説明

負極活物質、負極および電池、ならびに負極の製造方法

【課題】より大きな容量を有すると共に優れた充放電効率を有する電池を提供する。
【解決手段】正極21と負極22とをセパレータ23を介して積層し巻回した巻回電極体20を電池缶11の内部に備える。負極22には、負極活物質層22Bが設けられており、この負極活物質層22Bは、負極活物質として細孔が設けられたメソフェーズ黒鉛小球体を含んでいる。このメソフェーズ黒鉛小球体は、例えば、全表面積に対する外表面積の割合が10%以上50%以下、比表面積が0.1m2 /g以上5m2 /g以下、中位径(D50)が5μm以上50μm以下のものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソフェーズ小球体の球晶黒鉛化物を含む負極活物質、およびそれを備えた負極、電池、ならびに負極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビデオカメラ、携帯電話、ノート型パソコンなどのポータブル機器の普及に伴い、その電源として小型かつ軽量で高容量の二次電池に対する需要が高まりつつある。そのような需要に応えるものとして、負極活物質として炭素材料を用い、リチウムの吸蔵および放出反応を利用したリチウムイオン二次電池が挙げられる。
【0003】
負極活物質として用いる炭素材料としては、結晶性の高い黒鉛(グラファイト)の粒子が主流である。その理由としては、黒鉛粒子は電子伝導性が高く大電流での放電性能に優れ、放電に伴う電位変化が少なく定電力放電等の用途に適しているうえ、真密度が大きく(よって、高い嵩密度を得やすく)高容量化に有利である、といった点が挙げられる。さらに、より高容量であるケイ素やスズなどを含む材料においては充放電に伴って激しい膨張および収縮を発現するが、炭素材料ではそのような体積変化が極めて小さいという利点もある。
【0004】
近年のリチウムイオン二次電池の高エネルギー密度化に対応すべく、黒鉛の高性能化が試みられている。但し、天然黒鉛粒子については黒鉛の理論容量(372mAh/g)に極めて近い可逆容量が得られている。このため、粒子形状を調整するなどして電池内部の限られた容積に高密度で充填することで電池としての容量向上を実現することが検討されている。なお、一般的に人造黒鉛粒子は、その黒鉛化度が不十分であることから天然黒鉛粒子よりも可逆容量が劣っている。そのため、人造黒鉛粒子については可逆容量を改善すべく、原料の純度向上、黒鉛化条件の適正化、黒鉛化を促進する触媒種の添加など、各種検討がなされている。なお、炭素材料を用いたリチウムイオン二次電池については、例えば以下の特許文献1〜8に開示されている。
【特許文献1】特開昭57−208079号公報
【特許文献2】特開昭58−93176号公報
【特許文献3】特開昭58−192266号公報
【特許文献4】特開昭62−90863号公報
【特許文献5】特開昭62−122066号公報
【特許文献6】特開平2−66856号公報
【特許文献7】特開2004−95529号公報
【特許文献8】特開2005−44775号公報
【0005】
ところで、炭素材料を含む負極活物質層を備えた負極は、一般に、黒鉛粒子、結着剤および増粘剤などを水や有機溶媒に溶解させたペースト状のスラリーを銅箔などの集電体に塗布して乾燥させたのち、圧縮成型や裁断などを行うことによって作製される。圧縮成型は負極活物質層における所定の厚みおよび密度を得るために必要な操作である。電池のさらなる高エネルギー密度化のためには負極活物質層の体積密度をより高めることが望まれる。しかし、負極活物質層の体積密度を高くすると、圧縮成型の際、負極活物質層を構成する負極活物質粒子の破砕や脱落が生ずるおそれがある。
【0006】
そこで、より高い圧縮破壊強度を有する(すなわち、硬度の高い)メソフェーズ黒鉛小球体を用いることで、プレス成形に伴う負極活物質粒子の破砕や脱落という問題を回避する方法が提案されている(例えば特許文献9参照。)。
【特許文献9】特開平7−272725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献9のように硬度の高いメソフェーズ黒鉛小球体を用いた場合には、圧縮成型の際、負極活物質粒子の破砕や脱落を防ぐことができる一方で、負極活物質層が形成される基体としての負極集電体に与える負荷が増大してしまう。このため、特に負極活物質層の端部近傍において負極集電体の亀裂や破断などが発生するおそれがあるのでプレス圧を高めることができず、結果として負極活物質層の体積密度を向上させることができない状況であった。
【0008】
一方、粒子硬度の小さい黒鉛粒子、例えば天然黒鉛や、鱗片状黒鉛、または鱗片状黒鉛を粉砕・増粒した黒鉛などを負極活物質として用いた場合には高密度充填が可能であり、電池のさらなる高エネルギー密度化に有利である。しかしながら、そのような粒子硬度の小さなものを高密度充填すると、圧縮成型の際、負極活物質層の(特に表面近傍の)空隙が減少してしまい、電解液が十分に浸透もしくは含浸できず、高負荷での充放電特性や低温での充電特性が低下する、といった問題が懸念される。さらに、鱗片状黒鉛およびそれを粉砕・造粒した黒鉛は、メソフェーズ黒鉛小球体に比べて比表面積が大きく、負極集電体と負極活物質層との間における剥離強度の低下や、電解液の分解による充放電効率の低下を引き起こす可能性がある。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、より大きな容量を有すると共に優れた充放電効率を有する電池を提供することにある。さらに、本発明の目的は、そのような電池に好適な負極活物質、ならびにそれを有する負極およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の負極活物質は、細孔が設けられたメソフェーズ小球体の球晶黒鉛化物を含むようにしたものである。ここでいう細孔とは、外表面と遮断されて球晶黒鉛化物の内部に存在する空洞、外表面と繋がる経路を1つ有する空洞(すなわち凹部)、および、ある領域の外表面から他の領域の外表面に繋がった貫通孔(外表面と繋がる経路を2つ以上有する空洞)を全て含む概念である。
【0011】
本発明の負極は、負極集電体に設けられた負極活物質層を有し、その負極活物質層が、上記本発明の負極活物質を含むようにしたものである。
【0012】
本発明の電池は、正極および上記本発明の負極と共に、電解質を備えるようにしたものである。
【0013】
本発明の負極活物質、負極および電池では、細孔が設けられたメソフェーズ小球体の球晶黒鉛化物を含むようにしたので、プレス成型された場合に、細孔が潰れることで負極集電体を損傷させない程度の硬度を発現すると共に電解液が十分に浸透可能な空間が確保されたものとなる。また、メソフェーズ小球体の球晶黒鉛化物は、天然黒鉛、鱗片状黒鉛またはそれらを粉砕・造粒した黒鉛などよりも比表面積が小さいので、剥離強度の向上や充放電効率の向上を図るうえで有利である。
【0014】
本発明の負極の製造方法は、負極集電体を用意したのち、この負極集電体に、細孔が設けられたメソフェーズ小球体の球晶黒鉛化物を含む負極活物質層を形成する工程と、その負極活物質層を、その体積密度が1.50g/cm3 以上2.26g/cm3 以下となるようにプレス成型する工程とを含むようにしたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の負極活物質によれば、細孔が設けられたメソフェーズ小球体の球晶黒鉛化物を含むようにしたので、硬度の増大を抑制しつつ、高いプレス圧で圧縮成型した場合であっても電解液が十分に浸透可能な程度の空間を確保することができる。
【0016】
また、本発明の負極によれば、上記本発明の負極活物質を含む負極活物質層を有するようにしたので、比較的容易に負極活物質層の体積密度を向上させることができ、放電容量を向上させることができる。その一方で、負極活物質層が適度な空隙を確保できるので、この負極が電解質と共に本発明の電池などの電気化学デバイスに用いられた場合には、その電解質が十分に負極活物質層に浸透し、優れた充放電特性を発揮することとなる。
【0017】
本発明の負極の製造方法によれば、負極集電体に損傷を与えることなく、高い体積密度と高い放電容量とを有する負極活物質層を容易に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
(第1の電池)
図1は本発明の実施の形態に係る二次電池の断面構造を表すものである。この電池は、例えば、負極の容量が電極反応物質であるリチウムの吸蔵および放出に基づく容量により表されるリチウムイオン二次電池である。
【0020】
この二次電池は、いわゆる円筒型といわれるものであり、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、帯状の正極21と負極22とがセパレータ23を介して巻回された巻回電極体20を有している。電池缶11は、例えばニッケル(Ni)のめっきがされた鉄(Fe)により構成されており、一端部が閉鎖され他端部が開放されている。電池缶11の内部には、巻回電極体20を挟むように巻回周面に対して垂直に一対の絶縁板12,13がそれぞれ配置されている。
【0021】
電池缶11の開放端部には、電池蓋14と、この電池蓋14の内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient;PTC素子)16とが、ガスケット17を介してかしめられることにより取り付けられており、電池缶11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料により構成されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されており、内部短絡あるいは外部からの加熱などにより電池の内圧が一定以上となった場合にディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、温度が上昇すると抵抗値の増大により電流を制限し、大電流による異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により構成されており、表面にはアスファルトが塗布されている。
【0022】
巻回電極体20の中心には例えばセンターピン24が挿入されている。巻回電極体20の正極21にはアルミニウム(Al)などよりなる正極リード25が接続されており、負極22にはニッケルなどよりなる負極リード26が接続されている。正極リード25は安全弁機構15に溶接されることにより電池蓋14と電気的に接続されており、負極リード26は電池缶11に溶接され電気的に接続されている。
【0023】
図2は図1に示した巻回電極体20の一部を拡大して表すものである。正極21は、例えば、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが設けられた構造を有している。なお、図示はしないが、正極集電体21Aの片面のみに正極活物質層21Bを設けるようにしてもよい。正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム,ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料により構成されており、その形状としては、例えば、箔状,網状あるいはラス状が挙げられる。
【0024】
正極活物質層21Bは、例えば、正極活物質として、電極反応物質であるリチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料の1種または2種以上を含んで構成されている。
【0025】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、リチウム酸化物、リチウム硫化物、リチウムを含む層間化合物あるいはリン酸化合物などのリチウム含有化合物が適当であり、これらの2種以上を混合して用いてもよい。中でも、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物、またはリチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物が好ましく、特に遷移金属元素として、コバルト(Co),ニッケル,マンガン(Mn),鉄,アルミニウム,バナジウム(V),およびチタン(Ti)のうちの少なくとも1種を含むものが好ましい。その化学式は、例えば、Lix MIO2 あるいはLiy MIIPO4 で表される。式中、MIおよびMIIは1種類以上の遷移金属元素を含む。xおよびyの値は電池の充放電状態によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
【0026】
リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物の具体例としては、リチウムコバルト複合酸化物(Lix CoO2 )、リチウムニッケル複合酸化物(Lix NiO2 )、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(Lix Ni1-z Coz 2 (z<1))、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Lix Ni(1-v-w) Cov Mnw 2 (v+w<1))、あるいはスピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2 4 )などが挙げられる。リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物の具体例としては、例えばリチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4 )あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1-u Mnu PO4 (u<1))が挙げられる。
【0027】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、また、他の金属化合物あるいは高分子材料も挙げられる。他の金属化合物としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムあるいは二酸化マンガンなどの酸化物、または硫化チタンあるいは硫化モリブデンなどの二硫化物が挙げられる。高分子材料としては、例えば、ポリアニリンあるいはポリチオフェンが挙げられる。
【0028】
正極活物質層21Bは、必要に応じて導電材あるいは結着材を含んでいてもよい。導電材としては、例えば、黒鉛,カーボンブラックあるいはケッチェンブラックなどの炭素材料が挙げられ、1種または2種以上が混合して用いられる。また、炭素材料の他にも、導電性を有する材料であれば金属材料あるいは導電性高分子材料などを用いるようにしてもよい。結着材としては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム,フッ素系ゴムあるいはエチレンプロピレンジエンゴムなどの合成ゴム、またはポリフッ化ビニリデンなどの高分子材料が挙げられ、1種または2種以上が混合して用いられる。
【0029】
負極22は、例えば、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが設けられた構成を有している。なお、図示はしないが、負極集電体22Aの片面のみに負極活物質層22Bを設けるようにしてもよい。負極集電体22Aは、良好な電気化学的安定性、電気伝導性および機械的強度を有する金属材料により構成されていることが望ましい。この金属材料としては、例えば、銅,ニッケルあるいはステンレス鋼などが挙げられ、特に電気伝導性に優れる銅がより好ましい。また、負極集電体22Aの形状としては、例えば、箔状,網状あるいはラス状が挙げられる。
【0030】
負極活物質層22Bは、1.50g/cm3 以上2.26g/cm3 以下の体積密度であるとよい。負極活物質層22Bの厚さとこれを構成する材料の組成比が一定の場合、負極活物質層22Bの体積密度を高くすることにより、負極活物質の充填量を多くすることができ、容量を高くすることができるからである。また、負極活物質層22Bの内部における空隙が適度に減少することにより、後述するメソフェーズ小球体の球晶黒鉛化物(以下、メソフェーズ黒鉛小球体という。)同士の接触性が向上し、電子伝導性を向上させ、負荷特性を向上させることもできる。但し、負極活物質層22Bの体積密度を高くしすぎると空隙が減少して電解液の浸透性が低下してしまうので、リチウムの拡散経路を確保し充放電特性の低下を抑制するためには2.26g/cm3 以下とすることが望ましい。
【0031】
負極活物質層22Bは、例えば、負極活物質として、電極反応物質であるリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料を含んで構成されており、必要に応じて、例えば正極活物質層21Bと同様の導電材および結着材を含んでいてもよい。
【0032】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料は、内部に細孔が設けられたメソフェーズ黒鉛小球体からなるものである。このメソフェーズ黒鉛小球体は、内部に細孔を有することで全表面積に対する外表面積の割合が例えば10%以上50%以下となっている。このようなメソフェーズ黒鉛小球体は、細孔を持たない従来のメソフェーズ黒鉛小球体と比べて小さな圧縮破壊強度を有する。すなわち、このメソフェーズ黒鉛小球体は、細孔を持たない従来のメソフェーズ黒鉛小球体と比べて小さなプレス圧で好ましい体積密度(1.50g/cm3 以上2.26g/cm3 以下)となるように圧縮成型可能なものである。特に、全表面積に対する外表面積の割合が15%以上27%以下であるメソフェーズ黒鉛小球体は、よりいっそう小さなプレス圧で上記の好ましい体積密度となるように圧縮成型することが可能である。したがって、負極活物質層22Bは、負極活物質として上記のメソフェーズ黒鉛小球体を含むことから、リチウムの拡散経路となる適度な空隙を有すると共に高い容量を有するものとなっている。
【0033】
メソフェーズ黒鉛小球体の全表面積および外表面積は、窒素吸着測定と共にαsプロット解析を行うことにより決定される。窒素吸着測定は、一般的に知られているように、温度77Kで測定対象試料に窒素を吸着および脱着する過程において、測定対象試料の細孔のサイズおよび構造を反映した吸着等温線と脱着等温線とを得るものである。なお、IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)により、測定対象試料の細孔の種類は、そのサイズ(径の大きさ)の違いによってミクロ孔(径が2nm以下のもの)、メソ孔(径が2nm以上50nm以下のもの)およびマクロ孔(50nm以上のもの)に分類されている。
【0034】
窒素吸着測定により得られた吸着等温線を下記の参考文献1および参考文献2に示すようなαsプロット解析を用いて、測定対象試料であるメソフェーズ黒鉛小球体の全表面積および外表面積を精度良く決定することができる。
【0035】
(参考文献1)炭素材料学会編,“最新の炭素材料実験技術(物性・材料評価編)”,サイペック社,pp.1-7(2003)。
【0036】
(参考文献2)P.J.M.Carrott,R.A.Roberts,K.S.W.Sing,“Adsorption of nitrogen by porous and non-porous carbons”,Carbon,25,(1987) 59-68。
【0037】
このαsプロット解析により決定される全表面積は、メソフェーズ黒鉛小球体における内部の細孔表面と外表面積との総和を表す。αsプロット解析により決定される外表面積は、上記全表面積からミクロ孔の表面積を除外した表面積を示す。すなわち、メソフェーズ黒鉛小球体におけるメソ孔の表面積とマクロ孔の表面積と平坦面の表面積との総和を示す。但し、メソフェーズ黒鉛小球体の場合、平坦面の表面積は、メソ孔やマクロ孔の表面積と比べて極めて小さく、無視できる程度である。
【0038】
上記の全表面積に対する外表面積の割合を決定することで、メソフェーズ黒鉛小球体における、全表面積に対するミクロ孔以外の細孔(メソ孔およびマクロ孔)の表面積の割合を表すことができる。
【0039】
また、メソフェーズ黒鉛小球体は、窒素吸着測定に基づきBET法によって決定される比表面積が0.1m2 /g以上5m2 /g以下であることが望ましく、0.3m2 /g以上2.0m2 /g以下であることが特に望ましい。比表面積が5.0m2 /g以下であれば、充放電時においてもメソフェーズ黒鉛小球体が、その表面に付着した結着材を介して負極集電体22Aに安定して保持され、放電容量などの電池特性が良好に発揮される。また、比表面積が0.1m2 /g以上であれば、リチウムのメソフェーズ黒鉛小球体への層間挿入反応性が低下することなく、良好な電池特性が得られる。
【0040】
また、メソフェーズ黒鉛小球体は、上記した所定範囲の比表面積を確保するため、レーザ回折式粒度分布計による中位径(D50)が5μm以上50μm以下であることが望ましい。特に10μm以上35μm以下の中位径(D50)であると、上記した所定範囲の比表面積をより得やすくなるので好ましい。
【0041】
また、メソフェーズ黒鉛小球体は、X線広角回折法により算出されるC軸方向の格子面間隔d002 が0.3354nm以上0.3370nm以下(特に0.3354nm以上0.3360nm以下)であり、かつ、C軸方向の結晶子の大きさLcが80nm以上(特に100nm以上)のものであることが望ましい。この格子面間隔d002 およびC軸方向の結晶子の大きさLcは、例えば、メソフェーズ黒鉛小球体に対して約20質量%の高純度シリコン粉末を加えて混合したものを試料セルに詰め、所定のX線回折装置(例えば株式会社リガク社製RIN2000X線回折装置)を用いて、グラファイトモノクロメーターで単色化したCuKα線を線源とした反射式ディフラクトメーター法によって回折線を求め、その回折線から学振法に基づき決定される。
【0042】
さらにメソフェーズ黒鉛小球体は、アルゴンイオンレーザ光を用いたラマンスペクトルが以下の条件式(1)を満たすものである。但し、Aは1570cm-1 以上1620cm-1 以下の範囲に現れるピークの強度であり、Bは1350cm-1 以上1370cm-1 以下の範囲に現れるピークの強度である。
0.05≦B/A≦0.2 ……(1)
【0043】
このラマンスペクトルは、メソフェーズ黒鉛小球体をガラス製のセル上に乗せ、波長λ=514.5nmのアルゴンイオンレーザ光を用いてラマン分光装置(例えばRENISHAW Ramanscope)によって測定される。
【0044】
メソフェーズ黒鉛小球体が上記のような構成であれば、高い体積密度および良好な充放電特性をより実現し易くなるからである。
【0045】
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどよりなる合成樹脂製の多孔質膜、またはセラミック製の不織布などの無機材料よりなる多孔質膜により構成されており、これらの2種以上の多孔質膜を積層した構造とされていてもよい。中でも、ポリオレフィン製の多孔質膜は短絡防止効果に優れ、かつシャットダウン効果による電池の安全性向上を図ることができるので好ましい。特に、ポリエチレンは、100℃以上160℃以下の範囲内においてシャットダウン効果を得ることができ、かつ電気化学的安定性にも優れているので、セパレータ23を構成する材料として好ましい。また、ポリプロピレンも好ましく、他にも、化学的安定性を備えた樹脂であればそれらをポリエチレンあるいはポリプロピレンと共重合させたり、またはブレンド化したりすることで用いることができる。
【0046】
セパレータ23の厚みは、10μm以上50μm以下の範囲内であることが好ましい。10μm未満となるとショートが発生することがあり、50μmを超えるとイオン透過性の低下および電池の体積効率の低下が生じるためである。
【0047】
また、セパレータ23の開口率は、30%以上70%以下の範囲内であることが好ましい。開口率が30%未満となるとイオン透過性が低下し、70%を超えると強度が低下して絶縁機能が損なわれ、ショートが発生することがあるからである。
【0048】
セパレータ23には、電解液が含浸されている。電解液は、例えば、溶媒と、この溶媒に溶解された電解質塩とを含んでいる。
【0049】
溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ビニレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルフォルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、ジメチルスルフォキシド、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、エチレンスルフィト、あるいはビストリフルオロメチルスルホニルイミドトリメチルヘキシルアンモニウムなどの常温溶融塩が挙げられる。中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ビニレン、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルあるいはエチレンスルフィトは、優れた充放電容量特性および充放電サイクル特性を得ることができるので好ましい。溶媒には、いずれか1種を単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0050】
電解質塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(Li(C2 5 SO2 2 N)、過塩素酸リチウム(LiClO4 )、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiSO3 CF3 )、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(Li(CF3 SO2 2 N)、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチルリチウム(LiC(SO2 CF3 3 )、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C6 5 4 )、メタンスルホン酸リチウム(LiCH3 SO3 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(SO2 CF3 2 )、四塩化アルミン酸リチウム(LiAlCl4 )、六フッ化ケイ酸リチウム(LiSiF6 )、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiBF2 (O))、あるいはリチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)が挙げられる。なかでも、LiPF6は、高いイオン伝導性を得ることができるとともに、サイクル特性を向上できるので好ましい。電解質塩として、上記のうちの1種を単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。この電解質塩は、上記の溶媒に0.1mol/dm3 以上3.0mol/dm3 以下、好ましくは0.5mol/dm3 以上1.5mol/dm3 以下の濃度で溶解される。
【0051】
この二次電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0052】
まず、正極活物質と、導電材と、結着材とを混合して正極合剤を調製し、この正極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、この正極合剤スラリーを正極集電体21Aに塗布し溶剤を乾燥させたのち、ロールプレス機などにより圧縮成型して正極活物質層21Bを形成し、正極21を作製する。また、正極活物質層21Bは、正極合剤を正極集電体21Aに張り付けることにより形成してもよい。
【0053】
また、上述した黒鉛粒子と、結着材とを混合して負極合剤を調製し、この負極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させてペースト状の負極合剤スラリーとする。続いて、この負極合剤スラリーを負極集電体22Aに塗布し溶剤を乾燥させたのち、ロールプレス機などにより1.50g/cm3 以上2.26g/cm3 以下の体積密度となるように圧縮成型して負極活物質層22Bを形成し、負極22を作製する。
【0054】
次いで、正極集電体21Aに正極リード25を溶接などにより取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード26を溶接などにより取り付ける。そののち、正極21と負極22とをセパレータ23を介して巻回し、正極リード25の先端部を安全弁機構15に溶接すると共に、負極リード26の先端部を電池缶11に溶接して、巻回した正極21および負極22を一対の絶縁板12,13で挟み電池缶11の内部に収納する。正極21および負極22を電池缶11の内部に収納したのち、電解液を電池缶11の内部に注入し、セパレータ23に含浸させる。そののち、電池缶11の開口端部に電池蓋14,安全弁機構15および熱感抵抗素子16をガスケット17を介してかしめることにより固定する。これにより、図1に示した二次電池が完成する。
【0055】
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極活物質層21Bからリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極活物質層22Bに吸蔵される。また、放電を行うと、例えば、負極活物質層22Bからリチウムイオンが放出され、電解液を介して正極活物質層21Bに吸蔵される。
【0056】
本実施の形態では、負極活物質層22Bにおける負極活物質が、細孔を有するメソフェーズ黒鉛小球体を含み、その圧縮破壊強度を低減するようにしたので、圧縮成型により体積密度を高め、電池に収容される活物質の総量を増加させることで容量の向上を図ることができる。その際、より低いプレス圧であっても負極活物質層22Bの体積密度を高めることができるので、負極22の作製段階において、負極集電体22Aに過度な応力を付与することがなく、メソフェーズ黒鉛小球体を応力発生の起点とした凹み、亀裂、開口あるいは破断を発生させるおそれがない。ここで、メソフェーズ黒鉛小球体における全表面積に対する外表面積の割合が10%未満であると、破壊圧縮強度が十分に低減されず、負極集電体22Aにおける凹み、亀裂、開口あるいは破断を発生させるおそれが生じるが、本実施の形態では上記の割合が10%以上であるので、そのようなおそれはない。
【0057】
また、本実施の形態では、圧縮成型によって体積密度を高めた場合においても負極活物質層22Bには適度な空隙が形成されるので、その内部においてリチウムの拡散経路を十分に確保することができ、優れた充放電特性を得ることができる。また、充放電特性は、第1および第2の黒鉛粒子の接触性向上により電子伝導性が向上することによっても改善される。ここで、メソフェーズ黒鉛小球体における全表面積に対する外表面積の割合が50%を超えると、メソ孔やマクロ孔に由来する表面積が極めて大きくなり、メソフェーズ黒鉛小球体自体の破壊および変形の開始点が過剰に存在することとなるため、その圧縮破壊強度が極端に低くなってしまう。その結果、プレス成型の際、負極活物質層22Bにかかるプレス圧力が不均一になりやすく、その表層近傍が潰れてしまいリチウムの拡散経路を十分に確保することが困難となる。しかしながら、本実施の形態では上記の割合が50%以下であるので、そのようなおそれはない。
【0058】
(第2の電池)
図3は、第2の電池の分解斜視構成を表している。この電池は、正極リード31および負極リード32が取り付けられた巻回電極体30をフィルム状の外装部材40の内部に収容したものである。このフィルム状の外装部材40を用いた電池構造は、いわゆるラミネートフィルム型と呼ばれている。
【0059】
正極リード31および負極リード32は、例えば、それぞれ外装部材40の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード31は、例えば、アルミニウムなどの金属材料により構成されている。また、負極リード32は、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料により構成されている。正極リード31および負極リード32を構成するそれぞれの金属材料は、薄板状または網目状とされている。
【0060】
外装部材40は、例えば、ナイロンフィルム、アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムがこの順に貼り合わされた矩形状のアルミラミネートフィルムにより構成されている。この外装部材40では、例えば、ポリエチレンフィルムが巻回電極体30と対向していると共に、各外縁部が融着あるいは接着剤により互いに密着されている。外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム41が挿入されている。この密着フィルム41は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂により構成されている。
【0061】
なお、外装部材40は、上記した3層構造のアルミラミネートフィルムに代えて、他の構造を有するラミネートフィルムにより構成されていてもよいし、またはポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムにより構成されていてもよい。
【0062】
図4は、図3に示した巻回電極体30のIV−IV線に沿った断面構成を表している。この電極巻回体30は、正極33および負極34がセパレータ35および電解質36を介して積層されたのちに巻回されたものであり、その最外周部は保護テープ37により保護されている。なお、図4では、電極巻回体30を簡素化して示しているが、実際には、電極巻回体30は扁平型(楕円型)の断面を有している。
【0063】
図5は、図4に示した巻回電極体30の一部を拡大して表している。正極33は、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bが設けられたものである。負極34は、例えば、図1に示した負極と同様の構成を有しており、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bが設けられたものである。正極集電体33A、正極活物質層33B、負極集電体34A、負極活物質層34Bおよびセパレータ35の構成は、それぞれ上記した第1の電池における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22Bおよびセパレータ23の構成と同様である。
【0064】
電解質36は、電解液と、それを保持する高分子化合物とを含んでおり、いわゆるゲル状になっている。ゲル状の電解質は、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)を得ることができると共に電池の漏液を防止することができるので好ましい。
【0065】
高分子化合物としては、例えば、ポリエチレンオキサイドあるいはポリエチレンオキサイドを含む架橋体などのエーテル系高分子化合物や、ポリメタクリレートなどのエステル系高分子化合物あるいはアクリレート系高分子化合物や、ポリフッ化ビニリデンあるいはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体などのフッ化ビニリデンの重合体などが挙げられる。これらは、単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。特に、酸化還元安定性の点から、フッ化ビニリデンの重合体などのフッ素系高分子化合物などを用いるのが好ましい。電解液中における高分子化合物の添加量は、両者の相溶性によっても異なるが、一例としては5質量%以上50質量%以下の範囲であるのが好ましい。また、このような高分子化合物は、例えば数平均分子量が5.0×10〜7.0×10の範囲であるか、または重量平均分子量が2.1×10〜3.1×10の範囲であり、固有粘度が0.17(dm3 /g)〜0.21(dm3 /g)の範囲であることが望ましい。
【0066】
電解液の構成は、上記した第1の電池における電解液の構成と同様である。ただし、この場合の溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有するものまで含む広い概念である。したがって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
【0067】
なお、電解液を高分子化合物に保持させた電解質36に代えて、電解液をそのまま用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ35に含浸される。
【0068】
この二次電池は、例えば、以下の3種類の製造方法によって製造することができる。
【0069】
第1の製造方法では、まず、第1の電池の製造方法と同様の手順によって正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを形成することにより、正極33を作製する。また、第1の電池の製造方法と同様の手順によって負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bを形成することにより、負極34を作製する。
【0070】
続いて、電解液と、高分子化合物と、溶剤とを含む前駆溶液を調製し、正極33および負極34に塗布したのちに溶剤を揮発させることにより、ゲル状の電解質36を形成する。続いて、正極集電体33Aおよび負極集電体34Aにそれぞれ正極リード31および負極リード32を取り付ける。続いて、電解質36が設けられた正極33および負極34をセパレータ35を介して積層させたのちに長手方向に巻回し、その最外周部に保護テープ37を接着させることにより、巻回電極体30を形成する。続いて、例えば、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込んだのち、その外装部材40の外縁部同士を熱融着などで接着させることにより巻回電極体30を封入する。その際、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間に、密着フィルム41を挿入する。これにより、図3〜図5に示した二次電池が完成する。
【0071】
第2の製造方法では、まず、正極33および負極34にそれぞれ正極リード31および負極リード32を取り付けたのち、正極33および負極34をセパレータ35を介して積層して巻回させると共に最外周部に保護テープ37を接着させることにより、巻回電極体30の前駆体である巻回体を形成する。続いて、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を熱融着などで接着させることにより袋状の外装部材40の内部に収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製し、袋状の外装部材40の内部に注入したのち、外装部材40の開口部を熱融着などで密封する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とすることにより、ゲル状の電解質36を形成する。これにより、二次電池が完成する。
【0072】
第3の製造方法では、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ35を用いることを除き、上記した第1の製造方法と同様に、巻回体を形成して袋状の外装部材40の内部に収納する。このセパレータ35に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体、すなわち単独重合体、共重合体あるいは多元共重合体などが挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデンや、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体や、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体などである。なお、高分子化合物は、上記したフッ化ビニリデンを成分とする重合体と共に、他の1種あるいは2種以上の高分子化合物を含んでいてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材40の内部に注入したのち、その外装部材40の開口部を熱融着などで密封する。最後に、外装部材40に加重をかけながら加熱し、高分子化合物を介してセパレータ35を正極33および負極34に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸し、その高分子化合物がゲル化して電解質36が形成されるため、二次電池が完成する。この第3の製造方法では、第1の製造方法と比較して、膨れ特性が改善される。また、第3の製造方法では、第2の製造方法と比較して、高分子化合物の原料であるモノマーや溶媒などが電解質36中にほとんど残らず、しかも高分子化合物の形成工程が良好に制御されるため、正極33、負極34およびセパレータ35と電解質36との間において十分な密着性が得られる。
【0073】
この二次電池では、上記した第1の電池と同様に、正極33と負極34との間でリチウムイオンが吸蔵および放出される。すなわち、充電を行うと、例えば、正極33からリチウムイオンが放出され、電解質36を介して負極34に吸蔵される。一方、放電を行うと、負極34からリチウムイオンが放出され、電解質36を介して正極33に吸蔵される。
【0074】
この二次電池およびその製造方法による作用および効果は、上記した第1の電池と同様である。
【0075】
(第3の電池)
図6は、第3の電池の分解斜視構成を表している。この電池は、正極51を外装缶54に貼り付けると共に負極52を外装カップ55に収容し、それらを電解液が含浸されたセパレータ53を介して積層したのちにガスケット56を介してかしめたものである。この外装缶54および外装カップ55を用いた電池構造は、いわゆるコイン型と呼ばれている。
【0076】
正極51は、正極集電体51Aの一面に正極活物質層51Bが設けられたものである。負極52は、正極集電体52Aの一面に負極活物質層52Bおよび被膜52Cが設けられたものである。正極集電体51A、正極活物質層51B、負極集電体52A、負極活物質層52Bおよびセパレータ53の構成は、それぞれ上記した第1の電池における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22Bおよびセパレータ23の構成と同様である。
【0077】
この二次電池では、上記した第1の電池の同様に、正極51と負極52との間でリチウムイオンが吸蔵および放出される。すなわち、充電を行うと、例えば、正極51からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極52に吸蔵される。一方、放電を行うと、負極52からリチウムイオンが放出され、電解液を介して正極51に吸蔵される。
【0078】
このコイン型の二次電池およびその製造方法による作用および効果は、上記した第1の電池と同様である。
【実施例】
【0079】
本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。
【0080】
(実施例1)
はじめに、窒素吸着測定による吸着等温線のαsプロット解析によって求められる全表面積に対する外表面積の割合が16%であり、レーザ回折式粒度分布計による中位径(D50 )が30μmであり、窒素吸着測定に基づきBET法によって決定される比表面積が1.6m2 /gであるメソフェーズ黒鉛小球体を用意した。なお、窒素吸着測定については全自動ガス吸着装置(Beckman Coulter社製のOMNISORP 100CX)により行い、77Kにおけるメソフェーズ黒鉛小球体の吸着等温線を得た。
【0081】
次に、活物質として上記のメソフェーズ黒鉛小球体を含む電極を作製した。具体的には、まず、上記のメソフェーズ黒鉛小球体を90質量部と、結着材としてのポリフッ化ビニリデン10質量部とを混合し、溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に分散させて合剤スラリーとした。次いで、この合剤スラリーを厚さ12μmの銅箔よりなる集電体に均一に塗布して乾燥させ、体積密度が1.80g/cm3 となるように圧縮成型して活物質層を形成した。こののち、集電体に活物質層を設けたものを直径16mmのペレットとなるように打ち抜くことで電極を得た。なお、集電体の面積に対する活物質層の面積密度は、12mg/cm2 とした。
【0082】
次に、この電極を使用して、図7に示した構造を有するコイン型のテストセル(直径20mm、厚さ1.6mm)を作製した。このテストセルは、上記の電極を直径16mmのペレットとなるように打ち抜いたものを試験極61として用い、これを外装缶62に収容すると共に、対極63を外装カップ64に貼り付け、それらを電解液が含浸されたセパレータ65を挟むように積層したのちガスケット66を介してかしめたものである。すなわち試験極61は、銅箔よりなる集電体61Aに、上記のメソフェーズ黒鉛小球体を活物質として含む活物質層61Bが設けられたものであり、活物質層61Bがセパレータ65を挟んで対極63と対向するように配置されている。ここでは対極63としてリチウム金属を用い、セパレータ65としてポリエチレン製の多孔質膜を用い、電解液として、炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)とを1:1の体積比で混合した混合溶媒と、電解質塩としてのLiPF6 とを含むものを用いた。電解液中における六フッ化リン酸リチウムの濃度は1mol/dm3 とした。
【0083】
(実施例2〜5)
メソフェーズ黒鉛小球体における全表面積に対する外表面積の割合、中位径D50、および比表面積を後出の表1に示したようにそれぞれ変化させたことを除き、他は実施例1と同様にしてテストセル(図7)を作製した。
【0084】
さらに、実施例1〜5に対する比較例1〜5として、メソフェーズ黒鉛小球体における全表面積に対する外表面積の割合、中位径D50、および比表面積を後出の表1に示したようにそれぞれ変化させたことを除き、他は実施例1と同様にしてテストセル(図7)を作製した。
【0085】
上記のように作製した実施例1〜5および比較例1〜5の各テストセルについて、相対プレス圧力、放電容量、放電容量維持率および電極の集電体へのダメージの評価をおこなった。その結果を表1にまとめて示す。
【0086】
相対プレス圧力は、各実施例および比較例の電極について、体積密度が1.80g/cm3 となるように活物質層を圧縮成型した場合に要したプレス圧力を測定し、比較例1でのプレス圧力を基準として規格化したものである。
【0087】
放電容量については以下の要領で求めた。まず、各テストセルについて、0.1Cの定電流で平衡電位がリチウムに対し5mVに達するまで定電流充電したのち、さらに、定電流充電を開始してからの総時間が20時間に達するまで5mVの定電圧で定電圧充電を行った。そののち、平衡電位がリチウムに対し1.5Vに達するまで0.1Cの定電流で放電させ、その時の放電容量(mAh/g)を測定した。なお、0.1Cとは、理論容量を10時間で放出しきる電流値である。このようにして算出された放電容量は、平衡電位を基準としているので、試験極61の活物質層を構成する材料固有の特性を反映したものとなっている。
さらに、充放電サイクルの進行に伴う放電容量維持率を以下の要領で求めた。上記した充電条件および放電条件にしたがって各テストセルの充放電を繰り返して行い、1サイクル目の放電容量と、50サイクル目の放電容量とをそれぞれ測定し、放電容量維持率(%)=(50サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100を算出した。
【0088】
電極の集電体へのダメージの評価は、一旦、活物質層が形成された電極を有機溶剤に浸漬および洗浄することで活物質層を集電体から剥離させ、乾燥させたのち、集電体を光学顕微鏡で100倍にして目視で観察することにより実施した。目視観察は、電極表面上の5mm×5mm四方の領域を任意に3箇所選び、プレス成型の際の圧迫により集電体上に生成されたメソフェーズ黒鉛小球体に起因する凹み数を集計した。この凹みとは、球形状であるメソフェーズ黒鉛小球体によって集電体の表面が圧迫されることにより集電体表面に生成した円形あるいは楕円形の凹みのうち、最も小さい部分の寸法が3〜70μmの範囲にあるものを集計した。また、凹みが同一箇所に2つ以上重なって観察された場合は、目視で分離を行い、凹みの重なり数を決定し集計を行った。表1には、比較例1での凹みの数を基準値100として、他の実施例および比較例の凹みの数を規格化して表示した。
【0089】
【表1】

【0090】
表1に示したように、実施例1〜5では、全表面積に対する外表面積の割合が10%以上50%以下、比表面積が0.1m2 /g以上5m2 /g以下、かつ中位径(D50)が5μm以上50μm以下であるメソフェーズ黒鉛小球体を活物質として用いたので、全表面積に対する外表面積の割合が10%未満のメソフェーズ黒鉛小球体を活物質として用いた比較例1〜3の相対プレス圧力(0.91〜1)よりも低い値(0.49〜0.86)となり、プレス特性が改善されていることがわかった。このため、実施例1〜5では、集電体の凹みの数が比較例1〜3よりも大幅に低減された。また、実施例1〜5では、放電容量が349mAh/g以上356mAh/g以下、かつ、放電容量維持率が92.4%以上92.9%以下となり、比較例1〜3とほぼ同等の放電容量および放電容量維持率を維持していることがわかった。
【0091】
さらに、実施例1〜5は、全表面積に対する外表面積の割合が50%を超えるメソフェーズ黒鉛小球体を活物質として用いた比較例4,5と比べると相対プレス圧力が高い値となったが、放電容量および放電容量維持率を大幅に増加することができた。
【0092】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は実施の形態および実施例に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態および実施例では、電極反応物質としてリチウムを用いる電池について説明したが、ナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などの他のアルカリ金属、またはマグネシウムあるいはカルシウム(Ca)などのアルカリ土類金属、またはアルミニウムなどの他の軽金属を用いる場合についても、本発明を適用することができる。その際、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質などは、その電極反応物質に応じて選択される。
【0093】
また、上記実施の形態および実施例では、円筒型および扁平型(楕円型)の巻回構造を有する電池素子を備えた電池やコイン型の電池について具体的に挙げて説明したが、本発明は、多角形型の巻回構造を有する電池素子を備えた電池、または、正極および負極を折り畳んだ構造、あるいは複数積層した構造など他の構造を有する電池素子を備えた電池についても同様に適用することができる。加えて、本発明は、角型などの他の外装形状を有する電池についても同様に適用することができる。
【0094】
また、上記実施の形態および実施例では、電解質として電解液を用いる場合および電解液を高分子化合物に保持させたゲル状電解質を用いる場合について説明したが、他の電解質を混合して用いるようにしてもよい。他の電解質としては、例えば、イオン伝導性を有する高分子化合物に電解質塩を溶解または分散させた有機固体電解質、イオン伝導性セラミックス,イオン伝導性ガラスあるいはイオン性結晶などのイオン伝導性無機化合物を含む無機固体電解質が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の実施の形態に係る第1の電池の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した第1の電池における巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る第2の電池の構成を表す分解斜視図である。
【図4】図3に示した巻回電極体のIV−IV線に沿った矢視方向の構成を表す断面図である。
【図5】図4に示した巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る第3の電池の構成を表す断面図である。
【図7】本発明の実施例で使用したテストセルの構成を表す断面図である。
【符号の説明】
【0096】
22A,34A,52A…負極集電体、22B,34B,52B…負極活物質層、11…電池缶、12,13…絶縁板、14…電池蓋、15…安全弁機構、15A…ディスク板、16…熱感抵抗素子、17,56…ガスケット、20,30…巻回電極体、21,33,51…正極、21A,33A,51A…正極集電体、21B,33B,51B…正極活物質層、22,34,52…負極、23,35,53…セパレータ、24…センターピン、25,31…正極リード、26,32…負極リード、36…電解質、37…保護テープ、40…外装部材、41…密着フィルム、54…外装缶、55…外装カップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔が設けられたメソフェーズ小球体の球晶黒鉛化物を含むことを特徴とする負極活物質。
【請求項2】
前記メソフェーズ小球体の球晶黒鉛化物は、全表面積に対する外表面積の割合が10%以上50%以下のものである
ことを特徴とする請求項1記載の負極活物質。
【請求項3】
前記メソフェーズ小球体の球晶黒鉛化物は、窒素吸着測定に基づきBET法によって決定される比表面積が0.1m2 /g以上5m2 /g以下のものである
ことを特徴とする請求項1記載の負極活物質。
【請求項4】
前記メソフェーズ小球体の球晶黒鉛化物は、レーザ回折式粒度分布計による中位径(D50)が5μm以上50μm以下のものである
ことを特徴とする請求項1記載の負極活物質。
【請求項5】
前記メソフェーズ小球体の球晶黒鉛化物は、X線広角回折法により算出されるC軸方向の格子面間隔d002 が0.3354nm以上0.3370nm以下であり、かつ、C軸方向の結晶子の大きさが80nm以上のものである
ことを特徴とする請求項1記載の負極活物質。
【請求項6】
前記メソフェーズ小球体の球晶黒鉛化物は、アルゴンイオンレーザ光を用いたラマンスペクトルが以下の条件式(1)を満たすものである
ことを特徴とする請求項1記載の負極活物質。
0.05≦B/A≦0.2 ……(1)
但し、
A:1570cm-1 以上1620cm-1 以下の範囲に現れるピークの強度
B:1350cm-1 以上1370cm-1 以下の範囲に現れるピークの強度
【請求項7】
負極集電体に設けられた負極活物質層を有し、
前記負極活物質層は、細孔が設けられたメソフェーズ小球体の球晶黒鉛化物を負極活物質として含む
ことを特徴とする負極。
【請求項8】
前記メソフェーズ小球体の球晶黒鉛化物は、全表面積に対する外表面積の割合が10%以上50%以下のものである
ことを特徴とする請求項7記載の負極。
【請求項9】
前記メソフェーズ小球体の球晶黒鉛化物は、窒素吸着測定に基づきBET法によって決定される比表面積が0.1m2 /g以上5m2 /g以下のものである
ことを特徴とする請求項7記載の負極。
【請求項10】
前記メソフェーズ小球体の球晶黒鉛化物は、レーザ回折式粒度分布計による中位径(D50)が5μm以上50μm以下のものである
ことを特徴とする請求項7記載の負極。
【請求項11】
前記メソフェーズ小球体の球晶黒鉛化物は、X線広角回折法により算出されるC軸方向の格子面間隔d002 が0.3354nm以上0.3370nm以下であり、かつ、C軸方向の結晶子の大きさが80nm以上のものである
ことを特徴とする請求項7記載の負極。
【請求項12】
前記メソフェーズ小球体の球晶黒鉛化物は、アルゴンイオンレーザ光を用いたラマンスペクトルが以下の条件式(2)を満たすものである
ことを特徴とする請求項7記載の負極。
0.05≦B/A≦0.2 ……(2)
但し、
A:1570cm-1 以上1620cm-1 以下の範囲に現れるピークの強度
B:1350cm-1 以上1370cm-1 以下の範囲に現れるピークの強度
【請求項13】
前記負極活物質層の体積密度が1.50g/cm3 以上2.26g/cm3 以下であることを特徴とする請求項7記載の負極。
【請求項14】
正極および負極と共に電解質を備えた電池であって、
前記負極は、負極集電体に設けられた負極活物質層を有し、
前記負極活物質層は、細孔が設けられたメソフェーズ小球体の球晶黒鉛化物を負極活物質として含む
ことを特徴とする電池。
【請求項15】
負極集電体を用意したのち、この負極集電体に、細孔が設けられたメソフェーズ小球体の球晶黒鉛化物を含む負極活物質層を形成する工程と、
前記負極活物質層を、その体積密度が1.50g/cm3 以上2.26g/cm3 以下となるようにプレス成型する工程と
を含むことを特徴とする負極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−170109(P2009−170109A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3541(P2008−3541)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】