説明

貫通孔形成方法

【課題】加工時間の短縮と加工コストの低減を両立可能な貫通孔形成方法を提供する。
【解決手段】被加工部材10に貫通孔12を形成する方法であって、切削加工によって被加工部材10に未貫通の下穴12aを形成し、下穴12a内の切屑13を除去後、放電加工によって下穴12aを貫通孔12とする。
このように本発明によれば、貫通孔12を形成するに際し、切削加工によって未貫通の下穴12a(止まり穴)を形成し、その後放電加工することによって下穴12aを貫通孔12とするので、放電加工のみで貫通孔12を形成する場合よりも加工時間を短縮することができる。また、バリによる問題を解決することができるので、加工コストを低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工部材に貫通孔を形成する貫通孔形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、被加工部材に貫通孔を形成する際に、例えば放電加工が採用されている(特許文献1参照)。
【0003】
放電加工の場合、電極と被加工部材との間に高電圧を加えて放電させ、被加工部材に貫通孔を形成する。従って、バリ等を生じないので、後処理工程を不要とすることができる。
【特許文献1】特開2003−200319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、放電加工の場合、加工時間が長くかかるという問題がある。
【0005】
これに対し、切削工具(例えばドリル)を用いた切削加工によって貫通孔を形成すると、加工時間を短縮することができる。しかしながら、切削工具が抜ける側の面にバリが生じるため、後処理工程が必要となる。また、抜け際のバリの噛み込みによって、切削工具の寿命が短くなる。すなわち、加工コストが増加する。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑み、加工時間の短縮と加工コストの低減を両立可能な貫通孔形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する為に請求項1に記載の発明は、被加工部材に貫通孔を形成する方法であって、切削加工によって被加工部材に未貫通の下穴を形成する切削工程と、放電加工によって下穴を貫通孔とする放電工程と、を備えることを特徴とする。
【0008】
このように本発明によれば、貫通孔を形成するに際し、切削加工によって未貫通の下穴(止まり穴)を形成し、その後放電加工することによって下穴を貫通孔とする。従って、放電加工のみで貫通孔を形成する場合よりも加工時間を短縮することができる。また、バリによる問題を解決することができるので、加工コストを低減することができる。
【0009】
具体的には、請求項2に記載のように、貫通孔の直交方向において、放電加工により被加工部材に形成される形成領域は、下穴の形成領域の大きさ以下であり、且つ、下穴の形成領域に全て含まれるように、放電加工を実施することが好ましい。このように放電加工を実施すると、貫通方向において下穴の形成領域を放電加工しなくとも良く、下穴の底面と対向する被加工部材間のみを放電加工すれば良い。従って、加工時間をより短縮することができる。
【0010】
被加工部材との間で放電を生じる電極(放電加工に用いる電極)として、内部に加工液の流路が設けられ、先端から加工液を噴出する電極、所謂パイプ電極を用いる場合、放電工程において下穴が貫通するまでは、電極先端から噴出した加工液が電極と未貫通の穴内壁面との間の隙間を流れ、被加工部材の開口部位(切削加工される側)から外部に噴流する。すなわち、放電加工により生じる加工屑を外部に排出することができる。ところが、放電によって下穴が少なからず貫通すると、電極先端から噴出した加工液は開口部位(切削加工されない側)から外部に排出されることとなる。すなわち、電極と貫通孔内壁面との間の隙間に加工液が流れなくなるので、貫通孔の角部に加工屑の一部が堆積し、加工時間短縮の妨げとなる。これに対し、請求項3に記載のように、被加工部材との間で放電を生じる電極として、内部に加工液の流路が設けられ、先端から加工液を噴出する電極を用い、放電工程において、下穴が少なからず貫通した状態で、貫通孔の一方の開口部位から電極と貫通孔の内壁面との間の隙間に、電極に使用される加工液を供給すると、当該加工液によって、角部に堆積する加工屑を外部に除去することができる。
【0011】
放電加工においては電極と被加工部材に高電圧が印加されるため、切削加工により生じた切屑が下穴内に存在し、電極と被加工部材が切屑によって短絡すると、電極及び被加工部材が損傷する恐れがある。また、切屑の存在箇所のみ余分に放電加工しなければならないため、電極が偏磨耗する恐れがある。そこで、請求項4に記載のように、切削工程と放電工程との間に、下穴内の切屑を除去する除去工程を備えると良い。例えば請求項5に記載のように、放電加工時に使用する加工液を、下穴に対して加圧噴射することで、下穴内の切屑を除去しても良い。
【0012】
また、請求項6に記載のように、切削工程と放電工程との間に、下穴内の切屑有無を検査する検査工程を備えても良い。上述した、切屑による不具合を防ぐことができる。具体的には、請求項7に記載のように、被加工部材は導電性材料からなり、検査工程は、検査用電極を下穴内に挿入し、検査用電極と被加工部材との間の切屑による短絡を検査する短絡検査工程を含んでも良い。放電電圧よりも低い検査用電圧を検査用電極と被加工部材との間に印加することで、電極及び被加工部材が損傷させることなく、放電加工の態様に即した状態で切屑の有無を検査することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図1は、ワークを説明するための図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線に沿う断面図である。図2は、ワークに貫通孔を形成する工程の概略を説明するための模式図である。図3は、本発明の第1実施形態に係る貫通孔形成方法を説明するための概略断面図であり、(a),(b)は切削工程、(c)は除去工程、(d),(e)は放電工程を示す図である。図4は、切削工程において形成される下穴の拡大断面図である。図5は、下穴と放電加工による加工領域との関係を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B線に沿う断面図である。
【0014】
図1(a),(b)に示すように、被加工部材としてのワーク10は、金属材料(例えばSUS)からなり、所定肉厚の円環部11を含んでいる。そして、この円環部11に厚さ方向に貫通する貫通孔12を1つ形成する。尚、ワーク10の構成材料は上記例に限定されるものではない。後述する切削加工と放電加工が可能な公知材料であれば採用が可能である。また、ワーク10の形状、貫通孔12の個数についても、上記例に限定されるものではない。
【0015】
本実施形態においては、車両用ABSアクチュエータのシリンダを構成する一部品をワーク10としている。また、所定形状のワーク10を形成する複数の工程の1つ(貫通孔形成工程)として、ワーク10へ貫通孔12を形成する。図2に示すように、前工程から搬入されたワーク10を貫通孔形成工程の加工固定台1上に位置決め固定し、切削工具21が装着された切削装置20によって切削加工する。切削加工後、切屑除去装置30から洗浄液31を噴出して切屑を除去し、ワーク10との間で放電を生じる電極41が装着された放電加工装置40によって放電加工する。これにより、ワーク10に貫通孔12が形成される。そして貫通孔形成後、ワーク10を次工程に搬出する。尚、本実施形態においては、図1に示すように、加工固定台1をターンテーブルとし、図示されない位置決め固定手段によってワーク10をターンテーブルに固定している。従って、貫通孔12を形成するに際して、複数の加工方法を用いる構成ながら、加工時間を短縮することができる。しかしながら、ターンテーブルは加工固定台1の一例であり、それ以外にも公知の設備(搬送コンベア、ロボット等)を採用することができる。
【0016】
次に、本実施形態の特徴部分である貫通孔12の形成方法について、詳細に説明する。上述したように、本実施形態においては、貫通孔形成工程として、切削加工する切削工程と、切削後に切屑を除去する除去工程と、切屑除去後に放電加工する放電工程を含んでいる。
【0017】
先ず図3(a),(b)に示すように切削工程を実施する。この切削工程においては、切削工具21を用いた切削加工によって、ワーク10に貫通孔12の基礎となる未貫通の下穴(止まり穴)を形成する点を特徴とする。具体的には、切削工具21としてドリルを用い、ワーク10の円環部11に、図3(a)に示すように外周側から切削工具21を押し当てて切削加工を施す。そして、図3(b)に示すように所定深さの下穴12aを形成する。このとき、貫通しない状態で下穴12aをできるだけ深く形成するほど、放電加工時に加工する領域が減少する。すなわち、トータルでの加工時間を短縮することができる。
【0018】
しかしながら、切削工具21としてドリルを用いる場合、下穴12aの底面が、図4に示すようにドリル先端の形状(一般的に先端角度118°)に応じた形状となる。すなわち、円環部11の厚さ方向において、下穴12aの底面と対向する円環部11の内周面との距離(貫通孔12となるまでの残り代)が場所によって不均一となる。尚、本実施形態においては、切削工具21の中心軸(回転軸)部位の残り代h1が最も薄く、中心軸から外周側ほど残り代が厚くなっている。このように、残り代が不均一であると、放電加工時において、電極41の磨耗に偏りが生じる。特に、下穴12aが深ければ深いほど、外周部位の残り代h2と中心軸部位の残り代h1の比率(h1/h2)が小さくなり、電極41の偏磨耗の度合いが大きくなってしまう。尚、本発明者が確認したところ、直径約1.6mmの下穴12aを先端角度118°のドリルで形成し、下穴12aよりも小さい加工径で放電加工した場合、残り代h2が約1.5mm以上(h1/h2が約0.7以上)であれば、加工精度に影響がでるほどの偏磨耗は生じなかった。また、残り代h2が約0.5mm(h1/h2が約0.11)の場合、偏磨耗が大きく、加工精度が悪化した。従って、加工時間と電極41の偏磨耗とのバランスを見ながら、貫通孔12の形成条件に応じて、下穴12aの深さを適宜設定することが好ましい。
【0019】
切削工程後、図3(c)に示すように除去工程を実施する。この除去工程においては、切屑除去装置30によって、下穴12a内に存在する切削加工により生じた屑(切屑13)を、下穴12aの外へ取り出す、すなわち、下穴12aから切屑13を除去する点を特徴とする。具体的には、切屑除去装置30のノズルから洗浄液31(太線矢印)を下穴12aに向けて噴射し、下穴12a内に存在する切屑13を、洗浄液31の流れによって下穴12a外に排出させる。
【0020】
この除去工程は必ずしも必要ではない。切削工程後、放電工程を実施することもできる。しかしながら、放電工程においては電極41とワーク10との間に高電圧を印加するため、電極41とワーク10が切屑13によって短絡すると、電極41とワーク10が損傷する恐れがある。また、切屑13の部分を余分に除去しなければならないため、電極41が偏磨耗する恐れがある。従って、切削工程後に除去工程において切屑13を除去すると良い。これにより、加工時間は増すものの、上記不具合が生じるのを防ぐことができる。従って、結果的に、良品1個当たりに費やす加工時間を短縮することができる。
【0021】
尚、洗浄液31としては、下穴12aから外部へ切屑13を効果的に洗い流すことのできるものであれば採用が可能である。例えば、放電工程において、加工液(水、油等)を使用しながら放電加工を実施する場合、加工液を洗浄液31として用いることもできる。この場合、貫通孔形成工程において、使用される液体を共通化することができるので、工程を簡素化することができる。本実施形態においては、加工液を採用している。
【0022】
また、切屑13の除去方法は上記例に限定されるものではない。洗浄液31による洗い流し以外の方法も採用することができる。例えばエアブローすることによって、切屑13を除去しても良い。また、吸引することによって、切屑13を除去しても良い。さらには、下穴12a内に先端に粘着性材料を配置した部材を挿入し、切屑13を粘着性材料に引っ付けて下穴12aから取り出しても良い。
【0023】
除去工程後、図3(d),(e)に示すように放電工程を実施する。この放電工程においては、電極41を用いた放電加工によって、止まり穴である下穴12aを貫通孔12とする点を特徴とする。
【0024】
ここで、図5(a),(b)に示すように、形成される貫通孔12の直交方向において、放電加工によりワーク10に新たに形成される加工領域12bが、下穴12aの形成領域の大きさ以下であり、且つ、下穴12aの形成領域に全て含まれるように、放電加工を実施することが好ましい。このように放電加工を実施すると、貫通方向において下穴12aの形成領域(側面部位)を放電加工しなくとも良く、下穴12aの底面と対向する円環部11の内周面間のみを放電加工すれば良い。従って、加工時間をより短縮することができる。尚、このような加工によって形成される貫通孔12は、図5(b)に示すように、孔径の異なる部分(12a,12b)を有するもの、すなわち、直径の異なる下穴12aと加工領域12bを連結してなるものとなる。
【0025】
本実施形態においては、黄銅管からなる電極41の一端側がホルダ(図示略)に回転可能に保持され、電極41を回転させた状態で他端側にて放電加工する。電極41は、その直径及び放電加工によってワーク10に形成される加工領域12bの直径が下穴12aの直径よりも小さく設定されており、切削工具21(ドリル)の中心軸(回転軸)と電極41の中心軸(回転軸)を略一致させた状態で、図3(d)に示すように電極41を下穴12a内に挿入する。そして、下穴12aの底面に対して所定距離離間するように電極41を下降させた状態で、電極41とワーク10との間に高電圧を印加し、放電加工を実施する。このとき、電極41を回転させつつ、電極41をさらに円環部11の内周方向に下降させることにより、図3(e)及び図5(b)に示すように、ワーク10に貫通孔12が形成される。
【0026】
このように本実施形態に係る貫通孔形成方法によれば、ワーク10に貫通孔12を形成するに際し、先ず切削加工によって未貫通の下穴12a(止まり穴)を形成し、その後放電加工することによって下穴12aを貫通孔12とする。従って、放電加工のみで貫通孔12を形成する場合よりも加工時間を短縮することができる。また、切削加工において生じるバリの問題(バリ手直し、バリの噛み込みによる短寿命)を解決することができるので、加工コストを低減することができる。
【0027】
また、本実施形態においては、形成される貫通孔12の直交方向において、放電加工によりワーク10に新たに形成される加工領域12bが、下穴12aの形成領域の大きさより小さく、且つ、下穴12aの形成領域に全て含まれるように、放電加工を実施する。この場合、貫通方向において下穴12aの形成領域(側面部位)を放電加工しなくとも良く、下穴12aの底面と対向する円環部11の内周面間のみを放電加工すれば良い。従って、加工時間をより短縮することができる。尚、形成される貫通孔12の直交方向において、放電加工によりワーク10に新たに形成される加工領域12bが、下穴12aの形成領域の大きさと略同等であり、且つ、下穴12aの形成領域に全て含まれるように、放電加工を実施しても同様の効果を期待することができる。
【0028】
しかしながら、形成される貫通孔12の直交方向において、放電加工によりワーク10に新たに形成される加工領域12bの少なくとも一部が、下穴12aの形成領域に含まれないように、放電加工を実施しても良い。この場合、貫通方向において下穴12aの形成領域(側面部位)を放電加工するので、上述した例よりも加工時間が長くなるが、放電加工のみよって貫通孔12を形成する場合よりは、加工量が少ないので、加工時間を短縮することができる。
【0029】
また、本実施形態においては、切削工程と放電工程との間に、下穴12a内の切屑13を除去する除去工程を実施する。従って、切屑13による不具合(短絡による電極41とワーク10の損傷、電極41の偏磨耗)を防ぐことができる。
【0030】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を、図6に基づいて説明する。図6は、本発明の第2実施形態に係る貫通孔形成方法の要部を示す概略断面図である。
【0031】
第2実施形態に係る貫通孔形成方法は、第1実施形態に示した貫通孔形成方法と共通するところが多いので、以下、共通部分については詳しい説明は省略し、異なる部分を重点的に説明する。
【0032】
本実施形態に係る貫通孔形成方法は、第1実施形態に示した貫通孔形成工程(貫通孔形成方法)において、切削工程と放電工程との間に、下穴12a内の切屑有無を検査する検査工程を含む点を特徴とする。
【0033】
本実施形態においてはワーク10が導電性材料からなり、検査工程として、図6に示すように検査用電極50を下穴12a内に挿入し、検査用電極50を、ワーク10(下穴12aの内壁)に対して所定距離離間した状態で、両者に検査用の電圧を印加し、検査用電極50とワーク10が短絡するかを検査する短絡検査を含んでいる。切屑13が下穴12a内に存在すれば、切屑13を介して検査用電極50とワーク10が短絡することとなるので、切屑13を検出することができる。また、放電電圧よりも低い検査用電圧を検査用電極50とワーク10との間に印加するので、放電加工時の短絡のように電極41とワーク10を損傷することなく、放電加工の態様に即した状態で切屑13の有無を検査することができる。
【0034】
このように、本実施形態に係る貫通孔形成方法によれば、第1実施形態に記載の効果に加えて、切屑13による不具合(短絡による電極41とワーク10の損傷、電極41の偏磨耗)を防ぐことができる。
【0035】
尚、検査工程においては、下穴12a内の切屑有無を検査するだけであるので、第1実施形態で示した除去工程と組み合わせて実施することが好ましい。その際、先に検査工程を実施してから除去工程を実施しても良いし、除去工程を実施してから検査工程を実施しても良い。しかしながら、切削工程と放電工程との間で、除去工程を実施せずに検査工程を実施しても良い。例えば切屑13が検出されたワーク10については、工程から払い出して、別途除去するようにしても良い。
【0036】
また、検査方法としては上記短絡検査に限定されるものではない。それ以外にも、例えば光学的検査方法等を採用することができる。
【0037】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態を、図7〜図9に基づいて説明する。図7は、電極41の概略構成を説明するための図であり、(a)は放電加工する先端側から見た平面図、(b)は(a)のC−C線に沿った断面図である。図8は、加工液を用いた放電加工を説明するための概略断面図であり、(a)は貫通前の状態、(b)は貫通直後の状態を示している。図9は、第3実施形態に係る加工液を用いた放電加工を説明するための概略断面図である。
【0038】
第3実施形態に係る貫通孔形成方法は、第1実施形態に示した貫通孔形成方法と共通するところが多いので、以下、共通部分については詳しい説明は省略し、異なる部分を重点的に説明する。
【0039】
本実施形態においては、図7(a),(b)に示すように、ワーク10との間で放電を生じる電極41として、内部に加工液の流路41bが設けられ、先端から加工液を噴出する電極、所謂パイプ電極を用いる。より具体的には、電極41は、円筒状の管部41aと、当該管部41aに接続されて、管部41a内の内部空間、すなわち、加工液流路41bを二分する連通部41cとを含んでいる。そして、一端を図示されないホルダに固定した状態で、ホルダを介して加工液を加工液流路41bに供給し、電極41を回転させて放電加工を実施する。
【0040】
このような構成の電極41を用いて放電加工する場合、図8(a)に示すように、下穴12aが貫通するまで、すなわち、下穴12aに繋がる加工領域12bが円環部11の内周面側に貫通する前の状態においては、電極41と未貫通の穴(下穴12aと加工領域12b)の内壁面との間の隙間が流路となる。従って、電極41の先端から噴出する加工液42が、上記流路を介して下穴12aの開口部位(円環部11の外周側)から外部に噴流する。すなわち、放電加工により生じる加工屑を外部に排出することができる。
【0041】
ところが、図8(b)に示すように、放電によって下穴12aが少なからず貫通する、すなわち、下穴12aに繋がる加工領域12bが円環部11の内周面側に貫通して貫通孔12となると、電極41の先端から噴出する加工液42は、加工領域12bの開口部位(円環部11の内周側)から外部に排出されることとなる。すなわち、電極41と未貫通の穴(下穴12aと加工領域12b)の内壁面との間の隙間に加工液42が流れなくなる。従って、例えば加工領域12bの角部に放電加工による加工屑14の一部が堆積し、加工時間短縮の妨げとなる。
【0042】
これに対し、本実施形態においては、図9に示すように、放電によって下穴12aが少なからず貫通した状態、すなわち、下穴12aに繋がる加工領域12bが円環部11の内周面側に貫通して貫通孔12となった状態で、貫通孔12(下穴12aと加工領域12b)の一方の開口部位(図9においては、下穴12aの開口部位)から電極41と貫通孔12の内壁面との間の隙間に、電極41に使用される加工液42と同一の加工液43を供給すると、加工液43は他方の開口部位に向けて流れ、例えば図8(b)に示すように角部に堆積する加工屑14を外部に排出・除去することができる。
【0043】
尚、放電によって下穴12aに繋がる加工領域12bが円環部11の内周面側にわずかでも貫通するとともに加工液43電極41と貫通孔12の内壁面との間の隙間に供給し、放電加工が終了するまで、加工液43を供給し続けると、加工時間をより短縮することができる。しかしながら、放電加工を実施している間に少なくとも加工液43を供給すれば、少なからず加工時間を短縮することができる。
【0044】
このように本実施形態に係る貫通孔形成方法によれば、第1実施形態に記載の効果に加えて、放電加工による加工時間を短縮することができる。すなわち、貫通孔12を形成する加工時間をより短縮することができる。
【0045】
尚、本実施形態においては、電極41内を流通する加工液42と同一の加工液43を使用する例を示した。このように同一の加工液43を用いると、再利用が容易となる。また、廃棄する場合にも、分離処理を不要とすることができる。しかしながら、放電加工に影響を与えないものならば、加工液42とは成分の異なる加工液43を加工屑14の除去に使用することも可能である。
【0046】
また、本実施形態においては、下穴12aの開口部位(円環部11の外周側)から加工液43を供給する例を示した。しかしながら、加工領域12bの開口部位(円環部11の内周側)から加工液43を供給しても良い。
【0047】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
【0048】
本実施形態においては、図2に示すように、ワーク10を前工程から搬入し、貫通孔12の形成後に、次工程に搬出する例を示した。すなわち、貫通孔形成がワーク10を形成する工程の一部を担う例を示した。しかしながら、貫通孔形成のタイミングは上記例に限定されるものではない。ワーク10の形成において、少なくとも貫通孔12を形成する工程を含むものであれば良い。本発明の貫通孔形成方法はこの貫通孔形成工程に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】ワークを説明するための図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線に沿う断面図である。
【図2】ワークに貫通孔を形成する工程の概略を説明するための模式図である。
【図3】第1実施形態に係る貫通孔形成方法を説明するための概略断面図であり、(a),(b)は切削工程、(c)は除去工程、(d),(e)は放電工程を示す図である。
【図4】切削工程において形成される下穴の拡大断面図である。
【図5】下穴と放電加工による加工領域との関係を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B線に沿う断面図である。
【図6】第2実施形態に係る貫通孔形成方法の要部を示す概略断面図である。
【図7】電極の概略構成を説明するための図であり、(a)は放電加工する先端側から見た平面図、(b)は(a)のC−C線に沿った断面図である。
【図8】加工液を用いた放電加工を説明するための概略断面図であり、(a)は貫通前の状態、(b)は貫通直後の状態を示している。
【図9】第3実施形態に係る加工液を用いた放電加工を説明するための概略断面図である。
【符号の説明】
【0050】
10・・・ワーク(被加工部材)
12・・・貫通孔
12a・・・下穴
12b・・・(放電加工による)加工領域
13・・・切屑
20・・・切削装置
21・・・切削工具
30・・・切屑除去装置
31・・・洗浄液
40・・・放電加工装置
41・・・電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工部材に貫通孔を形成する方法であって、
切削加工によって前記被加工部材に未貫通の下穴を形成する切削工程と、
放電加工によって前記下穴を貫通孔とする放電工程と、を備えることを特徴とする貫通孔形成方法。
【請求項2】
前記貫通孔の直交方向において、前記放電加工により前記被加工部材に形成される形成領域は、前記下穴の形成領域の大きさ以下であり、且つ、前記下穴の形成領域に全て含まれるように、前記放電加工を実施することを特徴とする請求項1に記載の貫通孔形成方法。
【請求項3】
前記被加工部材との間で放電を生じる電極として、内部に加工液の流路が設けられ、先端から前記加工液を噴出する電極を用い、
前記放電工程において、前記下穴が少なからず貫通した状態で、前記貫通孔の一方の開口部位から前記電極と前記貫通孔の内壁面との間の隙間に、前記電極に使用される加工液を供給することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の貫通孔形成方法。
【請求項4】
前記切削工程と前記放電工程との間に、前記下穴内の切屑を除去する除去工程を備えることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の貫通孔形成方法。
【請求項5】
前記除去工程において、前記放電加工時に使用する加工液を、前記下穴に対して加圧噴射することを特徴とする請求項4に記載の貫通孔形成方法。
【請求項6】
前記切削工程と前記放電工程との間に、前記下穴内の切屑有無を検査する検査工程を備えることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載の貫通孔形成方法。
【請求項7】
前記被加工部材は導電性材料からなり、
前記検査工程は、検査用電極を前記下穴内に挿入し、前記検査用電極と前記被加工部材との間の前記切屑による短絡を検査する短絡検査工程を含むことを特徴とする請求項6に記載の貫通孔形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−203422(P2007−203422A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−27273(P2006−27273)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】