説明

負圧倍力装置、およびこれを用いたブレーキシステム

【課題】パワーピストン部材にタイロッド貫通穴を設けても、ダイヤフラムのシール部の損傷の可能性を効果的に低減しつつ、シール部とタイロッド貫通穴との係合を保持する。
【解決手段】パワーピストン部材6のタイロッド貫通穴6aはパワーピストン部材6の成形時に直接形成された加工穴で形成される。したがって、パワーピストン部材6のタイロッド貫通穴6aの内周縁部6bは折り曲げ部を有さない。パワーピストン部材6の内周縁部6bは、パワーピストン部材6の他の部分6cより厚い一体肉厚部に形成され、かつ内周縁部6bの外周縁の角部6eはR部に形成される。ダイヤフラム7のシール部7aがタイロッド貫通穴6aの内周縁部6bに係合される。そして、タイロッド22がシール部7aを気密に貫通して設けられるとともに、シール部7aが気密に摺動可能とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負圧によって入力を所定のサーボ比で倍力して大きな出力を発生する負圧倍力装置、およびこれを用いたブレーキシステムの技術分野に関し、特に、パワーピストンのダイヤフラムを気密に貫通してフロントシェルとリヤシェルとを連結するタイロッドを有する負圧倍力装置、およびこれを用いたブレーキシステムの技術分野に関するものである。なお、本発明の明細書の記載において、前後方向の関係は、負圧倍力装置の作動時に入力軸が移動する方向を「前」、作動解除時に入力軸が戻る方向を「後」とする。
【背景技術】
【0002】
乗用車等の自動車のブレーキシステムにおいては、負圧を利用した負圧倍力装置が多々用いられている。このような負圧倍力装置として、従来、パワーピストンを気密に貫通してフロントシェルとリヤシェルとを連結するタイロッドを有するする負圧倍力装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載の負圧倍力装置においては、パワーピストンが、定圧室と変圧室とを気密に区画するとともに変圧室と定圧室との圧力差で作動するダイヤフラムと、このダイヤフラムの作動力を支持するパワーピストン部材とから構成されている。その場合、一般にダイヤフラムはゴム等の弾性変形に富む材料で形成されるとともに、パワーピストン部材は一定厚の板状の比較的硬い金属材料で形成されることが多い。
【0004】
パワーピストン部材にはタイロッドが貫通するタイロッド貫通穴が形成されている。また、ダイヤフラムにはパワーピストン部材のタイロッド貫通穴の内周縁に係合してこのタイロッド貫通穴を貫通する筒状のシール部が形成されている。そして、ダイヤフラムの筒状のシール部をタイロッドが貫通しているとともに、このダイヤフラムのシール部がタイロッドに対して気密にかつ摺動可能にされている。
【0005】
ところで、特許文献1に記載の負圧倍力装置では、図4に示すようにタイロッドaが貫通するパワーピストン部材bのタイロッド貫通穴cの内周縁は、パワーピストン部材bに形成された加工穴dの内周縁部eをダイヤフラムfのシール部gとの係合が解除されないように、かつ、シール部gに損傷を与えないように折り曲げられて形成されている。その場合、加工穴dの内周縁部eの折り曲げられた部分e1は、折り曲げられない部分e2に対して所定の傾斜角度を有して折り返されている。そして、加工穴dの内周縁の角は角張ったエッジhに形成されている。
【0006】
また、一定厚の板状の材料によりパワーピストン部材を成形し、パワーピストン部材の加工穴の内周縁部が同様にして折り曲げられてタイロッド貫通穴が形成されているが、折り曲げられた部分がほぼ180°に折り曲げられて、折り曲げられない部分にほぼ当接して形成されている負圧倍力装置も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−179184号公報。
【特許文献2】EP2039575A1。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述の特許文献1および2に記載の負圧倍力装置では、いずれも、パワ
ーピストン部材の加工穴の内周縁部の互いに厚さが同じ折り曲げられた部分と折り曲げられない部分とが単に折り曲げられているだけである。つまり、パワーピストン部材を形成する材料自体の肉厚が折り曲げられた部分と折り曲げられない部分とで同じ厚さであり、この同じ厚さの材料が折り曲げられている。このため、負圧倍力装置が使用されているうちに、ダイヤフラムのシール部とパワーピストン部材の加工穴の内周縁のエッジとが接触して、エッジによりシール部が損傷する可能性がある。これは、変圧室と定圧室との圧力関係によって弾性変形し易いダイヤフラムが撓んで、ダイヤフラムのシール部がパワーピストン部材の単に折り曲げられた加工穴の内周縁のエッジに食い込む可能性があるためであると考えられる。
【0009】
また、パワーピストン部材が折り曲げられることで、折り曲げられた部分でクラックが入る可能性があり、生産性が低下することが考えられる。特に、負圧倍力装置の軽量化等の観点で、パワーピストン部材が例えばアルミニウム系の軽量金属素材により成形されている場合は、その材料特性からパワーピストン部材が折り曲げられることでクラックが入りやすく、生産性の低下を招きかねない。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、パワーピストン部材にタイロッド貫通穴を設けても、ダイヤフラムのシール部の損傷の可能性を効果的に低減しつつ、シール部とタイロッド貫通穴との係合を保持することのできる負圧倍力装置、およびこれを用いたブレーキシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の課題を解決するために、本発明の負圧倍力装置は、フロントシェルと、前記フロントシェルに連結されるリヤシェルと、入力が加えられる入力軸と、前記リヤシェルに対して進退自在に配設されたバルブボディと、前記バルブボディに設けられて、前記フロントシェルと前記リヤシェルとの空間を負圧が導入される定圧室と作動時に大気が導入される変圧室とに区画するパワーピストンと、前記バルブボディに連結されて、前記パワーピストンにより発生されて前記入力を倍力した出力を出力する出力軸と、前記入力軸に連結されかつ前記バルブボディ内に摺動自在に配設された弁プランジャと、この弁プランジャの作動により前記定圧室と前記変圧室との間の連通または遮断を制御する負圧弁と、前記変圧室と少なくとも大気との間を遮断または連通を制御する大気弁と、前記パワーピストンを貫通して前記フロントシェルと前記リヤシェルとを連結するタイロッドとを少なくとも備え、前記パワーピストンが、前記定圧室と前記変圧室とに区画するダイヤフラムと、前記バルブボディに取り付けられて前記ダイヤフラムを支持するパワーピストン部材とを有し、前記パワーピストン部材に前記タイロッドが貫通するタイロッド貫通穴が設けられているとともに、前記ダイヤフラムに前記タイロッド貫通穴を貫通して係合するシール部が設けられており、前記タイロッドが前記シール部を貫通するとともに、前記シール部が前記タイロッドに気密に摺動可能とされている負圧倍力装置において、前記パワーピストン部材の前記タイロッド貫通穴の内周縁部が、一体肉厚部を備えていることを特徴としている。
【0012】
また、本発明の負圧倍力装置は、前記パワーピストン部材の前記内周縁部の外周縁の角部が、R部とされていることを特徴としている。
更に、本発明の負圧倍力装置は、前記パワーピストン部材が、アルミニウム系の金属材料で成形されていることを特徴としている。
【0013】
一方、本発明のブレーキシステムは、ブレーキペダルと、前記ブレーキペダルのペダル踏力を倍力して出力するブレーキ倍力装置と、前記ブレーキ倍力装置の出力で作動して液圧を発生するマスタシリンダと、前記マスタシリンダで発生した液圧でブレーキ力を発生して車輪にブレーキをかけるブレーキシリンダとを少なくとも備えるブレーキシステムに
おいて、前記ブレーキ倍力装置が前述の本発明の負圧倍力装置のいずれか1つであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
このように構成された本発明に係る負圧倍力装置によれば、パワーピストン部材のタイロッド貫通穴をパワーピストン部材の成形時の加工穴で形成しているので、パワーピストン部材のタイロッド貫通穴の内周縁部に従来の折り曲げ部は形成されない。したがって、パワーピストン部材の内周縁部は従来のようなエッジを有さないので、ダイヤフラムのシール部が損傷する可能性を低減することができる。
【0015】
また、パワーピストン部材のタイロッド貫通穴の内周縁部を一体肉厚部にしているので、内周縁部に折り曲げ部を設けなくても内周縁部の強度を大きくすることができる。したがって、パワーピストン部材の内周縁部とダイヤフラムのシール部との係合を堅固に保持することができる。
【0016】
こうして、パワーピストン部材にタイロッド貫通穴を設けても、ダイヤフラムのシール部の損傷の可能性を効果的に低減しつつ、シール部とタイロッド貫通穴との係合を保持する負圧倍力装置を実現することができる。
【0017】
更に、パワーピストン部材の内周縁部に折り曲げ部が形成されないので、折り曲げ加工が不要となる。これにより、加工工数の低減を図ることができるとともに、パワーピストン部材の内周縁部の割れがなくなり、パワーピストン部材の不良率の低減を図ることができる。その結果、負圧倍力装置のコストを低減することができる。特に、パワーピストン部材をアルミニウム系の金属材料で成形すれば、折り曲げ部が形成されないので、クラックの発生が起きる可能性がなく、生産性の低下を招くことはない、
【0018】
特に、パワーピストン部材の内周縁部の外周縁の角部をR部(円弧状部)に形成することにより、ダイヤフラムのシール部がピストン部材の内周縁部に食い込んでも、ダイヤフラムのシール部7aが損傷する可能性をより効果的に低減することができる。
【0019】
一方、本発明のブレーキシステムによれば、タイロッド貫通穴の内周縁部に折り曲げ部が形成されなく不良率が低減した負圧倍力装置を用いているので、ブレーキ作動の信頼性をより一層向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る負圧倍力装置の実施の形態の例を非作動状態で示す部分断面図である。
【図2】図1におけるII部の部分拡大断面図である。
【図3】図1に示す例の負圧倍力装置が用いられるブレーキシステムの一例を模式的に示す図である。
【図4】特許文献1に記載の負圧倍力装置の図2に対応する部分の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。
図1は本発明に係る負圧倍力装置の実施の形態の一例を非作動状態で示す部分断面図、図2は図1の部分拡大断面図である。なお、以下の実施の形態の各例の説明においては、本発明の負圧倍力装置をブレーキシステムのブレーキ倍力装置に適用するものとして説明する。
【0022】
図1に示すように、この例の負圧倍力装置1は、基本的には従来の一般的な負圧倍力装置とほぼ同じ構成を備えている(例えば、特開2008−179184号公報参照)。まず、この例の負圧倍力装置1において、従来の負圧倍力装置と同じ基本的な構成部分について簡単に説明する。
【0023】
図1において、1は負圧倍力装置、2はフロントシェル、3はリヤシェル、4はバルブボディ、5はバルブボディ4に取り付けられアルミニウム系の金属等の材料で形成されたパワーピストン部材6とバルブボディ4および両シェル2,3間に設けられ弾性変形の富む部材で形成されたダイヤフラム7とからなるパワーピストン、8は両シェル2,3内の空間をパワーピストン5で気密に区画された2つの室の一方で、通常時負圧が導入される定圧室、9は前述の2つの室の他方で、負圧倍力装置1の作動時大気圧が導入される変圧室、10は弁プランジャ、11は図示しない作動部材であるブレーキペダルに連結され、かつ弁プランジャ10を作動制御する入力軸、12はバルブボディ4に設けられた弁体、13はバルブボディ4と弁体12とで構成される負圧弁、14は弁プランジャ10と弁体12とで構成される大気弁、15はバルブボディ4内に形成された大気流入通路、16は定圧室8と変圧室9とを連通する負圧導入通路、17はバルブボディ4に対する弁プランジャ10の相対移動を、バルブボディ4に形成されたキー孔の軸方向幅により規定される所定量に規制し、かつバルブボディ4および弁プランジャ10の各後退限を規定するキー部材、18は反力手段の一部を構成する間隔部材、19は反力手段の他部を構成するリアクションディスク、20は出力軸、21はパワーピストン5およびバルブボディ4とを非作動位置に戻すリターンスプリング、22はフロントシェル2とリヤシェル3とを連結して補強するタイロッド、23は負圧導入口である。
【0024】
次に、従来の負圧倍力装置と異なる、この例の負圧倍力装置1の特徴部分の構成について説明する。
図1および図2に示すように、この例の負圧倍力装置1では、パワーピストン部材6のタイロッド貫通穴6aはパワーピストン部材6を例えばプレス等により成形する際に直接形成された加工穴で形成されている。すなわち、タイロッド貫通穴6aは、従来の負圧倍力装置のようにパワーピストン部材6の加工穴の内周縁部を折り曲げて形成されないタイロッド貫通穴である。したがって、パワーピストン部材6のタイロッド貫通穴形成部分(タイロッド貫通穴6aの内周縁部6b)は折り曲げ部を有していない。
【0025】
そして、パワーピストン部材6のタイロッド貫通穴6aの内周縁部6bは、その厚さがパワーピストン部材6の他の部分6cの厚さより厚い一体肉厚部に形成されている。すなわち、パワーピストン部材6を形成する材料自体の内周縁部6bに対応する部分が、内周縁部6bの他の部分6cに対応する材料自体の部分より肉厚部にされている。換言すると、パワーピストン部材6を形成する材料自体の厚さが内周縁部6bに対応する部分の厚さとそれ以外の他の部分6cの厚さとで異なり、内周縁部6bが板状の材料を前述の従来のような一定厚さの板状材料を折り曲げることなく内周縁部6b以外の他の部分6cより厚く形成された一塊の一体肉厚部とされている。これにより、パワーピストン部材6の内周縁部6bの強度が大きくされている。その場合、パワーピストン部材6のタイロッド貫通穴6aの内周縁部6bの内周縁6dは断面円弧状に形成されているとともに、パワーピストン部材6の内周縁部6bの外周縁の角部6eはR部(円弧状部)に形成されている。
【0026】
ダイヤフラム7には、従来と同様の筒状のシール部7aが設けられており、このシール部7aがパワーピストン部材6のタイロッド貫通穴6aの内周縁部6bに係合して支持されている。タイロッド22がシール部7aを気密に貫通して設けられているとともに、シール部7aが気密に摺動可能とされている。
この例の負圧倍力装置1の他の構成は、従来の負圧倍力装置と実質的に同じである。
【0027】
この例の負圧倍力装置1は、例えば図3に示すブレーキシステムにブレーキ倍力装置として用いられる。図3中、24はブレーキシステム、25は負圧倍力装置1の入力軸11を作動するブレーキペダル、26は負圧倍力装置1の出力で作動されるタンデムマスタシリンダ、27はブレーキ力を発生するブレーキシリンダ、28は車輪である。
【0028】
次に、この例の負圧倍力装置1およびブレーキシステム24の作動について説明する。
ブレーキ非作動時には、負圧倍力装置1は、従来の負圧倍力装置と同様に、図1に示す状態にあり、入力軸11が後退限位置となっている。また、通常時定圧室8には負圧導入口23を通して所定の負圧が導入されている。そして、負圧倍力装置1の非作動状態では、負圧弁13が開いているとともに大気弁14が閉じている。したがって、定圧室8と変圧室9とが負圧導入通路16を介して連通しているとともに、変圧室9は大気と遮断されている。これにより、変圧室9にも負圧が導入されている。
【0029】
ブレーキペダル25が踏み込まれると、入力軸11が前進するとともに弁プランジャ10が前進する。すると、負圧弁13が閉じるとともに大気弁14が開く。これにより、定圧室8と変圧室9とが遮断されるとともに、変圧室9は大気導入通路15を介して連通する。したがって、大気(空気)が変圧室9に導入され、変圧室9と定圧室8とに圧力差が生じる。この圧力差により、パワーピストン5がリターンスプリング21の付勢力に抗して前進し、バルブボディ4、リアクションディスク19、および出力軸20が前進し、負圧倍力装置1が作動する。出力軸20の前進により、タンデムマスタシリンダ26の図示しないピストンが作動して液圧を発生し、この液圧によりブレーキシリンダ27がブレーキ力を発生して、各車輪28にブレーキがかけられる。
【0030】
タンデムマスタシリンダ26の液圧により、反力が出力軸20を介してリアクションディスク19に伝達される。更に、この反力は間隔部材18、弁プランジャ10,および入力軸11を介してブレーキペダル25に伝達されるので、運転者はブレーキの作動を認識する。
【0031】
この負圧倍力装置1の作動中、バルブボディ4が前進するので、大気弁14が次第に閉じ始める。変圧室9が大気圧になる前の中間負荷状態では、大気弁14が閉じかつ負圧弁13が閉じたバランス状態となる。このバランス状態では、負圧倍力装置1の出力は入力をサーボ比で倍力された出力となる。このサーボ比は、間隔部材18とリアクションディスク19との当接面積に対する出力軸20とリアクションディスク19との当接面積の比で与えられる。
【0032】
ブレーキペダル25の踏み込みを解除すると、入力軸11が後退して、負圧弁13が開くとともに大気弁14が閉じた状態となる。すると、変圧室9に導入された空気が負圧弁13および負圧導入通路16を介して定圧室8に流動し、更に定圧室8に流動した空気は負圧導入口23を通して定圧室8から流出する。これにより、変圧室9の圧力が低下し、パワーピストン5、出力軸20、バルブボディ4、リアクションディスク19、間隔部材18、および弁プランジャ10がリターンスプリング21の付勢力で後退する。すると、タンデムマスタシリンダ26のピストンも後退し、タンデムマスタシリンダ26の液圧が次第に低下して消滅する。そして、キー部材17により、バルブボディ4および弁プランジャ10がそれ後退限位置に規制され、負圧倍力装置1は図1に示す非作動状態となり、各車輪28のブレーキが解除する。
【0033】
ところで、パワーピストン5の前進時に、ダイヤフラム7のシール部7aがタイロッド22に対して気密に前進摺動する。そして、変圧室9と定圧室8との圧力差により、ダイヤフラム7のシール部7aがパワーピストン部材6の内周縁部6bに押圧される。このとき、パワーピストン部材6の内周縁部6bは一体肉厚部にされて強度が大きくなっている
ので、パワーピストン部材6の内周縁部6bとダイヤフラム7のシール部7aとの係合が堅固に保持される。
【0034】
また、パワーピストン部材6のタイロッド貫通穴6aがパワーピストン部材6の成形時の加工穴で形成されているので、パワーピストン部材6の内周縁部6bは従来の折り曲げ部を有していない。したがって、パワーピストン部材6の内周縁部6bは従来のようなエッジを有さないので、ダイヤフラム7のシール部7aの損傷が抑制される。特に、パワーピストン部材6の内周縁部6bの外周縁の角部6eがR部(円弧状部)に形成されているので、前述の圧力差でダイヤフラム7のシール部7aが弾性変形してピストン部材6の内周縁部6bに食い込んでも、ダイヤフラム7のシール部7aの損傷がより効果的に抑制される。
【0035】
この例の負圧倍力装置1によれば、パワーピストン部材6のタイロッド貫通穴6aをパワーピストン部材6の成形時の加工穴で形成しているので、パワーピストン部材6のタイロッド貫通穴6aの内周縁部6bに従来の折り曲げ部は形成されない。したがって、パワーピストン部材6の内周縁部6bは従来のようなエッジを有さないので、ダイヤフラム7のシール部7aが損傷する可能性を低減することができる。特に、パワーピストン部材6の内周縁部6bの外周縁の角部6eをR部(円弧状部)に形成することにより、ダイヤフラム7のシール部7aがピストン部材6の内周縁部6bに食い込んでも、ダイヤフラム7のシール部7aが損傷する可能性をより効果的に低減することができる。
【0036】
また、パワーピストン部材6のタイロッド貫通穴6aの内周縁部6bを、パワーピストン部材6を形成する材料自体の内周縁部6bに対応する部分の厚さが前述の従来のような一定厚さの板状材料を折り曲げることなく内周縁部6b以外の他の部分6cの厚さよりく形成された一体肉厚部としているので、内周縁部6bに折り曲げ部を設けなくても内周縁部6bの強度を大きくすることができる。したがって、パワーピストン部材6の内周縁部6bとダイヤフラム7のシール部7aとの係合を堅固に保持することができる。
【0037】
こうして、パワーピストン部材6にタイロッド貫通穴6aを設けても、ダイヤフラム7のシール部7aの損傷の可能性を効果的に低減しつつ、シール部7aとタイロッド貫通穴6aとの係合を保持する負圧倍力装置1を実現することができる。
【0038】
更に、パワーピストン部材6の内周縁部6bに折り曲げ部が形成されないので、折り曲げ加工が不要となる。これにより、加工工数の低減を図ることができるとともに、パワーピストン部材6の内周縁部6bの割れがなくなり、パワーピストン部材6の不良率の低減を図ることができる。その結果、負圧倍力装置1のコストを低減することができる。特に、パワーピストン部材6の内周縁部6bに折り曲げ部が形成されないので、パワーピストン部材6をアルミニウム系の金属のように比較的柔らかい材料で形成しても、パワーピストン部材6の加工時にクラックが入る可能性がない。これにより、パワーピストン部材6の生産性の低下を招くことがない。
【0039】
一方、この例のブレーキシステム24によれば、タイロッド貫通穴の内周縁部に折り曲げ部が形成されなく不良率が低減した負圧倍力装置1を用いているので、ブレーキ作動の信頼性をより一層向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係る負圧倍力装置は、パワーピストンのダイヤフラムを気密に貫通してフロントシェルとリヤシェルとを連結するタイロッドを有し、負圧によって入力を所定のサーボ比で倍力して大きな出力を発生する負圧倍力装置に好適に利用可能である。
また、本発明に係るブレーキシステムは、負圧によってペダル踏力を倍力して大きなブ
レーキ力を発生しつつ、ブレーキ作動の信頼性のより一層の向上が求められるブレーキシステムに好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0041】
1…負圧倍力装置、2…フロントシェル、3…リヤシェル、4…バルブボディ、5…パワーピストン、6…パワーピストン部材、6a…タイロッド貫通穴、6b…タイロッド貫通穴6aの内周縁部、6d…内周縁部6bの内周縁、6e…内周縁部6bの外周縁の角部
7…ダイヤフラム、7a…シール部、8…定圧室、9…変圧室、10…弁プランジャ、11…入力軸、12…弁体、13…負圧弁、14…大気弁、20…出力軸、22…タイロッド、24…ブレーキシステム、25…ブレーキペダル、26…タンデムマスタシリンダ、27…ブレーキシリンダ、28…車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントシェルと、前記フロントシェルに連結されるリヤシェルと、入力が加えられる入力軸と、前記リヤシェルに対して進退自在に配設されたバルブボディと、前記バルブボディに設けられて、前記フロントシェルと前記リヤシェルとの空間を負圧が導入される定圧室と作動時に大気が導入される変圧室とに区画するパワーピストンと、前記バルブボディに連結されて、前記パワーピストンにより発生されて前記入力を倍力した出力を出力する出力軸と、前記入力軸に連結されかつ前記バルブボディ内に摺動自在に配設された弁プランジャと、この弁プランジャの作動により前記定圧室と前記変圧室との間の連通または遮断を制御する負圧弁と、前記変圧室と少なくとも大気との間を遮断または連通を制御する大気弁と、前記パワーピストンを貫通して前記フロントシェルと前記リヤシェルとを連結するタイロッドとを少なくとも備え、
前記パワーピストンが、前記定圧室と前記変圧室とに区画するダイヤフラムと、前記バルブボディに取り付けられて前記ダイヤフラムを支持するパワーピストン部材とを有し、前記パワーピストン部材に前記タイロッドが貫通するタイロッド貫通穴が設けられているとともに、前記ダイヤフラムに前記タイロッド貫通穴を貫通して係合するシール部が設けられており、前記タイロッドが前記シール部を貫通するとともに、前記シール部が前記タイロッドに気密に摺動可能とされている負圧倍力装置において、
前記パワーピストン部材の前記タイロッド貫通穴の内周縁部は、一体肉厚部を備えていることを特徴とする負圧倍力装置。
【請求項2】
前記パワーピストン部材の前記内周縁部の外周縁の角部が、R部とされていることを特徴とする請求項1記載の負圧倍力装置。
【請求項3】
前記パワーピストン部材は、アルミニウム系の金属材料で成形されていることを特徴とする請求項1または2に記載の負圧倍力装置。
【請求項4】
ブレーキペダルと、前記ブレーキペダルのペダル踏力を倍力して出力するブレーキ倍力装置と、前記ブレーキ倍力装置の出力で作動して液圧を発生するマスタシリンダと、前記マスタシリンダで発生した液圧でブレーキ力を発生して車輪にブレーキをかけるブレーキシリンダとを少なくとも備えるブレーキシステムにおいて、
前記ブレーキ倍力装置は請求項1ないし3のいずれか1に記載のブレーキ倍力装置であることを特徴とするブレーキシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−168084(P2011−168084A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31230(P2010−31230)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】