説明

譜面台装置

【課題】 安定した装着を安全に且つ容易に行うと共に、鍵盤楽器の外観を向上させる。
【解決手段】 固定部材72の端部72a、72bと取付部材71、支持部材73の各一端部71a、73aとがそれぞれ軸支され、固定部材72は譜面板79に固着され、取付部材71は屋根板部61の上面61aに係合ボルト76及びネジ77で固着される。支持部材73が係止部71cに係止されることで、譜面板79が立設状態で支持される。譜面板79の下端面79cと譜面保持面79aとは鋭角を成し、下端面79cと上面61aとの間に小さな間隙S1が生じる。立設状態のまま譜面台ユニットMSUを後方にスライド移動させ、係合穴71dの小穴71d2に係合ボルト76の首部76bを嵌合し、締結用穴83を介して、ネジ77で取付部材71を屋根板部61に固着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵盤楽器等に備えられる譜面台装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鍵盤楽器の屋根板等の載置台上に譜面板を立設して成る譜面台装置が知られている(例えば、下記特許文献1)。この装置では、載置台に固定される取付板と、譜面板に固定される固定板と、固定板の上端に軸支された支持板とを有し、支持板の自由端を取付板に係止して、これら3部材で側面視三角形状を成すようにし、譜面板をやや後倒させた立設状態に維持するようにしている。取付板は、載置台に対してネジ等で固着される。
【特許文献1】特許331709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1の譜面台装置では、取付板を載置台に対して固着する際、通常、ドライバ等の作業工具で上方から固着作業を行うが、固着部分の上方には立設された譜面板の上端部が存在するため、そのままでは作業工具と譜面板とが干渉しやすく、固着作業を行いにくい。そのため、通常、譜面板を一旦前方に起こす必要がある。このことから、立設時における譜面板の下端面(倒設時における前端面)が載置台と干渉しないように、該下端面と載置台との間に適当な間隙を設けておく必要がある。このような間隙が存在することで、固着作業時や譜面板の立設/倒設操作時にこの間隙に指や異物を挟むおそれがあり、安全でないばかりか、前方からの見栄えもよくないという問題があった。
【0004】
あるいは、仮に、取付板の前後長を十分に長く形成し、取付板の後部に固着部分を配置したとすると、固着作業時における作業工具と譜面板との干渉は避けられるが、取付板が大型化して作業性が悪くなるだけでなく、取付板の主に前部における載置台との固定強度が弱くなって固定状態が安定しない。
【0005】
また、上記特許文献1の譜面台装置において、譜面受け部は、載置台である屋根板上に設けられるので、譜面位置が比較的高く、見やすさの点では改善の余地があった。
【0006】
ところで、前後にスライド開閉されるスライド開閉蓋を備えた鍵盤楽器においては、一般に、閉蓋時において楽器本体内部が見えないように、スライド開閉蓋で楽器本体内部を目隠しするように構成される。しかしながら、その場合、スライド開閉蓋の前後長が長くなることから、開蓋時におけるスライド開閉蓋の収容スペースを確保するために、結果的に、楽器本体の奥行きが長くなるという問題があった。その一方、楽器本体内部の目隠しだけのために部材を別途設けるとすると、構成が複雑化するだけでなく、外観上も良好でない。
【0007】
本発明は上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その第1の目的は、安定した装着を安全に且つ容易に行うと共に、鍵盤楽器の外観を向上させることができる譜面台装置を提供することにある。
【0008】
本発明の第2の目的は、譜面を低くて見やすい位置に適切な状態で保持することができる譜面台装置を提供することにある。
【0009】
本発明の第3の目的は、譜面受け部が楽器本体内部の目隠し機能を果たせるようにして、スライド開閉蓋を有する楽器本体の奥行きを短くすると共に、構成を複雑化することなく鍵盤楽器の外観を向上させることができる譜面台装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記第1の目的を達成するために本発明の請求項1の譜面台装置は、後倒された立設状態で譜面保持面(79a)にて譜面(84)を保持する譜面板(79)と、屋根板(61)に取り付け可能な取付部材(71)と、前記譜面板に固定され、一端部(72a)が前記取付部材の一端部(71a)に回動自在に支持された固定部材(72)と、一端部(73a)が前記固定部材の他端部(72b)に回動自在に支持されると共に他端部(73b)が前記取付部材の一部(71c)に係止されることで前記譜面板を前記立設状態に維持する支持部材(73)と、前記屋根板において前記取付部材に対向する部分(61a)に設けられた係合部材(76)とを有し、前記譜面板は、前記立設状態における下端面(79c)が前記譜面保持面に対して鋭角を成し、前記取付部材は、前記係合部材に対応して設けられ該係合部材と係合して当該取付部材を前記屋根板に対して仮固定するための被係合部(71d)と、当該取付部材の後部(71b)において前記被係合部より後方に位置し固着具(77)により当該取付部材を前記屋根板に対して固着するための固着部(83)とを有し、前記譜面板を前記立設状態に維持したまま、前記取付部材をスライド移動させて前記被係合部を前記係合部材に係合させた後、前記固着部において上方から前記固着具で前記取付部材を前記屋根板に対して固着できるように構成したことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、取付部材をスライド移動させて屋根板に仮固定した後、固着部において上方から固着具で固着するので、取付部材の屋根板への装着が容易である。また、固着部は、取付部材の後部に位置するので、固着作業の際に、譜面板を一旦前方に起こす必要がないことから、立設状態における譜面板の下端面と譜面保持面とが鋭角を成し、且つ、譜面保持面の最下端と屋根板上端との間隙(S1)を小さく設定することが可能となる。譜面板を一旦前方に起こす必要がなく、且つ間隙を小さくできることから、固着作業時や譜面板の立設/倒設操作の際に、指や異物を間隙に挟むことがなく、安全で、装着作業も容易である。間隙を小さくすることで、意匠的にも見栄えがよい。また、固着部より前方において係合部材と被係合部とが係合して取付部材が屋根板に対して仮固定されるので、固着部のみで固定される場合に比し、取付部材が屋根板に安定して固定される。よって、安定した装着を安全に且つ容易に行うと共に、鍵盤楽器の外観を向上させることができる。
【0012】
上記第2の目的を達成するために本発明の請求項2の譜面台装置は、屋根板と、前記屋根板の前部から斜め前方下方に垂下して設けられた前板部と、前記屋根板の前部から立設された譜面板と、前記屋根板より下に位置し、譜面(84)の下端を保持する譜面受け部(63)とを有し、前記前板部の前面(62a)と前記譜面板の前面(79a)とが面一に形成され、これら両面が協働して前記譜面の背面を保持するように構成されたことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、譜面受け部が屋根板より下に位置するので、譜面位置を低くすることができる。前板部の前面と譜面板の前面とが面一に形成され、これら両面が協働して譜面の背面を保持するので、譜面を保持する面に段差がなく、譜面を適切に保持することができると共に、外観が良好である。よって、譜面を低くて見やすい位置に適切な状態で保持することができる。また、外観を向上させることができる。
【0014】
上記第3の目的を達成するために本発明の請求項3の譜面台装置は、前後方向にスライドすることで開閉されるスライド開閉蓋(42)を有する鍵盤楽器に備えられる譜面台装置であって、屋根板と、前記屋根板の前部から斜め前方下方に垂下して設けられ、譜面(84)の背面を保持する前板部(62)と、前記スライド開閉蓋の閉蓋状態時に、前記スライド開閉蓋の後部(42a)と前記前板部の下部(62b)とを橋渡しするような位置に設けられ、前記譜面の下端を保持する譜面受け部(63)とを有することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、譜面受け部は、閉蓋状態時においてスライド開閉蓋の後部と前記前板部の下部とを橋渡しするような位置に設けられるので、譜面の下端を保持するだけでなく、楽器本体内部を目隠しする。従って、楽器本体内部の目隠しのためにスライド開閉蓋の前後長を長くする必要がないことから、開蓋時におけるスライド開閉蓋の収容スペースが小さくて済む結果、楽器本体の奥行きを短くすることができる。また、目隠し専用の部材を設ける場合に比し、構成が簡単で、意匠的にも有利である。よって、譜面受け部が楽器本体内部の目隠し機能を果たせるようにして、スライド開閉蓋を有する楽器本体の奥行きを短くすると共に、構成を複雑化することなく鍵盤楽器の外観を向上させることができる。
【0016】
なお、上記括弧内の符号は例示である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の請求項1に係る譜面台装置によれば、安定した装着を安全に且つ容易に行うと共に、鍵盤楽器の外観を向上させることができる。
【0018】
本発明の請求項2係る譜面台装置によれば、譜面を低くて見やすい位置に適切な状態で保持することができる。
【0019】
本発明の請求項3に係る譜面台装置によれば、譜面受け部が楽器本体内部の目隠し機能を果たせるようにして、スライド開閉蓋を有する楽器本体の奥行きを短くすると共に、構成を複雑化することなく鍵盤楽器の外観を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0021】
図1(a)は、本発明の一実施の形態に係る譜面台装置が適用される鍵盤楽器の上半部の斜視図である。図1(b)は、同鍵盤楽器1の上半部の右側面図である。図2は、鍵盤楽器本体KBU及び屋根ユニットRUの分解図である。
【0022】
鍵盤楽器1は、大まかには、支持体ユニットSUに、鍵盤楽器本体KBU及び屋根ユニットRUを組み付けて成る。さらに、屋根ユニットRUには、譜面台ユニットMSUが装着される。以降、鍵盤楽器1及び譜面台ユニットMSUの前後左右の方向は、譜面台ユニットMSUが装着された状態において奏者を基準として呼称する。
【0023】
鍵盤楽器本体KBUは、左右両側に配設された、山板に相当する側板41と、左右の側板41の後部同士を連結する背板46と、左右の側板41間に配設された不図示の鍵盤と、該鍵盤を覆う蓋体42とを有する。鍵盤楽器本体KBUにおいて、右側と左側とは左右対称であって構成が同様であり、図1(b)、図2では、右側の構成を図示している。
【0024】
図2に示すように、鍵盤楽器本体KBUにおいて、蓋体42の後部42aの左右両側には、各1つのピニオンギヤ47が取り付けられる。また、各ピニオンギヤ47に対応し、各ピニオンギヤ47と噛み合う各1つのラック48が、鍵盤楽器本体KBUの後半部に設けられている(図1(b)も参照)。蓋体42はスライド開閉式となっており、前後に付勢されることで、ピニオンギヤ47が対応するラック48上を転がり、蓋体42が前後方向に移動する。
【0025】
図1(b)、図2に示すように、両側板41の内側には、屋根ユニットRUの前板部62(後述)が当接する当接部材50、51と、固定部材43とが固定されている。この固定部材43には、図2に示すように、屋根ユニットRUを取り付けるための屋根ユニット取り付け金具44が取り付けられている。
【0026】
屋根ユニット取り付け金具44の上面部には、前後方向に長い保持穴44aが形成され、この保持穴44aの前部は幅が広い幅広部分となっている(詳細は図示せず)。また、屋根ユニット取り付け金具44の上面部は、後方にいくにつれて低くなっている(図2参照)。この保持穴44aには、後述する係合用ボルト64が係合し、屋根ユニットRUを鍵盤楽器本体KBUに固定する役割の一部を果たす。
【0027】
図2に示すように、屋根ユニットRUは、屋根板部61と、屋根板部61の前部から斜め前下方に延びる前板部62とが一体に形成され、さらに、前板部62の下部に譜面受け部材63が取り付けられて構成される。屋根板部61において、左右両端部の下面には、スペーサ65を介して、屋根ユニット取り付け金具44に対応する係合用ボルト64が取り付けられている。また、屋根板部61の左右両端部における後部下面には、固着用金具66が取り付けられている。さらに、前板部62の下部62bの後面には、側面視「ヘ」字状の固定金具67の一片が2つのネジ52で固定され、この固定金具67の他片に、譜面受け部材63の下面がネジ69で固定されている。譜面受け部材63は、譜面84の下端を保持する役割を果たす。これと共に、後述するように、譜面板79の譜面保持面79aと前板部62の前面62aとが協働して譜面84の背面を保持する(図2参照)。
【0028】
図1(b)に示すように、蓋体42の閉蓋状態において、譜面受け部材63は、蓋体42の後部42aと前板部62の下部62bとを橋渡しするような位置に位置し、鍵盤楽器本体KBUの内部を目隠している。これにより、鍵盤楽器本体KBUの内部の目隠しのために、蓋体42の後部42aを後方に長く延設する必要がなく、蓋体42の前後長を短くすることができることから、開蓋時における蓋体42の収容スペースが小さくて済む結果、鍵盤楽器本体KBUの奥行きを短くすることができる。また、譜面受け部材63は、譜面84の下端を保持する機能をも果たすものであるので、目隠し専用の部材を設ける場合に比し、構成が複雑化しない。さらに、譜面受け部材63は前部ほど厚み(高さ)が厚くなっており、これにより、前方からみた見栄えもよくなっている。
【0029】
また、譜面受け部材63は、屋根板部61の上面61aより十分に低い位置に配置されており、その分だけ譜面84が低い位置に保持される。これにより、例えば、屋根板部61の上面61aに譜面受け部材を設けた場合に比し、低くて見やすい位置に譜面84を保持することができる。
【0030】
上記屋根ユニット取り付け金具44の保持穴44aは、係合用ボルト64の頭部より狭く、保持穴44aの上記幅広部分は、係合用ボルト64の頭部より広くなっている。屋根ユニットRUを鍵盤楽器本体KBUに組み付ける際には、屋根ユニットRUを前方から後方に移動させつつ、係合用ボルト64の頭部を保持穴44aの幅広部分に挿入し、側板41上を、屋根ユニットRUを後方にスライドさせる。屋根ユニット取り付け金具44の上面部は、後方にいくにつれて低くなっているので(図2参照)、屋根ユニットRUを後退させるほど、係合用ボルト64と保持穴44aとの係合により、係合用ボルト64の頭部が屋根ユニット取り付け金具44の上面部から下方への付勢力を受け、これにより、屋根ユニットRUが側板41側に押しつけられる。
【0031】
そして、固着用金具66が背板46に当接するまで屋根ユニットRUを後退させる。このとき、屋根ユニットRUの前板部62も、当接部材50、51と当接する。この状態で、固着用金具66を背板46に螺着固定することで、屋根ユニットRUが鍵盤楽器本体KBUに組み付けられる。また、前板部62の下部62bには、モニタ用スピーカ68(68L、68R)が内装されている(図1(b)も参照)。
【0032】
譜面台ユニットMSUは、屋根板部61の上面61aに着脱自在に装着される(図1(b)参照)。図2に示すように、譜面台ユニットMSUは、可倒式の譜面板79のほか、取付部材71、固定部材72及び支持部材73を備える。譜面板79は、図2に示すように、やや後倒された立設状態(以下、単に「立設状態」と称する)で使用され、譜面84を保持する。立設状態では、取付部材71、固定部材72及び支持部材73が側面視で三角形状を呈し、これらが譜面板支持装置70を構成する。図1に示すように、譜面板支持装置70は、譜面板79の左右両端部において同じ構成のものが配置される。従って、譜面板支持装置70については一方のものの構成のみ説明する。
【0033】
また、譜面受け部材63には、譜面押さえ部80(80L、80R)が設けられる。譜面押さえ部80L、80Rは、図1に示すように、左右方向における譜面板79の両端部より内側位置において譜面受け部材63に配設される。
【0034】
図3(a)は、譜面台ユニットMSUの要部の側面図、同図(b)は取付部材71の平面図、同図(c)は譜面押さえ部80(80R)の平面図である。譜面押さえ部80L、80Rは左右対称に同様に構成されるので、譜面押さえ部80については、図3(c)を用いて、代表して右側の譜面押さえ部80Rの構成を説明する。
【0035】
まず、図3(a)に示すように、譜面板支持装置70において、固定部材72の一端部72aと取付部材71の一端部71aとは、回動軸部74で軸支され、固定部材72の他端部72bと支持部材73の一端部73aとは、回動軸部75で軸支されている。取付部材71の他端部71bには、上方に屈曲形成された係止部71cが設けられている。固定部材72は、譜面板79の裏面(後面)にネジ78で固着される。取付部材71は、屋根板部61の上面61aに係合ボルト76及びネジ77で固着される。これにより、譜面板79が、回動軸部74を中心として、屋根板部61に対して回動自在にされる。また、支持部材73は、回動軸部75を中心として回動し、その自由端部73bが取付部材71の係止部71cに係止されることで、譜面板79を支持する。このとき、譜面板支持装置70が側面視三角形状を呈し、譜面板79が立設状態となる。
【0036】
係合ボルト76は、首部76bと、首部76bより大径の頭部76aとが屋根板部61の上面61aから突出しており、頭部76aが上面61aから首部76bの分だけ浮いた状態で屋根板部61に螺合されている。また、図3(b)に示すように、取付部材71には、係合ボルト76に対応する位置に、平面視ひょうたん型の係合穴71dが貫通して設けられている。係合穴71dは、係合ボルト76の頭部76aより大径の大穴71d1と、係合ボルト76の首部76bとほぼ同径の小穴71d2とが繋がって形成され、大穴71d1の方が後方に位置している。また、取付部材71の後部71bであって、係合穴71dの後方には、ネジ77を螺合するための締結用穴83が2つ設けられる。
【0037】
譜面台ユニットMSUは、通常、鍵盤楽器本体KBUに屋根ユニットRUを組み付けた後に装着される。譜面台ユニットMSUは次のようにして屋根ユニットRUに装着される。
【0038】
すなわち、まず、支持部材73の自由端部73bを取付部材71の係止部71cに係止して、譜面板支持装置70を側面視三角形状とした状態(譜面板79は立設状態に相当している)のまま、係合穴71dの大穴71d1に係合ボルト76の頭部76aを通し、取付部材71を屋根板部61の上面61aに当接させる。次に、上記状態のまま、上面61a上を、譜面台ユニットMSUを後方にスライド移動させて、係合穴71dの小穴71d2に係合ボルト76の首部76bを係合させる。首部76b後端に小穴71dが突き当たったとき、小穴71d2と首部76bとが嵌合し、譜面台ユニットMSUの位置が、ほぼ適切な位置となるようになっている。また、係合ボルト76の頭部76aと屋根板部61の上面61aとの間隙は、取付部材71の厚みとほぼ同じに設定されており、これにより、小穴71d2と首部76bとが嵌合したとき、係合ボルト76の頭部76aが取付部材71を簡易的に固定する役割を果たす。
【0039】
その後、取付部材71の後部71bを、締結用穴83を介して、ネジ77で屋根板部61に螺着固定する。この固着作業は、例えば、ドライバを上方からネジ77の頭に差し込んで回転操作することでなされる。ここで、締結用穴83が取付部材71の後部71bに位置しているので、図2に示すように、立設状態にある譜面板79の最後部となっている、譜面板79の上部後縁79bのうち最も後方にある部分が、締結用穴83乃至ネジ77の鉛直方向の延長線L1上にほぼ位置する。
【0040】
ここで、図1に示すように、譜面板79は正面視で扇形、すなわち、譜面板79の上部は正面視で円弧状に形成され、立設時の上下方向の長さは、左右方向における中央が最も長く、左右にいくほど短くなっている。従って、譜面板79を立設したとき、譜面板79の上端後縁79bは、左右端に近いほど前方に位置する。そのため、図3(b)に示すように、締結用穴83の鉛直上に限ってみれば、譜面板79の上端後縁79bの位置は、締結用穴83の中心位置より十分に前方にある。従って、締結用穴83乃至ネジ77の鉛直上においては、延長線L1上に譜面板79が近接して存在することがない。
【0041】
このことから、ネジ77の螺着作業時においてドライバと譜面板79とが干渉することがなく、上方からの固着作業が支障なく行える。このようにして、譜面板79を一旦前方に起こすことなく、立設状態を維持したまま譜面台ユニットMSUを装着することができる。しかも、譜面板支持装置70が、扇型の譜面板79の左右両端部に近い位置に配置されたことで、ドライバと譜面板79との干渉回避を確保する上で、締結用穴83の位置を極力前方に位置させることができ、すなわち、取付部材71の奥行きを短く設定することができる。なお、ネジ77のドライバ等による螺着作業を一層容易にする観点からは、締結用穴83の位置は、立設状態にある譜面板79の最後部よりも十分に後方であることが望ましい。
【0042】
ところで、取付部材71、固定部材72は板状に構成される。支持部材73も板状に構成されるが、その自由端部73bを取付部材71の係止部71cに係止した状態では、ネジ77の上方に位置する支持部材73の部分には肉部が存在しないように形成され、ドライバ操作の邪魔にならないようになっている。なお、支持部材73は、ネジ77の位置を避けるように構成すれば、棒状部材で構成してもよい。
【0043】
係合穴71dは取付部材71の前半部に位置し、締結用穴83は取付部材71の後部71bに位置していることで、取付部材71を屋根板部61に固着したとき、前後のバランスがよく、前後方向の力を受けてもぐらつき等がなく安定している。従って、取付部材71を後部においてのみ(ネジ77のみで)固着した場合に比し、譜面板79の立設状態がより安定的に維持される。
【0044】
ここで、図3(a)に示すように、譜面板79の下端面79cは、譜面板79の前面である譜面保持面79aに対して鋭角を成す。また、譜面板79の立設状態において、譜面板79の下端面79cと屋根板部61の上面61aとは略平行で、両者間には小さな間隙S1が生じている。間隙S1が小さく、しかも取付部材71を屋根板部61に固着する際に譜面板79を前方に起こす必要がないことから、間隙S1に指や異物を挟むことがなく、安全で、譜面台ユニットMSUの装着作業も容易である。それだけでなく、間隙S1が小さいことから、意匠的にも見栄えがよい。
【0045】
譜面板79は、図2に、倒設状態の譜面板79(P1)及び支持部材73(P1)を示すように、支持部材73の係止部71cとの係止を解くことで倒すことができる。支持部材73の係止部71cとの係止及び係止解除の際には、図2に譜面板79(P2)を示すように、譜面板79を僅かに前方に起こす必要があるが、その際の必要変位量は僅かであるので、上記間隙S1も小さくて足りる。間隙S1が小さいことで、譜面板79の立設/倒設操作時においても、間隙S1に指や異物を挟むおそれが少ない。
【0046】
また、譜面板79を立設状態にしたとき、図2、図3(a)に示すように、譜面板79の譜面保持面79aと前板部62の前面62aとは面一になる。これら譜面保持面79a及び前面62aは、協働して譜面84の背面を保持する。従って、譜面84を背後から保持する面の途中に段差がなく、譜面84を適切に保持することができる。それだけでなく、譜面84を載置していない状態においては、譜面保持面79a及び前面62aが面一であること、及び間隙S1が小さいことから、外観上も良好となっている。しかも、モニタ用スピーカ68の前端面も前板部62の前面62aと面一となっており、外観の向上に寄与している。
【0047】
図2に示すように、譜面押さえ部80は、譜面受け部材63に内装される。図3(c)に示すように、譜面押さえ部80は、指掛け用凹部81と譜面押さえ棒82とで構成される。譜面押さえ棒82は、回動部82aで左右方向に回動し、自由端部の立設及び倒設が可能となっている。上記したように、譜面受け部材63は厚く形成されており、譜面押さえ部80を内装するスペースが確保されている。従って、譜面押さえ部80が譜面受け部材63の下方に突出することがなく、蓋体42と干渉しないように譜面押さえ部80を設けることが容易となっている。すなわち、譜面受け部材63を厚く形成したことにより、スペースを有効に利用して譜面押さえ部80が配置されるだけでなく、譜面受け部材63に重厚感があって意匠的にも良好である。
【0048】
本実施の形態によれば、譜面板79を立設状態に維持したまま譜面台ユニットMSUを後方にスライド移動させ、係合穴71dの小穴71d2に係合ボルト76の首部76bを嵌合し、締結用穴83を介して、ネジ77で取付部材71を屋根板部61に固着できるように構成し、且つ譜面板79の下端面79cと屋根板部61の上面61aとの間隙S1を小さくしたので、譜面台ユニットMSUの安定した装着を安全に且つ容易に行うと共に、鍵盤楽器1の外観を向上させることができる。
【0049】
本実施の形態によればまた、譜面板79の立設状態において、譜面板79の譜面保持面79aと前板部62の前面62aとが面一となって、協働して譜面84の背面を保持するので、譜面84を背後から保持する面に段差がなく、譜面84を適切に保持することができると共に外観も良好である。しかも、譜面受け部材63は、屋根板部61の上面61aより低い位置に配置されているので、低くて見やすい位置に譜面84を保持することができる。
【0050】
本実施の形態によればまた、譜面受け部材63は、蓋体42の後部42aと前板部62の下部62bとを橋渡しするような位置に設けられて、譜面84の保持機能だけでなく、鍵盤楽器本体KBUの内部を目隠しする役割を果たすので、蓋体42の前後長を長くする必要がないことから、スライド開閉型の蓋体42を有する本鍵盤装置1において、鍵盤楽器本体KBUの奥行きを短くすることができる。また、目隠し専用の部材を設ける場合に比し、構成が簡単で、意匠的にも有利であり、外観向上に寄与する。
【0051】
さらに、厚く形成した譜面受け部材63に譜面押さえ部80を内装したので、蓋体42に干渉することなく譜面押さえ部80を設けることが容易であり、配置スペースを有効に利用できるだけでなく、譜面受け部材63の厚みにより外観も良好である。
【0052】
なお、本実施の形態では、譜面台ユニットMSUの装着時において、譜面台ユニットMSUを後方にスライド移動させることで、係合穴71dの小穴71d2に係合ボルト76の首部76bを係合させたが、譜面台ユニットMSUの移動方向は後方に限定されず、係合穴71dの形を変更すると共に、左右方向または斜め方向に移動させる構成であってもよい。
【0053】
なお、譜面受け部材63が鍵盤楽器本体KBU内部の目隠し機能を果たせるようにして、鍵盤楽器本体KBUの奥行きを短くすることに限っていえば、譜面台ユニットMSUの有無は問わず、例えば、前板部62の前面62aを延長し、この前面62aのみで譜面84の背面を保持する構成であってもよい。
【0054】
なお、譜面板79は、支持部材73の自由端部73bを取付部材71の係止部71cに係止することで立設されたが、自由端部73bを係止する箇所は、取付部材71の一部であればよく、必ずしも他端部71bに設けた係止部71cでなくてもよい。
【0055】
なお、係合ボルト76及び係合穴71dは、取付部材71の仮固定機能、好ましくはさらに仮位置決め機能を果たすような、鉤状等の係合部とこれに対応する被係合部の組み合わせであればよく、必ずしも頭部76a、首部76b、及び大穴71d1、小穴71d2を有する構成に限定されるものではない。
【0056】
なお、取付部材71を屋根板部61に固着する固着部は、締結用穴83に限定されず、固着具もネジ77に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施の形態に係る譜面台装置が適用される鍵盤楽器の上半部の斜視図(図(a))、及び同鍵盤楽器の上半部の右側面図(図(b))である。
【図2】鍵盤楽器本体及び屋根ユニットの分解図である。
【図3】譜面台ユニットの要部の側面図(図(a))、取付部材の平面図(図(b))、及び譜面押さえ部の平面図(図(c))である。
【符号の説明】
【0058】
42 蓋体(スライド開閉蓋)、 42a 後部、 61 屋根板部(屋根板)、 61a 上面(対向する部分)、 62 前板部、 62a 前面、 62b 下部、 63 譜面受け部材、 71 取付部材、 71a 一端部、 71b 他端部(後部)、 71c 係止部(取付部材の一部)、 71d 係合穴(被係合部)、 72 固定部材、 72a 一端部、 72b 他端部、 73 支持部材、 73a 一端部、 73b 自由端部(他端部)、 76 係合ボルト(係合部材)、 77 ネジ(固着具)、 79 譜面板、 79c 下端面、 79a 譜面保持面(前面)、 83 締結用穴(固着部)、 84 譜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後倒された立設状態で譜面保持面にて譜面を保持する譜面板と、
屋根板に取り付け可能な取付部材と、
前記譜面板に固定され、一端部が前記取付部材の一端部に回動自在に支持された固定部材と、
一端部が前記固定部材の他端部に回動自在に支持されると共に他端部が前記取付部材の一部に係止されることで前記譜面板を前記立設状態に維持する支持部材と、
前記屋根板において前記取付部材に対向する部分に設けられた係合部材とを有し、
前記譜面板は、前記立設状態における下端面が前記譜面保持面に対して鋭角を成し、
前記取付部材は、前記係合部材に対応して設けられ該係合部材と係合して当該取付部材を前記屋根板に対して仮固定するための被係合部と、当該取付部材の後部において前記被係合部より後方に位置し固着具により当該取付部材を前記屋根板に対して固着するための固着部とを有し、
前記譜面板を前記立設状態に維持したまま、前記取付部材をスライド移動させて前記被係合部を前記係合部材に係合させた後、前記固着部において上方から前記固着具で前記取付部材を前記屋根板に対して固着できるように構成したことを特徴とする譜面台装置。
【請求項2】
屋根板と、
前記屋根板の前部から斜め前方下方に垂下して設けられた前板部と、
前記屋根板の前部から立設された譜面板と、
前記屋根板より下に位置し、譜面の下端を保持する譜面受け部とを有し、
前記前板部の前面と前記譜面板の前面とが面一に形成され、これら両面が協働して前記譜面の背面を保持するように構成されたことを特徴とする譜面台装置。
【請求項3】
前後方向にスライドすることで開閉されるスライド開閉蓋を有する鍵盤楽器に備えられる譜面台装置であって、
屋根板と、
前記屋根板の前部から斜め前方下方に垂下して設けられ、譜面の背面を保持する前板部と、
前記スライド開閉蓋の閉蓋状態時に、前記スライド開閉蓋の後部と前記前板部の下部とを橋渡しするような位置に設けられ、前記譜面の下端を保持する譜面受け部とを有することを特徴とする譜面台装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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