説明

豚皮の肉面の銀面化処理方法及びこれにより製造された肉面が銀面化された豚革

【課題】 ピッグスキンの肉面を毛足のない表革のようにする処理、すなわち、ピッグスキンの肉面の銀面化処理方法であって、低コストでの銀面化を可能とし、ピッグスキンの風合いが生かされている肉面の銀面化処理を可能とするピッグスキンの肉面の銀面化処理方法と、これにより製造された肉面が銀面化された豚革を提供する。
【解決手段】 原皮を脱毛処理し、なめし加工した後の豚革の肉面にバインダー溶液を塗布し、引き続いて前記バインダー溶液が塗布された肉面を加熱・加圧加工することにより、豚皮の肉面を銀面化することを特徴とする豚皮の肉面の銀面化処理方法と、かかる方法により製造された肉面が銀面化されている豚革。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は豚皮の処理方法に関し、特に、豚皮の肉面を銀面化処理する方法と、これにより製造された肉面が銀面化された豚革に関する。
【背景技術】
【0002】
豚皮(以下、本明細書において「ピッグスキン」ということがある。)は、比較的、熱や水に強く、丈夫で、やわらかく、加工し易く、発色も良いので、靴や衣料用などに広く利用することが望まれているものである。
【0003】
特に、ピッグスキンは羊の皮(シープ)、生後6ヶ月以内の仔牛の皮(カーフ)などと比較して価格が安く、軽く、判廻りがおおきく、ファッション素材としても利用できるので、大きな需要が見込まれるものである。
【0004】
ピッグスキンなどにおいて表皮と呼ばれる表側の面は銀面、その裏側の皮下組織・肉側の面が肉面と呼ばれるが、ピッグスキンの銀面は傷が多いので、銀面を表面にして使用する場合には、靴のように、傷を避けて小さく裁断使用できる部分に用いられるのが一般的であった。一方、肉面には銀面のような傷はないが、光沢感に欠けるので、肉面が表側になるようにして使用する場合には、起毛させてスエード加工する、あるいは肉面の上側をビニール素材で覆う等して滑らかさを出すようにしていた。
【0005】
スエード加工して使用する場合には、季節によってはピッグスキンを原料として使用できなくなるという問題や、用途が限られるという問題があった。また、肉面の上側をビニール素材で覆う場合や、肉面の銀面化に関して、毛皮などの裏面(肉面)を塗料仕上げすることにより毛皮などの裏面(肉面)を銀面化する(毛足のない表革のようにする処理)ナッパランの手法では、コストが高くなり、特殊な革としての用途が強くなって市場が限られるという問題があった。
【0006】
これらのため、ピッグスキンに対しては前述したように大きな需要が見込まれているにもかかわらず、用途が限られ、広く利用されるようにはなっていなかった。
【0007】
前述したように、ピッグスキンの場合、銀面には傷が多いので、銀面を表面にして使用する場合には、傷を避けて小さく裁断使用できる部分などへの用途にとどまるという問題があるが、肉面には銀面のような傷がないので、肉面を、毛足のない表革のようにする銀面化処理し、これを表面にして使用できるようにすれば、前述したように大きな需要に応え得る革製品を提供できる。しかし、前述したように従来のスエードに加工した、樹脂フィルムの圧着、主に毛皮などの裏面に行うナッパラン加工などはコスト、耐久性、風合いなど肉面を銀面化する要求に十分応えることができなかった。
【0008】
また、従来からピッグスキンの加工方法に関して種々の提案がされているが(例えば、特許文献1)、ピッグスキンの肉面を毛足のない表革のようにする処理、すなわち、肉面の銀面化処理、特に、低コストでの銀面化を可能とし、ピッグスキンの風合いが生かされている肉面の銀面化処理に関しては提案がされていなかった。
【特許文献1】特開2003−55700
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、ピッグスキンの肉面を毛足のない表革のようにする処理、すなわち、ピッグスキンの肉面の銀面化処理方法であって、低コストでの銀面化を可能とし、ピッグスキンの風合いが生かされている肉面の銀面化処理を可能とするピッグスキンの肉面の銀面化処理方法と、これにより製造された肉面が銀面化された豚革を提供することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本願発明者は鋭意研究を進め、原皮を脱毛処理し、なめし加工した後の豚革の肉面にバインダー溶液の塗布と、引き続く肉面の加熱・加圧処理を行うことにより、ピッグスキンの肉面を毛足のない表革のようにするピッグスキンの肉面の銀面化が可能であることを見出して本願発明を完成させたものである。
【0011】
すなわち、本願発明は、原皮を脱毛処理し、なめし加工した後の豚革の肉面にバインダー溶液を塗布し、引き続いて前記バインダー溶液が塗布された肉面を加熱・加圧加工することにより、豚皮の肉面を銀面化することを特徴とする豚皮の肉面の銀面化処理方法である。
【0012】
また、本願の他の発明は、原皮を脱毛処理し、なめし加工した後の豚革の肉面にバインダー溶液を塗布し、引き続いて前記バインダー溶液が塗布された肉面を加熱・加圧加工することにより、肉面が銀面化されている豚革である。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、ピッグスキンの肉面を毛足のない表革のようにする処理、すなわち、ピッグスキンの肉面の銀面化処理方法であって、低コストでの銀面化を可能とし、ピッグスキンの風合いが生かされている肉面の銀面化処理を可能とするピッグスキンの肉面の銀面化処理方法と、これにより製造された、肉面が銀面化された豚革を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の豚皮の肉面の銀面化処理方法は、原皮を脱毛処理し、なめし加工した後の豚革の肉面にバインダー溶液を塗布し、引き続いて前記バインダー溶液が塗布された肉面を加熱・加圧加工することにより、豚皮の肉面を銀面化するものである。
【0015】
ここで、原皮の脱毛処理、なめし加工については、従来、ピッグスキンの脱毛処理、なめし加工処理として一般的に採用されているものを用いることができる。
【0016】
前述した本発明の方法において、なめし加工が行われた後の豚革の肉面にバインダー溶液を塗布し、引き続いて前記バインダー溶液が塗布された肉面を加熱・加圧加工する処理は、起毛した繊維構造に対して、表皮のように毛足を固着し、固定、定着させるために行うものである。
【0017】
そこで、なめし加工が行われた後の豚革の肉面へのバインダー溶液塗布、引き続く、バインダー溶液塗布面の加熱・加圧加工処理は、一回だけでなく、必要に応じて複数回繰り返すことができる。
【0018】
また、なめし加工が行われた後の豚革の肉面に塗布されるバインダー溶液は、起毛した繊維構造に対して、表皮のように毛足を固着するために用いられるものであるので、この目的を達成できるものであれば、種々のバインダー溶液を用いることができる。
【0019】
なお、バインダー溶液として有機溶剤ではなく、水性のバインダーを用いるようにすれば環境に配慮したものとすることができる。
【0020】
例えば、バインダー溶液として、アクリル系樹脂、ポリウレタン樹脂、カゼインワックス、ポリアクリル酸エステルなどを用いることができる。
【0021】
バインダー溶液が塗布された肉面を加熱・加圧加工する処理は、起毛した繊維構造に対して、表皮のように毛足を固定、定着させるために行うものである。そこで、この技術分野で一般的に使用されているロールアイロンによるアイロンプレス、あるいはハイドリックプレス機による高熱、高圧でのプレスを行うことができる。
【0022】
この際、加熱温度は、革の色、湿度などによる焼け具合、プレスの圧力との関係を考慮し、肉面が銀面化されたピッグスキンがその風合いを損なうことがない加熱温度範囲、圧力範囲にて加熱・加圧加工処理を行う。発明者の実験によれば、ピッグスキンの風合いが生かされた製品(肉面が銀面化された豚革)を得る上で、好ましい圧力範囲、温度範囲は、ロールアイロンあるいはハイドリックプレス機による30Kg〜150Kgの高圧で、50℃〜100℃の温度範囲であった。
【0023】
なお、本発明が提案する、肉面が銀面化されている豚革は、以上説明した本発明の豚皮の肉面の銀面化処理方法を利用して製造されるものであって、原皮を脱毛処理し、なめし加工した後の豚革の肉面にバインダー溶液を塗布し、引き続いて前記バインダー溶液が塗布された肉面を加熱・加圧加工することに製造された肉面が銀面化されている豚革である。
【0024】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施例を説明する。
【実施例】
【0025】
原料となるピッグスキン(生皮、または塩蔵皮)を水洗いし、ドラム又はパドルで硫化石灰脱毛処理する。次いで、生漉きし(ただし、丸なめしの場合は生漉きしない)、ドラムにて再石灰、引き続いて、脱灰、ベーチング処理する。その後、水洗い、ピックリング(漬酸)し、なめし処理する(例えば、クロムなめしや、タンニンなめし)。ついで、水絞り、セービング、バッフィング、中和、染色、加脂、水絞り、乾燥、ミーリング、乾燥処理を行う。このようにして、原皮が脱毛処理され、なめし加工されて豚革となる。
【0026】
これらの工程は、ピッグスキンの肉面を生かしたスエード革の製造・加工工程で一般的に行われているものであり、従来、この技術分野で行われている種々の方法を用いて行うことができる。
【0027】
このようにして、原皮を脱毛処理し、なめし加工した後の豚革に対して、本発明の豚皮の肉面の銀面化処理方法が、以下のように、引き続いて適用される。
【0028】
図1(a)は、脱毛処理し、なめし加工処理が終了した豚革1の断面図であり、図1(a)中、上側が肉面2、下側が銀面3である。肉面2は、一般に、図1(a)図示のように、起毛した繊維構造になっている。
【0029】
本発明による肉面の銀面化処理方法においては、まず、この肉面2にバインダー溶液(例えば、ポリアクリル酸エステル)を塗布(例えば、スプレー塗布)する(図1(a))。
【0030】
ついで、バインダー溶液が塗布された肉面2に対して、アイロンプレスを用い、30Kg以上の高圧で、70℃〜100℃にて一回目のアイロンプレス処理を行う(図1(b))。なお、このアイロンプレスによる加熱・加圧処理においては、革の色、湿度などによる焼け具合、プレスの圧力との関係を考慮し、肉面2が銀面化された豚革がその風合いを損なうことがない加熱温度範囲、圧力範囲で、適宜、加熱温度範囲、圧力範囲を調整しつつ行う。
【0031】
この、一回のバインダー溶液と、引き続く、一回の加熱・加圧処理によって、起毛した繊維構造に対して、表皮のように毛足を固定、定着させることができ、肉面2を毛足のない表革のようにできれば、ここで、肉面の銀面化処理を終了するが、十分でない場合には、引き続き、肉面2にバインダー溶液(例えば、ポリアクリル酸エステル)の塗布(例えば、スプレー塗布)(二回目)を行う(図1(c))。
【0032】
そして、バインダー溶液が塗布された肉面2に対して、アイロンプレスを用い、30Kg以上の高圧で、70℃〜100℃にて二回目のアイロンプレス処理を行う(図1(d))。ここでも、革の色、湿度などによる焼け具合、プレスの圧力との関係を考慮し、肉面2が銀面化された豚革がその風合いを損なうことがない加熱温度範囲、圧力範囲で、適宜、加熱温度範囲、圧力範囲を調整しつつアイロンプレスによる加熱・加圧処理行う。
【0033】
図示の例では、これによって、図1(d)図示のように、起毛した繊維構造に対して、表皮のように毛足を固定、定着させて、肉面2を毛足のない表革のようにでき、肉面2の銀面化を行うことができる。
【0034】
このように、従来からこの技術分野で行われている脱毛処理を行い、なめし加工処理が終了した豚革1に対して、肉面2にバインダー溶液を塗布し、引き続いて前記バインダー溶液が塗布された肉面2を加熱・加圧加工する処理を少なくとも一回、必要ならば複数回繰り返すことにより、豚皮の肉面2を銀面化することができる。
【0035】
しかも、従来から、この技術分野で使用されているアクリル系樹脂、ポリウレタン樹脂、カゼインワックス、ポリアクリル酸エステルなどのバインダー溶液の塗布、ロールアイロンや、ハイドリックプレス機による高熱、高圧でのプレスによってこれらの処理を行うことができるので、新たな設備などを必要とすることなく、低コストで、簡単に豚皮の肉面の銀面化を行うことができる。
【0036】
前述したように、原皮を脱毛処理し、なめし加工した後の豚革の肉面2にバインダー溶液を塗布し、引き続いて前記バインダー溶液が塗布された肉面2を加熱・加圧加工することにより製造された本発明の肉面2が銀面化されている豚革1(図1(d))は、従来ならば、傷はないが、光沢感に欠けているとして、起毛させてスエード加工する、あるいは合成樹脂素材で表面を覆って滑らかさを出すようにしていた肉面2が図1(d)図示のように銀面化されているので、広い面積にわたって傷が少なく、表面(図1(d)中、上側)が革らしい光沢を有する優れた豚革製品となる。
【0037】
また、もともと繊維組織が強靭な豚皮の肉面2が銀面化されたものだけに、本発明の肉面2が銀面化されている豚革1(図1(d))は、例えば、コートなどの洋服に加工しても裏地が不要になるという特質を有し、更に、合成樹脂素材で表面を覆って滑らかさを出すようにしていた従来品(フィルム貼り付け革)とは異なり、衣料などのクリーニングにも耐えることができ、ファッション素材、インテリア素材など、従来にない多くの用途への使用が可能になる。
【0038】
以上、添付図面を参照して本発明の好ましい実施形態、実施例を説明したが、本発明はかかる実施形態、実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において種々の形態に変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】脱毛処理し、なめし加工された後の豚革に対して本発明の豚皮の肉面の銀面化処理方法が適用されている際の豚革の断面を説明する図であって、(a)は、肉面(図中、上側面)にバインダー溶液が一回目に塗布された状態の断面図、(b)は、一回目のアイロンプレス処理が行われた状態の断面図、(c)は、バインダー溶液が二回目に塗布された状態の断面図、(d)は、二回目のアイロンプレス処理が行われ、肉面の銀面化が完了した豚革の断面図。
【符号の説明】
【0040】
1 豚革
2 肉面
3 銀面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原皮を脱毛処理し、なめし加工した後の豚革の肉面にバインダー溶液を塗布し、引き続いて前記バインダー溶液が塗布された肉面を加熱・加圧加工することにより、豚皮の肉面を銀面化することを特徴とする豚皮の肉面の銀面化処理方法。
【請求項2】
原皮を脱毛処理し、なめし加工した後の豚革の肉面にバインダー溶液を塗布し、引き続いて前記バインダー溶液が塗布された肉面を加熱・加圧加工することにより、肉面が銀面化されている豚革。


【図1】
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