説明

調理時に発生する水質汚濁物質の排出性能が改良された食品用途麺

【課題】 調理時に食品用途麺から水中に排出する水質汚濁物質を大幅に低減することを課題としている。従来の食品用途麺の味やかたさなどを損なうことなく、麺の調理に際し、排水中に溶出される水質汚濁物質の量が大幅に低減するよう改質された食品用途麺を提供すること。
【解決手段】 食品用途麺の全固形分成分の0.1重量%〜50重量%が、平均粒子直径0.5μm以上500μm未満に調整されたセルロース系高分子粒子を含有・分散していること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系高分子粒子を含有する食品用途麺に関する。さらに詳しくは、セルロース系高分子粒子を食品用途麺中に分散させることにより、麺の調理に際し、排水中に溶出される水質汚濁物質の量が大幅に低減するよう改質された食品用途麺に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品用途麺をゆでた排水が河川などの水質を悪化させていることが話題になっている。例えば、香川県の場合、数年前からうどんをゆでた排水が、用水路や河川の水質を悪化させていることが表面化してきている。うどん排水はデンプンなどを多く含み、水の汚れを示す化学的酸素要求量(COD)が一般生活排水の約10倍から100倍にもなる。このため、用水路や河川でのアオコの発生により、悪臭や水質汚濁の原因となっている。
【0003】
この問題を解決するため、香川県内の各種研究機関は、過去新聞やニュースで報道された微生物群でゆで汁を浄化する研究やゆで汁と活性炭を組み合わせることによる稀少糖の生産に関する研究、あるいは、非特許文献1〜3にみられるように、酵素処理でうどんゆで汁排水から糖質を精製する研究や固定床型メタン発酵法を用いて、ゆで汁排水からメタンガスを回収する研究など排水処理を基本とした研究を進めているが、これらは排水中に含まれる水質汚濁物質の回収に関するリサイクル技術であり、いずれも調理時にうどんから排出される水質汚濁物質自身を低減させるといった根本的な技術ではなく、従来のうどんの味や麺のかたさなどを全く損なうことなく、排水中に含まれる水質汚濁物質の量を極端に低減したうどん、すなわち、うどんそのものに改質を施す技術に関する開示はこれまでなかった。
【非特許文献1】三好益美,藤田久雄,岡市友利,藤田淳二,“うどん湯煮廃液の酵素分解法の検討”,香川県環境保健研究センター所報 第4号,85,(2005)
【非特許文献2】藤田久雄,安藤友継,岩崎幹男,岡市友利,藤田淳二,“うどん湯煮廃液(ゆで汁)の処理技術の関する研究―軽石を固定化担体とした高速メタン発酵―”香川県環境保健研究センター所報 第5号,133,(2006)
【非特許文献3】藤田久雄,安藤友継,島田昭博,岩崎幹男,“うどん湯煮廃液(ゆで汁)の処理技術の関する研究―上向流嫌気性汚泥床(UASB)を用いた高速メタン発酵―”,香川県環境保健研究センター所報 第6号,52,(2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、調理時に食品用途麺から水中に排出する水質汚濁物質を大幅に低減することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、食品用途麺中にセルロース系高分子粒子を分散させることによって、課題を解決し、本発明に至った。すなわち、本発明は以下に示す通りである。
(1)食品用途麺の含有する全固形分成分の0.1重量%〜50重量%がセルロース系高分子粒子であることを特徴とする食品用途麺。
(2)平均粒子直径が0.5μm以上500μm未満であることを特徴とする前記(1)記載の食品用途麺用のセルロース系高分子粒子。
(3)セルロース系高分子粒子が木材パルプおよび/または非木材パルプおよび/またはバクテリアおよび/または藻類および/またはホヤ由来のセルロースを含有することを特徴とする前記(1)〜(2)記載の食品用途麺。
(4)食品用途麺がうどんであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の食品用途麺。
【0006】
以下、本発明を詳細に説明する。セルロースは炭素、水素、酸素を構成元素とするブドウ糖のみからなる多糖類である。セルロースは植物の光合成によって水と炭酸ガスから生産される生物資源であり、地球上で最も多量に再生産される。また、酢酸菌のような微生物やホヤ貝のような動物によっても生産される。セルロースはグルコースがβ−1,4結合した直鎖状のホモポリマーである。その一次構造はβ−1,4結合しているため隣接するグルコース残基は裏返っており、リボン状の構造をとることが特徴である。また、セルロースの分子鎖は極性を持っている。セルロース分子は多数の水酸基を持っており、それが親水性の由来である。一方、セルロース分子を立体的に表現した場合、イス型のグルコピラノース環に対してエカトリアル方向にすべての水酸基が配置されており、アキシャル方向にC−H基が向くため、セルロース分子を平面的なリボンと考えると、垂直方向はC−H基のみの疎水性面となり、水平方向がOH基の多い親水性面となる。このように、セルロースは分子内に疎水性と親水性の両部分を有する高分子である。さらに、1)アミロースやペクチンといった澱粉などの天然高分子と相溶性が高い、2)剛直性である、3)荷電性がある、4)人間の消化酵素によって消化されないなどの性質がある。この性質1)を利用することにより、セルロースを食品用途麺中に分散させ、その性質2)、3)と疎水性面を利用することにより、油脂分の吸着による食品用途麺調理後の排水中に含まれる油脂分を低減でき、かつ、湯がくなどの調理前の麺同士の付着を抑えることができるため、食品用途麺調理後の排水中に含まれる水質汚濁物質を食品用途麺から可能な限り溶出させないことができる。例えば、うどんの場合、打ち粉の使用を大幅に低減できるため、調理後のうどん排水に含まれる水質汚濁物質を大幅に低減することが可能になる。
【0007】
本発明の食品用途麺は、セルロース系高分子粒子を食品用用途麺の全体重量(水分含有重量)に対し、0.1重量%以上50重量%未満、好ましくは0.5重量%以上20重量%未満含有するものである。油脂分の吸着を含む食品用途麺料理後の排水中への水質汚濁物質の良好な低減という観点からは、0.5重量%以上であることが望ましく、食品用途麺の食感や製麺性の低下を防ぐ観点からは、20重量%未満であることが望ましいからである。ここで製麺性が低下するとは、セルロース系高分子の剛直性のため、小麦粉だけの食品用途麺と比べて、製麺時の混練性が著しく悪化し、生地の外観、生地中のセルロース系高分子の分散性、弾力性が劣ることをいう。
【0008】
セルロース系高分子粒子の平均粒子直径は、0.5μm以上、500μm未満、好ましくは3μm以上、200μm未満である。製麺性、分散性の観点から平均粒子直径が、3μm以上であることが望ましく、製麺性、異物感のなさ、食感の違和感の観点から200μm未満であることが望ましい。
【0009】
セルロース系高分子粒子に使用されるセルロース種はセルロースホモポリマーを含み、特に限定されるものではない。セルロース系高分子粒子の例としては、天然セルロースとして、コットンリンターやパルプ微結晶セルロースなどの精製したセルロースおよびリグニンやヘミセルロースを含有するリグノセルロース類が挙げられる。また、再生セルロース、天然セルロースや再生セルロースを出発原料として用いて得られるセルロース誘導体、あるいはこれらの混合物であっても構わない。
【0010】
本発明が対象とする麺類は、米類、小麦、大麦、蕎麦、栗、稗など穀類の澱粉質を主原料として、これに加水混練して製麺したものであり、麺類の種類やその形状を特に限定するものではない。例えば、うどん、中華麺、餃子や春巻きの皮などの皮類。和そば、素麺、冷麦、冷麺、ビーフン、はるさめ、きしめん、ヌードル、マカロニやスパゲティを含むパスタ等が挙げられる。
【0011】
麺類の加工の種類も特に限定されるものではなく、生麺、ゆで麺、蒸し麺、乾麺、冷凍麺等のいずれであってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に実施例、参考例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0013】
本発明における評価法、測定方法を以下に説明する。
1.セルロース系高分子粒子の微細化法:フリッチェジャパン(株)社製遊星型ボールミル型式P−5を用いた。微細化は、微細化したい試料15gと水15gを予めボールミル用ボールが15個入れてあるボールミル容器中に投入し、ボールミル容器を高速回転することによって行った。このときの設定条件は、回転数300rpm、微細化時間20分、休み時間10分、リピート数6回とした。
2.セルロース系高分子粒子の平均粒子直径の測定法:島津製作所(株)製 レーザ回折式粒度分布測定装置 型式SALD−2000Jを用いた。測定は、純水約500mlを入れたビーカー中に試料を1g入れ、装置に設定してあるスパチュラで撹拌しながら均一濃度の混合液を作り、これに超音波を5分間照射した後、行った。
3.水質汚濁物質回収法:久保田商事(株)製 ユニバーサル冷却遠心機 型式5952を用いた。水質汚濁物質は、40mlの排水を遠心管に入れ、回転数5000rpmで10分間処理した後、沈殿物以外の上澄み液を除去し、さらに24時間、真空乾燥を行った後、回収した。
4.食感評価:成人男性5名、女性3名で行った。
【実施例】
【0014】
以下には、本発明の実施例、比較例をまとめて記載する。
【0015】
「実施例1−2,比較例1」
ここでは、セルロース系高分子粒子の有無がうどんの製麺性に与える影響およびうどんゆで汁排水中に含まれる水質汚濁物質量に与える影響を検討した。実施例1のセルロース系高分子粒子は、精製リンターを酸加水分解した繊維状のセルロース粒子(Fibrous Cellulose Powder,CF11,Whatman社製)を用い、実施例2のセルロース系高分子粒子は実施例1で使用したCF11を遊星型ボールミルで粉砕処理して得られたものを用いた。実施例1,2のセルロース粒子の平均粒子直径はそれぞれ、68μmおよび17μmであった。
うどんの作製は、以下の手順により行った。
1. うどん粉以外の試料の混合液を作製する。
2. うどん粉に上記1の混合液を少しずつ添加し、初めは拳で押しつけるようにし、次に握って、時に折りたたみながら、10分間手でこねる。
3. 上記2.で得られた試料を10分間足踏みする。
4. 上記3.で得られた試料をビニール袋で包み、室温で2時間静置する。
5. 打ち粉をし、上記4.で得られた試料を厚さ3mmに伸ばし、5mm幅に切断する。
6. 上記5.で得られた麺試料50gを沸騰させた水800ml中に投入し、10分間ゆでた後、ゆで汁排水を200ml回収する。
なお、この時の室温は、25℃一定であった。
配合割合を表1に示す。ここで、うどん粉は日清製粉(株)製 中力小麦粉 雪を、水はさぬき市の水道水を、打ち粉は、(株)トーホー製 コーンスターチを使用した。また、打ち粉の量は製麺時に麺同士の付着が起こらない最低必要量とした。
【表1】

結果を表2に示す。平均粒子直径の大きさに関わらず、セルロース粒子を含んだうどん(実施例1,2)排液から回収された不純物量は、セルロース粒子未使用うどん(比較例1)より、それぞれ23%少ない0.0731g、72%少ない0.031gであることが分かった。また、平均粒子直径が小さいセルロース粒子を含んだうどん(実施例1)排液から回収された不純物量は、平均粒子直径が大きいセルロース粒子を含んだうどん(実施例2)排液から回収された不純物量よりも58%少ない0.031gであり、粒子直径に大きく依存することが分かった。セルロース粒子を含んだうどん(実施例1,2)は、セルロース未使用のうどん(比較例1)と比較し、うどん作製手順1〜6における製麺時の違和感はなく、また、食感も違和感、異物感はなかったが、セルロースを含んだうどんの方が、咀嚼時の弾力性に優れると感じる人が8名中5名いた。
【表2】

【0016】
「実施例3,4」
ここではセルロース系高分子粒子の混合割合が麺付着に及ぼす影響について検討した。うどんの作製手順は、実施例1−2,比較例1の場合と同様とし、手順5まで行った。セルロース系高分子粒子は、平均粒子直径68μmであるセルロース粒子(Fibrous Cellulose Powder,CF11,Whatman社製)を用いた。配合比率を表3に示す。
【表3】

実施例3,4いずれの場合も、製麺時に麺同士の付着が起こらなくなる(打ち粉最低必要量)まで、少量ずつ打ち粉を添加した。その結果、うどん粉に対するセルロース固形分濃度が3.4wt%(実施例3)の場合は4g、うどん粉に対するセルロース固形分濃度が5.3wt%(実施例4)の場合は3gの打ち粉が必要であった。うどん麺中に含まれるセルロース粒子の量を増やすことによって、打ち粉を低減できた。
【0017】
「実施例5,比較例2」
ここではセルロース系高分子粒子の有無が、ゆでた後のうどんから発生する水質汚濁物質量に与える影響を検討した。うどんの作製手順は、実施例1−2,比較例1の場合にある手順6.ゆで汁排水回収を除き、同様とした。セルロース系高分子粒子は、平均粒子直径68μmであるセルロース粒子(Fibrous Cellulose Powder,CF11,Whatman社製)を用いた。また、打ち粉の量は、実施例1−2,比較例1と同様、製麺時に麺同士の付着が起こらない最低必要量とした。配合比率を表4に示す。
【表4】

得られた同量のうどん(実施例5,比較例2)をビーカー内に準備した120mlの水中に浸漬し、水の濁度および麺の状態を観察した。図1に浸漬後30分経過後の様子を示す。浸漬後30分経過後のセルロース未使用のうどん(比較例2)は、麺から浮遊物が排出されており、ビーカー内が懸濁していた。一方、セルロース粒子を含んだうどん(実施例5)は、麺に剛性があり、麺からの浮遊物も観測されず、ビーカー内は高い透明性を有していた。図2に浸漬後15時間経過後の様子を示す。セルロース未使用のうどん(比較例2)からは、多量の浮遊物の排出が確認され、浮遊物は沈殿していた。一方、セルロース粒子を含んだうどん(実施例5)からは、浮遊物の排出がほとんど確認されず、ビーカー内の透明性は確保されており、麺の形態も保持されていた。
【図1】

【図2】
【0018】
「実施例6、比較例3」
ここでは、うどん麺の全固形分重量中に占めるセルロース系高分子粒子の濃度が、うどんの製麺性、生地の外観に及ぼす影響を検討した。うどんの作製手順は、実施例1−2,比較例1の場合にある手順6.ゆで汁排水回収を除き、同様とした。セルロース系高分子粒子は、平均粒子直径68μmであるセルロース粒子(Fibrous Cellulose Powder,CF11,Whatman社製)を用いた。また、打ち粉の量は、実施例1−2,比較例1と同様、製麺時に麺同士の付着が起こらない最低必要量とした。配合比率を表5に示す。
【表5】

セルロース粒子を含んだうどん(実施例6)は、セルロース粒子未使用のうどん(比較例3)製麺時と比較して、手順2.の押しつける、握る、折りたたむ等の手でこねる時に多大な力と時間を要し、製麺性が低下した。手順3.の足踏み時も同様であった。また、手順5で得られたうどん麺生地の外観は、つやが低下し、白度が増した。
【図面の簡単な説明】
【0019】

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品用途麺の含有する全固形分成分の0.1重量%〜50重量%がセルロース系高分子粒子であることを特徴とする食品用途麺。
【請求項2】
平均粒子直径が0.5μm以上500μm未満であることを特徴とする請求項1記載の食品用途麺用のセルロース系高分子粒子。
【請求項3】
セルロース系高分子粒子が木材パルプおよび/または非木材パルプおよび/またはバクテリアおよび/または藻類および/またはホヤ由来のセルロースを含有することを特徴とする請求項1〜2記載の食品用途麺。
【請求項4】
食品用途麺がうどんであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の食品用途麺。

【図1】セルロースを含まないうどんおよびセルロースを含有(うどん粉に対するセルロースの固形分濃度が3.4wt%)したうどんをゆでた後、30分経過後のうどん麺およびゆで汁排水を比較した様子を示す写真である。
【図2】セルロースを含まないうどんおよびセルロースを含有(うどん粉に対するセルロースの固形分濃度が3.4wt%)したうどんをゆでた後、15時間経過後のうどん麺およびゆで汁排水を比較した様子を示す写真である。
【図1】
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【図2】
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