説明

負極活物質および二次電池

【課題】高容量で、サイクル特性に優れた二次電池、およびそれに用いられる負極活物質を提供する。
【解決手段】負極22は、リチウムと反応可能な負極活物質を含んでいる。この負極活物質は、構成元素として、ケイ素と、ホウ素と、炭素と、コバルト、チタンおよび鉄のうちの少なくとも1種の金属元素とを含んでいる。ホウ素の含有量は4.9質量%以上19.8質量%以下、炭素の含有量は4.9質量%以上19.8質量%以下、ホウ素と炭素との含有量の合計は9.8質量%以上29.8質量%以下、ケイ素と金属元素との含有量の合計に対するケイ素の含有量の割合は70質量%以上95質量%以下である。また、負極活物質は、リチウムと反応可能であり、X線回折により得られる回折ピークの半値幅が1°以上である反応相を有する。これにより、高い容量を維持しつつ、サイクル特性が改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構成元素としてケイ素を含む負極活物質およびそれを用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビデオカメラ、携帯電話あるいはノートパソコンなどのポータブル電子機器が多く登場し、その小型軽量化が図られている。これらの電子機器のポータブル電源として用いられている電池、特に二次電池はキーデバイスとして重要であるため、そのエネルギー密度の向上を図る研究開発が活発に進められている。中でも、非水電解質二次電池(例えば、リチウムイオン二次電池)は、従来の水系電解液二次電池である鉛電池やニッケルカドミウム電池と比較して大きなエネルギー密度が得られるため、その改良に関する検討が各方面で行われている。
【0003】
リチウムイオン二次電池では、負極活物質として、比較的高容量を示すと共に良好なサイクル特性を有する難黒鉛化性炭素あるいは黒鉛などの炭素材料が広く用いられている。ただし、近年の高容量化の要求を考えると、炭素材料の更なる高容量化が課題となっている。
【0004】
このような背景から、炭素化原料と作製条件とを選ぶことにより、炭素材料で高容量を達成する技術が開発されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、かかる炭素材料を用いた場合には、負極放電電位が対リチウムで0.8V〜1.0Vであり、電池を構成したときの電池放電電圧が低くなることから、電池エネルギー密度の点では大きな向上が見込めない。さらには、充放電曲線形状にヒステリシスが大きく、各充放電サイクルでのエネルギー効率が低いという欠点もある。
【0005】
一方で、炭素材料を上回る高容量負極として、ある種の金属がリチウムと電気化学的に合金化し、それが可逆的に生成・分解することを応用した合金材料に関する研究も進められている。例えば、Li−Al合金あるいはSn合金を用いた高容量負極が開発され、さらには、Si合金からなる高容量負極が開発されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、Li−Al合金、Sn合金あるいはSi合金は、充放電に伴って膨張収縮し、充放電を繰り返すたびに負極が微粉化するので、サイクル特性が極めて悪いという大きな問題がある。
【0007】
そこで、サイクル特性を改善する手法として、スズやケイ素を合金化することにより膨張を抑制することが検討されており、例えば、鉄とスズとを合金化することが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。また、Mg2 Siなども提案されている(例えば、非特許文献2参照)。さらに、Sn/(Sn+A+V)比が20原子%〜80原子%であるSn・A・X(Aは遷移金属の少なくとも1種,Xは炭素等から成る群から選ばれた少なくとも1種)なども提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平8−315825号公報
【特許文献2】米国特許第4950566号明細書等
【非特許文献1】「ジャーナル オブ ザ エレクトロケミカル ソサエティ(Journal of The Electrochemical Society)」、1999年、第146号、p414
【非特許文献2】「ジャーナル オブ ザ エレクトロケミカル ソサエティ(Journal of The Electrochemical Society)」、1999年、第146号、p4401
【特許文献3】特開2000−311681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記した手法を用いた場合においても、サイクル特性改善の効果は十分とは言えず、合金材料における高容量負極の特長を十分に活かしきれていないのが実状である。このため、サイクル特性をより改善するための手法が模索されている。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、高容量で、サイクル特性に優れた二次電池およびそれに用いられる負極活物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の負極活物質は、構成元素として、ケイ素と、ホウ素と、炭素と、コバルト、チタンおよび鉄のうちの少なくとも1種の金属元素とを含み、ホウ素の含有量は4.9質量%以上19.8質量%以下、炭素の含有量は4.9質量%以上19.8質量%以下、ホウ素と炭素との含有量の合計は9.8質量%以上29.8質量%以下、ケイ素と金属元素との含有量の合計に対するケイ素の含有量の割合は70質量%以上95質量%以下であると共に、電極反応物質と反応可能であり、X線回折により得られる回折ピークの半値幅が1°以上である反応相を有するものである。
【0011】
また、本発明の二次電池は、正極および負極と共に電解質を備え、負極が上記した本発明の負極活物質を含有するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の負極活物質によれば、構成元素としてケイ素を含んでいるので、高容量が得られる。また、構成元素としてコバルト、チタンおよび鉄のうちの少なくとも1種の金属元素を含み、ケイ素と金属元素との含有量の合計に対するケイ素の含有量の割合が70質量%以上95質量%以下であるので、高容量を維持しつつ、サイクル特性が向上する。また、構成元素としてホウ素および炭素を含み、ホウ素の含有量が4.9質量%以上19.8質量%以下、炭素の含有量が4.9質量%以上19.8質量%以下、ホウ素と炭素との含有量の合計が9.8質量%以上29.8質量%以下であるので、サイクル特性がより向上する。さらに、電極反応物質と反応可能であり、X線回折により得られる回折ピークの半値幅が1°以上である反応相を有するので、電極反応物質などが円滑に吸蔵および放出されると共に、二次電池に用いられた場合には電解質との反応性が低減する。よって、上記した負極活物質を用いた本発明の二次電池によれば、高容量を得ることができると共に、優れたサイクル特性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
本発明の負極活物質は、例えば二次電池などの電気化学デバイスに用いられるものである。この負極活物質は、リチウムなどの電極反応物質と反応可能なものであり、構成元素として、ケイ素と、コバルト、チタンおよび鉄のうちの少なくとも1種の金属元素とを含んでいる。ケイ素は単位質量当たりにおける電極反応物質の反応量が高いため、高い容量が得られるからである。また、ケイ素単体では十分なサイクル特性を得ることは難しいが、コバルトなどの金属元素を含むことにより、サイクル特性が向上するからである。
【0015】
金属元素の含有量は、ケイ素と金属元素との含有量の合計に対するケイ素の含有量の割合で、70質量%以上95質量%以下であることが好ましく、80質量%以上90%質量以下であることがより好ましい。割合が高いと、金属元素の含有量が低下して十分なサイクル特性が得られず、割合が低いと、ケイ素の含有量が低下して炭素材料などの従来の負極材料を上回る容量が得られないからである。
【0016】
また、負極活物質は、構成元素として、ケイ素および金属元素に加えて、炭素を含んでいる。炭素を含むことにより、サイクル特性がより向上するからである。炭素の含有量は、4.9質量%以上19.8質量%以下であることが好ましく、9.9質量%以上14.9質量%以下であることがより好ましい。この範囲において、高い効果が得られるからである。
【0017】
さらに、負極活物質は、構成元素として、ケイ素、金属元素および炭素に加えて、ホウ素を含んでいる。ホウ素を含むことにより、金属元素の含有量が少なくても十分なサイクル特性が得られるからである。ホウ素の含有量は、4.9質量%以上19.8質量%以下であることが好ましく、9.9質量%以上14.9質量%以下であることがより好ましい。この範囲内において、高い効果が得られるからである。
【0018】
ただし、炭素とホウ素との含有量の合計は、9.8質量%以上29.8質量%以下であることが好ましく、14.8質量%以上24.8質量%以下であることがより好ましい。この範囲において、高い効果が得られるからである。
【0019】
なお、負極活物質は、必要に応じて、構成元素として、上記したケイ素、金属元素(コバルト、チタンおよび鉄)、ホウ素および炭素の他に、他の金属元素や非金属元素のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいてもよい。
【0020】
この負極活物質は、低結晶性あるいは非晶質の相を有している。この相は、リチウムなどの電極反応物質と反応可能な反応相であり、その反応相を負極活物質が有することにより、優れたサイクル特性が得られるようになっている。この相のX線回折により得られる回折ピークの半値幅は、特定X線としてCuKα線を用い、挿引速度を1°/minとした場合に、回折角2θで1°以上であることが好ましい。リチウムなどが円滑に吸蔵および放出されるからである。また、電解質を備えた二次電池に負極活物質が用いられた場合には、その電解質との反応性が低減するからである。
【0021】
なお、X線回折により得られた回折ピークがリチウムなどの電極反応物質と反応可能な反応相に対応するものであるか否かは、電極反応物質などとの電気化学的反応の前後におけるX線回折チャートを比較することにより、容易に判断することができる。例えば、電極反応物質などとの電気化学的反応の前後において回折ピークの位置が変化すれば、電極反応物質などと反応可能な反応相に対応するものである。この負極活物質では、例えば、低結晶性あるいは非晶質の反応相の回折ピークが2θ=20°〜50°の間に見られる。この反応相は、例えば、上記した各構成元素を含んでおり、主に、炭素の存在に起因して低結晶化あるいは非晶質化しているものと考えられる。
【0022】
なお、負極活物質は、上記した低結晶性あるいは非晶質の相に加えて、各構成元素の単体あるいは一部を含む相を有している場合もある。
【0023】
この低結晶性あるいは非晶質の相を有する負極活物質では、構成元素である炭素の一部が、他の構成元素であるケイ素の一部と結合していることが好ましい。サイクル特性の低下はケイ素が凝集あるいは結晶化することによるものであると考えられるが、炭素の一部がケイ素の一部と結合することにより、そのような凝集あるいは結晶化が抑制されるからである。ケイ素の一部と結合しているのが炭素の「一部」であるのは、全ての炭素がケイ素と結合して炭化ケイ素になると、リチウムなどの電極反応物質が不活性になる(負極活物質が電極反応物質と反応しにくくなる)からである。
【0024】
炭素の一部とケイ素の一部とが結合しているか否かは、例えば、上記した反応相と電極反応物質との反応と同様に、X線回折により容易に判断することができる。
【0025】
この負極活物質は、例えば、各構成元素の原料を混合し、電気炉、高周波誘導炉あるいはアーク溶解炉などで溶解したのちに凝固させることにより製造される。この他、負極活物質は、例えば、ガスアトマイズあるいは水アトマイズなどの各種アトマイズ法、各種ロール法、またはメカニカルアロイング法あるいはメカニカルミリング法などのメカノケミカル反応を利用した方法によっても製造される。中でも、メカノケミカル反応を利用した方法により製造することが好ましい。負極活物質が低結晶化あるいは非晶質の構造となるからである。この方法としては、例えば、遊星ボールミル装置を用いることができる。
【0026】
原料には、各構成元素の単体を混合して用いてもよいが、炭素以外の構成元素の一部については合金を用いることが好ましい。このような合金に炭素を加えてメカニカルアロイング法を利用した方法で合成することにより、低結晶性あるいは非晶質の構造を有するようにすることができると共に、反応時間の短縮も図ることができるからである。なお、原料の形態は粉体であってもよいし、塊状であってもよい。
【0027】
原料として用いる炭素には、難黒鉛化性炭素、易黒鉛化性炭素、グラファイト、熱分解炭素類、コークス、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、活性炭あるいはカーボンブラックなどの炭素材料のいずれか1種あるいは2種以上を用いることができる。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスあるいは石油コークスなどがあり、有機高分子化合物焼成体というのは、フェノール樹脂やフラン樹脂などの高分子化合物を適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。これらの炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状あるいは鱗片状のいずれでもよい。
【0028】
この負極活物質は、例えば、次のようにして二次電池に用いられる。
【0029】
(第1の二次電池)
図1は、第1の二次電池の断面構成を表している。ここで説明する二次電池は、例えば、負極の容量が電極反応物質であるリチウムの吸蔵および放出に基づく容量により表されるリチウムイオン二次電池である。
【0030】
この二次電池は、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、帯状の正極21と帯状の負極22とがセパレータ23を介して積層および巻回された巻回電極体20を有している。この電池缶11を含む電池構造は、円筒型と呼ばれている。電池缶11は、例えば、ニッケルめっきが施された鉄により構成されており、一端部および他端部がそれぞれ閉鎖および開放されている。電池缶11の内部には、液状の電解質(いわゆる電解液)が注入され、セパレータ23に含浸されている。また、巻回電極体20を挟むように巻回周面に対して垂直に一対の絶縁板12,13がそれぞれ配置されている。
【0031】
電池缶11の開放端部には、電池蓋14と、その内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient;PTC素子)16とがガスケット17を介してかしめられることにより取り付けられており、その電池缶11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料により構成されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されており、内部短絡あるいは外部からの加熱などにより電池の内圧が一定以上となった場合に、ディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、温度が上昇すると抵抗値の増大により電流を制限し、大電流による異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により構成されており、その表面にはアスファルトが塗布されている。
【0032】
巻回電極体20は、例えば、センターピン24を中心に巻回されている。巻回電極体20の正極21にはアルミニウム(Al)などからなる正極リード25が接続されており、負極22にはニッケル(Ni)などからなる負極リード26が接続されている。正極リード25は安全弁機構15に溶接されることにより電池蓋14と電気的に接続されており、負極リード26は電池缶11に溶接されることにより電気的に接続されている。
【0033】
図2は、図1に示した巻回電極体20の一部を拡大して表している。正極21は、例えば、一対の面を有する正極集電体21Aの片面あるいは両面に正極活物質層21Bが設けられた構造を有している。正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム箔などの金属箔により構成されている。正極活物質層21Bは、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極活物質のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて炭素材料などの導電剤やポリフッ化ビニリデンなどの結着剤を含んでいてもよい。
【0034】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極活物質としては、例えば、硫化チタン(TiS2 )、硫化モリブデン(MoS2 )、セレン化ニオブ(NbSe2 )あるいは酸化バナジウム(V2 5 )などのリチウムを含有しない金属硫化物あるいは金属酸化物などが挙げられる。また、Lix MO2 (式中、Mは1種以上の遷移金属を表し、xは二次電池の充放電状態によって異なり、通常0.05≦x≦1.1である)を主体とするリチウム複合酸化物なども挙げられる。このリチウム複合酸化物を構成する遷移金属Mとしては、コバルト、ニッケルあるいはマンガン(Mn)が好ましい。このようなリチウム複合酸化物の具体例としては、LiCoO2 、LiNiO2 、Lix Niy Co1-y 2 (式中、x,yは二次電池の充放電状態によって異なり、通常0<x<1<y<1である)、スピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物等を挙げることができる。
【0035】
負極22は、例えば、正極21と同様に、一対の面を有する負極集電体22Aの片面あるいは両面に負極活物質層22Bが設けられた構造を有している。負極集電体22Aは、例えば、銅箔などの金属箔により構成されている。
【0036】
負極活物質層22Bは、上記した負極活物質を含み、必要に応じてポリフッ化ビニリデンなどの結着剤を含んでいる。この負極活物質を含むことにより、二次電池では、高容量が得られると共に、サイクル特性が向上するようになっている。負極活物質層22Bは、また、上記した負極活物質に加えて、他の負極活物質や、導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。他の負極活物質としては、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能な炭素材料が挙げられる。この炭素材料は、充放電サイクル特性を向上させることができると共に、導電剤としても機能するので好ましい。炭素材料としては、例えば、負極活物質を製造する際に用いるものと同様のものが挙げられる。
【0037】
この炭素材料の割合は、上記した負極活物質に対して、1質量%以上95質量%以下であることが好ましい。炭素材料が少ないと、負極22の導電率が低下する可能性があり、炭素材料が多いと、容量が低下する可能性があるからである。
【0038】
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの合成樹脂製の多孔質膜や、セラミック製の多孔質膜により構成されており、それらの2種以上の多孔質膜が積層された構造であってもよい。
【0039】
セパレータ23に含浸された電解液は、溶媒と、それに溶解された電解質塩とを含んでいる。溶媒としては、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、アニソール、酢酸エステル、酪酸エステルあるいはプロピオン酸エステルなどが挙げられる。溶媒としては、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
この溶媒は、ハロゲンを構成元素として含む環状の炭酸エステル誘導体を含有していることが好ましい。負極22における溶媒の分解反応が抑制されるため、サイクル特性が向上するからである。このような炭酸エステル誘導体について具体的に例を挙げれば、化1で表される4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、化2で表される4−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、化3で表される4,5−ジフルオロ−1, 3−ジオキソラン−2−オン、化4で表される4−ジフルオロ−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、化5で表される4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、化6で表される4,5−ジクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、化7で表される4−ブロモ−1,3−ジオキソラン−2−オン、化8で表される4−ヨード−1,3−ジオキソラン−2−オン、化9で表される4−フルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは化10で表される4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。中でも、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンが望ましい。より高い効果を得ることができるからである。
【0041】
【化1】

【0042】
【化2】

【0043】
【化3】

【0044】
【化4】

【0045】
【化5】

【0046】
【化6】

【0047】
【化7】

【0048】
【化8】

【0049】
【化9】

【0050】
【化10】

【0051】
溶媒は、炭酸エステル誘導体のみにより構成されるようにしてもよいが、大気圧(1.01325×105 Pa)において沸点が150℃以下である低沸点溶媒と混合して用いられることが好ましい。イオン伝導性が高くなるからである。この炭酸エステル誘導体の含有量は、溶媒全体に対して0.1質量%以上80質量%以下であることが好ましい。含有量が少ないと、負極22における溶媒の分解反応を抑制する効果が十分ではない可能性があり、含有量が多いと、粘度が高くなってイオン伝導性が低下する可能性があるからである。
【0052】
電解質塩としては例えばリチウム塩が挙げられ、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。リチウム塩としては、LiClO4 、LiAsF6 、LiPF6 、LiBF4 、LiB(C6 5 4 、CH3 SO3 Li、CF3 SO3 Li、LiClあるいはLiBrなどが挙げられる。なお、電解質塩としては、リチウム塩を用いることが好ましいが、リチウム塩でなくてもよい。充放電に寄与するリチウムイオンは、正極21などから供給されれば足りるからである。
【0053】
この二次電池は、例えば、次のようにして製造される。
【0054】
まず、例えば、正極活物質と必要に応じて導電剤および結着剤とを混合して正極合剤を調製したのち、N−メチル−2−ピロリドンなどの混合溶剤に分散させて正極合剤スラリーを作製する。続いて、正極集電体21Aに正極合剤スラリーを塗布して乾燥させたのち、圧縮して正極活物質層21Bを形成することにより、正極21を作製する。こののち、正極21に正極リード25を溶接する。
【0055】
また、例えば、上記した負極活物質と必要に応じて他の負極活物質と結着剤とを混合して負極合剤を調製し、N−メチル−2−ピロリドンなどの混合溶剤に分散させて負極合剤スラリーを作製する。続いて、負極集電体22Aに負極合剤スラリーを塗布して乾燥させたのち、圧縮して負極活物質層22Bを形成することにより、負極22を作製する。こののち、負極22に負極リード26を溶接する。
【0056】
続いて、正極21と負極22とをセパレータ23を介して巻回し、正極リード25の先端部を安全弁機構15に溶接すると共に負極リード26の先端部を電池缶11に溶接し、巻回した正極21および負極22を一対の絶縁板12,13で挟みながら電池缶11の内部に収納する。続いて、電解液を電池缶11の内部に注入したのち、その電池缶11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16をガスケット17を介してかしめることにより固定する。これにより、図1および図2に示した二次電池が完成する。
【0057】
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、電解質を介して負極22に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極22からリチウムイオンが放出され、電解質を介して正極21に吸蔵される。
【0058】
このように本実施の形態に係る負極活物質によれば、構成元素としてケイ素を含んでいるので、高容量が得られる。また、構成元素としてコバルト、チタンおよび鉄のうちの少なくとも1種の金属元素を含み、ケイ素と金属元素との含有量の合計に対するケイ素の含有量の割合が70質量%以上95質量%以下であるので、高容量を維持しつつ、サイクル特性が向上する。また、構成元素としてホウ素および炭素を含み、ホウ素の含有量が4.9質量%以上19.8質量%以下、炭素の含有量が4.9質量%以上19.8質量%以下、ホウ素と炭素との含有量の合計が9.8質量%以上29.8質量%以下であるので、サイクル特性がより向上する。さらに、リチウムなどの電極反応物質と反応可能であり、X線回折により得られる回折ピークの半値幅が1°以上であるので、電極反応物質などが円滑に吸蔵および放出されると共に、二次電池に用いられた場合には電解質との反応性が低減する。これにより、本実施の形態に係る二次電池では、上記した負極活物質を用いるようにしたので、高容量を得ることができると共に、優れたサイクル特性を得ることができる。
【0059】
特に、電解質がハロゲンを構成元素として含む環状の炭酸エステル誘導体を含有するようにすれば、負極22における溶媒の分解反応が抑制されるため、サイクル特性をより向上させることができる。この場合には、電解質におけるハロゲンを構成元素として含む環状の炭酸エステル誘導体の含有量が0.1質量%以上80質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上70質量%以下、さらに好ましくは20質量%以上60質量%以下であれば、より高い効果を得ることができる。
【0060】
(第2の二次電池)
図3は、第2の二次電池の分解斜視構成を表している。この第2の二次電池は、正極リード31および負極リード32が取り付けられた巻回電極体30をフィルム状の外装部材40の内部に収容したものであり、小型化、軽量化および薄型化が可能となっている。この二次電池は、例えば、第1の二次電池と同様にリチウムイオン二次電池であり、フィルム状の外装部材40を含む電池構造は、ラミネートフィルム型と呼ばれている。
【0061】
正極リード31および負極リード32は、例えば、それぞれ外装部材40の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード31および負極リード32は、例えば、アルミニウム、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料により構成されており、それぞれ薄板状あるいは網目状とされている。
【0062】
外装部材40は、例えば、ナイロンフィルム、アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムをこの順に貼り合わせた矩形状のアルミラミネートフィルムにより構成されている。この外装部材40は、例えば、ポリエチレンフィルム側と巻回電極体30とが対向するように配設されており、各外縁部が融着あるいは接着剤により互いに密着されている。外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム41が挿入されている。この密着フィルム41は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂により構成されている。
【0063】
なお、外装部材40は、上記したアルミラミネートフィルムに代えて、他の構造を有するラミネートフィルムあるいはポリプロピレンなどの高分子フィルム、または金属フィルムにより構成されていてもよい。
【0064】
図4は、図3に示した巻回電極体30のIV−IV線に沿った断面構成を表している。この巻回電極体30は、正極33と負極34とがセパレータ35および電解質層36を介して積層および巻回されたものであり、その最外周部は保護テープ37により保護されている。
【0065】
正極33は、正極集電体33Aの片面あるいは両面に正極活物質層33Bが設けられた構造を有している。負極34は、負極集電体34Aの片面あるいは両面に負極活物質層34Bが設けられた構造を有しており、負極活物質層34Bの側が正極活物質層33Bと対向するように配置されている。正極集電体33A、正極活物質層33B、負極集電体34A、負極活物質層34Bおよびセパレータ35の構成は、それぞれ上記した第1の二次電池における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22Bおよびセパレータ23の構成と同様である。
【0066】
電解質層36は、電解液と、それを保持する高分子化合物とを含んでおり、いわゆるゲル状になっている。ゲル状の電解質は、高いイオン伝導率が得られると共に漏液が防止されるので好ましい。電解液(溶媒および電解質塩)の構成は、上記した第1の二次電池における電解液の構成と同様である。高分子化合物としては、例えば、ポリフッ化ビニリデンあるいはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体などのフッ素系高分子化合物や、ポリエチレンオキサイドあるいはポリエチレンオキサイドを含む架橋体などのエーテル系高分子化合物や、ポリアクリロニトリルなどが挙げられる。特に、酸化還元安定性の観点からは、フッ素系高分子化合物が望ましい。
【0067】
なお、電解液を高分子化合物に保持させた電解質層36に代えて、電解液をそのまま用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ35に含浸する。
【0068】
このゲル状の電解質層36を備えた二次電池は、例えば、次のようにして製造される。
【0069】
まず、溶媒と、電解質塩と、高分子化合物と、混合溶剤とを含む前駆溶液を調製したのち、正極33および負極34のそれぞれに前駆溶液を塗布して混合溶剤を揮発させることにより、電解質層36を形成する。続いて、正極集電体33Aの端部に正極リード31を溶接などして取り付けると共に、負極集電体34Aの端部に負極リード32を溶接などして取り付ける。続いて、電解質層36が形成された正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層して積層体とし、その積層体をその長手方向に巻回したのちに最外周部に保護テープ37を接着させることにより、巻回電極体30を形成する。最後に、例えば、外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込み、外装部材40の外縁部同士を熱融着などにより密着させて封入する。この際、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間に密着フィルム41を挿入する。これにより、図3および図4に示した二次電池が完成する。
【0070】
なお、ゲル状の電解質層36を備えた二次電池は、次のようにして製造されてもよい。まず、上記したように正極33および負極34を作製し、それぞれ正極リード31および負極リード32を取り付けたのち、正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層および巻回し、その最外周部に保護テープ37を接着させることにより、巻回電極体30の前駆体である巻回体を形成する。続いて、巻回体を外装部材40で挟み、一辺を除く外周縁部を熱融着して袋状とし、外装部材40の内部に収納する。続いて、溶媒と、電解質塩と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を用意し、外装部材40の内部に注入する。最後に、外装部材40の開口部を真空雰囲気下で熱融着して密封したのち、熱を加えてモノマーを重合させて高分子化合物とすることにより、ゲル状の電解質層36を形成する。これにより、図3および図4に示した二次電池が完成する。
【0071】
この二次電池は、第1の二次電池と同様に作用し、同様の効果を得ることができる。
【0072】
(第3の二次電池)
図5は、第3の二次電池の断面構成を表しており、この第3の二次電池は、例えば、第1の二次電池と同様にリチウムイオン二次電池である。この二次電池は、正極リード51が取り付けられた正極52と、負極リード53が取り付けられた負極54とが電解質層55を介して対向配置された平板状の電極体50を、フィルム状の外装部材56に収容したものである。外装部材56の構成は、上記した第2の二次電池における外装部材40と同様である。
【0073】
正極52は、正極集電体52Aに正極活物質層52Bが設けられた構造を有している。負極54は、負極集電体54Aに負極活物質層54Bが設けられた構造を有しており、負極活物質層54B側が正極活物質層52Bと対向するように配置されている。正極集電体52A、正極活物質層52B、負極集電体54A、負極活物質層54Bの構成は、それぞれ上記した第1の二次電池における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bの構成と同様である。
【0074】
電解質層55は、例えば、固体電解質により構成されている。固体電解質としては、例えば、リチウムイオン導電性を有する材料であれば、無機固体電解質あるいは高分子固体電解質のいずれも用いることができる。無機固体電解質としては、窒化リチウムあるいはヨウ化リチウムなどを含むものなどが挙げられる。高分子固体電解質は、主に、電解質塩とそれを溶解する高分子化合物とからなるものである。高分子固体電解質の高分子化合物としては、例えば、ポリエチレンオキサイドあるいはポリエチレンオキサイドを含む架橋体などのエーテル系高分子化合物や、ポリメタクリレートなどのエステル系高分子化合物や、アクリレート系高分子化合物などを単独あるいは混合して、または共重合させて用いることができる。
【0075】
高分子固体電解質は、例えば、高分子化合物と、電解質塩と、混合溶剤とを混合したのち、その混合溶剤を揮発させることにより形成される。また、電解質塩と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを混合溶剤に溶解し、その混合溶剤を揮発させたのち、熱を加えてモノマーを重合させて高分子化合物とすることにより形成されてもよい。
【0076】
無機固体電解質は、例えば、正極52あるいは負極54の表面にスパッタリング法、真空蒸着法、レーザーアブレーション法、イオンプレーティング法あるいはCVD(Chemical Vapor Deposition )法などの気相法や、ゾルゲル法などの液相法により形成される。
【0077】
この二次電池は、第1あるいは第2の二次電池と同様に作用し、同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0078】
本発明の具体的な実施例について、詳細に説明する。
【0079】
(実施例1−1〜1−5)
まず、負極活物質を作製した。最初に、原料としてケイ素粉末とチタン粉末と炭素粉末とホウ素粉末とを用意し、ケイ素粉末およびチタン粉末を合金化してケイ素・チタン合金粉末としたのち、その合金粉末に炭素粉末およびホウ素粉末を加えて乾式混合した。この際、原料の割合(原料比:質量%)を表1に示したように変化させた。具体的には、ホウ素の原料比を10質量%、ケイ素とチタンとの原料比の合計に対するケイ素の原料比の割合(以下、「Si/(Si+Ti)」という。)を85質量%でそれぞれ一定とし、炭素の原料比を5質量%以上20質量%以下の範囲で変化させた。続いて、伊藤製作所製の遊星ボールミルの反応容器中に、上記した混合物20gを直径9mmの鋼玉約400gと共にセットした。続いて、反応容器中をアルゴン(Ar)雰囲気に置換したのち、毎分250回転の回転速度による10分間の運転と10分間の休止とを運転時間の合計が50時間になるまで繰り返した。最後に、反応容器を室温まで冷却したのち、合成された負極活物質粉末を取り出し、280メッシュのふるいを通して粗粉を取り除いた。
【0080】
【表1】

【0081】
得られた負極活物質について組成の分析を行った。この際、炭素の含有量については炭素・硫黄分析装置で測定し、ケイ素、チタンおよびホウ素の含有量についてはICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)発光分析で測定した。それらの分析値(質量%)を表1に示す。なお、表1に示した原料比および分析値は、いずれも小数点以下2桁の数値を四捨五入した値であり、以下の一連の実施例および比較例についても、同様に四捨五入した値を示している。また、負極活物質についてX線回折を行ったところ、2θ=20°〜50°の間に広い半値幅を有する回折ピークが観察された。この回折ピークの半値幅(°)も表1に示す。
【0082】
次に、上記した負極活物質粉末を用いて、図6に示したコイン型の二次電池を作製した。この二次電池は、負極活物質を用いた試験極61を正極缶62に収容すると共に対極63を負極缶64に貼り付け、それらを電解液が含浸されたセパレータ65を介して積層したのちにガスケット66を介してかしめたものである。試験極61を作成する際には、最初に、負極活物質粉末60質量部と、導電剤および他の負極活物質である黒鉛30質量部と、導電剤であるアセチレンブラック1質量部と、結着剤であるポリフッ化ビニリデン4質量部とを混合し、適当な溶剤に分散させてスラリーとした。こののち、スラリーを銅箔集電体に塗布し、乾燥後に直径15.2mmのペレットに打ち抜いた。対極63としては、直径15.5mmに打ち抜いた金属リチウム板を用いた。電解液としては、炭酸エチレン(EC)と炭酸プロピレン(PC)と炭酸ジメチル(DMC)とを混合した混合溶媒に電解質塩としてLiPF6 を溶解させたものを用いた。この際、混合溶媒の組成を質量比でEC:PC:DMC=30:20:50とし、電解質塩の濃度を1mol/dm3 (=1mol/l)とした。
【0083】
このコイン型の二次電池について、初回充電容量(mAh/g)を調べた。この初回充電容量としては、1mAの定電流で電池電圧が0.2mVに達するまで定電流充電したのち、0.2mVの定電圧で電流が10μAに達するまで定電圧充電し、試験極61の質量から銅箔集電体および結着剤の質量を除いた単位質量あたりの充電容量を求めた。なお、ここでいう充電とは、負極活物質へのリチウム挿入反応を意味する。その結果を表1および図7に示す。
【0084】
また、上記した負極活物質粉末を用いて、図1および図2に示した円筒型の二次電池を作製した。最初に、ニッケル酸化物からなる正極活物質と、導電剤であるケッチェンブラックと、結着剤であるポリフッ化ビニリデンとをニッケル酸化物:ケッチェンブラック:ポリフッ化ビニリデン=94:3:3の質量比で混合し、混合溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させて正極合剤スラリーとした。続いて、帯状のアルミニウム箔からなる正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機で圧縮成型して正極活物質層21Bを形成することにより、正極21を作製した。こののち、正極集電体21Aの一端にアルミニウム製の正極リード25を取り付けた。
【0085】
また、帯状の銅箔からなる負極集電体22Aの両面に上記した負極活物質を含む負極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機で圧縮成型して負極活物質層22Bを形成することにより、負極22を作製した。こののち、負極集電体22Aの一端にニッケル製の負極リード26を取り付けた。
【0086】
続いて、セパレータ23を用意し、負極22、セパレータ23、正極21およびセパレータ23をこの順に積層したのち、その積層体を渦巻状に多数回巻回することにより、巻回電極体20を作製した。続いて、巻回電極体20を一対の絶縁板12,13で挟み、負極リード26を電池缶11に溶接すると共に正極リード25を安全弁機構15に溶接したのち、ニッケルめっきが施された鉄製の電池缶11の内部に巻回電極体20を収納した。最後に、電池缶11の内部に上記した電解液を減圧方式で注入することにより、円筒型の二次電池が完成した。
【0087】
この円筒型の二次電池について、サイクル特性を調べた。この場合には、まず、0.5Aの定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで定電流充電したのち、4.2Vの定電圧で電流が10mAに達するまで定電圧充電し、引き続き0.25Aの定電流で電池電圧が2.6Vに達するまで定電流放電することにより、1サイクル目の充放電を行った。2サイクル目以降については、1.4Aの定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで定電流充電したのち、4.2Vの定電圧で電流が10mAに達するまで定電圧充電し、引き続き1.0Aの定電流で電池電圧が2.6Vに達するまで定電流放電した。こののち、サイクル特性を調べるために、2サイクル目の放電容量(2Cy.放電容量:mAh/cm3 )に対する300サイクル目の放電容量(300Cy.放電容量:mAh/cm3 )の比、すなわち容量維持率(%)=(300サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を求めた。それらの結果を表1および図7に示す。
【0088】
なお、実施例1−1〜1−5に対する比較例1−1として、原料として炭素粉末を用いなかったことを除き、他は実施例1−1〜1−5と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。また、比較例1−2として、炭素の原料比を表1に示したように設定したことを除き、他は実施例1−1〜1−5と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。
【0089】
比較例1−1,1−2の負極活物質についても、実施例1−1〜1−5と同様にして組成の分析および2θ=20°〜50°の間に見られた広い半値幅を有する回折ピークの半値幅の測定を行った。それらの結果を表1に示す。
【0090】
また、比較例1−1、1−2の二次電池についても、実施例1−1〜1−5と同様にして初回充電容量およびサイクル特性を調べた。それらの結果を表1および図7に示す。
【0091】
表1および図7から分かるように、負極活物質における炭素の含有量が4.9質量%以上19.8質量以下である実施例1−1〜1−5では、その含有量が範囲外である比較例1−1,1−2よりも容量維持率が飛躍的に向上した。この場合には、初回充電容量および放電容量も向上した。
【0092】
特に、炭素の含有量が9.9質量%以上14.9質量%以下であると、より高い値が得られた。
【0093】
すなわち、炭素の含有量が4.9質量%以上19.8質量%以下であると、容量およびサイクル特性を向上させることができると共に、9.9質量%以上14.9質量%以下であれば、より好ましいことが分かった。
【0094】
(実施例2−1〜2−4)
ケイ素、チタン、炭素およびホウ素の原料比を表2に示したように変化させたことを除き、他は実施例1−1〜1−5と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。具体的には、炭素の原料比を10質量%、Si/(Si+Ti)を85質量%でそれぞれ一定とし、ホウ素の原料比を5質量%以上20質量%以下の範囲で変化させた。
【0095】
【表2】

【0096】
なお、実施例2−1〜2−4に対する比較例2−1,2−2として、ホウ素の原料比を表2に示したように変化させたことを除き、他は実施例2−1〜2−4と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。
【0097】
実施例2−1〜2−4および比較例2−1,2−2の負極活物質についても、実施例1−1〜1−5と同様にして組成の分析および半値幅の測定を行った。それらの結果を表2に示す。また、二次電池についても、実施例1−1〜1−5と同様にして初回充電容量およびサイクル特性を調べた。それらの結果を表2および図8に示す。
【0098】
表2および図8から分かるように、ホウ素の含有量が4.9質量%以上19.8質量%以下である実施例2−1〜2−4では、その含有量が範囲外である比較例2−1,2−2よりも容量維持率が飛躍的に向上した。この場合には、初回充電容量および放電容量も向上した。
【0099】
特に、ホウ素の含有量が9.9質量%以上14.9質量%以下であると、より高い値が得られた。
【0100】
すなわち、ホウ素の含有量が4.9質量%以上19.8質量%以下であると、容量およびサイクル特性を向上させることができると共に、9.9質量%以上14.9質量%以下であれば、より好ましいことが分かった。
【0101】
(実施例3−1〜3−7)
ケイ素、チタン、炭素およびホウ素の原料比を表3に示したように変化させたことを除き、他は実施例1−1〜1−5と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。具体的には、Si/(Si+Ti)を85質量%で一定とし、炭素とホウ素との原料比の合計を10質量%以上30質量%以下の範囲で変化させた。
【0102】
【表3】

【0103】
なお、実施例3−1〜3−7に対する比較例3−1〜3−9として、炭素とホウ素との原料比の合計を表3に示したように変化させたことを除き、他は実施例3−1〜3−7と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。
【0104】
実施例3−1〜3−7および比較例3−1〜3−9の負極活物質についても、実施例1−1〜1−5と同様にして組成の分析および半値幅の測定を行った。それらの結果を表3に示す。また、二次電池についても、実施例1−1〜1−5と同様にして初回充電容量およびサイクル特性を調べた。それらの結果を表3および図9に示す。
【0105】
表3および図9から分かるように、炭素とホウ素との含有量の合計が9.8質量%以上29.8質量%以下である実施例3−1〜3−7では、その合計が範囲外である比較例3−1〜3−9よりも容量維持率が飛躍的に向上した。この場合には、高い初回充電容量および放電容量も得られた。
【0106】
特に、上記した合計が含有量が14.8質量%以上24.8質量%以下であると、より高い値が得られた。
【0107】
すなわち、炭素とホウ素との含有量の合計が9.8質量%以上29.8質量%以下であると、容量およびサイクル特性を向上させることができると共に、14.8質量%以上24.8質量%以下であれば、より好ましいことが分かった。
【0108】
(実施例4−1〜4−5)
ケイ素、チタン、炭素およびホウ素の原料比を表4に示したように変化させたことを除き、他は実施例1−1〜1−5と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。具体的には、炭素とホウ素との原料比の合計を10質量%で一定とし、Si/(Si+Ti)を70質量%以上95質量%以下の範囲で変化させた。
【0109】
【表4】

【0110】
なお、実施例4−1〜4−5に対する比較例4−1〜4−4として、Si/(Si+Ti)を表4に示したように変化させたことを除き、他は実施例4−1〜4−5と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。
【0111】
実施例4−1〜4−5および比較例4−1〜4−4の負極活物質についても、実施例1−1〜1−5と同様にして組成の分析および半値幅の測定を行った。それらの結果を表4に示す。また、二次電池についても、実施例1−1〜1−5と同様にして初回充電容量およびサイクル特性を調べた。それらの結果を表4および図10に示す。
【0112】
表4および図10から分かるように、Si/(Si+Ti)が70質量%以上95質量%以下である実施例4−1〜4−5では、95質量%超である比較例4−1よりも容量維持率が飛躍的に向上し、70質量%未満である比較例4−2〜4−4よりも初回充電容量が飛躍的に向上した。特に、Si/(Si+Ti)が80質量%以上90質量%以下であれば、高い初回充電容量および容量維持率が得られた。
【0113】
すなわち、炭素とホウ素との含有量の合計が9.8質量%である場合には、Si/(Si+Ti)が70質量%以上95質量%以下であると、容量およびサイクル特性を向上させることができると共に、Si/(Si+Ti)が80質量%以上90質量%以下であれば、より好ましいことが分かった。
【0114】
(実施例5−1〜5−5)
ケイ素、チタン、炭素およびホウ素の原料比を表5に示したように変化させたことを除き、他は実施例1−1〜1−5と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。具体的には、炭素とホウ素との原料比の合計を20質量%で一定とし、Si/(Si+Ti)を70質量%以上95質量%以下の範囲で変化させた。
【0115】
【表5】

【0116】
なお、実施例5−1〜5−5に対する比較例5−1〜5−4として、Si/(Si+Ti)を表5に示したように変化させたことを除き、他は実施例5−1〜5−5と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。
【0117】
実施例5−1〜5−5および比較例5−1〜5−4の負極活物質についても、実施例1−1〜1−5と同様にして組成の分析および半値幅の測定を行った。それらの結果を表5に示す。また、二次電池についても、実施例1−1〜1−5と同様にして初回充電容量およびサイクル特性を調べた。それらの結果を表5および図11に示す。
【0118】
表5および図11から分かるように、表4および表10と同様の結果が得られた。すなわち、Si/(Si+Ti)が70質量%以上95質量%以下である実施例5−1〜5−5では、95質量%超である比較例5−1よりも容量維持率が飛躍的に向上し、70質量%未満である比較例5−2〜5−4よりも初回充電容量が飛躍的に向上した。特に、Si/(Si+Ti)が80質量%以上90質量%以下であれば、高い初回充電容量および容量維持率が得られた。
【0119】
すなわち、炭素とホウ素との含有量の合計が19.8質量%である場合には、Si/(Si+Ti)が70質量%以上95質量%以下であると、容量およびサイクル特性を向上させることができると共に、Si/(Si+Ti)が80質量%以上90質量%以下であれば、より好ましいことが分かった。
【0120】
(実施例6−1〜6−5)
ケイ素、チタン、炭素およびホウ素の原料比を表6に示したように変化させたことを除き、他は実施例1−1〜1−5と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。具体的には、炭素とホウ素との原料比の合計を30質量%で一定とし、Si/(Si+Ti)を70質量%以上95質量%以下の範囲で変化させた。
【0121】
【表6】

【0122】
なお、実施例6−1〜6−5に対する比較例6−1〜6−4として、Si/(Si+Ti)を表6に示したように変化させたことを除き、他は実施例6−1〜6−5と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。
【0123】
実施例6−1〜6−5および比較例6−1〜6−4の負極活物質についても、実施例1−1〜1−5と同様にして組成の分析および半値幅の測定を行った。それらの結果を表6に示す。また、二次電池についても、実施例1−1〜1−5と同様にして初回充電容量およびサイクル特性を調べた。それらの結果を表6および図12に示す。
【0124】
表6および図12から分かるように、表4および表10と同様の結果が得られた。すなわち、Si/(Si+Ti)が70質量%以上95質量%以下である実施例6−1〜6−5では、95質量%超である比較例6−1よりも容量維持率が飛躍的に向上し、70質量%未満である比較例6−2〜6−4よりも初回充電容量が飛躍的に向上した。特に、Si/(Si+Ti)が80質量%以上90質量%以下であれば、高い初回充電容量および容量維持率が得られた。
【0125】
すなわち、炭素とホウ素との含有量の合計が29.8質量%である場合には、Si/(Si+Ti)が70質量%以上95質量%以下であると、容量およびサイクル特性を向上させることができると共に、Si/(Si+Ti)が80質量%以上90質量%以下であれば、より好ましいことが分かった。
【0126】
表4〜表6および図10〜図12の結果から、Si/(Si+Ti)が70質量%以上95質量%以下であると、炭素とホウ素との含有量の合計に依存せずに、容量およびサイクル特性を向上させることができることが分かった。
【0127】
(実施例7−1〜7−4)
負極活物質を合成する際の運転時間および回転数を変更し、2θ=20°〜50°の間に見られる広い半値幅を有する回折ピークの半値幅を変化させたことを除き、他は実施例1−1〜1−5と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。この際、実施例7−1〜7−4において、炭素の原料比を5質量%、ホウ素の原料比を5質量%、Si/(Si+Ti)を85質量%でそれぞれ一定とし、半値幅を1°以上4°以下の範囲で変化させた。
【0128】
【表7】

【0129】
なお、実施例7−1〜7−4に対する比較例7−1〜7−3として、半値幅を表7に示したように変化させたことを除き、他は実施例7−1〜7−4と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。
【0130】
実施例7−1〜7−4および比較例7−1〜7−3の負極活物質についても、実施例1−1〜1−5と同様にして組成の分析および半値幅の測定を行った。それらの結果を表7に示す。また、二次電池についても、実施例1−1〜1−5と同様にして初回充電容量およびサイクル特性を調べた。それらの結果を表7および図13に示す。
【0131】
表7および図13から分かるように、半値幅が1°以上である実施例7−1〜7−4では、1°未満である比較例7−1〜7−3よりも容量維持率が飛躍的に向上した。
【0132】
すなわち、炭素とホウ素との含有量の合計が9.8質量%である場合には、X線回折により得られる回折ピークの半値幅が1°以上であると、容量およびサイクル特性を向上させることができることが分かった。
【0133】
(実施例8−1〜8−5)
ケイ素、チタン、炭素およびホウ素の原料比を表8に示したように変化させたことを除き、他は実施例1−1〜1−5と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。この際、実施例8−1〜8−5において、炭素の原料比を15質量%、ホウ素の原料比を15質量%、Si/(Si+Ti)を85質量%でそれぞれ一定とし、半値幅を1°以上4°以下の範囲で変化させた。
【0134】
【表8】

【0135】
なお、実施例8−1〜8−5に対する比較例8−1〜8−3として、半値幅を表8に示したように変化させたことを除き、他は実施例8−1〜8−5と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。
【0136】
実施例8−1〜8−5および比較例8−1〜8−3の負極活物質についても、実施例1−1〜1−5と同様にして組成の分析および半値幅の測定を行った。それらの結果を表8に示す。また、二次電池についても、実施例1−1〜1−5と同様にして初回充電容量およびサイクル特性を調べた。それらの結果を表8および図14に示す。
【0137】
表8および図14から分かるように、半値幅が1°以上である実施例8−1〜8−5では、1°未満である比較例8−1〜8−3よりも容量維持率が飛躍的に向上した。
【0138】
すなわち、炭素とホウ素との含有量の合計が29.8質量%である場合には、X線回折により得られる回折ピークの半値幅が1°以上であると、容量およびサイクル特性を向上させることができることが分かった。
【0139】
表7および表8ならびに図13および図14の結果から、半値幅が1°以上であると、炭素およびホウ素の含有量に依存せずに、容量およびサイクル特性を向上させることができることが分かった。
【0140】
(実施例9−1〜9−6)
原料としてチタン粉末に代えてコバルト粉末を用い、ケイ素、コバルト、炭素およびホウ素の原料比を表9に示したように変化させたことを除き、他は実施例1−1〜1−5と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。具体的には、炭素の原料比を10質量%、ホウ素の原料比を10質量%、炭素とホウ素との原料比の合計を20質量%でそれぞれ一定とし、ケイ素とコバルトとの原料比の合計に対するケイ素の原料比の割合(以下、「Si/(Si+Co)」という。)を70質量%以上95質量%以下の範囲で変化させた。実施例9−1〜9−6の二次電池についても、実施例1−1〜1−5と同様にして組成の分析を行った。その結果を表9に示す。また、二次電池についても、実施例1−1〜1−5と同様にして初回充電容量およびサイクル特性を調べた。それらの結果を表9および図15に示す。
【0141】
【表9】

【0142】
なお、実施例9−1〜9−6に対する比較例9−1〜9−4として、Si/(Si+Co)を表9に示したように変化させたことを除き、他は実施例9−1〜9−6と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。
【0143】
表9および図15から分かるように、Si/(Si+Co)が70質量%以上95質量%以下である実施例9−1〜9−6では、95質量%超である比較例9−1よりも容量維持率が飛躍的に向上し、70質量%未満である比較例9−2〜9−4よりも初回充電容量が飛躍的に向上した。特に、Si/(Si+Co)が80質量%以上90質量%以下であれば、高い初回充電容量および容量維持率が得られた。
【0144】
すなわち、Si/(Si+Co)が70質量%以上95質量%以下であると、容量およびサイクル特性を向上させることができると共に、Si/(Si+Co)が80質量%以上90質量%以下であれば、より好ましいことが分かった。
【0145】
(実施例10−1〜10−6)
原料としてチタン粉末に代えて鉄粉末を用い、ケイ素、鉄、炭素およびホウ素の原料比を表10に示したように変化させたことを除き、他は実施例1−1〜1−5と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。具体的には、炭素の原料比を10質量%、ホウ素の原料比を10質量%、炭素とホウ素との原料比の合計を20質量%でそれぞれ一定とし、ケイ素と鉄との原料比の合計に対するケイ素の原料比の割合(以下、「Si/(Si+Fe)」という。)を70質量%以上95質量%以下の範囲で変化させた。実施例10−1〜10−6の二次電池についても、実施例1−1〜1−5と同様にして組成の分析を行った。その結果を表10に示す。また、二次電池についても、実施例1−1〜1−5と同様にして初回充電容量およびサイクル特性を調べた。それらの結果を表10および図16に示す。
【0146】
【表10】

【0147】
なお、実施例10−1〜10−6に対する比較例10−1〜10−4として、Si/(Si+Fe)を表10に示したように変化させたことを除き、他は実施例10−1〜10−6と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。
【0148】
表10および図16から分かるように、Si/(Si+Co)が70質量%以上95質量%以下である実施例10−1〜10−6では、95質量%超である比較例10−1よりも容量維持率が飛躍的に向上し、70質量%未満である比較例10−2〜10−4よりも初回充電容量が飛躍的に向上した。特に、Si/(Si+Fe)が80質量%以上90質量%以下であれば、高い初回充電容量および容量維持率が得られた。
【0149】
すなわち、Si/(Si+Fe)が70質量%以上95質量%以下であると、容量およびサイクル特性を向上させることができると共に、Si/(Si+Fe)が80質量%以上90質量%以下であれば、より好ましいことが分かった。
【0150】
表4、表9および表10ならびに図10、図15および図16の結果から、Si/(Si+Ti)、Si/(Si+Co)あるいはSi/(Si+Fe)が70質量%以上95質量%以下であると、負極活物質に含まれる金属元素の種類(チタン、コバルトあるいは鉄)に依存せずに、容量およびサイクル特性を向上させることができることが分かった。
【0151】
(実施例11−1〜11−12)
ケイ素、金属元素(チタン、コバルトあるいは鉄)、炭素およびホウ素の原料比を表11に示したように変化させたことを除き、他は実施例1−1〜1−5と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。具体的には、炭素の原料比を10質量%、ホウ素の原料比を10質量%、炭素とホウ素との原料比の合計を20質量%でそれぞれ一定とし、2種あるいは3種の金属元素を組み合わせた。実施例11−1〜11−12の二次電池についても、実施例1−1〜1−5と同様にして組成の分析を行った。その結果を表11に示す。また、二次電池についても、実施例1−1〜1−5と同様にして初回充電容量およびサイクル特性を調べた。それらの結果を表12に示す。
【0152】
【表11】

【0153】
【表12】

【0154】
表11および表12から分かるように、金属元素(チタン、コバルトあるいは鉄)を2種あるいは3種以上組み合わせた実施例11−1〜11−12では、金属元素を単独で用いた実施例5−2,9−2,10−2等と同様に、金属元素の組み合わせごとに見た場合において、ほぼ同等の初回充電容量および容量維持率が得られた。
【0155】
すなわち、金属元素がチタン、コバルトおよび鉄のうちの少なくとも1種であると、その金属元素の組み合わせに依存せずに、容量およびサイクル特性を向上させることができることが分かった。
【0156】
(実施例12−1〜12−17)
電解液に溶媒として4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)を加え、その溶媒全体の組成を表13に示したように変化させたことを除き、他は実施例1−1〜1−5と同様にして負極活物質および二次電池を作製した。この際、炭素の原料比を10質量%、ホウ素の原料比を10質量%、炭素とホウ素との原料比の合計を20質量%、Si/(Si+Ti)を85質量%、半値幅を3.2°でそれぞれ一定とし、FECの含有量を0.1質量%以上90質量%以下の範囲で変化させた。実施例12−1〜12−17の二次電池についても、実施例1−1〜1−5と同様にして組成の分析を行った。その結果を表13に示す。また、二次電池について、実施例1−1〜1−5と同様にしてサイクル特性を調べた。その結果を表13および図17に示す。
【0157】
【表13】

【0158】
表13および図17から分かるように、FECを含有する実施例12−1〜12−17では、その含有量が0.1質量%以上80質量%以下である場合において、FECを含有しない実施例1−3よりも容量維持率が向上した。特に、FECの含有量が0.5質量%以上70質量%以下、さらには20質量%以上60質量%以下であれば、容量維持率がより向上した。
【0159】
すなわち、電解質の溶媒としてハロゲンを構成元素として含む環状の炭酸エステル誘導体を用いる場合には、その含有量が0.1質量%以上80質量%以下であると、サイクル特性を向上させることができると共に、含有量が0.5質量%以上70質量%以下、さらには20質量%以上60質量%以下であれば、より好ましいことが分かった。
【0160】
表1〜表13および図7〜図17に示した結果から明らかなように、負極活物質が構成元素としてケイ素とホウ素と炭素とコバルト、チタンおよび鉄のうちの少なくとも1種の金属元素とを含み、ホウ素の含有量が4.9質量%以上19.8質量%以下、炭素の含有量が4.9質量%以上19.8質量%以下、ホウ素と炭素との含有量の合計が9.8質量%以上29.8質量%以下、ケイ素と金属元素との含有量の合計に対するケイ素の含有量の割合が70質量%以上95質量%以下であると共に、その負極活物質が電極反応物質と反応可能であり、X線回折により得られる回折ピークの半値幅が1°以上である反応相を有すると、容量およびサイクル特性が向上することが確認された。
【0161】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記した実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記した実施の形態および実施例では、二次電池の種類として、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づく容量により表されるリチウムイオン二次電池について説明したが、必ずしもそれに限られるものではない。本発明の二次電池は、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料の充電容量を正極の充電容量よりも小さくすることにより、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づく容量とリチウムの析出および溶解に基づく容量とを含み、かつ、それらの容量の和により表される二次電池についても同様に適用可能である。
【0162】
また、上記した実施の形態および実施例では、電池構造が円筒型、ラミネートフィルム型、シート型あるいはコイン型である場合や、素子構造が巻回構造である二次電池を具体的に挙げて説明したが、本発明の二次電池は、ボタン型あるいは角型などの外装部材を用いた他の電池構造を有するものや、正極および負極を複数積層した積層構造などの他の素子構造を有するものについても同様に適用することができる。
【0163】
また、上記した実施の形態および実施例では、電極反応物質としてリチウムを用いる場合について説明したが、負極活物質と反応可能であれば、ナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などの長周期型周期表における他の1族の元素や、マグネシウムあるいはカルシウム(Ca)などの長周期型周期表における2族の元素や、アルミニウムなどの他の軽金属、またはリチウムあるいはそれらの合金を用いる場合についても、本発明を適用することができる。本発明の効果は、電極反応物質の種類に依存せずに得られるはずであるため、その電極反応物質の種類を変更した場合においても、同様の効果を得ることができる。
【0164】
また、上記した実施の形態および実施例では、本発明の負極あるいは二次電池におけるホウ素の含有量について、実施例の結果から導き出された数値範囲を適正範囲として説明しているが、その説明は、含有量が上記した範囲外となる可能性を完全に否定するものではない。すなわち、上記した適正範囲は、あくまで本発明の効果を得る上で特に好ましい範囲であり、本発明の効果が得られるのであれば、含有量が上記した範囲から多少外れてもよい。このことは、上記したホウ素の含有量に限らず、炭素の含有量や、ホウ素と炭素との含有量の合計や、ケイ素と金属元素との含有量の合計に対するケイ素の含有量の割合などについても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】本発明の一実施の形態に係る第1の二次電池の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る第2の二次電池の構成を表す分解斜視図である。
【図4】図3に示した巻回電極体のIV−IV線に沿った構成を表す断面図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係る第3の二次電池の構成を表す断面図である。
【図6】実施例で作製したコイン型の二次電池の構成を示す断面図である。
【図7】炭素含有量と容量維持率および初回充電容量との関係を表す特性図である。
【図8】ホウ素含有量と容量維持率および初回充電容量との関係を表す特性図である。
【図9】炭素とホウ素との含有量の合計と容量維持率および初回充電容量との関係を表す特性図である。
【図10】ケイ素とチタンとの含有量の合計に対するケイ素の含有量の割合と容量維持率および初回充電容量との関係を表す特性図である。
【図11】ケイ素とチタンとの含有量の合計に対するケイ素の含有量の割合と容量維持率および初回充電容量との関係を表す他の特性図である。
【図12】ケイ素とチタンとの含有量の合計に対するケイ素の含有量の割合と容量維持率および初回充電容量との関係を表すさらに他の特性図である。
【図13】半値幅と容量維持率および初回充電容量との関係を表す特性図である。
【図14】半値幅と容量維持率および初回充電容量との関係を表す他の特性図である。
【図15】ケイ素とコバルトとの含有量の合計に対するケイ素の含有量の割合と容量維持率および初回充電容量との関係を表す特性図である。
【図16】ケイ素と鉄との含有量の合計に対するケイ素の含有量の割合と容量維持率および初回充電容量との関係を表す特性図である。
【図17】FEC含有量と容量維持率との関係を表す特性図である。
【符号の説明】
【0166】
11…電池缶、12,13…絶縁板、14…電池蓋、15…安全弁機構、15A…ディスク板、16…熱感抵抗素子、17,66…ガスケット、20,30…巻回電極体、21,33,52…正極、21A,33A,52A…正極集電体、21B,33B,52B…正極活物質層、22,34,54…負極、22A,34A,54A…負極集電体、22B,34B,54B…負極活物質層、23,35,65…セパレータ、24…センターピン、25,31,51…正極リード、26,32,53…負極リード、36,55…電解質層、37…保護テープ、40,56…外装部材、41…密着フィルム、50…電極体、61…試験極、62…正極缶、63…対極、64…負極缶。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成元素として、ケイ素(Si)と、ホウ素(B)と、炭素(C)と、コバルト(Co)、チタン(Ti)および鉄(Fe)のうちの少なくとも1種の金属元素(M)と、を含み、
ホウ素の含有量は4.9質量%以上19.8質量%以下、炭素の含有量は4.9質量%以上19.8質量%以下、ホウ素と炭素との含有量の合計は9.8質量%以上29.8質量%以下、ケイ素と金属元素との含有量の合計に対するケイ素の含有量の割合(Si/(Si+M))は70質量%以上95質量%以下であると共に、
電極反応物質と反応可能であり、X線回折により得られる回折ピークの半値幅が1°以上である反応相を有する負極活物質。
【請求項2】
前記電極反応物質は、リチウム(Li)である請求項1記載の負極活物質。
【請求項3】
正極および負極と共に電解質を備え、
前記負極は、構成元素として、ケイ素と、ホウ素と、炭素と、コバルト、チタンおよび鉄のうちの少なくとも1種の金属元素と、を含む負極活物質を含有し、
前記負極活物質において、ホウ素の含有量は4.9質量%以上19.8質量%以下、炭素の含有量は4.9質量%以上19.8質量%以下、ホウ素と炭素との含有量の合計は9.8質量%以上29.8質量%以下、ケイ素と金属元素との含有量の合計に対するケイ素の含有量の割合は70質量%以上95質量%以下であると共に、
前記負極活物質は、電極反応物質と反応可能であり、X線回折により得られる回折ピークの半値幅が1°以上である反応相を有する二次電池。
【請求項4】
前記電極反応物質は、リチウムである請求項3記載の二次電池。
【請求項5】
前記電解質は、ハロゲンを構成元素として含む環状の炭酸エステル誘導体を含有する請求項3記載の二次電池。
【請求項6】
前記電解質における前記ハロゲンを構成元素として有する環状の炭酸エステル誘導体の含有量は、0.1質量%以上80質量%以下である請求項5記載の二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−3602(P2010−3602A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−162754(P2008−162754)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】