説明

調心機能を備えた鋼管杭用チャック装置

【課題】 鋼管杭用のチャック装置を改良して、鋼管杭又は管状コンクリート杭の真円度を損なうことなく該鋼管杭又は管状コンクリート杭を強固に把持できるようにする。
【解決手段】 1個のチャック装置5に2組の挟持機構6と同7とが配設されている。前記2組の内の片方の挟持機構6は、鋼管杭4の管壁の外側に位置する可動挟持部材6bと、内側に位置する固定挟持部材6aとを備えている。前記2組の内の他方の挟圧機構7は、管壁の外側に位置する固定挟持部材7aと、内側に位置する可動挟持部材7bとを備えている。双方の可動挟持部材6bと同7bとは矢印f方向に鋼管杭4を押圧する。該双方の可動挟持部材6bと同7bとが共に図の左方に向けて押圧するので、鋼管杭4は「左右両方から押し潰す形の押圧力」を受けず、真円度を損なわれない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭打抜機に装着されて鋼管杭を把持するチャック装置に係り、特に振動式の杭打抜機に好適である。
【背景技術】
【0002】
振動杭打抜機によって鋼管杭を打ち込み又は引き抜く場合、起振機に装着されたチャック装置によって鋼管杭を把持する。
チャックによる鋼管杭の把持には各種の方式が有るが、一般的に言えば、管径が特に大きい場合は1本の鋼管杭に複数個の起振機を装着し、管径が特に小さい場合は1個の起振機に装着された1組のチャックに設けられている1個の挟圧機構によって該1本の鋼管杭を把持する。
これら特大,特小の場合を除いて、現行の鋼管杭の打ち抜き工事においては、1個の起振機に偶数個の挟圧機構を設け、鋼管杭の管壁の周囲の偶数箇所を挟圧把持している。
奇数箇所を挟圧把持できない訳ではないが、偶数箇所を把持する方が荷重の分布を均斉ならしめ易いからである。
【0003】
図4は2個の挟圧機構を備えた鋼管杭用チャックの公知例を示す模式的な正面図であって、図の左半部は鋼管杭4だけを切断して描いてある。
この図4は、鋼管杭4の中心線Z−Zを含む面で切断してある。従って、該鋼管杭4の左右方向の幅寸法は直径に相当する。
このチャック装置1は、図外の起振機の下端面に装着されていて、該起振機から与えられた振動を鋼管杭4に伝える。
【0004】
この例の挟圧機機構2は、鋼管杭4の管壁の内側に位置せしめた固定挟持部材2aと、該鋼管杭4の管壁の外側に位置せしめた可動挟持部材2bとを備えている。
前記の固定挟持部材2aは、当該チャック装置1のフレームに対して固定されており、 前記の可動挟持部材2bは、チャックレバー2cを介してチャックシリンダ2dで駆動され、往復矢印f−rのように前後進せしめられる。
矢印f方向に前進した可動挟持部材2bは、固定挟持部材2aとの間に鋼管杭4を挟みつけて、これを把持する。
本図4に描かれている挟圧機構3も、上記挟圧機構2と同様に固定挟持部材3aと可動挟持部材3bとチャックレバー(図において隠れている)とによって構成されている。
斑点を付して描くとともに符号tを付して示した部材は、耐摩耗性の焼入硬鋼製のピースであって、クラッチ爪と呼ばれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】 特開平7−158067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前掲の図4に示した従来例のチャック装置において、2個の可動挟持部材2b,3bをそれぞれ矢印r方向に後退させた状態の平面図を模式的に描くと図5(A)のごとくである。
チャック装置によって鋼管杭4を把持するには、予め、このように可動挟持部材2b,3bを後退させておいてから、2個の固定挟持部材2a,3aを鋼管杭4の中へ差し入れる。
この操作を円滑に行なうには、固定挟持部材2a,3aと鋼管杭4との間に間隙gを設けておかねばならない。
実際問題としては、鋼管杭の寸法がJISによって規定されているから、図示の寸法Lを適宜に設定して、間隙寸法gを3mm〜5mmならしめる。
【0007】
図5(A)に示したように固定挟持部材2a,3aを鋼管杭4の中へ差し込んだ後に、1対の可動挟持部材2b,3bをそれぞれ矢印f方向に前進させて鋼管杭4を挟圧把持すると、前記の間隙gに相当する寸法だけ鋼管杭が歪まされるという問題が有る。
次に、図5(B)を参照して鋼管杭が歪まされるメカニズムを解析する。
この図5(B)は、読図を容易ならしめるため歪み量を拡大誇張して描いてある。
仮想線で描いた同心円Fは鋼管杭の自由形状を表している。その内周面と固定挟持部材2a,3aとの間には、先に説明した間隙gが形成されている。
1対の可動挟持部材2b,3bをそれぞれ付記矢印Pのように前進させて鋼管杭を押圧すると、該鋼管杭は左右両側から押し潰されて、縦長の楕円形状Dに歪まされる。
【0008】
最近、振動杭打抜技術の進歩により、杭に与えられる振動エネルギー量が増加した。このため、鋼管杭の被挟圧部が変形したり損傷したりすることが問題になっている。
静的な状態で考察すると、図5(B)の楕円形Dのように鋼管杭が歪まされても、応力の最大値が弾性限度以内であれば、挟持を解除すると鋼管杭の形状は復元する。
しかし、上記の静的な応力に振動応力が加わると永久歪を生ずる虞が有る。本発明者の経験によれば、現に鋼管杭の被把持部分の破損例が発生しているから、振動杭打時の複合応力が降伏点を超えているものと推測される。
把持による静的応力を軽減させようとして挟圧力を弱めるとチャックと管壁との間に滑りを生じて発熱する(現に、赤熱が目視確認されている)。
更に、前述したように間隙gを有する状態から、鋼管杭を歪ませて把持すると、起振機に対する鋼管杭の同心性が損なわれる。起振機が発生する振動の作用線と鋼管杭とが心狂いすると、杭の打設が正確に行なわれない上に、杭の把持箇所が損耗しやすい。
【0009】
以上はチャックで把持された杭が楕円状に歪む問題について考察したのであるが、
杭の剛性が大きくて歪みが小さい場合にも不具合を生じる。この問題を以下に説明する。
鋼管杭の肉厚寸法は管径に応じて複数種類ずつ規定されている。
例えば管径600Φの鋼管杭の肉厚は9,12,14,又は16mm、
管径1800Φの鋼管杭の肉厚は19,22,25mmというように、管径が大きくなるに従って肉厚寸法も大きくなる。
風力発電機の支柱のように管径が数メートルになると、肉厚寸法も例えば50mmというように大きくなる。厚さ50mmの鋼板は剛性が非常に大きく、先に述べた間隙寸法g(3〜5mm)を歪ませることは容易でない。
鋼管杭がチャックされて楕円状に歪むのも困るが、歪んでくれなければ均一かつ正確に把持することができない。
すなわち、チャック装置で鋼管杭を把持しようとした場合、操作の初期には間隙寸法gが無ければチャック装置を鋼管杭に嵌め合わせることができない。しかし、操作の途中でこの間隙寸法gを、何らかの形で消失させなければ該鋼管杭を正確に位置決めすることができず、確実に把持することもできない。以下、具体的に説明する。
【0010】
(図5(A)参照)この従来例の鋼管杭用チャック装置において、図示の間隙寸法gが必要であることは既に述べた通り(段落0006)である。
この間隙寸法gを設けた状態から、可動挟持部材2b,同3bそれぞれを矢印f方向に前進させて鋼管杭4を挟みつけると、図5(B)に示したように該鋼管杭が楕円状に変形するという不具合を生じることは先に述べた(段落0007及び段落0008)とおりである。
以上は鋼管杭が一時的に又は永久的に歪んだ場合である。しかし、鋼管杭が大径厚肉で剛性が大きくて、容易に歪まない場合について考察すると次の如くである。
【0011】
鋼管杭の剛性が著しく大きい場合は、図5(A)に示した状態から可動挟持部材2b及び同3bを、それぞれ矢印f方向に前進させて鋼管杭4に当接させても、間隙寸法gが若干減少しても0にはならない。
このため、1対の可動挟持部材2bと同3bとだけで鋼管杭4の外周面を挟みつけているだけであって、固定挟持部材2a及び同3aが遊んでいる状態になる。
固定挟持部材が遊んでいると、一つには鋼管杭4が位置決めされないので不安定である。
さらにもう一つには、鋼管杭に対する挟持部材の接触面積が不足して把持が不確実になる。すなわち、鋼管杭と挟持部材との接触面に滑りを生じて発熱し、鋼管杭に対して所要の振動エネルギーに伝達が行なわれ得ない。
【0012】
さらに、従来例の鋼管杭用チャックは、鋼管杭の直径寸法に適合させて構成されており、例えば管径500mmの杭を把持するように構成されたチャックで管径800mmの杭を把持することは出来ない。
このように、従来例のチャック装置は管径を規制された単能機器であって汎用性に欠けていた。
【0013】
本発明は前述の事情に鑑みて為されたものであって、その目的は、鋼管杭の真円度を損なわず、かつ、鋼管杭とチャック爪との間に間隙を有する状態で該鋼管杭を把持した場合、操作者が特に意識しなくても、起振機に対して鋼管杭が正確に心合わせされる機能(調心機能)を有するチャック装置を提供することを目的とする。
杭の材質が硬くて脆い場合は、その真円度が歪まされると亀裂を生じる。従って、前記の「真円度を損なわないこと」は、亀裂防止を意味する。
さらに本発明はチャック装置の汎用性を向上させ、1基のチャック装置によって大小複数種類の管径の鋼管杭を把持し得るように改良する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の目的を達成するために創作した本発明装置のポイントは、固定挟持部材と可動挟持部材との配置を工夫して、鋼管杭を押し潰す形の押圧力を加えることなく、該鋼管杭を位置決めして、その管壁を挟圧できる構造を考え出した。
【0015】
前述の原理に基づいて請求項1の発明に係る鋼管杭用チャック装置の構成は、把持すべき鋼管杭に1本の直径を想定し、この直径の両端部それぞれに位置せしめて、固定挟持部材と可動挟持部材とを備えた挟圧機構を配設した鋼管杭用チャック装置において、
前記直径の片方の端部に配設した挟圧機構は、鋼管杭の管壁の内側に位置する固定挟持部材と、管壁の外側に位置する可動挟持部材とを備えており、
前記直径の他方の端部に配設した挟圧機構は、管壁の内側に位置する可動挟持部材と、管壁の外側に位置する固定挟持部材とを備えていることを特徴とする。
本発明において直径とは、次の通りである。
a.横断面が円形をなす通常の鋼管杭においては、該円形の幾何学的な直径。
b.横断面が円形でない異形鋼管杭においては、該横断面の中心点を通る径(さしわたし)、詳しくは、管壁との交点を両端とする線分。
【0016】
請求項2の発明に係る鋼管杭用チャック装置の構成は、前記請求項1の発明における1対の挟圧機構をN対設けたものと見ることができる。
すなわち、把持すべき鋼管杭の直径を想定し、この直径の両端部それぞれに位置せしめて、固定挟持部材と可動挟持部材とを備えた挟圧機構を配設した鋼管杭用チャック装置において、
1本の鋼管杭に対してN本の直径を想定し、
前記N本の直径それぞれについて、直径の片方の端部に配設した挟圧機構は、管壁の内側に位置する固定挟持部材と、管壁の外側に位置する可動挟持部材とを備えており、
前記直径の他方の端部に配設した挟圧機構は、管壁の内側に位置する可動挟持部材と、管壁の外側に位置する固定挟持部材とを備えていることを特徴とする。ただし、Nは2若しくは3、又は4である。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る鋼管杭用チャック装置を適用すると、
2組の挟圧機構それぞれに設けられている可動挟持部材を後退させると、該可動挟持部材が固定挟持部材から離間して間隙を生じるから、迅速容易に鋼管杭に嵌め合わせることができる。
鋼管杭に嵌め合わせてから前記それぞれの可動挟持部材を前進させ、鋼管杭に当接せしめて押圧すると該鋼管杭が歪むことなく挟圧把持される。
詳しくは、鋼管杭の中心とチャック装置の中心とが僅少寸法(数ミリメートル)相対的に変位するが、該鋼管杭の真円度は損なわれない。
特に、本発明装置(請求項1)によって鋼管杭を把持する場合、操作者が特に意識しなくても、起振機と鋼管杭とが、その把持方向について自動的に心合わせされる(自動調心機能)。
【0018】
請求項2の発明に係る鋼管杭用チャック装置を適用すると、前記請求項1におけると同様の作用,効果が得られる上に、挟圧箇所の局部的な面圧が軽減されるので、鋼管杭の損耗がいっそう抑制される。
特に、本発明装置(請求項2)によって鋼管杭を把持する場合、操作者が特に意識しなくても、起振機と鋼管杭とが、水平方向360度(全方位)について自動的に心合わせされる(自動調心機能)。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】 本発明の1実施形態における部分断面正面図である。
【図2】 前記実施形態における鋼管杭把持操作を説明するための工程図である。
【図3】 (B)は前記と異なる実施形態の模式的な平面図、(A)は比較のために示した前記実施形態の模式的な平面図である。
【図4】 鋼管杭用チャック装置の公知例を示す部分切断平面図である。
【図5】 前記公知例における課題を説明するための模式的な平面図である。
【図6】 前掲の図1と異なる実施形態における模式的な部分断面正面図である。
【図7】 上記図6の要部拡大詳細図である。
【図8】 本発明を適用して構成した杭打ち用やっとこの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は本発明のI実施形態を示す部分断面正面図であって、この実施形態に係る鋼管杭用チャック装置5は、前掲の図4に示した公知例の鋼管杭用チャックに本発明を適用して改良したものである。
次に、本図1(実施形態)が図4(公知例)に比して異なる点、すなわち本発明を適用して改良した事項を抽出して説明する。
前記公知例(図4)は2組の挟圧機構2,3を備えていた。
本実施形態(図1)も2組の挟圧機構6,7を備えている。
そして、本実施形態における挟圧機構6は、公知例の挟圧機構2と同様の構成である。
ポイントは、本実施形態における挟圧機構7が、公知例の挟圧機構3に比して、概要的に鏡像対称(左右勝手違い)になっていることである。
【0021】
図4(公知例)における挟圧機構2は、鋼管杭4の内側に固定挟持部材2aを位置せしめ、外側に可動挟持部材2bを位置せしめている。
一方、挟圧機構3は、鋼管杭4の内側に固定挟持部材3aを位置せしめ、外側に可動挟持部材3bを位置せしめている。
上述した公知例における2組の挟圧機構6、7の内部構造を、
内側……固定挟持部材、
外側……可動挟持部材、
と総括すれば、双方の挟圧機構6、7は同一構造である。
しかし図4から理解されるように、これら1対の挟圧機構6と同7とが鋼管杭の右側管壁と左側管壁とに向かい合って配置されているので、その投影形状は鏡像対称である。
すなわち、図の中心線Z−Zに鏡を立てて挟圧機構2の反射像を見ると、挟圧機構3の実像と同じ形に見える。
【0022】
図1に示した本実施形態のチャック装置5においては、挟圧機構6の投影図形と、挟圧機構7の投影図形とが同じである。
このため、公知例におけるがごとき、
内側……固定挟持部材、
外側……可動挟持部材、
という総括関係は成立せず、この関係は挟圧機構6についてのみ成立し、
挟圧機構7においては、
内側……可動挟持部材、
外側……固定挟持部材、
になっている。
この実施形態(図1)において挟圧機構6と挟圧機構7とに共通する構成は、
図において右側……可動挟持部材、
図において左側……固定挟持部材、
という配置である。
【0023】
図1において鋼管杭4の上端部付近は切断して描かれている。切断面に現れている左右の管壁を結ぶ水平線を想定すると、鋼管杭4の直径に相当する。
上記仮想の直径の右端部付近に挟圧機構6が、左端部付近に挟圧機構7が、それぞれ配設されている。
前記2組の挟圧機構の内、片方に挟圧機構6は、鋼管杭4を把持したとき管壁の内側に位置する固定挟持部材6aと、管壁の外側に位置する可動挟持部材6bとを備えており、 他方の挟圧機構7は、鋼管杭4を把持したとき管壁の内側に位置する可動挟持部材7bと、管壁の外側に位置する固定挟持部材7aとを備えている。
【0024】
図2(A)は、把持すべき鋼管杭4の寸法と本発明装置の構成部材の配置との関係を説明するための模式的な平面図である。
鋼管杭4の寸法はJISで規定されている。本発明装置を設計するに当たっては、把持すべき杭の直径寸法Dpに基づく(Dpは、内径と外径との平均値とする)。
1対の固定挟持部材6a,7aの鋼管挟持面の間隔寸法Dcを、前記寸法Dpと等しく設定する。
図2(B)に示したように、それぞれの固定挟持部材6a,7aに対向離間させて、可動挟持部材6b,7bを配設する。
前述のようにDc=Dpであるから、鋼管杭4は別段の外力を受けずに1対の固定挟持部材6a,7aに当接することができる。
前記可動挟持部材6b,7bは、それぞれ往復矢印f−rのように前後進駆動される。
【0025】
図2(B)の状態から、2個の可動挟持部材6b,7bのそれぞれを矢印f方向に前進させて鋼管杭4に当接させると、既に無理なく固定挟持部材6a,7aに当接していた鋼管杭4の管壁は、そのまま無理なく挟みつけられる。
図2(C)は、鋼管杭4が可動挟持部材6b,7bによって矢印Pのごとく押圧,挟持された状態を表している。
図2(A)→(B)→(C)の流れを把持操作の工程図として眺めると、図2(C)の状態で鋼管杭4が、その真円度を損なうことなく挟圧把持されることを理解し得る。
【0026】
図3(A)は、前掲の図1に示した実施形態を模式的に描いた平面図であって、請求項1に対応している。
すなわち、鋼管杭4に1本の直径α−βを想定し、この直径の両端部付近に挟圧機構6と挟圧機構7とが配置されていて、それぞれの挟圧機構は固定挟持部材と可動挟持部材とを備えている。
図3(B)は前記と異なる実施形態を示す模式的な平面図であって請求項2に対応している。
1本の直径α−β、並びに直径の端部β付近に設けた挟圧機構6及び端部α付近に設けた挟圧機構7は、前記実施形態(図3(A))におけると同様の構成部分である。
本実施形態においては、前記の直径α−βと角θで交わる直径γ−δを併せて想定する。
そして、直径の端部γ付近に、前記挟圧機構6と同様の挟圧機構6′を設けるとともに、直径の端部δ付近に、前記挟圧機構7と同様の挟圧機構7′を設ける。
【0027】
図3(B)の構成によると、図3(A)の構成に比して挟圧機構の設置個数が2倍であるから、各挟圧機構によって挟圧される鋼管杭の局部的な面圧が低くても強固に把持することができ、鋼管杭の被把持部の損耗が軽減される。
図3(B)の実施形態においては、鋼管杭を把持する場合、該鋼管杭の中へ2個の固定挟持部材6aを挿入しなければならないので、2本の直径の交角θを余り大きく設定できず、90度以内であることが望ましい。
図3(B)の実施形態においては2本の直径を想定して、2×2=4組の挟圧機構を設けた。図示を省略するが3本の直径を想定して3×2=6組の挟圧機構を設けることも可能である。
しかし、前述のごとく直径相互の交角θを90度以内に収めねばならないから、余り多数の挟圧機構を配設することは適当でない。直径の想定は最大限4本に留めることが望ましい。
【0028】
次に、本実施形態における調心機能(操作者が特に意識しなくても、起振機に対して鋼管杭が正確に心合わせされる機能)について述べる。
図3(B)において符号Oを付して示した点を起振機の中心であるとする。
設計段階において、鋼管杭4を前記の点Oに対して同心に位置せしめた状態を想定し、この仮想の鋼管杭に密着せしめるように固定挟持部材6a、同6a、同7a及び同7aを配設する。
このように構成しておくと、図3(B)の状態で、把持しようとする実体の鋼管杭4と8個の挟持部材それぞれとの間に間隙が有っても、4個の可動挟持部材(6b、7b)をそれぞれ矢印f方向に前進させて鋼管杭4の管壁を挟みつけると、該鋼管杭は4個の固定挟持部材(6a,7a)によって位置決めされ、前記の点Oに対して同心になる。
以上のようにして、操作者が特に意識しなくても、把持対象物である鋼管杭が起振機に対して正確に同心となる。
【0029】
図6は前掲の図1と異なる実施形態に係るチャック装置8を示す模式的な断面図である。
この実施形態においても,2組の挟圧機構9,同10を設け、
上記の各挟圧機構9,10がそれぞれ固定挟持部材9a.10aと可動挟持部材9b,10bとを備え、
かつ、片方の挟圧機構9の固定挟持部材9aが鋼管杭の内側に位置するとともに、可動挟持部材9bが鋼管杭4の外側に位置し、かつ他方の挟圧機構10の固定挟持部材10aが鋼管杭の外側に位置するとともに、可動挟持部材10bが鋼管杭の内側に位置しているという基本的な構成は、前掲の図1と同様である。
【0030】
本図6の実施形態が前掲の図1比して異なるところは次のとおりである。
(a) チャック装置が、E字形の一体フレーム8aを備えていること。
(b) 挟圧機構9の可動挟持部材9bが、前記一体フレーム8aに穿たれた凹円柱面8bに収納されるとともに、挟圧機構10の可動挟持部材10bが、前記一体フレーム8aに穿たれた凹円柱面8cに収納されていること。
このように可動挟持部材がフレームの中に埋設された構成のチャック装置は、埋設形チャック又は直押し形チャックと呼ばれて公知である。本実施形態(図6)は、固定挟持部材と可動挟持部材との配置に新規な特徴が有る。これを簡単に表せば図の左方から順次に、可動挟持部材9b、固定挟持部材9a、可動挟持部材10b、固定挟持部材10aという配列になっている。
更に簡単にいえば、可動・固定・可動・固定という配列である。
(注)固定・可動、固定・可動と配列しても同じである。
【0031】
前記の凹円柱面8cは有底の穴である。凹円柱面8bは無底の孔であるが、その一端を塞ぎ板8dで覆われている。
【0032】
図6に示した挟圧機構9の拡大詳細を図7に示す。この図7も、構造機能が分かり易いように模式化して描いてあり、作動油の管路は省略してある。
一体フレーム8aと、凹円柱面8bと、可動挟持部材9bとは、図6について説明した構成部分である。
スライドシリンダ9dは前記凹円柱面8bの中に摺動可能に嵌合されている。
上記スライドシリンダ9dの中に固定ピストン9cが収納されていて、そのピストンロッドは一体フレーム8aに対して固定的に連結されている。
(注)固定ピストンとは、チャックのフレームに対して固定されている故の名称である。
符号8fを付して示したのはエアー室であり、エアー通路8gによって大気に連通されている。
符号9fを付して示したのは交換可能な爪部材である。
【0033】
シリンダボトム室9eに圧力油が注入されると、スライドシリンダ9dは図の右方へ押動され、爪部材9fが右方へ押し付けられる。
シリンダヘッド室9gに圧力油が注入されると、スライドシリンダ9dは図の左方へ押動され、爪部材9fが左方へ後退せしめられる。
【0034】
本図7に示した実施形態によると、図1の実施形態におけると同様の自動調心機能が果たされ、しかもチャック装置が小形に構成され、かつ強固である。
【0035】
図2に示した実施形態の変形例について考察する。
図2(B)に示されている挟持部材7b・7a・6b・6aの配列順序に着目すると、先に段落0030の11行目に記載したように、可動・固定・可動・固定になっている。
この実施形態においては4個の挟持部材の内の2個を固定挟持部材とし、2個を可動挟持部材とすることによって、
イ.鋼管杭に変形を生じさせない(楕円形に圧し潰さない)こと、及び、
ロ.該鋼管杭を位置決めすること、
を両立せしめている。
ここに上記ロ項の「鋼管杭を位置決めすること」について、この位置決め効果を得るために必要な最小限の条件は、「4個の挟持部材の内の1個を固定挟持部材にすること」である。
これを普遍的に言えば、4個の挟持部材の内の1個若しくは2個を固定挟持部材とし、他の3個若しくは2個を可動挟持部材とすることによって「鋼管杭に変形を生じさせることなく、該鋼管杭を位置決めする」という効果が得られる。
【0036】
次に、大小各種寸法の鋼管杭に適応する構成について、前掲の図1を援用して以下に説明する(請求項3に対応)。
符号12を付して示したのはチャックベースであって、図外の起振機に対して固着される。
このチャックベース12に、挟圧機構6,7の案内手段として、水平な案内レール12aが設けられている。
図において鋼管杭4が垂直に支持されているから、前記案内レールの方向は該鋼管杭4の長手方向に直交し、その直径方向と平行である。
一方、挟圧機構6、及び挟圧機構7のそれぞれにはスライダ12bが設けられていて、これらの挟圧機構はスライダを介して案内レールにより図の左右(鋼管杭4の直径方向)に案内される。
【0037】
以上に説明した案内手段は、特に大径厚肉で剛性の大きい鋼管杭を把持する場合に格別な効果を発揮する。
先に<発明が解決しようとする課題>の欄で述べたように、管径数メートルに及ぶ鋼管杭においては、チャックと杭との嵌合に必要な3〜5mmの間隙寸法gとの関係において、杭を歪ませて間隙を消失させることが至難である。
しかも実際の杭打作業には、鋼管杭の製造寸法誤差という問題が加わってくる。
鋼管杭・鋼管矢板標準製作仕様書によれば、管の外径の寸法許容差は±0.5%であるが、肉厚寸法の+誤差は規制されていない。(管径数メートルの鋼管杭の肉厚寸法には2〜3mmの誤差が有り得る)。
本発明によれば、鋼管杭の肉厚寸法誤差を吸収して正確に位置決めし、過大な局部的応力を生じさせず、確実に把持することができる。次の段落で詳しく説明する。
【0038】
図1は、本発明の実施例であって1対の固定挟持部材6a,7aを備えている。
双方の固定挟持部材の挟持面間隔寸法ψは、先に述べた案内レール12aとスライダ12bとの作用によって増減調節可能である。
一方、鋼管杭4の管径寸法にも肉厚寸法にも、なにがしかの製造誤差が有る。
そこで鋼管杭4の寸法を実測して、前記の挟持面間隔寸法ψを、実測した管径寸法に合わせるように調節する。この操作の調節精度は、誤差1mm未満が望ましい。
なお、この場合の管径寸法とは、外径寸法と内径寸法との算術平均である。
先に述べたように(図5(A)参照)間隙寸法g(3〜5mm)が無ければ、鋼管杭を固定,可動挟持部材の間へ差し入れることができない。
本例においては可動挟持部材6b及び同7bを、それぞれ矢印r方向(図の右方)へ後退せしめることにより、固定挟持部材6a及び同7aとの間に3〜5mmの間隙を生じさせて鋼管杭を差し入れる。
鋼管杭4を差し入れた後、後退させていた可動挟持部材6b及び同7bをそれぞれ矢印f方向に前進せしめ、該鋼管杭を挟圧して把持する。
前記の挟持面間隔寸法ψの精度が1mm未満であれば、鋼管杭に対して1mm以上の歪みを生ぜしめる虞れ無く、充分な圧力で挟持することができる。
この故に、歪ませることの至難な大径厚肉の鋼管杭であっても、正確に位置決めして、確実に把持することができる。
【0039】
本発明を適用することによって大径厚肉の鋼管杭を正確,確実に把持できることは以上に述べた如くであるが、従来技術によっては大径厚肉の鋼管杭を正確,確実に把持できなかったことを次に検証する。
図4(従来例参照)、2個の固定挟持部材2a,同3aの間隔寸法Ωを増減調節することは可能である。ただし、鋼管杭の内壁面に対する間隙寸法3〜5mmを形成しなければ、固定挟持部材と可動挟持部材との間に鋼管杭を差し入れることができない(図5(A)を参照して既述)。
前記の間隙寸法3〜5mmを設けた状態で、可動挟持部材2b,3bをそれぞれ矢印f方向に前進させた場合は、次のイ,ロの何れか(又は、その両方)となる。
イ. チャックシリンダによる挟圧力に比して鋼管杭の剛性が比較的に小さい場合、
先に図5(B)を参照して説明したように、鋼管杭が楕円状に歪む。
ロ. チャックシリンダによる挟圧力に比して鋼管杭の剛性が比較的に大きい場合、
前記3〜5mmの間隙寸法が若干減少するが0にはならず、鋼管杭は外周面を2個の可動挟持部材2b及び同3bだけで挟みつけられた状態になる。
この状態では固定挟持部材2a,3aが遊んでいるので、正確な位置決めも為されず、確実な把持も為されない。
【0040】
次に、図1に示した実施形態に基づいて、その変形例について考察する。
いま仮に、鋼管杭4の真円度を歪ませないことのみを求めるならば、4個の挟持部材の全部を可動挟持部材にすれば良い。
しかし乍ら、挟持部材が全部可動挟持部材であると、鋼管杭4を位置決めすることが出来ない。
さらに考察を進めて「鋼管杭を位置決めするための、最少限に必要な条件」を考えると「4個の挟持部材中の何れか1個が固定挟持部材であること」である。
すなわち、図1に示した構成を変形して、固定挟持部材6a又は同7aの何れか片方を可動挟持部材と置換しても、鋼管杭4に対して真円度を歪ませる力を及ぼすことなく、該鋼管杭を位置決めすることができ、本発明と均等であって、その技術的範囲に属するものである。
ただし、挟持圧力が等しいものとすれば、可動挟持部材は固定挟持部材に比して大形大重量であって製造コストが高いから、特殊な目的(例えば本発明に抵触することの回避)が無い限り、経済的に不利であって推奨できない。
【0041】
本発明を実施する際、前記の案内手段は案内レールに限らず、案内溝,若しくは案内バーであっても良い。要は、挟圧機構6,7のそれぞれが水平方向に平行移動し得る構造であれば良い。
本発明装置を使用する際、鋼管杭4の径寸法に応じて1対の挟圧機構の間隔寸法を調節した後、チャックベース12に対する挟圧機構6,7それぞれの位置を固定する。
図示を省略したが本実施形態においては、固定手段としてポルト・ナットを設けてある。
本発明を実施する際、チャックベースに対して挟圧機構を固定する手段は、ポルト部材に限らず、適宜の公知部材を応用することがでる。
【0042】
図8は、本発明を適用して構成した杭打用やっとこの1実施形態を示す模式図である。
通例の用語としての「やっとこ」とは鋏形の工具を言うが、マグローヒル科学技術用語辞典には「物体を保持する種々の工具の総称」という意味も有る旨が記載されている。
杭打業界における術語としての「やっとこ」は「杭を把持して継ぎ柄を形成する工具」の意に用いられ、例えば水底に杭を打ち込む際、杭打機を水面上に位置せしめたままで、杭用チャックを水底付近まで降下させる場合に用いられる。
【0043】
図8において鎖線枠で囲み、符号F1を付した機器は前掲の図1に示した実施形態に係るチャック装置5である。本図8の外観において、チャックベース21と、固定挟持部材7aと、可動挟持部材6bとが現われている。
請求項1又は請求項2に係るチャック装置5で鋼管杭4を把持するので、該鋼管杭を歪ませようとする力が働かず、自動調心機能(段落0017及び同0018にて既述)が発揮されて、無理なく均一かつ確実に把持される。図示の垂直線Zは中心線である。
このチャック装置のチャックベースの上方に、チャック装置5と同心にシャフト21が連結されてやっとこ20を形成している。
また、運搬,保管に便なる如く、シャフト21とチャック装置のチャックベース12とは着脱可能な構造であることが望ましい。
本例においては、フランジ・ボルトナット継手で連結した。
【0044】
杭打ち用の起振機23は、緩衝バネ24及びハンガ25を介して水面よりも上方に吊持されていて、該起振機23の下方に鋼管杭用チャック22が装着されている。
この鋼管杭用チャック22は、従来例の鋼管杭用チャックであっても良く、また本発明を適用した鋼管杭用チャックであっても良い。即ち任意型式り鋼管杭用チャックである。
符号22の鋼管杭用チャックが従来例のものである場合は、シャフト21の上端部分を該鋼管杭用チャック22に合わせて加工し、補強しておくことが望ましい。
【0045】
本図8に示した実施形態において、本発明を適用して構成されたチャック装置5は、鋼管杭に対して過大な局部的応力を与えることなく均一かつ確実に、しかも自動的に心合わせして把持している。
起振機2は水面上方に位置し、やっとこ20を介してチャック装置5を水底近くまで降下させ、鋼管杭4を水底に打ち込むことができる。
【符号の説明】
【0046】
1…チャック装置
2,3…挟圧機構
2a,3a…固定挟持部材
2b,3b…可動挟持部材
4…鋼管杭
5…チャック装置
6,7…挟圧機構
6a,7a…固定挟持部材
6b,7b…可動挟持部材
6c,7c…チャックレバー
6d,7d…チャックシリンダ
8…チャック装置
8a…E字形一体フレーム
8b,8c…凹円柱面
8d…塞ぎ板
8f…エアー室
8g…エアー通路
9,10…挟圧機構
9a,10a…固定挟持部材
9b,10b…可動挟持部材
9c…固定ピストン
9d…スライドシリンダ
9e…シリンダボトム室
9f…交換可能な爪部材
9g…シリンダヘッド室
12…チャックベース
12a…案内レール
12b…スライダ
20…やっとこ
21…シャフト
22…任意の鋼管杭用チャック
23…起振機
D…挟圧されて歪んだ鋼管杭
Dc…2個の固定挟持部材管の距離寸法
Dp…鋼管杭の直径寸法
F…鋼管杭の自由形状
f…可動挟持部材の前進方向
g…間隙寸法
L…2個の固定挟持部材の距離寸法
O…起振機の中心点
P…可動挟持部材の押圧方向
r…可動挟持部材の後退方向
α−β…鋼管杭について想定した直径
γ−δ…鋼管杭について想定した、前記と異なる直径
θ…2本の直径の交角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持すべき鋼管杭に1本の直径を想定し、この直径の両端部それぞれに位置せしめて、固定挟持部材と可動挟持部材とを備えた挟圧機構を配設した鋼管杭用チャック装置において、
前記直径の片方の端部に配設した挟圧機構は、鋼管杭の管壁の内側に位置する固定挟持部材と、管壁の外側に位置する可動挟持部材とを備えており、
前記直径の他方の端部に配設した挟圧機構は、管壁の内側に位置する可動挟持部材と、管壁の外側に位置する固定挟持部材とを備えていることを特徴とする、調心機能を備えた鋼管杭用チャック装置。
【請求項2】
把持すべき鋼管杭の直径を想定し、この直径の両端部それぞれに位置せしめて、固定挟持部材と可動挟持部材とを備えた挟圧機構を配設した鋼管杭用チャック装置において、
1本の鋼管杭に対してN本の直径を想定し、
前記N本の直径それぞれについて、直径の片方の端部に配設した挟圧機構は、管壁の内側に位置する固定挟持部材と、管壁の外側に位置する可動挟持部材とを備えており、
前記直径の他方の端部に配設した挟圧機構は、管壁の内側に位置する可動挟持部材と、管壁の外側に位置する固定挟持部材とを備えていることを特徴とする、調心機能を備えた鋼管杭用チャック装置。ただし、Nは2ないし6である。
【請求項3】
前記挟圧機構の複数個を支持するチャックベースが設けられていて、
前記チャックベースに、把持すべき鋼管杭の直径方向と平行な案内手段が設けられるとともに、
前記挟圧機構のそれぞれに、前記案内手段に適合するスライダが設けられており、
かつ、それぞれの挟圧機構をチャックベースに対して固定する手段が設けられていることを特徴とする、請求項1又は請求項2の何れかに記載の調心機能を備えた鋼管杭用チャック装置。
【請求項4】
前記挟圧機構の複数個を支持するチャックベースが設けられていて、
上記チャックベースの上方に、該チャックベースと同心に、シャフトを連結し得るようになっており、
前記チャックとシャフトとを一体的に結合すると、杭打ち用やっとことして機能することを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の調心機能を備えた鋼管杭用チャック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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