説明

識別媒体および物品

【課題】ツールによる真贋判別に加えて単独での判別も可能であり、識別性を高めた識別媒体およびその識別媒体を備えた物品を提供する。
【解決手段】識別媒体1は、右回りまたは左回り円偏光を反射するコレステリック液晶層200と、コレステリック液晶層200に積層され、コレステリック液晶層200が反射する円偏光と同じ円偏光を吸収する偏光層400とを有する識別層10と、光透過性を有する対象物2に識別層10を固定するための固定層500とを有し、識別層10が対象物2に固定された状態で、識別層10が積層された方向においてコレステリック液晶層200側から識別層10を目視した場合の見え方と、偏光層400側から識別層10を目視した場合の見え方とが異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種製品等の真正性(真贋性)を識別するための識別媒体に関し、特に、ツールによる真贋判別に加え、単独での判別も可能な識別媒体とその識別媒体を備えた物品に関する。
【背景技術】
【0002】
パスポート、各種カード、証書類、各種製品の偽造防止方法として、その対象物の表面に特殊なインクを塗布する技術や、ホログラムを貼り付ける技術などが知られている。例えば、特許文献1には、ホログラムにコレステリック液晶を組み合わせた偽造防止技術が示されている。この技術によれば、ホログラムとコレステリック液晶を組み合わせ、その反射光を左右の円偏光フィルタを通して観察することで、真贋が判別される。具体的には、右円偏光フィルタで見えるときは、左円偏光フィルタでは見えないという現象を用いて真贋の判別が行われる。
【0003】
【特許文献1】再表00/013065
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した技術では、円偏光フィルタなどのツールを使用しなければ、コレステリック液晶の固有の特性によるホログラムの変化が確認できなかった。また、偽造技術が高くなってきている背景において、コレステリック液晶を用いた識別媒体に関しても、より偽造が困難で、高い識別性を有する識別媒体が求められている。
【0005】
そこで本発明は、ツールによる真贋判別に加えて単独での判別も可能であり、識別性を高めた識別媒体およびその識別媒体を備えた物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、右回りまたは左回り円偏光を反射するコレステリック液晶層と、前記コレステリック液晶層に積層され、特定の偏光を透過する偏光層と、を有する識別層を備え、前記識別層が積層された方向において前記コレステリック液晶層側から前記識別層を目視した場合の見え方と、前記偏光層側から前記識別層を目視した場合の見え方とが異なることを特徴とする識別媒体である。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、右回り円偏光を選択的に透過し、左回り円偏光および直線偏光を遮断するフィルタなどの真贋判別するためのツールを介して識別媒体を視認した場合でも真贋判定を行うことができるとともに、ツールを介さないで目視した場合でも真贋判定を行うことができる。また、真贋判定を行う方法が増加するため、識別性を高めることができ、偽造が困難になる。なお、特定の偏光というのは、右回り円偏光、左回り円偏光または直線偏光のうちいずれかの偏光をいう。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記偏光層は、前記コレステリック液晶層が反射する円偏光と同じ円偏光を吸収するまたは反射することを特徴とする。請求項2に記載の発明によれば、偏光層側から目視した場合、コレステリック液晶層からの反射光が視認されないという特異な見え方となり、ツールを介さないで真贋判定を行うことができ、識別性を高めることができる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記偏光層は、前記コレステリック液晶層に積層され、直線偏光を右回りまたは左回り円偏光に変える、あるいは、右回りまたは左回り円偏光を直線偏光に変える1/4波長板層と、前記1/4波長板層に積層され、直線偏光を透過する直線偏光板層とを有することを特徴とする。請求項3に記載の発明によれば、偏光層側から目視した場合、コレステリック液晶層からの反射光が視認されないという特異な見え方となり、ツールを介さないで真贋判定を行うことができ、識別性を高めることができる。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発明において、光透過性を有する対象物に前記識別層を固定するための固定層を有し、前記固定層は、光透過性を有することを特徴とする。請求項4に記載の発明によれば、光を透過することで、真贋判別を容易に行うことができ、識別性を高めることができる。また、光透過性というのは、判別に利用する可視光を透過する性質のことをいう。
【0011】
請求項5に記載の発明は、光透過性を有する対象物と、請求項1〜4のいずれか一項に記載された識別媒体とを備えた物品である。請求項5に記載の発明によれば、真贋の識別性の高い物品を提供することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ツールによる真贋判別に加えて単独での判別も可能であり、識別性を高めた識別媒体およびその識別媒体を備えた物品を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(1)第1の実施形態
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図1は、識別媒体および対象物を示す断面図である。図2は、コレステリック液晶層の構造を概念的に示す概念図である。図3は、識別媒体を視認する場合を示す断面図である。図4は、右円偏光フィルタを介して表面から識別媒体を見た場合を示す図である。図5は、左円偏光フィルタを介して表面から識別媒体を見た場合を示す図である。図6は、目視により裏面から識別媒体を見た場合を示す図である。図7は、光透過性を有する部分を一部に有する対象物を示す図である。なお、図3の符号Eは視認する人の目である。
【0014】
(コレステリック液晶について)
まず、コレステリック液晶について簡単に説明する。コレステリック液晶層は、図2に示すように、層状構造を有している。そして、一つの層に着目した場合、層中において液晶分子の分子長軸はその向きが揃っており、かつ層の面に平行に配向している。そして配向の方向は、隣接する層において少しずつずれており、全体としては立体的なスパイラル状に配向が回転しつつ各層が積み重なった構造を有している。
【0015】
この構造において、層に垂直な方向で考えて、分子長軸が360°回転して元に戻るまでの距離をピッチP、各層内の平均屈折率をnとする。この場合、コレステリック液晶層は、λs=n×Pを満たす、中心波長λsの円偏光を選択的に反射する性質を示す。すなわち、白色光をコレステリック液晶層に入射させると、特定の波長を中心波長とする右回りまたは左回り円偏光を選択的に反射する。この場合、反射した円偏光と同じ旋回方向を有するが波長がλsでない円偏光、反射した円偏光と逆旋回方向の円偏光、さらに直線偏光の成分は、コレステリック液晶層を透過する。
【0016】
反射する円偏光の旋回方向(回転方向)は、コレステリック液晶層のスパイラル方向を選択することで決めることができる。つまり、光の入射方向から見て、右ネジの向きに螺旋を描いて各層における分子長軸が配向しているか、左ネジの向きに螺旋を描いて各層における分子長軸が配向しているか、を選択することで、反射する円偏光の旋回方向(回転方向)を決めることができる。
【0017】
またコレステリック液晶層は、カラーシフトと呼ばれる現象を示す。以下、カラーシフトの原理を説明する。隣接する層で屈折率が異なる光透過性の多層薄膜に斜めから光が入射すると、その光は、多層構造の各界面において反射される。この反射は、上下に隣接する光透過性の層の屈折率が異なることに起因する。また、1層の界面を見た場合、反射されるのは、入射光の一部であり、入射光の大部分は透過する。つまり、多層に積層された界面に入射した入射光は、各界面において少しずつ反射されてゆく。この各界面で発生した反射光は、基本的に同じ方向に反射するので、それらは光路差に起因する干渉を起こす。
【0018】
入射光がより面に平行に近い方向から入射する程、光路差は小さくなるので、より短波長の光が干渉し、強め合うことになる。この原理から、視野角を大きくしていった場合に、より短波長の反射光同士が干渉し、強め合うことになる。この結果、白色光下で多層薄膜を見た場合に、視野角0°で多層薄膜が所定の色合いに見えたものが、視野角を大きくしてゆくに従い、徐々に青みがかった色に見た目の色彩が変化する現象が観察される。この現象をカラーシフトという。なお、視野角は、層への垂線と視線とのなす角度として定義される。
【0019】
(識別媒体および識別媒体を備えた物品の構成)
次に、識別媒体1および識別媒体1を備えた物品の構成について図面を参照して説明する。識別媒体1は、図1に示すように、支持体としても機能する対象物2に貼り付けられている。この例において物品は、板状の透明な樹脂により構成されたタグである。識別媒体1は、識別層10と、固定層の一例である接着層500とを有している。識別媒体1は、識別媒体1が貼り付けられた対象物2の真贋を判別するための媒体である。対象物2は、全体が光透過性を有する。つまり、対象物2の全体が透明である。
【0020】
別層10は、図1、図3に示すように、対象物2から遠い順に、表面保護層100と、コレステリック液晶層200と、接着層300と、偏光層400とが積層されて形成されている。識別層10は、表面保護層100にコレステリック液晶層200、接着層300および偏光層400が順に積層されて製造される。
【0021】
表面保護層100は、光透過性を有する所定の厚さのTAC(等方性トリアセチルセルロース)をフィルム状に形成したものである。表面保護層100は、透過する光の円偏光状態を乱さないようにするために、屈折率が等方性のものが利用される。この条件を満たす光透過性を有する材料として、ポリカーボネイトやポリスチレンなどを用いることができる。
【0022】
コレステリック液晶層200は、表面保護層100に隣接して積層されている。コレステリック液晶層200は、特定の右回りまたは左回り円偏光を選択的に反射し、直線偏光などのその他の偏光を透過する。なお、以下の説明では、コレステリック液晶層200は、特定波長(例えば緑)の右回り円偏光を反射するものとして説明する。
【0023】
コレステリック液晶層200には、ホログラム形成部210が設けられている。ホログラム形成部210は、コレステリック液晶層200の偏光層400側に設けられている。ホログラム形成部210は、コレステリック液晶層200にホログラムを形成するための型を押し付け、エンボス模様や凹凸を形成することで形成されている。なお、ホログラム形成部210をコレステリック液晶層200の偏光層400側に設ける場合に限らず、コレステリック液晶層200の表面保護層100側に設けてもよい。
【0024】
接着層300は、コレステリック液晶層200に隣接して積層されている。接着層300は、コレステリック液晶層200に偏光層400を固定する機能を有する。接着層300は、光透過性を有する。つまり、接着層300は透明である。
【0025】
偏光層400は、接着層300を介してコレステリック液晶層200に積層されている。偏光層400は、コレステリック液晶層200の表面全体を覆うように設けられている。偏光層400は、コレステリック液晶層200から近い順に、1/4波長板層410と、直線偏光板層420とが積層されて形成されている。偏光層400は、偏光を選択的に吸収する。
【0026】
1/4波長板層410は、接着層300を介してコレステリック液晶層200に積層されている。1/4波長板層410は、直線偏光を右回りまたは左回り円偏光に変える。また、1/4波長板層410は、右回りまたは左回り円偏光を直線偏光に変える。
【0027】
直線偏光板層420は、1/4波長板層410の下に隣接して積層されている。直線偏光板層420は、所定の方向に偏波した直線偏光を透過する。この例では、直線偏光板420側から見て、直線偏光板層420の吸収軸に対して1/4波長板層410の遅相軸を時計回り方向に135度回転させた状態とする。こうすることで、直線偏光板層420から出た直線偏光が1/4波長板層410を透過することで、左回り円偏光になる設定とされている。この場合、1/4波長板層410に図の上方から入射した左回り円偏光は、直線偏光板層420を透過する直線偏光となり、直線偏光板層420を透過する。なお、1/4波長板層410に図の上方から入射した右回り円偏光は、直線偏光板層420で遮断される直線偏光となり、直線偏光板層420で遮断される。なお、直線偏光板層420側から見て、直線偏光板層420の吸収軸に対して1/4波長板層410の遅相軸を時計回り方向に45度回転させた状態とすると、直線偏光板層420から出た直線偏光が1/4波長板層410を透過することで、右回り円偏光になる設定が得られる。
【0028】
接着層500は、識別層10と対象物2との間に設けられている。つまり、接着層500は、直線偏光板層420に隣接して積層されている。接着層500は、識別層10を対象物2に固定する機能を有する。接着層500は、光透過性を有する。つまり、接着層500は透明である。
【0029】
なお、固定する機能を有する接着層300および接着層500は、シールのように離型フィルムを剥がすと接着力が現れるものや、紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂、その他公知の接着材料などで構成される。また、接着層300および接着層500は、透明であるが、全体を透明にしてもよく、あるいは、剥離すると文字が出るような加工を加えるなどして一部を透明にしてもよい。さらに、接着層300および接着層500が透明である場合に限らず、光透過性を有すれば接着層300および接着層500が半透明でもよい。なお、接着層の代わりに粘着剤を用いた粘着層を利用してもよい。
【0030】
(第1の実施形態の識別機能)
次に、第1の実施形態の識別機能について図面を参照して説明する。ここでは、図3に示した識別媒体1を、識別するための識別用フィルタを介さずに目視により視認した場合と識別用フィルタを介して視認した場合の例を説明する。なお、識別媒体1を固定した対象物2の一方の面を表面(図の上側の面)といい、識別媒体1を固定していない対象物2の他方の面(図の下側の面)を裏面という。また、識別用フィルタとして、右回り円偏光を選択的に透過する右フィルタR(右円偏光フィルタ)と、左回り円偏光を選択的に透過する左フィルタL(左円偏光フィルタ)を用いる。
【0031】
(識別用フィルタなしで表面から観察した場合)
まず、識別用フィルタを介さずに対象物2の識別媒体1が固定された側の方向(図の上側)から識別媒体1を観察する場合を説明する。この場合、コレステリック液晶層200からの反射光が視認される。すなわち、表面保護層100の側から入射した入射光のうちの右回り円偏光は、コレステリック液晶層200により反射され、それが観察される。また、コレステリック液晶層200が示すカラーシフトが観察される。
【0032】
一方、対象物2の裏面から入射した入射光は、透明な対象物2および透明な接着層500を透過し、さらにその中に含まれるに特定方向の直線偏光が直線偏光板層420を透過する。その後、直線偏光板層420を透過したこの直線偏光は、1/4波長板層410により左回り円偏光となり、透明な接着層300、コレステリック液晶層200および透明な表面保護層100を透過する。また、コレステリック液晶層200に到達できなかった成分は、偏光層400により吸収される。
【0033】
このため、識別用フィルタを介さずに対象物2の識別媒体1が固定された側(図の上側)の方向から識別媒体1を観察すると、ホログラム形成部210のホログラム図柄、コレステリック液晶層200の色彩(例えば緑)および対象物2の裏面側の景色(透けて見える向こう側の景色)が視認できる。さらに、視野角を変化させると、コレステリック液晶層200のカラーシフトによりコレステリック液晶層200の色彩が変化して視認できる。
【0034】
(右円偏光フィルタを介して表面から観察した場合)
図4には、右回り円偏光を選択的に透過し、左回り円偏光および直線偏光を遮断する右フィルタR(右円偏光フィルタ)を介して対象物2の識別媒体1が固定された側の方向から識別媒体1を見た状態が示されている。この場合、コレステリック液晶層200からの反射光のみが視認される。すなわち、表面保護層100の側から入射した入射光のうちの右回り円偏光は、コレステリック液晶層200により反射され、右フィルタRを透過する。
【0035】
一方、対象物2の裏面(図の下側)から入射した入射光は、偏光層400、コレステリック液晶層200または右フィルタRにより遮断される。このため、背景は見えず、対象物2の識別媒体1が固定された側の方向から識別媒体1を目視した場合に比べてより鮮明に、図4に示すようにホログラム形成部210のホログラム図柄(黒い点)およびコレステリック液晶層200の色彩(例えば緑)が視認できる。さらに、この場合も視野角を変化させると、コレステリック液晶層200のカラーシフトによりコレステリック液晶層200の色彩が変化して視認できる。
【0036】
(左円偏光フィルタを介して表面から観察した場合)
図5には、左回りの円偏光を選択的に透過し、右回り円偏光および直線偏光を遮断する左フィルタL(左円偏光フィルタ)を介して対象物2の識別媒体1が固定された側の方向から識別媒体1を見た状態が示されている。この場合、コレステリック液晶層200からの反射光は視認されない。すなわち、表面保護層100から入射した入射光のうちの右回り円偏光は、コレステリック液晶層200により反射され、左フィルタLにより遮断される。
【0037】
一方、対象物2の裏面から入射した入射光は、透明な対象物2および透明な接着層500を透過し、そのうちの特定の直線偏光は、直線偏光板層420を透過する。この直線偏光板層420を透過した直線偏光は、1/4波長板層410により左回り円偏光となり、透明な接着層300、コレステリック液晶層200および透明な表面保護層100を透過する。そして、表面保護層100を透過した左回り円偏光は、左フィルタLを透過する。また、対象物2の裏面から入射した入射光の一部は、偏光層400により吸収される。このため、左円偏光フィルタを介して表面保護層100の側から識別媒体1を観察した場合、コレステリック液晶層200に形成されたホログラム形成部210のホログラム図柄は視認されず、対象物2の裏面側の景色のみが透けて視認できる。
【0038】
(識別用フィルタなしで裏面から観察した場合)
図6には、識別用フィルタを介さずに対象物2の裏面(図3の下側)から識別媒体1を目視した状態が示されている。この場合、コレステリック液晶層200からの反射光が視認されない。すなわち、表面保護層100から入射した入射光は、透明な表面保護層100を透過し、その中に含まれる左回り円偏光は、コレステリック液晶層200および透明な接着層300を透過する。その後、接着層300を透過した左回り円偏光は、1/4波長板層410により直線偏光となり、直線偏光板層420、透明な接着層500および透明な対象物2を透過する。
【0039】
一方、対象物2の裏面から入射した入射光のうちの直線偏光板層420を透過した直線偏光は、1/4波長板層410により左回り円偏光となり、接着層300、コレステリック液晶層200、表面保護層100を透過する。また、対象物2の裏面から入射した入射光のうちの右回り円偏光は、直線偏光板層420で大部分が吸収され、残りも1/4波長板での透過損失により吸収される。つまり、対象物2の裏面から入射した入射光のうちの右回り円偏光は、偏光層400により吸収される。このため、コレステリック液晶層200に右回り円偏光が届かない。このため、識別用フィルタなしで裏面から観察した場合、コレステリック液晶層200に形成されたホログラム形成部210のホログラム図柄は視認されず、対象物2の表面側の景色(透けて見える景色)のみが視認できる。
【0040】
(識別機能)
このように、識別層10が対象物2に固定された状態で、識別層10が積層された方向においてコレステリック液晶層200側から識別層10を目視した場合の見え方と、偏光層400側から識別層10を目視した場合の見え方とが異なる。そのため、右フィルタRや左フィルタLなどの識別するためのツールを介して識別媒体1を視認した場合でも真贋判定を行うことができるとともに、ツールを介さないで目視した場合でも真贋判定を行うことができる。また、真贋判定を行う方法が増加するため、識別性を高めることができ、偽造が困難になる。
【0041】
また、偏光層400はコレステリック液晶層200が反射する右回り円偏光と同じ右回り円偏光を吸収する。したがって、対象物2の裏面(図の下方向)から識別媒体1を目視した場合、コレステリック液晶層200からの反射光が視認されず、表側(図の上方向)から見た場合と見え方が異なる。すなわち、対象物2の識別媒体1が固定された側の方向から識別媒体1を目視した場合、コレステリック液晶層200のホログラム像が見え、またコレステリック液晶層200の光学特性が視認されるが、対象物2の裏面から識別媒体1を対象物2越しに目視した場合、コレステリック液晶層200からの反射光が視認されず、透明に見える。この見え方の差により、ツールを介さない真贋判定を行うことができる。
【0042】
(その他)
偏光層400がコレステリック液晶層200の表面全体を覆うように設けられている場合に限らず、偏光層400は部分的に設けられていてもよい。この場合、対象物2の識別媒体1が固定された側の方向から見た場合の見え方は図4および図5の場合と変わらないが、対象物2の裏面(図の下側)から見た場合の見え方は、偏光層400が設けられている部分のみホログラム図柄が消え、ホログラム図柄が消えた部分が際立つ。そのため、特異な見え方となり、ツールを介さないで行う真贋判定機能が高まり、識別媒体1の識別性を高めることができる。また、対象物2の全面を透明にする場合に限らず、図7に示すように、光透過性を有する透明部21と光透過性を有しない不透明部22とを有する対象物2としてもよい。
【0043】
(2)第2の実施形態
第2の実施形態は、上記第1の実施形態を変更したものである。したがって、主に変更部分について説明し、第1の実施形態と同様な構成および作用の説明は省略する。図8は、第2の実施形態にかかる識別媒体および対象物を示す断面図である。
【0044】
識別媒体3は、識別層11に位相差層600を設けている。位相差層600は、表面保護層100のコレステリック液晶層200が積層されている側の反対側に積層されている。つまり、位相差層600は、表面保護層100の外側表面に設けられている。位相差層600は、表面保護層100の表面の一部を覆うように設けられている。位相差層600は、右回り円偏光を左回り円偏光に変える、あるいは、左回り円偏光を右回り円偏光に変える。この例では、位相差層600としては、1/2波長板が利用されている。
【0045】
第2の実施形態によれば、識別用フィルタを介さずに対象物2の識別媒体3が固定された側の方向(図の上側)およびその反対の方向(図の下側)から識別媒体3を目視した場合は、第1の実施形態の場合と同じである。一方、右フィルタRを介して対象物2の識別媒体3が固定された側の方向から識別媒体3を見た場合、位相差層600に入射した入射光のうちの左回り円偏光は、位相差層600により右回り円偏光となり、コレステリック液晶層200により反射される。そして、反射された右回り円偏光は、位相差層600により左回り円偏光となり、右フィルタRにより遮断される。そのため、位相差層600を設けた部分はホログラム図柄が消え、位相差層600を設けていない部分はホログラム図柄が見えて視認される。
【0046】
また、左フィルタLを介して対象物2の識別媒体3が固定された側の方向から識別媒体3を見た場合、位相差層600に入射した入射光のうちの左回り円偏光は、位相差層600により右回り円偏光となり、コレステリック液晶層200により反射される。そして、反射された右回り円偏光は、位相差層600により左回り円偏光となり、左フィルタLを透過する。そのため、位相差層600を設けた部分はホログラム図柄が見え、位相差層600を設けていない部分はホログラム図柄が消えて視認される。
【0047】
なお、位相差層600で生じる位相差が(1/2)波長でない態様(0でない位相差を生じる層である場合)も可能である。この態様では、右フィルタRを介して識別媒体3を見た場合であっても、左フィルタLを介して識別媒体3を見た場合であっても、位相差層600において(1/2)波長でない位相差が発生するために、位相差層600がある部分のホログラム図柄が見える。なお、識別媒体を直視した場合は、第1の実施形態の場合と同様の見え方となる。
【0048】
(3)第3の実施形態
第3の実施形態は、上記第1の実施形態を変更したものである。したがって、主に変更部分について説明し、第1の実施形態と同様な構成および作用の説明は省略する。図9は、第3の実施形態にかかる識別媒体および対象物を示す断面図である。
【0049】
識別媒体4は、識別層12の偏光層401にコレステリック液晶層700を設けている。コレステリック液晶層700は、直線偏光板層420に隣接して積層されている。つまり、コレステリック液晶層700は、直線偏光板層420と接着層500との間に設けられている。コレステリック液晶層700は、コレステリック液晶層を含んだインクを用いた印刷法により形成され、直線偏光板層420の表面全体を覆うように設けられている。コレステリック液晶層700は、コレステリック液晶層200と同じ物であってもよいし違う光学特性を示すものであってもよい。すなわち、コレステリック液晶層700は、コレステリック液晶の層であれば種類は限定されない。
【0050】
第3の実施形態によれば、対象物2の識別媒体4が固定された側の方向(図の上側)から識別媒体4を目視した場合は、第1の実施形態の場合と同じである。一方、識別用フィルタを介さずに対象物2の裏面(図の下側)から識別媒体4を目視した場合、裏面側から見て、コレステリック液晶層200が反射する成分(特定波長の右回り円偏光)がコレステリック液晶層700で反射または偏光層400で吸収され、コレステリック液晶層200には届かない。このため、コレステリック液晶層200のホログラム図柄210は消え、コレステリック液晶層700の色彩が見える。また、表面保護層100の側からコレステリック液晶層200に入射し、コレステリック液晶層200を透過した成分の一部または全ては、コレステリック液晶層700も透過する。このため、識別媒体4の表側の景色が透けて見える。
【0051】
なお、コレステリック液晶層700が直線偏光層420の表面全体を覆うように設けられている場合に限らず、部分的に設けられていてもよい。また、コレステリック液晶層700にホログラム加工が施されていてもよい。
【0052】
(4)第4の実施形態
識別媒体の第4の実施形態は、上記第1の実施形態を変更したものである。したがって、主に変更部分について説明し、第1の実施形態と同様な構成の説明は省略する。図10は、第4の実施形態にかかる識別媒体および対象物を示す断面図である。
【0053】
識別媒体5は、識別層13に偏光層400を設けず偏光層の役割をするコレステリック液晶層800を設けている。コレステリック液晶層800は、コレステリック液晶層200を構成するコレステリック液晶と同様の光学特性を示すものとされている。すなわち、コレステリック液晶層800は、コレステリック液晶層200が反射する特定波長(例えば緑)を含む右回り円偏光を選択的に反射し、その他の成分を透過する。なお、コレステリック液晶層200が反射する偏光の波長域よりもコレステリック液晶層800が反射する偏光の波長域は広くても構わない。
【0054】
第4の実施形態によれば、対象物2の識別媒体5が固定された側の方向から識別媒体5を目視した場合は第1の実施形態の場合と同じであり、識別用フィルタを介さずに対象物2の裏面から識別媒体5を目視した場合はコレステリック液晶層200のホログラム図柄210は消え、コレステリック液晶層800の色彩が見え、且つ、向こう側が透けて見える。すなわち、裏面側から見て、コレステリック液晶層200が反射する成分がコレステリック液晶層800で反射され、コレステリック液晶層200には届かない。このため、コレステリック液晶層200のホログラム図柄210は消え、コレステリック液晶層800の色彩が見える。また、表面保護層100の側からコレステリック液晶層200に入射し、コレステリック液晶層200を透過した成分の一部または全ては、コレステリック液晶層800も透過する。このため、識別媒体5の表側の景色が透けて見える。言い替えると、裏面側から見て、対象物2を介して、識別媒体5の向こう側が透けて見える。
【0055】
なお、コレステリック液晶層800が全体を覆うように設けられている場合に限らず、部分的に設けられていてもよい。また、コレステリック液晶層800にホログラム加工が施されていてもよい。
【0056】
(5)その他の実施形態
識別媒体1に切れ込みを入れ、対象物2から剥がそうとした場合に、その切れ込みから識別媒体1が破れ、再利用ができなくなるようにしてもよい。こうすることで、識別媒体1の不正な再利用を防ぐことができる。この原理を利用することで、パッケージの開封の有無を識別する開封識別シールを得ることができる。
【0057】
また、識別媒体1を構成する一部の層に識別媒体1を対象物2から剥がそうとした際に、層間破壊が生じる構成を付与することもできる。この構成の具体例としては、接着層300や接着層500が剥離を起こす前に、コレステリック液晶層200の層構造が物理的に破壊され、積層された方向で分離するように調整する例を挙げることができる。この調整は、コレステリック液晶層200の製造時における温度条件を調整することで実現することができる。
【0058】
さらに、接着層500を設けず、識別層10〜13をタグのように貼り付けずに単独で使用してもよい。また対象物2は、一部が光透過性を有しているものであってもよい。この場合、光透過性の部分が、裏面側から観察した場合の視覚効果に寄与する。また、適用される物品は、キャッシュカードや身分証明書であってもよい。この場合、キャッシュカードや身分証明書の少なくとも一部に透明な部分(透かし部分)を設け、そこを対象物2として実施形態に示した構成を適用すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、真贋判定に利用される識別媒体に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】識別媒体および対象物を示す断面図である。
【図2】コレステリック液晶層の構造を概念的に示す概念図である。
【図3】識別媒体を視認する場合を示す断面図である。
【図4】右フィルタを介して表面から識別媒体を見た場合を示す図である。
【図5】左フィルタを介して表面から識別媒体を見た場合を示す図である。
【図6】目視により裏面から識別媒体を見た場合を示す図である。
【図7】光透過性を有する部分を一部に有する対象物を示す図である。
【図8】第2の実施形態にかかる識別媒体および対象物を示す断面図である。
【図9】第3の実施形態にかかる識別媒体および対象物を示す断面図である。
【図10】第4の実施形態にかかる識別媒体および対象物を示す断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1…識別媒体、2…対象物、10…識別層、200…コレステリック液晶層、400…偏光層、410…1/4波長板層、420…直線偏光板層、500…接着層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
右回りまたは左回り円偏光を反射するコレステリック液晶層と、前記コレステリック液晶層に積層され、特定の偏光を透過する偏光層と、を有する識別層を備え、
前記識別層が積層された方向において前記コレステリック液晶層側から前記識別層を目視した場合の見え方と、前記偏光層側から前記識別層を目視した場合の見え方とが異なることを特徴とする識別媒体。
【請求項2】
前記偏光層は、前記コレステリック液晶層が反射する円偏光と同じ円偏光を吸収するまたは反射することを特徴とする請求項1に記載の識別媒体。
【請求項3】
前記偏光層は、前記コレステリック液晶層に積層され、直線偏光を右回りまたは左回り円偏光に変える、あるいは、右回りまたは左回り円偏光を直線偏光に変える1/4波長板層と、前記1/4波長板層に積層され、直線偏光を透過する直線偏光板層とを有することを特徴とする請求項1または2に記載の識別媒体。
【請求項4】
光透過性を有する対象物に前記識別層を固定するための固定層を有し、
前記固定層は、光透過性を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の識別媒体。
【請求項5】
光透過性を有する対象物と、
請求項1〜4のいずれか一項に記載された識別媒体とを備えた物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−117381(P2010−117381A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272713(P2008−272713)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】