説明

負極活物質及び負極活物質の製造方法

【課題】Siを含む負極活物質と伝導イオンとの不可逆的な反応を抑制し、高充放電効率と高放電容量を兼ね備えた二次電池の提供を可能とする負極活物質及びその製造方法を提供する。
【解決手段】一般式SiO(0<x<2)で表わされるシリコン酸化物と、組成式MSi・m(OH)・n(HO)で表わされるシリケイト化合物と、を含有することを特徴とする負極活物質、並びに、一般式SiO(0<y<2)で表わされるシリコン酸化物、及び、金属酸化物、を混合する混合工程と、前記混合工程において得られた混合物を、非酸化性雰囲気下、加熱処理する熱処理工程と、を有し、前記金属酸化物は、前記熱処理工程の加熱温度における酸化反応の標準ギブスエネルギーの負の絶対値が、Siの前記熱処理工程の加熱温度における酸化反応の標準ギブスエネルギーの負の絶対値よりも小さい、負極活物質の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質及び負極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン、ビデオカメラ、携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。また、自動車産業界においても、電気自動車やハイブリッド自動車用の高出力且つ高容量の電池の開発が進められている。各種電池の中でも、エネルギー密度と出力が高いことから、リチウム電池が注目されている。
【0003】
リチウム電池は、一般的に、正極活物質を含む正極活物質層と、負極活物質を含む負極活物質層と、これら電極活物質層の間に介在する電解質層とを有し、さらに、必要に応じて、正極活物質層の集電を行う正極集電体や負極活物質層の集電を行う負極集電体とを有する。
【0004】
負極活物質としては、例えば、カーボン系負極活物質や金属系負極活物質等が知られている。一般的に金属系負極活物質は、カーボン系負極活物質と比較して、理論容量が大きいという利点を有する一方、伝導イオンであるリチウムイオンの挿入・脱離に伴う体積変化が大きいため、負極活物質層や負極活物質層に隣接する層の割れ、負極活物質の滑落や微粉化等が生じやすく、サイクル特性が悪いといった問題を有している。例えば、シリコン(Si)の理論容量は、炭素の理論容量が372mAh/gであるのに対して、4200mAh/g程度であり、カーボンの10倍以上である。そのため、サイクル特性等の諸特性に優れたシリコンを含有するシリコン系負極活物質の研究開発が進められている(例えば、特許文献1〜6等)。
【0005】
例えば、特許文献1には、負極活物質として、リチウムの吸蔵及び放出可能な、リチウムを含むケイ素酸化物又はケイ酸塩を用いたリチウム二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−325765号公報
【特許文献2】特開2008−198610号公報
【特許文献3】特開2009−70825号公報
【特許文献4】特開2010−140901号公報
【特許文献5】特開2009−164104号公報
【特許文献6】特開2004−349237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のような従来の負極活物質を用いても、初回の充放電効率が低いという問題がある。
また、SiOのマトリックス中に粒子状のシリコンを分散させることで、伝導イオンの挿入・脱離に伴う体積膨張を緩和できることが知られている。しかしながら、本発明者は、SiO等のシリコン酸化物が、リチウムイオンを可逆的に挿入・脱離する一方、リチウムイオンと不可逆的に反応してリチウムシリケイトを生成するという知見を得た。このような不可逆反応により二次電池の不可逆容量は増加し、充放電効率の低下を招く。
【0008】
本発明は上記実情を鑑みて成し遂げられたものであり、本発明の目的は、Siを含む負極活物質と伝導イオンとの不可逆的な反応を抑制し、高充放電効率と高容量を兼ね備えた二次電池の提供を可能とする負極活物質及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の負極活物質は、一般式SiO(0<x<2)で表わされるシリコン酸化物と、下記組成式(1)で表わされるシリケイト化合物と、を含有することを特徴とするものである。
Si・m(OH)・n(HO) 式(1)
(式(1)中、a、b、c、m及びnは、それぞれ、0<a≦7、0<b≦8、0<c≦22、0≦m≦4、0≦n≦10であり、Mは長周期型周期表における3族〜12族の遷移金属元素の少なくとも1種を含み、該遷移金属元素に加えてさらに1族のアルカリ金属元素及び2族のアルカリ土類金属元素の少なくとも1種を含んでいてもよく、Siは一部がAl及びBの少なくとも1種により置換されていてもよい。)
【0010】
本発明の負極活物質は、Siに由来する高容量を有すると共に、伝導イオン(例えば、リチウムイオン)との不可逆的な反応が抑制されているため充放電効率に優れている。
前記一般式SiOにおいて、xの値は、0.8≦x≦1.2であることが好ましい。
【0011】
本発明の負極活物質の形態例としては、例えば、前記シリコン酸化物を含むシリコン酸化物相の少なくとも内部に、前記シリケイト化合物を含むシリケイト化合物相が少なくとも1つ以上存在する形態が挙げられる。
より具体的には、前記シリケイト化合物相が、例えば、10〜2000nmの平均径を有する形態が挙げられる。
【0012】
本発明の負極活物質の他の形態例としては、例えば、前記シリコン酸化物を含むシリコン酸化物粒子の少なくとも表面に、前記シリケイト化合物を含むシリケイト化合物相が存在する形態が挙げられる。
より具体的には、前記シリコン酸化物粒子の表面に存在する前記シリケイト化合物相の厚さが、例えば、10〜2000nmの厚さを有する形態が挙げられる。
【0013】
本発明の負極活物質の製造方法は、
一般式SiO(0<y<2)で表わされるシリコン酸化物、及び、金属酸化物、を混合する混合工程と、
前記混合工程において得られた混合物を、非酸化性雰囲気下、加熱処理する熱処理工程と、を有し、
前記金属酸化物は、前記熱処理工程の加熱温度における酸化反応の標準ギブスエネルギーの負の絶対値が、Siの前記熱処理工程の加熱温度における酸化反応の標準ギブスエネルギーの負の絶対値よりも小さいことを特徴とする。
【0014】
本発明の負極活物質の製造方法によれば、一般式SiO(0<x<2)で表わされるシリコン酸化物を含むシリコン酸化物相と、上記組成式(1)で表わされるシリケイト化合物を含むシリケイト化合物相と、を有する負極活物質を合成することができる。
【0015】
前記一般式SiOにおいて、yの値は、0.8≦y≦1.2であることが好ましい。
前記熱処理工程において、前記加熱処理は、不活性雰囲気下、600℃〜1000℃で行うことが好ましい。上記シリコン酸化物と金属酸化物との反応を効率良く進行させることができるからである。
また、前記熱処理工程において、前記加熱処理は、700℃〜900℃で行うことが好ましい。上記シリコン酸化物粒子の表面に、上記シリケイト化合物相が存在する負極活物質を、効率良く合成することができるからである。
【0016】
前記混合工程においては、前記シリコン酸化物1molに対して、0.001〜0.2molの前記金属酸化物を混合することが好ましい。容量を維持しつつ、高い充放電効率を発現する負極活物質を効率良く合成することができるからである。
【0017】
前記混合工程において、前記金属酸化物の平均粒径は、前記シリコン酸化物の平均粒径以下であることが好ましい。サイクル特性に優れた負極活物質を合成することができるからである。
【0018】
前記混合工程において、前記シリコン酸化物の表面に前記金属酸化物を付着させることが好ましい。容量を維持しつつ、高い充放電効率を発現する負極活物質を効率良く合成することができるからである。
【0019】
前記混合工程において、前記シリコン酸化物及び前記金属酸化物の混合方法としては、メカノケミカル法が好ましい。メカノケミカル法としては、例えば、ボールミルが挙げられる。
メカノケミカル法を採用することによって、シリコン酸化物の表面に金属酸化物を付着させることが可能であり、容量及び充放電効率に優れた負極活物質を効率良く得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、SiOとリチウムイオン等の伝導イオンとの不可逆反応の進行が抑制された負極活物質を提供することができる。従って、本発明の負極活物質を用いることで、二次電池の充放電効率と放電容量とを向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例1の負極活物質の粉末X線回折の結果である。
【図2】実施例1及び比較例1〜6の負極活物質の粉末X線回折の結果である。
【図3】実施例4の負極活物質の暗視野STEM像である。
【図4】実施例4の負極活物質の暗視野STEM像である。
【図5】実施例4の負極活物質の暗視野STEM像である。
【図6】実施例4の負極活物質の暗視野STEM像及びエネルギー分散型X線分光分析の結果である。
【図7】実施例6の負極活物質の暗視野STEM像である。
【図8】実施例6の負極活物質の暗視野STEM像である。
【図9】参考実験例1の負極活物質の粉末X線回折の結果である。
【図10】実施例7〜14及び比較例12の充放電容量を示すグラフである。
【図11】実施例7〜14及び比較例12の充放電効率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の負極活物質及び負極活物質の製造方法について詳しく説明する。
【0023】
[負極活物質]
本発明の負極活物質は、一般式SiO(0<x<2)で表わされるシリコン酸化物と、下記組成式(1)で表わされるシリケイト化合物と、を含有することを特徴とするものである。
【0024】
Si・m(OH)・n(HO) 式(1)
(式(1)中、a、b、c、m及びnは、それぞれ、0<a≦7、0<b≦8、0<c≦22、0≦m≦4、0≦n≦10であり、Mは長周期型周期表における3族〜12族の遷移金属元素の少なくとも1種を含み、該遷移金属元素に加えてさらに1族のアルカリ金属元素及び2族のアルカリ土類金属元素の少なくとも1種を含んでいてもよく、Siは一部がAl及びBの少なくとも1種により置換されていてもよい。)
【0025】
負極活物質として一般的に用いられているカーボンと比較して、10倍以上の容量を有するシリコン(Si)は、充放電時の伝導イオン(例えば、リチウムイオン)の挿入・脱離に伴う膨張収縮が大きく、負極活物質層や、負極活物質層に隣接する層や部材の割れ等を招き、電池の耐久性を低下させる原因の一つとなる。そこで、シリコンの膨張収縮を緩和すべく、SiOやSiO等のシリコン酸化物を用いることが提案されているが、シリコン酸化物と伝導イオンとの不可逆反応が起き、充放電効率やサイクル特性の低下を引き起こすことが知られている。例えば、SiOは、充放電時、リチウムイオンと次のような反応:Li+SiO⇔Li4.4Si+LiSiO(この式において化学量論比は考慮しないものとする)を起こすと考えられる。Li4.4Siは、Siへのリチウムイオンの可逆的な挿入により生成するものであるが、LiSiOは不可逆的な反応により生成する。
【0026】
不可逆反応による問題を解決すべく、本発明者が鋭意検討したところ、一般式SiO(0<x<2)で表わされるシリコン酸化物(以下、「シリコン酸化物SiO」ということがある)と、シリケイト化合物、特に、上記組成式(1)で表わされるシリケイト化合物(以下、「シリケイト化合物(1)」ということがある)と、を含有する負極活物質を用いることで、SiOとリチウムイオン等の伝導イオンとの不可逆的な副反応を抑制できることが見出された。
シリコン酸化物SiOとシリケイト化合物(1)とを含有する本発明の負極活物質が上記のような不可逆的な副反応を抑制できる理由は次のように推測される。すなわち、本発明者の知見によれば、シリコン化合物SiOとリチウムイオン等の伝導イオンとの不可逆的な副反応は、シリコン化合物SiOの基本構造であるSiO四面体のSi欠陥に、伝導イオン(例えばリチウムイオン)が入り込むことが引きがねとなって進むと考えられる。具体的には、伝導イオンがSi欠陥に入り込んだSiO四面体は、電荷バランスが崩れ、その結果、該SiO四面体の近傍に存在するSiO四面体の電荷バランスの崩れや、該SiO四面体と連結しているSiO四面体との結合力の変化等が生じ、周囲のSiO四面体へと連鎖的に不可逆反応が進行すると考えられる。本発明では、シリコン酸化物SiOとシリケイト化合物(1)とを共存させることによって、上記のようなSi欠陥への伝導イオンの入り込みを阻止することが可能となり、連鎖的な不可逆反応の進行を効果的に抑制することができると推測される。
以上のように、本発明の負極活物質は、SiOと伝導イオンとの不可逆的な副反応が抑制されているため、充放電効率を向上させることができる。
【0027】
以下、本発明の負極活物質を構成するシリコン酸化物SiO及びシリケイト化合物(1)について説明する。
【0028】
(シリコン酸化物SiO
本発明の負極活物質が含有するシリコン酸化物は、その組成がSiO(0<x<2)で表わされるものであり、単相から構成されていても、複数の相から構成されていてもよい。具体的には、例えば、単一のSiO(0<x<2)相から構成されていてもよいし、x値の異なる複数のSiO(0<x<2)相から構成されていてもよいし、SiO(0≦z≦0.8)相とSiO(1.2≦v≦2)相とを含む構成(例えば、Si相とSiO相とを含む構成)であってもよい。
また、シリコン酸化物SiOに含まれる相は、アモルファスであってもよいし、結晶質であってもよいし、或いは、アモルファスと結晶質とが混在していてもよいが、電子伝導性の観点から、結晶質のSiOを含まないことが好ましい。
また、シリコン酸化物SiOは、酸素欠陥や、シリコン欠陥を有していてもよい。
【0029】
シリコン酸化物SiOにおいて、不可逆容量、サイクル特性等の観点から、xの値は、0.8≦x≦1.2であることが好ましい。
【0030】
本発明の負極活物質が含有するシリケイト化合物(1)は、下記組成式(1)で表わされるものである。
Si・m(OH)・n(HO) 式(1)
(式(1)中、a、b、c、m及びnは、それぞれ、0<a≦7、0<b≦8、0<c≦22、0≦m≦4、0≦n≦10であり、Mは長周期型周期表における3族〜12族の遷移金属元素の少なくとも1種を含み、該遷移金属元素に加えてさらに1族のアルカリ金属元素及び2族のアルカリ土類金属元素の少なくとも1種を含んでいてもよく、Siは一部がAl及びBの少なくとも1種により置換されていてもよい。)
【0031】
シリケイト化合物(1)は、その組成が上記組成式(1)で表わされる、遷移金属元素であるMとシリコンと酸素とを含む化合物であり、シリコン酸化物と金属酸化物との混合物ではない。混合物でないことは、X線粉末回折測定により確認することができる。
シリケイト化合物(1)は、酸素欠陥や金属欠陥(ケイ素欠陥、M欠陥)を有していてもよい。また、シリケイト化合物(1)は、通常、結晶質であるが、アモルファスであってもよいし、アモルファスと結晶質とが混在していてもよい。
【0032】
上記式(1)において、Mとしては、周期表の第4〜第6周期に属する遷移金属が好ましく、特に第4周期に属する遷移金属、中でもFeが好ましい。Mは、3〜12族の遷移金属元素の少なくとも1種を含む限りは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の少なくとも1種を含んでいてもよいが、導電性や活物質性能が低下する場合があることから、アルカリ金属及びアルカリ土類金属を含まないことが好ましい。
【0033】
シリケイト化合物(1)において、シリコン(Si)は、その一部がAl及びBの少なくとも1種で置換されていてもよい。また、Siは、Al及びB以外にも、Siイオンとイオン半径やイオン価が近い等の理由から、他の原子(イオン)に置換されうる。
【0034】
上記式(1)において、a、b及びcは、シリケイト化合物(1)の基本骨格を形成するSiO四面体の連結形態等によって異なってくる。
SiO四面体とは、4つの酸素原子を頂点とする四面体の空隙に、これら4つの酸素原子と共有結合した1つのシリコン原子が入った構造であり、1つの四面体が独立して、或いは、複数の四面体が1つの酸素又は複数の酸素を他の四面体と共有して、鎖状、環状、平面状、層状、又は三次元的な網目状等に連結して、存在する。
シリケイト化合物(1)において、SiO四面体の連結形態は特に限定されない。シリケイト化合物(1)は、SiO四面体と、SiO四面体同士の隙間に入り込んだ遷移金属元素Mの陽イオンにより構成される。
以上のように、シリケイト化合物は、様々な骨格形態をとり得るため、a、b及びcの値は上記範囲内であれば特に限定されない
【0035】
本発明において、負極活物質がシリコン酸化物SiOとシリケイト化合物とを含有するとは、シリコン酸化物SiOとシリケイト化合物(1)とが物理的な混合状態である場合や、シリコン酸化物SiOとシリケイト化合物(1)のうち、一方が他方の表面を物理的に被覆している場合、一方が他方の表面に化学的結合により担持されている場合、一方の結晶相内又はアモルファス相内に他方の結晶相又はアモルファス相が取り込まれている場合、一方の結晶相又はアモルファス相の表面に他方の結晶相又はアモルファス相が存在している場合等を含む。また、シリコン酸化物SiO及びシリケイト化合物(1)以外の成分が含有されることを排除するものではない。
【0036】
より確実に、SiOの不可逆的な反応を抑制できることから、本発明の負極活物質は、シリコン酸化物SiOとシリケイト化合物(1)のうち、一方の結晶相内又はアモルファス相内に他方の結晶相又はアモルファス相が取り込まれている形態を有しているか、一方の結晶相又はアモルファス相の表面に他方の結晶相又はアモルファス相が存在している形態を有していることが好ましい。
具体的には、本発明の負極活物質の好ましい形態としては、(A)シリコン酸化物SiOを含むシリコン酸化物相の少なくとも内部に、シリケイト化合物(1)を含むシリケイト化合物相が少なくとも1つ以上存在する形態、及び、(B)シリコン酸化物SiOを含むシリコン酸化物粒子の少なくとも表面に、シリケイト化合物(1)を含むシリケイト化合物相が存在する形態、が挙げられる。ここで、シリコン酸化物相、シリケイト化合物相、シリコン酸化物粒子は、それぞれ、アモルファスであっても結晶質であってもよい。また、シリケイト化合物相は、シリコン酸化物相或いはシリコン酸化物粒子の内部及び表面の両方に存在していてもよい。
【0037】
上記形態(A)の典型例は、シリコン酸化物SiOを含むシリコン酸化物粒子の少なくとも内部に、シリケイト化合物相が少なくとも1つ以上存在する形態である。
形態(A)において、シリケイト化合物相の平均径は、10〜2000nmであることが好ましく、特に、10〜500nmであることが好ましい。ここで、シリケイト化合物相の平均径とは、シリケイト化合物相の投影面積を円換算した場合の平均径であり、例えば、走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いて、複数のシリケイト化合物相の投影面積を測定し、算出することができる。
【0038】
本発明者の知見によれば、本発明の負極活物質において、上記形態(B)は、シリコン酸化物SiOと伝導イオン(例えば、リチウムイオン)との不可逆的な副反応をより効果的に抑制することができることから、特に好ましい形態である。
その理由は、次のように考えられる。すなわち、負極活物質の表面にシリケイト化合物(1)が存在することによって、上記不可逆的な副反応の引き金となる、SiOのSi欠陥部分への伝導イオンの入り込みを、より効果的に阻止することができるからである。
このような観点から、シリケイト化合物相はシリケイト化合物粒子の表面を覆うように存在することが特に好ましいといえる。
また、上記形態(B)は、負極活物質の電子伝導性が向上するという効果もある。
【0039】
形態(B)において、シリコン酸化物粒子の表面に存在するシリケイト化合物相の厚さは、10〜2000nmであることが好ましく、特に、10〜500nmであることが好ましい。シリケイト化合物相の厚さが、上記下限値以上であることによって、シリケイト化合物(1)による不可逆的な副反応の抑制効果を高めることができる。ここで、シリコン酸化物の表面に存在するシリケイト化合物相の厚さは、例えば、走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いて測定することができる。
【0040】
本発明の負極活物質の形状は特に限定されず、例えば、球状、繊維状、板状等の粒子であってもよいし、粒子の塊状凝集体であってもよい。また、負極活物質の大きさは特に限定されず、例えば、粒子や粒子の塊状凝集体の場合は、一次粒子の平均粒径が、0.5μm〜50μmであることが好ましく、特に0.5μm〜30μmであることが好ましい。一次粒子の平均粒径は、例えば、SEM、粒度分布測定等によって測定することができる。
【0041】
本発明の負極活物質を製造する方法は特に限定されず、例えば、シリコン酸化物SiOとシリケイト化合物(1)とを物理的に混合する方法、熱処理により化学的に混合する方法、電気化学的に混合する方法等が挙げられるが、好ましい方法として、以下に説明する本発明の負極活物質の製造方法が挙げられる。
【0042】
[負極活物質の製造方法]
本発明の負極活物質の製造方法は、
一般式SiO(0<y<2)で表わされるシリコン酸化物、及び、金属酸化物、を混合する混合工程と、
前記混合工程において得られた混合物を、非酸化性雰囲気下、加熱処理する熱処理工程と、を有し、
前記金属酸化物は、前記熱処理工程の加熱温度における酸化反応の標準ギブスエネルギーの負の絶対値が、Siの前記熱処理工程の加熱温度における酸化反応の標準ギブスエネルギーの負の絶対値よりも小さいことを特徴とするものである。
【0043】
本発明の負極活物質の製造方法は、一般式SiO(0<y<2)で表わされるシリコン酸化物(以下、シリコン酸化物SiOということがある)を、上記特定の標準ギブスエネルギーを有する金属酸化物(以下、還元性金属酸化物ということがある)の存在下、非酸化性雰囲気下で、加熱処理する点に大きな特徴を有している。このような加熱処理によって、シリコン酸化物SiOが熱処理雰囲気中の酸素によって酸化されるのを抑えつつ、シリコン酸化物SiOを上記金属酸化物によって酸化してシリケイト化合物を生成させることができる。その結果、シリコン酸化物SiOとシリケイト化合物とを含有する負極活物質を得ることができる。従って、本発明によれば、シリコンSiに起因する高容量を有しつつ、伝導イオンとの不可逆的な副反応が抑制された負極活物質を得ることができる。
【0044】
本発明の負極活物質の製造方法により得られる負極活物質は、典型的には、一般式SiO(0<x<2)で表わされるシリコン酸化物を含むシリコン酸化物相と、シリケイト化合物(1)を含むシリケイト化合物相とを有する。具体的には、(A)シリコン酸化物SiOを含むシリコン酸化物相の少なくとも内部に、シリケイト化合物(1)を含むシリケイト化合物相が少なくとも1つ以上存在する形態や、(B)シリコン酸化物SiOを含むシリコン酸化物粒子の少なくとも表面に、シリケイト化合物(1)を含むシリケイト化合物相が存在する形態を有する負極活物質が得られる。
本発明の負極活物質の製造方法においては、次のようなメカニズムにより、上記形態(A)及び形態(B)のような、分子レベルでシリコン酸化物SiOとシリケイト化合物とが混在する負極活物質が得られると考えられる。すなわち、原料であるシリコン酸化物SiOは酸素欠陥やシリコン欠陥を有しており、非酸化性雰囲気で、還元性金属酸化物の共存の下、加熱することによって、還元性金属酸化物の酸素原子や金属原子が、シリコン酸化物SiOの酸素欠陥やシリコン欠陥に導入され、シリケイト化合物が生成すると推測される。
【0045】
以下、本発明の負極活物質の製造方法の各工程について詳しく説明する。
(混合工程)
混合工程は、シリコン酸化物SiOと、還元性金属酸化物とを混合する工程である。
【0046】
シリコン酸化物SiOは、単相から構成されていても、複数の相から構成されていてもよい。具体的には、例えば、単一のSiO(0<y<2)相から構成されていてもよいし、y値の異なる複数のSiO(0<y<2)相から構成されていてもよいし、SiOz(0≦z≦0.8)相とSiOv(1.2≦v≦2)相とを含む構成(例えば、Si相とSiO相とを含む構成)であってもよい。
また、シリコン酸化物SiOに含まれる相は、アモルファスであってもよいし、結晶質であってもよいし、アモルファスと結晶質とが混在していてもよい。
また、シリコン酸化物SiOは、酸素欠陥や、シリコン欠陥を有していてもよい。
【0047】
シリコン酸化物SiOにおいて、不可逆容量、サイクル特性等の観点から、yの値は、0.8≦y≦1.2であることが好ましい
【0048】
シリコン酸化物SiOのサイズは特に限定されないが、例えば、平均粒径が、100nm〜50μmであることが好ましく、特に100nm〜30μmであることが好ましい。ここで、平均粒径とは、シリコン酸化物の一次粒子の平均粒径であり、例えば、SEM、粒度分布測定等により測定することができる。
【0049】
還元性金属酸化物は、混合工程に続く熱処理工程の加熱温度下における酸化反応の標準ギブスエネルギーΔGの負の絶対値(|ΔG|)が、シリコン(Si)の上記熱処理工程の加熱温度下における酸化反応の標準ギブスエネルギーΔGSiの負の絶対値(|ΔGSi|)よりも小さい(|ΔG|<|ΔGSi|)ものである。すなわち、還元性金属酸化物の酸化反応の標準ギブスエネルギーΔG及びシリコンの酸化反応の標準ギブスエネルギーΔGSiは、負の値であり、還元性金属酸化物の酸化反応の標準ギブスエネルギーΔGがより小さな負の値を有する(より正側の値を有する)。このような標準ギブスエネルギーを有する金属酸化物は、熱処理工程の温度条件下、シリコンより熱力学的に不安定であり、非酸化性雰囲気である熱処理工程において、シリコン酸化物SiOを酸化する能力を有している。つまり、還元性金属酸化物は、熱処理工程の温度条件下、シリコン酸化物SiOに酸素を供給する能力を有しており、さらには、シリコン酸化物SiOに金属元素も供給しうる。
【0050】
還元性金属酸化物としては、上記のような特定の標準ギブスエネルギーを有していれば特に限定されない。本発明で使用できる還元性金属酸化物は、例えば、次のようにして選定することができる。すなわち、熱処理工程の加熱温度におけるシリコンの酸化反応(Si+O→SiO)の標準ギブスエネルギーΔGSiと、熱処理工程の加熱温度における金属酸化物の酸化反応の標準ギブスエネルギーΔGと、を算出する。ΔGSiとΔGとの差(ΔGSi−ΔG)が負の値になるものが還元性金属酸化物として使用することができる。また、還元性金属酸化物として使用できるかどうかのおおよその判断には、エリンガム図を用いることができる。
【0051】
還元性金属酸化物として、具体的には、例えば、Fe、Fe、FeO、Ti、TiO、Ti、TiO、CoO、ZnO、MnO、Mn、MnO、CuO、CuO、NiO、Nb、NbO、NbO、V、VO、V、VO、CrO、Cr、WO、AgO、Pt、Rh、OsO、IrO等を挙げることができ、好適な還元性金属酸化物としては、例えば、Fe、Fe、FeO、Ti、TiO、Ti、TiO、CoO、ZnO、MnO、Mn、MnO、CuO、CuO、NiO、Nb、NbO、NbO、V、VO、V、VO、CrO、Cr、WO、等を挙げることができる。
【0052】
還元性金属酸化物のサイズは特に限定されず適宜選択することができるが、例えば、平均粒径が、10nm〜30μmであることが好ましく、特に10nm〜5μm、さらに10nm〜1μmであることが好ましい。ここで、平均粒径とは、還元性金属酸化物の一次粒子の平均粒径であり、SEMや粒度分布測定により測定することができる。
【0053】
混合工程において、シリコン酸化物SiOと、還元性金属酸化物との混合割合は、特に限定されないが、充放電効率のさらなる向上が可能であることから、シリコン酸化物SiO1molに対して、還元性金属酸化物を0.001〜0.2molとすることが好ましい。さらに容量低下を低減できることがから、シリコン酸化物SiO1molに対して、還元性金属酸化物を0.001〜0.15molとすることが特に好ましく、容量低下の低下を抑制しつつ充放電効率の向上が可能であることから、シリコン酸化物SiO1molに対して、還元性金属酸化物を0.001〜0.1molとすることがさらに好ましい。
【0054】
また、混合工程において、還元性金属酸化物の平均粒径は、シリコン酸化物SiOの平均粒径以下であることが好ましい。このような大小関係を有する還元性金属酸化物とシリコン酸化物SiOとを原料として用いることで、上記形態(B)を有する負極活物質が得られやすいためである。また、上記のような大小関係を有する還元性金属酸化物とシリコン酸化物SiOとから製造した負極活物質を用いることによって、二次電池のサイクル特性が向上することが確認されている。
還元性金属酸化物の平均粒径とシリコン酸化物SiOの平均粒径との具体的な差などは特に限定されず、還元性金属酸化物及びシリコン酸化物SiOそれぞれの平均粒径が、上記にて好ましい平均粒径として示した範囲内にあることが好ましい。
【0055】
混合工程における、還元性金属酸化物とシリコン酸化物SiOとの混合方法は特に限定されず、乳鉢やボールミル等の公知の方法を採用することができる。好ましい方法としては、シリコン酸化物SiOの表面に還元性金属酸化物を付着させ、シリコン酸化物SiOの表面を還元性金属酸化物で被覆することができることから、メカノケミカル法が挙げられる。メカノケミカル法は、剪断力、衝撃、圧縮、摩擦等の機械的エネルギーを加えるものであり、例えば、ボールミル、ターボミル、ディスクミル等の粉砕法の他、スパッタリング、メッキ法等が挙げられ、ホソカワミクロン製のメカノフュージョンシステム、ノビルタ、及びナノクリエーター等の製品を用いることもできる。中でも、ボールミルが好ましい。
ボールミルによる混合は、通常、ポット内へ、原料である還元性金属酸化物及びシリコン酸化物SiOと、メディア(ボール)とを投入し、メディアを回転させることで、原料を混合する。ボールミルの条件(例えば、メディアの材料、大きさ、回転数、処理時間等)は、適宜選択、設定すればよく、特に限定されない。
【0056】
(熱処理工程)
熱処理工程は、上記混合工程で得られた混合物を、非酸化性雰囲気下、加熱処理する工程である。
熱処理工程の非酸化性雰囲気は、熱処理雰囲気中の酸素によるシリコン酸化物の酸化を抑制できればよく、具体的には酸素分圧が大気の酸素分圧未満であればよく、アルゴンガス雰囲気、窒素ガス雰囲気等の不活性雰囲気でもよいし、真空でもよいし、水素ガス雰囲気等の還元性雰囲気でもよいが、不活性雰囲気であることが好ましい。
【0057】
熱処理工程における加熱温度は、特に限定されないが、1000℃以下であることが好ましい。結晶質のSiOの生成を抑制することができるからである。上記形態(B)を有する負極活物質が得られやすいことから、特に900℃以下であることが好ましい。
一方、還元性金属酸化物とシリコン酸化物SiOとが反応し、シリケイト化合物(1)が生成するためには、600℃以上であることが好ましく、特に700℃以上であることが好ましい。
熱処理工程における加熱時間は、適宜設定すればよい。
【0058】
本発明により提供される負極活物質は、二次電池の負極活物質の他、一次電池の負極活物質としても使用することができる。二次電池としては、リチウム二次電池以外のその他金属二次電池も含まれるが、リチウムイオンとの不可逆的な副反応が効果的に抑制されることから、本発明の負極活物質は、リチウム二次電池の負極活物質として好適である。
以下、リチウム二次電池を例に、本発明により提供される負極活物質を用いる二次電池について説明する。
【0059】
リチウム二次電池は、通常、負極と正極との間に電解質層が介在するように配置された構造を有している。
【0060】
負極は、リチウムイオン(伝導イオン)を放出・取り込み可能な負極活物質を含有する。負極は、通常、負極活物質を少なくとも含む負極活物質層を有し、必要に応じて、負極活物質層の集電を行う負極集電体をさらに備える。
負極活物質として、上記本発明の負極活物質や本発明の製造方法により製造された負極活物質を用いることができる。
【0061】
負極活物質層は、負極活物質のみを含有するものであってもよいが、負極活物質の他に結着剤、導電性材料、電解質等を含有するものであってもよい。例えば、負極活物質が箔状である場合は、負極活物質のみを含有する負極層とすることができる。一方、負極活物質が粉末状である場合は、負極活物質に加えて結着剤を含有する負極層とすることができる。
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリイミド(PI)、ポリイミドアミド(PIA)、アクリル、ポリアミド、等が挙げられる。導電性材料としては、例えば、カーボンブラック、活性炭、カーボン炭素繊維(例えばカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等)、グラファイト等の炭素材料等を挙げることができる。電解質としては、例えば、後述する固体電解質と同様のものを用いることができる。
【0062】
正極は、リチウムイオン(伝導イオン)を放出・取り込み可能な正極活物質を含有する。正極は、通常、正極活物質を少なくとも含む正極活物質層を有し、必要に応じて、正極活物質層の集電を行う正極集電体をさらに備える。
正極活物質としては、リチウム二次電池の正極活物質として使用可能なもの、例えば、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNiCo1−y−xMn)、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMnO)、鉄オリビン(LiFePO)、コバルトオリビン(LiCoPO)、マンガンオリビン(LiMnPO)、チタン酸リチウム(LiTi12)、リン酸バナジウムリチウム(Li(PO)等のリチウム遷移金属化合物、銅シュブレル(CuMo)、硫化鉄(FeS)、硫化コバルト(CoS)、硫化ニッケル(NiS)等のカルコゲン化合物などが挙げられる。
【0063】
負極活物質層と同様、正極活物質層は、正極活物質のみを含有するものであってもよいが、正極活物質の他に導電性材料や、結着剤、電解質、電極触媒等を含有するものであってもよい。正極活物質における導電性材料、結着剤、電解質については、負極活物質層と同様の材料を用いることができるため、ここでの説明は省略する。
【0064】
負極活物質層及び正極活物質層は、例えば、各材料を含むスラリーを、メタルマスク印刷法、静電塗布法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法等により塗布、乾燥し、必要に応じて、圧延することで電極活物質層を形成することができる。
【0065】
正極集電体及び負極集電体としては、所望の電子伝導性を有し、且つ、電池内環境下において伝導イオンと合金化反応を起こさない(例えば、リチウムイオン電池の場合、Li基準電位で0.8V以下でLiと合金化反応を起こさない)材料であれば、その構造や形状、材料に特に限定はない。
正極集電体の材料としては、例えば、ステンレス、ニッケル、アルミニウム、鉄、チタン、銅等の金属材料、カーボンファイバー、カーボンペーパー等のカーボン材料、窒化チタン等の高電子伝導性セラミックス材料等が挙げられる。電池ケースが正極集電体としての機能を兼ね備えていてもよい。
負極集電体の材料としては、銅、ステンレス、ニッケル、チタン等が挙げられる。電池ケースが負極集電体としての機能を有していてもよい。
正極集電体及び負極集電体の形状としては、例えば、板状、箔状、メッシュ状等が挙げられる。
【0066】
電解質層は、正極と負極との間のリチウムイオン(伝導イオン)の伝導を可能とする電解質を少なくとも含有する。
電解質としては、リチウムイオン伝導性を有していればよく、例えば、電解液、電解液をポリマー等を用いてゲル化したゲル状電解質、固体電解質等が挙げられる。
例えば、リチウムイオン伝導性を有する電解液としては、電解質塩(例えば、リチウム塩)を、水系又は非水溶媒に溶解した電解液が挙げられる。
【0067】
非水溶媒としては、特に限定されず、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ビニレンカーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、イソプロピオメチルカーボネート、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、γ−ブチロラクトン、酢酸エチル、酢酸メチル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、アセトニトリル(AcN)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジエトキシエタン、ジメトキシエタン(DME)等が挙げられる。中でも、AcN、DMSO、PC、EC、DEC等の非プロトン系極性溶媒が好ましく、特に、PC、EC等の高誘電率を有する環状カーボネート化合物と、DEC、DMC等の鎖状カーボネートと、を含有する混合溶媒が好ましい。
また、イオン性液体を非水溶媒として用いることもできる。イオン性液体としては、例えば、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド[略称:PP13−TFSA]、N−メチル−N−プロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド[略称:P13−TFSA]等が挙げられる。
【0068】
電解質塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiOH、LiCl、LiNO、LiSO等の無機リチウム塩が挙げられる。また、CHCOLi、リチウムビスオキサレートボレート(略称 LiBOB)、LiN(CFSO(略称 LiTFSA)、LiN(CSO(略称 LiBETA)、LiN(CFSO)(CSO)等の有機リチウム塩を用いることもできる。
非水電解液において、リチウム塩の濃度は特に限定されないが、例えば、0.3mol/L〜5mol/Lであることが好ましく、特に1〜3mol/Lであることが好ましく、さらに1〜2.5mol/Lであることが好ましく、中でも0.8〜1.5mol/Lであることが好ましい。リチウム塩の濃度が上記上限値以下であることによって、電解液の過度な粘度上昇を抑え、高率放電における放電容量の低下や低温条件下における放電容量の低下を抑制することができる。一方、リチウム塩の濃度が上記下限値以上であることによって、リチウムイオン量が確保され、高率放電における放電容量の低下や低温条件下における放電容量の低下を抑制することができる。
【0069】
非水系電解液は、ポリマーを添加してゲル化して用いることもできる。非水電解液のゲル化の方法としては、例えば、非水系電解液に、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリルニトリル(PAN)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)またはポリメチルメタクリレート(PMMA)等のポリマーを添加する方法が挙げられる。
【0070】
水系電解液の電解質としては、LiOH、LiCl、LiNO、LiSO、CHCOOLi等が挙げられる。
【0071】
電解液は、通常、セパレータに含浸された状態で、正極と負極との間に介在させられる。セパレータとしては、絶縁性多孔質体が挙げられ、セパレータの材料としては、例えば、樹脂、無機材料、複数種の樹脂の複合体や、樹脂と無機材料の複合体等を用いることができる。また、複数のセパレータを積層等した接合体を用いることもできる。
【0072】
固体電解質としては、例えば、無機固体電解質が挙げられる。例えば、LiO−B−P、LiO−SiO、LiO−B、及びLiO−B−ZnO等の酸化物系非晶質固体電解質;LiS−SiS、LiI−LiS−SiS、LiI−LiS−P、LiI−LiS−B、LiPO−LiS−SiS、LiPO−LiS−SiS、及びLiPO−LiS−SiS、LiI−LiS−P、LiI−LiPO−P、LiS−P等の硫化物系非晶質固体電解質;LiI、LiI−Al、LiN、LiN−LiI−LiOH、Li1.3Al0.3Ti0.7(PO、Li1+x+yTi2−xSi3−y12(A=Al又はGa、0≦x≦0.4、0<y≦0.6)、[(B1/2Li1/21−z]TiO(B=La、Pr、Nd及びSmから選ばれる少なくとも1種、C=Sr又はBa、0≦z≦0.5)、LiLaTa12、LiLaZr12、LiBaLaTa12、LiPO(4−3/2w)(w<1)、及びLi3.6Si0.60.4等の結晶質酸化物や結晶質窒化物等が挙げられる。
固体電解質を用いる場合、電解質層は、固体電解質の他、必要に応じてその他の成分、例えば、結着剤、可塑剤等を含有していてもよい。
【0073】
正極、負極、電解質層は、電池ケースに収納することができる。電池ケースとしては、コイン型、平板型、円筒型、ラミネート型等の一般的な形状を有するものを用いることができる。
電池が、正極、電解質層、負極の順番で配置されている積層体を、繰り返し何層も重ねる構造を取る場合には、安全性の観点から、正極および負極の間に、絶縁性材料からなるセパレータを備えることができる。セパレータとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔膜;および樹脂不織布、ガラス繊維不織布等の不織布等を挙げることができる。
また、各電極の集電体には、それぞれ、外部との接続部となる端子を設けることができる。
【実施例】
【0074】
[負極活物質の合成]
(実施例1)
まず、一酸化ケイ素(SiO)(大阪チタニウムテクノロジーズ製、平均粒径5μm)と、酸化鉄(Fe)(シーアイ化成製、平均粒径0.039μm)を均一になるまで乳鉢で混合した。尚、SiO 1molに対して、0.125molのFeを添加した。
得られた混合物を、非酸化性雰囲気下(アルゴンガス雰囲気下)、1000℃で、3時間反応させた。
得られた反応物について、粉末X線回折装置(理学電気製)により、2θ=10〜80°の範囲で、スキャンスピード10°/minで同定を行った。結果を図1及び図2に示す。図1に示すように、反応物はFeSiO含み、原料であるFeが還元されたことがわかった。また、得られた反応物について、TEM−EDX(透過電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光分析)を行ったところ、FeSiO以外に、SiO(0.8<x<1.2)を含むことがわかった。SiOはXRDにおいてピークが観察されなかったことから、アモルファスであると考えられる。
【0075】
(比較例1)
実施例1において、一酸化ケイ素(SiO)の代わりに、シリコン(Si)(Aldrich製、平均粒径5μm)を用いたこと以外は同様にして、負極活物質を得た。粉末X線回折の結果を図2に示す。実施例1とは異なり、FeとSiOが生成し、FeとSiの複合酸化物は生成しなかった。
【0076】
(比較例2)
実施例1において、一酸化ケイ素(SiO)の代わりに、二酸化ケイ素(SiO)(高純度化学製、平均粒径5μm)を用いたこと以外は同様にして、負極活物質を得た。粉末X線回折の結果を図2に示す。実施例1とは異なり、原料のFeとSiOの存在が確認され、FeとSiの複合酸化物(シリケイト)は生成しなかった。
【0077】
(比較例3)
実施例1において、反応雰囲気を大気雰囲気としたこと以外は同様にして、負極活物質を得た。粉末X線回折の結果を図2に示す。実施例1とは異なり、原料のFeとSiOの存在が確認され、FeとSiの複合酸化物は生成しなかった。
【0078】
(比較例4)
実施例1において、Feを用いなかったこと以外は同様にして、負極活物質を得た。粉末X線回折の結果を図2に示す。実施例1とは異なり、原料のSiOの存在が確認され、FeとSiの複合酸化物は生成しなかった。
【0079】
(比較例5)
実施例1において、Feを用いなかったこと、及び、反応雰囲気を大気雰囲気としたこと、以外は同様にして、負極活物質を得た。粉末X線回折の結果を図2に示す。実施例1とは異なり、SiOの生成が確認され、FeとSiの複合酸化物は生成しなかった。
【0080】
(比較例6)
実施例1において、Feを用いなかったこと、及び、反応温度を1300℃に変更したこと、以外は同様にして、負極活物質を得た。粉末X線回折の結果を図2に示す。実施例1とは異なり、SiとSiOの存在が確認され、FeとSiの複合酸化物は生成しなかった。
【0081】
[負極活物質の評価]
上記実施例1及び比較例1〜6で得られた各負極活物質について、以下のようにして負極を作製し、評価した。
(負極の作製)
負極活物質と、アセチレンブラック(電気化学工業製)と、ポリアミド(東レ製)とを、76.5:13.5:10(重量比)で混合し、さらに、分散剤として、N−メチル−2−ピロリドン(和光製)、及び溶媒を添加し、負極材スラリーを調製した。
次に、負極材スラリーをドクターブレード法を用いて銅箔(集電体)上に塗布し、乾燥及び圧延し、負極活物質層と負極集電体とが積層した負極を得た。
【0082】
(評価用セルの作製)
評価用セルを次のようにして作製した。
まず、箔状のリチウム金属(本城金属製)を、ローラーを用いて平滑化し、φ19mmに打ち抜き、対極を得た。
一方、エチレンカーボネート(EC)とジエチレンカーボネート(DEC)とを3:7(体積比)で混合した混合溶媒に、リチウム塩(LiPF)を添加し、リチウム塩濃度が1Mの非水電解液を得た。
上記にて作製した負極、ポリプロピレン製多孔質膜(セパレータ)、対極、及び銅金属箔(対極集電体)を、この順序で積層した。このとき、負極活物質層がセパレータ側となるように負極を積層した。
上記積層体のセパレータに上記電解液を含浸させ、2032型のコインセル用ケースに収容し、評価用セルを得た。
【0083】
(評価)
各評価用セルについて、以下のようにして、充電容量(mAh/g)及び放電容量(mAh/g)を測定した。さらに、充電容量に対する放電容量の割合を算出し、充放電効率を求めた。結果を表1に示す。
・充電容量
25℃環境下、電流値0.1Cで、対極電位(リチウム金属電位)に対して0.01VまでLiを挿入し、総通電量から負極活物質重量1g当たりの充電容量を算出した。尚、1Cとは、1時間で満充電できる電流値である。
・放電容量
上記充電操作を行った後、25℃環境下、電流値0.1Cで、対極電位(リチウム金属電位)に対して2.5VまでLiの脱離操作を行い、総通電量から負極活物質重量1g当たりの放電容量を算出した。
【0084】
【表1】

【0085】
上記結果より、SiOとFeとを非酸化性雰囲気下(アルゴンガス雰囲気下)、加熱して反応させた、実施例1の負極活物質は、シリケイト(FeSiO)を含み、いずれの比較例よりも優れた充放電効率を示すことがわかる。
尚、比較例2では、SiOとFeとは反応しなかったので、上記充放電性能評価結果は、Feの性能評価の結果といえる。また、図2に示すXRDの結果からは、比較例3ではSiOが生成していることが確認できたが、表1の充放電容量及び充放電効率の結果から、SiOも含んでおり、Fe及びSiOが充放電に関与した結果の性能が得られたと言える。
【0086】
[負極活物質の合成]
(実施例2)
まず、一酸化ケイ素(SiO)(大阪チタニウムテクノロジーズ製、平均粒径5μm)と、酸化鉄(Fe、平均粒径30μm)(シーアイ化成製)を均一になるまで乳鉢で混合した。尚、SiO 1molに対して、0.125molのFeを添加した。
得られた混合物を、非酸化性雰囲気下(アルゴンガス雰囲気下)、600℃で、3時間反応させた。
【0087】
(実施例3)
実施例2において、反応温度を700℃に変更したこと以外は同様にして、負極活物質を得た。
【0088】
(実施例4)
実施例2において、反応温度を800℃に変更したこと以外は同様にして、負極活物質を得た。
得られた負極活物質について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いてその形態を観察した。暗視野STEM像(DF−STEM)を図3〜図5に示す。グレー部分がSiOであり、白い部分がFeSiOである。
また、得られた負極活物質について、STEM観察及びエネルギー分散型X線分光分析(EXD)を行ない、O、Si及びFeの分布を観察した。結果を図6に示す。6AがDF−STEM像であり、6Bの白っぽい部分がO(酸素)の分布を示し、6Cの白っぽい部分がSi(シリコン)の分布を示し、6Dの白っぽい部分がFeの分布を示している。すなわち、図6から、SiO相の表面にFe化合物が存在することが確認できる。
図3〜図6より、熱処理工程を800℃で実施した実施例4の負極活物質は、SiO粒子の表面に、厚さ10〜500nmのFeSiO相が形成されていることがわかる。
【0089】
(実施例5)
実施例2において、反応温度を900℃に変更したこと以外は同様にして、負極活物質を得た。
【0090】
(実施例6)
実施例2において、反応温度を1000℃に変更したこと以外は同様にして、負極活物質を得た。
得られた負極活物質について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いてその形態を観察した。暗視野STEM像(DF−STEM)を図7及び図8に示す。グレー部分がSiOであり、白い部分がFeSiOである。
図7〜図8より、熱処理工程を1000℃で実施した実施例6の負極活物質は、SiO粒子の内部に、平均粒径10nm以上のFeSiO相が形成されていることがわかる。
【0091】
(比較例7)
実施例2において、Feを用いなかったこと、及び、反応温度を0℃とし加熱しなかったこと、以外は同様にして、負極活物質を得た。
【0092】
(比較例8)
実施例2において、Feを用いなかったこと、及び、反応温度を700℃に変更したこと、以外は同様にして、負極活物質を得た。
【0093】
(比較例9)
実施例2において、Feを用いなかったこと、及び、反応温度を800℃に変更したこと、以外は同様にして、負極活物質を得た。
【0094】
(比較例10)
実施例2において、Feを用いなかったこと、及び、反応温度を900℃に変更したこと、以外は同様にして、負極活物質を得た。
【0095】
(比較例11)
実施例2において、Feを用いなかったこと、及び、反応温度を1000℃に変更したこと、以外は同様にして、負極活物質を得た。
【0096】
[負極活物質の評価]
上記実施例2〜6及び比較例7〜11で得られた各負極活物質について、1.2gを秤量し、20KNの圧力で加圧して圧粉体を作製し、導電率を測定した。結果を表2に示す。
上記実施例2〜6及び比較例7〜11で得られた各負極活物質について、実施例1と同様にして負極、評価用セルを作製し、充放電効率を算出した。結果を表2に示す。
【0097】
【表2】

【0098】
表2より、Fe(還元性金属酸化物)の有無のみが異なる実施例(実施例3〜6)と比較例(比較例8〜11)を対比すると、いずれの実施例も対応する比較例よりも導電率及び充放電効率の両方において優れていることがわかる。
また、実施例2〜6を比較すると、反応温度600〜1000℃において、導電率及び充放電効率の両方に優れる負極活物質が得られることがわかる。
また、実施例4と実施例6との対比から、シリコン酸化物相(SiO粒子)の内部(バルク)に、シリケイト化合物相(FeSiO相)を有する実施例6よりも、シリコン酸化物相(SiO粒子)の表面に、シリケイト化合物相(FeSiO相)を有する実施例4の方が、充放電効率及び導電性に優れていることがわかる。
【0099】
[負極活物質の合成]
(参考実験例1)
一酸化ケイ素(SiO)(大阪チタニウムテクノロジーズ製、平均粒径5μm)と、酸化鉄(Fe、平均粒径0.039μm)(シーアイ化成製)とを、SiO 1molに対するFeの割合を0.1mol〜1.0molとして、均一になるまで混合した。
得られた混合物を、非酸化性雰囲気下(アルゴンガス雰囲気下)、加熱温度800℃で、3時間反応させた。
得られた反応物について、粉末X線回折装置(理学電気製)により、2θ=10〜80°の範囲で、スキャンスピード10°/minで同定を行った。結果を図9に示す。図9に示すように、SiO 1molに対するFeの割合が0.3mol〜1.0molの場合、還元されていない3価のFeの存在も確認されたが、SiO 1molに対するFeの割合が0.1mol及び0.2molでは、Feが2価に還元され、FeSiOが生成したことが確認できた。
【0100】
(実施例7)
まず、一酸化ケイ素(SiO)(大阪チタニウムテクノロジーズ製、平均粒径5μm)と、酸化鉄(Fe、平均粒径0.039μm)(シーアイ化成製)を均一になるまで乳鉢で混合した。尚、SiO 1molに対して、0.001molのFeを添加した。
得られた混合物を、非酸化性雰囲気下(アルゴンガス雰囲気下)、800℃で、3時間反応させた。
【0101】
(実施例8)
実施例7において、SiO 1molに対するFeの添加量を0.005molに変更したこと以外は同様にして、負極活物質を得た。
【0102】
(実施例9)
実施例7において、SiO 1molに対するFeの添加量を0.025molに変更したこと以外は同様にして、負極活物質を得た。
【0103】
(実施例10)
実施例7において、SiO 1molに対するFeの添加量を0.05molに変更したこと以外は同様にして、負極活物質を得た。
【0104】
(実施例11)
実施例7において、SiO 1molに対するFeの添加量を0.1molに変更したこと以外は同様にして、負極活物質を得た。
【0105】
(実施例12)
実施例7において、SiO 1molに対するFeの添加量を0.15molに変更したこと以外は同様にして、負極活物質を得た。
【0106】
(実施例13)
実施例7において、SiO 1molに対するFeの添加量を0.2molに変更したこと以外は同様にして、負極活物質を得た。
【0107】
(実施例14)
実施例7において、SiO 1molに対するFeの添加量を0.5molに変更したこと以外は同様にして、負極活物質を得た。
【0108】
(比較例12)
実施例7において、Feを用いなかったこと以外は同様にして、負極活物質を得た。
【0109】
[負極活物質の評価]
上記実施例7〜14及び比較例12で得られた各負極活物質について、実施例1と同様にして負極、評価用セルを作製し、充電容量、放電容量及び充放電効率を算出した。結果を表3、図10に示す。また、SiO 1molに対するFeの添加量と、充放電効率との関係を図11に示す。
【0110】
【表3】

【0111】
表3、図10、及び図11より、実施例7〜14の負極活物質は、実施例12の負極活物質と比較して、充放電効率に優れることが確認された。
また、実施例7〜14の負極活物質の対比から、原料であるSiOとFeのモル比は、SiO 1モルに対して、Feが0.001〜0.2モルである場合、充放電効率の向上効果が高く、Feが0.001〜0.15モルである場合、放電容量の低下を低減しつつ、充放電効率を向上させることができ、Feが0.001〜0.1モルである場合、放電容量の低下をさらに抑制しつつ、充放電効率を向上させることができることがわかる。
【0112】
[負極活物質の合成]
(実施例15)
まず、一酸化ケイ素(SiO)(大阪チタニウムテクノロジーズ製、平均粒径5μm)と、酸化鉄(Fe、平均粒径0.039μm)(シーアイ化成製)を均一になるまで乳鉢で混合した。尚、SiO 1molに対して、0.02molのFeを添加した。
得られた混合物を、非酸化性雰囲気下(アルゴンガス雰囲気下)、800℃で、3時間反応させた。
【0113】
(実施例16)
実施例15において、平均粒径0.039μmのFeの代わりに平均粒径1μmのFeを用いたこと以外は同様にして、負極活物質を得た。
【0114】
(実施例17)
実施例15において、平均粒径0.039μmのFeの代わりに平均粒径5μmのFeを用いたこと以外は同様にして、負極活物質を得た。
【0115】
(実施例18)
実施例15において、平均粒径0.039μmのFeの代わりに平均粒径30μmのFeを用いたこと以外は同様にして、負極活物質を得た。
【0116】
[負極活物質の評価]
上記実施例15〜18で得られた各負極活物質を用いて、実施例1と同様にして負極、評価用セルを作製した。得られた評価セルについて、以下の条件で充放電を10サイクル行い、1サイクル目の放電容量を100%として10サイクル目の放電容量の割合(容量維持率)を算出した。結果を表4に示す。
・充電
25℃環境下、電流値0.1Cで、対極電位(リチウム金属電位)に対して0.01VまでLiを挿入する。
・放電
上記充電操作を行った後、25℃環境下、電流値0.1Cで、対極電位(リチウム金属電位)に対して2.5VまでLiを脱離する。1サイクル目及び10サイクル目において、前記2.5VまでのLi脱離操作後、総通電量から負極活物質重量1g当たりの放電容量を算出した。
【0117】
【表4】

【0118】
表4より、原料であるSiOの平均粒径が、Feの平均粒径以上である場合、高いサイクル特性が得られることがわかる。
【0119】
[負極活物質の合成]
(実施例19)
まず、一酸化ケイ素(SiO)(大阪チタニウムテクノロジーズ製、平均粒径5μm)と、酸化鉄(Fe、平均粒径0.039μm)(シーアイ化成製)を、ボールミルのポット内に投入した。ボールミルのポット内には、直径1mmのジルコニア製のボールも投入し、回転数350rpmで2時間攪拌し、回転方向を反対にして攪拌してさらに2時間攪拌し、均一になるまで混合した。尚、SiO 1molに対して、0.1molのFeを添加した。
得られた混合物を、非酸化性雰囲気下(アルゴンガス雰囲気下)、800℃で、3時間反応させた。
【0120】
[負極活物質の評価]
上記実施例19で得られた各負極活物質を用いて、実施例1と同様にして負極、評価用セルを作製した。充電容量(mAh/g)、放電容量(mAh/g)及び充放電効率を算出した。結果を表5に示す。表5には、SiOとFeの混合方法のみが異なる実施例11(乳鉢で混合)の結果もあわせて示す。
表5に示すように、実施例19は、充電容量が2072mAh/g、放電容量が2020mAh/gであり、充放電効率は97.5%だった。
乳鉢を用いた実施例11と、ボールミルを用いた実施例19とを比較すると、実施例19は、充電容量が若干低下したものの、放電容量は増加し、充放電効率が97.5%という非常に高い値にあった。
このような結果が得られた理由は次のように考えられる。すなわち、実施例19は、一酸化ケイ素と酸化鉄とをボールミルにより混合することで一酸化ケイ素の表面に酸化鉄を均一に被覆させることができ、その結果、一酸化ケイ素粒子の表面のより広い領域にFeSiO相(シリケイト化合物相)が存在する負極活物質が得られたため、シリコン酸化物とリチウムイオンとの不可逆的な反応による生成物が抑制され、実施例11よりも放電容量が大きくなり、充放電効率が著しく向上したと考えられる。尚、実施例19の充電容量が実施例11よりも低くなったが、これは、実施例19は、リチウムイオンとの副反応を起こさないFeSiO相が表面に多く存在するために、副反応に由来する容量の分、見かけ上、実施例11よりも充電容量が低下したと考えられる。
【0121】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式SiO(0<x<2)で表わされるシリコン酸化物と、
下記組成式(1)で表わされるシリケイト化合物と、
を含有することを特徴とする負極活物質。
Si・m(OH)・n(HO) 式(1)
(式(1)中、a、b、c、m及びnは、それぞれ、0<a≦7、0<b≦8、0<c≦22、0≦m≦4、0≦n≦10であり、Mは長周期型周期表における3族〜12族の遷移金属元素の少なくとも1種を含み、該遷移金属元素に加えてさらに1族のアルカリ金属元素及び2族のアルカリ土類金属元素の少なくとも1種を含んでいてもよく、Siは一部がAl及びBの少なくとも1種により置換されていてもよい。)
【請求項2】
前記一般式SiOにおいて、0.8≦x≦1.2である、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項3】
前記シリコン酸化物を含むシリコン酸化物相の少なくとも内部に、前記シリケイト化合物を含むシリケイト化合物相が少なくとも1つ以上存在する、請求項1又は2に記載の負極活物質。
【請求項4】
前記シリケイト化合物相の平均径が、10〜2000nmである、請求項3に記載の負極活物質。
【請求項5】
前記シリコン酸化物を含むシリコン酸化物粒子の少なくとも表面に、前記シリケイト化合物を含むシリケイト化合物相が存在する、請求項1乃至4のいずれかに記載の負極活物質。
【請求項6】
前記シリコン酸化物粒子の表面に存在する前記シリケイト化合物相の厚さが、10〜2000nmである、請求項5に記載の負極活物質。
【請求項7】
一般式SiO(0<y<2)で表わされるシリコン酸化物、及び、金属酸化物、を混合する混合工程と、
前記混合工程において得られた混合物を、非酸化性雰囲気下、加熱処理する熱処理工程と、を有し、
前記金属酸化物は、前記熱処理工程の加熱温度における酸化反応の標準ギブスエネルギーの負の絶対値が、Siの前記熱処理工程の加熱温度における酸化反応の標準ギブスエネルギーの負の絶対値よりも小さいことを特徴とする、負極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記一般式SiOにおいて、0.8≦y≦1.2である、請求項7に記載の負極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記熱処理工程において、前記加熱処理を、不活性雰囲気下、600℃〜1000℃で行う、請求項7又は8に記載の負極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記熱処理工程において、前記加熱処理を700℃〜900℃で行う、請求項7乃至9のいずれかに記載の負極活物質の製造方法。
【請求項11】
前記混合工程において、前記シリコン酸化物1molに対して、0.001〜0.2molの前記金属酸化物を混合する、請求項7乃至10のいずれかに記載の負極活物質の製造方法。
【請求項12】
前記混合工程において、前記金属酸化物の平均粒径が、前記シリコン酸化物の平均粒径以下である、請求項7乃至11のいずれかに記載の負極活物質の製造方法。
【請求項13】
前記混合工程において、前記シリコン酸化物の表面に前記金属酸化物を付着させる、請求項7乃至12のいずれかに記載の負極活物質の製造方法。
【請求項14】
前記混合工程において、前記シリコン酸化物及び前記金属酸化物を、メカノケミカル法により混合する、請求項7乃至13のいずれかに記載の負極活物質の製造方法。
【請求項15】
前記メカノケミカル法が、ボールミルである、請求項14に記載の負極活物質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−8567(P2013−8567A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140706(P2011−140706)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】