説明

豚増殖性腸炎原因菌(L.intracellularis)に対するモノクロナール抗体

【課題】ローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)に特異的な抗体及びこの抗体を用いる、ローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)感染の簡易検査方法を提供する。
【解決手段】豚由来のローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)およびウサギ由来のローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)を認識するモノクロナール抗体。豚由来のローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)を感染させたBALBマウスから得られる脾臓リンパ球とミェローマ細胞とを細胞融合させ、ローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)に特異的なモノクロナール抗体産生ハイブリドーマを選択し、選択したハイブリドーマを増殖させ、産生するモノクロナール抗体を採取することを含む、ローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)に特異的なモノクロナール抗体の製造方法。上記のモノクロナール抗体を用いて、検体中のローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)を検出または定量することを含む、ローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豚増殖性腸炎原因菌(L.intracellularis)に対するモノクロナール抗体に関する。さらに本発明は、この抗体の製造方法およびこの抗体を用いる豚増殖性腸炎原因菌(L.intracellularis)の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
豚増殖性腸炎は米国およびEU諸国で流行がみられる主に幼豚の難治性下痢症の原因疾患の一つであり、症例によっては致死的経過をとるものも少なくない。非臨床型を示すものでは、増体量が著しく低下し、経済的影響は少なくない。本症は近年日本および韓国においても発症増加傾向がみられ、養豚業界では注意すべき疾患の一つとなっている。本症原因菌は豚のみならず、実験動物コロニーでのウサギやサルでの発症、獣医臨床領域では犬や馬での報告もみられ、獣医・畜産領域では次第に重要な感染症に位置づけられるようになっている。
【0003】
豚増殖性腸炎の診断は原因菌の人工培地による培養が非常に難しいことから、細菌学的診断は実施されていない。簡易診断法として、血清を用いた抗原プレートによる診断がなされているが(本邦では塩野義油日ラボが独占的に実施)、非特異反応が強く、汎用されていない。そのため本症については糞便を用いたPCR法による生前診断がなされている。
【0004】
しかしながら、PCR法による生前診断は、手技が煩雑で大量の検体に不向きであること、畜産現場での対応が難しいことから、より簡便な診断法の開発が望まれている。
【0005】
死亡豚あるいは検定殺豚に対する病理組織学的診断については、特異抗体を用いた免疫組織化学的診断法により確定診断する必要がある。
【0006】
L.intracellularisに対する抗体に関しては、文献的にはこれまでに4種類のモノクロナール抗体(IG4 MAb, 2001MAb, LsaA MAb,Law1-DK MAb)と1種類のポリクロナール抗体(1999PAb)が報告されている(非特許文献1〜4)。
【非特許文献1】Vet Rec 121:421-422 (1988)
【非特許文献2】Infection and Immunity, 70(6):2899-2907
【非特許文献3】J Vet Diagn Invest 15:438-446 (2003)
【非特許文献4】Vet Microbiol 105:199-206 (2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特異抗体は市販されておらず、そのため、 L.intracellularis特異抗体の開発・市販化が望まれている。また、生前診断のために、糞便中の抗原を認識し、高感度の簡易診断法である、ELISA法およびイムノクロマト法等の開発についても要望が強い。これら簡易診断法の開発には大量の抗原の作製と、糞便中の菌の簡易精製法の提供が大きな課題になっている。
【0008】
そこで本発明の目的は、ローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)に特異的な抗体を提供することにある。
【0009】
さらに本発明の目的は、上記特異的な抗体を用いる、ローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)感染の簡易検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下のとおりである。
[1]豚由来のローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)およびウサギ由来のローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)を認識するモノクロナール抗体。
[2]ウエスタンブロッティングにおいて約25kDの分子量部位に陽性バンドを示す[1]に記載のモノクロナール抗体。
[3]ハイブリドーマ(Mouse-Mouse Hybridoma Law 5-5(FERM AP-21401))が産生するモノクロナール抗体である[2]に記載のモノクロナール抗体。
[4]ウエスタンブロッティングにおいて22〜23kD付近の分子量部位に陽性バンドを示す[1]に記載のモノクロナール抗体。
[5]ハイブリドーマ(Mouse-Mouse Hybridoma Law79-4(FERM AP-21402)) が産生するモノクロナール抗体である[4]に記載のモノクロナール抗体。
[6]ウサギ糞便に含まれるローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)に対して陽性を示す[1]〜[5]のいずれかに記載のモノクロナール抗体。
[7]豚由来のローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)を感染させたBALBマウスから得られる脾臓リンパ球とミエローマ細胞とを細胞融合させ、ローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)に特異的なモノクロナール抗体産生ハイブリドーマを選択し、選択したハイブリドーマを増殖させ、産生するモノクロナール抗体を採取することを含む、ローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)に特異的なモノクロナール抗体の製造方法。
[8]モノクロナール抗体が[1]〜[6]のいずれかに記載の抗体である[7]に記載の製造方法。
[9][7]に記載の方法により製造された抗体。
[10][1]〜[6]および[9]のいずれかに記載のモノクロナール抗体を用いて、検体中のローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)を検出または定量することを含む、ローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)の検出方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、糞便中のローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)に特異的に反応する抗体を提供することができる。さらに、本発明の抗体を用いることで、上記菌の簡易精製法を提供できる。
【0012】
本感染症の診断は上記したように、病理学的あるいはPCR法によりなされてきた。これに加え免疫組織化学的手法による確定診断および本発明に係る抗体を利用した簡易診断法により生前診断が可能となり、養豚界ではall-in-all-outにより清浄化を可能とする。さらに、本発明は、豚のみならず広い動物種に応用可能であることから、獣医・畜産領域において感染症診断・減少に有効なツールとなり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
モノクローナル抗体は、一般的には次のような工程で作製される。
1.抗原(免疫原)の調製
2.抗原による動物の免疫
3.細胞融合
4.モノクローナル抗体のスクリーニング
5.抗体産生細胞の増殖と凍結
本発明のローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)を認識するモノクロナール抗体の作製もこの工程にしたがって作製される。
【0014】
1.抗原(免疫原)の調製
Lawsonia感染豚消化管より、ウサギポリクロナール抗体を用いて菌を収集することで、免疫原を調製する。ウサギポリクロナール抗体は、ローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)の表面抗原として既知であるLsaA抗原の41から56番目までのアミノ酸の合成ペプチドを作成し、アジュバンドとともに二回ウサギに免疫することで得られる。この抗体を磁気ビーズに固定し、感染豚消化管内の菌を抗原抗体反応により吸着させ、免疫原を収集することができる。
【0015】
2.収集菌によるBALBマウスの免疫
上記方法で収集した免疫原である菌をアジュバンドとともにBALBマウス腹腔内に接種することで、マウスを免疫する。マウスを免疫する場合、動物種および抗原に対する免疫応答能力が重要なポイントとなる。一般に、免疫に用いる動物種とミェローマ細胞の動物種が同一の場合には、ハイブリドーマが効率よく形成される。特に、マウス由来のミェローマ細胞が全てBALB/cマウスを起源にしているために、免疫動物のマウスの系統は、BALB/cマウスが適していると考えられる。この場合、脾細胞とミェローマ細胞が共にBALB/c由来であり、得られるハイブリドーマはBALB/cの腹腔内で増殖できるため、特別な処理なしで腹水から、高濃度のモノクローナル抗体を得ることができる。
【0016】
免疫は、多くのタンパク質抗原、多糖類抗原については、1〜100μgの抗原と等量のフロイント完全アジュバントを混合してエマルジョンを作製し、腹腔または皮下に投与することで行うことができる。アジュバントの働きは十分には分かっていないが、少なくとも2つの重要な働きがあると考えられている。1つは、抗原が速やかに処理されるのを防ぐ働きで、いま1つは、非特異的な免疫反応を惹起して目的の抗原に対する免疫反応を起こりやすくする働きである。一般に広く用いられているのは前者で、水溶液とのエマルジョンを作製して使用する。最近では、リポソームや合成サーファクタントなどもアジュバントとして用いられている。後者では、Lipid Aや死菌が用いられている。現在最も用いられている死菌は、Bordetalla pertussisとMycobacterium tuberculosisである。Mycobacterium tuberculosisはフロイント完全アジュバントに加えられている死菌である。その活性部位はムラミルジペプチド(MDP)に存在することが明らかにされており、様々な性状MDPが市販されている。このように、抗原を保持する物質と非特異的に免疫反応を惹起する物質を組み合わせてアジュバント(死菌を含む)として使用することができる。一般には、初回免疫にはフロイント完全アジュバント、追加免疫には不完全アジュバント(死菌を含まない)が用いられることが多い。アジュバントの最適な選択および組み合わせは当業者であればルーチンの実験により容易に行うことができるので、このようにして選択された組み合わせは本発明に包含される。
【0017】
初回免疫後2〜3週の間隔で1ないし数回の追加免疫を行う。追加免疫の直前、およびその1週間後、試験的に採血し抗体価を測定する。抗体価の一番上がったマウスを選び追加免疫し実験に供する。
【0018】
3.細胞融合
上記で免疫したマウス脾臓リンパ球をミエローマ細胞と融合させ、ハイブリドーマを作製する。細胞融合に関しては基本的には、ミルステタンらの方法(Galfre,G. & Milstein,C.,Methods Enzymol.73:3-46,1981)に準じて行うことができる。モノクローナル抗体作製に用いられる代表的なマウスラインのミェローマ細胞は、P3-X63-Ag8、P3-X63-Ag8U1、X63Ag8.653、SP2/0-Ag14、FO、NSI/1-Ag4-1、NSO/1、FOX-NYであるが、これらの細胞株は全てP3K株由来である。P3Kは、鉱物油で誘発されたBALB/cマウス由来のミェローマ株MOPC21由来の細胞で、P3KのHGPRT遺伝子をもたない細胞株として得られたのがP3とMS-1である。
【0019】
4.モノクローナル抗体のスクリーニング
細胞融合後、クローニングにより数百や数千種類のハイブリドーマが得られる。これのハイブリドーマについて、その培養上精を例えば、10種類ずつプールし、全プールをそれぞれ一次抗体として、免疫組織化学的に検定を行い、さらに、それらの中から比較的活性の高いプールを選択し、一つずつのハイブリドーマについて、再度免疫組織化学的に検定を行い、目的とする抗体産生するハイブリドーマを選択する。免疫組織化学的検定は、ウサギのLawsoniaおよびブタのLawsoniaの両方を認識し、かつ高力価を有するといった特異性の高い抗体を選択するように行う。
【0020】
5.抗体産生細胞の増殖と凍結
スクリーニングで検出された陽性ウエルには目的の細胞が含まれているはずである。ところが継代を続けていくと、別の細胞との生存競争に敗れたり、染色体が脱落したりして、目的の細胞がなくなってしまう事態に陥ることがある。このような事態に備えて、クローニングを行う一方で、細胞を凍結しておくこともできる。
【0021】
以下の実施例では、細胞融合後、クローニングにより約4000種類のハイブリドーマを得た。通常であれば4000種類のハイブリドーマからは相当数の有用抗体がスクリーニングされることが期待されるが、これらの中から、非特異性がなく、ブタおよびウサギ両方のLawsoniaを認識し、かつ力価の高いものは、5-5抗体および79-4抗体の二種類のみであった。5-5抗体を産生するハイブリドーマ(Mouse-Mouse Hybridoma Law 5-5)および79-4抗体を産生するハイブリドーマ(Mouse-Mouse Hybridoma Law79-4)は、それぞれ茨城県つくば市東1-1-1 つくばセンター 中央第6、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに2007年10月18日に「FERM AP-21401」および「FERM AP-21402」として寄託(受領)されている。
【0022】
5-5抗体
5-5抗体は、以下の性質を有する。
(1)免疫組織化学的に菌特異的に茶褐色で示される陽性像が得られる。
(2)ウサギおよびブタ感染消化管生材料を用いて実施したウエスタンブロッティング(WB)では、約25kDに陽性シングルバンドが得られる。
(3)ウサギ糞便中の菌に対して反応性を示す。
【0023】
79-4抗体
79-4抗体は、以下の性質を有する。
(1)免疫組織化学的に菌特異的に茶褐色で示される陽性像が得られる。
(2)ウサギおよびブタ感染消化管生材料を用いて実施したウエスタンブロッティング(WB)では、22〜23kD付近に陽性シングルバンドが得られる。
(3)ウサギ糞便中の菌に対して反応性を示す。
【0024】
本発明は、ローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)の検出方法を包含し、この方法は、上記本発明のモノクロナール抗体を用いて、検体中のローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)を検出または定量することを含む。検出方法は、具体的には、上記本発明の抗体を用いたELISA法またはイムノクロマト法等でしることができる。ELISA法およびイムノクロマト法自体は公知の方法である。
【0025】
さらに、本発明の検出方法においては、モノクローナル抗体(5-5抗体および79-4抗体)は、それらをそのまま用いることもできるが、これの抗体をトリプシン、パパイン、ペプシンなどの酵素により処理して、場合によっては還元して得られるFab、Fab'、F(ab')を抗体の代わりに用いることもできる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0027】
抗体の作製
Lawsonia感染豚消化管より、ウサギポリクロナール抗体により菌を収集し、それをアジュバンドとともにBALBマウス腹腔内に接種した。同マウス脾臓リンパ球をミェローマ細胞(SP2株)と融合させ、ハイブリドーマを作製した。ハイブリドーマの培養については融合細胞の収量を高めるために、細胞増殖因子(Briclone)添加リンパ球培養液(GIT)を用いて行った。
【0028】
クローニングにより得られたハイブリドーマはローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)の表面抗原として既知であるLsaA抗原の41から56番目までのアミノ酸の合成ペプチドを固定したELISAプレートにより一次スクリーニングを実施し、陽性反応を示す約4000種類のハイブリドーマが得られた。このハイブリドーマ約4000種類について、その培養上精を10種類ずつプールし、計400プールをそれぞれ一次抗体として、感染豚およびウサギ消化管組織のパラフィン切片に対して免疫組織化学的に検定を行った。免疫組織化学的に陽性反応を示したハイブリドーマの中から非特異反応が少なく、かつ比較的活性の高いものを40プール選択し、一つずつのハイブリドーマについて(計400個)、再度免疫組織化学的に検定を行った。この間、プールした抗体では高い反応性が得られたものも、一つずつに分けるとほとんど活性がないものばかりであったり、非特異性が非常に強いものばかりであったり、あるいはウサギのLawsoniaに対しては反応するものの、ブタのそれには反応性がないものなど、両方を認識し、なおかつ高力価を有するといった特異性の高い抗体のスクリーニングは煩雑さとデリケートさが求められた。
【0029】
通常であれば4000種類のハイブリドーマからは相当数の有用抗体がスクリーニングされることが期待されたが、これらの中から、非特異性がなく、ブタおよびウサギ両方のLawsoniaを認識し、かつ力価の高いものは5-5抗体、79-4抗体の二種類しか得ることができなかった。
【0030】
上記で得られたローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)に特異的なモノクロナール抗体産生ハイブリドーマを培養し、培養上精中に産生されるモノクロナール抗体を採取した。この培養上精を適当な倍率で希釈したものを以下の抗体の検定において使用した。
【0031】
抗体の検定
免疫組織化学的検定はLawsonia感染ウサギおよびブタ消化管パラフィン標本に対して実施した。結果は図1に示す。免疫組織化学的に菌特異的に茶褐色(出願用の図面では黒色に見える)で示される陽性像が得られた。
【0032】
上記免疫組織化学的染色方法では抗体を含む培養上清を1,000倍希釈して実施した。それにもかかわらず、豚由来のローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)およびウサギ由来のローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)の両抗原に対して十分な反応性が得られ、本発明の抗体が高い力価を有することを示した。
【0033】
ウエスタンブロッティング(WB)についてはウサギおよびブタ感染消化管生材料を用いて実施した。結果は図2に示す。WBではシングルバンドとして陽性が得られた。5-5抗体では約25kD付近に陽性バンドが得られ、 79-4抗体では22〜23kD付近に陽性バンドが得られた。
【0034】
上記ウエスタンブロッティング法では抗体を含む培養上清を2,000倍希釈して実施した。それにもかかわらず、豚由来のローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)およびウサギ由来のローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)の両抗原に対して十分な反応性が得られ、本発明の抗体が高い力価を有することを示した。
【0035】
ウサギ糞便中の抗体の反応性についても検討を行った。結果は図3に示す。
糞便における検索においても図3に示すように抗体は菌に対して陽性を示し、また、対照陰性抗体では反応は得られなかった。
【0036】
上記糞便中の菌の検索も抗体を含む培養上清を1,000倍希釈して実施した。それにもかかわらず、豚由来のローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)およびウサギ由来のローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)の両抗原に対して十分な反応性が得られ、本発明の抗体が高い力価を有することを示した。
【0037】
このことから、本抗体は免疫組織化学的およびWBによる診断に加え、糞便中の菌の検索に対しても有用であることが検証できた。
【0038】
文献的にはこれまでに4種類のモノクロナール抗体(IG4 MAb, 2001 MAb, LsaA MAb, Law1-DK MAb)と1種類のポリクロナール抗体(1999PAb)が報告されている。これら4種類のモノクロナール抗体についてはブタLawsoniaに対する特異性は明らかにされているが、ウサギのそれに対しては反応性が明らかではない。また、WBによる検定ではIG4 MAb、2001 MAb、LsaA MAb、Law1-DK MAbそれぞれで18kD、77kD、27kD、21kDの分子量部位に反応性がみられている。Law1-DK MAbについては免疫原に対して熱処理およびProteinase Kによる処理が実施され、免疫原としての特性が本抗体とは明らかに異なっている。また、1999 PAbでは77、54、36kDのメジャーバンドに加え、69と42kDに陽性バンドが得られている。これらの結果から、今回新たに開発した二種類のモノクロナール抗体は過去に報告されたいずれの抗体とも認識部位が異なる新規な抗体であると結論された。
【0039】
尚、現在までのところLawsoniaに関する遺伝子情報は断片的であり、例えばペプチドマッピングなどを用いた抗体のアミノ酸認識部位の検索は難しいのが現状である。そのため、遺伝子情報に基づき、推察されるアミノ酸の合成により作成されたLsaA MAb抗体を除き、本発明の抗体を含め認識するアミノ酸部位の特定から抗体の違いについては求めていない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
獣医・畜産領域においける感染症診断や減少に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】豚増殖性腸炎組織に対する免疫組織化学的染色の結果を示す。
【図2】感染豚およびウサギ腸管に対するイムノブロット法による抗体性状の検討結果を示す。
【図3】ウサギ糞便中の抗体の反応性検討結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
豚由来のローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)およびウサギ由来のローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)を認識するモノクロナール抗体。
【請求項2】
ウエスタンブロッティングにおいて約25kDの分子量部位に陽性バンドを示す請求項1に記載のモノクロナール抗体。
【請求項3】
ハイブリドーマ(Mouse-Mouse Hybridoma Law 5-5(FERM AP-21401))が産生するモノクロナール抗体である請求項2に記載のモノクロナール抗体。
【請求項4】
ウエスタンブロッティングにおいて22〜23kD付近の分子量部位に陽性バンドを示す請求項1に記載のモノクロナール抗体。
【請求項5】
ハイブリドーマ(Mouse-Mouse Hybridoma Law79-4(FERM AP-21402)) が産生するモノクロナール抗体である請求項4に記載のモノクロナール抗体。
【請求項6】
ウサギ糞便に含まれるローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)に対して陽性を示す請求項1〜5のいずれかに記載のモノクロナール抗体。
【請求項7】
豚由来のローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)を感染させたBALBマウスから得られる脾臓リンパ球とミエローマ細胞とを細胞融合させ、ローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)に特異的なモノクロナール抗体産生ハイブリドーマを選択し、選択したハイブリドーマを増殖させ、産生するモノクロナール抗体を採取することを含む、ローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)に特異的なモノクロナール抗体の製造方法。
【請求項8】
モノクロナール抗体が請求項1〜6のいずれかに記載の抗体である請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の方法により製造された抗体。
【請求項10】
請求項1〜6および9のいずれかに記載のモノクロナール抗体を用いて、検体中のローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)を検出または定量することを含む、ローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−137893(P2009−137893A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316502(P2007−316502)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(504300088)国立大学法人帯広畜産大学 (96)
【Fターム(参考)】