説明

調製方法と化合物

本発明は、HIV阻害剤の調製に有用な特定のスルホンアミド中間体の調製方法及びその結晶形に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HIV阻害剤の調製に有用な特定のスルホンアミド中間体の調製方法及びその結晶形に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因物質、は、アスパラギン酸プロテイナーゼファミリーに属する十分に特徴付けられたプロテイナーゼ、HIVプロテアーゼ、を含む3つの酵素をコードする。この酵素の阻害は、AIDS治療の有望なアプローチとみなされてきた。ヒドロキシエチルアミンアイソスターは、効能のある、選択的なHIVプロテアーゼ阻害剤の合成に広くに利用されてきた。しかしながら、このHIVプロテアーゼ阻害剤の最新タイプは、合成有機化学者に、興味ある課題を与えた。進歩したX線構造分析は、非常に効果のある薬物分子を製造する酵素の活性部位にぴったりとフィットする分子のデザインを可能にした。不運なことに、分子形状によりデザインされたこれらの分子は、慣用の化学的方法を使用して製造するのは困難なことが多い。
【0003】
HIV阻害剤の最新のタイプは、各サイドで2つの大きい基を結合させるキラル炭素2個を含有する3炭素中心要素に構造的に類似する(例えば、Parkes,et al,J.Org.Chem.,39:3656(1994)参照)。一般に、中心部分から、大きな基の1つへの化学結合は、炭素−窒素結合であり、これは、通常、エポキシドとアミンを反応させて達成される。2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼンスルホニルアミドヒドロクロリドは、プロテアーゼ阻害剤の合成における主要な中間体である(例えば、米国特許第5585397号、米国特許第5723490号及び米国特許第5783701号及び国際公開第94/0563号参照)。2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼンスルホニルアミドヒドロクロリドを調製するために一般に使用される1つの工程を、スキーム1に示す。
【化1】

【0004】
2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼンスルホニルアミドヒドロクロリドを、市販(Aerojet Fine Chemicals(Sacramento,Calif.))の出発物質、2S,3S−クロロメチルアルコール(2S,3S−CMA)、から出発する4ステップ工程で製造することができる。最初に、2S,3S−CMAと水酸化ナトリウムとをTHF/エタノール中で反応させて、相当するエポキシドを91%収率で生じ、第二ステップで、トルエン中のエポキシドを過剰のイソブチルアミンと、温度75℃〜80℃で反応させて、ジアミノアルコールを生じることによりこれを達成することができる。トルエン中で、ジアミノアルコールとp−ニトロベンゼンスルホニルクロリド(即ち塩化ノシル)とを温度85℃〜90℃で反応させ、その後、温度85℃〜90℃で、水性HClによりBoc保護基を除去して、2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼンスルホニルアミドヒドロクロリドが全収率64%で得られる。
【0005】
あるいは、エポキシドの調製及び単離の必要が無い、米国特許第6548706号に記載の改良された製造方法により、2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼンスルホニルアミドヒドロクロリドを製造することができる。この改良された製造方法は、その純度を損なうことなく、高い収率で2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼンスルホニルアミドヒドロクロリドをもたらすことが要求される。このように、2S,3S−クロロメチルアルコール(2S,3S−CMA)を直接にイソブチルアミンと反応させて、ジアミノアルコールが得られる。次いで、ジアミノアルコールは、Boc保護基の除去前に、塩化ノシルと反応させる。US6548706の教示は、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0006】
しかしながら、場合によっては、反応を更に進める前に、BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドを単離するのが好ましい。BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドは、更に反応を進める前に貯蔵しやすい。
【発明の開示】
【0007】
本発明の第一の態様により、BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドの調製方法が提供される。BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドは、メタノールとBOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドとを含む溶液から単離される。
【0008】
メタノール非存在下で、例えばトルエン又は酢酸エチルを唯一の溶媒として使用して、BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドを単離する試みは、非常に粗悪な物理的形状の物質を生じる。この粗悪な物理的形状の物質は、繊維質の構造をしており、脱脂綿に類似する広範囲のマットを形成する。これは、溶媒を保有し、たとえ装填量が少なくても、反応容器から除去するのが困難である。そのため、粗悪な物理的形状物質を濾過するのは困難であり、他の取り扱いを困難にする原因となることもある。
【0009】
メタノールとBOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドとを含む溶液には、BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドがメタノール又はメタノールを含有する溶媒混合物中に完全に溶解された溶液、及びBOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドがメタノール又はメタノールを含有する溶媒混合物中に部分的に溶解された溶液、例えば、メタノール又はメタノールを含有する溶媒混合物中のBOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドのスラリー、がある。
【0010】
メタノールとBOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドとを含む溶液は、メタノール又はメタノールを含有する溶媒混合物中にBOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドを溶解させるか、又はメタノール又はメタノールを含有する溶媒混合物でBOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドをスラリーにして、得ることができる。あるいは、メタノールとBOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドとを含む溶液は、メタノールをBOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドを含む溶液に直接に添加するか、又は溶液溶媒を、メタノール又はメタノールを含有する溶媒混合物と交換する、溶媒交換によるか、又はメタノール又はメタノールを含有する溶媒混合物中で、BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドを合成することにより、得ることができる。
【0011】
メタノールを含有する溶媒混合物として、BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドを溶解できる、メタノールを含む任意の溶媒混合物が挙げられる。好ましくは、溶媒混合物は、メタノールと混和性である有機溶媒を含む。好ましい有機溶媒には、酢酸アルキル、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、例えば酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、例えば酢酸イソブチル又は酢酸t−ブチル、及び芳香族溶媒、例えばトルエン、ベンゼン及びキシレン、並びにそれらの混合物がある。
【0012】
極めて好ましいメタノールを含有する溶媒混合物には、メタノール/トルエン混合物、メタノール/酢酸エチル混合物及びメタノール/トルエン/酢酸エチル混合物がある。
【0013】
メタノールを含有する溶媒混合物を使用する場合、メタノール含有率は、好ましくは、存在する溶媒の総容積に対して、10体積%より大きく、更に好ましくは、30体積%より大きく、最も好ましくは40体積%より大きい。
【0014】
メタノールを含有する溶媒混合物のうちの三成分混合物を使用する場合、他の非メタノール溶媒は、好ましくは、1:99から99:1までの割合で、更に好ましくは、25:75から75:25までの割合で、最も好ましくは60:40から40:60までの割合で、例えば50:50の割合で存在する。
【0015】
BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドは、結晶化又は沈殿技術、例えば貧溶媒の添加により単離することが好ましい。
【0016】
好ましい実施形態では、メタノール又はメタノールを含有する溶媒混合物中で加熱することにより、粗BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドを溶解させて、飽和又は部分飽和メタノール含有溶液を形成する。任意選択的に、飽和又は部分飽和メタノール含有溶液を濾過して、任意の不溶性物質を除去し、次いで、飽和又は部分飽和メタノール含有溶液を冷却して、BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドを沈殿させる。
【0017】
もう1つの好ましい実施形態では、非メタノール溶媒又は溶媒混合物、例えばトルエン、酢酸エチル、又はトルエン/酢酸エチル混合物中のBOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドの加熱された飽和又は部分飽和溶液に、メタノールを添加する。任意選択的に、飽和又は部分飽和メタノール含有溶液を濾過して、任意の不溶性物質を除去し、次いで、飽和又は部分飽和メタノール含有溶液を冷却して、BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドを沈殿させる。
【0018】
飽和又は部分飽和メタノール含有溶液という用語は、溶解された固体濃度を含む基準温度での溶液を示し、この濃度は、基準温度で到達しうる最大濃度により定義される上限値を有し、かつ低いほうの終点温度で到達し得る最大濃度により定義される下限を有する。そのため、基準温度で、上限と下限値の間の、溶解された固体濃度を有する溶液は、下の終点温度まで冷却されると、溶解された固体の沈殿を生じるだろう。そのため、上限濃度と下限濃度値は、物質及び選択された溶媒混合物の溶解特性に依存する。メタノールと、トルエン又は酢酸エチルの1つ以上とを含む溶媒混合物については、一般に、60℃で達しうる最大溶解度は、24%w/wであり、0℃の終端温度での溶解度最小値は、典型的には0.3%w/wである。そのため、60℃で始まり0℃で終わる結晶化レジームでは、メタノール及びトルエン、酢酸エチル混合物中の飽和又は部分飽和溶液において、BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドの濃度は0.3から24%w/wまでにわたる。
【0019】
飽和又は部分飽和メタノール含有溶液を冷却して、BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドを沈殿させる場合、飽和又は部分飽和メタノール含有溶液は、最初は、40℃以上に、更に好ましくは50℃以上に、最も好ましくは少なくとも65℃に加熱する。
【0020】
冷却は緩慢に実施するのが好ましく、その際、冷却は第二の核形成が起こらないようにするほど十分に緩慢である。好ましくは、冷却は、当業者に公知の傾斜条件で実施する。更に好ましくは、傾斜された冷却条件は、緩慢な冷却速度で出発し、時間の経過と共に、冷却速度を徐々に増加させる。冷却速度は、単純グラジエント増加で増加させるか又はマルチグラジエント増加、例えば指数関数的増加により増加させてよい。
【0021】
好ましい実施形態では、最初の高温、好ましくは45℃〜75℃で、飽和又は部分飽和のメタノール含有溶液を段階的に冷却し、その際、飽和又は部分飽和のメタノール含有溶液は、第一の温度に達するまで、第一の冷却速度で冷却し、任意選択的に、溶液をこの第一温度で、好ましくは1時間以上保持し、その後、第二の温度に達するまで、第二の冷却速度で冷却することを再開する。任意選択的に、この溶液をこの第二温度に好ましくは1時間以上保持し、場合により1以上のステップで更に冷却する。好ましくは、第二冷却速度は、任意の後続の冷却速度より緩慢である。最終温度に達したならば、BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドを、好ましくは濾過により単離し、単離した濾過物は、場合により溶媒で洗浄する。
【0022】
好ましくは、第一冷却速度は、30℃/h未満であり、第一温度は、44℃〜50℃である。好ましくは、第二冷却速度は10℃/h未満であり、より好ましくは4℃/h未満であり、第二温度は、34℃〜36℃である。後続の冷却は、好ましくは、5℃/h〜30℃/h、更に好ましくは5℃/h〜10℃/hの割合で実施される。好ましくは、最終温度は、0℃〜−10℃である。結晶性BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドを回収する前に、メタノール含有溶液は、0℃で1時間以下保持することが好ましい。より迅速及びより緩慢な冷却速度を使用することができる。増加された冷却速度は、物理的形状の多少の劣化を伴うが、他方、緩慢な冷却速度は、物理的形状に有害でないように見える。理論上は、冷却速度に最低限度はないが、緩慢な冷却速度は、結果として、結晶化プロセスを実施するために要する時間の増加を伴う。そのような時間増加は、工業規模では、望ましくない、長期間にわたる極めてゆっくりとした冷却速度で操作する実用的な限界を強いることがある。
【0023】
一方、物理的形状は、当業者に公知の熟成工程により改良することができる。好ましい熟成工程は、メタノール又はメタノールを含有する溶媒混合物中に懸濁されたBOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドを、高温で、好ましくは25℃〜45℃で、0℃までの緩慢な冷却の前の一定期間、加熱することを含む。その期間は、物理的形状を変化させるのに十分な時間であるように選択する。熟成工程は、しかしながら、時間がかかることが判明し、従って、迅速すぎる冷却の影響は改善できるが、追加の時間をかけるステップは、この方法を経済的に劣るものにし得る。
【0024】
好ましくは、飽和又は部分飽和メタノール含有溶液を冷却しながら、飽和又は部分飽和メタノール含有溶液に結晶性BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドを播種する。種晶の使用量は、当業者に公知の方法で決定することができる。
【0025】
播種の時点は、溶解度カーブから、濁度変化点を決定することにより得ることができる。溶液を過飽和させながら、少量の種を添加すると、播種時に混濁が増加する播種時点に達する。例えば、溶解度カーブから、12.7%w/w溶液が43.3℃で過飽和を開始するであろうことが分かる。正しい結晶形(形状II)の種晶を、冷却しながら、44℃から徐々に増加させて添加した。42℃で、播種点を示す増加した混濁に達した。
【0026】
本発明の他の態様により、本発明の第一の態様の製造方法により得ることのできる結晶性BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドが提供される。
【0027】
結晶状態では、BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドが、多様な形態であることを発見した。本発明の方法を使用することにより特定の結晶形を得ることができる。
【0028】
単独の溶媒としてメタノールを使用する場合、結晶形Iの結晶性BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドが得られる。結晶形Iの性質(habit)は、プリズム状であるので、容易に濾過できる。X線回折(Siemens D5000 X−Ray Diffractometer,2θ,CuKα放射線)により測定すると、結晶形Iは、強いピークを3.9と8.2に示し、中程度のピークを9.3、13.7、18.7、19.0及び19.5に示し、弱いピークを7.5、7.8、11.7、12.1、15.1、15.6、16.5、17.2、17.6、20.0、20.8、21.8、22.7、23.4、24.5、27.4及び28.4に示す。
【0029】
メタノールを、補助溶媒として、トルエン、酢酸エチル、又はトルエン/酢酸エチル混合物と共に使用する場合、結晶形IIの結晶性BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドが得られる。結晶形IIの性質は、プリズム状(太い針状)であるので、容易に濾過できる。走査電子顕微鏡(日立 S570 Scanning Electron Microscope)は、〜200.0μまでの長さの「溝つき(fluted)」ロッド状の粒子を示す。X線回折(Siemens D5000 X−Ray Diffractometer,2θ,CuKα放射線)により測定すると、結晶形IIは、強いピークを5.3と8.3に示し、中程度のピークを6.7、10.7、13.4、18.8、19.6、21.3及び23.8に示し、弱いピークを7.9、17.3、20.6及び21.9に示す。
【0030】
対照的に、メタノールが存在せず、単独溶媒として、酢酸エチルのみを使用すると、結晶形IIIが得られ、メタノールが存在せず、唯一の溶媒として、トルエンのみを使用すると、結晶形IVが得られる。結晶形III又は結晶形IVとして単離されたBOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドは、両方の形状の性質が、緊密に密集した塊に織り込まれた繊維状針結晶形なので、濾過が難しい。低倍率の顕微鏡写真(Philips XL30 SFEG Scanning Electron Microscope)から不規則な形の大きな塊が観察され、いくつか非常に大きい凝集塊もある。高倍率の顕微鏡写真は、繊維状網目から非常に小さなラス形状の粒子や多少無定形様の塊まで、多様な形状を示す。X線回折(Siemens D5000 X−Ray Diffractometer,2θ,CuKα放射線)により測定すると、結晶形IIIは、中程度のピークを7.0と14.0に示し、弱いピークを3.5、8.7、9.4、10.1、10.5、11.1、16.5、17.6、18.1、19.6、21.1及び25.7に示し、結晶形IVは、強いピークを6.3に示し、中程度のピークを15.8に示し、弱いピークを8.7、9.5、9.9及び16.5に示す
【0031】
更に、ジクロロメタンを溶媒として使用すると、結晶形Vが得られる。X線回折(Siemens D5000 X−Ray Diffractometer,2θ,CuKα放射線)により測定すると、結晶形Vは、強いピークを6.8に示し、中程度のピークを13.6に示し、広幅の弱いピークを3.6、9.2、10.7及び19.5に示す。環境的理由又は他の理由から、塩素系溶剤の使用は有利でないこともあるが、塩素系溶剤を使用する製造方法により得られる結晶形状は、結晶晶癖がプリズム状(太い針状)なので、濾過しやすいという利点がある。
【0032】
前記結晶形状の熱重量分析から、結晶形I、II及びVが溶媒和物であることを示唆する証拠がある。結晶形I、II及びVに、特に真空下で、加熱を施すと、結晶中にトラップされた溶媒を放出して、新しい結晶構造を生じるようであり、これが単離される。例えば結晶形IIは、加熱すると、結晶形VIとなる。X線回折(Siemens D5000 X−Ray Diffractometer,2θ,CuKα放射線)により測定すると、結晶形VIは、中程度のピークを6.8と8.8に示し、広幅の弱いピークを5.6、8.1、14.3、17.6及び19.0に示す。
【0033】
メタノールのほかに、他の低級脂肪族アルコールを調査した。プロパン−1−オール、プロパン−2−オール又はブタン−1−オールへのBOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドの溶解度は、非常に低いので、経済的に実行可能な製造方法を提供できない。例えば、プロパン−1−オールへのBOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドの溶解度は、60℃で、3%w/w未満である。エタノールへのBOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドの溶解度は、C3−アルコール及びC4−アルコールへの溶解度より良いが、まだ、メタノールへの溶解度よりも低い。エタノールから得られる結晶は、より薄く、より小さい針状結晶であり(プリズム状の対語としての針状)、そのため、処理観点からは、メタノールより劣ることが判明するであろう。同様に、アセトン及び2−ペンタノンは、小さい針状結晶を産出する。
【0034】
本発明の第一の態様及び他の態様で使用されるBOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドは、当業者に公知の任意の方法により得ることができる。好ましくは、BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドは、式(1)のBOC−保護エポキシド又は式(2)のハロメチルアルコールから製造される。
【化2】

BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドを調製する好適な方法は、米国特許第5585397号、米国特許第5723490号、米国特許第5783701号、国際公開第94/05639号、国際公開第99/48885号、国際公開第01/046120号、米国特許第6548706号及び米国特許第6852887号に記載され、これら全ての文献の教示は、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0035】
本発明を、以下の実施例により記述するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0036】
例1:BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドの調製
トルエン(12.5eq、175g)中のBOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)アミン(51.1g、0.152mol)を75℃まで加熱し、炭酸カリウム水溶液(2eq、14.5%w/w、291g)を添加した。激しく撹拌しながら、酢酸エチル(9.7eq、130g)中の4−ニトロベンゼンスルホニルクロリド(1.3eq、43.8g)の溶液を添加した。溶液を75℃で1時間保持した後、水相を除去した。有機相を75℃の熱水で洗浄した(3×200g)。メタノール(205.7g、42.2eq)を装入し、混合物を1時間かけて、43℃まで冷却した。次いで、混合物に、結晶形IIのBOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミド(0.1g)を播種し、次いで3.5℃/hの割合で2時間冷却した後、5℃/hで2時間、最後に10℃/hで、0℃になるまで冷却した。次いで、固体を濾過により単離し、10%v/v酢酸エチル/メタノール(3×144g)で洗浄した。単離された結晶は、プリズム状(太い針状)であるので、濾過は容易である。走査電子顕微鏡(日立 S570 Scanning Electron Microscope)は、〜200.0μまでの長さの「溝つきの」ロッド状の粒子を示す。XRD解析(Siemens D5000 X−Ray Diffractometer,2θ,CuKα放射線)により、結晶が、強いピークを5.3と8.3に有し、中程度のピークを6.7、10.7、13.4、18.8、19.6、21.3及び23.8に有し、弱いピークを7.9、17.3、20.6及び21.9に有する結晶形IIであることが示される。生成物を真空炉中、50℃で乾燥させた。単離された収率=60.4g(76%)
【0037】
例2 一般法:溶媒中の平衡化による、BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドの種々の結晶形の調製
BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミド(0.5g)を溶媒(10g)に懸濁させる。懸濁液を、数日間、高温(一般に35〜40℃)まで上げて、最も安定した形への転移を起こさせ、その後、室温までゆっくりと冷却する。濾過により固体を単離し、XRD及びSEMにより分析した。
【0038】
例2A
溶媒としてメタノールを使用して、一般法を実施した。単離された固体は、XRDにより同定した(I型)。
【0039】
例2B
溶媒としてトルエン、酢酸エチル及びメタノールの混合物(39/23/38%w/w)を使用して、一般法を実施した。単離された固体は、XRDにより同定した(II型)。
【0040】
比較例2C
溶媒として酢酸エチルを使用して、一般法を実施した。単離された固体は、XRDにより同定した(III型)。
【0041】
比較例2D
溶媒としてトルエンを使用して、一般法を実施した。単離された固体は、XRDにより同定した(IV型)。
【0042】
例2E
溶媒としてジクロロメタンを使用して、一般法を実施した。単離された固体は、XRDにより同定した(V型)。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】記載なし。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドの調製方法であって、BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドは、メタノールとBOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドとを含む溶液から単離される方法。
【請求項2】
メタノールとBOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドとを含む前記溶液は、メタノール又はメタノールを含有する溶媒混合物中にBOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドを含む溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記メタノールを含有する溶媒混合物は、メタノール/トルエン混合物、メタノール/酢酸エチル混合物又はメタノール/トルエン/酢酸エチル混合物である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
メタノールを含有する溶媒混合物を使用する場合、メタノール含有率は10%より大きい、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
メタノールを含有する溶媒混合物の、三成分混合物を使用する場合、他の非メタノール溶媒は、好ましくは、1:99から99:1までの割合で、更に好ましくは、25:75から75:25までの割合で、最も好ましくは60:40から40:60までの割合で、例えば50:50の割合で存在する、請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
メタノールとBOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドとを含む前記溶液は、BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドをメタノール又はメタノールを含有する溶媒混合物に溶解させるか、又はBOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドを含む溶液に、メタノールを直接に添加するか、又はBOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドを含む溶液に、前記溶液の溶媒をメタノール又はメタノールを含有する溶媒混合物と交換する溶媒交換を行って得られる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
(a)メタノール又はメタノールを含有する溶媒混合物中で加熱することにより、BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドを溶解させて、飽和又は部分飽和メタノール含有溶液を形成し、
(b)任意選択的に、飽和又は部分飽和メタノール含有溶液を濾過して、任意の不溶性物質を除去し、次いで、
(c)飽和又は部分飽和メタノール含有溶液を冷却して、BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドを沈殿させる、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
(a)非メタノール溶媒又は溶媒混合物、例えば、トルエン、酢酸エチル又はトルエン/酢酸エチル混合物中のBOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドの加熱された飽和又は部分飽和溶液に、メタノールを添加し、
(b)任意選択的に、前記飽和又は部分飽和メタノール含有溶液を濾過して、任意の不溶性物質を除去し、次いで、
(c)前記飽和又は部分飽和メタノール含有溶液を冷却して、BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミドを沈殿させる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(c)における冷却の間に、飽和又は部分飽和メタノール含有溶液に播種する、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法により得られる、結晶性BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミド。
【請求項11】
3.9と8.2に強いピークを示す、結晶形Iの結晶性BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミド。
【請求項12】
中程度のピークを9.3、13.7、18.7、19.0及び19.5に更に示す、請求項11に記載の結晶性BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミド。
【請求項13】
弱いピークを7.5、7.8、11.7、12.1、15.1、15.6、16.5、17.2、17.6、20.0、20.8、21.8、22.7、23.4、24.5、27.4及び28.4に更に示す、請求項12に記載の結晶性BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミド。
【請求項14】
5.3と8.3に強いピークを示す、結晶形IIの結晶性BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミド。
【請求項15】
中程度のピークを6.7、10.7、13.4、18.8、19.6、21.3及び23.8に更に示す、請求項14に記載の結晶性BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミド。
【請求項16】
弱いピークを7.9、17.3、20.6及び21.9に更に示す、請求項15に記載の結晶性BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミド。
【請求項17】
中程度のピークを6.8と8.8に示し、かつ好ましくは更なる広幅の弱いピークを5.6、8.1、14.3、17.6及び19.0に示す、結晶形VIの結晶性BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミド。
【請求項18】
強いピークを6.8に示し、好ましくは更なる中程度のピークを13.6に示し、広幅の弱いピークを3.6、9.2、10.7及び19.5に示す、結晶形Vの結晶性BOC−保護2R,3S−N−イソブチル−N−(2−ヒドロキシ−3−アミノ−4−フェニルブチル)−p−ニトロベンゼン−スルホニルアミド。

【図1】
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【公表番号】特表2009−502741(P2009−502741A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−515294(P2008−515294)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【国際出願番号】PCT/GB2006/002140
【国際公開番号】WO2006/131757
【国際公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(507404008)エヌピーアイエル・ファーマシューティカルズ・(ユーケイ・)リミテッド (1)
【Fターム(参考)】