説明

負圧倍力装置およびこれを備えたブレーキ倍力装置

【課題】設定出力より大きい出力領域でのサーボ比を変更することなく、入力部材のストロークを短縮して操作フィーリングをより一層向上する。
【解決手段】入力が設定入力以下の作動時、真空弁座部材30は移動しなく、リアクションディスク25が膨出し、間隔部材24の小径部24aのみに当接する。これにより、サーボ比は通常のサーボ比となる。入力が設定入力を超える作動時、真空弁座部材30が変圧室9の圧力でバルブボディ4に対して後方(入力側)に移動し、リアクションディスク25が大きく膨出して小径部24aに加え大径部24bにも当接する。これにより、真空弁15と大気弁16がともに閉じるバランス位置が後方に移動してサーボ比が大きくなるが、間隔部材24の受圧面積が大きくなってサーボ比が小さくなるので、サーボ比は入力が設定入力以下のときと同じになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較的大きな出力領域での入力ストロークを短縮する負圧倍力装置の技術分野に関し、特に、車両のブレーキシステムにおいて、車両重量が大きい車両等の通常ブレーキ作動時の中高減速度領域でのペダルストロークを短縮するブレーキ倍力装置等に用いられる負圧倍力装置の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、乗用車等の自動車のブレーキシステムにおいては、ブレーキ倍力装置に負圧を利用した負圧倍力装置が用いられている。このような従来の一般的な負圧倍力装置では、パワーピストンで通常時負圧が導入される定圧室と圧力が変わる変圧室とに区画されている。そして、ブレーキペダルの通常の踏み込みによる通常ブレーキ作動時に、入力軸の前進で制御弁が切り換わり、変圧室に大気が導入される。すると、変圧室と定圧室との間に差圧が生じてパワーピストンが前進するので、負圧倍力装置が入力軸の入力(つまり、ペダル踏力)を所定のサーボ比で倍力して出力する。この負圧倍力装置の出力により、マスタシリンダがマスタシリンダ圧を発生し、このマスタシリンダ圧でホイールシリンダが作動して通常ブレーキが作動する。
【0003】
ところで、1BOX車やRV車等の車輌においては、近年、車両重量や積載荷重が増加する傾向にある。このため、このような車輌では、これらの車両重量や積載荷重の増加に伴い、通常ブレーキ作動時に必要とするブレーキ操作量(ペダルストローク量)が増加することになる。このように、通常ブレーキ作動時において運転者のブレーキ操作量が増加するため、ブレーキフィーリングが良好であるとは言えない。
【0004】
そこで、設定出力より大きい出力領域での入力部材のストロークを短縮して、操作フィーリングを向上した負圧倍力装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に開示の負圧倍力装置によれば、通常ブレーキ作動において大きなブレーキ力を必要とした場合に、ブレーキペダルのペダルストロークを増大させなく、大きなブレーキ力を得ることができ、良好な操作フィーリングを得ることができる。
【0005】
また、この特許文献1に開示の負圧倍力装置では、その中間負荷状態においてサーボ比が大きく変更され、つまりサーボアップされるようになっている。すなわち、入力が予め設定された設定入力以下の大きさのときサーボ比が小さく設定され、また入力が設定入力を越える大きさのときサーボ比が大きく設定される。したがって、より大きな出力が求められる場合には、入力が単に大きくされるだけではなく、その入力が大きなサーボ比で倍力されることで、大きな出力が得られる。
【0006】
一方、中間負荷状態において、入力(出力)が設定入力(設定出力)以下の大きさのときサーボ比が大きく設定され、また入力(出力)が設定入力(設定出力)を越える大きさのときサーボ比が小さくサーボダウンされることで、操作フィーリングを良好にした負圧倍力装置が種々提案されている(例えば、特許文献2ないし4参照)。
これらの特許文献2ないし4に開示の負圧倍力装置では、出力軸から反力を受ける反力手段であるリアクションディスクと入力軸との受圧面積を、入力が設定入力以下のとき小さく設定し、また入力が設定入力を超えたとき大きく設定することで、大きなサーボ比から小さなサーボ比に変更している。
【特許文献1】国際公開2004−101340号公報。
【特許文献2】特開昭56−8749号公報。
【特許文献3】実公平7−8338号公報。
【特許文献4】特開平7−117660号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示の負圧倍力装置では、前述のように大きい出力領域で入力部材のストロークが短縮するものの、サーボアップにより出力も大きくなる。このため、大きい出力領域において入力部材のストロークは短縮するが、小さい出力領域でのサーボ比と同じサーボ比で入力を倍力した出力を得ることができない。
また、特許文献2ないし4に開示の負圧倍力装置では、いずれも、前述のように大きい出力領域でサーボダウンにより出力が小さくなるものの、入力部材のストロークは短縮されない。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、設定出力より大きい出力領域でのサーボ比を実質的に変更することなく、入力部材のストロークを短縮して操作フィーリングをより一層向上することのできる負圧倍力装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の課題を解決するために、請求項1の発明の負圧倍力装置は、入力が加えられる入力軸と、シェル内に対して進退自在に配設されたバルブボディと、このバルブボディに設けられて、前記シェル内を負圧が導入される定圧室と作動時に大気が導入される変圧室とに区画するパワーピストンと、前記バルブボディに連結されて、前記パワーピストンにより発生されて前記入力を倍力した出力を前記バルブボディを介して出力する出力軸と、前記入力軸に連結されかつ前記バルブボディ内に摺動自在に配設された弁プランジャと、この弁プランジャの作動により前記定圧室と前記変圧室との間の連通または遮断を制御する真空弁と、前記変圧室と少なくとも大気との間を遮断または連通を制御する大気弁と、前記変圧室の圧力に応じて前記入力が倍力される中間負荷状態で前記入力が設定入力を超えるとき、前記真空弁および前記大気弁がともに閉じるバランス位置を前記バルブボディに対して入力側に移動させるバランス位置移動手段と、前記出力軸からの反力を前記弁プランジャに伝達する反力手段とを少なくとも備えている負圧倍力装置において、前記反力手段が、前記入力または前記出力が設定入力または設定出力を超えるとき、前記反力を前記弁プランジャに、前記入力または前記出力が前記設定入力または前記設定出力以下のときに伝達される反力より大きく伝達することを特徴としている。
【0010】
また、請求項2の発明の負圧倍力装置は、前記真空弁が、前記バルブボディに相対移動可能に設けられた真空弁座と、前記バルブボディに相対移動可能に設けられた弁体に設けられて前記真空弁座に着離座可能な真空弁部とからなり、前記大気弁が、前記弁プランジャに設けられた大気弁座と、前記弁体に設けられて前記大気弁座に着離座可能な大気弁部とからなり、前記バランス位置移動手段は、前記バルブボディに相対移動可能に設けられかつ前記真空弁座を有する真空弁座部材を備え、前記真空弁座部材が、前記変圧室の圧力がこの真空弁座部材の真空弁座を前記弁体の真空弁部に当接する方向に作用されるとともに、付勢手段の付勢力が前記真空弁座部材の真空弁座を前記弁体の真空弁部から遠ざける方向に作用されるように構成され、前記入力または前記出力が前記設定入力または前記設定出力を超えるとき、前記真空弁座部材の真空弁座が前記弁体の真空弁部に当接する方向に前記真空弁座部材が前記バルブボディに対して相対的に移動するようになっていることを特徴としている。
【0011】
更に、請求項3の発明の負圧倍力装置は、前記反力手段が、前記出力軸からの反力を受けて変形しかつ前記弁プランジャまたは前記弁プランジャと前記リアクションディスクとの間に設けられた間隔部材に当接して前記反力を前記弁プランジャまたは前記間隔部材に伝達するリアクションディスクを備え、前記入力または前記出力が前記設定入力または前記設定出力を超えるときの、前記リアクションディスクが前記弁プランジャまたは前記間隔部材に当接する受圧面積が、前記入力または前記出力が前記設定入力または前記設定出力以下のときより大きくなるように設定されていることを特徴としている。
【0012】
更に、請求項4の発明のブレーキ倍力装置は、車両のブレーキシステムに用いられ、ブレーキペダルのペダル踏力を倍力して出力する負圧倍力装置からなるブレーキ倍力装置において、前記負圧倍力装置が請求項1または2記載の負圧倍力装置であり、前記バランス位置移動手段が前記バランス位置を前記バルブボディに対して入力側に相対移動開始するときの車両の減速度が、通常ブレーキ作動時において発生する可能性のある減速度より大きな減速度に設定されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
このように構成された本発明に係る負圧倍力装置によれば、高出力領域で出力軸の大きなストロークを得る場合、サーボ比を実質的に変更することなく、入力軸のストローク量を、低出力領域での出力に対する入力軸のストローク量の変化率で変化した場合においてこの大きなストロークを得るために必要なストローク量より短縮させることができる。
また、反力手段にリアクションディスクを用いるとともに、このリアクションディスクが当接する弁プランジャまたは間隔部材の受圧面積を変えるようにすることで、反力手段を簡単な構造にすることができる。
【0014】
一方、本発明の負圧倍力装置を用いたブレーキ倍力装置によれば、バランス位置移動手段がバランス位置をバルブボディに対して入力側に相対移動開始するときの車両の減速度が、通常ブレーキ作動時において発生する可能性のある減速度より大きな減速度に設定されているので、車両重量が大きい車輌等の中高減速度(中高G)領域を高出力領域に設定し、かつ低減速度(低G)領域を低出力領域に設定することができる。したがって、中高G領域での通常作動時に低G領域での通常作動時より大きなブレーキ力を必要とする車輌に対して、ペダルストロークを短縮してブレーキフィーリングをより効果的に良好にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を用いて、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1は本発明に係る負圧倍力装置の実施の形態の一例を非作動状態で示す断面図、図2は図1における真空弁および大気弁の部分を拡大して示す部分拡大断面図である。なお、以下の説明において、「前」および「後」はそれぞれ各図において「左」および「右」を示す。
【0016】
まず、この例の負圧倍力装置において、特許文献1ないし4に記載の従来の負圧倍力装置と同じ構成部分のうち、本発明の特徴部分でない構成部分について簡単に説明する。
図1および図2において、1は負圧倍力装置、2はフロントシェル、3はリヤシェル、4はバルブボディ、5はバルブボディ4に取り付けられたパワーピストン部材6とバルブボディ4および両シェル2,3間に設けられたダイヤフラム7とからなるパワーピストン、8は両シェル2,3内の空間をパワーピストン5で区画された2つの室の一方で、通常時負圧が導入される定圧室、9は前述の2つの室の他方で、負圧倍力装置1の作動時大気圧が導入される変圧室、10は弁プランジャ、11は図示しないブレーキペダル等の作動部材に連結され、かつ弁プランジャ10を作動制御する入力軸、12はバルブボディ4に気密にかつ摺動可能に設けられ、かつ大気弁部12aと真空弁部12bとこれらを一体移動可能に連結する連結具12cとを有する弁体、13は環状の真空弁座、14は弁プランジャ10に形成された環状の大気弁座、15は真空弁部12bと真空弁座13とにより構成される真空弁、16は大気弁部12aと大気弁座14とにより構成される大気弁、17は互いに直列に配設された真空弁15と大気弁16とからなり、変圧室9を定圧室8と大気とに選択的に切り換え制御する制御弁、18は弁体12を真空弁部12bが真空弁座13に着座する方向に常時付勢する第1弁制御スプリング、19はバルブディ4の外周側通路19aとこれに連通する内周側通路19bとからなる大気導入通路、20はリヤシェル3と入力軸11との間に取り付けられかつ大気導入口20aを有するブーツ、21は大気導入口20aに設けられて制御弁17で発生する音を低減するサイレンサ、22は真空通路、23はバルブボディ4に形成されたキー孔4aに挿通されてこのバルブボディ4に対する弁プランジャ10の相対移動を、キー孔4aの軸方向幅により規定される所定量に規制し、かつバルブボディ4および弁プランジャ10の各後退限を規定するキー部材、24は反力手段の一部を構成する間隔部材、25は反力手段の他部を構成するリアクションディスク、26は出力軸、27はリターンスプリング、28は図示しない負圧源からの負圧を定圧室8に導入する負圧導入口である。
【0017】
なお、図示しないが従来の一般的な負圧倍力装置と同様に、フロントシェル2を貫通してマスタシリンダの後端部が定圧室8内に進入しかつマスタシリンダのピストンが出力軸26で作動されるようになる。なお、マスタシリンダのフロントシェル2貫通部は図示しない適宜のシール手段でシールされていて、定圧室8が大気と気密に遮断される。また従来と同様に、バルブボディ4がリヤシェル3を移動可能に貫通しているとともに、変圧室9がこの貫通部において図示したシール部材29で大気と気密に遮断されている。
【0018】
次に、この例の負圧倍力装置1の特徴部分の構成について説明する。
この例の負圧倍力装置1は、間隔部材24が弁プランジャ10に一体的に連結されている。そして、特許文献1ないし4に記載の負圧倍力装置と同様に負圧倍力装置1の非作動時、間隔部材24の前端面とこの間隔部材24の前端面に対向するリアクションディスク25の後端面との間には、軸方向の所定の間隙Cが設定されている。その場合、間隔部材24が、リアクションディスク25に向けて突出しかつ弁プランジャ10と同心に設けられた円柱状の小径部24aと、バルブボディ4にガイドされるように弁プランジャ10と同心に設けられかつ小径部24aより大きな径の大径部24bとから段付き形状に形成されている。したがって、間隙Cは、特許文献2ないし4に記載の負圧倍力装置と同様に、小径部24aがリアクションディスク25に対向する位置に形成される小間隙部C1と、大径部24bがリアクションディスク25に対向する位置に形成される大間隙部C2とから構成されている。
【0019】
なお、間隔部材24は弁プランジャ10と別体に設けることもできる。また、間隔部材24は必ずしも設ける必要はなく、省略することもできる。この場合には、リアクションディスク25が弁プランジャ10に直接当接するとともに、弁プランジャ10の先端部に、間隔部材24の小径部24aおよび大径部24bと同様の小径部および大径部を設ける。
【0020】
そして、反力手段を構成する間隔部材24およびリアクションディスク25は、特許文献2ないし4に記載の反力手段と同様に作用する。すなわち、負圧倍力装置1の作動時、入力が大きくなるにしたがって出力が増大してリアクションディスク25が間隔部材24の方へ膨出すると、リアクションディスク25は最初に小間隙部C1が消滅して小径部24aに当接する。これにより、ジャンピング作用が行われる。更に入力が設定入力F0までの領域では、リアクションディスク25が小径部24aに当接するが大径部24bに当接しなく、間隔部材24の受圧面積が小さく、リアクションディスク25から間隔部材24に伝達される反力は比較的小さい。また、入力が設定入力F0を超える領域では、出力が更に増大してリアクションディスク25が大間隙部C2が消滅して大径部24bにも当接し、間隔部材24の受圧面積が大きくなり、リアクションディスク25から間隔部材24に伝達される反力は、リアクションディスク25が小径部24aのみに当接するときより大きくなる。
【0021】
したがって、この例の負圧倍力装置1の入出力特性のうち、間隙Cに基づく特性は、図3に示す特性となる。すなわち、負圧倍力装置1の中間負荷状態において、入力がジャンピング作用が行われる入力より大きく設定入力F0以下のときは、図3に実線で示す通常のサーボ比SR1の入出力特性を呈し、入力が設定入力F0を超えるときは、図3に点線で示すサーボ比SR1より小さい小サーボ比SR2の入出力特性を呈する。
【0022】
一方、図2に示すように、この例の負圧倍力装置1では、特許文献1に記載の負圧倍力装置と同様にバルブボディ4の軸方向の内孔4bに、本発明のバランス位置移動手段である筒状の真空弁座部材30が摺動可能に嵌合されている。そして、前述の真空弁座13はこの真空弁座部材30の後端の内周側に設けられている。したがって、真空弁座13もバルブボディ4に対して相対移動可能となっている。
【0023】
そして、真空弁座部材30の外周面に設けられたカップシール等のシール部材31により、バルブボディ4の内孔4bの内周面と真空弁座部材30の外周面との間が少なくとも真空弁座部材30の前端から後端に向かう空気の流れを阻止するように気密に保持されている。更に、真空弁座部材30の前端面30aは常時変圧室9に連通されていて、これらの前端面30aには常時変圧室9の圧力が作用するようになっている。
【0024】
また、弁体12の真空弁部12bが真空弁座13に着座した状態において、真空弁座部材30の後端面30bにおける、真空弁部12bの着座位置より外周側の環状の外側後端面部分は常時定圧室8に連通されていて、この外側後端面には常時定圧室8の圧力(負圧)が作用するようになっている。したがって、負圧倍力装置1の作動時、変圧室9の圧力と定圧室8の圧力とに圧力差が生じると、この圧力差による力が真空弁座部材30に後方に向けて加えられるようになる。
【0025】
更に、真空弁座部材30には延長アーム部30cがこの真空弁座部材30の前端面30aから軸方向前方に延びるようにして設けられている。この延長アーム部30cには、軸方向孔30dが穿設されている。
真空弁座部材30の後端面30bの外周側とバルブボディ4との間には、環状の板ばねからなる第2弁制御スプリング32(本発明の付勢手段に相当)が真空弁座部材30と直列に縮設されており、この第2弁制御スプリング32により真空弁座部材30が常時前方に付勢されている。
【0026】
次に、この例の真空弁座部材30の作動について説明する。真空弁座部材30の作動は前述の特許文献1に記載の真空弁座部材と同じであり特許文献1を参照すれば容易に理解できるので、ここでは簡単に説明する。
負圧倍力装置1の非作動時には、真空弁座部材30はその前端面30aがバルブボディ4の段部4cに当接した、図2に示す非作動位置に位置決めされる。このように位置決めされた状態の真空弁座13は、従来の一般的な負圧倍力装置のバルブボディ4に一体に形成された真空弁座と同じ状態になるように設定されている。したがって、負圧倍力装置1の非作動時での真空弁座部材30のこの位置では、真空弁部12bが真空弁座13に着座しなく、真空弁15は開くようになる。
【0027】
また、操作部材の操作により入力軸11に入力が加えられて負圧倍力装置1が作動すると、従来の一般的な負圧倍力装置と同様に変圧室9に大気が導入されて、変圧室9と定圧室8との間に圧力差が生じる。このため、真空弁座部材30にもこの圧力差による力が後方に向けて加えられるようになる。この力は、変圧室9と定圧室8との間の圧力差、つまり入力軸11に加えられる入力の大きさに応じた大きさになっている。なお、負圧倍力装置1の作動時は真空弁部12bが真空弁座13に着座している。
【0028】
そして、この圧力差による力が第2弁制御スプリング32のばね荷重とこのときの弁体12の第1弁制御スプリング18のばね荷重との和以下である(つまり、入力軸11に加えられる入力が予め設定されかつ前述の間隔部材24の受圧面積が大きくなるように変わるときの設定入力F0以下(F0は図3に示す)である)と、真空弁座部材30はバルブボディ4に対して移動しなく、図1および図2に示す非作動位置を保持するようになる。また、圧力差による力が前述の両ばね荷重との和より大きくなる(つまり、入力軸11に加えられる入力が設定入力F0より大きくなる)と、真空弁座部材30が弁体12の真空弁部12bを押しながらバルブボディ4に対して相対的に後方に移動するようになっている。したがって、この真空弁座部材30の後方移動により、真空弁座13が通常時の位置より後方に突出する。
【0029】
ところで、真空弁座部材30がバルブボディ4に対して後方へ相対的にストロークすると、大気弁16の大気弁部12aもバルブボディ4に対して真空弁座部材30の相対ストローク量と同じだけ後方へ相対ストロークする。したがって、真空弁15および大気弁16がともに閉じた制御弁17のバランス位置が後方に移動する。このため、大気弁部12aと大気弁座14との間の開弁量が真空弁座部材30の相対ストロークしないと仮定した場合に比べて、入力軸11の入力ストローク量が同じであるとすると、真空弁座部材30の相対ストローク量だけ大きくなる。すなわち、負圧倍力装置1の中間負荷状態において、真空弁15と大気弁16とがともに閉じてバランスした状態では、入力軸11の入力ストローク量が同じである場合、バルブボディ4およびパワーピストン5のピストン部材6の各ストロークは、真空弁座部材30の相対移動しないと仮定した場合に比べて、真空弁座部材30の相対ストローク量だけ大きくなる。換言すると、真空弁座部材30の相対ストロークした場合と相対ストロークしないと仮定した場合とで、バルブボディ4およびパワーピストン5のピストン部材6の各ストローク量が同じであるとすると、真空弁座部材30の相対ストロークした場合の方が、入力軸11のストロークは真空弁座部材30の相対ストローク量だけ短縮される。
【0030】
一方、前述の真空弁座部材30の相対ストローク時における出力軸26の出力ストロークも、前述のように入力軸11の入力ストローク量が同じであるとしたときに、バルブボディ4およびパワーピストン5のピストン部材6の各ストロークが増大することで増大する。しかし、中間負荷状態では従来の負圧倍力装置と同様にリアクションディスク25が間隔部材24の方へ膨出してこのリアクションディスク25の軸方向の厚みが薄くなるため、前述のバルブボディ4およびパワーピストン5のピストン部材6の各ストロークの増大した相対ストローク量より小さくなる。
【0031】
そして、真空弁座部材30が弁体12の真空弁部12bを押しながら後方に突出することから、弁体12が後方に移動し、かつ弁体12の大気弁部12aも後方に移動するようになる。このため、真空弁15および大気弁16がともに閉じるバランス位置がバルブボディ4に対して相対的に後方に移動する。したがって、間隔部材24との間の隙間Cが小隙間部C1および大間隙部C2とも増加し、この間隙増加に応じたジャンピング量が出力を増大する。そして、変圧室9の圧力が大きくなるにしたがって真空弁座13の後方移動量が増大するので、前述のバランス位置も変圧室9の圧力が大きくなるにしたがってバルブボディ4に対して相対的に後方に移動する。このため、前述の間隙Cも変圧室9の圧力が大きくなるにしたがって増加するので、この間隙増加に応じたジャンピング量が出力を変圧室9の圧力が大きくなるにしたがって増大する。
【0032】
この真空弁座部材30の移動について具体的に説明する。中間負荷状態において、真空弁座部材30が移動しかつ真空弁15および大気弁16がともに閉じて制御弁17がバランス状態にある真空弁座部材30に加えられる圧力差による力を考える。この制御弁17のバランス状態は、真空弁座部材30と弁体12とが互いに当接して一体となるため、図4に示すように互いに一体になった真空弁座部材30および弁体12に加えられる力の等価状態としてみなすことができる。
【0033】
いま、図4において、真空弁座部材30および弁体12に加えられる圧力差による力をFP、定圧室8の圧力をPV0、変圧室9の圧力をPVとすると、真空弁座部材30および弁体12に加えられる圧力差による力FPは、
P = (PV−PV0)・(真空弁座部材30の有効受圧面積差)
で与えられ、この力FPが真空弁座部材30および弁体12を後方に向けて押圧するようになる。
【0034】
一方、第2弁制御スプリング32のばね荷重FSおよび第1弁制御スプリング18のばね荷重fSが前方に向けて押圧している。したがって、前述の力FPがこれらのばね荷重の和(FS+fS)以下であると、真空弁座部材30がバルブボディ4に対して移動しなく、また力FPがばね荷重の和(FS+fS)より大きくなると、真空弁座部材30がバルブボディ4に対して後方に移動するようになる。ここで、第1弁制御スプリング18のばね荷重fSはその絶対値が小さくしかも第2弁制御スプリング32のばね荷重FSに比べてきわめて小さく(FS≫fS)設定されることで、実質的に力FPがばね荷重FSより大きいとき(FP >FS)に、真空弁座部材30がバルブボディ4に対して後方に移動し、力FPがばね荷重FS以下であるとき(FP ≦FS)に、真空弁座部材30はバルブボディ4に対して後方に移動しない。すなわち、真空弁座部材30の作動開始は実質的に第2弁制御スプリング32によって決定されるようになる。したがって、変圧室9の圧力が上昇して、力FPがセットばね荷重より大きくなると、真空弁座部材30が後方に移動開始するようになる。
【0035】
そして、真空弁座部材30がバルブボディ4に対して後方に移動しない力FPの領域つまり変圧室9の圧力PVの領域に対応する負圧倍力装置1の入力は、図3に示す入出力特性において負圧倍力装置1の入力が比較的小さい設定入力F0以下の領域に設定されている。また、真空弁座部材30がバルブボディ4に対して後方に移動する力FPの領域つまり変圧室9の圧力PVの領域に対応する負圧倍力装置1の入力は、図3に示す入出力特性において設定入力FOより大きい領域に設定されている。
【0036】
したがって、この例の負圧倍力装置1の入出力特性のうち、真空弁座部材30に基づく特性は、図3に示すように負圧倍力装置1の中間負荷状態において、入力がジャンピング作用が行われる入力より大きくかつ設定入力F0以下のときは真空弁座部材30が移動しないので、図3に実線で示す通常のサーボ比SR1の入出力特性を呈し、入力が設定入力F0を超えるときは真空弁座部材30が後方に移動するので、図3に二点鎖線で示すサーボ比SR1より大きい大サーボ比SR3の入出力特性を呈する。
【0037】
そして、この例の負圧倍力装置1では、中間負荷状態において、前述のように間隔部材24の受圧面積が大きくなるように変わるときの入力と真空弁座部材30がバルブボディ4に対して後方に移動するときの入力とが、ともに同じ設定入力F0に設定されているとともに、設定入力F0を超える入力領域におけるサーボ比が、間隔部材24の受圧面積が大きいことに基づいて設定される小サーボ比SR2と真空弁座部材30が移動することに基づいて設定される大サーボ比SR3との相互作用で、入力が設定入力F0以下の領域における通常作動時のサーボ比SR1となるように設定されている。つまり、この例の負圧倍力装置1では、中間負荷状態で真空弁座部材30によるジャンピング量が増加するように設定されてもサーボアップはしないように設定される。
【0038】
バルブボディ4の軸方向孔内には、作動アシスト機構の筒状部材33がバルブボディ4に対して相対摺動可能に配設されている。この筒状部材33の後端部には、外側に突出する環状のフランジ33aが形成されているとともに、筒状部材33の中央部には軸方向孔33bが穿設され、更に筒状部材33の前端部にも軸方向孔33cが穿設されている。フランジ33aとバルブボディ4との間には、作動アシスト用スプリング34が縮設されており、この作動アシスト用スプリング34のばね力により筒状部材33が常時後方に付勢されている。筒状部材33がバルブボディ4に対して後方に所定ストローク以上ストロークすると、筒状部材33の後端面33eが真空弁座部材30の前端面30aに当接して真空弁座部材30を後方に第2弁制御スプリング32のばね力に抗して押圧することで、筒状部材33は第2弁制御スプリング32を縮小して真空弁座部材30をバルブボディ4に対して後方に移動するようになっている。
【0039】
そして、キー部材23が筒状部材33の軸方向孔33bおよび延長アーム部30cの軸方向孔30dをも貫通して設けられる。図2に拡大して示すように、負圧倍力装置1の非作動時には、リヤシェル3に当接して後退限に位置決めされたキー部材23に、真空弁座部材30における軸方向孔30dより前方の前端部30eおよび筒状部材33における軸方向孔33cより前方の前端部33dが当接することで、真空弁座部材30および筒状部材33がともにそれらの後退限に位置決めされる。
【0040】
更に、通常作動時に筒状部材33をバルブディ4に対して軸方向に位置決めする筒状部材位置決め部材35がバルブボディ4のキー孔4a、筒状部材33の軸方向孔33c、およびバルブボディ4の径方向孔4dに貫通されている。そして、詳細に示さないが、通常作動時に筒状部材33の前端部33dがキー部材23から離れると、作動アシスト用スプリング34のばね力により筒状部材33がバルブボディ4に対して後方に移動しようとしたとき、筒状部材33は筒状部材位置決め部材35に係止して後方移動が阻止され、バルブディ4に対して軸方向に位置決めされる。これにより、通常作動時には、筒状部材33の後端面33eが真空弁座部材30の前端面30aに当接するのを阻止される。
【0041】
弁プランジャ10には、筒状部材33と筒状部材位置決め部材35との係止を解除するためのテーパ状の係止解除部10aが設けられている。緊急作動のため操作部材が通常作動時より迅速に踏み込まれて、弁プランジャ10がバルブボディ4に対して所定量以上前方へ移動すると、この係止解除部10aが筒状部材位置決め部材35のエッジ部35aに当接することで、筒状部材33と筒状部材位置決め部材35との係止が解除され、前述のように筒状部材33が真空弁座部材30を押圧してバルブボディ4に対して後方へ移動するようになる。
【0042】
次に、この例の負圧倍力装置1の作動について説明する。
(負圧倍力装置の非作動時)
負圧倍力装置1の定圧室8には負圧導入口28を通して常時負圧が導入されている。また、図1および図2に示す負圧倍力装置1の非作動状態では、キー部材23がリヤシェル3に当接して後退限となっている。したがって、このキー部材23によってバルブボディ4および弁プランジャ6が後退限にされ、更にパワーピストン5、入力軸11および出力軸26も後退限となっている。また、真空弁座部材30の前端面30aが第2弁制御スプリング32のばね力でバルブボディ4の段部4cに当接して真空弁座部材30が図2に示す位置に位置決めされているとともに、筒状部材33の前端部33dが作動アシスト用スプリング34のばね力でキー部材23に当接して筒状部材33が図2に示す位置に位置決めされている。
【0043】
この非作動状態では、弁体12の大気弁部12aが大気弁座14に着座して大気弁16が閉じ、かつ弁体12の真空弁部12bが真空弁座13から離座して真空弁15が開いている。したがって、変圧室9は大気から遮断されかつ定圧室8に連通して変圧室9に負圧が導入されており、変圧室9と定圧室8との間に実質的に差圧が生じていない。このため、真空弁座部材30には圧力差による力が後方に向けて加えられていない。
また、出力軸26から反力がリアクションディスク25に作用されないので、リアクションディスク25は変形しなく、間隔部材24の方へ膨出しない。
【0044】
(負圧倍力装置の設定入力F0以下の入力領域での通常作動時)
図示しない操作部材が通常作動時での操作速度で操作されると、入力軸11が前進して弁プランジャ10が前進する。弁プランジャ10の前進により、弁体12の真空弁部12bが真空弁座13に着座して真空弁15が閉じるとともに大気弁座14が弁体12の大気弁部12aから離れて、大気弁16が開く。すなわち、変圧室9が定圧室8から遮断されるとともに大気に連通される。したがって、大気圧の空気が大気導入口20a、外周側通路19a、内周側通路19b、開いている大気弁16、およびキー孔4aを通って変圧室9に導入される。その結果、変圧室9と定圧室8との間に差圧が生じてパワーピストン5が前進し、更にバルブボディ4を介して出力軸26が前進して図示しないマスタシリンダのピストンが前進する。このとき、弁体12、真空弁座部材30、および筒状部材33等のバルブボディ4に支持されている部材は、バルブボディ4と一体に移動する。
【0045】
また、弁プランジャ10の前進で間隔部材24も前進するが、まだ間隔部材24の小径部24aは小間隙C1によりリアクションディスク25に当接するまでには至らない。したがって、出力軸26から反力がリアクションディスク25から間隔部材24に伝達されないので、この反力は弁プランジャ10および入力軸11を介して操作部材にも伝達されない。入力軸11が更に前進すると、パワーピストン5も更に前進し、バルブボディ4および出力軸26を介してマスタシリンダのピストンが更に前進する。
【0046】
負圧倍力装置1は実質的に出力を発生すると、出力軸26に加えられる反力によってリアクションディスク25が後方に膨出し、小間隙C1が消滅してリアクションディスク25が間隔部材24の小径部24aに当接する。これにより、出力軸26からの反力はリアクションディスク25から間隔部材24の小径部24aに伝達され、更に弁プランジャ10および入力軸11を介して操作部材に伝達されて運転者に感知されるようになる。すなわち、図3に示すように負圧倍力装置1は通常作動時のジャンピング特性を発揮する。このジャンピング特性は、従来の一般的な負圧倍力装置のジャンピング特性とほぼ同じである。
【0047】
負圧倍力装置1が設定入力F0以下の入力領域内の入力で通常作動される場合には、前述のように変圧室9の圧力PVと定圧室8の圧力PV0との差圧により真空弁座部材30を押圧する力FPは第1および第2弁制御スプリング18,32の各ばね力の和より小さく、真空弁座部材30はバルブボディ4に対して後方に移動しない。また、出力軸26からの反力が小さく、リアクションディスク25は間隔部材24の小径部24aのみに当接し、大径部24bには当接しない。このため、サーボ比は従来の通常作動時と同じサーボ比SR1となる。
【0048】
(負圧倍力装置の設定入力F0以下の入力領域での通常作動解除時)
低出力領域内の通常作動時での負圧倍力装置1の大気弁16および真空弁15がともに閉じているバランス状態から、通常作動を解除するために、操作部材を解放すると、入力軸11および弁プランジャ10がともに後退するが、バルブボディ4および真空弁座部材30は変圧室9に空気(大気)が導入されているので、直ぐには後退しない。これにより、弁プランジャ10の大気弁座14が弁体12の大気弁部12aを後方に押圧するので、真空弁部12bが真空弁座13gから離座し、真空弁15が開く。すると、変圧室9が開いた真空弁15および真空通路22を介して定圧室8に連通するので、変圧室9に導入された空気は、開いた真空弁15、真空通路22、定圧室8および負圧導入口28を介して真空源に排出される。
【0049】
これにより、変圧室9の圧力が低くなって変圧室9と定圧室8との差圧が小さくなるので、リターンスプリング27のばね力により、パワーピストン5、バルブボディ4および出力軸26が後退する。バルブボディ4の後退に伴い、マスタシリンダのピストンのリターンスプリングのばね力によってマスタシリンダのピストンおよび出力軸26も後退し、通常作動が解除開始される。
【0050】
キー部材23が図1に示すようにリヤシェル3に当接すると、キー部材23は停止してそれ以上後退しなくなる。しかし、バルブボディ4、弁プランジャ10および入力軸11が更に後退する。そして、弁プランジャ10が図2に示すようにキー部材23に当接してそれ以上後退しなくなり、更に、バルブボディ4のキー孔4aの前端4a1が図2に示すようにキー部材23に当接して、バルブボディ4がそれ以上後退しなくなる。こうして、負圧倍力装置1は図1および図2に示す初期の非作動状態になる。
【0051】
(負圧倍力装置の設定入力F0を超える入力領域での通常作動時)
通常作動時において設定入力F0を超える入力領域で通常作動を行う場合には、変圧室9の圧力PVと定圧室8の圧力PV0との差圧により真空弁座部材30を押圧する力FPが第1および第2弁制御スプリング18,32の各ばね力の和より大きくなるので、真空弁座部材30は第1および第2弁制御スプリング18,32を縮小して弁体12を押しながらバルブボディ4に対して後方に移動する。また、出力軸26からの反力が大きく、リアクションディスク25は間隔部材24の小径部24aとともに大径部24bにも当接する。このため、設定入力F0を超える入力領域においても、前述のようにサーボ比は通常作動時と同じサーボ比SR1となる。
【0052】
また、設定入力F0を超える入力領域での負圧倍力装置1の作動時では、真空弁座部材30が設定入力F0以下の入力領域での負圧倍力装置1の作動時と異なりバルブボディ4に対して後方に移動することから、出力ストロークがこの真空弁座部材30の移動量に応じて大きくなる。すなわち、入力軸11のストロークが短縮される(詳細は、特許文献1を参照)。
【0053】
(負圧倍力装置の設定入力F0を超える入力領域での通常作動解除時)
真空弁座部材30の作動時でかつリアクションディスク25が小径部24aおよび大径部24bの両方に当接しかつ大気弁16および真空弁15がともに閉じている状態から、通常作動を解除するために、操作部材を解放すると、前述と同様にして真空弁15が開き、変圧室9に導入された空気が、開いた真空弁15、真空通路22、定圧室8および負圧導入口28を介して真空源に排出される。
【0054】
これにより、前述と同様に変圧室9の圧力が低下し、リターンスプリング27のばね力により、パワーピストン5、バルブボディ4および出力軸26が後退する。バルブボディ4の後退に伴い、マスタシリンダのピストンのリターンスプリングのばね力によってマスタシリンダのピストンおよび出力軸26も後退し、通常作動が解除開始される。
【0055】
負圧倍力装置の出力が設定入力F0のときの設定出力より小さくなると、変圧室9と定圧室8との差圧が小さくなって、真空弁座部材30を押圧する力FPが変圧室9の圧力PVが第1および第2弁制御スプリング18,32のばね荷重FS,fSの和より小さくなる。すると、真空弁座部材30がバルブボディ4に対して前方に相対的に移動し、真空弁座部材30は図2に示す非作動位置になって真空弁部12bが真空弁座13gから大きく離座して真空弁15が大きく開くとともに、リアクションディスク25が大径部24bから離間して、小径部24aのみに当接する。これにより、設定入力F0以下の入力領域での通常作動状態になる。これ以後、前述の設定入力F0以下の入力領域での通常作動の場合と同様であり、最終的に負圧倍力装置1の移動した部材はすべて図2に示す非作動位置になり、設定入力F0を超える入力による通常作動が解除される。
【0056】
真空弁座部材30の非作動位置への戻り過程(真空弁座部材30のバルブボディ4に対する前方移動)で、真空弁座部材30がスティックを起こして第2弁制御スプリング32のばね力では前方へ移動しなくなった場合には、バルブボディ4の後退移動により真空弁座部材30の前端部30eが、リヤシェル3に当接して後退移動しないキー部材23に当接する。したがって、真空弁座部材30も後退移動が阻止される。しかし、バルブボディ4の更なる後退移動で、スティックを起こしている真空弁座部材30はバルブボディ4に対して強制的に前方へ移動するようになる。このため、真空弁座部材30は確実に図2に示す非作動位置となって真空弁が開き、負圧倍力装置1は確実に非作動位置となり、通常作動が解除される。
【0057】
(負圧倍力装置の作動アシスト時)
操作部材が通常作動時より迅速に操作されて作動アシストが行われると、バルブボディ4に対する入力軸11および弁プランジャ10の前方移動が大きくなる。すると、弁プランジャ10の係止解除部10aが筒状部材位置決め部材35のエッジ部35aに当接して筒状部材位置決め部材35を押し開くので、筒状部材33と筒状部材位置決め部材35との係止が解除される。これにより、筒状部材33が真空弁座部材30を押圧してバルブボディ4に対して後方へ移動するので、前述のように負圧倍力装置1のサーボ比が大きな大サーボ比SR3となる。このとき、リアクションディスク25は間隔部材24にまだ当接していないので、出力軸26からの反力でリアクションディスク25が膨出して間隔部材24の小径部24aに当接したときは、負圧倍力装置1の出力は、大きくなっている。したがって、作動アシスト時のジャンピング特性のジャンピング量が大きくなるとともにサーボ比が大きくなるので、小さな操作力および小さな操作量で大きな出力が発生する。こうして、緊急作動時等において作動アシストが行われる。なお、作動アシスト開始後、出力が前述の設定出力になるまでは、リアクションディスク25が間隔部材24の大径部24bに当接しないので、間隔部材24の受圧面積の変化によるサーボダウンは生じない。
【0058】
作動アシスト後、操作部材を解放すると、バルブボディ4、パワーピストン5、弁プランジャ10,入力軸11,出力軸26等は後退して、前述の通常作動の解除時と同様に図1および図2に示す非作動位置に戻る。その場合、弁プランジャ10の係止解除部10aが筒状部材位置決め部材35のエッジ部35aから離れるので、筒状部材位置決め部材35は筒状部材33と係止可能な状態となる。一方、筒状部材33はバルブボディ4の後退移動により筒状部材33の前端部33dが、リヤシェル3に当接して後退移動しないキー部材23に当接する。したがって、筒状部材33も後退移動が阻止される。しかし、バルブボディ4の更なる後退移動で、筒状部材33はキー部材23によりバルブボディ4に対して強制的に前方へ移動し、非作動位置に戻る。
【0059】
このようにこの例の負圧倍力装置1によれば、高出力領域で出力軸26の大きなストロークを得る場合、サーボ比を変更することなく、入力軸11のストローク量を、低出力領域での出力に対する入力軸11のストローク量の変化率で変化した場合においてこの大きなストロークを得るために必要なストローク量より短縮させることができる。
また、反力手段にリアクションディスク25を用いるとともに、このリアクションディスク25が当接する間隔部材24の受圧面積を変えるようにすることで、反力手段を簡単な構造にすることができる。
【0060】
したがって、この例の負圧倍力装置1をブレーキシステムに用いられるブレーキ倍力装置に適用するとともに、車両重量が大きい車輌等の中高減速度(中高G)領域を高出力領域に設定し、かつ低減速度(低G)領域を低出力領域に設定することにより、中高G領域での通常作動時に低G領域での通常作動時より大きなブレーキ力を必要とする車輌に対して、ペダルストロークを短縮してブレーキフィーリングをより効果的に良好にできる。
【0061】
また、負圧倍力装置1の作動アシスト作用をブレーキアシスト(BA)作用に適用することにより、BA作動時のジャンピング特性のジャンピング量を大きくできるとともにサーボ比を大きくできるので、小さなペダル踏力および小さなペダルストロークで大きなブレーキ力を発生することができる。したがって、緊急ブレーキ作動時等においてBA作動を行うことができるので、必要なブレーキ力でブレーキを確実に作動することができる。
【0062】
なお、前述の例では、変圧室9の圧力と定圧室の圧力との圧力差により真空弁座部材30の作動制御しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、変圧室9の圧力のみあるいは変圧室9の圧力と他の一定圧力との圧力差により、真空弁座部材30の作動を制御することもできる。更に、変圧室9の圧力に代えて、入力軸11に加えられる入力に応じた圧力により、真空弁座部材30の作動を制御することもできる。
【0063】
また、前述の例では、負圧倍力装置1の入出力特性において、サーボ比を通常のサーボ比SR1から小、大サーボ比SR2,SR3に切り換える場合、負圧倍力装置1の入力が設定入力F0を超えることを基準にしてサーボ比を切り換えるものとしているが、本発明では、これに限定されることはなく、負圧倍力装置1の出力が設定出力を超えることを基準にしてサーボ比を切り換えるようにすることもできる。
【0064】
更に、前述の例では、本発明を1つのパワーピストン5を有するシングル型の負圧倍力装置に適用しているが、本発明は複数のパワーピストン5を有するタンデム型の負圧倍力装置に適用することもできる。
更に、前述の例では、本発明の負圧倍力装置をブレーキシステムに適用しているが、負圧倍力装置を用いる他のシステムや装置に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係る負圧倍力装置は、比較的大きな出力領域での入力ストロークを短縮する負圧倍力装置に利用することができ、特に、車両のブレーキシステムにおいて、車両重量が大きい車両等の通常作動時の中高減速度領域でのペダルストロークを短縮するブレーキ倍力装置に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係る負圧倍力装置の実施の形態の一例を非作動状態で示す断面図である。
【図2】図1における真空弁および大気弁の部分を拡大して示す部分拡大断面図である。
【図3】図1に示す例の負圧倍力装置入出力特性を示す図である。
【図4】図1に示す例の負圧倍力装置における真空弁座部材の作動を説明し、力学的に等価状態を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1…負圧倍力装置、2…フロントシェル、3…リヤシェル、4…バルブボディ、5…パワーピストン、8…定圧室、9…変圧室、10…弁プランジャ、11…入力軸、12…弁体、12a…大気弁部、12b…真空弁部、13…真空弁座、14…大気弁座、15…真空弁、16…大気弁、17…制御弁、18…第1弁制御スプリング、23…キー部材、24…間隔部材、24a…小径部、24b…大径部、25…リアクションディスク、26…出力軸、30…真空弁座部材、32…第2弁制御スプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力が加えられる入力軸と、シェル内に対して進退自在に配設されたバルブボディと、このバルブボディに設けられて、前記シェル内を負圧が導入される定圧室と作動時に大気が導入される変圧室とに区画するパワーピストンと、前記バルブボディに連結されて、前記パワーピストンにより発生されて前記入力を倍力した出力を前記バルブボディを介して出力する出力軸と、前記入力軸に連結されかつ前記バルブボディ内に摺動自在に配設された弁プランジャと、この弁プランジャの作動により前記定圧室と前記変圧室との間の連通または遮断を制御する真空弁と、前記変圧室と少なくとも大気との間を遮断または連通を制御する大気弁と、前記変圧室の圧力に応じて前記入力が倍力される中間負荷状態で前記入力が設定入力を超えるとき、前記真空弁および前記大気弁がともに閉じるバランス位置を前記バルブボディに対して入力側に移動させるバランス位置移動手段と、前記出力軸からの反力を前記弁プランジャに伝達する反力手段とを少なくとも備えている負圧倍力装置において、
前記反力手段は、前記入力または前記出力が設定入力または設定出力を超えるとき、前記反力を前記弁プランジャに、前記入力または前記出力が前記設定入力または前記設定出力以下のときに伝達される反力より大きく伝達することを特徴とする負圧倍力装置。
【請求項2】
前記真空弁は、前記バルブボディに相対移動可能に設けられた真空弁座と、前記バルブボディに相対移動可能に設けられた弁体に設けられて前記真空弁座に着離座可能な真空弁部とからなり、
前記大気弁は、前記弁プランジャに設けられた大気弁座と、前記弁体に設けられて前記大気弁座に着離座可能な大気弁部とからなり、
前記バランス位置移動手段は、前記バルブボディに相対移動可能に設けられかつ前記真空弁座を有する真空弁座部材を備え、
前記真空弁座部材は、前記変圧室の圧力がこの真空弁座部材の真空弁座を前記弁体の真空弁部に当接する方向に作用されるとともに、付勢手段の付勢力が前記真空弁座部材の真空弁座を前記弁体の真空弁部から遠ざける方向に作用されるように構成され、前記入力または前記出力が前記設定入力または前記設定出力を超えるとき、前記真空弁座部材の真空弁座が前記弁体の真空弁部に当接する方向に前記真空弁座部材が前記バルブボディに対して相対的に移動するようになっていることを特徴とする請求項1記載の負圧倍力装置。
【請求項3】
前記反力手段は、前記出力軸からの反力を受けて変形しかつ前記弁プランジャまたは前記弁プランジャと前記リアクションディスクとの間に設けられた間隔部材に当接して前記反力を前記弁プランジャまたは前記間隔部材に伝達するリアクションディスクを備え、
前記入力または前記出力が前記設定入力または前記設定出力を超えるときの、前記リアクションディスクが前記弁プランジャまたは前記間隔部材に当接する受圧面積が、前記入力または前記出力が前記設定入力または前記設定出力以下のときより大きくなるように設定されていることを特徴とする請求項1または2記載の負圧倍力装置。
【請求項4】
車両のブレーキシステムに用いられ、ブレーキペダルのペダル踏力を倍力して出力する負圧倍力装置からなるブレーキ倍力装置において、
前記負圧倍力装置は請求項1または2記載の負圧倍力装置であり、前記バランス位置移動手段が前記バランス位置を前記バルブボディに対して入力側に相対移動開始するときの車両の減速度が、通常ブレーキ作動時において発生する可能性のある減速度より大きな減速度に設定されていることを特徴とするブレーキ倍力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−81069(P2008−81069A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266367(P2006−266367)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】