説明

豆乳様の鍋物調味液

【課題】鍋の中で、大豆粉及び醤油を含有する水性溶液により、野菜や肉などの具材を煮込んだ際に、大豆粉由来の凝集や沈殿ができにくい、大豆粉及び醤油を主体とする新規な鍋物調味液を得る。
【解決手段】大豆粉と炭酸水素ナトリウムを水に懸濁した懸濁液を加熱してpH7.5以上の豆乳様組成物を得、調味液を混合後、これを耐熱性容器に充填し、レトルト殺菌して豆乳様の鍋物調味液を得る。または、大豆粉、炭酸水素ナトリウム及び豆乳とを水に懸濁し、加熱してpH7.5以上の豆乳様組成物を得、豆乳以外の調味液を混合後、これを耐熱性容器に充填し、レトルト殺菌して豆乳様の鍋物調味液を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆粉及び醤油を主体とする新規な鍋物調味液に係り、特に具材と一緒に加熱調理したときに、煮汁に大豆粉由来の凝集や沈殿ができにくい、鍋物調味液に関する。
【背景技術】
【0002】
豆乳鍋は、鍋の中で、豆乳及び醤油を含有する調味液により、野菜や肉などの具材を煮込んで賞味する料理である。
従来、豆乳と野菜汁と乾燥おから粉末とを含有する調味料が知られている(例えば、特許文献1参照)が、大豆粉及び醤油とを含有する鍋物調味液は知られていない。
【0003】
また、大豆粉を、鍋の中で、醤油の水希釈液と共に添加使用し、野菜や肉などの具材を煮込むと、該大豆粉は該具材からの出てくる煮汁成分の影響により、煮汁中で凝集又は沈殿し、コクとうまみが弱くなってしまう。
【0004】
【特許文献1】特開2006−254803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、鍋の中で、大豆粉及び醤油を含有する水性溶液により、野菜や肉などの具材を煮込んだ際に、大豆粉由来の凝集や沈殿ができにくい、大豆粉及び醤油を主体とする新規な鍋物調味液を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、大豆粉と炭酸水素ナトリウムを水に添加懸濁し、加熱してpH7.5以上の豆乳様組成物を得、調味液を混合後、これを耐熱性容器に充填し、レトルト殺菌するときは、上記課題を解決できることを知った。本発明者らは、この知見に基いて本発明を完成した。すなわち本発明は、以下に示す鍋物調味液である。
(1)大豆粉と炭酸水素ナトリウムを水に懸濁し、加熱してpH7.5以上の豆乳様組成物を得、調味液を添加混合後、これを耐熱性容器に充填し、レトルト殺菌することを特徴とする鍋物調味液。
(2)大豆粉、炭酸水素ナトリウム及び豆乳を水に懸濁し、加熱してpH7.5以上の豆乳様組成物を得、豆乳以外の調味液を添加混合後、これを耐熱性容器に充填し、レトルト殺菌することを特徴とする鍋物調味液。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、鍋の中で、大豆粉及び醤油を含有する水性溶液により、野菜や肉などの具材を煮込んだ際に、該大豆粉由来の凝集や沈殿の少ない新規な鍋物調味液を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
大豆粉としては、全粒の大豆、脱皮した大豆、または脱脂加工大豆を微粉砕して得た粉末が挙げられる。
【0009】
醤油としては、通常の醤油醸造法により得られる濃口醤油、淡口醤油、溜醤油、白醤油、再仕込醤油等の任意の醤油が挙げられる。
【0010】
調味液としては、豆乳、味醂、ソース、酒類、食酢、果汁、食塩、糖類、エキス、有機酸類、アミノ酸類、呈味性核酸類、味噌、香料、香辛料、着色料、ビタミン、保存料、増粘剤の1種又は2種以上を適宜の濃度で含有する水性溶液が挙げられる。
上記豆乳としては、大豆を水に浸してすりつぶし、水を加えて煮つめ、ろ過しておからを除去したもの、または、大豆を蒸煮したのち、磨砕して、ろ過したのち、おからを除去したもの、及び市販の豆乳が挙げられる。
【0011】
本発明においては、上記水性溶液に対して炭酸水素ナトリウムを添加することが重要であって、他のアルカリ、例えば、水酸化ナトリウムを用いるときは煮汁中の凝集物の発生を顕著に抑制することが期待できない。
【0012】
本発明を実施するには、先ず、大豆粉と炭酸水素ナトリウムを水に添加懸濁するか、あるいは、大豆粉と炭酸水素ナトリウムを水に添加懸濁し、さらに豆乳を加えて、次いでこれを加熱してpH7.5以上の豆乳様組成物を得る。
【0013】
上記の加熱処理は、60〜80℃で、5〜30分間、開放下で撹拌しながら行なう。この加熱により、pH7.5以上の豆乳様組成物を容易に得ることができる。本発明においてpH7.5以上とすることは重要であって、それ未満においては、大豆粉由来の凝集や沈殿の少ない鍋物調味液を得ることができない。これに対し、pH7.5以上においては、大豆粉由来の凝集や沈殿の少ない鍋物調味液を得ることができるので好ましい。
【0014】
上記豆乳様組成物を耐熱性容器に充填し、レトルト殺菌する方法としては、該組成物を、一般的なレトルトパウチに充填し、必要により脱気した後、密封(加熱シール)し、品温100℃以上、好ましくは115〜130℃で、その温度においての必要殺菌時間、例えば、5分〜60分レトルト処理すると同時に調味加工処理する方法が挙げられる。例えば、蒸気式のレトルト装置、熱水レトルト装置などで圧力0.8〜1.7kg/cm2(ゲージ圧)、115〜130℃の条件で、5〜60分程度処理を行なうことが好ましい。そして、圧力1.0〜1.5kg/cm2(ゲージ圧)、121〜127℃で5〜60分程度処理を行なうことがより好ましい。
【0015】
鍋物に使用する具材としては、通常の鍋物に使用される白菜、ねぎ、春菊などの野菜、豚肉、鶏肉などの肉類、鮭、たら、えび、かになどの魚介類、豆腐、こんにゃくなどが挙げられる。
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0016】
(全粒大豆粉及び醤油を用いた鍋物調味液の製造)
粒径0.4mm以下の全粒大豆粉末30gを水200mlに懸濁し、炭酸水素ナトリウム約1gを添加し、ホモミキサーで均質化したものにさらに水200mlを加え、70℃で10分間加熱撹拌し、pH8.0の全粒大豆粉末懸濁液を得た。この全粒大豆粉末懸濁液に、淡口醤油20ml、昆布エキス10g、砂糖5g、グルタミン酸ナトリウム1g、イノシン酸2ナトリウム0.1gを混合し、食塩と水を適量加えて、食塩濃度1.0%(w/v)、pH7.2の豆乳様組成物1000mlを得た。
次いで、この組成物をスタンディング・レトルトパウチに充填し、脱気した後ヒートシール(密閉)し、最後に、これを加圧加熱殺菌釜に入れ、120℃、45分の条件でレトルト殺菌を行ない、本発明の新規鍋物調味液を得た。
【0017】
(比較例1)
上記実施例1の鍋物調味液の製造において、炭酸水素ナトリウムを使用しないこと以外は全く同様に処理して比較例1の鍋物調味液を得た。なお、鍋物調味液製造工程中、70℃で10分間加熱撹拌後の全粒大豆粉末懸濁液はpH6.9であった。
【0018】
(比較例2)
上記実施例1の鍋物調味液の製造法において、70℃10分間の加熱撹拌を行なわないこと以外は全く同様に処理して比較例2の鍋物調味液を得た。なお、鍋物調味液製造工程中、全粒大豆粉末懸濁液は、pH7.2であった。
【0019】
(比較例3)
上記実施例1の鍋物調味液の製造法において、炭酸水素ナトリウムの代わりに水酸化ナトリウムを使用する以外は、全く同様にして比較例3の鍋物調味液を得た。なお、鍋物調味液製造工程中、70℃で10分間加熱撹拌後の全粒大豆粉末懸濁液は、pH8.0であった。
【0020】
(鍋物での豆乳凝集試験)
上記実施例1、比較例1、比較例2及び比較例3の鍋物調味液を使用して、鍋料理を作り、煮汁の凝集状況を比較した。
すなわち、土鍋に上記本発明、比較例1、同2及び同3の鍋物調味液を入れ、加熱して90℃以上になってから、具材を投入した。具材は、白菜、豚肉を常法に従って適当な大きさに切断したものを使用した。具材投入後、調味液の温度が90℃以上になってから、10分間煮沸したのち、具材をすべて取り除き、鍋に残った煮汁中の凝集物をコップに一定量採り、肉眼で確認した。
表1に具材投入加熱後の煮汁中の凝集物についての観察結果を示した。
【0021】
【表1】

【実施例2】
【0022】
(全粒大豆粉、豆乳及び醤油を用いた鍋物調味液の製造)
粒径0.4mm以下の全粒大豆粉末30gを水200mlに懸濁し、炭酸水素ナトリウム約1gを添加し、ホモミキサーで均質化したものにさらに市販の豆乳100gを加え、70℃で10分間加熱撹拌し、pH8.0の全粒大豆粉末懸濁液を得た。この全粒大豆粉末懸濁液に、淡口醤油20ml、昆布エキス10g、砂糖5g、グルタミン酸ナトリウム1g、イノシン酸2ナトリウム0.1gを混合し、食塩と水を適量加えて、食塩濃度1.0%(w/v)、pH7.2の豆乳様組成物1000mlを得た。
次いで、この組成物をスタンディング・レトルトパウチに充填し、脱気した後ヒートシール(密閉)し、最後に、これを加圧加熱殺菌釜に入れ、120℃、45分の条件でレトルト殺菌を行ない、本発明の新規鍋物調味液を得た。この調味液に具材を入れて、鍋料理としたときの大豆粉末及び豆乳の凝集や沈殿が少なく、濃厚でコクのある味であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆粉と炭酸水素ナトリウムを水に懸濁し、加熱してpH7.5以上の豆乳様組成物を得、調味液を添加混合後、これを耐熱性容器に充填し、レトルト殺菌することを特徴とする鍋物調味液。
【請求項2】
大豆粉、炭酸水素ナトリウム及び豆乳を水に懸濁し、加熱してpH7.5以上の豆乳様組成物を得、豆乳以外の調味液を添加混合後、これを耐熱性容器に充填し、レトルト殺菌することを特徴とする鍋物調味液。

【公開番号】特開2009−232802(P2009−232802A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85523(P2008−85523)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【Fターム(参考)】