説明

識別マークの印刷方法

【課題】タイヤの外観不良を防止し、視認性に優れた識別マークの印刷方法の提供。
【解決手段】この印刷方法は、(1)ゴム組成物とナフサとを含むペイントが、ローレット加工が施された版面に塗りつけられる工程、及び(2)この版面に塗りつけられたペイントがトレッドの表面に転写され、識別マークが形成される工程を含む。この印刷方法では、上記ゴム組成物の含有量は10質量%以上30質量%以下である。この印刷方法では、上記ナフサの含有量は、45質量%以上70質量%以下である。上記版面は、互いに交差して配置された複数の溝を備える。この版面の1インチ幅当たりに配置された溝の本数は、10本以上30本以下である。この溝の深さは、0.3mm以上2.0mm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤのトレッドの表面に付される識別マークの印刷方法及びこの印刷方法を用いたタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤは、ローカバー(未架橋タイヤとも称される)がモールド内で加圧及び加熱されて製造される。このローカバーは、トレッド、サイドウォール等の複数の部材が組み合わされ形成される。
【0003】
タイヤの製造方法では、例えば、文字、数字、記号等から構成される識別マークがトレッドの表面に付される。この識別マークにより、ローカバーの形成工程並びにこの形成工程の後に続く加硫工程及び検査工程において、製造されるタイヤの品種、サイズ等が正確に見分けられる。このような識別マークを利用したタイヤの製造方法の一例が、特開平7−300004号公報に開示されている。
【0004】
識別マークの印刷に、ゴム組成物及びナフサを含むペイントが用いられる場合がある。このようなペイントは、スタンプを用いてトレッドの表面に転写される。
【0005】
生産性が考慮され、ペイントの転写に際し、複数のスタンプがその周面に配置された印字ロールを備えるスタンプ装置が用いられる。このスタンプ装置では、印字ロールが回転しつつ、スタンプに塗りつけられたペイントがトレッドの表面に転写される。このようなスタンプ装置の一例が、特開平4−366638号公報に開示されている。
【0006】
その外面がトレッド面をなすキャップゴムと、このキャップゴムの半径方向内側に位置するアンダーゴムとを有するトレッドを備えたタイヤがある。このようなタイヤの製造方法には、キャップゴムをディスクローラーで押さえつつ、このキャップゴムの裏面にアンダーゴムを貼り合わせる工程が含まれる。この貼り合わせ工程には、その表面に上記ペイントが転写されたキャップゴムが搬送される。この搬送中に、キャップゴムに転写されたペイントは乾燥される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−300004号公報
【特許文献2】特開平4−366638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記ペイントの乾燥が不充分な場合、ディスクローラーにこのペイントが付着し、このディスクローラーは汚れてしまう。この汚れは、タイヤに外観不良を招来する。外観不良の発生を防止するという観点から、搬送速度が落とされペイントの乾燥時間が確保されると、生産性が阻害されてしまう。ペイントの乾燥性が適切に調節されていないという問題がある。
【0009】
上記スタンプの版面に、ローレット加工が施され多数の溝が形成される場合がある。これら溝の本数、深さ等は、この版面へのペイントの付着量に影響する。付着量が不充分な場合、識別マークの鮮明度が阻害されてしまう。鮮明度が不充分な識別マークは、視認性に劣る。付着量が過剰な場合、ペイントがキャップゴムに過剰に転写されてしまう。この場合、キャップゴムに転写されたペイントの乾燥が不充分となることが懸念される。前述したように、不充分な乾燥はタイヤに外観不良を招来する。
【0010】
本発明の目的は、タイヤの外観不良の発生を防止しつつ、視認性に優れた識別マークの印刷方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る識別マークの印刷方法は、
(1)ゴム組成物とナフサとを含むペイントが、ローレット加工が施された版面に塗りつけられる工程、
及び
(2)この版面に塗りつけられたペイントがトレッドの表面に転写され、識別マークが形成される工程
を含む。
この識別マークの印刷方法では、このペイントに含まれる上記ゴム組成物の含有量は10質量%以上30質量%以下である。このペイントに含まれる上記ナフサの含有量は、45質量%以上70質量%以下である。上記版面は、互いに交差して配置された複数の溝を備えている。この版面の1インチ幅当たりに配置された溝の本数は、10本以上30本以下である。この溝の深さは、0.3mm以上2.0mm以下である。
【0012】
本発明に係るタイヤの製造方法は、
(1)ゴム組成物とナフサとを含むペイントが、ローレット加工が施された版面に塗りつけられる工程、
(2)この版面に塗りつけられたペイントが、キャップゴムの表面に転写される工程、
(3)ディスクローラーでこの表面を押さえつつ、このキャップゴムの裏面にアンダーゴムを貼り合わせ、トレッドが得られる工程、
(4)このトレッドと他の部材とが組み合わされ、ローカバーが得られる工程、
及び
(5)このローカバーが、モールドに投入され、このモールド内で加圧及び加熱される工程
を含む。
このタイヤの製造方法では、上記ペイントに含まれる上記ゴム組成物の含有量は10質量%以上30質量%以下である。このペイントに含まれる上記ナフサの含有量は、45質量%以上70質量%以下である。上記版面は、互いに交差して配置された複数の溝を備えている。この版面の1インチ幅当たりに配置された溝の本数は、10本以上30本以下である。この溝の深さは、0.3mm以上2.0mm以下である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る識別マークの印刷方法では、ゴム組成物及びナフサの含有量が適切に調整されている。このペイントから形成された識別マークは、視認性に優れる。このペイントは乾燥性に優れるので、タイヤの生産性に寄与しうる。このペイントの使用によりディスクローラーへのペイントの付着が抑えられるので、このディスクローラーの汚れが防止される。このペイントは、タイヤの外観不良の発生を効果的に防止しうる。ローレット加工により版面に形成された溝の、深さ、本数及び交差角度が調整されているので、この版面に塗りつけられるペイントの量は適切である。適切な付着量は、識別マークの鮮明度に寄与しうる。この識別マークは、視認性に優れる。この版面を用いてトレッドの表面に転写されたペイントは充分に乾燥するので、ディスクローラーへのペイントの付着が抑えられる。この識別マークの印刷方法は、タイヤの外観不良の発生を防止しつつ、視認性に優れた識別マークを形成しうる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤの製造方法のための製造設備の一部が示された概念図である。
【図2】図2は、図1のスタンプ装置に設けられた印字部の一部が示された正面図である。
【図3】図3は、図2の印字部に設けられたスタンプが示された斜視図である。
【図4】図4は、図3のスタンプの版面の一部が示された拡大平面図である。
【図5】図5は、図4のV−V線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0016】
図1に示された製造設備2は、スタンプ装置4を備えている。このスタンプ装置4は、ペイントをキャップゴム6の表面に転写して識別マークを形成しうる。
【0017】
ペイントは、ゴム組成物、ナフサ及び灯油を含んでいる。ペイントは、流動体である。上記キャップゴム6は、カーボンブラックを含み黒色を呈している。このため、このペイントには、視認性の観点から、白色を呈するゴム組成物が用いられるのが好ましい。
【0018】
ゴム組成物は、基材ゴムを含む。この基材ゴムとしては、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム及びポリイソプレンゴムが例示される。汎用性の観点から、この基材ゴムとしては、天然ゴム及びスチレンブタジエンゴムが好ましい。
【0019】
ゴム組成物は、種々の充填剤を含みうる。この充填剤としては、クレー、タルク、ケイ酸マグネシウム、二酸化珪素、硫酸バリウム及び二酸化チタンが例示される。視認性に優れた識別マークが形成されるという観点から、この充填剤としては、クレー及び二酸化チタンが好ましい。
【0020】
ゴム組成物は、上記充填剤以外に、亜鉛華、ワックス、老化防止剤、ステアリン酸、不溶化硫黄、加硫促進剤等の薬品を含みうる。これら薬品の配合量は、視認性、加工性等が考慮され、適宜決められる。このゴム組成物は、基材ゴム、充填剤等がロール、ニーダー等の混練機で混練され、形成される。
【0021】
ペイントは、上記ゴム組成物が、ナフサ及び灯油に混合され得られる。後述するが、ペイント全体の質量に対するゴム組成物の質量の比率(以下、ゴム組成物の含有量)及びペイント全体の質量に対するナフサの質量の比率(以下、ナフサの含有量)は適切に調整されている。このペイントは、乾燥性に優れる。しかも、このペイントから形成される識別マークは、高い鮮明度を有している。このペイントは、視認性に優れた識別マークを形成しうる。
【0022】
図1に示されたスタンプ装置4は、供給部8と、転写ロール10と、印字部12とを備えている。供給部8は、第一ロール14及び第二ロール16を備えている。第一ロール14及び第二ロール16のそれぞれは、円柱状である。第一ロール14は矢印Aで示された方向に回転し、第二ロール16は矢印Bで示された方向に回転しうる。
【0023】
転写ロール10は、円柱状である。この転写ロール10は、矢印Cで示された方向に回転しうる。図示されていないが、この転写ロール10の表面には、ゴム層が設けられている。この転写ロール10は、ゴムロールとも称される。
【0024】
図2は、図1のスタンプ装置4に設けられた印字部12の一部が示された正面図である。この印字部12は、印字ロール18と、回転軸20とを備えている。この印字部12は、印字ロール18が回転軸20を中心に回転しうるように構成されている。図中、矢印Dがこの印字ロール18の回転方向を表している。
【0025】
印字ロール18は、円盤状の本体22と、複数のスタンプ24とを備えている。これらスタンプ24は、この本体22の周面に取り付けられている。この印字ロール18に設けられるスタンプ24の数は、識別マークの構成等によって、適宜決められる。
【0026】
図3は、図2の印字部12に設けられたスタンプ24が示された斜視図である。このスタンプ24は、プレート26と、このプレート26から突出した画線28とを備えている。この図3には、その画線28が「H」の文字を表すスタンプ24が示されている。この画線28の表面は、版面30と称される。図示されていないが、この版面30にはローレット加工が施されている。なお、図3中、矢印Dはこのスタンプ24が取り付けられた印字ロール18の回転方向である。
【0027】
図4は、図3のスタンプ24の版面30の一部が示された拡大平面図である。版面30は、複数の溝32を備えている。これら溝32は、左上がりに延在する複数の第一溝32aと、右上がりに延在する複数の第二溝32bとから構成される。このスタンプ装置4では、これら第一溝32aは等間隔に配列している。これら第一溝32aのそれぞれは、回転方向Dに対して傾斜して延在している。このスタンプ装置4では、これら第二溝32bは等間隔に配列している。これら第二溝32bのそれぞれは、回転方向Dに対して傾斜している。図示されているように、この第二溝32bの傾斜方向は第一溝32aの傾斜方向とは逆である。この第一溝32aと第二溝32bとは、互いに交差している。このスタンプ装置4では、版面30に設けられた複数の溝32は互いに交差して配置されている。
【0028】
図5は、図4のV−V線に沿った断面図である。このV−V線は、第一溝32aの延在方向に対して垂直に交差する線である。この図5には、第一溝32aの断面形状が示されている。このスタンプ装置4では、第一溝32aの断面形状は逆三角形である。この断面形状が矩形とされてもよく、半円とされてもよい。図示されていないが、第二溝32bの断面形状はこの第一溝32aのそれと同等である。
【0029】
このスタンプ装置4では、ペイントは第一ロール14と第二ロール16との間に供給される。第一ロール14及び第二ロール16のそれぞれが所定方向に回転することにより、それぞれのロールの周面にペイントが塗りつけられる。第二ロール16は、回転しつつ、転写ロール10のゴム層にペイントを塗りつける。この第二ロール16は、ペイントを転写ロール10に供給しうる。
【0030】
このスタンプ装置4では、ペイントは第一ロール14及び第二ロール16の間隙を通過する。この通過により、ペイントの厚みは一様とされる。このため、転写ロール10には一定量のペイントが供給される。
【0031】
転写ロール10は、回転しつつ、ペイントを印字ロール18に供給する。転写ロール10のゴム層に付着したペイントは、回転状態にある印字ロール18の周面に設けられた各スタンプ24の版面30に塗りつけられる。
【0032】
印字ロール18は、回転しつつ、スタンプ24の版面30に塗りつけられたペイントをキャップゴム6の表面に当接させる。この当接により、ペイントがキャップゴム6の表面に転写される。このようにして、所定の文字等で構成された識別マークが、キャップゴム6の表面に印刷される。
【0033】
図1に示されているように、この製造設備2は貼り付け装置34をさらに備えている。この貼り付け装置34は、識別マークが付されたキャップゴム6に、アンダーゴム36を貼り合わせてトレッド38を形成しうる。図1中、矢印Pはキャップゴム6の移動方向を表している。矢印Qは、アンダーゴム36の移動方向を表している。矢印Rは、キャップゴム6にアンダーゴム36が貼り合わされて形成されたトレッド38の移動方向を表している。
【0034】
貼り付け装置34は、ディスクローラー40と支持ロール42とを備えている。ディスクローラー40は、円柱状である。このディスクローラー40は、矢印Eで示された方向に回転する。このディスクローラー40の下側に、支持ロール42が位置している。この支持ロール42は、円柱状である。この支持ロール42は、矢印Fで示された方向に回転する。
【0035】
この貼り付け装置34では、ディスクローラー40と支持ロール42との間をキャップゴム6及びアンダーゴム36が互いに当接しつつ通過する。ディスクローラー40は、回転しつつ、キャップゴム6を下向きに押圧する。この押圧により、キャップゴム6とアンダーゴム36とが接着される。
【0036】
この製造設備2を用いたタイヤの製造方法では、タイヤは次のようにして形成される。押出機(図示されず)を用いてシート状のキャップゴム6が形成される。このキャップゴム6は、スタンプ装置4に供給される。このスタンプ装置4において、キャップゴム6の表面にペイントが転写される。キャップゴム6は、スタンプ装置4を通過すると、貼り付け装置34に搬送される。この搬送中に、ペイントは乾燥される。この乾燥により、識別マークがキャップゴム6の表面に形成される。
【0037】
貼り付け装置34には、前述のキャップゴム6以外に、カレンダーロール(図示されず)でシート状に成形されたアンダーゴム36が供給される。このアンダーゴム36は、支持ロール42に載せられる。キャップゴム6は、このアンダーゴム36に載せられる。ディスクローラー40は、このキャップゴム6の表面に当接しつつ、このキャップゴム6をアンダーゴム36に押さえつける。この押さえつけにより、キャップゴム6の裏面にアンダーゴム36が貼り合わされる。この貼り合わせにより、トレッド38が形成される。このトレッド38が形成される工程は、トレッド38の押出工程とも称される。このトレッド38は、図示されない切断装置を用いて所定の長さに裁断され、ローカバーの成形工程に供給される。この製造方法では、キャップゴム6の表面に識別マークが付されているので、一のトレッド38と他のトレッドとが容易に見分けられる。
【0038】
ローカバーの成形工程には、上記トレッド38以外に、サイドウォール、ビード等の他の部材が供給される。トレッド38と、これら他の部材とが組み合わされ、ローカバーが得られる。この製造方法では、キャップゴム6の表面に識別マークが付されているので、一のローカバーと他のローカバーとの識別が容易である。
【0039】
ローカバーは、加硫工程に供される。ローカバーはモールド(図示されず)に投入され、このモールド内で加圧及び加熱される。この加圧及び加熱により、ゴム組成物が流動する。加熱によりゴムが架橋反応を起こし、タイヤが得られる。この製造方法では、キャップゴム6の表面に識別マークが付されているので、モールドに投入されべきローカバーとは異なるローカバーが誤ってモールドに投入されることはない。
【0040】
この製造方法では、識別マークは消失しない。このため、この識別マークは、上記加硫工程の後に続く仕上工程、検査工程等においても、一のタイヤと他のタイヤとの識別に貢献しうる。
【0041】
この製造方法では、ペイントが乾燥性に優れるので、キャップゴム6の表面に転写されたペイントはキャップゴム6が貼り付け装置34に搬送されている間に充分に乾燥する。ペイントの乾燥時間を確保するために、キャップゴム6の搬送速度を低下させる必要はない。乾きが早いペイントは、生産性の向上に寄与しうる。ペイントが充分に乾燥されキャップゴム6が貼り付け装置34に投入されるので、ディスクローラー40へのペイントの付着が抑制される。ディスクローラー40の汚れが抑えられるので、タイヤの外観不良が効果的に防止される。
【0042】
この製造方法では、ペイントに含まれるゴム組成物の含有量は、10質量%以上30質量%以下である。この含有量が10質量%以上に設定されることにより、ペイントが鮮明な識別マークの形成に寄与しうる。このペイントから形成された識別マークは、視認性に優れる。この観点から、この含有量は15質量%以上が好ましい。この含有量が30質量%以下に設定されたペイントは、乾燥性に優れる。このペイントは、ディスクローラー40の汚れを抑えうる。このペイントは、タイヤの外観不良を防止しうる。この観点から、この含有量は25質量%以下が好ましい。
【0043】
この製造方法では、ペイントに含まれるナフサの含有量は、45質量%以上70質量%以下である。この含有量が45質量%以上に設定されることにより、優れた乾燥性を有するペイントが得られる。乾きが早いペイントは、タイヤの生産性に寄与しうる上に、タイヤの外観不良の発生を効果的に防止しうる。この観点から、この含有量は50質量%以上が好ましい。この含有量が70質量%以下に設定されることにより、ペイントが鮮明な識別マークの形成に寄与しうる。このペイントから形成された識別マークは、視認性に優れる。この観点から、この含有量は65質量%以下が好ましい。
【0044】
この製造方法では、ローレット加工により版面30に形成された溝32の、深さ、本数及び交差角度が調整されているので、この版面30に塗りつけられるペイントの量は適切である。適切な付着量は、識別マークの鮮明度に寄与しうる。この識別マークは、視認性に優れる。この適切な付着量は、トレッド38の表面に転写されたペイントの不充分な乾燥を防止しうる。ディスクローラー40へのペイントの付着が抑えられるので、ディスクローラー40の汚れが抑制される。この製造方法では、タイヤの外観不良が防止される。
【0045】
この製造方法では、版面30の1インチ幅当たりに配置された溝32の本数は、10本以上30本以下である。この本数が10本以上に設定されることにより、この版面30には適切な量のペイントが塗りつけられる。適切な付着量は、識別マークの鮮明度に寄与しうる。この識別マークは、視認性に優れる。この観点から、この本数は15本以上が好ましい。この本数が30本以下に設定されることにより、版面30に塗りつけられるペイントの量が適切に維持される。トレッド38の表面に転写されたペイントが充分に乾燥させられるので、ディスクローラー40へのペイントの付着が抑えられる。この版面30は、ディスクローラー40の汚れを抑えうる。この版面30は、タイヤの外観不良を防止しうる。この観点から、この本数は25本以下が好ましい。なお、この溝32の本数は、溝32の延在方向に対して垂直な断面において、版面30の1インチ幅当たりに存在する溝32の本数を計測することにより得られる。
【0046】
図4において、角度αは第一溝32aが第二溝32bと交差する角度を表している。この交差角度αは、80°以下が好ましい。この交差角度αが80°以下に設定されることにより、この版面30には適切な量のペイントが塗りつけられる。適切な付着量は、識別マークの鮮明度に寄与しうる。この識別マークは、視認性に優れる。この観点から、この交差角度αは60°以下がより好ましい。この交差角度αは、45°以上が好ましい。この交差角度が45°以上に設定されることにより、この版面30に塗りつけられるペイントの量が適切に維持される。トレッド38の表面に転写されたペイントが充分に乾燥させられるので、ディスクローラー40へのペイントの付着が抑えられる。この版面30は、ディスクローラー40の汚れを抑えうる。この版面30は、タイヤの外観不良を防止しうる。
【0047】
図4において、実線LAはスタンプ24の回転方向Dに沿って延在する直線である。角度βは、第一溝32aが直線LAに対してなす傾斜角度を表している。角度γは、第二溝32bが直線LAに対してなす傾斜角度を表している。版面30にペイントが乗りやすいという観点から、傾斜角度βの絶対値は60°以上が好ましく、80°以下が好ましい。傾斜角度γの絶対値は、60°以上が好ましく、80°以下が好ましい。外観不良の発生を抑え、視認性に優れた識別マークが形成されるという観点から、傾斜角度βの絶対値と傾斜角度γの絶対値とは同等とされるのがより好ましい。
【0048】
図5において、両矢印DAは溝32の深さを表している。この深さDAは、0.3mm以上2.0mm以下である。この深さDAが0.3mm以上に設定されることにより、この版面30には適切な量のペイントが塗りつけられる。適切な付着量は、識別マークの鮮明度に寄与しうる。この識別マークは、視認性に優れる。この観点から、この深さDAは0.5mm以上が好ましい。この深さDAが2.0mm以下に設定されることにより、この版面30に塗りつけられるペイントの量が適切に維持される。トレッド38の表面に転写されたペイントが充分に乾燥させられるので、ディスクローラー40へのペイントの付着が抑えられる。この版面30は、ディスクローラー40の汚れを抑えうる。この版面30は、タイヤの外観不良を防止しうる。この観点から、この深さDAは1.5mm以下が好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0050】
[ゴム組成物の調整]
75質量部の天然ゴム、25質量部のスチレンブタジエンゴム、10質量部のクレー、30質量部の亜鉛華、35質量部の二酸化チタン、5質量部のワックス、1.5質量部の老化防止剤、6質量部のステアリン酸、4.6質量部の不溶化硫黄、3.8質量部の促進剤CZ及び0.6質量部の促進剤DPGを、密閉式混練機にて混練し、ゴム組成物を得た。天然ゴムは、「SVR」である。スチレンブタジエンゴムは、住友化学社製の商品名「SBR1502」である。
【0051】
[実施例1]
図1に示された製造設備を用いて、タイヤを100本製造した。上記ゴム組成物を、ナフサ及び灯油に混合して、ペイントを得た。このペイントにおけるゴム組成物の含有量は、20.5質量%とされた、そのナフサの含有量は、61.0質量%とされた。灯油の含有量は、18.5質量%とされた。スタンプ装置に設けられたスタンプの版面には、ローレット加工が施され、図4で示された複数の溝が形成された。第一溝と第二溝との交差角度αは、60°とされた。版面の1インチ幅当たりに配置された溝の本数は、30本とされた。溝の深さDAは、1.0mmとされた。
【0052】
[実施例3−4及び比較例3−4]
ゴム組成物の含有量及び灯油の含有量を下記表1の通りとした他は実施例1と同様にして、タイヤを製造した。
【0053】
[実施例2及び5並びに比較例1、2及び5]
ナフサの含有量及び灯油の含有量を下記表1の通りとした他は実施例1と同様にして、タイヤを製造した。
【0054】
[実施例9]
交差角度αを下記表2の通りとした他は実施例1と同様にして、タイヤを製造した。
【0055】
[実施例7−8並びに比較例7−8]
溝の本数を下記表2の通りとした他は実施例1と同様にして、タイヤを製造した。
【0056】
[実施例6及び10並びに比較例6及び9]
溝の深さDAを下記表2の通りとした他は実施例1と同様にして、タイヤを製造した。
【0057】
[評価方法]
トレッド押出工程、ローカバー成形工程及び製造されたタイヤの検査工程において、トレッドの外観を目視で観察し、識別マークの正規位置以外にペイントの付着又は不鮮明が確認された回数を計数した。この回数が、ペイント汚れ又は不鮮明の発生回数として、下記表1及び表2に示されている。この回数が小さいほど、良好であることを表している。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
表1及び表2に示されるように、実施例の製造方法では、比較例の製造方法に比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上説明された方法は、種々のタイヤの製造にも適用されうる。
【符号の説明】
【0062】
2・・・製造設備
4・・・スタンプ装置
6・・・キャップゴム
8・・・供給部
10・・・転写ロール
12・・・印字部
14・・・第一ロール
16・・・第二ロール
18・・・印字ロール
20・・・回転軸
22・・・本体
24・・・スタンプ
26・・・プレート
28・・・画線
30・・・版面
32、32a、32b・・・溝
34・・・貼り付け装置
36・・・アンダーゴム
38・・・トレッド
40・・・ディスクローラー
42・・・支持ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム組成物とナフサとを含むペイントが、ローレット加工が施された版面に塗りつけられる工程と、
この版面に塗りつけられたペイントがトレッドの表面に転写され、識別マークが形成される工程とを含んでおり、
このペイントに含まれる上記ゴム組成物の含有量が、10質量%以上30質量%以下であり、
このペイントに含まれる上記ナフサの含有量が、45質量%以上70質量%以下であり、
上記版面が、互いに交差して配置された複数の溝を備えており、
この版面の1インチ幅当たりに配置された溝の本数が、10本以上30本以下であり、
この溝の深さが、0.3mm以上2.0mm以下である識別マークの印刷方法。
【請求項2】
ゴム組成物とナフサとを含むペイントが、ローレット加工が施された版面に塗りつけられる工程、
この版面に塗りつけられたペイントが、キャップゴムの表面に転写される工程、
ディスクローラーでこの表面を押さえつつ、このキャップゴムの裏面にアンダーゴムを貼り合わせ、トレッドが得られる工程、
このトレッドと他の部材とが組み合わされ、ローカバーが得られる工程、
このローカバーが、モールドに投入され、このモールド内で加圧及び加熱される工程を含んでおり、
上記ペイントに含まれる上記ゴム組成物の含有量が、10質量%以上30質量%以下であり、
このペイントに含まれる上記ナフサの含有量が、45質量%以上70質量%以下であり、
上記版面が、互いに交差して配置された複数の溝を備えており、
この版面の1インチ幅当たりに配置された溝の本数が、10本以上30本以下であり、
この溝の深さが、0.3mm以上2.0mm以下であるタイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−46001(P2011−46001A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193825(P2009−193825)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】