説明

調味梅干の製造方法

【課題】手間とコストを掛けずに、調味液をより有効利用でき、クエン酸等の梅由来成分濃度を高めた調味梅干を製造できる製造方法を提供する。
【解決手段】この発明の調味梅干の製造方法は、原料梅を調味料で調製した調味液に漬込んだのち、調味梅干と浸漬後調味液とに分離する調味梅干調製工程と、浸漬後調味液を透析して塩廃液を排出したのち、この透析液に調味料を補填して、浸漬後調味液から調味液を再生する調味液再生工程とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、調味梅干の製造方法に関し、特に調味液をより有効的に利用できる調味梅干の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多量の食塩を青梅や完熟梅などの生梅にまぶして塩蔵したのち、これを天日干しなどにより乾燥させて梅干を製造することは、昔からよく行なわれている。近年、生活習慣病、例えば高血圧を防ぐため、梅干においても低塩嗜好が強まっており、塩分含有量が低くても食味が良いため、味付けをした調味梅干(特許文献1を参照)の消費量が高まっている。
【0003】
さて、従来からある調味梅干の製造方法においては、生梅を塩蔵する際に、浸透圧によって、クエン酸、ピクリン酸、鉄分等の有用成分を含む梅酢が生梅から多量に浸出してくる。この梅酢はその一部は製品として利用されるものの、大半は廃棄処分されており、資源保護や環境保護の面から、その活用が求められている。
【0004】
発明者は、その活用方法として従来から様々な研究を行ってきている。具体的には、原料の梅を塩蔵する際にできる梅酢と、塩蔵した梅を調味液に漬け込んだのちに残る処理液とを調合し、これを透析して塩分を少なくしたのち、新たな調味料を添加・調合して、次の調味梅干の製造工程の調味液として使用する調味梅干の製造方法を提案している(特許文献2を参照)。
【0005】
また、原料梅をクエン酸等の梅由来成分濃度を高めた調整梅酢に浸漬して調整原料を製造し、調整原料を調味料で調整した調味調整液に漬け込み、前記使用した調整梅酢を透析して塩分と水を少なくして次の原料に使用する調整梅酢とする調味梅干の製造方法についても提案している(特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−46006号公報
【特許文献2】特許4326983号公報
【特許文献3】特開2006−296326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2に記載の製造方法には、調味液を含んだ漬け込み処理液を透析するので、調味料の補填の調整が最終の調味梅干の品質に影響し易く、この調整が厄介であるという問題点があった。また、特許文献3に記載の製造方法には、梅を調整梅酢と調味調整液の2つの液に漬けるため、作業に手間とコストが掛かるという問題点があった。
【0008】
そこで、この発明は手間とコストを掛けずに、調味液をより有効利用でき、クエン酸等の梅由来成分濃度を高めた調味梅干を製造できる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の調味梅干の製造方法は、原料梅を調味料で調製した調味液に漬込んだのち、調味梅干と浸漬後調味液とに分離する調味梅干調製工程と、浸漬後調味液を透析して塩廃液を排出したのち、この透析液に調味料を補填して、浸漬後調味液から調味液を再生する調味液再生工程と、を備えていることを主な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明の調味梅干の製造方法は、調味液にその構成成分である調味料を継ぎ足しながら循環使用する。そのため、従来からある製造方法と比べて、より少ない手間とコストで、クエン酸等の梅由来成分濃度を高めた調味梅干を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の調味梅干の製造方法の詳細を示す工程図である。なお、図中の実線は梅の流れを示し、点線は調味液などの液体の流れを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明の調味梅干の製造方法は、1.調味梅干調製工程と、2.調味液再生工程とを備えている。そこで、図1の工程図に基づいて、各工程を以下に詳説する。
【0013】
1.調味梅干調製工程
調味梅干調製工程は、原料梅を調味料で調製した調味液に漬込んだのち、調味梅干と浸漬後調味液とを分離して調味梅干を製造する工程である。
【0014】
(1)原料梅
原料梅は、従来からある梅干の製造と同様に、原料である青梅や完熟梅を集荷・選果・洗浄したのち、製造槽に入れて塩をまぶし、漬け込んで塩蔵し、天日干しをしたものである。
【0015】
なお、塩蔵する際の塩濃度は、従来からある梅干の製造と同様に、重量比で青梅(完熟梅)100gに対して塩20〜25g程度であり、塩蔵期間も同様に30〜45日程度である。また、塩蔵後の原料梅の塩分は20〜24重量%程度、酸度は4〜6%程度である。さらに、塩蔵期間中に浸透圧によって梅酢が浸出するが、この梅酢はそのまま、又は透析して調味料の一部として使用できる。加えて、天日干しは、従来と同様に、塩蔵した梅をセイロに並べ、約3〜7日間天日で干し上げることによって行なう。このようにして干し上がった梅(原料梅、Brix値は34〜35%程度)は、必要になるまで樽に入れて保管する。
【0016】
(2)洗浄工程
洗浄工程は、(1)原料梅を樽からほぐしながら取り出し水にて洗浄し、(1)原料梅の表面に残っている塩分を除去し、(4)調味液に過剰な塩分が移行するのを防ぐ工程である。なお、(1)原料梅の塩分濃度が高くても、洗浄後の梅を流水又は、水につける脱塩処理は行なわない。これによって、梅の有用成分であるクエン酸等が抜けるのを防ぎ、従来からある低塩調味梅干と比べて、クエン酸等の濃度の高い調味梅干が得られる。
【0017】
(3)調味液漬け込み工程
調味液漬込み工程は、(2)洗浄により表面の塩分を除去した(1)原料梅を(4)調味液に約7〜10日程度漬けて味付けする工程である。なお、(4)調味液は、麦芽糖、醸造酢、蜂蜜、スクラロース等の甘味料、アルコール、グルタミン酸ナトリウムなど、従来から調味液の調製に使用されている調味料を、用途に応じて適量調製したものである。
【0018】
(5)液切り工程
液切り工程は、(3)調味液漬け込みした(1)原料梅をザル、セイロなどによって(6)調味梅干と(7)浸漬後調味液に分離し、(6)調味梅干を製造する工程である。なお、この工程で分離された(6)調味梅干は、従来品と同様に、麦芽糖、蜂蜜などによって味付けされた低塩濃度の梅干である。また、(7)浸漬後調味液は、後述する調味液再生工程で(4)調味液に再生される。
【0019】
2.調味液再生工程
調味液再生工程は、(7)浸漬後調味液を(8)透析して(13)調味料を補填し、(7)浸漬後調味液から(4)調味液を再生する工程であり、より詳しくは以下のとおりである。
【0020】
(8)透析工程
透析工程は、(7)浸漬後調味液を(8)透析して(9)透析後調味液を得るとともに、塩分を(10)塩廃液として排出する工程である。なお、透析方法としては、イオン交換膜電気透析法、逆浸透膜法、限外ろ過法など、従来からある方法が使用できる。これらの中でも、食塩(NaCl)のみを選択的に除去できるため、イオン交換膜電気透析法が好ましい。
【0021】
なお、透析前後の塩濃度や酸濃度は、販売する商品によって任意に変わる。そのため、(7)浸漬後調味液から除去する塩分量は、再生後の調味液の塩濃度や後述する工程で補填される調味料に含まれる塩濃度を勘案したうえで、透析時間等を変えて調節すればよい。
【0022】
例えば、塩分を4.0〜6.0重量%程度、クエン酸を2.0〜4.0重量%程度含んでいる(7)浸漬後調味液を透析して、その塩濃度を1重量%以下まで下げてもよい。また、塩分を6.0〜8.0重量%程度、クエン酸を3.0〜5.0重量%程度含んでいる(7)浸漬後調味液を透析して、その塩分濃度を2〜3%まで下げてもよい。
【0023】
(11)成分測定・補填量算出工程
成分測定・補填量算出工程は、(7)透析後調味液のpH、塩濃度、酸濃度、アルコール濃度、比重などを、pH計や電位差滴定装置など既存の測定装置によって測定して、測定値と理論値をコンピュータなどによって比較し、補填する(13)調味料の量を算出する工程である。
【0024】
(12)調味料補填工程
成分測定・補填量算出工程で算出された補填量分の(13)調味料を、(9)透析後調味液に補填して、(4)調味液を調製する工程である。なお、(1)原料梅を製造する際に得られた梅酢はそのまま、又は透析し、調味料として使用することによって、これらを廃棄することなく、より環境に優しく調味梅干を製造できる。
【0025】
以下、この発明について実施例に基づいてより詳細に説明する。ただし、以下の実施例によって、この発明の特許請求の範囲は如何なる意味においても制限されない。なお、実施例中の「%」は、別途記載がなければ「重量%」を意味する。
【実施例1】
【0026】
原料梅(塩分約20%、酸度約5%)を洗浄して、表面の塩を除去した。洗浄した原料梅700kgを調味液(塩分約2.4%、酸度約5%)2000Lに約7〜10日に浸漬したのち、ザルで25〜45分間液切りした。その結果、調味梅干(塩分約7%、酸度約5%)と浸漬後調味液(塩分約7%、酸度約5%)とを得た。
【0027】
浸漬後調味液をイオン交換膜電気透析装置で透析して塩分のみを除去し、透析後調味液(塩分約2.7%、酸度約5%)と塩廃液を得た。得られた透析後調味液の塩濃度・酸濃度・比重・屈折率・アルコール濃度を測定して、調味料補填量を算出した。算出した補填量に基づいて調味料を透析後調味液に補填し、調味液を再生した。なお、塩廃液は塩水として処理した。
【実施例2】
【0028】
原料梅(塩分約20%、酸度約5%)を洗浄して、表面の塩を除去した。洗浄した原料梅600kgを調味液(塩分約0.7%、酸度約2.3%)2050Lに約7〜10日に浸漬したのち、ザルで25〜45分間液切りした。その結果、調味梅干(塩分約5%、酸度約3%)と浸漬後調味液(塩分約5%、酸度約3%)とを得た。
【0029】
浸漬後調味液をイオン交換膜電気透析装置で透析して塩分のみを除去し、透析後調味液(塩分約0.8%、酸度約2.7%)と塩廃液を得た。得られた透析後調味液の塩濃度・酸濃度・比重・屈折率・アルコール濃度を測定して、調味料補填量を算出した。算出した補填量に基づいて調味料を透析後調味液に補填し、調味液を再生した。なお、塩廃液は塩水として処理した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料梅を調味料で調製した調味液に漬込んだのち、調味梅干と浸漬後調味液とに分離する調味梅干調製工程と、
浸漬後調味液を透析して塩廃液を排出したのち、この透析液に調味料を補填して、浸漬後調味液から調味液を再生する調味液再生工程と、
を備える調味梅干の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−80782(P2012−80782A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227333(P2010−227333)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(500285347)株式会社 岡畑農園 (4)
【Fターム(参考)】