説明

識別媒体、識別方法および識別装置

【課題】一般の多層膜とは異なる独特のカラーシフトを有することにより、視認性およびセキュリティ性が高く、かつカラー複写機などによる偽造や改ざんが困難な識別媒体を提供する。
【解決手段】紫外域寄りの波長域を反射し光の反射特性が視野角の増大に伴って紫外域へ移行する第1の多層膜層11Aと、赤外域寄りの波長域を反射し光の反射特性が視野角の増大に伴って赤外域から可視光域へ移行する第2の多層膜層11Bとを積層した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パスポート、書類、各種カード、パス、紙幣、金券、証券、証書、商品券、絵画、切符、公共競技投票券、音楽や映像が記録された記録媒体、コンピュータソフトウェアが記録された記録媒体、各種製品のパッケージ等の真正性(真贋性)を識別するための識別媒体に係り、特に、多層膜干渉によるカラーシフトが通常とは逆の方向に起こる識別媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
多層膜に光が入射すると、反射光には各膜の膜厚と屈折率の違いによる光路差が生じるため、干渉が起こる(多層膜干渉)。通常、多層膜へ入射する光の入射角が大きくなる(視野角が大きくなる)と光路差は小さくなるため、より短波長の光が強め合う。そのため、多層膜が視線と垂直の状態(視野角0)から徐々に多層膜を傾けてゆく(視野角を大きくしてゆく)と多層膜の色は徐々に短波長の色に変化してゆく(ブルーシフト)。
【0003】
物品の真贋性を識別する技術として、上記のような多層膜を識別媒体とした技術が知られている(例えば特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開2005−085094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、偽造技術が高くなってきている背景において、多層膜を用いた識別媒体に関しても、より偽造が困難で、高い識別性が得られるものが求められている。
【0006】
よって、本発明は、一般の多層膜とは異なる独特のカラーシフトを有することにより、視認性およびセキュリティ性が高く、かつカラー複写機などによる偽造や改ざんが困難な識別媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の識別媒体は、紫外域寄りの波長域を反射し光の反射特性が視野角の増大に伴って紫外域へ移行する第1のカラーシフト層と、赤外域寄りの波長域を反射し光の反射特性が視野角の増大に伴って赤外域から可視光域へ移行する第2のカラーシフト層とを積層したことを特徴とする。
【0008】
本発明の作用を図1を参照して説明する。図1に示すように、第2のカラーシフト層Bの表面に第1のカラーシフト層Aが積層されている構成を想定する。第1のカラーシフト層Aでは、紫外域寄りの波長域を反射し光の反射特性が視野角の増大に伴って可視光域から紫外域へ移行するから、視野角θが0°では、可視光域の短波長の光を反射し、視野角θが大きくなると紫外域の光(不可視光)を反射する。一方、第2のカラーシフト層Bでは、赤外域寄りの波長域を反射し光の反射特性が視野角の増大に伴って赤外域から可視光域へ移行するから、視野角θが小さいと赤外域の光(不可視光)を反射し、視野角θが大きいと可視光域の長波長の光を反射する。
【0009】
したがって、視野角θが0°で図1の構成を見ると、第1のカラーシフト層Aの短波長の反射光が見え、視野角θを大きくしてゆくと、可視光である短波長の光から紫外域の光となって見えなくなる。一方、第2のカラーシフト層Bでは、視野角θが0°のとき反射光は赤外域の光で見えないが、視野角θを大きくしてゆくと、可視光である長波長の反射光が見えるようになる。したがって、視野角θを0°から大きくしてゆくと、第1のカラーシフト層Aによる可視光である短波長の反射光から第2のカラーシフト層Bによる可視光である長波長の反射光に移行し、ブルーシフトとは逆の現象、つまりレッドシフトが生じる。
【0010】
本発明では、第1のカラーシフト層Aと第2のカラーシフト層Bの位置を図1に示したものと逆にしても上記と同一の作用を奏する。また、第1、第2のカラーシフト層A,Bは、光の反射特性が視野角に異存するものであれば任意である。
【0011】
すなわち、第1のカラーシフト層および第2のカラーシフト層の少なくとも一方は、異なる屈折率を有する光透過性薄膜を多層に積層した多層膜層とすることができる。あるいは、多層膜層に代えてまたは多層膜層とともに特定の波長域の円偏光を反射する円偏光選択性を有するコレステリック液晶層を用いることもできる。
【0012】
ここで、多層膜層においてブルーシフトが生じる原理を説明する。図2は多層膜層に入射した光が各層で反射する様子を示す図である。多層膜層に白色光を当てると、異なる屈折率を有する光媒体の界面において入射光の反射がフレネルの反射則に従って発生する。この際、A層とB層との界面において、入射光の一部が反射し、その他は透過する。A層とB層との間の界面は繰り返し現れるので、各界面で生じた反射光は干渉する。その際、干渉し強め合った波長域の光が強く反射しているように見える。
【0013】
入射光の入射角を徐々に大きくすると、各界面で生じた反射光の光路差は徐々に小さくなり、より短波長の光が干渉し強め合うようになる。したがって、白色光が当たっている多層膜層をより斜め(面に対してより平行に近い角度)から見る程、より短波長の光が強く反射しているように見える。
【0014】
強め合う波長域は、各層をなすポリマーなどの素材の屈折率と膜厚、層数などにより任意に設定可能である。したがって、それらの条件を適宜設定することにより、第1のカラーシフト層および第2のカラーシフト層の反射光の波長域を前述のように設定することができる。
【0015】
たとえば、垂直入射光を観察して(つまり正面から見て)例えば赤色に呈色する多層膜層の反射色は、視野角を大きくするに従い(つまり多層膜層を傾けるに従い)オレンジ色、黄色、緑色、青緑色、青色と順次変化するように観察される(ブルーシフト)。
【0016】
次に、コレステリック液晶層においてカラーシフトが生じる原理を説明する。まず、コレステリック液晶について簡単に説明する。図3は、コレステリック液晶層の構造を概念的に示す概念図であり、図4は、コレステリック液晶層が有する光学的な性質を説明する概念図である。図4には、自然光を入射させると、特定波長の右回り円偏光が反射され、左回り円偏光および直線偏光、さらにその他の波長の右回り円偏光がコレステリック液晶層201を透過する様子が示されている。
【0017】
コレステリック液晶層は、層状構造を有している。そして、一つの層に着目した場合、層中において液晶分子の分子長軸はその向きが揃っており、かつ層の面に平行に配向している。そして配向の方向は、隣接する層において少しずつずれており、全体としては立体的なスパイラル状に配向が回転しつつ各層が積み重なった構造を有している。
【0018】
この構造において、層に垂直な方向で考えて、分子長軸が360°回転して元に戻るまでの距離をピッチP、各層内の平均屈折率をnとする。この場合、コレステリック液晶層は、λs=n×Pを満たす、中心波長λsの円偏光を選択的に反射する性質を示す。すなわち、白色光をコレステリック液晶層に入射させると、特定の波長を中心波長とする右回りまたは左回り円偏光を選択的に反射する。この場合、反射した円偏光と同じ旋回方向を有するが波長がλsでない円偏光、反射した円偏光と逆旋回方向の円偏光、さらに直線偏光の成分は、コレステリック液晶層を透過する。したがって、n,Pを適宜設定することにより、第1のカラーシフト層および第2のカラーシフト層の反射光の波長域を前述のように設定することができる。
【0019】
反射する円偏光の旋回方向(回転方向)は、コレステリック液晶層のスパイラル方向を選択することで決めることができる。つまり、光の入射方向から見て、右ネジの向きに螺旋を描いて各層における分子長軸が配向しているか、左ネジの向きに螺旋を描いて各層における分子長軸が配向しているか、を選択することで、反射する円偏光の旋回方向(回転方向)を決めることができる。
【0020】
ここで、隣接する層で屈折率が異なる光透過性の多層膜層に斜めから光が入射すると、その光は、多層構造の各界面において反射される。この反射は、上下に隣接する光透過性の層の屈折率が異なることに起因する。また、1層の界面を見た場合、反射されるのは、入射光の一部であり、入射光の大部分は透過する。つまり、多層に積層された界面に入射した入射光は、各界面において少しずつ反射されてゆく。この各界面で発生した反射光は、基本的に同じ方向に反射するので、それらは光路差に起因する干渉を起こす。
【0021】
入射光がより面に平行に近い方向から入射する程、光路差は小さくなるので、より短波長の光が干渉し、強め合うことになる。この原理から、視野角を大きくしていった場合に、より短波長の反射光同士が干渉し、強め合うことになる。この結果、白色光下で多層膜層を見た場合に、視野角0°で多層膜層が所定の色合いに見えたものが、視野角を大きくしてゆくに従い、徐々に青みがかった色に見た目の色彩が変化する現象が観察される。この現象がブルーシフトである。
【0022】
本発明では、多層膜層は任意の方法で形成することができる。たとえば、光透過性薄膜はフィルムで構成することができる。あるいは、光透過性薄膜を蒸着により形成することによって多層膜層を形成することができる。あるいは、多層膜層は、光透過性薄膜として光干渉性顔料を塗工することにより形成することもできる。
【0023】
第1のカラーシフト層および第2のカラーシフト層の少なくとも一方の一部または全域に、ホログラム加工または型押し加工を施すことができる。また、第1のカラーシフト層および第2のカラーシフト層の少なくとも一方の一部に、図柄を設けることができる。このような態様を採用することにより、偽造がより困難となる。さらに、外力が加えられることにより破壊される層間剥離構造または剥離破壊構造を備えることもできる。加えて、上記のような識別媒体に、光の反射特性が視野角に依存してブルーシフトする第3のカラーシフト層を並べて配置すると、構造が複雑となってさらに偽造が困難となる。さらに、上記構成の識別媒体に、印刷層を並べて配置することができる。このような態様では、光の反射特性が視野角に異存しない印刷層の色と識別媒体のカラーシフトを比較することにより、視認性を高めることができる。
【0024】
次に、本発明は、識別媒体の識別方法であって、特定の波長域の円偏光を反射する円偏光選択性を有するコレステリック液晶層を第1のカラーシフト層および/または第2のカラーシフト層とした識別媒体を識別する方法であって、識別媒体に所定の旋回方向の円偏光を照射し、その反射光を観察することを特徴としている。
【0025】
また、本発明は、識別媒体の識別装置であって、特定の波長域の円偏光を反射する円偏光選択性を有するコレステリック液晶層を第1のカラーシフト層および/または第2のカラーシフト層とした識別媒体を識別する識別装置であって、識別媒体に所定の旋回方向の円偏光を照射する照射手段と、識別媒体からの反射光を検出する検出手段とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、一般の多層膜干渉とは異なる独特のカラーシフトを有することにより、視認性およびセキュリティ性が高く、かつカラー複写機などによる偽造や改ざんが困難な識別媒体を提供することができ、しかも識別を容易にそして確実に行うことができる技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
(1)実施形態の説明
図5は本発明の実施形態による識別媒体の断面図である。図5には、物品への貼り付けを行う前の状態(未使用状態)の識別媒体1が示されている。図5において符号10は、光吸収層10である。光吸収層10は、例えば黒色等の暗色に着色されている。光吸収層10の表面には、第2の多層膜層(第2のカラーシフト層)11Bが積層され、第2の多層膜層11Bの表面には、接着層12を介して第1の多層膜層(第1のカラーシフト層)11A2が積層されている。多層膜層11A,11Bは、異なる屈折率を有する光透過性薄膜を多層に積層して構成されている。また、光吸収層10の裏面には、接着層13が積層されている。なお、接着層12,13は粘着層であってもよい。また、接着層13が光吸収性である場合には、光吸収層10を省略することができる。
【0028】
第1の多層膜層11Aは、紫外域寄りの波長域(例えば緑〜青)を反射し光の反射特性が視野角の増大に伴って紫外域へ移行するように構成されている。また、第2の多層膜層11Bは、赤外域寄りの波長域(例えば赤〜黄)を反射し光の反射特性が視野角の減少に伴って赤外域へ移行するように構成されている。
【0029】
第1の多層膜層11Aでは、紫外域寄りの波長域を反射し光の反射特性が視野角の増大に伴って紫外域へ移行するから、視野角θが0°では、可視光域の短波長の光(例えば緑〜青)を反射し、視野角θが大きくなると紫外域の光(不可視光)を反射する。一方、第2の多層膜層11Bでは、赤外域寄りの波長域を反射し光の反射特性が視野角の増大に伴って赤外域から可視光域へ移行するから、視野角θが0°では、赤外域の光(不可視光)を反射し、視野角θが大きくなると可視光域の長波長の光(例えば赤〜黄)を反射する。
【0030】
したがって、視野角θが0°で図5の識別媒体1を見ると、第1の多層膜層11Aの短波長の反射光(例えば緑〜青)が見え、視野角θを大きくしてゆくと、反射光が青から紫外域の光となって見えなくなる。一方、第2の多層膜層11Bでは、視野角θが0°で反射光は赤外域の光で見えないが、視野角θを大きくしてゆくと、長波長の反射光(例えば赤〜黄)が見えるようになる。したがって、識別媒体1の可視光域の反射光は、視野角θを0°から大きくしてゆくと、第1の多層膜層11Aによる短波長の反射光(例えば緑〜青)から第2の多層膜層11Bによる長波長の反射光(例えば赤〜黄)に移行する。
【0031】
(2)実施形態の変更例の説明
A.第1変更例
第1の多層膜層11Aおよび第2の多層膜層11Bに代えてコレステリック液晶層を用いることができる。この場合において、2つのコレステリック液相層を右回り円偏光または左回り円偏光のものとする態様や、いずれか一方を右回り円偏光のものとし、他方を左回り円偏光のものとする態様を採用することができる。
【0032】
第1、第2の多層膜層11A,11Bを構成する光透過性薄膜は、例えばセラミックスを蒸着することで形成することができ、あるいは光干渉性顔料を塗工することによっても形成することができる。第1、第2の多層膜層11A,11Bのいずれか一方に蒸着を用い、他方に光干渉性顔料を用いることもできる。この場合、多層膜層に蒸着を用いることにより、接着層12を省略することもできる。
【0033】
B.第2変更例
図6に示すように、多層膜層11A,11Bにホログラム加工や型押し加工を施すことができる。図6(A)は第1の多層膜層11Aにホログラム加工や型押し加工を施した例、図6(B)は第2の多層膜層11Bにホログラム加工や型押し加工を施した例、図6(C)は図6(A)は第1、第2の多層膜層11A,11Bに異なる図柄のホログラム加工や型押し加工を施した例である。なお、ホログラム加工や型押し加工は、第1、第2の多層膜層11A,11Bの表面または裏面のいずれに形成してもよい。
【0034】
図6(A)の態様では、視野角θが0°でホログラム加工や型押し加工による図柄が見え、視野角θを大きくしてゆくと図柄が消える。これは、ホログラム等が第1の多層膜層11Aに形成されているため、視野角θを大きくすると、第1の多層膜層11Aからは紫外域の光(不可視光)を反射するようになるからである。同等の理由により、図6(B)の態様では、視野角θが0°ではホログラム加工や型押し加工による図柄は見えないが、視野角θを大きくしてゆくと図柄が見える。また、図6(C)の態様では、視野角θを変化させると、識別媒体1の色とともに見える図柄が変化する。
【0035】
C.第3変更例
図7に示すように、第1、第2の多層膜層11A,11Bには図柄を印刷することができる。図7(A)に示す態様では、第1の多層膜層11Aの表面に、視野角θが0°のときの色(例えば青緑)に類似した色の印刷Aが施されている。この場合、視野角θが0°のとき印刷Aは背景に紛れて見えないが、視野角θを大きくすると背景がレッドシフトするので印刷Aが見えるようになる。
【0036】
また、第1の多層膜層11Aの表面に、視野角θが大きいときの色(例えば橙)に類似した色の印刷Bが施されている。この場合、視野角θが0°のとき印刷Bは見えるが、視野角θを大きくすると背景がレッドシフトするので背景に紛れて見えなくなる。
【0037】
さらに、第2の多層膜層11Bの表面に、光吸収層である印刷Cが施されている。この場合、視野角θが0°のときは第1の多層膜層11Aにより可視光が反射され、かつ印刷Cの下層である第2の多層膜層11Bからは赤外域の光(不可視光)を反射するため、印刷Cは見えない。一方、視野角θを大きくすると第1の多層膜層11Aから紫外域の光(不可視光)を反射し、かつ印刷Cの下層である第2の多層膜層11Bからは可視光を反射するため、印刷Cが見える。
【0038】
図7(B)は図7(A)において第1の多層膜層11Aと第2の多層膜層11Bの位置が入れ替えられ、第1の多層膜層11Aの表面に、光吸収層である印刷C’が施されている例を示すものである。この場合、視野角θが0°のときは、第2の多層膜層11Bにより赤外域の光(不可視光)が反射され、かつ印刷C’の下層である第1の多層膜層11Aからは可視光を反射するため、印刷C’が見える。一方、視野角θを大きくすると第2の多層膜層11Bから可視光を反射し、かつ印刷C’の下層の第1の多層膜層11Aからは紫外域の光(不可視光)を反射するため、印刷C’は見えない。
【0039】
D.第4変更例
第1、第2の多層膜層11A,11Bのいずれかもしくは両方が多層膜層ではなくコレステリック液晶によって構成されている場合には、右/左円偏光を選択的に透過する光学フィルタを使用して真贋を判別することが可能である。すなわち、第1のコレステリック液晶層は、紫外域寄りの波長域(例えば青緑)を反射し光の反射特性が視野角の増大に伴って紫外域へ移行するように構成され、第2のコレステリック液晶層は、赤外域寄りの波長域(例えば橙)を反射し光の反射特性が視野角の増大に伴って赤外域から可視光域へ移行するように構成される。
【0040】
(a)上記態様において、第1のコレステリック液晶層と第2の多層膜層11Bを用い、第1のコレステリック液晶層が右円偏光を選択的に反射するように構成することができる。そして、右円偏光を選択的に透過する光学フィルタ(以下、「右フィルタ」という)を介して識別媒体1を見た場合には、視野角θが0°のときに青緑に見え、視野角θを大きくすると橙に見える。また、左円偏光を選択的に透過する光学フィルタ(以下、「左フィルタ」という)を介して識別媒体1を見た場合には、視野角θが0°のときに光吸収層が見え、視野角θを大きくすると橙に見える。
【0041】
(b)上記態様において、第1の多層膜層11Aと第2のコレステリック液晶層とを用い、第2のコレステリック液晶層が右円偏光を選択的に反射するように構成することができる。そして、右フィルタを介して識別媒体1を見た場合には、視野角θが0°のときに青緑に見え、視野角θを大きくすると橙に見える。また、左フィルタを介して識別媒体1を見た場合には、視野角θが0°のときに青緑に見え、視野角θを大きくすると光吸収層が見える。
【0042】
(c)第1、第2のコレステリック液晶層が右円偏光を選択的に反射するように構成することができる。そして、右フィルタを介して識別媒体1を見た場合には、視野角θが0°のときに青緑に見え、視野角θを大きくすると橙に見える。また、左フィルタを介して識別媒体1を見た場合には、視野角θが0°のときに光吸収層が見え、視野角θを大きくしても光吸収層が見える。
【0043】
(d)第1のコレステリック液晶層が右円偏光を選択的に反射するように構成し、第2のコレステリック液晶層が左円偏光を選択的に反射するように構成することができる。そして、右フィルタを介して識別媒体1を見た場合には、視野角θが0°のときに青緑に見え、視野角θを大きくすると光吸収層が見える。また、左フィルタを介して識別媒体1を見た場合には、視野角θが0°のときに光吸収層が見え、視野角θを大きくすると橙に見える。
【0044】
なお、2つのカラーシフト層のうち少なくとも下層側にコレステリック液晶層を用いる場合には、表層側の多層膜層もしくはコレステリック液晶層は、下層側のコレステリック液晶層から反射した光が透過する際に、その偏光状態を乱さないように等方性である必要がある。
【0045】
E.第5変更例
識別媒体1に、外力が加えられることにより破壊される層間剥離構造または剥離破壊構造を備えることができる。物品から識別媒体1を剥がすような外力が加えられたときに、例えば第1、第2の多層膜層11A,11Bの一方または双方の層内に破壊が生じて識別媒体1が分断されるようにすることができる(層間剥離構造)。あるいは、第1の多層膜層11A等と隣接する層が剥離するように構成することもできる(剥離破壊構造)。層間剥離や剥離破壊が生じ易くすることで、識別媒体を剥がして再利用しようとする不正が防止できる。
【0046】
F.第6変更例
識別媒体1の一部に切れ目を入れることができる。これにより、再利用のために識別媒体1を物品から無理矢理剥がそうとした場合に、切れ目から識別媒体1が破れ、その再利用ができなくなる。また、このような態様は、パッケージの開封の有無を識別する開封識別シールに応用することができる。
【0047】
G.第7変更例
図8に示すように、上記構成の識別媒体1(領域B)に、光の反射特性が視野角に依存してブルーシフトする第3のカラーシフト層15(領域A)を並べて配置することができる。このような態様では、視野角θが0°のときに、領域Bでは第1の多層膜層11Aが例えば青緑に見え、領域Aでは例えば黄に見える。そして、視野角θを大きくすると、領域Aではブルーシフトして例えば青に見え、領域Bではレッドシフトして例えば橙に見える。この態様では構造が複雑となってさらに偽造が困難となる。なお、第3のカラーシフト層15は、多層膜層であってもコレステリック液晶層であってもよい。また、コレステリック液晶層は、右円偏光または左円偏光を選択的に反射するように構成することができる。なお、領域Aのレッドシフトと領域Bのブルーシフトが完全に逆転していることが望ましい。たとえば、領域Aが視野角θが0°のときに例えば青緑に見え、視野角θを大きくすると例えば橙に見えるのであれば、領域Bは視野角θが0°のときに橙に見え、視野角θを大きくすると青緑に見えることが望ましい。このように、各領域のカラーシフト挙動が逆転することにより、視認性を向上させることができる。
【0048】
H.第8変更例
図9に示すように、上記構成の識別媒体1(領域C)に、光の反射特性が視野角に異存しない印刷層(領域D)を並べて配置することができる。印刷層(領域D)の色を視野角θが0°のときの識別媒体1の色にすれば、視野角θが0°のときは領域Cと領域Dが同じ色に見え、視野角θを大きくすると領域Cと領域Dの色の違いを視認することができる(図9(A)参照)。また、印刷層(領域D)の色を視野角θが大きいときの識別媒体1の色にすれば、視野角θが0°のときは領域Cと領域Dの色の違いを視認することができるが、視野角θを大きくすると領域Cと領域Dが同じ色に見える。このような態様では、視野角に異存しない印刷層の色と識別媒体1のカラーシフトを比較することにより、視認性を高めることができる(図9(B)参照)。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の原理の一部を示す概念図である。
【図2】多層膜層の原理の一部を示す概念図である。
【図3】コレステリック液晶の原理の一部を示す概念図である。
【図4】コレステリック液晶の原理の一部を示す概念図である。
【図5】本発明の実施形態の識別媒体の概略の構造を示す断面図である。
【図6】本発明の変更例の識別媒体の概略の構造を示す断面図である。
【図7】本発明の他の変更例の識別媒体の概略の構造を示す断面図および見え方を概念的に示す図である。
【図8】本発明のさらに他の変更例の識別媒体の概略の構造を示す断面図および見え方を概念的に示す図である。
【図9】本発明のさらに他の変更例の識別媒体の見え方を概念的に示す図である。
【符号の説明】
【0050】
1 識別媒体
10 光吸収層
11A 第1の多層膜層(第1のカラーシフト層)
11B 第2の多層膜層(第2のカラーシフト層)
12 接着層
13 接着層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外域寄りの波長域を反射し光の反射特性が視野角の増大に伴って紫外域へ移行する第1のカラーシフト層と、赤外域寄りの波長域を反射し光の反射特性が視野角の増大に伴って赤外域から可視光域へ移行する第2のカラーシフト層とを積層したことを特徴とする識別媒体。
【請求項2】
前記第1のカラーシフト層および前記第2のカラーシフト層の少なくとも一方は、異なる屈折率を有する光透過性薄膜を多層に積層した多層膜層であることを特徴とする請求項1に記載の識別媒体。
【請求項3】
前記光透過性薄膜がフィルムであることを特徴とする請求項2に記載の識別媒体。
【請求項4】
前記第1のカラーシフト層および前記第2のカラーシフト層の少なくとも一方は、特定の波長域の円偏光を反射する円偏光選択性を有するコレステリック液晶層であることを特徴とする請求項1に記載の識別媒体。
【請求項5】
前記多層膜層は、前記光透過性薄膜を蒸着により形成したものであることを特徴とする請求項2または3に記載の識別媒体。
【請求項6】
前記多層膜層は、前記光透過性薄膜として光干渉性顔料を塗工することにより形成したものであることを特徴とする請求項2または3に記載の識別媒体。
【請求項7】
前記第1のカラーシフト層および前記第2のカラーシフト層の少なくとも一方の一部または全域に、ホログラム加工または型押し加工が施されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の識別媒体。
【請求項8】
前記第1のカラーシフト層および前記第2のカラーシフト層の少なくとも一方の一部に、図柄が設けられていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の識別媒体。
【請求項9】
外力が加えられることにより破壊される層間剥離構造または剥離破壊構造を備えていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の識別媒体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の識別媒体に、光の反射特性が視野角に依存してブルーシフトする第3のカラーシフト層を並べて配置したことを特徴とする識別媒体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の識別媒体に、印刷層を並べて配置したことを特徴とする識別媒体。
【請求項12】
請求項4に記載の識別媒体を識別する方法であって、前記識別媒体に所定の旋回方向の円偏光を含む光を照射し、その反射光を観察することを特徴とする識別媒体の識別方法。
【請求項13】
請求項4に記載の識別媒体を識別する識別装置であって、前記識別媒体に所定の旋回方向の円偏光を含む光を照射する照射手段と、前記識別媒体からの反射光を検出する検出手段とを備えたことを特徴とする識別媒体の識別装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−134333(P2010−134333A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312038(P2008−312038)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】