説明

負極及び二次電池

【課題】二次電池のサイクル特性を向上する。
【解決手段】負極15は、シート状の負極集電体18と、負極集電体18の外面181側(巻回されて凸面が生じる側)に負極活物質を塗布されて形成された第1負極活物質層19と、負極集電体18の内面182側(巻回されて凹面が生じる側)に負極活物質を塗布されて形成された第2負極活物質層20とから構成されている。第1負極活物質層19は、リチウムイオンを吸蔵及び放出が可能な負極活物質としての黒鉛と、SiOxとを含んでいる。第2負極活物質層20における複合材料に対する黒鉛の重量%は、第1負極活物質層19におけるSiOxに対する黒鉛の重量%よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極及び二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンを吸蔵及び放出が可能な物質(負極活物質)を板状の負極集電体に塗布した二次電池(例えば特許文献1,2参照)は、エネルギー密度が高く、しかもサイクル特性に優れた電池である。板状の負極集電体の両面には負極活物質が塗布されて負極活物質層が形成されており、負極活物質層が充放電時にリチウムイオンを吸蔵及び放出する。負極活物質層は、リチウムイオンを吸蔵すると体積増加し、リチウムイオンを放出すると体積減少する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−17472号公報
【特許文献2】特開2009−16339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2に開示のように薄い負極を巻き回す構成は、負極の反応面積を大きくする上で好ましい。負極を巻く(曲げる)と、曲げられた負極の凹面側が圧縮する方向の応力を生じるが、負極の凹面側の負極活物質層がリチウムイオンを吸蔵すると、負極の凹面側の負極活物質層には前記応力の反対方向に伸長しようとする応力が発生する。この応力は、前記圧縮応力が存在するため逃げ場が無く、負極の凹面側の負極活物質層に応力が集中し、負極の凹面側の負極活物質層にクラックが生じて凹面側の負極活物質層が剥離あるいは脱落する可能性がある。負極の凹面側の負極活物質層が剥離あるいは脱落すると、サイクル特性が低下する。
【0005】
本発明は、サイクル特性を向上できる二次電池における負極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1乃至請求項4の発明は、負極集電体と、前記負極集電体に設けられた負極活物質層とを備えたシート状の負極を対象とし、請求項1の発明では、前記負極は、曲げられた湾曲部を有し、前記負極の外面側の少なくとも一部である前記湾曲部の凸面には第1負極活物質層が形成されており、前記負極の内面側の少なくとも一部である前記湾曲部の凹面には第2負極活物質層が形成されており、前記第1負極活物質層は、第1活物質と、前記第1活物質よりもリチウムの吸収または放出による体積変化率の小さい第2活物質とを含み、前記第2負極活物質層は、前記第2活物質を含み、前記第2負極活物質層における前記第2活物質の重量%は、前記第1負極活物質層における前記第2活物質の重量%よりも大きい。
【0007】
ここにおける体積変化率とは、リチウムイオンの吸蔵及び放出に対する体積変化のことである。負極の凹面側の第2負極活物質層は、リチウムイオンの吸蔵及び放出に対する体積変化率を小さくしているため、第2負極活物質層における応力集中が緩和される。その結果、凹面側の第2負極活物質層の剥離あるいは脱落が抑制され、サイクル特性が向上する。
【0008】
好適な例では、前記第1活物質は、SiOx(0.3≦x≦1.6)で表されるケイ素酸化物であり、前記第2活物質は、炭素系材料である。
好適な例では、前記第1活物質は、SiOx(0.3≦x≦1.6)で表されるケイ素酸化物であり、前記第2活物質は、黒鉛である。
【0009】
好適な例では、前記第2負極活物質層は、前記第1活物質を含み、前記第2負極活物質層における前記第1活物質に対する前記第2活物質の重量%は、前記第1負極活物質層における前記第1活物質に対する前記第2活物質の重量%よりも大きい。
【0010】
なお、第1負極活物質層と第2負極活物質層との重量%の比較は、第1負極活物質層と第2負極活物質層との単位層厚当たりに対して行われる。
負極活物質として、酸化ケイ素(SiOx:xは0.5≦x≦1.5程度)の使用が検討されている。SiOxは熱処理されると、SiとSiO2とに分解することが知られている。これは不均化反応といい、SiとOとの比が概ね1:1の均質な固体の一酸化ケイ素SiOであれば、固体の内部反応によりSi相とSiO2相の二相に分離する。分離して得られるSi相は非常に微細である。つまり、SiOx(0.3≦x≦1.6)で表されるケイ素酸化物は、熱処理されると、SiとSiO2とに分解するSiとSiO2との複合材料を指す。
【0011】
なお、炭素系材料とは、炭素を主成分とする材料を指し、具体的には、黒鉛の他に、熱分解炭素類、コークス類(ピッチコークス,ニードルコークス,石油コークス等)、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体(フラン樹脂等を適当な温度で焼成し炭素化したもの)、炭素繊維、活性炭等を指す。
【0012】
黒鉛における体積変化率は、SiとSiO2との複合材料の体積変化率よりも小さく、黒鉛と複合材料との重量%を変えれば、負極活物質層の体積変化率を変えることができる。つまり、黒鉛と複合材料との混合物は、望ましい体積変化率を得るのに好適な負極活物質である。
【0013】
請求項4の発明は、正極と、負極と、前記正極及び前記負極が浸漬される非水電解液とを容器に収容した二次電池を対象とし、前記負極として請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の負極を用いた。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、二次電池のサイクル特性を向上できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施形態を示す断面図。
【図2】図1のA−A線断面図。
【図3】第2の実施形態を示し、(a)は、断面図。(b)は、図3(a)のB−B線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を図1及び図2に基づいて説明する。
図1に示すように、二次電池10を構成する容器11は、上に開口する器部12と、器部12の上部開口を塞ぐ蓋13とから構成されている。
【0017】
図2に示すように、器部12内には巻回された巻回電極14及び非水電解液が収容されている。巻回電極14は、非水電解液に浸漬されている。非水電解液としては、リチウム塩を電解質としてこれを有機溶媒に溶解したものが用いられる。
【0018】
巻回電極14は、シート状の負極15と、シート状の正極16と、負極15と正極16との間に介在されたセパレータ17とから構成されている。正極16と負極15とは、セパレータ17を挟んで互いに沿い合った状態で巻き回された形状に形成されている。
【0019】
図1に示すように、負極15には負極リード24が電気的に接続されており、負極リード24は、器部12に電気的に接続されている。正極16には正極リード25が電気的に接続されており、正極リード25は、蓋13に止着された正極ピン26に電気的に接続されている。
【0020】
図2に示すように、負極15は、シート状の負極集電体18と、負極集電体18の外面181側(負極15の外面側であって巻回されて凸面が生じる側)に負極活物質を塗布されて形成された第1負極活物質層19と、負極集電体18の内面182側(負極15の内面側であって巻回されて凹面が生じる側)に負極活物質を塗布されて形成された第2負極活物質層20とから構成されている。本実施形態では、第1負極活物質層19の厚みと第2負極活物質層20の厚みとは、ほぼ同じにされている。図2には、巻回電極14の湾曲部141(負極15の湾曲部)が拡大して図示されており、外面181の凸面181C及び内面182の凹面182Cが拡大して図示されている。
【0021】
正極16は、シート状の正極集電体21と、正極集電体21の外面211側(巻回されて凸面が生じる側)及び内面212側(巻回されて凹面が生じる側)に正極活物質を塗布されて形成された正極活物質層22,23とから構成されている。
【0022】
正極集電体21は、例えばアルミニウム製であり、正極活物質層22,23は、例えば、リチウムと遷移金属の複合酸化物であるLixMO2(但し、Mは1種以上の遷移金属を表し、xは例えば0.05〜1.10)とを正極活物質として含有する。リチウム複合酸化物には黒鉛が導電剤として加えられており、バインダとしては例えばポリフッ化ビニリデンが用いられる。
【0023】
負極集電体18は、例えば銅製である。負極集電体18の外面181側に形成された第1負極活物質層19は、リチウムイオンを吸蔵及び放出が可能な第1活物質としてのSiOx(0.3≦x≦1.6)で表されるケイ素酸化物〔以下、SiOxと記す〕と、リチウムイオンを吸蔵及び放出が可能な第2活物質としての炭素系材料(本実施形態では黒鉛)とを含んでいる。又、第1負極活物質層19は、導電剤としてのアセチレンブラックあるいはケッチェンブラックと、バインダとしてのポリアミドイミドとを含んでいる。
【0024】
負極集電体18の内面182側に形成された第2負極活物質層20におけるSiOxに対する黒鉛の重量%は、第1負極活物質層19におけるSiOxに対する黒鉛の重量%よりも大きい。黒鉛とSiOxとの重量%の総和を100重量%とすると、第1負極活物質層19における黒鉛の重量%とSiOxの重量%とは、黒鉛:SiOxが30重量%:70重量%〜40重量%:60重量%である。一方、第2負極活物質層20における黒鉛とSiOxとの重量%の割合は、黒鉛:SiOxが70重量%:30重量%〜60重量%:40重量%である。
【0025】
つまり、第2負極活物質層20は、第1活物質としてのSiOxと、第2活物質としての黒鉛(炭素系材料)とを含んでおり、第2負極活物質層20における黒鉛(第2活物質)の重量%は、第1負極活物質層19における黒鉛(第2活物質)の重量%よりも大きい。
【0026】
次に、第1の実施形態の作用を説明する。
正極16及び負極15をセパレータ17を介して巻回して巻回電極14とする際には、負極15の内面側に外面側より大きな応力が生じる。又、リチウムイオンの吸収または放出が行なわれると、負極15における黒鉛及びSiOxの体積が変化する。
【0027】
Si単体では体積変化率が大きいが、SiOxは、体積変化によるサイクル特性の低下を抑制する上で好ましい材料の1つである。黒鉛の体積変化率は、SiOxの体積変化率よりも小さい。従って、黒鉛の重量%がSiOxの重量%よりも大きい第2負極活物質層20の体積変化率は、黒鉛の重量%よりもSiOxの重量%が大きい第1負極活物質層19の体積変化率よりも小さい。その結果、第2負極活物質層20の体積変化率は、第1負極活物質層19の体積変化率よりも小さくなる。
【0028】
第2負極活物質層20の体積変化率の低減化は、応力集中し易い負極15の湾曲部141の凹面182C側の第2負極活物質層20における応力集中を緩和する。その結果、第2負極活物質層20におけるクラックの発生、ひいては第2負極活物質層20の剥落や脱落が抑制される。
【0029】
第1の実施形態では以下の効果が得られる。
(1)負極15の凹面側の第2負極活物質層20では、リチウムイオンの吸蔵及び放出に対する体積変化率が小さい負極活物質が選択されている。そのため、第2負極活物質層20における応力集中が緩和される。その結果、応力集中し易い負極15の凹面182C側の第2負極活物質層20の剥離あるいは脱落が抑制され、サイクル特性が向上する。
【0030】
(2)黒鉛における体積変化率は、SiとSiO2との複合材料(SiOx)の体積変化率よりも小さく、黒鉛とSiOxとの重量%の割合を変えれば、負極活物質層19,20の体積変化率を変えることができる。つまり、黒鉛とSiOxとの混合物は、望ましい体積変化率を得るのに好適な負極活物質である。
【0031】
次に、図3(a),(b)の第2の実施形態を説明する。
図3(a)に示すように、二次電池28を構成する容器29は、上に開口する器部30と、器部30の上部開口を塞ぐ蓋31とから構成されている。
【0032】
図3(b)に示すように、器部30内にはシート状の複数の負極32とシート状の複数の正極33とを交互に積層した積層セル34が収納されている。積層セル34は、U字形状に折り曲げられた形状に形成されている。隣接する負極32と正極33との間には絶縁性のセパレータ35が介在されている。セパレータ35は、負極32と正極33との電気的接触を阻止する。
【0033】
各負極32には集電端子36が電気的に接続されており、集電端子36には負極リード端子37が電気的に接続されている。負極リード端子37は、蓋31を貫通して容器29外へ突出している。各正極33には集電端子38が電気的に接続されており、集電端子38には正極リード端子39が電気的に接続されている。正極リード端子39は、蓋31を貫通して容器29外へ突出している。
【0034】
負極32は、シート状の負極集電体40と、負極集電体40の外面401側(折り曲げられて凸面が生じる側)に負極活物質を塗布されて形成された第1負極活物質層41と、負極集電体40の内面402側(折り曲げられて凹面が生じる側)に負極活物質を塗布されて形成された第2負極活物質層42とから構成されている。本実施形態では、第1負極活物質層41の厚みと第2負極活物質層42の厚みとは、ほぼ同じにされている。
【0035】
正極33は、シート状の正極集電体43と、正極集電体43の外面431側(折り曲げられて凸面が生じる側)及び内面432側(折り曲げられて凹面が生じる側)に正極活物質を塗布されて形成された正極活物質層44,45とから構成されている。
【0036】
第1負極活物質層41における黒鉛とSiOxとの重量%の割合は、30重量%:70重量%〜40重量%:60重量%である。一方、第2負極活物質層42における黒鉛とSiOxとの重量%の割合は、70重量%:30重量%〜60重量%:40重量%である。
【0037】
第2の実施形態においても第1の実施形態と同じ効果が得られる。
本発明では以下のような実施形態も可能である。
○第1,2の実施形態では、負極の内面側の全体に第2負極活物質層20を形成したが、負極の内面側の凹面にのみ第2負極活物質層20を形成し、負極の内面側の残りには第1負極活物質層19を形成してもよい。つまり、負極の内面側の少なくとも一部に第2負極活物質層20が形成されていてもよい。
【0038】
○負極活物質として、黒鉛の代わりに、熱分解炭素類、コークス類(ピッチコークス,ニードルコークス,石油コークス等)、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体(フラン樹脂等を適当な温度で焼成し炭素化したもの)、炭素繊維、活性炭等の炭素系材料を用いてもよい。
【0039】
○第1活物質としてケイ素酸化物の他に、酸化チタンであってもよい。
前記した実施形態から把握できる技術思想について以下に記載する。
(イ)前記正極と前記負極とは、互いに沿い合った状態で巻き回された形状に形成されている請求項4に記載の二次電池。
【符号の説明】
【0040】
10,27…二次電池。11,29…容器。14…巻回電極。141…湾曲部。15,32…負極。16,33…正極。18,40…負極集電体。181,401…外面。181C…凸面。182…内面。182C…凹面。19,41…第1負極活物質層。20,42…第2負極活物質層。(SiOx)…第1活物質としての複合材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電体と、前記負極集電体に設けられた負極活物質層とを備えたシート状の負極において、
前記負極は、曲げられた湾曲部を有し、
前記負極の外面側の少なくとも一部である前記湾曲部の凸面には第1負極活物質層が形成されており、
前記負極の内面側の少なくとも一部である前記湾曲部の凹面には第2負極活物質層が形成されており、
前記第1負極活物質層は、第1活物質と、前記第1活物質よりもリチウムの吸収または放出による体積変化率の小さい第2活物質とを含み、
前記第2負極活物質層は、前記第2活物質を含み、
前記第2負極活物質層における前記第2活物質の重量%は、前記第1負極活物質層における前記第2活物質の重量%よりも大きいことを特徴とする負極。
【請求項2】
前記第1活物質は、SiOx(0.3≦x≦1.6)で表されるケイ素酸化物であり、前記第2活物質は、炭素系材料であることを特徴とする請求項1に記載の負極。
【請求項3】
前記第1活物質は、SiOx(0.3≦x≦1.6)で表されるケイ素酸化物であり、前記第2活物質は、黒鉛であることを特徴とする請求項1及び請求項2のいずれか1項に記載の負極。
【請求項4】
前記第2負極活物質層は、前記第1活物質を含み、前記第2負極活物質層における前記第1活物質に対する前記第2活物質の重量%は、前記第1負極活物質層における前記第1活物質に対する前記第2活物質の重量%よりも大きい請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の負極。
【請求項5】
シート状の正極と、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の負極と、前記正極及び前記負極が浸漬される電解液とを備える二次電池。
【請求項6】
前記正極及び前記負極は、巻回電極であることを特徴とする請求項5に記載の二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−41742(P2013−41742A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177671(P2011−177671)
【出願日】平成23年8月15日(2011.8.15)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】