説明

負荷遮断検知装置および負荷遮断検知方法

【課題】簡易な構成により負荷遮断を検知することができるようにすること。
【解決手段】サンプリング遅延器14は、タービンに接続された発電機の現在の電流値を入力し、所定時間遅延させた後、過去の電流値として出力する。減算器15は、サンプリング遅延器14から出力される過去の電流値から現在の電流値を減算して両者の差を算出する。比較器16は、減算器15により算出される差が所定の偏差以上となる或いは所定の偏差を超える場合に所定の値を出力する。遅延タイマ18は、比較器16から出力される所定の値が所定時間以上継続する場合に負荷遮断検知信号を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷遮断検知装置および負荷遮断検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラントにおいて、遠方負荷遮断(遠方の系統グリッドでの電気事故等により送電遮断器等が開放されたことに起因して発生する負荷遮断)は、一般に、パワーロードアンバランス検知と呼ばれる手法を用いて検知される。パワーロードアンバランス検知は、蒸気タービン出力(パワー)と発電機出力(ロード)との偏差大(アンバランス)を検知することによって、遠方負荷遮断の発生を検知するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平02−067401号公報
【特許文献2】特開平04−252810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発電プラントにおける遠方負荷遮断の検知方法には、以下のような課題がある。
【0005】
例えば、パワーロードアンバランス検知を行うためには、タービン出力に相関する高圧タービン排気圧力値を検知する圧力計(圧力トランスミッタ)を設置する必要があるが、この圧力計を設置するには圧力計自体のみならず、それを固定してサポートする計器収納盤や高圧タービン排気部から圧力計まで圧力を伝達するキャピュラリィチューブ(計装配管)等を設置する必要があるので、スペース効率が悪く、また、計装工事材料を含めると設置には高い費用がかかる。また、パワーロードアンバランス検知は信頼性が要求されるため、圧力計は3重化することが一般的であり、そのために更なるスペース効率の悪化、高コスト化が生じてしまうことになる。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、簡易な構成により負荷遮断を検知することができる負荷遮断検知装置および負荷遮断検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様よる負荷遮断検知装置は、タービンに接続された発電機の現在の電流値を入力し、所定時間遅延させた後、過去の電流値として出力する遅延手段と、前記遅延手段から出力される過去の電流値から現在の電流値を減算して両者の差を算出する減算手段と、前記減算手段により算出される差が所定の偏差以上となる或いは所定の偏差を超える場合に所定の値を出力する比較手段と、前記比較手段から出力される所定の値が所定時間以上継続する場合に負荷遮断検知信号を出力する時限手段とを具備することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の他の態様による負荷遮断検知方法は、タービンに接続された発電機の現在の電流値を遅延手段に入力し、所定時間遅延させた後、過去の電流値として出力し、前記遅延手段から出力される過去の電流値から現在の電流値を減算手段により減算して両者の差を算出し、前記減算手段により算出される差が所定の偏差以上となる或いは所定の偏差を超える場合に比較手段から所定の値を出力し、前記比較手段から出力される所定の値が所定時間以上継続する場合に負荷遮断検知信号を出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発電機の現在の電流値と過去の電流値の差から負荷遮断を検知することにより、簡単に構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の各実施形態に係る負荷遮断検知装置の概略構成を示す構成図。
【図2】図1の負荷遮断検知装置に備えられるサンプリング遅延器の機能を説明する概念図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
最初に、本発明の第1の実施形態について、図1および図2を参照しつつ説明する。
【0013】
この第1の実施形態では、発電機が蒸気タービンに接続された「蒸気タービン発電プラント」に適用される負荷遮断検知装置の例について説明する。
【0014】
図1は、本発明の各実施形態に係る負荷遮断検知装置の概略構成を示す構成図である。また、図2は、図1の負荷遮断検知装置に備えられるサンプリング遅延器の機能を説明する概念図である。なお、図1および図2は、後述する第2および第3の実施形態においても使用する。
【0015】
図1に示される負荷遮断検知装置1は、タービン出力に相関する高圧タービン排気圧力値を使用することなく、タービンに接続された発電機の電流値(以下、「発電機電流値」と称す。)に基づき、主にディジタル演算を行うことにより、遠方負荷遮断の発生を検知するものである。なお、発電機電流値は、発電機の端子に設けられた変流器CTを通じて得ることができる。
【0016】
この負荷遮断検知装置1は、例えばディジタル演算器に搭載されるものとし、このディジタル演算器は、説明の便宜上、3ミリ秒の制御周期を有するものとする。負荷遮断検知装置1は、微分器11、比較器12、ORゲート13、サンプリング遅延器14、減算器15、比較器16、ANDゲート17、遅延タイマ18などの各種機能を有する。なお、これらの機能は、例えばプロセッサが実行するプログラム(ソフトウェア)として構成してもよいし、あるいはハードウェアとして構成してもよい。
【0017】
微分器11は、発電機電流値の単位時間当りの変化率を表す微分値を算出するものである。
【0018】
比較器12は、微分器11により算出される微分値が、所定値(例えば、−40%/10ミリ秒)以下となる或いは未満となる場合に、その状態を示す所定の値を出力するものである。
【0019】
ORゲート13は、比較器12から出力される値とANDゲート17から出力される値との論理和を演算した結果を出力するものである。
【0020】
サンプリング遅延器14は、現在の発電機電流値を入力し、所定時間遅延させた後、過去の電流値として出力するものである。例えば、サンプリング遅延器14に、図2(a)に示されるような発電機電流値のデータが入力された場合、このデータは、図2(b)に示されるように所定数の周期分(n周期分)だけ遅延されて出力されることになる。すなわち、サンプリング遅延器14は、発電機電流値を所定数の周期分(n周期分)だけ記憶或いは保持する記憶手段とみなすことができる。
【0021】
なお、この第1の実施形態では、サンプリング遅延器14は、例えば50周期の遅延処理を行うものとする。この場合のサンプリング遅延器14は、負荷遮断検知装置1の制御周期が3ミリ秒であることから、150ミリ秒(=3ミリ秒×50周期)遅延させた過去の発電機電流値を出力する。
【0022】
減算器15は、サンプリング遅延器14により出力される過去の発電機電流値から現在の発電機電流値を減算して両者の差を算出するものである。
【0023】
比較器16は、減算器15により算出される差が所定の偏差(例えば、40%)以上となる或いはこの所定の偏差を超える場合に、その状態を示す所定の値を出力するものである。
【0024】
ANDゲート17は、ORゲート13から出力される値と比較器16から出力される値との論理積を演算した結果を出力するものである。
【0025】
遅延タイマ18は、ANDゲート17から出力される値が所定時間(例えば、120ミリ秒)以上継続するか否かを監視し、所定時間以上継続する場合に負荷遮断検知信号を出力する時限手段である。例えば、比較器12において発電機電流値の微分値が所定値(例えば、−40%/10ミリ秒)以下となる或いは未満となる状態が検知され、且つ、比較器16において過去の発電機電流値と現在の発電機電流値との差が所定の偏差(例えば、40%)以上となる或いはこの所定の偏差を超える状態が検知され、それらの状態が所定時間(例えば、120ミリ秒)以上継続する場合、遅延タイマ18は負荷遮断検知信号を出力することになる。
【0026】
特に、この第1の実施形態では、サンプリング遅延器14が遅延処理する時間は、遅延タイマ18が監視する時間よりも長く、且つ、蒸気タービンの加減弁が全開の状態から全閉の状態になるまでにかかる時間よりも短く設定される。
【0027】
このような構成において、負荷遮断が発生した場合には、その直後に、瞬時に発電機電流値は低減し、その現在値は例えば60%以下に低減し、150ミリ秒過去の発電機電流値と現在値との偏差は40%以上となり、この状態が120ミリ秒以上継続したときに負荷遮断の発生が検知される。
【0028】
上述の説明からわかるように、本実施形態においては、従来のパワーロードアンバランス検知に使用されている蒸気タービン出力と発電機電流値の偏差大(40%以上)を検知する処理を採用しておらず、その代わりに、「現在の発電機電流値」が「過去の発電機電流値」に対して40%以下に低減することを検知する処理を採用している。なお、従来のパワーロードアンバランス検知と同様、発電機電流値の微分条件(−40%/10ミリ秒以下)を検知する処理を採用しているが、これは負荷遮断が発生したその瞬間のみに成立する条件であり、落雷等の外乱的要素に対しては極めて影響を受けやすく、これのみの負荷遮断検知は実用的ではない。そのため、本実施形態ではこれ以外に「ある過去の時点での発電機電流値」と「現在の発電機電流値」とを比較し、現在値が過去値に対して40%以下に低減し、かつその状態が所定時間以上(120ミリ秒以上)継続する場合に、負荷遮断が発生したと判定するようにしている。また、蒸気タービン出力の状態を一切関知しないので、従来のパワーロードアンバランス検知が適切に排除してきた“蒸気タービン出力が何らかの理由で先行して低下し、これに伴い後追いで発電機電流値が低下する”という、負荷遮断ではない通常のタービン出力変化に対しても、これを負荷遮断と誤検知してしまうことが考えられるが、本実施形態では、現在と比較する“過去”をいつの時点にするかに配慮し、これを最適化することにより、負荷遮断の誤検知を防ぐことを可能としている。
【0029】
ここで、本実施形態において、サンプリング遅延器14が遅延処理する時間、即ち“過去の時点から現在までの時間”を、遅延タイマ18が監視する時間よりも長く設定している理由について以下に説明する。
【0030】
もし、サンプリング遅延器14が遅延処理する時間として、例えば90ミリ秒(=3ミリ秒×30周期)を選定した場合、次の問題が発生する。すなわち、負荷遮断が発生し、発電機電流値が60%以下に低下すると、比較器16において偏差大が検知され、その状態が90ミリ秒経過した時点でサンプリング遅延器14の出力も60%以下に低下しても、負荷遮断の判断のためには、遅延タイマ18は120ミリ秒間の偏差大の継続を持つ必要があり、遅延タイマ18が120ミリ秒間のカウントアップを待つ間に、偏差大の状態がクリアされてしまうと、負荷遮断の検知がなされないことになる。従って、サンプリング遅延器101が遅延処理する時間は、遅延タイマ18が監視する時間より長くする必要があり、本例では、120ミリ秒にマージンを加えた150ミリ秒に設定している。
【0031】
次に、本実施形態において、サンプリング遅延器14が遅延処理する時間、即ち“過去の時点から現在までの時間”を、蒸気タービンの加減弁が全開の状態から全閉の状態になるまでにかかる時間よりも短く設定している理由について以下に説明する。
【0032】
蒸気タービン出力の状態を一切関知しない構成のため、前述のように“蒸気タービン出力が先行して低下し、後追いで発電機電流値が低下する”という、負荷遮断ではない通常のタービン出力変化においても、発電機電流の過去値と現在値とを比較すると偏差大(40%以上)が検知されてしまうことが考えられるため、これを防止することが求められる。
【0033】
そこで、本実施形態では、蒸気タービンの出力増減を受けもっている加減弁に着目し、加減弁が最も速く閉止する時間よりも短時間(150ミリ秒)で発電機電流値の低下が検知されれば、それは負荷遮断の発生に他ならないと判断するようにしている。
【0034】
なぜなら、蒸気タービン出力低下は加減弁が閉まることより開始されるものであり、従って蒸気タービン出力低下は加減弁の閉操作より遅く開始され、かつ機内に残留する蒸気等の理由で加減弁が全閉しても瞬時にタービン出力が急減するものではないからである。発電機電流値の低下はこのタービン出力低下よりさらに遅くなる。よって、最も高速に加減弁が閉まる時間よりも速く発電機電流値の低下が検知されれば、それは負荷遮断の発生に他ならないと判断できる。
【0035】
蒸気タービン加減弁が最も高速で閉弁する事例としては、急速閉弁制御が挙げられる。本制御は何らかの原因でタービンに過速(オーバースピード)等が発生した場合、(油圧サーボ機構を使用した通常の閉操作の代わりに)加減弁の油筒底部のディスクダンプ弁等を作動させて油圧を一気に開放するものであり、加減弁は全開から全閉まで約150ミリ秒〜200ミリ秒前後で高速閉弁される。ここでは、全開から全閉までの時間を、説明の便宜上、180ミリ秒とする。
【0036】
本実施形態では、サンプリング遅延器14が遅延処理する時間、即ち“過去の時点から現在までの時間”を、蒸気タービン加減弁が最も高速閉弁する時間(180ミリ秒)よりも短くし、具体的にはマージンを加えて150ミリ秒(=3ミリ秒×50周期)に設定している。負荷遮断が発生した場合、その直後、瞬時に発電機電流値は低減し、その現在値は例えば60%以下に低減し、この現在値と150ミリ秒過去の発電機電流値との偏差が40%以上となり、かつこの状態が120ミリ以上継続したときに負荷遮断の発生が検知されることになる。
【0037】
一方、負荷遮断でなく、急速閉弁制御によるタービン出力変化が発生した場合、同制御が作動して150ミリ秒前後の時点において、加減弁は全閉しておらず、加えてタービン機内に残留している蒸気や回転系のイナーシャ(慣性)等の理由によりこの時点での蒸気タービン出力(および発電機電流の現在値)が60%以下に低減することはなく、従って現在の発電機電流値と150ミリ秒過去の発電機電流値との偏差が40%以上となることはなく、偏差大は検知されない。そしてこれ以降、加減弁が全閉した後もやはりタービン機内に残留している蒸気等の理由により150ミリ秒間に発電機電流が60%以上低下して偏差大が生じることはない。
【0038】
なお、タービン出力変化が急速閉弁制御以外に発生する場合としては、次の2つのケースが考えられる。
【0039】
i)急速閉弁制御より遅いレートによる加減弁閉操作が行われた場合
ii)蒸気圧力や温度が何らかの理由で低下し、蒸気タービンに流入するエンタルピーが減少した場合
いずれも急速閉弁制御のときより発電機電流値の低下は遅くなるので、150ミリ秒間に発電機電流値が60%以上低下して偏差大が生じることはない。
【0040】
この第1の実施形態によれば、高圧タービン排気圧力値を検知する圧力計等を使用しない簡易な構成を採用しているため、スペース効率を向上させるとともに、低コスト化を実現することが可能となる。また、蒸気タービン出力の状態を関知しない構成でありながらも、設定値が適切に設定されたサンプリング遅延器14の使用により、通常のタービン出力変化により発電機電流値が低下するという負荷遮断ではない状態を負荷遮断と誤検知してしまうことを防止することができる。
【0041】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について、再び図1および図2を参照しつつ説明する。
【0042】
この第2の実施形態では、発電機がガスタービンに接続された「ガスタービン発電プラント」に適用される負荷遮断検知装置の例について説明する。
【0043】
なお、前述の第1の実施形態と共通する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。以下では、前述の第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0044】
この第2の実施形態に係る負荷遮断検知装置の基本構成は、前述の第1の実施形態に係る負荷遮断検知装置と同様となる。但し、サンプリング遅延器14において遅延処理する時間の設定値が異なる。
【0045】
すなわち、この第2の実施形態では、サンプリング遅延器14が遅延処理する時間は、遅延タイマ18が監視する時間よりも長く、且つ、ガスタービンの燃料弁が全開の状態から火炎を保てる最低開度の状態になるまでにかかる時間よりも短く設定される。ここでは、サンプリング遅延器14が遅延処理する時間を、300ミリ秒(=3ミリ秒×100周期)に設定するものとする。
【0046】
ここで、本実施形態において、サンプリング遅延器14が遅延処理する時間、即ち“過去の時点から現在までの時間”を、ガスタービンの燃料弁が全開の状態から火炎を保てる最低開度の状態になるまでにかかる時間よりも短く設定している理由について以下に説明する。
【0047】
まず、負荷遮断を検知する観点に基づき、ガスタービン発電プラントと蒸気タービン発電プラントとの相違点について検討すると、以下の通りとなる。
【0048】
・蒸気タービンの加減弁に相当するものはガスタービンの燃料弁であり、この弁が燃料流量を調節し、ガスタービン出力を決定する。
【0049】
・従来技術におけるガスタービン発電プラントのパワーロードアンバランス検知と蒸気タービン発電プラントのそれとの相違は、後者の蒸気タービン出力が高圧タービン排気圧力値を使用して算出するのに対し、前者におけるガスタービン出力は燃料流量値を使用して算出される。
【0050】
・ガスタービンは、ロータ直結の圧縮機(負荷)が存在すること、また機内に比較的長い時間残留する蒸気(流体)がタービンを加速するというような現象が顕著でない等の特徴があり、燃料弁には蒸気タービン加減弁のようなオーバースピードに備えての急速閉弁制御(150ミリ秒〜200ミリ秒前後の高速閉弁)の必要がない。従って、燃料弁は油圧サーボ機構を使用した通常の閉操作のみが適用され、全閉まで1000ミリ秒〜1500ミリ秒前後で操作される。
【0051】
・燃料弁はガスタービンが火炎を保てる最低開度が存在し、一般的には20%前後である。この最低開度以下ではガスタービン出力は零となる。以下の説明では、燃料弁の全開から火炎を保てる最低開度になる時間を、説明の便宜上、900ミリ秒とする。
【0052】
すなわち、本実施形態では、ガスタービンの出力調整を受けもっている燃料弁に着目し、燃料弁が最も速く閉止する時間よりも短時間(300ミリ秒)で発電機電流値の低下が検知されれば、それは負荷遮断の発生に他ならないと判断するようにしている。
【0053】
なぜなら、ガスタービン出力低下は燃料弁が閉まることより開始されるものであり、従って同タービン出力低下は燃料弁の閉操作より遅く開始され、燃料弁の下流に残留する燃料や圧縮機を含めた回転系のイナーシャ等の理由で900ミリ秒以内にタービン出力が急減するものではないからである。発電機電流値の低下はこのタービン出力低下よりさらに遅くなる。よって、900ミリ秒より速く発電機電流値の低下が検知されればそれは負荷遮断の発生に他ならないと判断できる。
【0054】
この第2の実施形態によれば、前述の第1の実施形態と同様、圧力計等を使用しない簡易な構成を採用しているため、スペース効率を向上させるとともに、低コスト化を実現することが可能となる。また、ガスタービン出力の状態を関知しない構成でありながらも、設定値が適切に設定されたサンプリング遅延器14の使用により、通常のガスタービン出力変化により発電機電流値が低下するという負荷遮断ではない状態を負荷遮断と誤検知してしまうことを防止することができる。
【0055】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について、再び図1および図2を参照しつつ説明する。
【0056】
この第3の実施形態では、発電機がガスタービンおよび蒸気タービンと同じ軸に接続された「一軸型コンバインドサイクル発電プラント」に適用される負荷遮断検知装置の例について説明する。
【0057】
なお、前述の第1,第2の実施形態と共通する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。以下では、前述の第1,第2の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0058】
この第3の実施形態に係る負荷遮断検知装置の基本構成は、前述の第1,第2の実施形態に係る負荷遮断検知装置と同様となる。
【0059】
特に、この第3の実施形態では、サンプリング遅延器14が遅延処理する時間は、遅延タイマ18が監視する時間よりも長く、且つ、蒸気タービンの加減弁が全開の状態から全閉の状態になるまでにかかる時間よりも短く設定される。ここでは、サンプリング遅延器14が遅延処理する時間を、前述の第1の実施形態の場合と同様、150ミリ秒(=3ミリ秒×100周期)に設定するものとする。
【0060】
一般に、一軸型コンバインドサイクル発電プラントにおけるガスタービンと蒸気タービンの出力比は2:1またはその近傍の出力比となる。ここでは、説明の便宜上、出力比は2:1とし、ガスタービンが66%、蒸気タービンが34%の出力案分を有するものとする。従来の一軸型コンバインドサイクル発電プラントにおけるパワーロードアンバランス検知では、ガスタービン出力の燃料流量値を使用して算出し、蒸気タービン出力は高圧排気圧力値を使用して算出し、それを出力比2:1の重み付けをして加算して総合出力を算出して検知している。
【0061】
また、蒸気タービンの加減弁が全開から全閉まで180ミリ秒で高速閉弁されるのに対して、ガスタービンの燃料弁は900ミリ秒で閉弁され、加減弁の方が圧倒的に高速である。
【0062】
そこで、本実施形態では、加減弁が最も速く閉止する時間よりも短時間(150ミリ秒)で発電機電流値の低下が検知されれば、それは負荷遮断の発生に他ならないと判断するようにしている。
【0063】
なぜなら、蒸気タービン出力が零に低下した場合でも一軸型コンバインドサイクル発電プラントにとっては34%(案分値)の出力低下であり、前述したように、これは150ミリ秒の間に発現することはないからである。負荷遮断と検知されるためには40%の出力低下が必要であり、蒸気タービン出力が零に低下する(34%)ことに加えてガスタービン出力分も26%低下する必要がある。このガスタービン出力分26%低下のためにはガスタービン出力が39%(26%÷0.67)低下する必要があり、燃料弁の下流に残留する燃料や圧縮機を含めた回転系のイナーシャ等の理由により150ミリ秒以内で39%低下が発生することはない。よって、最も高速に加減弁が閉まる時間より速く発電機電流値の急減が検知されれば、一軸型コンバインドサイクル発電プラントにおいてもそれは負荷遮断の発生に他ならないと判断できる。
【0064】
この第3の実施形態によれば、前述の第1,2の実施形態と同様、圧力計等を使用しない簡易な構成を採用しているため、スペース効率を向上させるとともに、低コスト化を実現することが可能となる。また、ガスタービン出力の状態および蒸気タービン出力の状態を関知しない構成でありながらも、設定値が適切に設定されたサンプリング遅延器14の使用により、通常のガスタービン出力変化または蒸気タービン出力変化により発電機電流値が低下するという負荷遮断ではない状態を負荷遮断と誤検知してしまうことを防止することができる。
【0065】
本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1…負荷遮断検知装置、11…微分器、12…比較器、13…ORゲート、14…サンプリング遅延器、15…減算器、16…比較器、17…ANDゲート、18…遅延タイマ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンに接続された発電機の現在の電流値を入力し、所定時間遅延させた後、過去の電流値として出力する遅延手段と、
前記遅延手段から出力される過去の電流値から現在の電流値を減算して両者の差を算出する減算手段と、
前記減算手段により算出される差が所定の偏差以上となる或いは所定の偏差を超える場合に所定の値を出力する比較手段と、
前記比較手段から出力される所定の値が所定時間以上継続する場合に負荷遮断検知信号を出力する時限手段と
を具備することを特徴とする負荷遮断検知装置。
【請求項2】
前記遅延手段が遅延処理する時間は、前記時限手段が監視する時間よりも長いことを特徴とする請求項1に記載の負荷遮断検知装置。
【請求項3】
前記発電機は、蒸気タービンに接続されており、
前記遅延手段が遅延処理する時間は、前記蒸気タービンの加減弁が全開の状態から全閉の状態になるまでにかかる時間よりも短いことを特徴とする請求項1又は2に記載の負荷遮断検知装置。
【請求項4】
前記発電機は、ガスタービンに接続されており、
前記遅延手段が遅延処理する時間は、前記ガスタービンの燃料弁が全開の状態から火炎を保てる最低開度の状態になるまでにかかる時間よりも短いことを特徴とする請求項1又は2に記載の負荷遮断検知装置。
【請求項5】
前記発電機は、ガスタービンおよび蒸気タービンと同じ軸に接続されており、
前記遅延手段が遅延処理する時間は、前記蒸気タービンの加減弁が全開の状態から全閉の状態になるまでにかかる時間よりも短いことを特徴とする請求項1又は2に記載の負荷遮断検知装置。
【請求項6】
タービンに接続された発電機の現在の電流値を遅延手段に入力し、所定時間遅延させた後、過去の電流値として出力し、
前記遅延手段から出力される過去の電流値から現在の電流値を減算手段により減算して両者の差を算出し、
前記減算手段により算出される差が所定の偏差以上となる或いは所定の偏差を超える場合に比較手段から所定の値を出力し、
前記比較手段から出力される所定の値が所定時間以上継続する場合に負荷遮断検知信号を出力する
ことを特徴とする負荷遮断検知方法。

【図1】
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【図2】
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