微粒子2の外周面を誘電体で修飾すると、導電性や焼成収縮率において当初の改善方向から反れる事態が見られることがあった。そこで、誘電体微粒子を独立に作製しておき、この誘電体微粒子を金属微粒子と混合して導電性ペーストを形成する技術が開発されている。
【0011】
この技術による導電性ペーストは、導電性を与える金属微粒子と、焼結を抑制する誘電体微粒子と、金属微粒子と誘電体微粒子を均一に分散させる有機溶剤と、粘度調整用の樹脂から構成される。この導電性ペーストを用いると、誘電体微粒子に阻害されながらも、独立な金属微粒子は相互に焼結又は融合して電極膜を形成できる。また、誘電体微粒子の存在によって焼結抑制が実現できる。つまり、電極膜の導電性を低下させずに、電極膜の焼成収縮率をグリーンシートの焼成収縮率に近接できる利点がある。しかし、このように誘電体微粒子を分散させた導電性ペーストにおいても、以下のような問題点が明らかとなってきた。
【0012】
近年、セラミックス電子部品の高密度化を行うために、積層セラミックス電子部品として提供されることが多い。高密度化を更に進めるために、多層化と薄層化の技術開発が強力に要請されている。そのためには、グリーンシートの薄層化だけでなく、電極膜の薄層化が望まれている。電極膜の薄層化を実現するためには、金属微粒子の微細化(超微粒子化)と同時に誘電体微粒子の微細化(超微粒子化)が必要となる。
【0013】
図12は、金属微粒子直径Dとスリーポケット直径dの関係を説明する概略図である。電極膜の導電性を確実にするためには、電極膜の密度を大きく設定することが要求される。電極膜密度が最高になるのは、金属微粒子2が最密充填される場合であり、この最密充填構造では、相互に接触する3個の金属微粒子2でスリーポケット26が形成される。
【0014】
スリーポケット直径dは、このスリーポケット26に入り得る粒子の最大直径で定義される。誘電体微粒子をこのスリーポケット26に充填できれば、電極膜密度の最大化と焼結抑制を実現できるはずである。換言すれば、誘電体微粒子の直径をスリーポケット直径d以下に設定できることが必要になる。金属微粒子直径Dとスリーポケット直径dの関係は表1に示されている。
【0015】
<表1>金属微粒子直径Dとスリーポケット直径dの関係
<番号> <金属微粒子直径D> <スリーポケット直径d>
No.1 0.6μm 0.0929μm
No.2 0.4μm 0.0618μm
No.3 0.2μm 0.0309μm
No.4 0.1μm 0.0154μm
【0016】
金属微粒子としてNi微粒子、誘電体微粒子としてBaTiO微粒子を使用した例で説明してみよう。従来から実施されている電極ペーストでは、0.6μmのNi微粒子に0.1μmのBaTiO微粒子が混合されている。この場合、スリーポケット直径dは0.0929μmであるから、0.1μmのBaTiO微粒子はほぼうまくスリーポケットに充填される。
【0017】
しかし、多層セラミックス電子部品の高密度化を行うために、電極膜のより一層の薄層化が要請されており、直径Dが0.2μm又は0.1μmのNi微粒子を使用することが研究されている。このとき、スリーポケット0.0309μm又は0.0154μmと極めて小さくなる。この直径dは0.0309μmのスリーポケットに充填するためには、0.03μmや0.01μmの直径を有したBaTiO微粒子が必要になるが、現在のところまだ実現していない。このような微粒子はナノメートルサイズのBaTiO超微粒子と呼ばれ、研究途上にあるものの未だに実用化は困難な状況である。
【0018】
以上のように、金属微粒子と誘電体微粒子を混合した導電性ペーストを用いる従来技術においては、金属微粒子の直径を小さくするとスリーポケット直径が急激に小さくなり、使用できる誘電体微粒子の直径に限界が存在するという弱点があった。従って、現存する誘電体微粒子を使用する技術では、電極膜の薄層化に限界があり、セラミックス電子部品の多層化や高密度化を十分に行えないという問題があった。
【0019】
また、金属微粒子の焼結抑制剤として有機金属酸塩を用いる。これには現存する有機成分物質のうちカルボン酸塩等の使用が考えられるが、殊にセラミックス電子部品への適用においては、有機物質に含有される炭素量が導電性等の電気特性に影響を与えるため、焼成処理後の炭素含有量が問題となる。一方、有機成分中の炭素が少ないと焼成後の収縮率に影響するため、ある程度の炭素含有は必要とされるのであるが、現在、比較的炭素数の少ないオクチル酸塩が膜形成性や酸化防止の点で誘電体の有機成分素材の有力候補の一つであるものの、炭素含有量が少ないとはいいがたい。このため、有機成分物質の炭素が不完全燃焼で残存する焼成後の炭素含有量を極力減らす課題が残っている。
【0020】
さらに、最近では、セラミックス電子部品の多品種化が進み、製造現場において、この多種類の各製品仕様に応じた、最適な電極膜を形成するために、印刷工程や焼成工程などにおける製造条件に合致した導電性ぺーストをペーストメーカーに求める傾向にある。このため、ペーストメーカー側ではかかる多様な需要を満たすために、有機溶剤や樹脂の配合比が微妙に異なるペースト原料を予め用意しておく必要があり、在庫管理や在庫コストの問題を生じている。
【0021】
従って、本発明は、誘電体微粒子を金属微粒子と独立に使用する従来技術の立場を完全に捨て去って、金属微粒子の直径が如何に小さくなっても、焼結抑制剤として誘電体を使用でき、しかもセラミックス電子部品の多層化と高密度化に貢献できる新規で独創的な導電性ペーストを構成でき、かつ種々の組成内容に適合容易で、各面での価格低減に寄与するペースト素材として利用でき、コストダウンに寄与し、さらに熱処理後の炭素残存量の少ない誘電体前駆溶液を提供することを第1の目的とする。また、本発明は、かかる誘電体前駆溶液により構成された金属複合粒子及び導電性ペーストの提供を第2、第3の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の第1の形態は、焼成により誘電体に変化する誘電体前駆物質を少なくとも含有し、前記誘電体前駆物質を、有機成分を含む組成物により構成した誘電体前駆溶液である。
【0023】
本発明の第2の形態は、前記第1の形態において、前記組成物が異なる複数種の有機成分を含む誘電体前駆溶液である。
【0024】
本発明の第3の形態は、前記第2の形態において、前記異なる複数種の有機成分が有機酸塩とアルコキシドからなる誘電体前駆溶液である。
【0025】
本発明の第4の形態は、前記第1〜3のいずれかの形態において、前記誘電体前駆物質の組成が、M(OR)x(RCOO)y(M:誘電体元素、R:炭化水素基)であり、n=x+y(n:Mの酸化数)とした誘電体前駆溶液である。
【0026】
本発明の第5の形態は、前記第2の形態において、前記異なる複数種の有機成分が異なる有機酸塩からなる誘電体前駆溶液である。
【0027】
本発明の第6の形態は、前記第1〜3又は第5の形態において、前記誘電体前駆物質の組成が、M(RCOO)x(RCOO)y(M:誘電体元素、R、R:互いに異なるアルキル基)であり、n=x+y(n:Mの酸化数)とした誘電体前駆溶液である。
【0028】
本発明の第7の形態は、前記第6の形態において、前記誘電体前駆物質の互いに異なるアルキル基R、Rによる総炭素数はオクチル基の炭素数より小さい誘電体前駆溶液である。
【0029】
本発明の第8の形態は、卑金属原子からなり、表面に前記第1〜第7のいずれかの形態の誘電体前駆溶液を担持した金属複合粒子である。
【0030】
本発明の第9の形態は、前記第1〜第7のいずれかの形態の誘電体前駆溶液と、有機溶剤とを少なくとも混合した導電性ペーストである。
【0031】
本発明の第10の形態は、前記第1〜第7のいずれかの形態の誘電体前駆溶液と、有機溶剤と、有機樹脂とを少なくとも混合した導電性ペーストである。
【発明の効果】
【0032】
本発明の第1形態にかかる誘電体前駆溶液によれば、焼成により誘電体に変化する誘電体前駆物質を少なくとも含有し、前記誘電体前駆物質を、有機成分を含む組成物により構成したので、金属粒子からなる金属粉末と、焼成により誘電体を形成する誘電体前駆物質を含有した導電性ペーストに好適なペースト素材に用いることができる。また、本形態の誘電体前駆溶液に有機溶剤や有機樹脂を適宜加えることによって、前記金属粒子表面から脱離した前記誘電体前駆物質の分散状態や粘性が微妙に異なる種々の導電性ペーストを簡易に得ることができるので、例えば、セラミックス電子部品の各種電極膜の仕様に合致するように、所望の組成内容の導電性ペーストに製造現場でも調製容易なペースト素材として使用することができ、在庫等の問題を解消してコストダウンに寄与する。誘電体前駆溶液の状態は例えば、前記誘電体前駆物質が有機樹脂を介して有機溶剤に溶解している形態などである。
【0033】
本発明の第2の形態によれば、前記第1の形態において、前記組成物が異なる複数種の有機成分を含むので、前記誘電体前駆物質を異なる複数種の有機成分を含む複合系組成物で構成して、誘電体元素と化学量論上決まる単一種の有機成分を使用する場合に比較して炭素数の少ない有機成分を含めて組成することができ、熱処理後の炭素含有量の少ない金属複合粒子及び導電性ペーストを提供することが可能となる。
【0034】
本発明に至る経緯において、まず、本発明者等は、誘電体微粒子に替えて、焼成により誘電体を形成する1種以上の誘電体前駆物質を使用することによって、金属粒子径が如何に小さくなっても、焼結抑制剤として誘電体を使用でき、しかもセラミックス電子部品の多層化と高密度化に寄与させるといった課題を解決することに成功した。誘電体前駆物質としては誘電体前駆化合物を用い、これは焼成すると誘電体を形成する化合物であり、有機金属化合物、有機金属錯体、有機金属レジネートなどの多様な金属化合物から選択される。これらの物質の金属とは、誘電体を構成する金属元素を意味する。例えば、誘電体としてBaTiOを選んだとき、BaTiOの前駆化合物とは、焼成することによってBaTiOを形成する化合物を意味している。例えば、オクチル酸チタンとオクチル酸バリウムを酸化雰囲気で焼成すると、有機物は燃焼により除去され、最終的にBaTiOなる誘電体が形成される。従って、導電性ペースト膜を焼成して電極膜を形成するときに、同時に誘電体前駆化合物から誘電体が形成される。金属微粒子は誘電体前駆化合物に束縛されないから融合・焼結して導電性の高い電極膜が形成され、同時に形成される誘電体により電極膜の焼結が抑制されて熱収縮が防止される利点がある。誘電体前駆化合物の大きさは分子サイズであるから、任意サイズの金属微粒子により形成されるスリーポケットは誘電体により自在に充填される。従って、金属微粒子の超微粒子化にも対応でき、電極膜の薄層化を通して多層セラミックス電子部品の小型化、高密度化及び高多層化を実現できる。
【0035】
上記の誘電体前駆物質として有機金属レジネートが最適である。有機金属レジネートとは有機金属樹脂酸塩のことであり、高級脂肪酸金属塩がその代表物質である。有機金属レジネートとして、例えば、ナフテン酸塩、オクチル酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、安息香酸塩、パラトイル酸塩、n−デカン酸塩、金属アルコキシド、金属アセチルアセトネートなどが使用される。これらの有機金属レジネートを焼成することにより、BaTiO、SrTiO、Pb(Ti/Zr)O等の誘電体を容易に生成することができる。
【0036】
本発明の第3の形態によれば、前記第2の形態において、前記異なる複数種の有機成分が有機酸塩とアルコキシドからなるので、前記誘電体前駆物質の金属元素との化学結合による金属アルコキシド成分の低炭素数組成により炭素総含有量を全体として減少させることができ、熱処理後の炭素残存量を低減することができる。金属アルコキシドは過反応性があり化学的安定性に欠く面があるが、例えばカルボン酸塩などの有機酸塩は金属アルコキシドより比較的安定性があり、これを組み合わせた複合系により金属アルコキシドの過反応性を抑制でき、良好な導電性ペースト材料を提供することができる。
【0037】
本発明の第4の形態によれば、前記第1〜3のいずれかの形態において、前記誘電体前駆物質の組成が、M(OR)x(RCOO)y(M:誘電体元素、R:炭化水素基)であり、n=x+y(n:Mの酸化数)としたので、カルボン酸塩成分M(RCOO)と金属アルコキシド成分M(OR)との合成組成であるカルボン酸金属アルコキシドを有機成分として用い、カルボン酸塩のみを使用した場合に比較して、その一部を炭素数の少ない金属アルコキシドで置換して、熱処理後の炭素残存量を低減することが可能となる。カルボン酸塩には例えば、比較的炭素数の少ないオクチル酸塩(炭素数8)が膜形成性や酸化防止の点で好ましい。また、上述のように、カルボン酸塩は金属アルコキシドより比較的安定性があり、金属アルコキシドの過反応性を抑制でき、良好な導電性ペースト材料を提供することができる。
【0038】
本発明の第5の形態によれば、前記第2の形態において、前記異なる複数種の有機成分が異なる有機酸塩からなるので、一方の有機酸塩より低炭素数組成の有機酸塩を組み合わせることによって炭素総含有量を全体として減少させることができ、熱処理後の炭素残存量を低減することができる。単一種の有機酸塩では誘電体元素と化学量論により組成が決まり、低炭素数組成の有機酸塩を採用する余地がないが、異なる複数種の複合系有機成分によって低炭素数組成の有機酸塩を組み合わせることが可能になり、炭素総含有量の低減を図ることができる。
【0039】
本発明の第6の形態によれば、前記第1〜3又は第5の形態において、前記誘電体前駆物質の組成が、M(RCOO)x(RCOO)y(M:誘電体元素、R1、R2:互いに異なるアルキル基)であり、n=x+y(n:Mの酸化数)としたので、第1のカルボン酸塩成分M(RCOO)と第2のカルボン酸塩成分M(RCOO)との合成組成であるカルボン酸金属を有機成分として用い、単一のカルボン酸塩のみを使用した場合に比較して、その一部を炭素数の少ないカルボン酸塩で置換して、熱処理後の炭素残存量を低減することが可能となる。また、異なる炭素数のカルボン酸塩を使用するので化学的安定性があり、良好な導電性ペースト材料を提供することができる。
【0040】
本発明の第7の形態によれば、前記第6の形態において、前記誘電体前駆物質の互いに異なるアルキル基R、Rによる総炭素数はオクチル基の炭素数より小さいので、カルボン酸塩中で実用上炭素数の小さいオクチル酸塩(炭素数8)よりも炭素数の少ない有機成分を含有し、低量炭素残存を実現できる導電性ペースト材料を提供することが可能となる。
【0041】
本発明の第8の形態にかかる金属複合粒子によれば、卑金属原子からなり、表面に前記第1〜第7のいずれかの形態の誘電体前駆溶液を担持したので、金属粒子に、銅、ニッケル等の卑金属原子を導電性素材として使用することによって、例えば、セラミックス電子部品の内部電極や外部電極の薄膜化に適した導電ペーストを構成することができる。
【0042】
本発明の第9の形態にかかる導電性ペーストによれば、前記第1〜第7のいずれかの形態の誘電体前駆溶液と、有機溶剤とを少なくとも混合したので、前記誘電体前駆物質を前記金属粒子の表面から脱離させ、均一に分散・溶解させた中間材料形態の導電性ペーストを提供することができる。これによって、製造現場では、この形態にかかる、溶液状態の導電性ペーストに有機樹脂を適宜添加することによって、電極膜等の仕様に合致した粘性を有する導電性ペーストを自在に作製し、製造工程に使用することができる。したがって、この製造現場での利便性によって、予め多種類のペーストを購入し、用意しなくて済み、セラミックス電子部品などの製造コストの低減に寄与する。しかも、ペーストメーカ側においても、種々の導電性ペーストを在庫しておく必要もなくなり、在庫コスト削減による低価格化を実現できる。
【0043】
なお、本発明における前記有機溶剤として、好ましくは、前記誘電体前駆物質を均一に分散できる溶剤、例えば、アルコール、アセトン、プロパノール、エーテル、石油エーテル、ベンゼン、酢酸エチル、その他の石油系溶剤、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピネオールアセテート、ブチルカルビトール、セロソルブ類、芳香族類、ジエチルフタレートなどを使用する。
【0044】
本発明の第10の形態によれば、前記第1〜第7のいずれかの形態の誘電体前駆溶液と、有機溶剤と、有機樹脂とを少なくとも混合した導電性ペーストであるから、前記金属粒子と、焼成により誘電体を形成する前記誘電体前駆物質がペースト内に均一に分散された、電極膜の薄膜化に適したペースト状態を有する。したがって、この導電性ペーストを用いて電極ペースト膜を形成し、焼成して電極膜を形成すると、電極膜の薄膜化と同時に膜厚の均一化及び金属密度の均一化を実現できる。また、この導電性ペーストは、上述のように、前記誘電体前駆物質の含有に基づく、極めて良好なペースト特性を備えているため、金属微粒子の超微粒子化にも対応でき、電極膜の薄層化を通して多層セラミックス電子部品の小型化、高密度化及び高多層化に寄与することができる。しかも、前記有機樹脂の適量添加によって、導電性ペーストの粘度を自在に調整できるため、粘度の高いペーストから低いペーストまで、市場ニーズに自在に対応できる。
【0045】
本発明における有機樹脂には、例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース、ブチラール、アクリル、アクリルコパイバルサム、ダンマーなどを使用する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下に、本発明の実施形態を添付する図面を参照して詳細に説明する。
【0047】
図1は本発明に係る金属複合粒子1の概略断面図である。金属複合粒子1は金属微粒子2と、金属微粒子2の表面に有機成分7を介して結合付着した誘電体前駆化合物8とからなる。誘電体前駆化合物8が樹脂的な有機成分(又は有機鎖、有機基)を含有する場合には、この有機成分が前記有機成分7になる。誘電体前駆化合物8が樹脂的な有機成分を含有しない場合には、誘電体前駆化合物8とは別に有機成分7が添加されて、この有機成分の層を形成する。
【0048】
金属微粒子2は、NiやCu等の卑金属微粒子からなる。近年、半導体や電子材料のコストダウンの観点から金や銀などの貴金属材料から卑金属材料への転換が図られており、貴金属に替えてNiやCu等が電極の金属材料として使用されつつある。特に、Cu微粒子やNi微粒子といった卑金属微粒子を本発明に使用することによって電極ペーストの大幅なコストダウンを図ることができる。
【0049】
本発明において使用される金属微粒子2の断面直径(粒径)は、μmオーダーの金属微粒子でもよいし、nmオーダーの金属超微粒子でもよい。より詳細には、1〜10μmのミクロンサイズの金属微粒子や0.1〜1μmのサブミクロンサイズの金属微粒子に限られず、1〜100nmのナノサイズの金属超微粒子も本発明では使用できる。
【0050】
金属複合粒子1の製造方法を図2によって説明する。まず、金属微粒子2の粉末原料と低沸点溶媒4を混合容器13にて混合し原液を作る。次に、この原液に誘電体前駆化合物8を添加し、混合溶液を作る。そして、この混合溶液を加温装置11によって加温し、低沸点溶媒4の溶媒を蒸発除去することによって、図1に示した金属複合粒子1を得ることができる。有機成分7は金属微粒子2に誘電体前駆化合物8を接着するバインダー成分である。誘電体前駆化合物8が有機成分を含む場合には、有機成分7は別に添加される必要は無いが、接着力を増強するために別に添加されてもよい。誘電体前駆化合物8が有機成分を含んでいない場合には、バインダー成分として有機成分7が別に添加される。上記のように、原液に誘電体前駆化合物8を直接添加し、混合溶液を作る他に、有機成分7を介して有機溶剤に誘電体前駆化合物8を溶解させた誘電体前駆動溶液を用いることができる。
【0051】
低沸点溶媒4には例えば、エタノールやアセトンやヘキサンなどを使用する。これらの低沸点溶媒は比較的沸点が約50〜60℃と低いため、高温処理時の乾燥による再凝集が起きることなく、加温装置11による低温処理によって、金属複合粒子1を製造できる。したがって、これ以上の高温であれば温度制御管理を必要とする場合もあるが、本実施形態では低沸点溶媒4の使用による低温処理化によって、簡易な製造工程を構築でき、コストダウンに寄与する。しかも、低温処理化により安全作業性の面でも好都合である。
【0052】
次に、誘電体前駆化合物8は、本発明にかかる誘電体前駆物質であり、焼成することによって誘電体を生成する原料化合物であり、以下の複合系組成を備える。まず、第1の複合系組成例としては、M(OR)x(RCOO)y(M:誘電体元素、R:炭化水素基)(ここで、n=x+y(n:Mの酸化数))で示される組成としたものである。この複合系組成にかかる誘電体前駆化合物8はカルボン酸塩成分M(RCOO)と金属アルコキシド成分M(OR)の組成からなるカルボン酸金属アルコキシドを含む。アルコキシドはエチル、プロピル、ブチル、エーテル結合を有する、例えば、1−メトキシーエチル基等のアルキル基で構成される。このように誘電体前駆化合物8には、カルボン酸金属アルコキシドが含まれるので、カルボン酸塩のみを使用した場合に比較して、その一部を炭素数の少ない金属アルコキシドで置換して、焼成工程後の炭素残存量を低減することが可能となる。カルボン酸塩には例えば、オクチル酸塩が膜形成特性や酸化防止効果に良好な性質を備え誘電体被着用有機材として好ましい。一方、これを単一種で用いるには炭素数が多く(炭素数8)炭素残存量が多いといった難点があるが、本実施形態ではオクチル酸塩より炭素数の少ないカルボン酸塩で一部を置換した複合系カルボン酸金属アルコキシドを使用し、かかる炭素残存の問題を生じない。また化学的安定性のよいオクチル酸の添加により金属アルコキシドの過反応性の抑制効果に優れた利点がある。カルボン酸金属アルコキシドM(OR)x(RCOO)yはまず、金属(M)片をアルコール類に溶かして金属アルコキシドM(OR)を精製し、それにカルボン酸等を混合することによって得られる。金属アルコキシドの精製には金属(M)塩化物を作ってアルコールと反応させて行ってもよい。また、塩化カルボン酸金属塩M(RCOO)Clを作ってからアルコール反応させてカルボン酸金属アルコキシドを精製してもよい。
【0053】
次に、第2の複合系組成例としては、M(RCOO)x(RCOO)y(M:誘電体元素、R、R:互いに異なるアルキル基)(ここで、n=x+y(n:Mの酸化数))の組成である。この組成にかかる誘電体前駆化合物8を用いることによって、単一種のカルボン酸塩のみを使用した場合に比較して、その一部を炭素数の少ないカルボン酸塩で置換して、焼成工程後の炭素残存量を低減することが可能となる。上述のように、カルボン酸塩の中で、特にオクチル酸塩は膜形成特性や酸化防止効果に良好な性質を備え誘電体被着用有機材として好ましく、また、これを単一種で用いるには炭素数が多く(炭素数8)炭素残存量が多いといった難点があるが、本実施形態ではオクチル酸塩より炭素数の少ないカルボン酸塩で一部を置換した複合系カルボン酸塩を使用し、かかる炭素残存の問題を生じない。また、異なる炭素数のカルボン酸塩を使用するので化学的安定性があり、良好な導電性ペースト材料の提供に好適である。アルキル基R、Rにはオクチル基より炭素数の少ないへプチル、ヘキシル、ぺーチル、ビチル、プクチル、エチル、メチルなどを炭化水素基を組み合わせることによって、オクチル酸塩(炭素数8)のみ使用の場合より総炭素含有量の少ないの誘電体前駆化合物を用いて炭素残存量の低減を実現することができる。カルボン酸塩M(RCOO)x(RCOO)yの精製には、例えば、まずオクチル酸塩M(RCOO)をつくり、それにオクチル基より炭素数の少ないエチル基を含むカルボン酸塩の溶液を混合して複合系カルボン酸塩を得る方法を用いる。
【0054】
本実施形態において使用される誘電体は、主にグリーンシートを構成する誘電体であり、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO、略称はBT)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO、略称はST)、チタン酸バリウムストロンチウム((Ba/Sr)TiO)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Ti/Zr)O)、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、酸化亜鉛、アルミナ、ジルコニア、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などがある。また、これらの中でも、グリーンシートの主成分はチタン酸バリウム(BT)であり、JIS規格B特性やF特性に代表される副組成物にHo、Dy、Y、Smなどの希土類とMg、Ca、Srなどのアルカリ土類金属やLiO−SiO−CaOやLiO+Al+TiO+SiOガラス組成およびMn等を含んだ複合組成のペロブスカイト構造を有するセラミック誘電体も含まれる。
【0055】
上記の誘電体前駆化合物は、焼成によって前述した誘電体を生成する原料化合物であり、焼成により誘電体の形成が可能な化合物を利用できる。例えば、誘電体前駆化合物の形態として、有機金属化合物、有機金属錯体、有機金属レジネート、金属酸化物、金属炭酸塩などの金属化合物を使用できる。ここで、金属とは誘電体を構成する金属原子を意味しており、例えばBaTiOのBaとTi、SrTiOのSrとTi、Pb(Ti/Zr)OのPbとTiとZrである。
【0056】
主要な誘電体であるBaTiOを生成する方法には、TiOとBaO又はBaCOの混合融解、シュウ酸チタン酸バリウムの熱分解、チタンアルコキシドとバリウムアルコキシドのゾルゲル法、水酸化チタンと水酸化バリウムの縮重合、ナフテン酸チタンとナフテン酸バリウムの焼成、水熱合成法など種々の方法が存在する。従って、これらの方法の原料成分、即ち、TiOとBaO又はBaCO、シュウ酸チタン酸バリウム、チタンアルコキシドとバリウムアルコキシド、水酸化チタンと水酸化バリウム、ナフテン酸チタンとナフテン酸バリウムなどの原料化合物が誘電体前駆化合物を構成する。
【0057】
これらの誘電体前駆化合物を分類すれば、金属原子と炭素原子が直接結合する有機金属化合物、金属原子に配位子が配位結合した有機金属錯体、粘性を有した高級脂肪酸金属塩などからなる有機金属レジネート、金属酸化物や金属炭酸塩などからなる無機金属化合物などから構成される。
【0058】
こららの中でも、特に、有機金属レジネートが本実施形態の誘電体前駆化合物形態として好適である。有機金属レジネートとして、例えば、ナフテン酸塩、オクチル酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、安息香酸塩、パラトイル酸塩、n−デカン酸塩、金属アルコキシド、金属アセチルアセトネートなどが使用される。
【0059】
さらに、オクチル酸などの有機成分7は、図2により説明するように、上記低沸点溶媒4の蒸発除去処理を経て、金属微粒子2の表面に付着した有機成分7が誘電体前駆化合物8との結合補助材の役目をして、金属微粒子2の表面に誘電体前駆化合物8を担持させるために存在する。そして、有機成分7は、本実施形態にかかる金属複合粒子1を後述の導電性ペーストのペースト素材として適用したとき、そのペースト内に含有させるペースト粘度調整用有機樹脂との相溶性をもつものが好ましい。
【0060】
次に、金属複合粒子1を導電性ペーストに使用した実施形態を図3及び図4を参照して説明する。
【0061】
ペーストメーカーとしては、金属複合粒子1を用いた導電性ペーストを、種々の材料形態でセラミックス電子部品メーカなどのユーザ側に供給することができる。例えば、金属複合粒子1に有機溶剤を混合した中間溶液形態、さらに有機樹脂を混合した最終ペースト形態である。前者の中間溶液形態ではユーザ側で有機樹脂を適宜混合して所望の粘度等に調製して使用する。そして、ユーザ側で金属複合粒子1をペースト素材として購入し、それに有機溶剤及び有機樹脂を混合してペースト化する使用形態も可能である。このユーザ側で導電性ペーストに調製する例を図3によって説明する。調製容器5の中で金属複合粒子1と有機溶媒10との混合溶液を作る。この混合溶液の状態では、金属微粒子2の表面に有機成分7を介して結合付着していた誘電体前駆化合物8が再び分離し、溶液中に一様に分散する。このとき、有機成分7も溶液中に溶け込む。さらに粘度を調整する有機樹脂12を混錬することによって、所定粘度の導電性ペースト6が形成される。このようにして、製造現場において、予め誘電体前駆化合物8を表面に担持させた金属複合粒子1に有機溶媒10や有機樹脂12を適宜添加することによって、電極膜等の仕様に合致した導電性ペーストを自在に調製し使用することができる。
【0062】
かかる調製によって得られた導電性ペースト6は、図4に示すように、4種類の物質を均一に混合攪拌されて構成されている。金属微粒子2の表面は被覆層3により囲繞され、誘電体前駆化合物8は分子状であるから、被覆層3の中には無数の誘電体前駆物質8が存在する。
【0063】
有機溶媒10としては、誘電体前駆化合物8を均一に分散できる全ての溶剤が使用できる。例えば、アルコール、アセトン、プロパノール、エーテル、石油エーテル、ベンゼン、酢酸エチル、その他の石油系溶剤、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピネオールアセテート、ブチルカルビトール、セロソルブ類、芳香族類、ジエチルフタレートなどが使用できる。誘電体前駆化合物8が完全に分散(溶解)した状態の誘電体前駆溶液では着色透明状態となるので、誘電体前駆化合物8が分子状態で有機溶媒に均一に分散・溶解していることを判別できる。また、金属微粒子2を均一に分散させると、金属微粒子2の添加量にも依存するが、金属微粒子2に特有の金属色を発色する。この金属色が溶液全体にムラ無く広がっていることによって、金属微粒子2が溶液内に均一に分散していることが判別できる。
【0064】
特に、本発明では分子状の誘電体前駆化合物を使用するから、ナノサイズの金属超微粒子により形成されるスリーポケットでも、分子状の誘電体前駆化合物を充填することができる。金属超微粒子を電極ペーストに使用すると、ナノサイズ膜厚の電極膜を形成でき、しかも金属超微粒子のスリーポケットを誘電体で充填した構造になるから、電極膜の超薄膜化を実現でき、セラミックス電子部品の高密度化と小型化に貢献できる。
【0065】
図5は本発明に係る導電性ペーストをグリーンシートに塗着した後焼成して形成された電極膜16の概略断面図である。グリーンシートとは、誘電体粉末を有機溶媒やバインダーと一緒に混錬して形成されたシートで、このグリーンシートを焼成するとセラミックス基板になる。
【0066】
このグリーンシートに本発明の導電性ペーストを適当なパターンに塗着して電極ペースト膜を形成する。電極ペースト膜を形成されたグリーンシートを焼成すると、不要な有機物は焼成により除去されて、グリーンシートはセラミックス基板14に変化し、電極ペースト膜は電極膜16となる。
【0067】
焼成により、金属微粒子2は相互に焼結し、連続部2aを介して連続的に導通した1枚の電極膜16になる。焼成温度に依存するが、図示の場合には、焼結した金属表面の凹凸が残存している。金属微粒子の直径が小さくなると、金属の融点は急激に低下するから、金属微粒子2は完全に融解して凹凸がなくなり、一枚の電極膜16になる。焼成温度が高くなると、金属微粒子2は融解して相互に融合し、平滑性の高い電極膜16になる。
【0068】
金属微粒子2のスリーポケットは誘電体前駆化合物により充填されているから、焼成により誘電体前駆化合物は反応して誘電体へと変化し、この誘電体は電極膜16の空隙を埋めて誘電体部18を構成する。この誘電体部18が形成されるに従って、誘電体部18が電極膜16の焼結を抑制して熱収縮を抑制する役割を奏する。つまり、誘電体前駆化合物は誘電体を形成することによって、電極膜16の焼結抑制又は熱収縮抑制を行う。
【0069】
誘電体の組成がセラミックス基板14の主成分組成と同様である場合には、焼成によるグリーンシートの焼成収縮率と誘電体部18の焼成収縮率が接近し、電極膜16の熱収縮を規制して、電極膜16がセラミックス基板14から剥離することが無い。従って、電極膜16の安定性が増大し、セラミックス電子部品の寿命の長期化を図ることができる。
【0070】
グリーンシートに電極ペースト膜を形成し、この電極ペースト膜が形成されたグリーンシートを複数積層し、全体を焼成する。この結果、複数のグリーンシートと電極ペースト膜は焼成によりセラミックス基板と電極膜に変化し、全体として多層セラミックス電子部品が製造される。
【0071】
本発明では、分子状の誘電体前駆化合物を使用するから、どんなに小さな金属微粒子2の隙間にも誘電体前駆化合物は侵入でき、焼成により金属微粒子間に誘電体部18を形成できる。従って、金属超微粒子を使用すると、超薄膜の電極膜を形成することができ、多層セラミックス電子部品の薄膜化・小型化・高密度化に貢献できる。
【0072】
本発明が対象とするセラミックス電子部品には、セラミックス回路基板、セラミックスコンデンサ、セラミックスインダクタ、セラミックス圧電素子又はセラミックスアクチュエータなどがある。これらのセラミックス電子部品の中でも、本発明は、多層セラミックス電子部品の小型化と高密度化を実現することができる。
【0073】
図6は本発明にかかる誘電体前駆化合物の示差熱分析(TG−DTA:Thermo Gravimetry−Differential Thermal Analysis)の結果を示す。Bはカルボン酸金属アルコキシドのTG−DTA測定結果である。Aはカルボン酸塩のみのTG−DTA測定結果である。カルボン酸金属アルコキシド(B)では300℃〜400℃の範囲に2個の発熱ピークを示す。これはカルボン酸成分とアルコキシド成分の熱分解特性を示している。他方、(A)では、400℃付近に1個の発熱ピークを示し、カルボン酸成分の熱分解特性に相当する。本発明のBの方が低い温度で熱分解を始めるから、焼成温度を低減できる利点を有している。つまり、本発明にかかる複合系組成の誘電体前駆化合物の方が有機成分を低減できるといえる。
【0074】
図7は複合系樹脂性成分組成としたBaTiOレジネートを焼成して形成された誘電体BaTiOの粉末X線回折強度図である。BaTiOレジネートとはBaTiOの有機金属レジネートの一種であるオクチル酸バリウムとオクチル酸チタンから構成される。
【0075】
焼成温度を600℃、800℃、1000℃及び1300℃の4種類に設定した。焼成温度が高くなるに従って、回折強度のピークがシャープになり、結晶性が高くなってゆくことが分かる。1000℃及び1300℃の回折ピークはBaTiOの粉末回折図形に一致している。従って、本発明の誘電体前駆化合物の焼成により目的とする誘電体を形成することが実証された。
【0076】
図8は乾燥電極ペースト膜のグリーン密度と複合系樹脂性成分組成化したBaTiOレジネート含有率の関係図である。まず、直径が0.2μmのNi微粒子の金属表面に誘電体前駆化合物のオクチル酸バリウムとオクチル酸チタンの混合物を共有結合により担持させて有機溶媒であるターピネオールに均一に分散溶解し、樹脂としてエチルセルロースを添加して本発明に係る導電性ペーストを作製する。この導電性ペーストにより電極ペースト膜を作成して乾燥させ、乾燥電極ペースト膜を形成した。この乾燥電極ペースト膜を試料として図8の関係が測定された。縦軸はグリーン密度(Green Density)、横軸はBaTiOレジネートの含有率(BaTiO-Resinate)である。
【0077】
この図からも明らかなように、直径が0.2μmのNi微粒子の場合でも、BaTiOレジネートの金属含有率が0.1〜5mass%の範囲で本発明の導電性ペーストとして利用できることが確認された。また、1mass%でグリーン密度が最大に達し、最も効率のよい導電性ペーストが得られることも分かった。
【0078】
図9は本発明の導電性ペースト(0.2μmNi微粒子)を用いて得られた電極膜の焼成収縮率と焼成温度の関係図である。縦軸は焼成収縮率(Shrinkage)、横軸は焼成温度(Temperature)である。電極膜の焼成収縮率をグリーンシートの焼成収縮率にできるだけ接近させることが、電極膜の剥離やクラックの発生を防止する最大の要素である。
【0079】
詳細には、直径が0.2μmのNi微粒子を用いて作製された導電性ペーストによりグリーンシートに電極ペースト膜を形成し、各温度で焼成して電極膜の焼成による収縮率を測定した。黒丸はグリーンシート(誘電体シート)の焼成収縮率を示し、電極膜の焼成収縮率(白丸)がこのグリーンシートの焼成収縮率(黒丸)に接近していることで判定を行う。グリーンシートも種類が様々で、それらの焼成収縮率もかなり上下に分布するが、ここで示すグリーンシートはその中の1種のデータを示している。
【0080】
上記黒丸と白丸を比較することにより、0.2μmのNi微粒子を使用した場合でも、BTレジネートの金属含有率が1mass%において焼成収縮率がグリーンシートに顕著に近接することが分かった。
【0081】
これらの結果から、0.2μmNi微粒子の場合、BaTiOレジネートの金属含有率が0.1〜5mass%において、グリーン密度と焼成収縮率の観点から性能が向上し、1mass%において最高性能を発揮することが結論できる。
【0082】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々の変形例、設計変更などをその技術的範囲内に包含することは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0083】
第1の形態の発明によれば、金属粒子からなる金属粉末と、焼成により誘電体を形成する誘電体前駆物質を含有した導電性ペーストのペースト素材として好適な誘電体前駆溶液を提供することができる。
【0084】
本発明の第2の形態によれば、前記誘電体前駆物質を異なる複数種の有機成分を含む複合系組成物で構成して、誘電体元素と化学量論上決まる単一種の有機成分を使用する場合に比較して炭素数の少ない有機成分を含めて組成することができ、熱処理後の炭素含有量の少ない金属複合粒子及び導電性ペーストの提供を可能にすることができる。
【0085】
第3の形態の発明によれば、前記誘電体前駆物質の金属元素との化学結合による金属アルコキシド成分の低炭素数組成により炭素総含有量を全体として減少させることができ、熱処理後の炭素残存量を低減した金属複合粒子及び導電性ペーストの提供を可能にすることができる。
【0086】
第4の形態の発明によれば、カルボン酸塩成分M(RCOO)と金属アルコキシド成分M(OR)との合成組成であるカルボン酸金属アルコキシドを有機成分として用い、カルボン酸塩のみを使用した場合に比較して、その一部を炭素数の少ない金属アルコキシドで置換して、熱処理後の炭素残存量を低減することができる。
【0087】
第5の形態の発明によれば、一方の有機酸塩より低炭素数組成の有機酸塩を組み合わせることによって炭素総含有量を全体として減少させることができ、熱処理後の炭素残存量を低減することができ、炭素総含有量の低減を図ることができる。
【0088】
第6の形態の発明によれば、第1のカルボン酸塩成分M(R1COO)と第2のカルボン酸塩成分M(R1COO)との合成組成であるカルボン酸金属を有機成分として用い、単一のカルボン酸塩のみを使用した場合に比較して、その一部を炭素数の少ないカルボン酸塩で置換して、熱処理後の炭素残存量を低減することが可能となる。
【0089】
第7の形態の発明によれば、カルボン酸塩中で実用上炭素数の小さいオクチル酸塩(炭素数8)よりも炭素数の少ない有機成分を含有し、低量炭素残存を実現できる導電性ペースト材料を提供することができる。
【0090】
第8の形態の発明によれば、金属粒子に、銅、ニッケル等の卑金属原子を導電性素材として使用することによって、例えば、セラミックス電子部品の内部電極や外部電極の薄膜化に適した導電ペーストの提供を可能とする。
【0091】
第9の形態の発明によれば、前記誘電体前駆物質を前記金属粒子の表面から脱離させ、均一に分散・溶解させた中間材料形態の導電性ペーストを提供することができる。
【0092】
本発明の第10の形態によれば、前記金属粒子と、焼成により誘電体を形成する前記誘電体前駆物質がペースト内に均一に分散された、電極膜の薄膜化に適したペースト状態を有し、電極膜の薄膜化と同時に膜厚の均一化及び塗膜密度の均一化を実現できる導電性ペーストを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明に係る金属複合粒子1の概略説明図である。
【図2】本発明に係る金属複合粒子1の製造方法を示す概略説明図である。
【図3】本発明に係る金属複合粒子1を用いて、ユーザ側で導電性ペーストに調製する場合の概略説明図である。
【図4】本発明に係る導電性ペーストの拡大状態の概略説明図である。
【図5】本発明に係る導電性ペーストをグリーンシートに塗着した後焼成して形成された電極膜16の概略断面図である。
【図6】図6は本発明に用いる誘電体前駆化合物の示差熱分析(TG−DTA)結果を示す図である。
【図7】本発明の誘電体前駆化合物としてBaTiOレジネートを焼成して形成された誘電体BaTiOの粉末X線回折強度図である。
【図8】本発明に係る導電性ペースト(0.2μmNi微粒子)を塗着乾燥して得られた乾燥電極ペースト膜のグリーン密度とBaTiOレジネート含有率の関係図である。
【図9】本発明に係る導電性ペースト(0.2μmNi微粒子)を用いて得られた電極膜とグリーンシートの焼成収縮率と焼成温度の関係図である。
【図10】特開昭57−30308号に示される誘電体微粒子20を担持した金属微粒子2の概略断面図である。
【図11】特開2001−189227に示される誘電体層24を周囲に形成した金属微粒子2の概略断面図である。
【図12】金属微粒子直径Dとスリーポケット直径dの関係を説明する概略図である。
【符号の説明】
【0094】
1 金属複合粒子
2 金属微粒子
6 導電性ペースト
8 誘電体前駆化合物
7 有機成分
10 有機溶媒
12 有機樹脂
16 電極膜
18 誘電体部
20 誘電体粒子
26 スリーポケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成により誘電体に変化する誘電体前駆物質を少なくとも含有し、前記誘電体前駆物質を、有機成分を含む組成物により構成したことを特徴とする誘電体前駆溶液。
【請求項2】
前記組成物が異なる複数種の有機成分を含む請求項1に記載の誘電体前駆溶液。
【請求項3】
前記異なる複数種の有機成分が有機酸塩とアルコキシドからなる請求項2に記載の誘電体前駆溶液。
【請求項4】
前記誘電体前駆物質の組成が、M(OR)x(RCOO)y(M:誘電体元素、R:炭化水素基)であり、n=x+y(n:Mの酸化数)とした請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体前駆溶液。
【請求項5】
前記異なる複数種の有機成分が異なる有機酸塩からなる請求項2に記載の誘電体前駆溶液。
【請求項6】
前記誘電体前駆物質の組成が、M(RCOO)x(RCOO)y(M:誘電体元素、R、R:互いに異なるアルキル基)であり、n=x+y(n:Mの酸化数)とした請求項1〜3又は5のいずれかに記載の誘電体前駆溶液。
【請求項7】
前記誘電体前駆物質の互いに異なるアルキル基R、Rによる総炭素数はオクチル基の炭素数より小さい請求項6に記載の誘電体前駆溶液。
【請求項8】
卑金属原子からなり、表面に請求項1〜7のいずれかに記載の誘電体前駆溶液を担持した金属複合粒子。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の誘電体前駆溶液と、有機溶剤とを少なくとも混合したことを特徴とする導電性ペースト。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の誘電体前駆溶液と、有機溶剤と、有機樹脂とを少なくとも混合したことを特徴とする導電性ペースト。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−86012(P2006−86012A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−269272(P2004−269272)
【出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(591040292)大研化学工業株式会社 (59)
【出願人】(391003598)富士化学株式会社 (40)
【Fターム(参考)】