貫通ひび割れを有するコンクリート試験体及びその作製方法
【課題】透水試験、透気試験、補修材の評価試験などに好適に用いることのできる、バラツキがなくほぼ均一な貫通ひび割れ幅を有するコンクリート試験体及びその作製方法を提供する。
【解決手段】コンクリート円柱の側面が可撓性パイプで覆われてなるコンクリート試験体であって、前記コンクリート円柱が、その回転軸と略平行な面で2分割される貫通ひび割れを有することを特徴とするコンクリート試験体である。
【解決手段】コンクリート円柱の側面が可撓性パイプで覆われてなるコンクリート試験体であって、前記コンクリート円柱が、その回転軸と略平行な面で2分割される貫通ひび割れを有することを特徴とするコンクリート試験体である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寸法精度の良い貫通ひび割れを有するコンクリート試験体及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
実構造物におけるコンクリートの耐久性を検討する場合、乾燥収縮等により発生した微細なひび割れによる影響を検証する必要がある。しかし、実構造物は場所によって品質にバラツキがあり、特に、コンクリートコアを採取して試験を行う場合には、採取コアのひび割れにバラツキがあり、採取時や試験用に加工する際に採取コアのひび割れ部分の大きさ等が変動するため、再現性の良い試験を行うことが困難であった。また、コンクリートコアを採取して試験を行う場合には、実構造物に損傷を与えることになるという問題もあった。
【0003】
特許文献1には、コンクリート構造体と同じ断面寸法の空間部を確保し、この空間部の底に断熱材の底板を配設し、その上に、上面開放の合成樹脂製周壁の外容器をスタンドにより支承して立設し、この外容器内に容易に破断可能な簡易型枠容器をなるべく隙間なく配置し、前記空間部内でこの簡易型枠容器内および外容器外の両方へ構造体と同じコンクリートを打設し、簡易型枠容器にキャップをして封かん状態とし、さらに、前記空間部の上を断熱材で覆い、養生期間経過後、簡易型枠容器を取り出して内部から供試体を得ることを特徴とする構造体コンクリートの供試体の作製方法について記載されている。これによれば、大きな模擬コンクリート構造物を造らずにすみ、大掛かりな機械を使用することなく、破損や傷のない綺麗な形で供試体が簡単に得られるとされている。しかしながら、貫通ひび割れを有するコンクリート試験体についての記載はなかった。
【0004】
また、特許文献2には、構造体にコンクリートを打設した後に、このコンクリートが硬化する前に供試体切り取り予定位置へ所定寸法の内径を有する筒体を挿入し、筒体内の中空部をコンクリートで充填し、その後挿入した筒体の外周部の外側に切り込みを入れて、外周部にコンクリートが付着された筒体を切り出し、切り出し後に、付着しているコンクリート及び筒体を除去して、筒体内部の供試体となるコンクリートを取り出して、これの圧縮試験を行うことを特徴とする供試体の検査方法について記載されている。これによれば、筒体内から供試体を取出すことができ、従来のようにドリル等により直接供試体を切り出さないので、供試体の破損や粗骨材の緩みが生じず、簡易に実際構造物の圧縮強度に近い試験結果が得られるとされている。しかしながら、貫通ひび割れを有するコンクリート試験体についての記載はなかった。
【0005】
微細なひび割れを有する試験体の作製方法として、供試体を圧縮または割裂することによりひび割れを作製する方法、内部の鉄筋に引張応力をかけてひび割れ作製する方法などが知られている。
【0006】
特許文献3には、コンクリート構造物の所定部分にひび割れを誘発するコンクリート構造物におけるひび割れ誘発方法において、ひび割れを誘発したい箇所に空洞部が形成されるようにコンクリートを打設するコンクリート打設工程と、コンクリートが硬化する際に前記空洞部を断面欠損部として機能させることによりその近傍にひび割れを誘発する第1誘発工程と、コンクリートを局部的に増圧するための増圧用流体を前記空洞部に充填する増圧用流体充填工程と、該空洞部に充填した増圧用流体を膨張させることによりその空洞部の近傍にひび割れを誘発する第2誘発工程とを備えたことを特徴とするコンクリート構造物のひび割れ誘発方法について記載されている。これによれば、ひび割れを確実に誘発することができるとされている。しかしながら、試験体の破壊に至る場合がある上に、微細なひび割れを均一に作製することが困難であり、改善が望まれていた。
【0007】
また、模擬ひび割れを有する試験体の作製方法として、供試体を切断等して得られた2体の試験体の間にスペーサーを挟んで張り合わせることにより、模擬ひび割れを有する試験体を得る方法が知られている。非特許文献1には、養生後のコンクリート試験体を圧縮試験機で割裂した後、厚さ0.02mmのテフロン(登録商標)シートを挟み込み、測定に用いられる面以外の割裂部を樹脂により塞いで得られるひび割れ試験体について記載されている。これによれば、得られたひび割れ試験体を用いて中性化促進試験を行うことができるとされている。しかしながら、こうして得られたひび割れ試験体は、割裂面に粒子を噛みこんでしまうおそれがあり、ひび割れ寸法にバラツキが生じ易かった。そのため、それを用いて透水試験や透気試験を行った場合、実構造物へのひび割れの影響を検証するうえで有効ではなく、また、試験体の作製方法が煩雑である面もあり、改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−152386号公報
【特許文献2】特開平5−332901号公報
【特許文献3】特開2009−249984号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】安澤翔他,「ひび割れへの表面含浸材塗布による中性化抑制効果と性能評価」,2009年,第36回土木学会関東支部技術研究発表会,V−53
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、透水試験、透気試験、補修材の評価試験などに好適に用いることのできる、バラツキがなくほぼ均一な貫通ひび割れ幅を有するコンクリート試験体及びその作製方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、コンクリート円柱の側面が可撓性パイプで覆われてなるコンクリート試験体であって、前記コンクリート円柱が、その回転軸と略平行な面で2分割される貫通ひび割れを有することを特徴とするコンクリート試験体を提供することによって解決される。
【0012】
このとき、前記貫通ひび割れの幅が0.5mm以下であることが好適であり、前記可撓性パイプがポリ塩化ビニルからなる樹脂パイプであることが好適である。また、前記コンクリート円柱の側面と前記可撓性パイプとの隙間の少なくとも一部が封止樹脂で封止されてなることが好適であり、前記貫通ひび割れの内部が中性化されてなることが好適である。また、補修材の評価に用いられることが本発明の好適な実施態様である。
【0013】
また、上記課題は、コンクリート円柱の側面が可撓性パイプで覆われてなるコンクリート試験体であって、可撓性パイプに生コンクリートを充填し、該生コンクリートを硬化させた後、前記可撓性パイプの外側から径方向に荷重を加えて圧縮することにより貫通ひび割れを生じさせてなるコンクリート試験体を提供することによっても解決される。
【0014】
このとき、コンクリート円柱の側面が可撓性パイプで覆われてなるコンクリート試験体の作製方法であって、可撓性パイプ内に生コンクリートを充填し、該生コンクリートを硬化させることによりコンクリート円柱の側面を前記可撓性パイプで覆い、次いで、前記可撓性パイプの外側から径方向に荷重を加えて圧縮することにより貫通ひび割れを生じさせることを特徴とするコンクリート試験体の作製方法を提供することが本発明の好適な実施態様である。
【0015】
また、このとき、前記生コンクリートを硬化させた後であって、前記可撓性パイプの外側から径方向に荷重を加えて圧縮する前に、前記コンクリート円柱の側面と前記可撓性パイプとの間の少なくとも一部に液状の封止樹脂を注入して硬化させることが好適であり、貫通ひび割れを生じさせた後に、炭酸ガス雰囲気下に置いて貫通ひび割れの内部を中性化させることが好適である。また、本発明のコンクリート試験体を用いて、コンクリート円柱の一の平面に水圧をかけて他の平面から浸出する透水量を測定する透水試験方法が本発明の好適な実施態様であり、コンクリート円柱の一の平面に気圧をかけて他の平面から排出する透気量を測定する透気試験方法も本発明の好適な実施態様である。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、バラツキがなくほぼ均一な貫通ひび割れ幅を有するコンクリート試験体及びその作製方法を提供することができる。また、透水試験による透水量や透気試験による透気量が概ね同じ値を示すコンクリート試験体を容易に多数得ることができるため、本発明のコンクリート試験体を用いて、透水試験、透気試験、補修材の評価試験などに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のコンクリート試験体の一例の斜視図である。
【図2】作製例1で得られたコンクリート試験体における平均ひび割れ幅の分布を示す図である。
【図3】本実施例で使用された透水試験装置を示した図である。
【図4】本実施例で使用された透気試験装置を示した図である。
【図5】作製例2で得られたコンクリート試験体におけるひび割れ面積と透気量との関係を示す図である。
【図6】作製例2で得られたコンクリート試験体に対して促進中性化確認試験を行った後のコンクリート試験片の写真である。
【図7】本発明のコンクリート試験体におけるひび割れを有する面の写真である。
【図8】本発明のコンクリート試験体におけるひび割れを有する面を一部拡大した写真である。
【図9】本発明のコンクリート試験体における貫通ひび割れ内部の一部を拡大した写真である。
【図10】作例例5で得られたコンクリート試験体における塩ビ管とコンクリートとの境界部分の一部を拡大した写真である。
【図11】作例例6で得られたコンクリート試験体における塩ビ管とコンクリートとの境界部分の一部を拡大した写真である。
【図12】透水確認試験後の作製例5及び6で得られたコンクリート試験体の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明をより具体的に説明する。図1は、本発明の貫通ひび割れ4を有するコンクリート試験体1である。本発明のコンクリート試験体1は、コンクリート円柱2の側面が可撓性パイプ3で覆われてなるコンクリート試験体1であって、前記コンクリート円柱2が、その回転軸と略平行な面で2分割される貫通ひび割れ4を有することを特徴とする。
【0019】
本発明で用いられる可撓性パイプ3としては、後述するコンクリート試験体1の作製方法において、可撓性パイプ3の外側から径方向に荷重を加えて圧縮した際に可撓性パイプ3内のコンクリート円柱2に貫通ひび割れ4が生じる程度に可撓性パイプ3が変形し、貫通ひび割れ4が生じた後に前記変形した可撓性パイプ3が概ね変形前の状態に戻り得るものであれば特に限定されない。かかる観点から、本発明で用いられる可撓性パイプ3は、樹脂パイプであることが好ましい。樹脂パイプに用いられる樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリスチレン等が挙げられる。中でも、ポリ塩化ビニルが樹脂パイプとしてより好適に用いられる。
【0020】
本発明のコンクリート試験体における可撓性パイプ3の内径や長さは特に限定されず、可撓性パイプ3の内径が30〜300mmのものが好適に用いられ、可撓性パイプ3の長さが20〜500mmのものが好適に用いられる。また、本発明で用いられる可撓性パイプ3の厚みとしては特に限定されず、1〜20mmのものが好適に用いられる。本発明者らは、可撓性パイプ3の厚みを小さくした場合には、可撓性パイプ3の外側から径方向に荷重を加えて圧縮した際に、生じる貫通ひび割れ4の幅が大きくなることを確認している。したがって、可撓性パイプ3の厚みを変更することにより、貫通ひび割れ4の幅を制御することも可能である。
【0021】
本発明のコンクリート試験体1は、貫通ひび割れ4の幅にバラツキがなくほぼ均一な値を示す。このことにより、本発明のコンクリート試験体1を用いて、透水試験、透気試験、補修材の評価試験などを行う際に、再現性の良いデータを得ることができ、実構造物への様々な影響を検証することが容易になる。貫通ひび割れ4の幅は0.5mm以下であることが好ましく、0.3mm以下であることがより好ましく、0.2mm以下であることが更に好ましい。また、貫通ひび割れ4の幅は通常、0.01mm以上である。
【0022】
本発明のコンクリート試験体1は、貫通ひび割れ4の内部が中性化されてなることが好ましい。このことにより、水和反応の進行が抑制されたコンクリート試験体1を得ることができる。また、実構造物に発生したひび割れ内部の表面は外気に触れ短期間で中性化されるため、コンクリート試験体1における貫通ひび割れ4の内部を促進中性化させることにより、実構造物に発生した中性化されたひび割れに対するのと同様の検証が可能となる。本発明において、貫通ひび割れ4の内部を中性化する方法としては特に限定されず、貫通ひび割れ4を有するコンクリート試験体1を一定濃度の炭酸ガス雰囲気下に置いて貫通ひび割れ4の内部を中性化させる方法等が好適に採用される。
【0023】
以下、本発明のコンクリート試験体1の作製方法について説明する。本発明のコンクリート試験体1の作製方法は、可撓性パイプ3内に生コンクリートを充填して、該生コンクリートを硬化させることにより、コンクリート円柱2の側面を前記可撓性パイプ3で覆い、次いで、前記可撓性パイプ3の外側から径方向に荷重を加えて圧縮することにより貫通ひび割れ4を生じさせることを特徴とする。
【0024】
ここで、本発明で用いられる生コンクリートは、通常、セメント、粗骨材、細骨材及び水を主成分とするものであるが、粗骨材を含まない、いわゆるモルタルであってもよい。また、セメントの代わりに他の水硬性物質を用いたものであっても構わない。
【0025】
可撓性パイプ3内に生コンクリートを充填して、該生コンクリートを硬化させることにより、コンクリート円柱2の側面を前記可撓性パイプ3で覆う方法は特に限定されない。可撓性パイプ3を化粧合板等の底板上に設置してから可撓性パイプ3内に生コンクリートを充填し、次いで、気中養生や水中養生を一定期間行う方法などを採用することができる。これにより、該生コンクリートが硬化してコンクリート円柱2の側面が前記可撓性パイプ3で覆われた構造体が得られることとなる。
【0026】
本発明では、コンクリート試験体1を用いて試験する際の気温が、生コンクリートを充填してから硬化させる際の気温よりも低いことが好ましい。具体的には、試験する際の気温が、生コンクリートを充填してから硬化させる際の気温よりも5℃以上低いことが好ましく、10℃以上低いことがより好ましく、15℃以上低いことが更に好ましい。樹脂パイプの方がコンクリートよりも線膨張係数が一桁程度大きい。そのため、試験する際の気温を生コンクリートを充填してから硬化させる際の気温よりも一定温度以上低くすることにより、樹脂パイプが内側方向に収縮しようとする力が働くこととなる。その結果、樹脂パイプとコンクリートとの間に隙間ができにくくなり、透水試験や透気試験の精度がより向上する。一方、本発明者らは、試験する際の気温が生コンクリートを充填してから硬化させる際の気温よりも高かった場合には、樹脂パイプとコンクリート円柱2との間に隙間ができやすくなったことを確認している。
【0027】
上述のように、本発明のコンクリート試験体1を用いて試験する際の気温が生コンクリートを充填してから硬化させる際の気温よりも高い場合に、コンクリート円柱2と可撓性パイプ3との間に隙間が生じるのを防止する観点から、コンクリート円柱2の側面と可撓性パイプ3との間の少なくとも一部に液状の封止樹脂を注入して硬化させることが好ましい。このことにより、透水試験や透気試験を行った際に、コンクリート試験体1におけるコンクリート円柱2と可撓性パイプ3との隙間からの漏れがなく、透水試験や透気試験の精度を向上させることができ、特に透気試験の精度を向上させることができる。
【0028】
本発明で用いられる封止樹脂としては、コンクリート円柱2の側面と可撓性パイプ3との隙間の少なくとも一部に注入することができて硬化するものであれば特に限定されず、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエステル系樹脂等からなる群から選択される少なくとも1種の封止樹脂が好適に使用される。隙間なく充填できる観点からは、硬化収縮の少ない2液硬化型の封止樹脂が好適に使用される。また、高い接着強度が得られる観点から、エポキシ系樹脂が封止樹脂としてより好適に使用される。中でも、低粘度エポキシ系樹脂が封止樹脂として更に好適に使用され、2液硬化型低粘度注入用のエポキシ系樹脂が特に好適に使用される。
【0029】
本発明において、コンクリート円柱2の側面と可撓性パイプ3との間の少なくとも一部に封止樹脂を注入する方法としては特に限定されないが、例えば、コンクリート円柱2の側面が前記可撓性パイプ3で覆われた構造体の底面から封止樹脂を減圧吸引することにより、コンクリート円柱2の側面と可撓性パイプ3との間の少なくとも一部に封止樹脂を注入させる方法が好適に採用される。
【0030】
また、封止樹脂を注入する時期としては、コンクリート円柱2の側面が前記可撓性パイプ3で覆われた構造体に対し、可撓性パイプ3の外側から径方向に荷重を加えて圧縮する前に行う。具体的には、可撓性パイプ3に生コンクリートを充填し、一定期間養生させてコンクリート円柱2の側面が前記可撓性パイプ3で覆われた構造体を得た後、かつ可撓性パイプ3の外側から径方向に荷重を加えて圧縮する前に封止樹脂を注入する。前記養生期間としては特に限定されないが、コンクリートを乾燥収縮させる観点から2週間以上気中養生期間を設けることが好ましく、4週間以上気中養生期間を設けることがより好ましい。
【0031】
コンクリート円柱2の側面が前記可撓性パイプ3で覆われた構造体としては、予め長い可撓性パイプを所望の長さに切断しておいてから、切断された可撓性パイプ内に生コンクリートを充填し、該生コンクリートを硬化させることにより得る方法を採用してもよい。また、長い可撓性パイプ内に生コンクリートを充填し、該生コンクリートを硬化させてから所望の長さに切断することにより得る方法を採用してもよい。
【0032】
ここで、本発明者らは、可撓性パイプの長さが長くなると、可撓性パイプ内に生コンクリートが充填された際、重力の影響により可撓性パイプ内の上端付近と下端付近におけるコンクリート密度に差があること、すなわち、上端付近のコンクリートに比べて下端付近のコンクリートは緻密になることを確認している。また、生コンクリートが充填された可撓性パイプ内の上端と下端では、中心部と比べて骨材、特に粗骨材の分布状況が異なっている。このため、できるだけ品質に差がないコンクリート試験体1を得る観点から、可撓性パイプ内で生コンクリートが硬化した後で、得られた構造体の両端付近を一定幅で切断して除去することが好適な実施態様である。
【0033】
次いで、コンクリート円柱2の側面が可撓性パイプ3で覆われた構造体に対し、可撓性パイプ3の外側から径方向に荷重を加えて圧縮することにより貫通ひび割れ4を生じさせて本発明のコンクリート試験体1が得られる。
【0034】
可撓性パイプ3の外側から径方向に荷重を加える方法としては特に限定されず、例えば、JIS A1113で規定される割裂引張強度試験に用いられる試験機などを用いて、可撓性パイプ3の外側から径方向に荷重を加える方法が好適に採用される。このようにして可撓性パイプ3の外側から径方向に荷重を加えて圧縮することにより、コンクリート円柱2に貫通ひび割れ4が生じる。本発明では、コンクリート円柱2の外側が可撓性パイプ3で覆われているため、生じた貫通ひび割れ4が一定幅で保たれるとともに、コンクリート円柱2と可撓性パイプ3とが接している面に隙間が生じない。このことについては、本発明のコンクリート試験体1を用いて透水試験を行った場合に、貫通ひび割れ4部分のみに水が透過し、コンクリート円柱2と可撓性パイプ3との間には水が透過していないことから本発明者らにより確認されている。
【0035】
本発明のコンクリート試験体1は、コンクリート円柱2の一の平面に水圧をかけて他の平面から浸出する透水量を測定する透水試験に好適に用いられる。ここで、本発明のコンクリート試験体1は、図2の平均ひび割れ幅についてのグラフからも分かるように、バラツキがなくほぼ均一な貫通ひび割れ4幅を有することが分かる。透水量は、ひび割れ幅、ひび割れ長さ、ひび割れ面積の値に影響を受けるが、これらの値と透水量とに必ずしも相関関係があるとは言い切れない。しかしながら、本発明のコンクリート試験体1を用いて透水試験を行い、測定された透水量によりグループ分けを行うことにより、透水量が概ね同じ値であるコンクリート試験体1を容易に多数得ることができる。
【0036】
このようにして得られた複数のコンクリート試験体1は、後述する実施例からも分かるように、初期透水量が概ね同じ程度のコンクリート試験体1を用いて止水性確認試験を行うことにより、補修材による止水性能を評価することが可能となる。また、上述のようにして得られた本発明のコンクリート試験体1は、コンクリート円柱2の一の平面に気圧をかけて他の平面から排出する透気量を測定する透気試験にも好適に用いることができる。
【0037】
また、本発明のコンクリート試験体1の貫通ひび割れ4を有するコンクリート面に対して、補修材を塗布した後で透水試験、あるいは透気試験を行うことによって、補修材の性能を評価する際にも再現性の良いデータを得ることができる。また、外形寸法が一定である可撓性パイプ3を用いることで、透水試験あるいは透気試験の際に、試験装置への装着が容易である。特に塩ビパイプは、各種配管用に内外径の寸法精度の良いものが容易に入手できるという利点も有している。
【0038】
以上のように、本発明のコンクリート試験体1は、バラツキがなくほぼ均一な貫通ひび割れ4幅を有し、また、透水試験による透水量や透気試験による透気量が概ね同じ値を示すコンクリート試験体1を容易に多数得ることができる。したがって、本発明のコンクリート試験体1を用いて、透水試験、透気試験、補修材の評価試験、自己治癒試験,耐久性試験(ひび割れ部からの中性化傾向確認試験、塩化物イオン浸透状況確認試験、凍結融解進行状況確認試験、アルカリ骨材反応進行状況確認試験、乾湿繰返環境影響確認試験等)などを行って実構造物への様々な影響を検証することが可能となる。また、実際に実構造物を施工する際に、同じコンクリート部材を用いて本発明のコンクリート試験体1を作製した場合、実構造物とほぼ同じ条件で作製されたコンクリート試験体1が得られるため、該コンクリート試験体1を用いて実構造物への様々な影響を検証することも可能となる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。図1は本発明の貫通ひび割れ4を有するコンクリート試験体1の一例の斜視図である。本実施例において、ポリ塩化ビニルからなる樹脂パイプとして、市販品の塩ビ管(硬質塩化ビニル管VU呼び径75)を用い、コンクリートとして、レディーミクスコンクリート(普通ポルトランドセメント、呼び強度21N/m2、スランプ8cm、骨材5の最大寸法20mm)を用いた。
【0040】
[貫通ひび割れ4を有するコンクリート試験体1の作製]
作製例1
市販品の塩ビ管(硬質塩化ビニル管VU呼び径75)を長さ5cmに切断し、化粧合板上に並べて設置した。該塩ビ管の型枠内にコンクリート(レディーミクスコンクリート)を2層に分けて充填し、突き固め、閉め固めを行った。充填されたコンクリートの上面を金ゴテ仕上げとし、該上面をシートで覆い、気中養生を行った。材齢21日目に万能材料試験機(株式会社東京衡機製造所製)を用いて、該コンクリートが充填された塩ビ管の外側から圧力をかけ、最大荷重測定時点で装置を止めて、貫通ひび割れ4を有する長さ5cmのコンクリート試験体1を93個得た。このときの平均最大荷重は約3500kgfであった。
【0041】
作製例2
作製例1において、長さ5cmの市販品の塩ビ管(硬質塩化ビニル管VU呼び径75)にコンクリートを充填する代わりに、長さ23cmの市販品の塩ビ管(硬質塩化ビニル管VU呼び径75)にコンクリートを充填し、打設翌日より33日間の水中養生後、気中養生することにより、コンクリートが充填された長さ23cmの塩ビ管(材齢52日)を得た。該コンクリートが充填された長さ23cmの塩ビ管をコンクリートカッターにより5cmずつの長さとなるように切断することで、長さ23cmの1つの塩ビ管からコンクリートが充填された長さ5cmの塩ビ管が4つ得られた。このとき、コンクリートが充填された長さ23cmの塩ビ管の両端から1.5cmずつ部分は排除した。次いで、作製例1と同様に、万能材料試験機(株式会社東京衡機製造所製)を用いて、該コンクリートが充填された塩ビ管の外側から圧力をかけることにより、貫通ひび割れ4を有する長さ5cmのコンクリート試験体1を得た。
【0042】
作製例3
作製例1において、長さ5cmの市販品の塩ビ管(硬質塩化ビニル管VU呼び径75)にコンクリートを充填する代わりに、長さ23cmの市販品の塩ビ管(硬質塩化ビニル管VU呼び径75)にコンクリートを充填し、気中養生することにより、コンクリートが充填された長さ23cmの塩ビ管(材齢28日)を8本得た。該コンクリートが充填された長さ23cmの塩ビ管をコンクリートカッターにより20cmずつの長さとなるように切断し、コンクリートが充填された長さ20cmの塩ビ管を8本得た。このとき、コンクリートが充填された長さ23cmの塩ビ管の両端から1.5cmずつ部分は排除した。次いで、作製例1と同様に、万能材料試験機(株式会社東京衡機製造所製)を用いて、該コンクリートが充填された塩ビ管の外側から圧力をかけることにより、貫通ひび割れ4を有する長さ20cmのコンクリート試験体1を得た。
【0043】
作製例4
作製例1において、長さ5cmの市販品の塩ビ管(硬質塩化ビニル管VU呼び径75)にコンクリートを充填する代わりに、長さ23cmの市販品の塩ビ管(硬質塩化ビニル管VU呼び径75)にコンクリートを充填し、気中養生することにより、コンクリートが充填された長さ23cmの塩ビ管(材齢28日)を7本得た。該コンクリートが充填された長さ23cmの塩ビ管をコンクリートカッターにより10cmずつの長さとなるように切断し、コンクリートが充填された長さ10cmの塩ビ管を14本得た。このとき、コンクリートが充填された長さ23cmの塩ビ管の両端から1.5cmずつ部分は排除した。次いで、作製例1と同様に、万能材料試験機(株式会社東京衡機製造所製)を用いて、該コンクリートが充填された塩ビ管の外側から圧力をかけることにより、貫通ひび割れ4を有する長さ10cmのコンクリート試験体1を得た。
【0044】
[ひび割れ幅、長さ及び面積の測定]
作製例1、2、3及び4で得られた貫通ひび割れ4を有するコンクリート試験体1における押さえ面(上面)と型枠面(下面)のそれぞれに、ひび割れ幅測定器(株式会社ファースト社製「詳細ひび割れ幅測定器(FCV−30)」)をセットした。ひび割れ幅測定器に付属の画像処理ソフトで算出された平均値をひび割れ幅の平均値とした。また、上記押さえ面(上面)と型枠面(下面)のそれぞれについて、目視にて確認可能なひび割れ長さ(ひび割れ延長)を測定した。また、得られたひび割れ幅とひび割れ長さの値を乗じてひび割れ面積を算出した。作製例1で得られたコンクリート試験体1の結果を表1及び表2にまとめて示し、ひび割れ幅の分布を図2に示す。また、作製例2で得られたコンクリート試験体1の結果を表5に、作製例3で得られたコンクリート試験体1の結果を表3に、作製例4で得られたコンクリート試験体1の結果を表4にまとめて示す。
【0045】
[透水試験]
作製例1で得られた貫通ひび割れ4を有するコンクリート試験体1を促進中性化試験機(朝日科学株式会社製「促進中性化試験装置(BE0610W−6型)」)内(炭酸ガス濃度5%)にて7日間の促進中性化を行った後のコンクリート試験体1を屋内にて7日間気中養生して、材齢35日目のコンクリート試験体1を得た。透水試験としては、図3で示される透水試験装置を用いて行った。このとき、透水試験装置において、コンクリート試験体1における押さえ面(上面)に対して、ビニールホース6が連結された塩ビ管キャップ7を該コンクリート試験体1の一端に取り付けた。コンクリート試験体1の乾燥状態の差による吸水量の影響を小さくするため、予め水道水8を水槽9に供給しておき、加圧する水面高さを押さえ面から約1mとして、圧力(1.1気圧)にて60分間加圧し、30分間静置した後に、押さえ面(上面)の水分を湿った布でふき取った。次いで、コンクリート試験体1における型枠面(下面)に予め空体重量を測定済のポリエチレン袋10を取り付け、加圧する水面高さを押さえ面から約1mとして、圧力(1.1気圧)にて60分間加圧し、ポリエチレン袋10に流入した透過水11の重量を測定することにより透水量を求めた。得られた結果を表1及び表2にまとめて示す。
【0046】
[透気試験]
作製例2で得られた貫通ひび割れ4を有するコンクリート試験体1に対して、10日間の気中養生を行い、材齢62日目のコンクリート試験体1を得た。透気試験としては、図4で示される透気試験装置を用いて行った。このとき、透気試験装置において、コンクリート試験体1におけるひび割れ面積が大きい方の面が加圧面となるようにビニールホース6が連結された塩ビ管キャップ7を該試験体1の両端にセットし、コンプレッサー12からビニールホース6を通じてアセチレン調整器13で制御しながら圧縮空気を供給することにより、0.1MPaの圧力を加えて、コンクリート試験体1におけるひび割れ面積が小さい方の面からの透過空気量(cc/秒)を肺活量測定器14とストップウォッチにより計測した。得られた結果を表5にまとめて示し、ひび割れ面積と透気量との関係について図5に示す。
【0047】
[促進中性化確認試験]
作製例2で得られたコンクリート試験体1の中から数点を選択し、該コンクリート試験体1におけるひび割れ面積が大きい方の面をポリプロピレン系フィルム(ニチバン株式会社製)でシールした。促進中性化試験機(朝日科学株式会社製「促進中性化試験装置(BE0610W−6型)」)内(炭酸ガス濃度5%)に静置し、7日間の促進中性化を行った。促進中性化後のコンクリート試験体1の塩ビ管3の外側から、ひび割れ方向に対して垂直方向に荷重がかかるように万能材料試験機(株式会社東京衡機製造所製)を用いて圧力をかけてコンクリート試験体1を割裂した。次いで、ディスクグラインダーを用いて塩ビ管に切り込みを入れて、4分割されたコンクリート円柱2を塩ビ管3から取り外し、1つのコンクリート試験体1に対してコンクリート試験片を4つ得た。得られたコンクリート試験片に対し、コンクリート試験体1における貫通ひび割れ4面、及び新たに生じた割裂面に1%フェノールフタレイン溶液を噴霧して、中性化の確認を行った。コンクリート試験体1における貫通ひび割れ4面は、無色であり中性化が進んでいたが、新たに生じた割裂面(健全部)は赤紫色であり中性化されていないことが確認できた。中性化確認後のコンクリート試験片を図6に示す。
【0048】
[透水量の結果に基づいたグループ分け]
上記透水試験により得られた透水量の結果に基づいてグループ分けを行った。グループ分けした結果を表6に示す。
【0049】
[促進中性化後のコンクリート試験体1を用いた止水性確認試験]
上記グループ分けしたうちのグループ6におけるコンクリート試験体1を用いて、以下の塗布剤A、B、C、D及びEを各コンクリート試験体1における型枠面(下面)に対して塗布し、2週間気中養生を行った。次いで、気中養生後から21日目までの期間について、塗布剤A〜Eを塗布したコンクリート試験体1、及び無処理のコンクリート試験体1を用いて、上記透水試験と同様の方法で透水試験を行った。得られた結果を表7にまとめて示す。
塗布剤A:水ガラスA「珪酸リチウム(約22%水溶液)」
塗布剤B:水ガラスB「JIS3号珪酸ソーダ」
塗布剤C:クエン酸1%水溶液
塗布剤D:水ガラスAにクエン酸を1%添加
塗布剤E:水ガラスBにクエン酸を1%添加
【0050】
[貫通ひび割れ4内部の確認試験]
作製例2で得られたコンクリート試験体1の中から数点を選択し、該コンクリート試験体1におけるひび割れ面積が小さい方の面に、ノズル付きの塩ビ管キャップを取り付けた。ひび割れ注入用樹脂(コニシ株式会社製「ボンドE206Sエポキシ樹脂(主剤):変性脂環式ポリアミン、ポリチオール(硬化剤)=2:1を深さが約3mmとなるように容器内に投入した。コンクリート試験体1におけるひび割れ面積の大きい方の面が、前記ひび割れ注入用樹脂に浸るように該コンクリート試験体1を配置した。このとき、容器内側の底面と該ひび割れ面積の大きい方の面とが接しないように間隙物を容器内側の底面と該ひび割れ面積の大きい方の面との間に配置した。次いで、ひび割れ内部に前記ひび割れ注入用樹脂が満たされるように、塩ビ管のノズルから真空ポンプ(水流式)を用いて減圧した。該コンクリート試験体1を容器内から取り出して72時間静置してエポキシ樹脂を硬化させ、コンクリートカッターを用いてひび割れ方向に対して垂直方向に該コンクリート試験体1を切断した。これにより、コンクリート試験体1における貫通ひび割れ4内部の様子が確認できた。コンクリート試験体1におけるひび割れ面積の大きい方の面の写真を図7に、図7の一部を拡大した写真を図8に、コンクリート試験体1における貫通ひび割れ4内部の一部を拡大した写真を図9に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
【表5】
【0056】
【表6】
【0057】
【表7】
【0058】
[貫通ひび割れ4を有するコンクリート試験体1の作製]
作製例5
作製例1において、長さ5cmの市販品の塩ビ管(硬質塩化ビニル管VU呼び径75)にコンクリートを充填する代わりに、長さ23cmの市販品の塩ビ管(硬質塩化ビニル管VU呼び径75)にコンクリートを2月に充填し、気中養生することにより、追加試験用のコンクリートが充填された長さ23cmの塩ビ管を6本得た。約5ヶ月後の7月に該塩ビ管1本をコンクリートカッターにより5cmずつの長さとなるように切断することで、長さ23cmの1つの塩ビ管からコンクリートが充填された長さ5cmの塩ビ管が4つ得られた。このとき、コンクリートが充填された長さ23cmの塩ビ管の両端から1.5cmの部分をそれぞれ排除した。次いで、万能材料試験機(株式会社東京衡機製造所製)を用いて、該コンクリートが充填された塩ビ管の外側から圧力をかけることにより、貫通ひび割れ4を有する長さ5cmのコンクリート試験体1を得た。作際例5で得られたコンクリート試験体1における塩ビ管とコンクリートとの境界部分の一部を拡大した写真を図10に示す。図10から分かるように、塩ビ管とコンクリートとの間に隙間が存在することを確認した。
【0059】
作製例6
作製例5と同じく2月に充填された追加試験用の長さ23cmのコンクリートが充填された塩ビ管の型枠面(下面)に、ノズル付きの塩ビ管キャップを8月に取り付けた。エポキシ系樹脂(コニシ株式会社製「ボンドE206S(エポキシ樹脂(主剤):変性脂環式ポリアミン、ポリチオール(硬化剤)=2:1)」)を深さが約5mmとなるように容器内に投入した。該コンクリートが充填された塩ビ管における押さえ面(上面)が、前記エポキシ系樹脂に浸るように該コンクリートが充填された塩ビ管を配置した。このとき、容器内側の底面と該コンクリートが充填された塩ビ管の押さえ面(上面)とが接しないように間隙物を容器内側の底面と該コンクリートが充填された塩ビ管の押さえ面(上面)の間に配置した。次いで、塩ビ管とコンクリートとの間に存在する隙間にエポキシ系樹脂が満たされるように、塩ビ管のノズルから真空ポンプ(水流式)を用いて減圧した。1時間減圧後該コンクリートが充填された塩ビ管を容器内から取り出して72時間静置してエポキシ樹脂を硬化させた。その後、コンクリートカッターにより5cmずつの長さとなるように切断することで、長さ23cmの1つの塩ビ管からコンクリートが充填され、該コンクリートと塩ビ管との間に存在する隙間にエポキシ樹脂が注入された長さ5cmの塩ビ管が4つ得られた。このとき、コンクリートが充填され、該コンクリートと塩ビ管との間に存在する隙間にエポキシ樹脂が注入された長さ23cmの塩ビ管の両端から1.5cmの部分は排除した。次いで、作製例1と同様に、万能材料試験機(株式会社東京衡機製造所製)を用いて、該コンクリートが充填された塩ビ管の外側から圧力をかけることにより、貫通ひび割れ4を有する長さ5cmのコンクリート試験体1を得た。作製例6で得られたコンクリート試験体1における塩ビ管とコンクリートとの境界部分の一部(樹脂厚の大きい部分)を拡大した写真を図11に示す。図11から分かるように、塩ビ管とコンクリートとの間に存在する隙間がエポキシ系樹脂で封止されていることを確認した。
【0060】
[透気試験]
作製例5で得られた貫通ひび割れ4を有するコンクリート試験体1に対して、図4で示される透気試験装置を用いて7月に透気試験を行った。同様に、作製例6で得られた貫通ひび割れ4を有するコンクリート試験体1に対して、図4で示される透気試験装置を用いて8月に透気試験を行った。このとき、透気試験装置において、コンクリート試験体1におけるひび割れ面積が大きい方の面が加圧面となるようにビニールホース6が連結された塩ビ管キャップ7を該試験体1の両端にセットし、コンプレッサー12からビニールホース6を通じてアセチレン調整器13で制御しながら圧縮空気を供給することにより、0.1MPaの圧力を加えて、コンクリート試験体1におけるひび割れ面積が小さい方の面からの透過空気量を肺活量測定器14とストップウォッチにより計測した。上記方法により、作製例5で得られたコンクリート試験体1に対して透気試験を行った結果、透過空気量の値が297cc/秒と非常に大きく、塩ビ管とコンクリートとの隙間から空気が漏れていたと考えられる。一方、作製例6で得られたコンクリート試験体1に対して透気試験を行った結果、透過空気量が86cc/秒であった。このことから、塩ビ管とコンクリートとの隙間からの空気の漏れはなく、貫通ひび割れ4を透過した透過空気量を測定できたことが分かった。
【0061】
[透水確認試験]
作製例5及び6で得られた貫通ひび割れ4を有するコンクリート試験体1を用いて、透水確認試験を行った。2つの容器にそれぞれ容器内における水の深さが約10mmとなるように水を満たした。作製例5及び6で得られたコンクリート試験体1におけるひび割れ面の一方が水に浸るようにそれぞれ容器内にコンクリート試験体1を配置した。作製例5及び6で得られたコンクリート試験体1を容器内に配置してから約30秒後、作製例5で得られたコンクリート試験体1におけるひび割れ面の他方において、貫通ひび割れ4部分、及び塩ビ管とコンクリートとの境界部分に、毛細管現象により水が染み出した形跡を確認した。一方、作製例6で得られたコンクリート試験体1におけるひび割れ面の他方においては、貫通ひび割れ4部分のみに毛細管現象により水が染み出した形跡を確認した。このことから、作製例5で得られたコンクリート試験体1については、貫通ひび割れ4部分、及び塩ビ管とコンクリートとの間に隙間が存在することが確認された。一方、作製例6で得られたコンクリート試験体1については、貫通ひび割れ4部分のみに隙間が存在し、塩ビ管とコンクリートとの間に存在する隙間はエポキシ樹脂で封止されていることが確認された。透水確認試験後の作製例5及び6で得られたコンクリート試験体1の写真を図12に示す。
【符号の説明】
【0062】
1 コンクリート試験体
2 コンクリート円柱
3 可撓性パイプ
4 貫通ひび割れ
5 骨材
6 ビニールホース
7 塩ビ管キャップ
8 水道水
9 水槽
10 ポリエチレン袋
11 透過水
12 コンプレッサー
13 アセチレン調整器
14 肺活量測定器
【技術分野】
【0001】
本発明は、寸法精度の良い貫通ひび割れを有するコンクリート試験体及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
実構造物におけるコンクリートの耐久性を検討する場合、乾燥収縮等により発生した微細なひび割れによる影響を検証する必要がある。しかし、実構造物は場所によって品質にバラツキがあり、特に、コンクリートコアを採取して試験を行う場合には、採取コアのひび割れにバラツキがあり、採取時や試験用に加工する際に採取コアのひび割れ部分の大きさ等が変動するため、再現性の良い試験を行うことが困難であった。また、コンクリートコアを採取して試験を行う場合には、実構造物に損傷を与えることになるという問題もあった。
【0003】
特許文献1には、コンクリート構造体と同じ断面寸法の空間部を確保し、この空間部の底に断熱材の底板を配設し、その上に、上面開放の合成樹脂製周壁の外容器をスタンドにより支承して立設し、この外容器内に容易に破断可能な簡易型枠容器をなるべく隙間なく配置し、前記空間部内でこの簡易型枠容器内および外容器外の両方へ構造体と同じコンクリートを打設し、簡易型枠容器にキャップをして封かん状態とし、さらに、前記空間部の上を断熱材で覆い、養生期間経過後、簡易型枠容器を取り出して内部から供試体を得ることを特徴とする構造体コンクリートの供試体の作製方法について記載されている。これによれば、大きな模擬コンクリート構造物を造らずにすみ、大掛かりな機械を使用することなく、破損や傷のない綺麗な形で供試体が簡単に得られるとされている。しかしながら、貫通ひび割れを有するコンクリート試験体についての記載はなかった。
【0004】
また、特許文献2には、構造体にコンクリートを打設した後に、このコンクリートが硬化する前に供試体切り取り予定位置へ所定寸法の内径を有する筒体を挿入し、筒体内の中空部をコンクリートで充填し、その後挿入した筒体の外周部の外側に切り込みを入れて、外周部にコンクリートが付着された筒体を切り出し、切り出し後に、付着しているコンクリート及び筒体を除去して、筒体内部の供試体となるコンクリートを取り出して、これの圧縮試験を行うことを特徴とする供試体の検査方法について記載されている。これによれば、筒体内から供試体を取出すことができ、従来のようにドリル等により直接供試体を切り出さないので、供試体の破損や粗骨材の緩みが生じず、簡易に実際構造物の圧縮強度に近い試験結果が得られるとされている。しかしながら、貫通ひび割れを有するコンクリート試験体についての記載はなかった。
【0005】
微細なひび割れを有する試験体の作製方法として、供試体を圧縮または割裂することによりひび割れを作製する方法、内部の鉄筋に引張応力をかけてひび割れ作製する方法などが知られている。
【0006】
特許文献3には、コンクリート構造物の所定部分にひび割れを誘発するコンクリート構造物におけるひび割れ誘発方法において、ひび割れを誘発したい箇所に空洞部が形成されるようにコンクリートを打設するコンクリート打設工程と、コンクリートが硬化する際に前記空洞部を断面欠損部として機能させることによりその近傍にひび割れを誘発する第1誘発工程と、コンクリートを局部的に増圧するための増圧用流体を前記空洞部に充填する増圧用流体充填工程と、該空洞部に充填した増圧用流体を膨張させることによりその空洞部の近傍にひび割れを誘発する第2誘発工程とを備えたことを特徴とするコンクリート構造物のひび割れ誘発方法について記載されている。これによれば、ひび割れを確実に誘発することができるとされている。しかしながら、試験体の破壊に至る場合がある上に、微細なひび割れを均一に作製することが困難であり、改善が望まれていた。
【0007】
また、模擬ひび割れを有する試験体の作製方法として、供試体を切断等して得られた2体の試験体の間にスペーサーを挟んで張り合わせることにより、模擬ひび割れを有する試験体を得る方法が知られている。非特許文献1には、養生後のコンクリート試験体を圧縮試験機で割裂した後、厚さ0.02mmのテフロン(登録商標)シートを挟み込み、測定に用いられる面以外の割裂部を樹脂により塞いで得られるひび割れ試験体について記載されている。これによれば、得られたひび割れ試験体を用いて中性化促進試験を行うことができるとされている。しかしながら、こうして得られたひび割れ試験体は、割裂面に粒子を噛みこんでしまうおそれがあり、ひび割れ寸法にバラツキが生じ易かった。そのため、それを用いて透水試験や透気試験を行った場合、実構造物へのひび割れの影響を検証するうえで有効ではなく、また、試験体の作製方法が煩雑である面もあり、改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−152386号公報
【特許文献2】特開平5−332901号公報
【特許文献3】特開2009−249984号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】安澤翔他,「ひび割れへの表面含浸材塗布による中性化抑制効果と性能評価」,2009年,第36回土木学会関東支部技術研究発表会,V−53
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、透水試験、透気試験、補修材の評価試験などに好適に用いることのできる、バラツキがなくほぼ均一な貫通ひび割れ幅を有するコンクリート試験体及びその作製方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、コンクリート円柱の側面が可撓性パイプで覆われてなるコンクリート試験体であって、前記コンクリート円柱が、その回転軸と略平行な面で2分割される貫通ひび割れを有することを特徴とするコンクリート試験体を提供することによって解決される。
【0012】
このとき、前記貫通ひび割れの幅が0.5mm以下であることが好適であり、前記可撓性パイプがポリ塩化ビニルからなる樹脂パイプであることが好適である。また、前記コンクリート円柱の側面と前記可撓性パイプとの隙間の少なくとも一部が封止樹脂で封止されてなることが好適であり、前記貫通ひび割れの内部が中性化されてなることが好適である。また、補修材の評価に用いられることが本発明の好適な実施態様である。
【0013】
また、上記課題は、コンクリート円柱の側面が可撓性パイプで覆われてなるコンクリート試験体であって、可撓性パイプに生コンクリートを充填し、該生コンクリートを硬化させた後、前記可撓性パイプの外側から径方向に荷重を加えて圧縮することにより貫通ひび割れを生じさせてなるコンクリート試験体を提供することによっても解決される。
【0014】
このとき、コンクリート円柱の側面が可撓性パイプで覆われてなるコンクリート試験体の作製方法であって、可撓性パイプ内に生コンクリートを充填し、該生コンクリートを硬化させることによりコンクリート円柱の側面を前記可撓性パイプで覆い、次いで、前記可撓性パイプの外側から径方向に荷重を加えて圧縮することにより貫通ひび割れを生じさせることを特徴とするコンクリート試験体の作製方法を提供することが本発明の好適な実施態様である。
【0015】
また、このとき、前記生コンクリートを硬化させた後であって、前記可撓性パイプの外側から径方向に荷重を加えて圧縮する前に、前記コンクリート円柱の側面と前記可撓性パイプとの間の少なくとも一部に液状の封止樹脂を注入して硬化させることが好適であり、貫通ひび割れを生じさせた後に、炭酸ガス雰囲気下に置いて貫通ひび割れの内部を中性化させることが好適である。また、本発明のコンクリート試験体を用いて、コンクリート円柱の一の平面に水圧をかけて他の平面から浸出する透水量を測定する透水試験方法が本発明の好適な実施態様であり、コンクリート円柱の一の平面に気圧をかけて他の平面から排出する透気量を測定する透気試験方法も本発明の好適な実施態様である。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、バラツキがなくほぼ均一な貫通ひび割れ幅を有するコンクリート試験体及びその作製方法を提供することができる。また、透水試験による透水量や透気試験による透気量が概ね同じ値を示すコンクリート試験体を容易に多数得ることができるため、本発明のコンクリート試験体を用いて、透水試験、透気試験、補修材の評価試験などに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のコンクリート試験体の一例の斜視図である。
【図2】作製例1で得られたコンクリート試験体における平均ひび割れ幅の分布を示す図である。
【図3】本実施例で使用された透水試験装置を示した図である。
【図4】本実施例で使用された透気試験装置を示した図である。
【図5】作製例2で得られたコンクリート試験体におけるひび割れ面積と透気量との関係を示す図である。
【図6】作製例2で得られたコンクリート試験体に対して促進中性化確認試験を行った後のコンクリート試験片の写真である。
【図7】本発明のコンクリート試験体におけるひび割れを有する面の写真である。
【図8】本発明のコンクリート試験体におけるひび割れを有する面を一部拡大した写真である。
【図9】本発明のコンクリート試験体における貫通ひび割れ内部の一部を拡大した写真である。
【図10】作例例5で得られたコンクリート試験体における塩ビ管とコンクリートとの境界部分の一部を拡大した写真である。
【図11】作例例6で得られたコンクリート試験体における塩ビ管とコンクリートとの境界部分の一部を拡大した写真である。
【図12】透水確認試験後の作製例5及び6で得られたコンクリート試験体の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明をより具体的に説明する。図1は、本発明の貫通ひび割れ4を有するコンクリート試験体1である。本発明のコンクリート試験体1は、コンクリート円柱2の側面が可撓性パイプ3で覆われてなるコンクリート試験体1であって、前記コンクリート円柱2が、その回転軸と略平行な面で2分割される貫通ひび割れ4を有することを特徴とする。
【0019】
本発明で用いられる可撓性パイプ3としては、後述するコンクリート試験体1の作製方法において、可撓性パイプ3の外側から径方向に荷重を加えて圧縮した際に可撓性パイプ3内のコンクリート円柱2に貫通ひび割れ4が生じる程度に可撓性パイプ3が変形し、貫通ひび割れ4が生じた後に前記変形した可撓性パイプ3が概ね変形前の状態に戻り得るものであれば特に限定されない。かかる観点から、本発明で用いられる可撓性パイプ3は、樹脂パイプであることが好ましい。樹脂パイプに用いられる樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリスチレン等が挙げられる。中でも、ポリ塩化ビニルが樹脂パイプとしてより好適に用いられる。
【0020】
本発明のコンクリート試験体における可撓性パイプ3の内径や長さは特に限定されず、可撓性パイプ3の内径が30〜300mmのものが好適に用いられ、可撓性パイプ3の長さが20〜500mmのものが好適に用いられる。また、本発明で用いられる可撓性パイプ3の厚みとしては特に限定されず、1〜20mmのものが好適に用いられる。本発明者らは、可撓性パイプ3の厚みを小さくした場合には、可撓性パイプ3の外側から径方向に荷重を加えて圧縮した際に、生じる貫通ひび割れ4の幅が大きくなることを確認している。したがって、可撓性パイプ3の厚みを変更することにより、貫通ひび割れ4の幅を制御することも可能である。
【0021】
本発明のコンクリート試験体1は、貫通ひび割れ4の幅にバラツキがなくほぼ均一な値を示す。このことにより、本発明のコンクリート試験体1を用いて、透水試験、透気試験、補修材の評価試験などを行う際に、再現性の良いデータを得ることができ、実構造物への様々な影響を検証することが容易になる。貫通ひび割れ4の幅は0.5mm以下であることが好ましく、0.3mm以下であることがより好ましく、0.2mm以下であることが更に好ましい。また、貫通ひび割れ4の幅は通常、0.01mm以上である。
【0022】
本発明のコンクリート試験体1は、貫通ひび割れ4の内部が中性化されてなることが好ましい。このことにより、水和反応の進行が抑制されたコンクリート試験体1を得ることができる。また、実構造物に発生したひび割れ内部の表面は外気に触れ短期間で中性化されるため、コンクリート試験体1における貫通ひび割れ4の内部を促進中性化させることにより、実構造物に発生した中性化されたひび割れに対するのと同様の検証が可能となる。本発明において、貫通ひび割れ4の内部を中性化する方法としては特に限定されず、貫通ひび割れ4を有するコンクリート試験体1を一定濃度の炭酸ガス雰囲気下に置いて貫通ひび割れ4の内部を中性化させる方法等が好適に採用される。
【0023】
以下、本発明のコンクリート試験体1の作製方法について説明する。本発明のコンクリート試験体1の作製方法は、可撓性パイプ3内に生コンクリートを充填して、該生コンクリートを硬化させることにより、コンクリート円柱2の側面を前記可撓性パイプ3で覆い、次いで、前記可撓性パイプ3の外側から径方向に荷重を加えて圧縮することにより貫通ひび割れ4を生じさせることを特徴とする。
【0024】
ここで、本発明で用いられる生コンクリートは、通常、セメント、粗骨材、細骨材及び水を主成分とするものであるが、粗骨材を含まない、いわゆるモルタルであってもよい。また、セメントの代わりに他の水硬性物質を用いたものであっても構わない。
【0025】
可撓性パイプ3内に生コンクリートを充填して、該生コンクリートを硬化させることにより、コンクリート円柱2の側面を前記可撓性パイプ3で覆う方法は特に限定されない。可撓性パイプ3を化粧合板等の底板上に設置してから可撓性パイプ3内に生コンクリートを充填し、次いで、気中養生や水中養生を一定期間行う方法などを採用することができる。これにより、該生コンクリートが硬化してコンクリート円柱2の側面が前記可撓性パイプ3で覆われた構造体が得られることとなる。
【0026】
本発明では、コンクリート試験体1を用いて試験する際の気温が、生コンクリートを充填してから硬化させる際の気温よりも低いことが好ましい。具体的には、試験する際の気温が、生コンクリートを充填してから硬化させる際の気温よりも5℃以上低いことが好ましく、10℃以上低いことがより好ましく、15℃以上低いことが更に好ましい。樹脂パイプの方がコンクリートよりも線膨張係数が一桁程度大きい。そのため、試験する際の気温を生コンクリートを充填してから硬化させる際の気温よりも一定温度以上低くすることにより、樹脂パイプが内側方向に収縮しようとする力が働くこととなる。その結果、樹脂パイプとコンクリートとの間に隙間ができにくくなり、透水試験や透気試験の精度がより向上する。一方、本発明者らは、試験する際の気温が生コンクリートを充填してから硬化させる際の気温よりも高かった場合には、樹脂パイプとコンクリート円柱2との間に隙間ができやすくなったことを確認している。
【0027】
上述のように、本発明のコンクリート試験体1を用いて試験する際の気温が生コンクリートを充填してから硬化させる際の気温よりも高い場合に、コンクリート円柱2と可撓性パイプ3との間に隙間が生じるのを防止する観点から、コンクリート円柱2の側面と可撓性パイプ3との間の少なくとも一部に液状の封止樹脂を注入して硬化させることが好ましい。このことにより、透水試験や透気試験を行った際に、コンクリート試験体1におけるコンクリート円柱2と可撓性パイプ3との隙間からの漏れがなく、透水試験や透気試験の精度を向上させることができ、特に透気試験の精度を向上させることができる。
【0028】
本発明で用いられる封止樹脂としては、コンクリート円柱2の側面と可撓性パイプ3との隙間の少なくとも一部に注入することができて硬化するものであれば特に限定されず、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエステル系樹脂等からなる群から選択される少なくとも1種の封止樹脂が好適に使用される。隙間なく充填できる観点からは、硬化収縮の少ない2液硬化型の封止樹脂が好適に使用される。また、高い接着強度が得られる観点から、エポキシ系樹脂が封止樹脂としてより好適に使用される。中でも、低粘度エポキシ系樹脂が封止樹脂として更に好適に使用され、2液硬化型低粘度注入用のエポキシ系樹脂が特に好適に使用される。
【0029】
本発明において、コンクリート円柱2の側面と可撓性パイプ3との間の少なくとも一部に封止樹脂を注入する方法としては特に限定されないが、例えば、コンクリート円柱2の側面が前記可撓性パイプ3で覆われた構造体の底面から封止樹脂を減圧吸引することにより、コンクリート円柱2の側面と可撓性パイプ3との間の少なくとも一部に封止樹脂を注入させる方法が好適に採用される。
【0030】
また、封止樹脂を注入する時期としては、コンクリート円柱2の側面が前記可撓性パイプ3で覆われた構造体に対し、可撓性パイプ3の外側から径方向に荷重を加えて圧縮する前に行う。具体的には、可撓性パイプ3に生コンクリートを充填し、一定期間養生させてコンクリート円柱2の側面が前記可撓性パイプ3で覆われた構造体を得た後、かつ可撓性パイプ3の外側から径方向に荷重を加えて圧縮する前に封止樹脂を注入する。前記養生期間としては特に限定されないが、コンクリートを乾燥収縮させる観点から2週間以上気中養生期間を設けることが好ましく、4週間以上気中養生期間を設けることがより好ましい。
【0031】
コンクリート円柱2の側面が前記可撓性パイプ3で覆われた構造体としては、予め長い可撓性パイプを所望の長さに切断しておいてから、切断された可撓性パイプ内に生コンクリートを充填し、該生コンクリートを硬化させることにより得る方法を採用してもよい。また、長い可撓性パイプ内に生コンクリートを充填し、該生コンクリートを硬化させてから所望の長さに切断することにより得る方法を採用してもよい。
【0032】
ここで、本発明者らは、可撓性パイプの長さが長くなると、可撓性パイプ内に生コンクリートが充填された際、重力の影響により可撓性パイプ内の上端付近と下端付近におけるコンクリート密度に差があること、すなわち、上端付近のコンクリートに比べて下端付近のコンクリートは緻密になることを確認している。また、生コンクリートが充填された可撓性パイプ内の上端と下端では、中心部と比べて骨材、特に粗骨材の分布状況が異なっている。このため、できるだけ品質に差がないコンクリート試験体1を得る観点から、可撓性パイプ内で生コンクリートが硬化した後で、得られた構造体の両端付近を一定幅で切断して除去することが好適な実施態様である。
【0033】
次いで、コンクリート円柱2の側面が可撓性パイプ3で覆われた構造体に対し、可撓性パイプ3の外側から径方向に荷重を加えて圧縮することにより貫通ひび割れ4を生じさせて本発明のコンクリート試験体1が得られる。
【0034】
可撓性パイプ3の外側から径方向に荷重を加える方法としては特に限定されず、例えば、JIS A1113で規定される割裂引張強度試験に用いられる試験機などを用いて、可撓性パイプ3の外側から径方向に荷重を加える方法が好適に採用される。このようにして可撓性パイプ3の外側から径方向に荷重を加えて圧縮することにより、コンクリート円柱2に貫通ひび割れ4が生じる。本発明では、コンクリート円柱2の外側が可撓性パイプ3で覆われているため、生じた貫通ひび割れ4が一定幅で保たれるとともに、コンクリート円柱2と可撓性パイプ3とが接している面に隙間が生じない。このことについては、本発明のコンクリート試験体1を用いて透水試験を行った場合に、貫通ひび割れ4部分のみに水が透過し、コンクリート円柱2と可撓性パイプ3との間には水が透過していないことから本発明者らにより確認されている。
【0035】
本発明のコンクリート試験体1は、コンクリート円柱2の一の平面に水圧をかけて他の平面から浸出する透水量を測定する透水試験に好適に用いられる。ここで、本発明のコンクリート試験体1は、図2の平均ひび割れ幅についてのグラフからも分かるように、バラツキがなくほぼ均一な貫通ひび割れ4幅を有することが分かる。透水量は、ひび割れ幅、ひび割れ長さ、ひび割れ面積の値に影響を受けるが、これらの値と透水量とに必ずしも相関関係があるとは言い切れない。しかしながら、本発明のコンクリート試験体1を用いて透水試験を行い、測定された透水量によりグループ分けを行うことにより、透水量が概ね同じ値であるコンクリート試験体1を容易に多数得ることができる。
【0036】
このようにして得られた複数のコンクリート試験体1は、後述する実施例からも分かるように、初期透水量が概ね同じ程度のコンクリート試験体1を用いて止水性確認試験を行うことにより、補修材による止水性能を評価することが可能となる。また、上述のようにして得られた本発明のコンクリート試験体1は、コンクリート円柱2の一の平面に気圧をかけて他の平面から排出する透気量を測定する透気試験にも好適に用いることができる。
【0037】
また、本発明のコンクリート試験体1の貫通ひび割れ4を有するコンクリート面に対して、補修材を塗布した後で透水試験、あるいは透気試験を行うことによって、補修材の性能を評価する際にも再現性の良いデータを得ることができる。また、外形寸法が一定である可撓性パイプ3を用いることで、透水試験あるいは透気試験の際に、試験装置への装着が容易である。特に塩ビパイプは、各種配管用に内外径の寸法精度の良いものが容易に入手できるという利点も有している。
【0038】
以上のように、本発明のコンクリート試験体1は、バラツキがなくほぼ均一な貫通ひび割れ4幅を有し、また、透水試験による透水量や透気試験による透気量が概ね同じ値を示すコンクリート試験体1を容易に多数得ることができる。したがって、本発明のコンクリート試験体1を用いて、透水試験、透気試験、補修材の評価試験、自己治癒試験,耐久性試験(ひび割れ部からの中性化傾向確認試験、塩化物イオン浸透状況確認試験、凍結融解進行状況確認試験、アルカリ骨材反応進行状況確認試験、乾湿繰返環境影響確認試験等)などを行って実構造物への様々な影響を検証することが可能となる。また、実際に実構造物を施工する際に、同じコンクリート部材を用いて本発明のコンクリート試験体1を作製した場合、実構造物とほぼ同じ条件で作製されたコンクリート試験体1が得られるため、該コンクリート試験体1を用いて実構造物への様々な影響を検証することも可能となる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。図1は本発明の貫通ひび割れ4を有するコンクリート試験体1の一例の斜視図である。本実施例において、ポリ塩化ビニルからなる樹脂パイプとして、市販品の塩ビ管(硬質塩化ビニル管VU呼び径75)を用い、コンクリートとして、レディーミクスコンクリート(普通ポルトランドセメント、呼び強度21N/m2、スランプ8cm、骨材5の最大寸法20mm)を用いた。
【0040】
[貫通ひび割れ4を有するコンクリート試験体1の作製]
作製例1
市販品の塩ビ管(硬質塩化ビニル管VU呼び径75)を長さ5cmに切断し、化粧合板上に並べて設置した。該塩ビ管の型枠内にコンクリート(レディーミクスコンクリート)を2層に分けて充填し、突き固め、閉め固めを行った。充填されたコンクリートの上面を金ゴテ仕上げとし、該上面をシートで覆い、気中養生を行った。材齢21日目に万能材料試験機(株式会社東京衡機製造所製)を用いて、該コンクリートが充填された塩ビ管の外側から圧力をかけ、最大荷重測定時点で装置を止めて、貫通ひび割れ4を有する長さ5cmのコンクリート試験体1を93個得た。このときの平均最大荷重は約3500kgfであった。
【0041】
作製例2
作製例1において、長さ5cmの市販品の塩ビ管(硬質塩化ビニル管VU呼び径75)にコンクリートを充填する代わりに、長さ23cmの市販品の塩ビ管(硬質塩化ビニル管VU呼び径75)にコンクリートを充填し、打設翌日より33日間の水中養生後、気中養生することにより、コンクリートが充填された長さ23cmの塩ビ管(材齢52日)を得た。該コンクリートが充填された長さ23cmの塩ビ管をコンクリートカッターにより5cmずつの長さとなるように切断することで、長さ23cmの1つの塩ビ管からコンクリートが充填された長さ5cmの塩ビ管が4つ得られた。このとき、コンクリートが充填された長さ23cmの塩ビ管の両端から1.5cmずつ部分は排除した。次いで、作製例1と同様に、万能材料試験機(株式会社東京衡機製造所製)を用いて、該コンクリートが充填された塩ビ管の外側から圧力をかけることにより、貫通ひび割れ4を有する長さ5cmのコンクリート試験体1を得た。
【0042】
作製例3
作製例1において、長さ5cmの市販品の塩ビ管(硬質塩化ビニル管VU呼び径75)にコンクリートを充填する代わりに、長さ23cmの市販品の塩ビ管(硬質塩化ビニル管VU呼び径75)にコンクリートを充填し、気中養生することにより、コンクリートが充填された長さ23cmの塩ビ管(材齢28日)を8本得た。該コンクリートが充填された長さ23cmの塩ビ管をコンクリートカッターにより20cmずつの長さとなるように切断し、コンクリートが充填された長さ20cmの塩ビ管を8本得た。このとき、コンクリートが充填された長さ23cmの塩ビ管の両端から1.5cmずつ部分は排除した。次いで、作製例1と同様に、万能材料試験機(株式会社東京衡機製造所製)を用いて、該コンクリートが充填された塩ビ管の外側から圧力をかけることにより、貫通ひび割れ4を有する長さ20cmのコンクリート試験体1を得た。
【0043】
作製例4
作製例1において、長さ5cmの市販品の塩ビ管(硬質塩化ビニル管VU呼び径75)にコンクリートを充填する代わりに、長さ23cmの市販品の塩ビ管(硬質塩化ビニル管VU呼び径75)にコンクリートを充填し、気中養生することにより、コンクリートが充填された長さ23cmの塩ビ管(材齢28日)を7本得た。該コンクリートが充填された長さ23cmの塩ビ管をコンクリートカッターにより10cmずつの長さとなるように切断し、コンクリートが充填された長さ10cmの塩ビ管を14本得た。このとき、コンクリートが充填された長さ23cmの塩ビ管の両端から1.5cmずつ部分は排除した。次いで、作製例1と同様に、万能材料試験機(株式会社東京衡機製造所製)を用いて、該コンクリートが充填された塩ビ管の外側から圧力をかけることにより、貫通ひび割れ4を有する長さ10cmのコンクリート試験体1を得た。
【0044】
[ひび割れ幅、長さ及び面積の測定]
作製例1、2、3及び4で得られた貫通ひび割れ4を有するコンクリート試験体1における押さえ面(上面)と型枠面(下面)のそれぞれに、ひび割れ幅測定器(株式会社ファースト社製「詳細ひび割れ幅測定器(FCV−30)」)をセットした。ひび割れ幅測定器に付属の画像処理ソフトで算出された平均値をひび割れ幅の平均値とした。また、上記押さえ面(上面)と型枠面(下面)のそれぞれについて、目視にて確認可能なひび割れ長さ(ひび割れ延長)を測定した。また、得られたひび割れ幅とひび割れ長さの値を乗じてひび割れ面積を算出した。作製例1で得られたコンクリート試験体1の結果を表1及び表2にまとめて示し、ひび割れ幅の分布を図2に示す。また、作製例2で得られたコンクリート試験体1の結果を表5に、作製例3で得られたコンクリート試験体1の結果を表3に、作製例4で得られたコンクリート試験体1の結果を表4にまとめて示す。
【0045】
[透水試験]
作製例1で得られた貫通ひび割れ4を有するコンクリート試験体1を促進中性化試験機(朝日科学株式会社製「促進中性化試験装置(BE0610W−6型)」)内(炭酸ガス濃度5%)にて7日間の促進中性化を行った後のコンクリート試験体1を屋内にて7日間気中養生して、材齢35日目のコンクリート試験体1を得た。透水試験としては、図3で示される透水試験装置を用いて行った。このとき、透水試験装置において、コンクリート試験体1における押さえ面(上面)に対して、ビニールホース6が連結された塩ビ管キャップ7を該コンクリート試験体1の一端に取り付けた。コンクリート試験体1の乾燥状態の差による吸水量の影響を小さくするため、予め水道水8を水槽9に供給しておき、加圧する水面高さを押さえ面から約1mとして、圧力(1.1気圧)にて60分間加圧し、30分間静置した後に、押さえ面(上面)の水分を湿った布でふき取った。次いで、コンクリート試験体1における型枠面(下面)に予め空体重量を測定済のポリエチレン袋10を取り付け、加圧する水面高さを押さえ面から約1mとして、圧力(1.1気圧)にて60分間加圧し、ポリエチレン袋10に流入した透過水11の重量を測定することにより透水量を求めた。得られた結果を表1及び表2にまとめて示す。
【0046】
[透気試験]
作製例2で得られた貫通ひび割れ4を有するコンクリート試験体1に対して、10日間の気中養生を行い、材齢62日目のコンクリート試験体1を得た。透気試験としては、図4で示される透気試験装置を用いて行った。このとき、透気試験装置において、コンクリート試験体1におけるひび割れ面積が大きい方の面が加圧面となるようにビニールホース6が連結された塩ビ管キャップ7を該試験体1の両端にセットし、コンプレッサー12からビニールホース6を通じてアセチレン調整器13で制御しながら圧縮空気を供給することにより、0.1MPaの圧力を加えて、コンクリート試験体1におけるひび割れ面積が小さい方の面からの透過空気量(cc/秒)を肺活量測定器14とストップウォッチにより計測した。得られた結果を表5にまとめて示し、ひび割れ面積と透気量との関係について図5に示す。
【0047】
[促進中性化確認試験]
作製例2で得られたコンクリート試験体1の中から数点を選択し、該コンクリート試験体1におけるひび割れ面積が大きい方の面をポリプロピレン系フィルム(ニチバン株式会社製)でシールした。促進中性化試験機(朝日科学株式会社製「促進中性化試験装置(BE0610W−6型)」)内(炭酸ガス濃度5%)に静置し、7日間の促進中性化を行った。促進中性化後のコンクリート試験体1の塩ビ管3の外側から、ひび割れ方向に対して垂直方向に荷重がかかるように万能材料試験機(株式会社東京衡機製造所製)を用いて圧力をかけてコンクリート試験体1を割裂した。次いで、ディスクグラインダーを用いて塩ビ管に切り込みを入れて、4分割されたコンクリート円柱2を塩ビ管3から取り外し、1つのコンクリート試験体1に対してコンクリート試験片を4つ得た。得られたコンクリート試験片に対し、コンクリート試験体1における貫通ひび割れ4面、及び新たに生じた割裂面に1%フェノールフタレイン溶液を噴霧して、中性化の確認を行った。コンクリート試験体1における貫通ひび割れ4面は、無色であり中性化が進んでいたが、新たに生じた割裂面(健全部)は赤紫色であり中性化されていないことが確認できた。中性化確認後のコンクリート試験片を図6に示す。
【0048】
[透水量の結果に基づいたグループ分け]
上記透水試験により得られた透水量の結果に基づいてグループ分けを行った。グループ分けした結果を表6に示す。
【0049】
[促進中性化後のコンクリート試験体1を用いた止水性確認試験]
上記グループ分けしたうちのグループ6におけるコンクリート試験体1を用いて、以下の塗布剤A、B、C、D及びEを各コンクリート試験体1における型枠面(下面)に対して塗布し、2週間気中養生を行った。次いで、気中養生後から21日目までの期間について、塗布剤A〜Eを塗布したコンクリート試験体1、及び無処理のコンクリート試験体1を用いて、上記透水試験と同様の方法で透水試験を行った。得られた結果を表7にまとめて示す。
塗布剤A:水ガラスA「珪酸リチウム(約22%水溶液)」
塗布剤B:水ガラスB「JIS3号珪酸ソーダ」
塗布剤C:クエン酸1%水溶液
塗布剤D:水ガラスAにクエン酸を1%添加
塗布剤E:水ガラスBにクエン酸を1%添加
【0050】
[貫通ひび割れ4内部の確認試験]
作製例2で得られたコンクリート試験体1の中から数点を選択し、該コンクリート試験体1におけるひび割れ面積が小さい方の面に、ノズル付きの塩ビ管キャップを取り付けた。ひび割れ注入用樹脂(コニシ株式会社製「ボンドE206Sエポキシ樹脂(主剤):変性脂環式ポリアミン、ポリチオール(硬化剤)=2:1を深さが約3mmとなるように容器内に投入した。コンクリート試験体1におけるひび割れ面積の大きい方の面が、前記ひび割れ注入用樹脂に浸るように該コンクリート試験体1を配置した。このとき、容器内側の底面と該ひび割れ面積の大きい方の面とが接しないように間隙物を容器内側の底面と該ひび割れ面積の大きい方の面との間に配置した。次いで、ひび割れ内部に前記ひび割れ注入用樹脂が満たされるように、塩ビ管のノズルから真空ポンプ(水流式)を用いて減圧した。該コンクリート試験体1を容器内から取り出して72時間静置してエポキシ樹脂を硬化させ、コンクリートカッターを用いてひび割れ方向に対して垂直方向に該コンクリート試験体1を切断した。これにより、コンクリート試験体1における貫通ひび割れ4内部の様子が確認できた。コンクリート試験体1におけるひび割れ面積の大きい方の面の写真を図7に、図7の一部を拡大した写真を図8に、コンクリート試験体1における貫通ひび割れ4内部の一部を拡大した写真を図9に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
【表5】
【0056】
【表6】
【0057】
【表7】
【0058】
[貫通ひび割れ4を有するコンクリート試験体1の作製]
作製例5
作製例1において、長さ5cmの市販品の塩ビ管(硬質塩化ビニル管VU呼び径75)にコンクリートを充填する代わりに、長さ23cmの市販品の塩ビ管(硬質塩化ビニル管VU呼び径75)にコンクリートを2月に充填し、気中養生することにより、追加試験用のコンクリートが充填された長さ23cmの塩ビ管を6本得た。約5ヶ月後の7月に該塩ビ管1本をコンクリートカッターにより5cmずつの長さとなるように切断することで、長さ23cmの1つの塩ビ管からコンクリートが充填された長さ5cmの塩ビ管が4つ得られた。このとき、コンクリートが充填された長さ23cmの塩ビ管の両端から1.5cmの部分をそれぞれ排除した。次いで、万能材料試験機(株式会社東京衡機製造所製)を用いて、該コンクリートが充填された塩ビ管の外側から圧力をかけることにより、貫通ひび割れ4を有する長さ5cmのコンクリート試験体1を得た。作際例5で得られたコンクリート試験体1における塩ビ管とコンクリートとの境界部分の一部を拡大した写真を図10に示す。図10から分かるように、塩ビ管とコンクリートとの間に隙間が存在することを確認した。
【0059】
作製例6
作製例5と同じく2月に充填された追加試験用の長さ23cmのコンクリートが充填された塩ビ管の型枠面(下面)に、ノズル付きの塩ビ管キャップを8月に取り付けた。エポキシ系樹脂(コニシ株式会社製「ボンドE206S(エポキシ樹脂(主剤):変性脂環式ポリアミン、ポリチオール(硬化剤)=2:1)」)を深さが約5mmとなるように容器内に投入した。該コンクリートが充填された塩ビ管における押さえ面(上面)が、前記エポキシ系樹脂に浸るように該コンクリートが充填された塩ビ管を配置した。このとき、容器内側の底面と該コンクリートが充填された塩ビ管の押さえ面(上面)とが接しないように間隙物を容器内側の底面と該コンクリートが充填された塩ビ管の押さえ面(上面)の間に配置した。次いで、塩ビ管とコンクリートとの間に存在する隙間にエポキシ系樹脂が満たされるように、塩ビ管のノズルから真空ポンプ(水流式)を用いて減圧した。1時間減圧後該コンクリートが充填された塩ビ管を容器内から取り出して72時間静置してエポキシ樹脂を硬化させた。その後、コンクリートカッターにより5cmずつの長さとなるように切断することで、長さ23cmの1つの塩ビ管からコンクリートが充填され、該コンクリートと塩ビ管との間に存在する隙間にエポキシ樹脂が注入された長さ5cmの塩ビ管が4つ得られた。このとき、コンクリートが充填され、該コンクリートと塩ビ管との間に存在する隙間にエポキシ樹脂が注入された長さ23cmの塩ビ管の両端から1.5cmの部分は排除した。次いで、作製例1と同様に、万能材料試験機(株式会社東京衡機製造所製)を用いて、該コンクリートが充填された塩ビ管の外側から圧力をかけることにより、貫通ひび割れ4を有する長さ5cmのコンクリート試験体1を得た。作製例6で得られたコンクリート試験体1における塩ビ管とコンクリートとの境界部分の一部(樹脂厚の大きい部分)を拡大した写真を図11に示す。図11から分かるように、塩ビ管とコンクリートとの間に存在する隙間がエポキシ系樹脂で封止されていることを確認した。
【0060】
[透気試験]
作製例5で得られた貫通ひび割れ4を有するコンクリート試験体1に対して、図4で示される透気試験装置を用いて7月に透気試験を行った。同様に、作製例6で得られた貫通ひび割れ4を有するコンクリート試験体1に対して、図4で示される透気試験装置を用いて8月に透気試験を行った。このとき、透気試験装置において、コンクリート試験体1におけるひび割れ面積が大きい方の面が加圧面となるようにビニールホース6が連結された塩ビ管キャップ7を該試験体1の両端にセットし、コンプレッサー12からビニールホース6を通じてアセチレン調整器13で制御しながら圧縮空気を供給することにより、0.1MPaの圧力を加えて、コンクリート試験体1におけるひび割れ面積が小さい方の面からの透過空気量を肺活量測定器14とストップウォッチにより計測した。上記方法により、作製例5で得られたコンクリート試験体1に対して透気試験を行った結果、透過空気量の値が297cc/秒と非常に大きく、塩ビ管とコンクリートとの隙間から空気が漏れていたと考えられる。一方、作製例6で得られたコンクリート試験体1に対して透気試験を行った結果、透過空気量が86cc/秒であった。このことから、塩ビ管とコンクリートとの隙間からの空気の漏れはなく、貫通ひび割れ4を透過した透過空気量を測定できたことが分かった。
【0061】
[透水確認試験]
作製例5及び6で得られた貫通ひび割れ4を有するコンクリート試験体1を用いて、透水確認試験を行った。2つの容器にそれぞれ容器内における水の深さが約10mmとなるように水を満たした。作製例5及び6で得られたコンクリート試験体1におけるひび割れ面の一方が水に浸るようにそれぞれ容器内にコンクリート試験体1を配置した。作製例5及び6で得られたコンクリート試験体1を容器内に配置してから約30秒後、作製例5で得られたコンクリート試験体1におけるひび割れ面の他方において、貫通ひび割れ4部分、及び塩ビ管とコンクリートとの境界部分に、毛細管現象により水が染み出した形跡を確認した。一方、作製例6で得られたコンクリート試験体1におけるひび割れ面の他方においては、貫通ひび割れ4部分のみに毛細管現象により水が染み出した形跡を確認した。このことから、作製例5で得られたコンクリート試験体1については、貫通ひび割れ4部分、及び塩ビ管とコンクリートとの間に隙間が存在することが確認された。一方、作製例6で得られたコンクリート試験体1については、貫通ひび割れ4部分のみに隙間が存在し、塩ビ管とコンクリートとの間に存在する隙間はエポキシ樹脂で封止されていることが確認された。透水確認試験後の作製例5及び6で得られたコンクリート試験体1の写真を図12に示す。
【符号の説明】
【0062】
1 コンクリート試験体
2 コンクリート円柱
3 可撓性パイプ
4 貫通ひび割れ
5 骨材
6 ビニールホース
7 塩ビ管キャップ
8 水道水
9 水槽
10 ポリエチレン袋
11 透過水
12 コンプレッサー
13 アセチレン調整器
14 肺活量測定器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート円柱の側面が可撓性パイプで覆われてなるコンクリート試験体であって、
前記コンクリート円柱が、その回転軸と略平行な面で2分割される貫通ひび割れを有することを特徴とするコンクリート試験体。
【請求項2】
前記貫通ひび割れの幅が0.5mm以下である請求項1記載のコンクリート試験体。
【請求項3】
前記可撓性パイプがポリ塩化ビニルからなる樹脂パイプである請求項1又は2記載のコンクリート試験体。
【請求項4】
前記コンクリート円柱の側面と前記可撓性パイプとの隙間の少なくとも一部が封止樹脂で封止されてなる請求項1〜3のいずれか記載のコンクリート試験体。
【請求項5】
前記貫通ひび割れの内部が中性化されてなる請求項1〜4のいずれか記載のコンクリート試験体。
【請求項6】
補修材の評価に用いられる請求項1〜5のいずれか記載のコンクリート試験体。
【請求項7】
コンクリート円柱の側面が可撓性パイプで覆われてなるコンクリート試験体であって、
可撓性パイプに生コンクリートを充填し、該生コンクリートを硬化させた後、前記可撓性パイプの外側から径方向に荷重を加えて圧縮することにより貫通ひび割れを生じさせてなるコンクリート試験体。
【請求項8】
コンクリート円柱の側面が可撓性パイプで覆われてなるコンクリート試験体の作製方法であって、
前記可撓性パイプ内に生コンクリートを充填し、該生コンクリートを硬化させることによりコンクリート円柱の側面を前記可撓性パイプで覆い、
次いで、前記可撓性パイプの外側から径方向に荷重を加えて圧縮することにより貫通ひび割れを生じさせることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載のコンクリート試験体の作製方法。
【請求項9】
前記生コンクリートを硬化させた後であって、前記可撓性パイプの外側から径方向に荷重を加えて圧縮する前に、前記コンクリート円柱の側面と前記可撓性パイプとの間の少なくとも一部に液状の封止樹脂を注入して硬化させる請求項8記載のコンクリート試験体の作製方法。
【請求項10】
貫通ひび割れを生じさせた後に、炭酸ガス雰囲気下に置いて貫通ひび割れの内部を中性化させる請求項8又は9記載のコンクリート試験体の作製方法。
【請求項11】
コンクリート円柱の一の平面に水圧をかけて他の平面から浸出する透水量を測定する請求項1〜7のいずれか記載のコンクリート試験体を用いた透水試験方法。
【請求項12】
コンクリート円柱の一の平面に気圧をかけて他の平面から排出する透気量を測定する請求項1〜7のいずれか記載のコンクリート試験体を用いた透気試験方法。
【請求項1】
コンクリート円柱の側面が可撓性パイプで覆われてなるコンクリート試験体であって、
前記コンクリート円柱が、その回転軸と略平行な面で2分割される貫通ひび割れを有することを特徴とするコンクリート試験体。
【請求項2】
前記貫通ひび割れの幅が0.5mm以下である請求項1記載のコンクリート試験体。
【請求項3】
前記可撓性パイプがポリ塩化ビニルからなる樹脂パイプである請求項1又は2記載のコンクリート試験体。
【請求項4】
前記コンクリート円柱の側面と前記可撓性パイプとの隙間の少なくとも一部が封止樹脂で封止されてなる請求項1〜3のいずれか記載のコンクリート試験体。
【請求項5】
前記貫通ひび割れの内部が中性化されてなる請求項1〜4のいずれか記載のコンクリート試験体。
【請求項6】
補修材の評価に用いられる請求項1〜5のいずれか記載のコンクリート試験体。
【請求項7】
コンクリート円柱の側面が可撓性パイプで覆われてなるコンクリート試験体であって、
可撓性パイプに生コンクリートを充填し、該生コンクリートを硬化させた後、前記可撓性パイプの外側から径方向に荷重を加えて圧縮することにより貫通ひび割れを生じさせてなるコンクリート試験体。
【請求項8】
コンクリート円柱の側面が可撓性パイプで覆われてなるコンクリート試験体の作製方法であって、
前記可撓性パイプ内に生コンクリートを充填し、該生コンクリートを硬化させることによりコンクリート円柱の側面を前記可撓性パイプで覆い、
次いで、前記可撓性パイプの外側から径方向に荷重を加えて圧縮することにより貫通ひび割れを生じさせることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載のコンクリート試験体の作製方法。
【請求項9】
前記生コンクリートを硬化させた後であって、前記可撓性パイプの外側から径方向に荷重を加えて圧縮する前に、前記コンクリート円柱の側面と前記可撓性パイプとの間の少なくとも一部に液状の封止樹脂を注入して硬化させる請求項8記載のコンクリート試験体の作製方法。
【請求項10】
貫通ひび割れを生じさせた後に、炭酸ガス雰囲気下に置いて貫通ひび割れの内部を中性化させる請求項8又は9記載のコンクリート試験体の作製方法。
【請求項11】
コンクリート円柱の一の平面に水圧をかけて他の平面から浸出する透水量を測定する請求項1〜7のいずれか記載のコンクリート試験体を用いた透水試験方法。
【請求項12】
コンクリート円柱の一の平面に気圧をかけて他の平面から排出する透気量を測定する請求項1〜7のいずれか記載のコンクリート試験体を用いた透気試験方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−42442(P2012−42442A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197165(P2010−197165)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(592199102)株式会社アストン (9)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(592199102)株式会社アストン (9)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]