説明

豆乳発酵物含有調味液

【課題】醤油、水性調味液及び豆乳発酵物を混和し、醤油由来の色調を抑制し、明るい色調を有し、食品又は食品素材の色調を損なうことの少ない豆乳発酵物含有調味液を得ることを課題とする。
【解決手段】窒素濃度0.4%(w/v)以上かつ色沢がJAS40番以上である淡色醤油を含有する水性調味液、低pH条件下でも凝固、凝集が起こりにくい粘度が6.0Pa・s以上の豆乳発酵物及び澱粉を均一に混和し、加熱して、醤油を用いるにもかかわらず醤油由来の色調を抑制し、明るい色調を有し、適度な塩味とこく味を有する豆乳発酵物含有調味液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、醤油を用いるにもかかわらず醤油由来の色調を抑制し、明るい色調を有する豆乳発酵物含有調味液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、醤油を含有する豆乳含有ドレッシングが販売されているが、該豆乳含有ドレッシングは茶色ないし茶褐色を呈しているために、使用後において食品や料理の色合いが全体に黒ずんでしまい、料理素材の色合いを明るい色調に保って、見た目を美しい状態に保つことができない欠点を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、醤油を含有しているにもかかわらず醤油由来の色調を抑制し、明るい色調を有し、食品に対し及び調理に際し添加された場合に、その食品又は食品素材の色調を損なうことが非常に少なく、適度な塩味とこく味を有する豆乳発酵物含有調味液を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、窒素濃度0.4%(w/v)以上かつ色沢がJAS40番以上である淡色醤油、粘度が6.0Pa・s以上の豆乳発酵物、及び澱粉を用いて、明るい色調を有する豆乳発酵物含有調味液を調製するときは本発明の課題を解決することができることを知り、この知見に基いて本発明を完成した。
【0005】
すなわち本発明は、以下に関する。
(1)窒素濃度0.4%(w/v)以上かつ色沢がJAS40番以上である淡色醤油を含有する水性調味液、粘度が6.0Pa・s以上の豆乳発酵物、及び澱粉を均一に混和し、加熱してなる豆乳発酵物含有調味液。
(2)窒素濃度0.4%(w/v)以上かつ色沢がJAS40番以上である淡色醤油を、豆乳発酵物含有調味液に対して10〜35%(v/v)含有する上記(1)に記載の豆乳発酵物含有調味液。
(3)L値が55.0以上、a値が3.0以下、b値が17.0以下の色調を有する上記(1)又は(2)に記載の豆乳発酵物含有調味液。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、醤油を含有しているにもかかわらず醤油由来の色調を抑制し、明るい色調を有する豆乳発酵物含有調味液を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(豆乳)
粘度が6.0Pa・s以上の豆乳発酵物を得るために使用する豆乳は、任意の豆乳が使用できるが、3%(w/w)以上、特に4〜16%(w/w)の大豆固形分、及びシュークロス、マルトース、スタキオース又はラフィノースから選択される1種以上の糖を3%(w/w)以上、特に5〜15%(w/w)含有する豆乳が好ましい。
【0008】
(乳酸菌)
粘度が6.0Pa・s以上の豆乳発酵物は、豆乳に乳酸菌を添加して乳酸発酵することにより得られるが、ここに用いられる乳酸菌としては、発酵によって多糖等粘性に寄与し得る物質を多く生産できる菌種が好ましい。そのような乳酸菌としては、例えば、Leuconostoc mesenteroides、Leuconostoc paramesenteroides、Leuconostoc pseudomesenteroides、Leuconostoc citreum、Leuconostoc dextranicumなどが挙げられる。より具体的には、例えばLeuconostoc pseudomesenteroides (ATCC12291株)、Leuconostoc citreum (NRIC1579株)、Leuconostoc paramesenteroides (NISL7218株)が挙げられる。なお、上記菌種名に関し、NRICとは東京農業大学応用生物科学部菌株保存室が保存する菌株を意味し、NISLとは、財団法人野田産業科学研究所が保存する菌株を意味する。
これらの乳酸菌は、豆乳の発酵工程において多糖を生産し、粘度6.0Pa・s以上の滑らかなクリーム状の物性を有する豆乳発酵物を安定的に製造することができるので好ましい。
【0009】
(乳酸発酵)
豆乳の発酵には公知の方法を用いればよく、例えば、豆乳に糖類を添加し、そこに前述の乳酸菌を加えて発酵させ、豆乳の粘性を高めるために好適な培養時間と培養条件、例えば30〜35℃で4時間以上発酵を行わせ、適宜発酵物の粘度を測定しながら発酵させる方法が挙げられる。このようにして豆乳の粘度が6.0Pa・s以上、特に6.0〜20.0Pa・sの豆乳発酵物が得られる。
【0010】
(粘度が6.0Pa・s以上である豆乳発酵物)
本発明において粘度が6.0Pa・s以上である豆乳発酵物を使用することが好ましい。すなわち、粘度が6.0Pa・s未満の豆乳発酵物を使用するときは、該豆乳発酵物と水性調味液とを混合した場合に、pH4.5以下の低pH条件下となると調味液が凝固、凝集を起こしやすくなる。これに対し粘度が6.0Pa・s以上である豆乳発酵物を使用するときは、pH4.5以下の低pH条件下となる場合でも調味液が凝固、凝集しなくなり均質安定性に優れた豆乳発酵物含有調味液が得られるので好ましい。
【0011】
(水性調味液)
次に本発明で使用する、窒素濃度0.4%(w/v)以上かつ色沢がJAS40番以上である淡色醤油としては、醤油を活性炭、脱色樹脂、限外濾過膜、逆浸透膜などを用いて処理して色調を淡色にした醤油、あるいは通常の白醤油の製造法により調製された白醤油、あるいはペントーザンの少ない澱粉質原料(精白大麦)、あるいはペントーザン(フスマ分)の少ない加工小麦を原料として製造した淡色醤油などが挙げられる。
【0012】
この醤油の窒素濃度が0.4%(w/v)未満であるときは、風味、特に旨味に富んだ製品が得られないので好ましくない。
また、色沢がJAS40番未満である醤油の使用では、醤油由来の色調を抑制し、明るい色調を有する豆乳発酵物含有調味液を容易に得ることができないので好ましくない。
【0013】
本発明では、前記淡色醤油を含有する水性調味液を使用するが、該水性調味液は、任意の水性の調味液を意味し、上記醤油以外に食酢、リンゴ酢、ワインビネガー等の各種の酢;味醂、みりん風調味料等の甘味調味料;ワインや日本酒等の酒類;清澄なだし汁やアミノ酸液等の旨味液等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0014】
これらの水性調味液を使用し、トマト、にんじん、タマネギ、にんにく、ゴマ等の野菜の加工処理物(ピューレ、ペースト、練状物、細断粒状物、磨砕物、粉末など);リンゴ、ゆず、オレンジ、モモ、イチゴ、パイナップル、ミカン、ブドウ等の果実、果汁の加工処理物(同上);しょうが、にんにく、唐辛子、豆板醤、ナツメグ、セージ、タイム、シナモン等の香辛料の処理物(同上);グルタミン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、核酸系調味料等の化学調味料などの調味基材を適宜混和して本発明の豆乳発酵物含有調味液が得られる。これらは、淡色若しくは脱色された原料を選択することが好ましく、濃色原料にあっては、その使用量を制限して淡色の水性調味液を調製することが好ましい。
【0015】
(粘度が6.0Pa・s以上の豆乳発酵物、水性調味液及び澱粉の配合)
本発明において粘度が6.0Pa・s以上である豆乳発酵物を10〜35%(w/w)使用することは重要である。
添加量が10%未満であるときは、均質化(又は乳化)がうまく行かず、乳化力が不足してpH4.5以下で良好な乳化状態(均質状態)が得られない。また、反対に豆乳発酵物の配合量が35%より多い場合、その他の調味基材との配合バランスにより、水性調味液の風味成分が希薄なものとなるので好ましくない。
【0016】
これに対し10〜35%(w/w)使用するときは、簡単な攪拌機により均一に乳化し、豆乳発酵物含有調味液が得られる。すなわち、ドレッシングなどとして嗜好性を満たし得る低pH条件にありながらも、特殊な水溶性ヘミセルロースなどを添加することなく、低pH条件下でも凝固、凝集が起こりにくい豆乳発酵物含有調味液を得ることが可能となる。
また、澱粉の使用割合は0.3〜1.0%(w/w)が好ましい。この範囲のときは、0.6〜3.0Pa・sの豆乳発酵物含有調味液を容易に得ることが可能となるので好ましい。澱粉としては、天然澱粉及び化工澱粉が挙げられる。天然澱粉としては、馬鈴薯澱粉、甘薯澱粉、タピオカ澱粉、及び葛澱粉などの地下澱粉、並びにとうもろこし澱粉、小麦澱粉、及び米澱粉などの地上澱粉が挙げられる。化工澱粉としては、酸処理澱粉、酸化澱粉などの可溶性澱粉、デキストリンなどの分解澱粉、並びに置換澱粉、架橋澱粉、及び置換架橋澱粉などの澱粉誘導体が挙げられる。いずれの澱粉も使用することができるが、豆乳発酵物含有調味液の分離を良好に防止できるため、好ましくは架橋澱粉が望ましい。
以下、実験例及び実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、それらの例により、何ら限定されるものではない。
【0017】
(実験例1)
淡色醤油の調製
通常の火入濃口醤油(色沢;JAS12番、窒素濃度1.72%(w/v))を特許第2866765号公報記載の図1に示す装置(逆浸透膜ユニット;NTR−7450、日東電気工業社製、S−4型、濾過面積7.0m)で濾過処理した。濾過液を熱交換機により35℃に保持し、循環ポンプ(運転条件30.0kg/cm・G、20L/分の割合で循環)を用いて、2.5時間かけて濃縮度が2.0倍になった時点で本操作を終了させ、色沢;JAS40番、窒素濃度1.30%(w/v)の淡色醤油0.5kLを得た。
【0018】
(実験例2)
1.粘度6.15Pa・sの豆乳発酵物の調製
(1)豆乳の調製
大豆固形分14%の無調製豆乳に対して、フィルターろ過済みの20%のシュークロス溶液を等量加えることで、終濃度において10%シュークロスを含有する大豆固形分7%の豆乳を調製した。調製した上記豆乳を滅菌済みのカップ等の容器に充填した。
(2)乳酸菌の調製
乳酸菌(Leuconostoc paramesenteroides NISL7218株)を乳酸菌用調製培地(1.0%大豆ペプトン、0.5%酵母エキス、1.0%グルコース、0.5%酢酸ナトリウム)にて30℃、20時間培養した。培養液10mLを遠心分離(3,000g×5min)して、菌体を回収した。
(3)発酵
上記(2)の回収菌体を、調製した豆乳に全量添加し、30℃、24時間恒温状態にて発酵を行い、豆乳発酵物を得た。
【0019】
2.豆乳発酵物の評価
粘度
上記により得られた豆乳発酵物の粘度を、B型粘度計(分析条件:No.3ローター、25℃、12〜60回転)を用いて測定した。Leuconostoc paramesenteroides NISL7218株を用いて発酵させた場合は、6.15Pa・sという高い粘度の豆乳発酵物が得られることが判明した。
【実施例1】
【0020】
(本発明1)
豆乳発酵物を含有し、淡色醤油を添加した調味液の調製
実験例2で得られた粘度6.15Pa・sの豆乳発酵物を用いて、表1に示す配合割合で各原材料を機械的に均一に攪拌混合し、95℃で2分間加熱して明るい色調の豆乳発酵物含有均調味液(本発明1)を得た。
【0021】
【表1】

【0022】
(比較例1)
豆乳発酵物を含有し、食塩水を添加した調味液の調製
また、比較のため上記本発明1の方法において、実験例1で得られた「色沢;JAS40番、窒素1.30%(w/v)」を用いる代わりに食塩水を用いる以外は全く同様にして、明るい色調の豆乳発酵物含有調味液(比較例1)を得た。
実施例1の調味液を比較例1の調味液と、色調について比較したところ殆ど見分けがつかないものであった。すなわち、本発明の調味液は醤油を用いているにもかかわらず、醤油を用いないものと見分けがつかないほどの非常に明るい色調のものであることが判明した。また、官能評価においても適度な塩味とこく味を有し、全体的な味なバランスが良好な豆乳発酵物含有調味液であった。
【0023】
(比較例2)
豆乳発酵物を含有し、火入濃口醤油を添加した調味液の調製
比較のため、上記本発明1の方法において、実験例1で得られた「色沢;JAS40番、窒素1.30%(w/v)」を用いる代わりに、「火入濃口醤油(色沢;JAS12番、窒素1.72%(w/v))」を用いる以外は全く同様にして、豆乳発酵物含有調味液(比較例2)を得た。この豆乳発酵物含有調味液は淡茶色を呈しており、見た目に美しいものではなかった。
表2に比較例1、本発明1及び比較例2についての色調の比較データを示す。また、比較例1、本発明1及び比較例2の調味料の一定量を分取し、その色調を観察し、写真撮影した。結果を図1に示す。本発明1では、L値が55.0以上60.0以下、a値が1.7以上3.0以下、b値が15.0以上17.0以下となり、比較例2と比較して、非常に色調の明るい調味液が得られることがわかった。
【0024】
【表2】

【0025】
上記比較例1、本発明1、及び比較例2の結果から、本発明により、醤油を用いるにもかかわらず醤油由来の茶色ないし茶褐色以外の明るい色調を有する豆乳発酵物含有調味液が得られた。
【0026】
(比較例3)
豆乳発酵物を含有し、うす口醤油を添加した調味液の調製
比較のため、上記本発明1の方法において、実験例1で得られた「色沢;JAS40番、窒素1.30%(w/v)」を用いる代わりに、通常のうす口醤油を用いる以外は全く同様にして、豆乳発酵物含有調味液(比較例3)を得た。この豆乳発酵物含有調味液は本発明1と同様に明るい色調のものであったが、官能評価においては、塩味が強く、こく味が失われ、全体の味のバランスを失っていた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】比較例1、本発明1、比較例2における各調味液の色調を示す図面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素濃度0.4%(w/v)以上かつ色沢がJAS40番以上である淡色醤油を含有する水性調味液、粘度が6.0Pa・s以上の豆乳発酵物、及び澱粉を均一に混和し、加熱してなる豆乳発酵物含有調味液。
【請求項2】
窒素濃度0.4%(w/v)以上かつ色沢がJAS40番以上である淡色醤油を、豆乳発酵物含有調味液に対して10〜35%(v/v)含有する請求項1に記載の豆乳発酵物含有調味液。
【請求項3】
L値が55.0以上、a値が3.0以下、b値が17.0以下の色調を有する請求項1又は2に記載の豆乳発酵物含有調味液。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−319129(P2007−319129A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155811(P2006−155811)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【Fターム(参考)】