説明

負圧式倍力装置

【課題】 入力部材の作動ストロークを出力部材の作動ストロークよりも所定量だけスムーズに短縮させることができる簡素な構成の負圧式倍力装置を提供する。
【解決手段】 入力部材の前進により大気弁座が大気弁から開離してパワーピストンが前進する際に、負圧弁座の位置は、パワーピストンのハウジングに対する前進移動量を所定割合で減少させた距離だけパワーピストンに対して後方に移動される。従って、入力部材が僅かに前進して大気弁が大気弁座から開離しパワーピストンがハウジングに対して前進した場合、負圧弁座は、パワーピストンに対して後退するとともに、ハウジングに対するパワーピストンの前進量から大気弁座の後退量を減じた距離だけ前進するので、弁機構はパワーピストンの前進に伴って再び閉弁される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用の負圧式倍力装置に関し、特に出力部材の作動ストロークより入力部材の作動ストロークを短縮できる負圧式倍力装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、入力部材の作動ストロークが出力部材の作動ストロークよりも短縮するように構成した負圧式倍力装置は知られており、例えば、特許文献1に記載されている。かかる負圧式倍力装置は、特許文献1の図1に示されているように、シェル2内部を負圧室A及び変圧室Bに区画する可動部材5が前後方向に移動可能に設けられ、可動部材5にバルブボディ3が設けられている。バルブボディ3には、入力軸8によって作動され変圧室Bと大気との連通を開閉する大気弁26、および負圧室Aと変圧室Bとの連通を開閉する真空弁25を備えた弁機構7が設けられている。バルブボディ3の内周部には、真空弁25の真空弁座21が形成された筒状部材18が摺動自在に嵌合され、この筒状部材18は、ばね17によって後方に付勢されている。バルブボディ3に径方向に穿設された変圧通路28にキー部材13が軸方向の間隙Lだけ前後移動可能に貫通され、キー部材13に弁プランジャ16及び筒状部材18が前後方向に所定距離相対移動可能に係合されている。バルブボディ3の先端には、リアクションディスク15を介して出力軸11が連結され、出力軸11に作用するブレーキ反力がアクションディスク15により弁プランジャ16を介して入力軸8に伝達されるようになっている。弁プランジャ16には、大気弁26の大気弁座22が形成されている。
【0003】
これにより、入力軸8が前進されて弁機構7が作動を開始してバルブボディ3が前進しても、バルブボディ3が間隙Lだけ前進するまでの間は、筒状部材18延いては真空弁座21、および筒状部材18と係合するキー部材13は、ばね17のばね力により後方に付勢され、キー部材13がシェル2の壁面2bに当接して後退端に保持されている。そして、入力軸8が前進されて、キー部材13がバルブボディ3の変圧通路28のリヤ側端面に当接すると、真空弁座21がバルブボディ3に対して間隙Lだけ後退されることとなり、出力軸11の作動ストロークが入力軸8の作動ストロークより間隙Lだけ長くなり、出力軸11側のマスタシリンダ等の軸方向の遊びを吸収することができる。
【特許文献1】特開2003−191835号公報(第3〜5頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のものにおいては、バルブボディ3が間隙Lだけ前進するまでの間は、真空弁座21が後退端に保持される構成になっているので、ごくゆっくりしたブレーキ操作であっても、大気弁26が開弁したままになり、バルブボディ3の変圧通路28のリヤ側端面がキー部材13に当接するまでバルブボディ3は間隙Lだけ一気に前進することとなる。このような衝撃的な作動は運転者に違和感として感じられる虞がある。
【0005】
また、負圧式倍力装置では、ブレーキ解除操作時に所定の応答性を確保するために、真空弁25の開弁量を所定量確保する必要がある。ところが、特許文献1に記載のものにおいては、プランジャ16の後退端を決定するキー部材13を使って真空弁座21を後退端に保持し、弁機構の非作動時にこの真空弁座21と僅かな隙間を持って弁体24の第1シート部S1を対向させる構成としているので、ブレーキ解除操作時における真空弁25の所定量の開弁量が、非作動状態における真空弁25の開弁量となる。この所定量の開弁量は、ブレーキ操作時には入力軸8のロスストロークとなるので、入力軸8のロスストロークの減少という本来の目的に対してマイナス要因となる。
【0006】
本発明は、入力部材の作動ストロークを出力部材の作動ストロークよりも所定量だけスムーズに短縮させることができる簡素な構成の負圧式倍力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、圧力空間(1a)を内部に形成されたハウジング(1)と、該ハウジング内に前後方向に進退可能に設けられ前記圧力空間を変圧室(6)と負圧室(5)とに区画する可動部材(4)と、該可動部材に結合されているパワーピストン(8)と、該パワーピストン内に前後方向に夫々相対移動可能に装架された入力部材(32)と出力部材(14)と、前記入力部材と前記パワーピストンに夫々設けられた大気弁座(21a)および負圧弁座(27)、該大気弁座に接離して前記変圧室を大気に連通、遮断する大気弁(31a)、および該負圧弁座に接離して前記変圧室を前記負圧室に連通、遮断する負圧弁(28)を備えた弁機構(30)と、前記出力部材の反力の一部を前記入力部材に伝達する反力付与手段(33)と、を備えた負圧式倍力装置において、前記入力部材(32)の前進により前記大気弁座(21a)が前記大気弁(31a)から開離して前記パワーピストン(8)が前進する際に、前記パワーピストンの前記ハウジング(1)に対する前進量を所定割合で減少させた距離だけ前記負圧弁座(27)の位置を前記パワーピストンに対して後方に移動させる負圧弁座後退手段(45)を備えたことである。
【0008】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前記負圧弁座(27)は、前記パワーピストン(8)に設けられた固定負圧弁座(8k)と、前記パワーピストンの内周に前後方向に移動可能に気密的に嵌合された移動弁座部材(40)に形成された移動負圧弁座(40b)とで構成され、前記負圧弁座後退手段(45)は、前記移動弁座部材をパワーピストンに対して後方に付勢するスプリング(43)と、前記パワーピストンを径方向に貫通する梃子部材(22)とを備え、前記梃子部材が一端部位で前記パワーピストンの支点部位(8r)に傾動自在に支持され、他端部位で前記ハウジング(1)に当接し、中間部位で前記移動弁座部材に係合することにより、前記移動負圧弁座が、前記パワーピストンの前記ハウジングに対する前進量を所定の梃子比で減少させた距離だけ前記固定負圧弁座に対して後方に移動されるように構成されていることである。
【0009】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項2において、前記梃子部材(22)が前記入力部材(32)の前記ハウジング(1)に対する後退を制限するキー部材としても機能することである。
【0010】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前記負圧弁座(27)は、前記パワーピストン(8)に設けられた固定負圧弁座(8k)と、前記パワーピストンの内周に前後方向に移動可能に気密的に嵌合された移動弁座部材(40)に形成された移動負圧弁座(40b)とで構成され、前記負圧弁座後退手段(45)は、前記移動弁座部材をパワーピストンに対して後方に付勢する第1スプリング(43)と、前記移動弁座部材を前記ハウジング(1)に対して前方に付勢する第2スプリング(52)とを備え、前記入力部材(32)の前進により前記大気弁座(21a)が前記大気弁(31a)から開離して前記パワーピストン(8)が前進する際に、前記移動負圧弁座が、前記パワーピストンの前記ハウジングに対する前進量を前記第1及び第2スプリングのばね定数に基づく所定割合で減少させた距離だけ前記固定負圧弁座に対して後方に移動されるように構成されていることである。
【0011】
請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項4において、前記パワーピストン(8)を径方向に貫通し前記入力部材(32)の前記ハウジング(1)に対する後退を制限するキー部材(50)に前記移動弁座部材(40)が係合され、前記第2スプリング(52)が前記ハウジングと前記キー部材との間に介在されていることである。
【0012】
請求項6に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前記負圧弁座は、前記パワーピストン(8)に設けられた固定負圧弁座(8k)と、前記パワーピストンの内周に前後方向に移動可能に気密的に嵌合された移動弁座部材(40)に形成された移動負圧弁座(40b)とを備え、前記負圧弁座後退手段(45)は、前記移動弁座部材をパワーピストンに対して後退方向に付勢する第1スプリング(43)と、前記パワーピストンに径方向に設けられた径方向貫通穴(56)に挿通され両端部位で前記ハウジング(1)と対向し中間部位で前記移動弁座部材と係合するキー部材(55)と、該キー部材の一端端部位を前記ハウジングに対して前方に付勢する第2スプリング(57)とを備え、前記キー部材は、前記パワーピストンの前記ハウジングに対する位置および前記第1および第2スプリングの付勢力に応じて前記ハウジング、前記径方向貫通穴の前壁または後壁と当接することである。
【0013】
請求項7に係る発明の構成上の特徴は、請求項6において、前記第2スプリング(57)が前記キー部材(55)の一端部位に固定された板ばね(57)であることである。
【0014】
請求項8に係る発明の構成上の特徴は、請求項2乃至7のいずれか1項において、前記負圧弁座(27)は、前記弁機構(30)が非作動状態にある場合、前記移動負圧弁座(40b)が前記固定負圧弁座(8k)より前進した位置に位置決めされることにより、作動の初期段階では固定負圧弁座が負圧弁座として機能し、前記パワーピストン(8)が所定量以上前進すると、前記移動負圧弁座が前記固定負圧弁座より後方に位置することにより、前記移動負圧弁座が前記負圧弁座として機能するように構成されていることである。
【発明の効果】
【0015】
上記のように構成した請求項1に係る発明によれば、入力部材(32)の前進により大気弁座(21a)が大気弁(31a)から開離してパワーピストン(8)が前進する際に、負圧弁座(27)の位置は、パワーピストンのハウジング(1)に対する前進移動量を所定割合で減少させた距離だけパワーピストンに対して後方に移動される。従って、入力部材が僅かに前進して大気弁座が大気弁から開離されると、パワーピストンは、入力部材の前進量に負圧弁座のパワーピストンに対する後退量を加算した量だけ前進するので、弁機構(30)はパワーピストンの前進に伴って再び閉弁されることができる。
【0016】
これにより、入力部材の前進により大気弁座が大気弁から開離すると、パワーピストンが一気に前進することがなく、運転者に違和感を与えるようなこがなくなる。そして、入力部材の前進に伴ってパワーピストンを円滑に前進させることができるとともに、出力部材の作動ストロークを入力部材の作動ストロークよりも所定量だけスムーズに漸増することができ、ブレーキペダル(25)踏み始め部分での出力部材側のマスタシリンダ(11)等における遊びと呼ばれる部分での入力部材の作動ストロークを短縮することができる。
【0017】
上記のように構成した請求項2に係る発明によれば、パワーピストン(8)が前進する際に、梃子部材(22)が一端部位でパワーピストンの支点部位(8r)に傾動自在に支持され、他端部位でハウジング(1)に当接し、中間部位で移動負圧弁座(40b)が形成された移動弁座部材(40)と係合する。これにより、移動負圧弁座が、パワーピストンのハウジングに対する前進量を所定の梃子比で減少させた距離だけパワーピストンに対して後方に移動されるので、簡単な構成で請求項1にかかる発明と同様の効果を奏する負圧倍力装置を提供することができる。
【0018】
上記のように構成した請求項3に係る発明によれば、梃子部材(22)が入力部材(32)のハウジング(1)に対する後退を制限するキー部材としても機能するので、負圧弁座後退手段を安価に構成することができる。
【0019】
上記のように構成した請求項4に係る発明によれば、移動負圧弁座(40b)が形成された移動弁座部材(40)が、第1スプリング(43)によりパワーピストン(8)に対して後方に付勢されるとともに、第2スプリング(52)によりハウジング(1)に対して前方に付勢される。これにより、パワーピストンが前進する際に、移動負圧弁座が、パワーピストンのハウジングに対する前進量を第1及び第2スプリングのばね定数に基づく所定割合で減少させた距離だけ前記パワーピストンに対して後方に移動されるので、簡単な構成で請求項1にかかる発明と同様の効果を奏する負圧倍力装置を提供することができる。
【0020】
上記のように構成した請求項5に係る発明によれば、パワーピストン(8)を径方向に貫通し入力部材(32)のハウジング(1)に対する後退を制限するキー部材(50)に移動弁座部材(40)が係合され、移動弁座部材をハウジングに対して前方に付勢する第2スプリング(52)がハウジングとキー部材との間に介在されているので、負圧弁座の位置を簡素な構成によりパワーピストンのハウジングに対する前進量を所定割合で減少させた距離だけパワーピストンに対して後方に移動させることができる。
【0021】
上記のように構成した請求項6に係る発明によれば、入力部材(32)の前進により大気弁座(21a)が大気弁(31a)から開離してパワーピストン(8)が前進するにつれて、キー部材(55)が、両端部位でハウジング(1)に当接し、キー部材が両端側でパワーピストンの径方向貫通穴(56)の前壁に当接して直径方向に位置する状態から、第1および第2スプリング(43),(57)の付勢力に応じて一端側が径方向貫通穴の前壁、他端部位がハウジングに当接する傾斜増加状態、一端側が径方向貫通穴の前壁から離脱し他端側が径方向貫通穴の後壁と当接する傾斜減少状態、両端側で径方向貫通穴の後壁に当接して直径方向に位置する状態に順次変化し、移動弁座部材(40)は、パワーピストンのハウジングに対する前進移動量をキー部材の傾斜に基づく梃子比で減少させた距離だけワーピストンに対して相対的に後方に漸次移動され、移動負圧弁座(40b)は固定負圧弁座(8k)より所定距離だけ後方に位置するようになる。従って、入力部材が僅かに前進して大気弁座が大気弁から開離されると、パワーピストンは、入力部材の前進量に負圧弁座のパワーピストンに対する後退量を加算した量だけ前進するので、弁機構(30)はパワーピストンの前進に伴って再び閉弁されることができる。
【0022】
これにより、入力部材が前進されたときに、パワーピストンが一気に前進して、運転者に違和感を与えるようなこがなくなり、入力部材の前進に伴ってパワーピストンを円滑に前進させることができるとともに、キー部材がパワーピストンに必要最小限の幅で設けられた径方向貫通穴の前壁と後壁との間を傾動しながら移動することにより、出力部材の作動ストロークを入力部材の作動ストロークよりも所定量だけスムーズに漸増することができ、かつ装置を小型、軽量化することができる。
【0023】
さらに、ブレーキ解除時に、キー部材は両端側でパワーピストンの径方向貫通穴の後壁に当接して直径方向に位置する状態から、一端部位がハウジングに第2スプリングを介して当接し、他端部位がハウジングに当接する状態、一端側が径方向貫通穴の前壁に当接し他端部位がハウジングに当接する状態、両端側で径方向貫通穴の前壁に当接して直径方向に位置する状態に順次変化し、移動弁座部材は、パワーピストンのハウジングに対する後退移動量に応じてキー部材によりパワーピストンに対して相対的に前方に漸次移動され、移動負圧弁座は固定負圧弁座より所定距離だけ前方に位置するようになる。これにより、入力部材が後退端近傍に後退されたときに、パワーピストンが一気に後退して、運転者に違和感を与えるようなことがなくなる。
【0024】
上記のように構成した請求項7に係る発明によれば、キー部材(55)の一端部位を前方に付勢する第2スプリングとして、板ばね(57)がキー部材の一端部位に固定されているので、簡単かつ安価な構成でキー部材の一端部位を前方に確実に付勢することができる。
【0025】
上記のように構成した請求項8に係る発明によれば、弁機構(30)が非作動状態にあるとき、移動負圧弁座(40b)が固定負圧弁座(8k)より前進した位置に位置決めされており、作動の初期段階では固定負圧弁座が負圧弁座(27)として機能し、パワーピストン(8)が所定量以上前進すると、移動負圧弁座が固定負圧弁座より後方に移動することにより、固定負圧弁座が負圧弁座として機能するので、簡単な構成で、パワーピストンが前進する際に、負圧弁座の位置をパワーピストンに対して後方に移動させることができる。さらに、非作動状態における移動負圧弁座と固定負圧弁座との段差を、ブレーキ解除時の大気弁座(21a)と大気弁(31a)との開離量として確保することができるので、非作動状態での固定負圧弁座と第1負圧弁(31b)との開離量を最小限にすることができ、入力部材のロスストロークを最小限にとどめることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明に係る負圧式倍力装置の第1の実施形態を図面に基づいて説明する。図1に示すように、ハウジング1は、フロントシェル2及びリアシェル3から構成され、両シェル2,3間には、可動部材としてのフレキシブルなダイヤフラム4が外周縁のビードで気密的に挟着され、ハウジング1内部の圧力空間1aを負圧室5と変圧室6とに区画している。ダイヤフラム4には円盤状のプレート7が負圧室5側で重合され、ダイヤフラム4及びプレート7には円筒状のパワーピストン8の基端部8aの外周面が気密的に固着され、基端部8aの前端面が負圧室5に露出している。フロントシェル2には負圧導入管10が取付けられ、負圧室5は負圧導入管10を介してエンジンの吸気マニホールドに連通されてエンジン作動中は常に負圧に維持されている。
【0027】
図2に示すように、リアシェル3の中心部は、外方に屈曲されて円筒状の突出部3aが後方に向けて突設され、軸線上に貫通穴3bが形成されている。パワーピストン8には基端部8aから摺動円筒部8bが後方に突設され、摺動円筒部8bが貫通穴3bを貫通してリアシェル3の突出部3aから後方に突出されている。貫通穴3bの内周面と摺動円筒部8bの外周面との間にはシール9が介在され、変圧室6を大気から遮断している。
【0028】
11はマスタシリンダで、マスタシリンダ11は図1に示すように、後端部11aがフロントシェル2に形成された中心穴を貫通して負圧室5内に気密的に突出し、フランジ部11bがフロントシェル2の前面に当接している。フロントシェル2とリアシェル3とは、両シェルで構成されるハウジング1の軸線と外周との略中間位置で軸線と平行に延在する複数本、例えば2本のタイロッド12で結合されてマスタシリンダ11に固定されている。各タイロッド12にはダイヤフラム4に設けた各シール部の摺動穴が気密を保って夫々摺動自在に嵌合され、負圧室5と変圧室6との間の気密的な区画を維持している。
【0029】
13はマスタシリンダ11に前後方向に摺動可能に嵌合されたマスタピストンで、マスタシリンダ11の後端部から負圧室5内に突出し、パワーピストン8の前端面近傍まで延在している。パワーピストン8とマスタピストン13との間には出力ロッド14が介在されている。パワーピストン8は負圧室5と変圧室6との室内の圧力差に基づくダイヤフラム4の出力をリアクションディスク17を介して出力ロッド14に伝達し、出力ロッド14がマスタピストン13を前方に押動する。フロントシェル2とパワーピストン8の前端面との間にはリターンスプリング16が介在され、パワーピストン8を後方に付勢している。
【0030】
図2に示すように、パワーピストン8には前端面から後端面に向けて反力室穴8c、反力室穴8cより小径の係止部材収納穴8d、プランジャ収納穴8e、プランジャ収納穴8eより大径の弁体収納穴8fが軸線上に順次穿設されている。反力室穴8cの底面には、外側の内周面が反力室穴8cの内周面と連続する環状凹溝8nが軸線方向に形成されている。環状凹溝8nには出力ロッド14の後端に形成された環状突起14aが軸線方向に相対移動可能に嵌合され、出力ロッド14の後端面、環状突起14aの内周面、および反力室穴8cの底面によって囲まれた反力室15が形成され、反力室15内に弾性材料で形成された円盤状のリアクションディスク17が収納されている。21はプランジャ収納穴8e内に前後方向に移動可能に収納されたプランジャで、後端部に形成された拡張部の後端面外周縁部に大気弁座21aが形成されている。プランジャ21の先端軸部21bは、パワーピストン8の基端部8aに反力室穴8cと係止部材収納穴8dとを連通して穿設された貫通穴8iに嵌合され、先端面が貫通穴8iに摺動自在に嵌合された当接部材19の後端面に当接している。反力室15、リアクションディスク17、プランジャ21の先端軸部21b、貫通穴8i等により、出力ロッド14の反力の一部を入力部材32に伝達する反力付与手段33が構成されている。
【0031】
22はH字状の梃子部材で、この梃子部材22によってパワーピストン8に対するプランジャ21の相対移動量が制限される。梃子部材22の両側の直線部の内側がプランジャ21に形成された環状の係合溝21c内に前後方向に所定量相対移動可能に侵入し、両端部は係止部材収納穴8dの一側壁および他側壁に半径方向に穿設された矩形穴8p,8qに両直線部の外側面で摺接して外部に延在している。梃子部材22の前後方向の肉厚寸法は、矩形穴8pの前後方向寸法より小さくされているので、パワーピストン8とプランジャ21とは、所定距離だけ軸線方向に相対移動することができるとともに、梃子部材22はパワーピストン8に対して傾動することができる。梃子部材22がパワーピストン8に対して傾動するとき、矩形穴8pの係止部材収納穴8d内周面への開口部の後方縁部は、梃子部材22の一端部位を傾動自在に支持するパワーピストン8の支点部位8rとして機能する。梃子部材22は、一端部位がパワーピストン8の支点部位8rに支持されて傾動し、矩形穴8pの摺動円筒部8b外周面への開口部の前方縁部に当接して傾動を阻止されるまで傾動する。矩形穴8qは、梃子部材22の傾動を許容するように後方に長く伸ばされている。
【0032】
さらに、梃子部材22は、パワーピストン8の後退を制限するために、パワーピストン8の外周側に突出した両端部にてリアシェル3の突出部3aの端面に当接可能である。このようにハウジング1に対する後退を制限された梃子部材22に矩形穴8p,8qの両前端面が当接し、パワーピストン8が後退端に停止されるとともに、係合溝21cの前端面が梃子部材22に当接してプランジャ21が後退端に停止される。このように、梃子部材22は、プランジャ21のハウジング1に対する後退を制限するキー部材としても機能する。
【0033】
プランジャ21の後端には入力ロッド23が回動可能に連結され、入力ロッド23はフィルタ24を貫通して摺動円筒部8bより後方に延在し、ブレーキペダル25に連結されている。かかるプランジャ21と入力ロッド23とにより、ブレーキペダル25によって軸動される入力部材32が構成されている。入力ロッド23とリアシェル3の突出部3aとの間には蛇腹26が固定され、パワーピストン8の摺動円筒部8bの外周を覆っている。
【0034】
変圧室6を負圧室5または大気に切換えて連通する弁機構30は、プランジャ21とパワーピストン8に夫々設けられた大気弁座21aおよび負圧弁座27、大気弁座21aに接離して変圧室6を大気に連通、遮断する大気弁31a、および負圧弁座27に接離して変圧室6を負圧室5に連通、遮断する負圧弁28を備えている。大気弁31aおよび負圧弁28は、弁体収納穴8f内に前後方向に移動可能に収納された円盤状の弁体31に設けられている。
【0035】
即ち、プランジャ収納穴8eとパワーピストン8の弁体収納穴8fとの間に形成された段部には、2個の湾曲長円状の平面が形成され、各平面に固定負圧弁座8kが軸線に対して対称に突設されている。固定負圧弁座8kは平面に凸条が軸線を中心とする円弧に沿って彎曲した長円の周囲に突設して形成され、固定負圧弁座8kに取囲まれた通路8mはパワーピストン8の側壁を貫通して負圧室5に開口している。
【0036】
40はプランジャ21を取囲む移動弁座部材で、後方の円筒部40aはプランジャ収納穴8eの大径部内周にシール41によって気密的にシールされて軸線方向に移動可能に嵌合されている。移動弁座部材40の円筒部40a後端には大気弁座21aを包囲する移動負圧弁座40bが形成され、移動負圧弁座40bは不作動状態においては、固定負圧弁座8kより僅かに前方に位置していて、不作動状態において弁体31に接することはない。移動弁座部材40の円筒部後端は、固定負圧弁座8kと円周方向にずらした位置、例えば2個の固定負圧弁座8kの間で部分的に大径側に拡大されて一対の大気導入部40cとなり、大気弁座21aが大気弁31aから開離したとき、大気は主として大気導入部40cを通って導入される。移動負圧弁座40bが固定負圧弁座8kより弁体31側に位置するように移動弁座部材40を後方に付勢する付勢手段としての圧縮スプリング43が移動弁座部材40の円筒部40aの端面とプランジャ収納穴8e内周面に設けられたばね座面との間に介在されている。
【0037】
移動弁座部材40の先端部にはプランジャ21の先端軸部21bの大径部に摺動可能に嵌合する環状の係合部40dが設けられ、係合部40dと円筒部40aとの間は2本の連結部40eで連結されている。2本の連結部40eは先端軸部21bの両側でH字状の梃子部材22の両直線部に挟まれ、梃子部材22の横棒部が一方の連結部40eの外周に当接し両直線部の内側面に形成された係止部が他方の連結部40eの外周に係合して抜け止めされている。そして、移動弁座部材40の係合部40dが梃子部材22の中間部位に係合することにより、移動弁座部材40の梃子部材22に対する後方移動が制限される。移動弁座部材40は梃子部材22によって回り止めされ、一対の大気導入部40cが梃子部材22と同位相に保持され、2個の固定負圧弁座8kの間に位置される。2本の連結部40eは、プランジャ21の軸線方向に設けられた連通溝を通ってプランジャ収納穴8eから係止部材収納穴8dに延在している。
【0038】
そして、弁体31の前端面には固定負圧弁座8kに接離して変圧室6と負圧室5とを連通、遮断する平面の第1負圧弁31bが形成されている。弁体31の前端面の第1負圧弁31bより小径側には、固定負圧弁座8kより後退した移動負圧弁座40bに接離して変圧室6と負圧室5とを連通、遮断する平面の第2負圧弁31cが形成されている。弁体31の前端面の第2負圧弁31cより小径側に大気弁31aが環状に設けられている。
【0039】
弁体31の後端は弁体31の軸線方向の移動を許容するベローズ34により環状の保持体35に連結されている。保持体35は弁体収納穴8fの内周に嵌合され、入力ロッド23の中央部に突設されたばね受けとの間に介在された圧縮スプリング36のばね力により弁体収納穴8fの肩部に押圧されている。入力ロッド23に設けられたばね受けと弁体31の後端面との間には圧縮スプリング37が介在され弁体31を前方に付勢している。プランジャ収納穴8e、係止部材収納穴8dは、プランジャ21の軸線方向に設けられた連通溝、矩形穴8p,8qを介して変圧室6に連通されている。
【0040】
上述の負圧弁座27は、パワーピストン8に設けられた固定負圧弁座8kと、パワーピストン8の内周に前後方向に移動可能に気密的に嵌合された移動弁座部材40に形成された移動負圧弁座40bとで構成され、負圧弁28は弁体31に設けられた第1および第2負圧弁31b、31cで構成されている。そして、負圧弁座後退手段45は、移動弁座部材40、この移動弁座部材40をパワーピストン8に対して後方に付勢する圧縮スプリング43、パワーピストン8を矩形穴8p,8qを通って径方向に貫通する梃子部材22等を備え、入力部材32の前進により大気弁座21aが大気弁31aから開離してパワーピストン8が前進する際に、パワーピストン8のハウジング1に対する前進移動量を所定割合で減少させた距離だけ負圧弁座27の位置をパワーピストン8に対して相対的に後退させるように構成されている。
【0041】
次に、上記した実施形態に係る負圧式倍力装置の作動について説明する。図1,2に示す状態は、ブレーキペダル25が踏まれていない状態であり、弁機構30は、変圧室6を負圧室5に連通し大気から遮断する出力減少作用状態を採っている。即ち、ハウジング1に当接した梃子部材22に入力部材32およびパワーピストン8が当接することにより、大気弁座21aが大気弁31aに当接し、且つ固定負圧弁座8kが第1負圧弁31bから微小量開離した状態となり、変圧室6は負圧室5と同じ圧力に低下している。
【0042】
従って、可動部材であるダイヤフラム4とパワーピストン8には前進力が作用せず、リターンスプリング16のばね力により後退され、パワーピストン8は、梃子部材22がリアシェル3の突出部3aの段部内面に当接して後退端に後退保持されている。このとき、移動弁座部材40の係合部40dが梃子部材22の中間部位に係合し、移動負圧弁座40bは固定負圧弁座8kより所定量だけ予め前進した位置(図6におけるa点)にある。
【0043】
ブレーキペダル25が踏まれて、入力ロッド23によりプランジャ21が圧縮スプリング36のばね力に抗して前進されると、弁体31が圧縮スプリング37のばね力により前進され、第1負圧弁31bが固定負圧弁座8kに当接して変圧室6と負圧室5との連通を遮断する。これにより、弁機構30は、出力減少作用状態から出力保持作用状態に切り換わる。入力部材32が更に前進されると、大気弁座21aと大気弁31aとが開離され、エアフィルタ24により濾過された大気が矩形穴8p,8qを通って変圧室6に流入し、弁機構30が出力増加作用状態に切り換わる。弁機構30が出力増加作用状態に切り換わることにより、大気が変圧室6に流入して変圧室6の圧力が上昇し、ダイヤフラム4には変圧室6と負圧室5との差圧により前進力が発生する。この前進力がパワーピストン8からリアクションディスク17を介して出力ロッド14に伝達され、ダイヤフラム4、パワーピストン8及び出力ロッド14がハウジング1に対し一体的に前進を開始し、マスタシリンダ11の作動が開始される。パワーピストン8が入力部材32に対して前進することにより、弁体31の大気弁31aが再び大気弁座21aに当接して大気との連通が遮断され、変圧室6への大気の流入が遮断されて、弁機構30が出力保持状態に切り換わる。
【0044】
パワーピストン8の前進初期においては、梃子部材22は、移動弁座部材40を介して圧縮スプリング43により後方に付勢されるので、ハウジング1に当接したままで、移動弁座部材40は後退位置に保持される。この間は、固定負圧弁座8kが負圧弁座27として作用し、負圧弁28として作用する第1負圧弁31bと当接するので、負圧弁座27はパワーピストン8と同じだけ移動することになる。即ち、パワーピストン8に対する負圧弁座27の後退量はなく、入力部材32の作動ストロークを短縮する機能を有さない通常の負圧式倍力装置と同じ動作になる。
【0045】
運転者がブレーキペダル25の操作量を増すと、弁機構30が出力増加作用状態に切り換わり、大気が変圧室6に流入してダイヤフラム4に前進力が作用する。これにより、パワーピストン8がハウジング1に対して前進し、パワーピストン8の支点部位8rと梃子部材22との隙間が無くなると(図3の状態、図6上のb点)、梃子部材22が支点部位8rを支点として傾動を開始する。即ち、梃子部材22は、一端部位でパワーピストン8の支点部位8rに傾動自在に支持され、他端部位でハウジング1に当接し、中間部位で移動弁座部材40の係合部40dと係合する。これにより、移動負圧弁座40bが、パワーピストン8のハウジング1に対する前進量を所定の梃子比で減少させた距離だけパワーピストン8に対して相対的に後退されるので、移動負圧弁座40bの位置は、固定負圧弁座8kに対して徐々に後方に移動されていく。所定の梃子比は、支点部位8rで支持される梃子部材22の一端部位と移動弁座部材40が係合する中間部位との間の距離と、梃子部材22の一端部位とハウジングに当接する他端部位との間の距離との比である。
【0046】
移動負圧弁座40bがパワーピストン8に対して後退するので、やがて移動負圧弁座40bが固定負圧弁座8kよりも後退する(図6のC点)。すると、弁体31も圧縮スプリング37のばね力に抗して後方に移動され、大気弁31aを大気弁座21aから更に開離させる。従って、大気弁31aの開弁度が増大されることとなり、可変室6の圧力が更に上昇してダイヤフラム4、パワーピストン8及び出力ロッド14がハウジング1に対して更に前進することになる。つまり、パワーピストン8及び出力ロッド14の前進量が入力部材32の前進量よりも大きくなる。この前進量の増大が、入力部材32の前進量に対し比例的に徐々に発生するので、運転者に不快感を与えるような衝撃が発生する虞はない。なお、この過程で、リアクションディスク17がパワーピストン8と出力ロッド14とによって圧縮変形されてパワーピストン8の貫通穴8iに進入する。
【0047】
この貫通穴8iに進入してきたリアクションディスク17とプランジャ21の先端軸部21bとの接触が始まるまでは、入力が変わらず出力だけが増大する、当業者によく知られたジャンプアップと呼ばれる状態となる。リアクションディスク17が入力部材32に当接した以降は、入力部材32に出力ロッド14からの出力に対応した反力が、入力部材32をパワーピストン8に対して後退させる方向に付与される。
【0048】
移動負圧弁座40bが後退することにより、リアクションディスク17が入力部材32に接触するために必要とされる変形量が増大するので、入力・出力特性が変化する。具体的には、リアクションディスク17の必要変形量が増加することにより、入力部材32への反力が減少するので、結果的には、同じ入力に対する出力が増大することになる。この特性変化が望ましい場合は、そのままにしてもよいが、出力が増大する傾向を抑制する必要がある場合は、特許文献1に開示されているように、パワーピストン8のリアクションディスク17に接触する面の形状を調整することにより、出力増大傾向を調整することができる。
【0049】
パワーピストン8が更に前進すると、梃子部材22が前後端面でパワーピストン8の矩形穴8p,8qに当接して傾動が阻止されるようになる(図4の状態、図6上のd点)。この状態で移動負圧弁座40bは固定負圧弁座8kより所定量だけ後退しており、これ以上パワーピストン8が前進しても、梃子部材22と移動負圧弁座40bはパワーピストン8と一体になって前進する。このようにして、入力部材32の作動ストロークより出力ロッド14の作動ストロークを所定量だけ漸増することができる。これにより、ブレーキペダル踏み始め部分でのマスタシリンダ等の出力部材側における遊びと呼ばれる部分で必要な出力ロッド14の作動ストロークを得ることができ、入力部材の作動ストロークを短縮することができる。この間は、移動負圧弁座40bが負圧弁座27として作用し、負圧弁28として作用する第2負圧弁31cと当接する。
【0050】
ブレーキ解除時には、ブレーキペダル25を戻すことで入力部材32を後退させる。大気弁座21aが大気弁31aに当接して弁体31が圧縮スプリング37のばね力に抗して後方に移動され、第2負圧弁31cが移動負圧弁座40bから開離され、負圧室5と変圧室6とが連通される。特に、急激にブレーキペダル25を戻す場合には、入力部材32は、梃子部材22が前後端面でパワーピストン8の矩形穴8p,8qに当接して傾動が阻止される状態になるまでパワーピストン8に対して後退可能であるが(図5の状態)、このときの第2負圧弁31cと移動負圧弁座40bとの開弁量は、図2で示す弁機構30の非作動状態での固定負圧弁座8kと移動負圧弁座40bとの段差にほぼ等しくなる。このように、移動負圧弁座40bを位置決めするために梃子部材22を用いる場合でも、非作動状態で移動負圧弁座40bを固定負圧弁座8kより前進した位置に位置決めすることにより、初期のロスストロークを最小限にすることと、ブレーキ解除時の第2負圧弁31cと移動負圧弁座40bとの開弁量を十分確保することとを両立させることができる。そのままブレーキ解除を続けると、ピストン前進時と反対の過程を経て図2の非作動状態に近づいていき、その過程で固定負圧弁8kと第1負圧弁31bとの開弁量は小さくなるが、その動作は入力部材32の作動ストロークを短縮する機構を持たない通常の負圧式倍力装置と全く同様である。
【0051】
図6は、ブレーキペダル25の踏み込み過程での、パワーピストン8の動きと、固定負圧弁座8k、移動負圧弁座40bの動きをグラフ化したものである。パワーピストン8の前進量から所定割合で減少させた移動量だけ移動負圧弁座40bの位置がパワーピストン8に対して後退している部分は、グラフ上で、移動負圧弁座40bの動きを示す線が45度より小さい右上がりの線で表されている。
【0052】
次に、図7,8に基づいて第2の実施形態について説明する。第2の実施形態は、第1の実施形態と負圧弁座後退手段45のみが異なるので、この相違点を主として説明し、他の部分については、第1の実施形態と同一の参照番号を付して説明を省略する。
【0053】
第2の実施形態においては、梃子部材22とほぼ同じ形状のキー部材50によってパワーピストン8に対するプランジャ21の相対移動量が規制される。キー部材50の両側の直線部の内側がプランジャ21に形成された環状の係合溝21c内に前後方向に所定量相対移動可能に侵入し、両端部は係止部材収納穴8dに半径方向に穿設された矩形穴8sに両直線部の外側面で摺接して外部に延在している。キー部材50の前後方向の肉厚寸法は、矩形穴8sの前後方向寸法より小さくされているので、パワーピストン8とプランジャ21とは、所定距離だけ軸線方向に相対移動することができる。
【0054】
負圧弁座後退手段45は、移動弁座部材40をパワーピストン8に対して後方に付勢する第1スプリング43と、移動弁座部材40をハウジング1に対して前方に付勢する第2スプリング52とを備えている。第2スプリング52は、ハウジング1とキー部材50との間に介在されており、第2スプリング52の密着荷重は第1スプリング43のセット時の荷重より小さく設定されている。
【0055】
第2の実施形態の作動を説明する。ブレーキペダル25が踏まれていない図7に示す非作動状態では、パワーピストン8はリターンスプリング16により後方に付勢され、密着状態まで圧縮された第2スプリング52に乗ったキー部材50により後退端に位置決めされ、入力部材32もキー部材50により後退端に位置決めされる。この状態で、大気弁座21aが大気弁31aに当接し、固定負圧弁座8kが第1負圧弁座31bから微少量開離した状態となり、変圧室6の圧力は負圧室5の圧力と同じ圧力に低下している。このとき、キー部材50と係合する移動弁座部材40の移動負圧弁座40bは固定負圧弁座8kより所定量前進した位置にある(図6上のa点)。
【0056】
運転者がブレーキペダル25を操作し、入力ロッド23が圧縮スプリング36に抗して前進されると、第1の実施形態の場合と同じように弁機構30が作動し、パワーピストン8が前進する。前進の初期において、キー部材50は、移動弁座部座40を介して第1スプリング43により後方に付勢され、第2スプリング52により前方に付勢される。この段階では第1スプリング43のばね力が第2スプリング52の密着荷重を上回るので、キー部材50及び移動弁座部材40延いては移動負圧弁座40bは原位置に保持される。この間は固定負圧弁座8kが負圧弁座27として作用するので、負圧弁座27はパワーピストン8と同じだけ前進することとなる。即ち、パワーピストン8に対する負圧弁座27の後退量はなく、入力部材32の作動ストロークを短縮する機能を有さない通常の負圧式倍力装置と同じ動作となる。
【0057】
運転者がブレーキペダル25の操作量を増すと、パワーピストン8がハウジング1に対して前進し、これとほぼ一体に前進する弁体31が、原位置に保持されたままの移動負圧弁座40bに当接する(図6のb点)。第1スプリング43、第2スプリング52のばね定数をそれぞれk1,k2とし、ある時点からのパワーピストン8の前進量をΔx、移動負圧弁座40bの後退量をΔyとすると、この間の第1スプリング43のばね力は(k1×Δy)だけ減少し、第2スプリング52のばね力は〔k2×(Δx−Δy)〕だけ減少する。この間の前後で釣り合いが保たれるためには、Δy=k2×Δx/(k1+k2)となる。即ち、パワーピストン8のハウジング1に対する前進量を第1及び第2スプリング43,52のばね定数に基づく所定割合で減少させた距離だけ移動負圧弁座40bの位置がパワーピストン8に対して相対的に後方に移動される。移動負圧弁座40bがこのようにパワーピストン8に対して後退するので、第2の実施形態においても第1の実施形態の場合と同様に、入力部材32の作動ストロークより出力ロッド14の作動ストロークが短縮される。
【0058】
なお、上記では説明を簡単にするために負圧力による影響を含めていない。しかし、実際に負圧力の影響で移動負圧弁座40bの位置がずれる場合は、第2スプリング52の密着荷重とばね定数k2を調整すればよい。
【0059】
パワーピストン8がさらに前進すると、キー部材50がパワーピストン8に当たるようになる(図8の状態、図6のd点)。この状態で、移動負圧弁座40bはパワーピストン8に対して最大限に後退しており、これ以上パワーピストン8が前進しても、キー部材52と移動負圧弁座40bはパワーピストン8と一体になって前進する。
【0060】
上記第1及び第2の実施形態では、非作動状態での弁機構30の状態が、変圧室6を負圧室5に連通するとともに大気から遮断する出力減少作用状態であるとしているが、変圧室6が負圧室5から遮断された出力保持作用状態となるようにしてもよい。
【0061】
次に、第3の実施形態について図9乃至図16に基づいて説明する。第3の実施形態は、第1の実施形態と弁体31の形状および負圧弁座後退手段45が異なるので、この相違点を主として説明し、他の部分については、第1の実施形態と同一の参照番号を付して説明を省略する。
【0062】
弁機構30は弁体収納孔8fに遊嵌する筒状の弁体31を備え、弁体31の前壁部31fの前面に負圧弁座27に接離して変圧室6と負圧室5とを連通、遮断する負圧弁28が設けられ、後壁部31rの前面には、大気弁座21aと接離して変圧室6と大気とを連通、遮断する大気弁31aが形成されている。第1の実施形態の場合と同様に、パワーピストン8のプランジャ収納穴8eの大径部には、移動弁座部材40が気密的にシールされて軸線方向に移動可能に嵌合され、第1スプリングとしての圧縮スプリング43により後方に付勢されている。移動弁座部材40の先端部にはプランジャ21の先端軸部21bの大径部に摺動可能に嵌合する環状の係合部40dが設けられ、係合部40dと円筒部40aとの間は2本の連結部40eで連結されている。2本の連結部40eは先端軸部21bの両側でキー部材55の両直線部に挟まれている。そして、移動弁座部材40の係合部40dがキー部材55の中間部位に係合することにより、移動弁座部材40のキー部材55に対する後方移動が規制される。負圧弁座27は、パワーピストン8に設けられた固定負圧弁座8kと、移動弁座部材40の円筒部40aに形成された移動負圧弁座40bとで構成され、負圧弁28は弁体31の前後壁部31f,31rにそれぞれ設けられた第1および第2負圧弁31b,31cで構成されている。
【0063】
図10において、55はH字状のキー部材で、このキー部材55によってパワーピストン8に対するプランジャ21の相対移動量が制限される。キー部材55の両側の直線部55aの内側がプランジャ21に形成された環状の係合溝21c内に前後方向に所定量相対移動可能に侵入し、両端部は係止部材収納穴8dの一側壁および他側壁に半径方向に穿設された径方向貫通穴56に両直線部55aの外側面で摺接して外部に延在している。両直線部55aの外側面に形成された4個の係止部55bが径方向貫通穴56の両外端縁に係合して抜け止めされ、キー部材55の一端部位で両直線部55aを連結する横棒部55cが、パワーピストン8の一方外側でリアシェル3の突出部3aの内端面と対向し、他端部位がパワーピストン8の他方外側で突出部3aの内端面と対向している。そして、キー部材55が両端部位でハウジング1の後方内端面である突出部3aの内端面に当接して後退を制限されると、径方向貫通穴56の両前壁がキー部材55に一端側および他端側で当接してパワーピストン8が後退端に停止されるとともに、係合溝21cの前端面がキー部材55に当接してプランジャ21が後退端に停止される。このように、キー部材55は、プランジャ21のハウジング1に対する後退を制限する部材としても機能する。キー部材55の前後方向の肉厚寸法は、径方向貫通穴56の前後方向寸法より小さくされているので、パワーピストン8とプランジャ21とは、所定距離だけ軸線方向に相対移動することができるとともに、キー部材55はパワーピストン8に対して傾動することができる。
【0064】
キー部材55の一端部位である横棒55cには、両端部がハウジング1の後方内端面に向かって屈曲する板ばね57の中央部が固定され、板ばね57はキー部材55をハウジング1に対して前方に付勢する第2スプリングとして機能する。そして、負圧弁座後退手段45は、移動弁座部材40をパワーピストン8に対して後退方向に付勢する第1スプリングと、パワーピストン8に径方向に設けられた径方向貫通穴56に挿通され両端部位でハウジング8と対向し中間部位で移動弁座部材40と係合するキー部材55と、該キー部材55の一端部位をハウジング1に対して前方に付勢する第2スプリング57とを備えている。そして、キー部材55は、パワーピストン8のハウジング1に対する位置および第1、第2スプリング43,57の付勢力に応じてハウジング1、径方向貫通穴56の前壁または後壁と当接して傾動する
次に、上記した第3の実施形態に係る負圧式倍力装置の作動について説明する。図9に示す状態は、ブレーキペダル25が踏まれていない状態であり、弁機構30は、変圧室6を負圧室5に連通し大気から遮断する出力減少作用状態を採っている。即ち、ハウジング1に当接したキー部材55に入力部材32およびパワーピストン8が当接することにより、大気弁座21aが大気弁31aに当接し、且つ固定負圧弁座8kが第1負圧弁31bから微小量開離した状態となり、変圧室6は負圧室5と同じ圧力に低下している。
【0065】
従って、可動部材であるダイヤフラム4とパワーピストン8には前進力が作用せず、リターンスプリング16のばね力により後退され、板ばね57の密着荷重はリターンスプリング16の付勢力より小さいので、板ばね57はキー部材55とハウジング1とに密着し、パワーピストン8はキー部材55がハウジング1の後方内端面に当接して後退端に後退保持されている。このとき、移動弁座部材40の係合部40dがキー部材55の中間部位に係合し、移動負圧弁座40bは固定負圧弁座8kより所定量だけ予め前進した位置にある。
【0066】
ブレーキペダル25が踏まれて、入力ロッド23によりプランジャ21が圧縮スプリング36のばね力に抗して前進されると、弁機構30は、出力減少作用状態から出力保持作用状態に切り換わる。入力部材32が更に前進されると、弁機構30が出力増加作用状態に切り換わり、ダイヤフラム4には変圧室6と負圧室5との差圧により前進力が発生する。この前進力がパワーピストン8からリアクションディスク17を介して出力ロッド14に伝達され、マスタシリンダ11の作動が開始される。パワーピストン8が入力部材32に対して前進することにより、弁体31の大気弁31aが再び大気弁座21aに当接して弁機構30が出力保持状態に切り換わる。
【0067】
パワーピストン8の前進初期においては、キー部材55が移動弁座部材40を介して圧縮スプリング43によりその中間部位で後方に付勢され、一端部位において板ばね57により前方に付勢されるので、キー部材55は他端部位がハウジング1に当接し、一端側で径方向貫通穴56の前壁に押圧された傾斜状態となり、パワーピストンの前進につれて傾斜が増加する。
【0068】
キー部材55の他端部位がハウジング1と当接する点58から移動弁座部材40の係合部40dがキー部材55の中間部位と当接する点59までの長さをA、点59からキー部材55が一端側で径方向貫通穴56の前壁と当接する点60までの長さをBとすると、移動弁座部材40はパワーピストン8の前進量に梃子比
A/(A+B)を乗じた量だけパワーピストン8に対して後退する。このように、第3の実施形態においては、板ばね57のばね力を圧縮スプリング43のばね力より大きくとることができ、パワーピストン8の前進の初期段階から移動弁座部材40の後退を開始させることができる。
【0069】
このパワピストン8の前進初期段階(図11の状態)で、移動負圧弁座40bが固定負圧弁座8kより前進した位置にある間は、固定負圧弁座8kが負圧弁座27として作用し、負圧弁28として作用する第1負圧弁31bと当接するので、負圧弁座27はパワーピストン8と同じだけ移動することになる。即ち、パワーピストン8に対する負圧弁座27の後退量はなく、入力部材32の作動ストロークを短縮する機能を有さない通常の負圧式倍力装置と同じ動作になる。
【0070】
運転者がブレーキペダル25の操作量を増すと、弁機構30が出力増加作用状態に切り替わり、大気が変圧室6に流入してダイヤフラム4に前進力が作用する。これにより、パワーピストン8がハウジング1に対して前進し、キー部材55の傾斜が大きくなり、移動負圧弁座40bがパワーピストン8に対して後退するので、やがて移動負圧弁座40bが固定負圧弁座8kよりも後退し(図12の状態)、パワーピストン8及び出力ロッド14の前進量が入力部材32の前進量よりも大きくなる。この前進量の増大が、入力部材の前進量に対して比例的に徐々に発生するので、運転者に不快感を与えるような衝撃が発生する虞はない。この過程で、リアクションディスク17がパワーピストン8と出力ロッド14とによって圧縮変形されてパワーピストン8の貫通穴8iに進入し、ジャンプアップ状態を経て、プランジャ21の先端に当接し入力部材32に反力を付与する。
【0071】
パワーピストン8が更に前進してキー部材55の傾斜がさらに大きくなると、板ばね57の付勢力が減少する。圧縮スプリング43、板ばね57、圧縮スプリング37の付勢力をそれぞれf1,f2,f3とし、キー部材55の他端部位がハウジング1と当接する点58から移動弁座部材40の係合部40dがキー部材55の中間部位と当接する点59までの長さをA、点59から板ばね57のキー部材55への着力点63までの長さをCとすると、
A×(f1−f3)=(A+C)×f2
が成立した時点で、キー部材55が一端側で径方向貫通穴56の前壁から離れる(図13の状態)。
【0072】
この時点でのf1,f2をF1,F2とし、この状態からのパワーピストン8の前進量をs1、移動弁座部材40のパワーピストン8に対する後退量をs2、圧縮スプリング43、板ばね57のばね定数をk1,k2とすると、圧縮スプリング37の長さは変わらないので、
A×(F1−s2×k1−f3)=(A+C)×[F2−(s1−s2)×(A+C)/A×k2] が成立する。
従って、A×s2×k1=(A+C)×(S1−s2)×k2
即ち、(A+C)×k2×S1=[A×k1+(A+C)×k2]×s2
となるので、移動弁座部材40はパワーピストン8の前進量s1に
[(A+C)×k2]/[A×k1+(A+C)×k2] (<1)
を乗じた量s2だけパワーピストン8に対して後退する。
【0073】
パワーピストン8が更に前進すると、キー部材55が、他端部位がハウジング1に当接していた他端側でパワーピストン8の径方向貫通穴56に当接し、それ以降はキー部材55とハウジング1とは離れる(図14参照)。その時点での圧縮スプリング43、板ばね57、圧縮スプリング37の付勢力をそれぞれF1',F2',f3とし、キー部材55が他端側で径方向貫通穴56と当接する点61から移動弁座部材40の係合部40dがキー部材55の中間部位と当接する点59までの長さをD、点59から板ばね57のキー部材55への着力点63までの長さをCとすると、
D×(F1'−f3)=(D+C)×F2'が成立する。
【0074】
この時点からのパワーピストン8の前進量をs1'、移動弁座部材40の後退量をs2'、圧縮スプリング43、板ばね57のばね定数をk1、k2とすると、圧縮スプリング43はs2'だけ伸び、板ばね57は、
s1'−s2'×(D+C)/D だけ伸び、
圧縮スプリング37の長さは変わらないので、
D×(F1'−s2'×k1−f3)=(D+C)×[F2'−k2×s1'+k2×s2'×(D+C)/D] が成立する。
【0075】
従って、D×s2'×k1=D×(D+C)×s1'×k2−(D+C)×s2'×k2
即ち、[D×k1+(D+C)×k2]×s2'=D×(D+C)×k2×s1'
となるので、移動弁座部材40はパワーピストン8の前進量s1'に
[D×(D+C)×k2]/[D×k1+(D+C)×k2] (<1)
を乗じた量s2'だけパワーピストン8に対して後退する。
【0076】
パワーピストン8が更に前進すると、キー部材55が一端側および他端側でパワーピストン8の径方向貫通穴56の前後壁に当接して傾動が阻止されるようになる(図15の状態)。この状態で移動負圧弁座40bは固定負圧弁座8kより所定量だけ後退しており、これ以上パワーピストン8が前進しても、キー部材55と移動負圧弁座40bはパワーピストン8と一体になって前進する。このようにして、入力部材32の作動ストロークより出力ロッド14の作動ストロークを所定量だけ漸増することができる。
【0077】
ブレーキ解除時には、ブレーキペダル25を戻すことで入力部材32を後退させる。大気弁座21aが大気弁31aに当接して弁体31が圧縮スプリング37のばね力に抗して後方に移動され、第2負圧弁31cが移動負圧弁座40bから開離され、負圧室5と変圧室6とが連通される。特に、急激にブレーキペダル25を戻す場合には、入力部材32は、パワーピストン8の径方向貫通穴36の後壁に当接するキー部材55に当接するまでパワーピストン8に対して後退可能であるが(図16の状態)、このときの第2負圧弁31cと移動負圧弁座40bとの開弁量は、図9に示す弁機構30の非作動状態での固定負圧弁座8kと移動負圧弁座40bとの段差にほぼ等しくなる。そのままブレーキ解除を続けると、ピストン前進時と反対の過程を経て図9の非作動状態に近づいていく。ブレーキペダルの解除時には、圧縮スプリング37のばね力を大気弁座21aで受け、移動弁座部材40には作用しないので、パワーピストン8の前進量に対する移動弁座部材40の後退量はペダル踏み込み時とは相違するが、第3の実施形態では、前述のように板ばね57のばね力を高く取ってもペダル踏み込み時のパワーピストン8の前進の初期段階から移動弁座部材40の後退を開始させることができるので、ペダル解除時においても最終段階、即ち図9の状態まで板ばね57を密着させることなく、移動弁座部材40の滑らかな戻し動作を実現させることができる。
【0078】
また、上記第3の実施形態においても、非作動状態での弁機構30の状態が、変圧室6を負圧室5に連通するとともに大気から遮断する出力減少作用状態であるとしているが、変圧室6が負圧室5から遮断された出力保持作用状態となるようにしてもよい。このような構成は負圧式倍力装置では広く実施されており、エンジンが停止中で定圧室5に負圧が導入されていない状態ではパワーピストン8とプランジャ21の双方がキー部材55により位置決めされている。エンジンが起動されて、負圧室5に負圧が導入されると、パワーピストン8が僅かに前進し、負圧室5と変圧室6との差圧がリターンスプリング16と釣り合う状態になることが知られている。第3の実施形態にこの構成を適用すると、パワーピストン8の前進初期段階では板ばね57は圧縮スプリング43に打ち勝つので、負圧室5への負圧導入時にパワーピストン8だけでなくキー部材55も傾きつつ前進し、プランジャ21も前進する。もしプランジャ21の前進量がパワーピストン8の前進量と同じであれば、変圧室6は負圧室5から遮断されたままで、両室の差圧力でパワーピストン8がどんどん前進してしまうことになるが、第3の実施形態によれば、キー部材55の他端部位がハウジング1と当接する点58からプランジャ21の係合溝21cの前端面がキー部材55の中間部位と当接する点62までの長さをE、点62からキー部材55が一端側で径方向貫通穴56の前壁と当接する点60までの長さをFとすると、プランジャ21はパワーピストン8の前進量に梃子比
E/(E+F)を乗じた量だけパワーピストン8に対して後退する。このように、プランジャ21の前進量はパワーピストン8の前進量のF/(E+F) (<1)倍となり、パワーピストン8の前進によりやがて負圧式倍力装置は出力保持状態に切り替わるので、負圧導入時の初期位置が定まらないという問題は生じない。
【0079】
上記実施の形態では、入力部材32への反力はリアクションディスク17を含む反力付与手段33から得るようにしているが、反力付与手段としては、特開平5−193486号公報に記載されているように、マスタシリンダ圧力を受圧する小径のピストンに発生する推力を入力部材に作用させるようにしてもよい。この場合は、入力部材の作動ストロークを出力部材の作動ストロークより短縮させることに伴って生じる入力・出力特性における出力増大傾向が発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明に係る負圧式倍力装置の第1の実施形態を示す断面図。
【図2】第1の実施形態に係る弁機構部分の非作動状態を示す拡大断面図。
【図3】弁機構部分の移動負圧弁座の後退が始まる状態を示す図。
【図4】弁機構部分の移動負圧弁座の後退が完了した状態を示す図。
【図5】弁機構部分のブレーキ急解除状態を示す図。
【図6】パワーピストンの移動に対する負圧弁座の移動を示す図。
【図7】第2に実施形態に係る弁機構部分の非作動状態を示す拡大断面図。
【図8】図7に示す弁機構部分の移動負圧弁座の後退が完了した状態を示す図。
【図9】本発明に係る負圧式倍力装置の第3の実施形態を示す断面図。
【図10】図9の10−10線に沿って矢視したキー部材部分の断面図。
【図11】負圧倍力装置のキー部材がハウジングと径方向貫通穴の前壁に当接する作動状態を示す図。
【図12】第3の実施形態に係る弁機構部分の移動負圧弁座が固定負圧弁座より後退する状態を示す図。
【図13】キー部材が一端側で径方向貫通穴の前壁から離れた状態を示す図。
【図14】キー部材が一端側で径方向貫通穴の前壁から離れ、他端側で後壁に当接した状態を示す図。
【図15】キー部材が一端側及び他端側で径方向貫通穴の後壁と当接する状態を示す図。
【図16】第3の実施形態に係る弁機構部分のブレーキ急解除状態を示す図。
【符号の説明】
【0081】
1…ハウジング、2…フロントシェル、3…リアシェル、4…ダイヤフラム(可動部材)、5…負圧室、6…変圧室、8…パワーピストン、8k…固定負圧弁座、8r…支点部位、11…マスタシリンダ、13…マスタピストン、14…出力ロッド(出力部材)、15・・・反力室、16…リターンスプリング、17…リアクションディスク、21…プランジャ、21a…大気弁座、21c…係合溝、22…梃子部材(キー部材)、23…入力ロッド、25…ブレーキペダル、27…負圧弁座、28…負圧弁、30…弁機構、31…弁体、31a…大気弁、31b…第1負圧弁、31c…第2負圧弁、32…入力部材、33…反力付与手段、36,37…圧縮スプリング、40…移動弁座部材、40b…移動負圧弁座、40d…係合部、43…圧縮スプリング(第1スプリング)、45…負圧弁座後退手段、50,55…キー部材、52…第2スプリング、56…径方向貫通穴、57…板ばね(第2スプリング)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力空間(1a)を内部に形成されたハウジング(1)と、
該ハウジング内に前後方向に進退可能に設けられ前記圧力空間を変圧室(6)と負圧室(5)とに区画する可動部材(4)と、
該可動部材に結合されているパワーピストン(8)と、
該パワーピストン内に前後方向に夫々相対移動可能に装架された入力部材(32)と出力部材(14)と、
前記入力部材と前記パワーピストンに夫々設けられた大気弁座(21a)および負圧弁座(27)、該大気弁座に接離して前記変圧室を大気に連通、遮断する大気弁(31a)、および該負圧弁座に接離して前記変圧室を前記負圧室に連通、遮断する負圧弁(28)を備えた弁機構(30)と、
前記出力部材の反力の一部を前記入力部材に伝達する反力付与手段(33)と、を備えた負圧式倍力装置において、
前記入力部材(32)の前進により前記大気弁座(21a)が前記大気弁(31a)から開離して前記パワーピストン(8)が前進する際に、前記パワーピストンの前記ハウジング(1)に対する前進量を所定割合で減少させた距離だけ前記負圧弁座(27)の位置を前記パワーピストンに対して後方に移動させる負圧弁座後退手段(45)を備えたことを特徴とする負圧式倍力装置。
【請求項2】
請求項1において、前記負圧弁座(27)は、前記パワーピストン(8)に設けられた固定負圧弁座(8k)と、前記パワーピストンの内周に前後方向に移動可能に気密的に嵌合された移動弁座部材(40)に形成された移動負圧弁座(40b)とで構成され、
前記負圧弁座後退手段(45)は、前記移動弁座部材をパワーピストンに対して後方に付勢するスプリング(43)と、前記パワーピストンを径方向に貫通する梃子部材(22)とを備え、前記梃子部材が一端部位で前記パワーピストンの支点部位(8r)に傾動自在に支持され、他端部位で前記ハウジング(1)に当接し、中間部位で前記移動弁座部材に係合することにより、前記移動負圧弁座が、前記パワーピストンの前記ハウジングに対する前進量を所定の梃子比で減少させた距離だけ前記固定負圧弁座に対して後方に移動されるように構成されていることを特徴とする負圧式倍力装置。
【請求項3】
請求項2において、前記梃子部材(22)が前記入力部材(32)の前記ハウジング(1)に対する後退を制限するキー部材としても機能することを特徴とする負圧式倍力装置。
【請求項4】
請求項1において、前記負圧弁座(27)は、前記パワーピストン(8)に設けられた固定負圧弁座(8k)と、前記パワーピストンの内周に前後方向に移動可能に気密的に嵌合された移動弁座部材(40)に形成された移動負圧弁座(40b)とで構成され、
前記負圧弁座後退手段(45)は、前記移動弁座部材をパワーピストンに対して後方に付勢する第1スプリング(43)と、前記移動弁座部材を前記ハウジング(1)に対して前方に付勢する第2スプリング(52)とを備え、前記入力部材(32)の前進により前記大気弁座(21a)が前記大気弁(31a)から開離して前記パワーピストン(8)が前進する際に、前記移動負圧弁座が、前記パワーピストンの前記ハウジングに対する前進量を前記第1及び第2スプリングのばね定数に基づく所定割合で減少させた距離だけ前記固定負圧弁座に対して後方に移動されるように構成されていることを特徴とする負圧式倍力装置。
【請求項5】
請求項4において、前記パワーピストン(8)を径方向に貫通し前記入力部材(32)の前記ハウジング(1)に対する後退を制限するキー部材(50)に前記移動弁座部材(40)が係合され、前記第2スプリング(52)が前記ハウジングと前記キー部材との間に介在されていることを特徴とする負圧式倍力装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記負圧弁座は、前記パワーピストン(8)に設けられた固定負圧弁座(8k)と、前記パワーピストンの内周に前後方向に移動可能に気密的に嵌合された移動弁座部材(40)に形成された移動負圧弁座(40b)とを備え、
前記負圧弁座後退手段(45)は、前記移動弁座部材をパワーピストンに対して後退方向に付勢する第1スプリング(43)と、前記パワーピストンに径方向に設けられた径方向貫通穴(56)に挿通され両端部位で前記ハウジング(1)と対向し中間部位で前記移動弁座部材と係合するキー部材(55)と、該キー部材の一端端部位を前記ハウジングに対して前方に付勢する第2スプリング(57)とを備え、前記キー部材は、前記パワーピストンの前記ハウジングに対する位置および前記第1および第2スプリングの付勢力に応じて前記ハウジング、前記径方向貫通穴の前壁または後壁と当接することを特徴とする負圧式倍力装置。
【請求項7】
請求項6において、前記第2スプリング(57)が前記キー部材(55)の一端部位に固定された板ばね(57)であることを特徴とする負圧式倍力装置。
【請求項8】
請求項2乃至7のいずれか1項において、前記負圧弁座(27)は、前記弁機構(30)が非作動状態にある場合、前記移動負圧弁座(40b)が前記固定負圧弁座(8k)より前進した位置に位置決めされることにより、作動の初期段階では固定負圧弁座が負圧弁座として機能し、前記パワーピストン(8)が所定量以上前進すると、前記移動負圧弁座が前記固定負圧弁座より後方に位置することにより、前記移動負圧弁座が前記負圧弁座として機能するように構成されていることを特徴とする負圧式倍力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−112402(P2007−112402A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325735(P2005−325735)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】