説明

負極活物質、負極、及び電気化学セル、並びに負極活物質の製造方法

【課題】電気化学セルにおいて、より大きい充放電容量を実現する負極活物質、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】粉末X線回折によって測定される回折スペクトルにおいて、回折角2θが8.92±0.15°の範囲に回折ピークを有する、遷移元素を含む無機層状物質を負極活物質とする。かかる負極活物質は、遷移元素を含む無機層状物質を粉砕して粉末とし、100℃以上、且つ600℃未満の温度において焼成して得られる。尚、上記遷移元素を含む無機層状物質としては、遷移元素を含むバーミキュライト族に属する層状珪酸塩鉱物が特に好ましい。また、上記遷移元素としては、鉄(Fe)が特に好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質、負極、及び電気化学セル、並びに負極活物質の製造方法に関する。具体的には、本発明は、例えば、リチウムイオン二次電池等の電気化学セルにおいて、より大きい充放電容量を実現する負極活物質、当該負極活物質を含んでなる負極、及び当該負極を備えてなる電気化学セル、並びに当該負極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池を始めとする二次電池は、例えば、携帯端末(携帯電話、スマートフォン等)、ラップトップ型コンピュータ、カメラ、及びビデオ等の小型電子機器の電源として、並びに昨今急速に普及しつつある電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)等の駆動源であるモータのエネルギー源として、益々その用途が広がってきている。
【0003】
何れの用途においても、二次電池が使用される機器及び設備における小型化、高機能化、高性能化、及び信頼性の向上に対する市場からの要求は高まる一方であり、これに伴い、二次電池に対する小型化、大容量化、及び高信頼性化の要求もまた益々高まっている。
【0004】
当該技術分野においては、かかる要求を満たすことを目的として、二次電池の電極を構成する活物質として、様々な材料を採用することが検討されている。例えば、リチウム系二次電池の負極材料としてモンモリロナイト等の層状粘土鉱物を使用することにより、大電流放電時や低温時における容量低下の防止、及びコストや環境負荷の低減を達成することが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
しかしながら、例えば、地球環境保護意識の高まり等を受けて、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)等が益々普及してきており、かかる用途においては、例えば、キャビンスペース(客室空間)の確保による快適性の向上、軽量化による燃費の向上による地球環境保護等を目的として、より一層の小型化及び大容量化が二次電池に対して強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−296370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、当該技術分野においては、様々な用途において電力源として使用される二次電池に対して、より一層の小型化及び大容量化が強く求められている。本発明は、かかる要求に応えるために為されたものである。より具体的には、本発明は、例えば、リチウムイオン二次電池等の電気化学セルにおいて、より大きい充放電容量を実現する負極活物質を提供することを1つの目的とする。また、本発明は、例えば、リチウムイオン二次電池等の電気化学セルにおいて、より大きい充放電容量を実現する負極活物質の製造方法を提供することをもう1つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記1つの目的は、
遷移元素を含む無機層状物質からなる負極活物質であって、当該負極物質についての粉末X線回折によって測定される回折スペクトルにおいて、回折角2θが8.92±0.15°の範囲に回折ピークを有する、
負極活物質によって達成される。
【0009】
また、本発明の上記もう1つの目的は、
負極活物質の製造方法であって、
遷移元素を含む無機層状物質を粉砕して粉末とし、
前記粉末を、100℃以上、且つ600℃未満の温度において焼成して、得られる粉末についての粉末X線回折によって測定される回折スペクトルにおいて、回折角2θが8.92±0.15°の範囲に回折ピークを有する、
負極活物質の製造方法によって達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、例えば、リチウムイオン二次電池等の電気化学セルにおいて、より大きい充放電容量を実現する負極活物質が提供される。また、本発明によれば、例えば、リチウムイオン二次電池等の電気化学セルにおいて、より大きい充放電容量を実現する負極活物質の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の1つの実施態様に係る負極活物質を集電体上に配設して得られる負極を備える電気化学セルについての、充放電時の電池電圧と比容量との関係を示す充放電曲線を示すグラフである。
【図2】比較例に係る負極活物質を集電体上に配設して得られる負極を備える電気化学セルについての、充放電時の電池電圧と比容量との関係を示す充放電曲線を示すグラフである。
【図3】本発明のもう1つの実施態様に係る負極活物質を集電体上に配設して得られる負極を備える電気化学セルについての、充放電時の電池電圧と比容量との関係を示す充放電曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
前述のように、本発明は、例えば、リチウムイオン二次電池等の電気化学セルにおいて、より大きい充放電容量を実現する負極活物質を提供することを1つの目的とする。また、本発明は、例えば、リチウムイオン二次電池等の電気化学セルにおいて、より大きい充放電容量を実現する負極活物質の製造方法を提供することをもう1つの目的とする。
【0013】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究の結果、粉末X線回折によって測定される回折スペクトルにおいて特定の回折角2θの範囲に回折ピークを有する遷移元素を含む無機層状物質を負極活物質とすることにより、例えば、リチウムイオン二次電池等の電気化学セルにおいて、より大きい充放電容量を実現することができることを見出し、本発明を想到するに至ったものである。
【0014】
即ち、本発明の第1の実施態様は、
遷移元素を含む無機層状物質からなる負極活物質であって、当該負極物質についての粉末X線回折によって測定される回折スペクトルにおいて、回折角2θが8.92±0.15°の範囲に回折ピークを有する、
負極活物質である。
【0015】
本実施態様に係る負極活物質において、上記遷移元素を含む無機層状物質は、その層間にゲストを挿入されるホストとして機能することができ且つその組成中に遷移元素を含む無機物質である限り特に限定されない。即ち、上記遷移元素を含む無機層状物質は、天然に産出される鉱物であっても、あるいは人工的に作られる合成鉱物であってもよい。
【0016】
また、上記のように、本実施態様に係る負極活物質について、粉末X線回折により回折スペクトルを測定すると、回折角2θが8.92±0.15°の範囲に回折ピークが現れる。逆に言うと、粉末X線回折によって測定される回折スペクトルにおいて、回折角2θが8.92±0.15°の範囲に回折ピークを有する、遷移元素を含む無機層状物質によって負極活物質を構成することにより、例えば、当該負極活物質が集電体上に配設されてなる負極を備えてなる電気化学セルにおいて、より大きい充放電容量を実現することができる。
【0017】
より好ましくは、上記負極活物質は、粉末X線回折によって測定される回折スペクトルにおいて、回折角2θが8.92±0.10°の範囲に回折ピークを有することが望ましい。
【0018】
更により好ましくは、上記負極活物質は、粉末X線回折によって測定される回折スペクトルにおいて、回折角2θが8.92±0.05°の範囲に回折ピークを有することが望ましい。
【0019】
ところで、上記遷移元素を含む無機層状物質としては、上述のように、その層間にゲストを挿入されるホストとして機能することができ且つその組成中に遷移元素を含む無機物質である限り、例えば、天然に産出される鉱物や人工的に作られる合成鉱物等を含む、種々の無機層状物質から適宜選択して使用することができる。従って、これらの遷移元素を含む無機層状物質の組成式も様々であるが、本発明者は、これらの遷移元素を含む無機層状物質の組成式として、好ましい組成式を見出すに至った。
【0020】
即ち、本発明の第2の実施態様は、
本発明の前記第1の実施態様に係る負極活物質であって、前記遷移元素を含む無機層状物質が、下記組成式(C1)によって表され、
【0021】
【化1】

【0022】
上式中、Eは、当該無機層状物質の層間に挿入されたゲスト物質を表し、Xは遷移元素を表し、pは0以上且つ1.0未満の数を表し、q及びrは、rが0.2以上の数を表し、且つ、qとrとの合計値が2以上且つ3以下となる数を表し、nは2以上且つ4以下の数を表す、
負極活物質である。
【0023】
本実施態様に係る負極活物質においては、前記遷移元素を含む無機層状物質の組成式は、上記組成式(C1)によって表される。逆に言うと、上記組成式(C1)によって表される組成式を有する、遷移元素を含む無機層状物質によって負極活物質を構成することにより、例えば、当該負極活物質が集電体上に配設されてなる負極を備えてなる電気化学セルにおいて、より大きい充放電容量を実現することができる。
【0024】
尚、上記のように、上記組成式(C1)において、Eは、当該無機層状物質の層間に挿入されたゲスト物質を表す。かかるゲスト物質としては、例えば、種々の陽イオンが想定される。具体例としては、例えば、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、及びカルシウム(Ca)等の陽イオンを挙げることができる。因みに、上記pがゼロ(0)である場合は、かかるゲスト物質が無機層状物質の層間に挿入されていないことを意味する。
【0025】
より好ましくは、上記組成式(C1)において、pは0.2以上且つ0.9以下の数を表す。
【0026】
ところで、上記遷移元素を含む無機層状物質としては、上述のように、その層間にゲストを挿入されるホストとして機能することができ且つその組成中に遷移元素を含む無機物質である限り、例えば、天然に産出される鉱物や人工的に作られる合成鉱物等を含む、種々の無機層状物質から適宜選択して使用することができる。これらの遷移元素を含む無機層状物質の中では、天然に産出される鉱物、特に層状粘土鉱物が、入手が容易であり且つ安価であるものが多い。従って、例えば原料供給の安定化及び製造コストの低減等の観点から、上記遷移元素を含む無機層状物質として遷移元素を含む層状粘土鉱物を使用することが望ましい。
【0027】
即ち、本発明の第3の実施態様は、
本発明の前記第1又は第2の実施態様の何れか1つに係る負極活物質であって、前記遷移元素を含む無機層状物質が、遷移元素を含む層状粘土鉱物である、負極活物質である。
【0028】
上記遷移元素を含む層状粘土鉱物としては、上述のように、その層間にゲストを挿入されるホストとして機能することができ且つその組成中に遷移元素を含む層状粘土鉱物である限り、種々の層状粘土鉱物から適宜選択して使用することができる。かかる遷移元素を含む層状粘土鉱物としては、例えば、1:1型層状粘土鉱物、2:1型層状粘土鉱物、2:1:1型層状粘土鉱物、アロフェン又はイモゴライト等の種々の層状粘土鉱物を挙げることができる。
【0029】
かかる層状粘土鉱物は、SiOの四面体層とAlO(OH)等の八面体層から構成され、これらの四面体層と八面体層が1:1型、2:1型、2:1:1型等のように組み合わさって物質層が形成される。即ち、層状粘土鉱物は、物質層と物質層の間が空隙層となり、物質層と空隙層が交互に積層された層状鉱物である。層状粘土鉱物においては、空隙層に陽イオンを含んで物質層間の結合が強固になる場合と、空隙層に陽イオンを含まずに物質層同士が結合している場合がある。例えば、リチウムイオン二次電池が備える電極の負極材料としては、この空隙層にLi以外の陽イオンを含む場合は当該陽イオンをLiにイオン交換して、この空隙層に陽イオンを含まない場合はそのままの状態で、かかる層状粘土鉱物を使用することができる。この場合、かかる層状粘土鉱物は、空隙層にLiを吸蔵して(Liが挿入されて)充電を行い、空隙層からLiを放出して(Liが脱離されて)放電を行う。層状粘土鉱物は我国に大量に存し、炭素系材料と比べて安価であるので、上述のように、例えば原料供給の安定化及び製造コストの低減等の観点からも、上記遷移元素を含む無機層状物質として遷移元素を含む層状粘土鉱物を使用することが望ましい。
【0030】
また、上記遷移元素を含む層状粘土鉱物としては、層状珪酸塩鉱物として分類されるものが特に望ましい。
【0031】
従って、本発明の第4の実施態様は、
本発明の前記第3の実施態様に係る負極活物質であって、前記遷移元素を含む層状粘土鉱物が、遷移元素を含む層状珪酸塩鉱物である、負極活物質である。
【0032】
更に、層状珪酸塩鉱物として分類される様々な遷移元素を含む層状粘土鉱物の中では、スメクタイト族又はバーミキュライト族に属する層状珪酸塩鉱物が望ましく、バーミキュライト族に属する層状珪酸塩鉱物が特に望ましい。
【0033】
従って、本発明の第5の実施態様は、
本発明の前記第4の実施態様に係る負極活物質であって、前記遷移元素を含む層状珪酸塩鉱物が、遷移元素を含む、スメクタイト族又はバーミキュライト族に属する層状珪酸塩鉱物である、負極活物質である。
【0034】
加えて、本発明の第6の実施態様は、
本発明の前記第5の実施態様に係る負極活物質であって、前記遷移元素を含む層状珪酸塩鉱物が、遷移元素を含むバーミキュライト族に属する層状珪酸塩鉱物である、負極活物質である。
【0035】
ところで、上述のように、本発明に係る負極活物質は、遷移元素を含む無機層状物質から構成される。遷移元素とは、本明細書においては、周期表における3乃至12族に属する元素を指す。これらの遷移元素の中では、所謂「鉄属元素」(具体的には、鉄(Fe)、コバルト(Co)、及びニッケル(Ni))が好ましく、鉄(Fe)が特に好ましい。
【0036】
従って、本発明の第7の実施態様は、
本発明の前記第1乃至第6の実施態様の何れか1つに係る負極活物質であって、前記遷移金属が鉄(Fe)である、負極活物質である。
【0037】
上記のように、本実施態様に係る負極活物質においては、負極活物質を構成する無機層状物質の組成に含まれる遷移元素が鉄(Fe)である。これにより、例えば、本実施態様に係る負極活物を集電体上に配設して得られる負極を備える電気化学セルにおいて、より大きい充放電容量を実現することができる。
【0038】
ところで、本発明者は、更なる鋭意研究の結果、本発明に係る負極活物質を構成する材料として、遷移元素を含む無機層状物質に所定量のリチウム塩を更に添加・配合したものを使用することにより、例えば、かかる負極活物を集電体上に配設して得られる負極を備える電気化学セルにおいて、更により大きい充放電容量を実現することができることを見出した。
【0039】
即ち、本発明の第8の実施態様は、
本発明の前記第1乃至第7の実施態様の何れか1つに係る負極活物質であって、前記遷移元素を含む無機層状物質1モル当たり0.05モル以上であって、且つ1モル未満の量のリチウム塩を更に含んでなり、前記リチウム塩を構成するリチウムイオンの少なくとも一部が前記遷移元素を含む無機層状物質の層間に挿入されている、負極活物質である。
【0040】
上記リチウム塩は、負極活物質の性能に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されるものではない。上記リチウム塩の具体例としては、例えば、過塩素酸リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、燐酸リチウム、亜硫酸リチウム、メタ硼酸リチウム、四硼酸リチウム、メタ燐酸リチウム、沃素酸リチウム、酢酸リチウム、安息香酸リチウム、乳酸リチウム、蓚酸リチウム、テトラフエニル硼酸リチウム、ステアリン酸リチウム、塩化リチウム、弗化リチウム、六弗化燐酸リチウム、四弗化硼酸リチウム、アルト珪酸リチウム、及びメタ珪酸リチウム等を挙げることができる。また、これらのリチウム塩の1種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0041】
また、上記リチウム塩は、前記遷移元素を含む無機層状物質1モル当たり0.05モル以上、より好ましくは0.1モル以上であって、且つ1モル未満、より好ましくは0.9モル未満の量にて配合することが望ましい。前記遷移元素を含む無機層状物質1モル当たり0.05モル未満の量のリチウム塩を添加・配合しても、かかる負極活物を集電体上に配設して得られる負極を備える電気化学セルにおいて、上述のような充放電容量の更なる増大効果のが得られないので望ましくない。逆に、前記遷移元素を含む無機層状物質1モル当たり1モル以上の量のリチウム塩を添加・配合した場合、かかる負極活物を集電体上に配設して得られる負極を備える電気化学セルにおいて、充放電容量が却って低下するので望ましくない。
【0042】
更に、本実施態様に係る負極活物質においては、上記のように添加・配合されたリチウム塩の少なくとも一部が前記遷移元素を含む無機層状物質の層間に挿入されている。即ち、上述した各種実施態様を始めとする本発明に係る負極活物質を構成する遷移元素を含む無機層状物質に対して、上述のようなリチウム塩を添加・配合し、例えば、単に混合しただけでは、かかる負極活物質を集電体上に配設して得られる負極を備える電気化学セルにおいて、上述のような充放電容量の更なる増大効果は得られない。逆に言うと、上述した各種実施態様を始めとする本発明に係る負極活物質を構成する遷移元素を含む無機層状物質に対して、上述のようなリチウム塩を添加・配合し、例えば、遷移元素を含む無機層状物質とリチウム塩とを混合し、当該混合物を所定の条件下で焼成する等して、添加・配合されたリチウム塩の少なくとも一部を前記無機層状物質の層間に挿入して初めて、かかる負極活物を集電体上に配設して得られる負極を備える電気化学セルにおいて、上述のような充放電容量の更なる増大効果を得ることができる。
【0043】
ところで、冒頭で述べたように、本発明は、例えばリチウムイオン二次電池等の電気化学セルにおいてより大きい充放電容量を実現する上述のような負極活物質のみならず、当該負極活物質を含んでなる負極、及び当該負極を備えてなる電気化学セルにも関する。
【0044】
即ち、本発明の第9の実施態様は、
本発明の前記第1乃至第8の実施態様の何れか1つに係る負極活物質が集電体上に配設されてなる負極である。
【0045】
本実施態様において、上記集電体は、電子伝導性に優れ、電池内部で安定に存在することができる限り、如何なる材質で構成されていてもよい。より好ましい集電体の特性としては、薄膜化が可能であり、電池内部での体積を小さくすることができることや、密度が低く、単位体積当たりの質量が小さいことや、加工が容易であることや、機械的強度が高いこと等が挙げられる。かかる集電体の材質としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)(ステンレス鋼を含む)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)等を使用することができる。
【0046】
また、本発明の第10の実施態様は、
本発明の前記第9の実施態様に係る負極を備えてなる、電気化学セルである。
【0047】
本実施態様において、上記電気化学セルは、特定のタイプに限定されるものではないが、電解質中の金属イオンが電気伝導を担うタイプのものが望ましい。より好ましくは、上記電気化学セルは、電解質中のリチウムイオンが電気伝導を担うタイプのもの、即ち、リチウムイオン二次電池である。
【0048】
従って、本発明の第11の実施態様は、
本発明の前記第10の実施態様に係る電気化学セルであって、当該電気化学セルがリチウムイオン二次電池を構成する、電気化学セルである。
【0049】
ところで、冒頭で述べたように、本発明は、例えばリチウムイオン二次電池等の電気化学セルにおいてより大きい充放電容量を実現する上述のような負極活物質の製造方法に関する。
【0050】
そこで、前述のような本発明の幾つかの実施態様に係る負極活物質の製造方法としての幾つかの実施態様につき、以下に列挙する。但し、前述のような本発明の幾つかの実施態様に係る負極活物質についての説明と重複する内容については割愛する場合がある。
【0051】
先ず、本発明の第12の実施態様は、
負極活物質の製造方法であって、
遷移元素を含む無機層状物質を粉砕して粉末とし、
前記粉末を、100℃以上、且つ600℃未満の温度において焼成して、得られる粉末についての粉末X線回折によって測定される回折スペクトルにおいて、回折角2θが8.92±0.15°の範囲に回折ピークを有するものとする、
負極活物質の製造方法である。
【0052】
本実施態様に係る負極活物質の製造方法において、遷移元素を含む無機層状物質を粉砕して粉末とするための具体的な手段及び手順は特に限定されるものではなく、当該技術分野において知られている各種粉砕手段及び粉砕手順を利用することができる。具体的には、遷移元素を含む無機層状物質は、例えば、乳鉢中で乳棒を使用して粉砕してもよく、あるいは、例えばボールミル等の粉砕装置を使用して粉砕してもよい。また、遷移元素を含む無機層状物質の粉砕後の粒径については、当該負極活物質を使用して構成される電極(負極)の構成や仕様に基づいて、適宜設定することができる。
【0053】
本実施態様に係る負極活物質の製造方法において、遷移元素を含む無機層状物質は、上記のように粉砕され、粉末化された後に焼成される。この際の焼成温度としては、100℃以上、より好ましくは150℃以上、更により好ましくは200℃以上、且つ600℃未満、より好ましくは500℃未満、更により好ましくは400℃未満の温度において焼成される。また、上記焼成温度に到達するまでの昇温速度や、上記焼成温度における保持期間等の焼成条件は、例えば、遷移元素を含む無機層状物質の量や含水率、粉砕後の粉末の粒径等の種々の条件を考慮して適宜設定することができる。
【0054】
上記のように粉砕後、焼成された負極活物質について、粉末X線回折により回折スペクトルを測定すると、回折角2θが8.92±0.15°の範囲に回折ピークが現れる。かかる性質を示す、遷移元素を含む無機層状物質からなる負極活物質は、例えば、当該負極活物質が集電体上に配設されてなる負極を備えてなる電気化学セルにおいて、より大きい充放電容量を実現することができる。逆に言うと、遷移元素を含む無機層状物質を上記のように粉砕後、焼成して、粉末X線回折によって測定される回折スペクトルにおいて、回折角2θが8.92±0.15°の範囲に回折ピークを有するものとすることにより、例えば、当該負極活物質が集電体上に配設されてなる負極を備えてなる電気化学セルにおいて、より大きい充放電容量を実現することができる。
【0055】
より好ましくは、上記のように粉砕後、焼成された負極活物質は、粉末X線回折によって測定される回折スペクトルにおいて、回折角2θが8.92±0.10°の範囲に回折ピークを有することが望ましい。
【0056】
更により好ましくは、上記のように粉砕後、焼成された負極活物質は、粉末X線回折によって測定される回折スペクトルにおいて、回折角2θが8.92±0.05°の範囲に回折ピークを有することが望ましい。
【0057】
ところで、本発明に係る負極活物質の製造方法において、上記遷移元素を含む無機層状物質として、より好ましいものは、本発明に係る負極活物質の種々の実施態様に関する前述の説明において、既に述べたものと同様である。
【0058】
従って、本発明の第13の実施態様は、
請求項12に記載の負極活物質の製造方法であって、前記遷移元素を含む無機層状物質が、下記組成式(C1)によって表され、
【0059】
【化2】

【0060】
上式中、Eは、当該無機層状物質の層間に挿入されたゲスト物質を表し、Xは遷移元素を表し、pは0以上且つ1.0未満の数を表し、q及びrは、rが0.2以上の数を表し、且つ、qとrとの合計値が2以上且つ3以下となる数を表し、nは2以上且つ4以下の数を表す、
負極活物質の製造方法である。
【0061】
また、本発明の第14の実施態様は、
本発明の前記第12又は第13の実施態様の何れか1つに係る負極活物質の製造方法であって、前記遷移元素を含む無機層状物質が、遷移元素を含む層状粘土鉱物である、負極活物質の製造方法である。
【0062】
更に、本発明の第15の実施態様は、
本発明の前記第14の実施態様に係る負極活物質の製造方法であって、前記遷移元素を含む層状粘土鉱物が、遷移元素を含む層状珪酸塩鉱物である、負極活物質の製造方法である。
【0063】
加えて、本発明の第16の実施態様は、
本発明の前記第15の実施態様に係る負極活物質の製造方法であって、前記遷移元素を含む層状珪酸塩鉱物が、遷移元素を含む、スメクタイト族又はバーミキュライト族に属する層状珪酸塩鉱物である、負極活物質の製造方法である。
【0064】
更に加えて、本発明の第17の実施態様は、
本発明の前記第16の実施態様に係る負極活物質の製造方法であって、前記遷移元素を含む層状珪酸塩鉱物が、遷移元素を含むバーミキュライト族に属する層状珪酸塩鉱物である、負極活物質の製造方法である。
【0065】
ところで、上述のように、本発明に係る製造方法によって製造される負極活物質は、遷移元素を含む無機層状物質から構成される。前述のように、本明細書においては、遷移元素とは、周期表における3乃至12族に属する元素を指す。これらの遷移元素の中では、所謂「鉄属元素」(具体的には、鉄(Fe)、コバルト(Co)、及びニッケル(Ni))が好ましく、鉄(Fe)が特に好ましい。
【0066】
従って、本発明の第18の実施態様は、
本発明の前記12乃至第17の実施態様の何れか1つに係る負極活物質の製造方法であって、前記遷移金属が鉄(Fe)である、負極活物質の製造方法である。
【0067】
ところで、本発明者は、更なる鋭意研究の結果、前述のように、遷移元素を含む無機層状物質に所定量のリチウム塩を更に添加・配合したものを使用することにより、例えば、かかる負極活物を集電体上に配設して得られる負極を備える電気化学セルにおいて、更により大きい充放電容量を実現することができることを見出した。
【0068】
即ち、本発明の第19の実施態様は、
本発明の前記第12乃至第18の実施態様の何れか1つに係る負極活物質の製造方法であって、
前記粉末を焼成する前に、前記遷移元素を含む無機層状物質1モル当たり0.05モル以上であって、且つ1モル未満の量のリチウム塩を前記粉末に更に添加・配合し、
前記粉末を当該リチウム塩と共に焼成する、
負極活物質の製造方法である。
【0069】
上記リチウム塩は、前述のように、負極活物質の性能に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されるものではない。上記リチウム塩の具体例としては、例えば、過塩素酸リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、燐酸リチウム、亜硫酸リチウム、メタ硼酸リチウム、四硼酸リチウム、メタ燐酸リチウム、沃素酸リチウム、酢酸リチウム、安息香酸リチウム、乳酸リチウム、蓚酸リチウム、テトラフエニル硼酸リチウム、ステアリン酸リチウム、塩化リチウム、弗化リチウム、六弗化燐酸リチウム、四弗化硼酸リチウム、アルト珪酸リチウム、及びメタ珪酸リチウム等を挙げることができる。また、これらのリチウム塩の1種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0070】
また、上記リチウム塩は、前述のように、前記遷移元素を含む無機層状物質1モル当たり0.05モル以上、より好ましくは0.1モル以上であって、且つ1モル未満、より好ましくは0.9モル未満の量にて配合することが望ましい。前記遷移元素を含む無機層状物質1モル当たり0.05モル未満の量のリチウム塩を添加・配合しても、かかる負極活物を集電体上に配設して得られる負極を備える電気化学セルにおいて、上述のような充放電容量の更なる増大効果のが得られないので望ましくない。逆に、前記遷移元素を含む無機層状物質1モル当たり1モル以上の量のリチウム塩を添加・配合した場合、かかる負極活物を集電体上に配設して得られる負極を備える電気化学セルにおいて、充放電容量が却って低下するので望ましくない。
【0071】
更に、前述のように、本実施態様に係る負極活物質においては、上記のように添加・配合されたリチウム塩の少なくとも一部が前記遷移元素を含む無機層状物質の層間に挿入されている。即ち、前述のように、遷移元素を含む無機層状物質に対して、上述のようなリチウム塩を添加・配合し、例えば、単に混合しただけでは、かかる混合物からなる負極活物を集電体上に配設して得られる負極を備える電気化学セルにおいて、上述のような充放電容量の更なる増大効果は得られない。逆に言うと、遷移元素を含む無機層状物質に対して、上述のようなリチウム塩を添加・配合して得られる混合物を上述の条件下で焼成して、添加・配合されたリチウム塩の少なくとも一部を前記無機層状物質の層間に挿入して初めて、かかる無機層状物質からなる負極活物を集電体上に配設して得られる負極を備える電気化学セルにおいて、上述のような充放電容量の更なる増大効果を得ることができる。
【0072】
本発明の幾つかの実施態様に係る車両の制御装置の構成や特性等につき、添付図面等を参照しつつ以下に説明する。但し、以下に述べる説明はあくまでも例示を目的とするものであり、本発明の範囲が以下の説明に限定されるものと解釈されるべきではない。
【実施例1】
【0073】
1−1.評価用サンプルの作製
(1)負極活物質の調製
本実施例においては、負極活物質の原材料としてバーミキュライトを使用した。先ず、バーミキュライトを乳鉢中で乳棒を用いて20分間に亘って粉砕した。得られた粉末を、実験例1−1については300℃、比較例1−2については600℃、及び比較例1−3については900℃においてそれぞれ焼成して、各評価用サンプルとしての負極活物質を得た。尚、それぞれの焼成温度までの昇温速度は何れも10℃/分とし、各焼成温度における保持期間は何れも2時間とした。また、比較例1−1については、焼成処理を行わなかった。
【0074】
(2)電極の作製
上記のようにして調製された各評価用サンプルとしての負極活物質を、導電材、増粘剤、及びバインダ樹脂と共に水に分散させてスラリーとした。より具体的には、負極活物質3gに対して、負極活物質:導電材:増粘剤:バインダ樹脂=88:10:1:1の質量比となるように配合したものを水に分散させてスラリーとした。尚、本実施例においては、導電材としてケッチェンブラック、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)、及びバインダ樹脂としてスチレンブタジエンゴム(SBR)を使用した。
【0075】
上記スラリーを、厚さ10μmの銅箔(日本製箔株式会社)上に塗布し、電極密度が約0.9g/cmとなるようにプレス加工したものを、直径10mmの円形に打ち抜き、負極電極を作製した。
【0076】
(3)電池の作製
本実施例においては、上記のようにして作製された電極を負極とし、リチウムを対極(正極)とした。また、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合溶媒にLiPFを溶解させたものを使用した。尚、当該電解液におけるLiPF濃度は1M(モル/L)とし、混合溶媒におけるECとDECとの容量比率をEC:DEC=3:7とした。更に、セパレータとしてはポリエチレン(PE)製のセパレータを用いた。これらの構成部材を使用して、CR2032型の評価用コインセルを作製し、以下に述べる各種評価に供した。
【0077】
1−2.各種サンプルの評価
(1)粉末X線回折
上記1−1.評価用サンプルの作製の(1)負極活物質の調製において調製された、異なる条件下で焼成された各種負極活物質サンプルの粉末の各々につき、粉末X線回折強度データを収集して、回折スペクトルを得た。得られた回折スペクトルにおいては、特定の回折角の範囲(具体的には、2θ=8.92±0.15°の範囲)に回折ピークが現れるか否かに注目して評価した。尚、粉末X線回折(XRD)には、株式会社リガク製の試料水平型多目的X線回折装置「Ultima IV」を使用した。また、測定範囲は2θ=5°〜80°、スキャン速度は35°/分とした。
【0078】
(2)電気化学特性
上記1−1.評価用サンプルの作製の(3)電池の作製において作製された、異なる条件下で焼成された各種負極活物質を用いて作製された負極を備える各種評価用コイルセルの各々につき、0.1Cの電流値にて、電池電圧が0.01Vになるまで充電(Liイオンを挿入)し、その後、電池電圧が3Vになるまで放電(Liイオンを離脱)する操作を行って、各種評価用コイルセルの各々について、充放電時の電池電圧と比容量との関係を示す充放電曲線を得た。得られた充放電曲線から、充電時及び放電時の最大の比容量をそれぞれ求めた。
【0079】
1−3.各種サンプルの評価結果の纏め
上記1−1.評価用サンプルの作製の(1)負極活物質の調製において説明した各種負極活物質の焼成条件、並びに上記1−2.各種サンプルの評価の(1)粉末X線回折及び(2)電気化学特性において得られた各種評価結果を、以下の表1に列挙する。
【0080】
【表1】

【0081】
(1)粉末X線回折
表1に示すように、300℃において焼成されたバーミキュライトを原材料とする負極活物質である実験例1−1については、粉末X線回折によって得られた回折スペクトルにおいて、2θ=8.92°の位置に回折ピークが認められた。一方、未焼成のバーミキュライトを原材料とする比較例1−1については、上述の所定の回折角の範囲(具体的には、2θ=8.92±0.15°の範囲)の近傍には回折ピークは認められなかった。また、それぞれ600℃及び900℃において焼成されたバーミキュライトを原材料とする負極活物質である比較例1−2及び1−3については、粉末X線回折によって得られた回折スペクトルにおいて、それぞれ2θ=9.33°及び2θ=9.09°の位置にシフトした回折ピークが認められた。このような回折ピークのシフトは、600℃及び900℃という非常に高い温度における焼成処理によってバーミキュライトの結晶水が気化し、バーミキュライトの層間が収縮した可能性を示唆しているものと考えられる。
【0082】
(2)電気化学特性
上記のように粉末X線回折(XRD)によって得られた回折スペクトルにおいて2θ=8.92°の位置に回折ピークを有する実験例1−1については、充放電曲線から、701.7mAh/gの充電容量及び107.8mAh/gの放電容量という、非常に高い比容量を有することが確認された(図1を参照)。一方、XRDにおいて回折ピークが認められなかった比較例1−1については、216.0mAh/gの充電容量及び53.0mAh/gの放電容量という、非常に低い比容量が認められた(図2を参照)。また、回折ピークの位置が2θ=8.92°から高角度側にシフトしている比較例1−2及び1−3については、比較例1−1と比べると充電容量は大きいものの放電容量は小さく、実験例1−1との比較においては、充電容量及び放電容量の何れにおいても劣っていた。これは、前述のように、比較例1−2及び1−3については、焼成温度が高過ぎたために、バーミキュライトの層間が収縮したことに起因するものと考えられる。
【0083】
(3)まとめ
以上のように、XRDによる回折スペクトルにおいて所定の回折角の範囲(具体的には、2θ=8.92±0.15°の範囲)に回折ピークを有する、遷移元素を含む無機層状物質(バーミキュライト)を原材料とする、本発明の1つの実施態様に係る負極材料(実験例1−1)については、非常に高い充電容量及び放電容量を示すことが確認された。
【実施例2】
【0084】
2−1.評価用サンプルの作製
(1)負極活物質の調製
本実施例においても、実施例1と同様に、負極活物質の原材料としてバーミキュライトを使用した。先ず、バーミキュライトを乳鉢中で乳棒を用いて20分間に亘って粉砕した。得られた粉末1モルに対して、実験例2−1については0.1モルの硝酸リチウムを、実験例2−2については0.4モルの硝酸リチウムを、及び比較例2−1については1モルの硝酸リチウムを、それぞれ添加・配合し、何れのサンプルについても、10℃/分の昇温速度にて300℃まで昇温し、300℃において2時間に亘って焼成した。これらのサンプルについては、焼成時の固相反応により、硝酸リチウムを構成するリチウムイオンの少なくとも一部がバーミキュライトの層間に挿入されているものと考えられる。
【0085】
一方、比較例2−2については、上記のようにして得られたバーミキュライトの粉末1モルを、13モルの硝酸リチウムが溶解している水溶液中に分散させ、3日間に亘って還流させた。その後、バーミキュライトの粉末を超純粋で洗浄し、乾燥させた後、上記と同一の条件下で焼成した。このサンプルについては、還流時の液相反応により、硝酸リチウムを構成するリチウムイオンの少なくとも一部がバーミキュライトの層間に挿入されていることが期待された。更に、本実施例においては、対称標準サンプルとして、実施例における実験例1−1を評価用サンプルに加えた。このサンプルについては、前述のように、焼成時にリチウム塩は添加・配合されていないので、バーミキュライトの層間にリチウムイオンは挿入されていない。
【0086】
(2)電極の作製
上記のようにして調製された各評価用サンプルとしての負極活物質を、導電材、増粘剤、及びバインダ樹脂と共に水に分散させてスラリーとした。より具体的には、負極活物質3gに対して、負極活物質:導電材:増粘剤:バインダ樹脂=88:10:1:1の質量比となるように配合したものを水に分散させてスラリーとした。尚、本実施例においては、導電材としてケッチェンブラック、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)、及びバインダ樹脂としてスチレンブタジエンゴム(SBR)を使用した。
【0087】
上記スラリーを、厚さ10μmの銅箔(日本製箔株式会社)上に塗布し、電極密度が約0.9g/cmとなるようにプレス加工したものを、直径10mmの円形に打ち抜き、負極電極を作製した。
【0088】
(3)電池の作製
本実施例においては、上記のようにして作製された電極を負極とし、リチウムを対極(正極)とした。また、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合溶媒にLiPFを溶解させたものを使用した。尚、当該電解液におけるLiPF濃度は1M(モル/L)とし、混合溶媒におけるECとDECとの容量比率をEC:DEC=3:7とした。更に、セパレータとしてはポリエチレン(PE)製のセパレータを用いた。これらの構成部材を使用して、CR2032型の評価用コインセルを作製し、以下に述べる各種評価に供した。
【0089】
2−2.各種サンプルの評価
(1)粉末X線回折
上記2−1.評価用サンプルの作製の(1)負極活物質の調製において調製された、リチウム塩の配合比や配合方法が異なる各種負極活物質サンプルの粉末の各々につき、粉末X線回折強度データを収集して、回折スペクトルを得た。得られた回折スペクトルにおいては、特定の回折角の範囲(具体的には、2θ=8.92±0.15°の範囲)に回折ピークが現れるか否かに注目して評価した。尚、粉末X線回折(XRD)には、株式会社リガク製の試料水平型多目的X線回折装置「Ultima IV」を使用した。また、測定範囲は2θ=5°〜80°、スキャン速度は35°/分とした。
【0090】
(2)電気化学特性
上記1−1.評価用サンプルの作製の(3)電池の作製において作製された、異なる条件下で焼成された各種負極活物質を用いて作製された負極を備える各種評価用コイルセルの各々につき、0.1Cの電流値にて、電池電圧が0.01Vになるまで充電(Liイオンを挿入)し、その後、電池電圧が3Vになるまで放電(Liイオンを離脱)する操作を行って、各種評価用コイルセルの各々について、充放電時の電池電圧と比容量との関係を示す充放電曲線を得た。得られた充放電曲線から、充電時及び放電時の最大の比容量をそれぞれ求めた。
【0091】
2−3.各種サンプルの評価結果の纏め
上記2−1.評価用サンプルの作製の(1)負極活物質の調製において説明した各種評価用サンプルにおけるリチウム塩の配合比(V:L)及びバーミキュライトの層間へのリチウムイオンの挿入方法(固相反応又は液層反応)、並びに上記2−2.各種サンプルの評価の(1)粉末X線回折及び(2)電気化学特性において得られた各種評価結果を、以下の表2に列挙する。
【0092】
【表2】

【0093】
(1)粉末X線回折
表2に示すように、バーミキュライト粉末1モル当たり、それぞれ0.1モル及び0.4モルの硝酸リチウムを添加・配合して、300℃において焼成したバーミキュライトを原材料とする負極活物質である実験例2−1及び2−2の何れのサンプルについても、リチウム塩が添加・配合されていない対称標準サンプルである実験例1−1と同様に、粉末X線回折によって得られた回折スペクトルにおいて、2θ=8.92°の位置に回折ピークが認められた。
【0094】
一方、バーミキュライト粉末1モル当たり、1モルの硝酸リチウムを添加・配合して、300℃において焼成したバーミキュライトを原材料とする比較例2−1については、上述の所定の回折角の範囲(具体的には、2θ=8.92±0.15°の範囲)の近傍には回折ピークは認められなかった。また、バーミキュライト粉末1モル当たり、13モルの硝酸リチウムを含む水溶液中での還流後、300℃において焼成したバーミキュライトを原材料とする比較例2−2についても、上記所定の回折角の範囲の近傍には回折ピークは認められなかった。これらのサンプルにおいては、過剰なリチウムイオンの挿入により、バーミキュライトの基本骨格が崩れてしまった可能性を示唆しているものと考えられる。
【0095】
(2)電気化学特性
上記のように粉末X線回折(XRD)によって得られた回折スペクトルにおいて2θ=8.92°の位置に回折ピークを有する実験例2−1及び2−2については、充放電曲線から、それぞれ677.4mAh/gの充電容量及び143.1mAh/gの放電容量、並びに709.5mAh/gの充電容量及び139.3mAh/gの放電容量という、非常に高い比容量を有することが確認された(実験例2−1については、図3を参照)。一方、XRDにおいて回折ピークが認められなかった比較例2−1及び2−2については、それぞれ615.7mAh/gの充電容量及び121.1mAh/gの放電容量、並びに438.4mAh/gの充電容量及び95.6mAh/gの放電容量という、低い比容量が認められた。比較例2−1の放電容量については、硝酸リチウムの添加・配合の効果もあり、リチウム塩が添加・配合されていない対称標準サンプルである実験例1−1よりも高い値を示した。しかしながら、実験例2−1及び2−2における放電容量と比較すると、比較例2−1においては、硝酸リチウムを過剰に添加・配合したために、その効果が却って低下しているものと判断される。
【0096】
(3)まとめ
以上のように、遷移元素を含む無機層状物質(バーミキュライト)1モル当たり所定量(具体的には、0.05モル以上であって、且つ1モル未満)のリチウム塩(硝酸リチウム)を更に添加・配合し、(例えば、上記のような固相反応により、)リチウム塩を構成するリチウムイオンの少なくとも一部を、遷移元素を含む無機層状物質の層間に挿入し、(例えば、所定の条件下で焼成することにより、)XRDによる回折スペクトルにおいて所定の回折角の範囲(具体的には、2θ=8.92±0.15°の範囲)に回折ピークを有する、遷移元素を含む無機層状物質(バーミキュライト)を原材料とする、本発明のもう1つの実施態様に係る負極材料(実験例2−1及び2−2)については、非常に高い充電容量及び放電容量を示すことが確認された。
【0097】
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施態様について説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施態様に限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることができることは言うまでも無い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移元素を含む無機層状物質からなる負極活物質であって、当該負極物質についての粉末X線回折によって測定される回折スペクトルにおいて、回折角2θが8.92±0.15°の範囲に回折ピークを有する、
負極活物質。
【請求項2】
請求項1に記載の負極活物質であって、前記遷移元素を含む無機層状物質が、下記組成式(C1)によって表され、
【化1】

上式中、Eは、当該無機層状物質の層間に挿入されたゲスト物質を表し、Xは遷移元素を表し、pは0以上且つ1.0未満の数を表し、q及びrは、rが0.2以上の数を表し、且つ、qとrとの合計値が2以上且つ3以下となる数を表し、nは2以上且つ4以下の数を表す、
負極活物質。
【請求項3】
請求項1又は2の何れか1項に記載の負極活物質であって、前記遷移元素を含む無機層状物質が、遷移元素を含む層状粘土鉱物である、負極活物質。
【請求項4】
請求項3に記載の負極活物質であって、前記遷移元素を含む層状粘土鉱物が、遷移元素を含む層状珪酸塩鉱物である、負極活物質。
【請求項5】
請求項4に記載の負極活物質であって、前記遷移元素を含む層状珪酸塩鉱物が、遷移元素を含む、スメクタイト族又はバーミキュライト族に属する層状珪酸塩鉱物である、負極活物質。
【請求項6】
請求項5に記載の負極活物質であって、前記遷移元素を含む層状珪酸塩鉱物が、遷移元素を含むバーミキュライト族に属する層状珪酸塩鉱物である、負極活物質。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の負極活物質であって、前記遷移金属が鉄(Fe)である、負極活物質。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか1項に記載の負極活物質であって、前記遷移元素を含む無機層状物質1モル当たり0.05モル以上であって、且つ1モル未満の量のリチウム塩を更に含んでなり、前記リチウム塩を構成するリチウムイオンの少なくとも一部が前記遷移元素を含む無機層状物質の層間に挿入されている、負極活物質。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか1項に記載の負極活物質が集電体上に配設されてなる負極。
【請求項10】
請求項9に記載の負極を備えてなる、電気化学セル。
【請求項11】
請求項10に記載の電気化学セルであって、当該電気化学セルがリチウムイオン二次電池を構成する、電気化学セル。
【請求項12】
負極活物質の製造方法であって、
遷移元素を含む無機層状物質を粉砕して粉末とし、
前記粉末を、100℃以上、且つ600℃未満の温度において焼成して、得られる粉末についての粉末X線回折によって測定される回折スペクトルにおいて、回折角2θが8.92±0.15°の範囲に回折ピークを有する、
負極活物質の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の負極活物質の製造方法であって、前記遷移元素を含む無機層状物質が、下記組成式(C1)によって表され、
【化2】

上式中、Eは、当該無機層状物質の層間に挿入されたゲスト物質を表し、Xは遷移元素を表し、pは0以上且つ1.0未満の数を表し、q及びrは、rが0.2以上の数を表し、且つ、qとrとの合計値が2以上且つ3以下となる数を表し、nは2以上且つ4以下の数を表す、
負極活物質の製造方法。
【請求項14】
請求項12又は13の何れか1項に記載の負極活物質の製造方法であって、前記遷移元素を含む無機層状物質が、遷移元素を含む層状粘土鉱物である、負極活物質の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の負極活物質の製造方法であって、前記遷移元素を含む層状粘土鉱物が、遷移元素を含む層状珪酸塩鉱物である、負極活物質の製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載の負極活物質の製造方法であって、前記遷移元素を含む層状珪酸塩鉱物が、遷移元素を含む、スメクタイト族又はバーミキュライト族に属する層状珪酸塩鉱物である、負極活物質の製造方法。
【請求項17】
請求項16に記載の負極活物質の製造方法であって、前記遷移元素を含む層状珪酸塩鉱物が、遷移元素を含むバーミキュライト族に属する層状珪酸塩鉱物である、負極活物質の製造方法。
【請求項18】
請求項12乃至17の何れか1項に記載の負極活物質の製造方法であって、前記遷移金属が鉄(Fe)である、負極活物質の製造方法。
【請求項19】
請求項12乃至18の何れか1項に記載の負極活物質の製造方法であって、
前記粉末を焼成する前に、前記遷移元素を含む無機層状物質1モル当たり0.05モル以上であって、且つ1モル未満の量のリチウム塩を前記粉末に更に添加・配合し、
前記粉末を当該リチウム塩と共に焼成する、
負極活物質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−62041(P2013−62041A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198013(P2011−198013)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】