説明

貯槽の屋根構築法

【課題】 バランス装置の構造が簡単で、準備と施工に時間と費用が掛からないようにし、浮上中の屋根の傾きを抑制する能力に優れた貯槽の屋根構築法を提供する。
【解決手段】 貯槽の底板上に円筒状に組立てられた側板内部の底部で貯槽の屋根を組立て、屋根の下内部に空気を供給して屋根を側板に沿って浮上させ、側板上端部に結合する貯槽の屋根構築法であって、屋根中心直下の重心下方位置にウェイトを配置し、これを吊り材で屋根外周部全周に接続したバランス装置に形成し、このバランス装置を用いて屋根自体をパラシュートの傘状にして浮上させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気圧によって貯槽の屋根を浮上させて施工する、貯槽の屋根構築法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、貯槽の底板上に円筒状に組立てられた側板内部の底部で貯槽の屋根を組立て、屋根下側の気密空間の内部に空気を供給して屋根を側板に沿って浮上させ、側板上端部に結合する貯槽屋根のエアーレイジング工法がある。
この従来のエアーレイジング工法について、特許文献1、特許文献2、および特許文献3に基づいて説明する。
【0003】
従来例1の「屋根付き円筒タンク組立方法」特開平9−151620号公報(特許文献1参照)の発明に開示された貯槽屋根のエアーレイジング工法の要点について、図6を参照にして説明する。図6に示すように、貯槽1内の底板2上で屋根4を組立て、複数のバランスワイヤ16、複数のシーブつまり滑車17などからなる浮上用の仮設部材を底板2、屋根4、側板3上部などの固定部18に取付ける。次いで、屋根4の下側に形成される気密空間に加圧空気を充填し、バランスを保ちながら屋根4を側板3の上端部所定位置まで浮上させ、屋根4の外周縁を側板3に結合する工法である。
【0004】
従来例2の「タンクの屋根装着方法」特開平7−279473号公報(特許文献2参照)の発明には、タンク内底部において組み立てた屋根の下部周囲に、タンク側壁内部に接するガイド車輪を上下方向に少なくとも2個設けた垂直支持部材を少なくとも3本以上設け、タンクの底部から空気を入れて、屋根をタンク側壁上部の所定位置まで浮上させて接合する方法が開示されている。
【0005】
また、従来例3の「タンク屋根の浮上時における傾斜修正装置」特開平10−102813号(特許文献3参照)の発明には、タンク底部で組み立てたタンク屋根の周方向複数箇所にタンク側壁部の内周面に対し圧接し得るようにブレーキ付きガイドローラを装着し、タンク屋根の複数の直径方向に対して傾斜状態を検知し得るように傾斜計を装着し、この傾斜計からの検知信号に基づいてガイドローラにブレーキを掛ける制御装置を備えたタンク屋根の浮上時における傾斜修正装置が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平9−151620号公報
【特許文献2】特開平7−279473号公報
【特許文献3】特開平10−102813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1「屋根付き円筒タンク組立方法」特開平9−151620号公報の発明に開示され、図6に例示する従来工法は、浮上用のバランスワイヤ16、滑車17等の仮設部材の数が多くかつ構造が複雑で、セッティングにかなりの注意と時間と費用を要する。また、滑車17等の仮設部材を貯槽の底板2、屋根4などに取付ける固定部18が多く、この部材取付箇所の固定部18の治具跡処理にかなりの手間と労力を要する工法であった。
【0008】
特許文献2「タンクの屋根装着方法」特開平7−279473号公報の発明は、タンク側壁内部に接するガイド車輪を上下方向に少なくとも2個設けた垂直支持部材を少なくとも3本以上設けたものだが、垂直支持部材に無理な力がかかる場合に損傷が生じて滑らかに浮上しない恐れがあった。また、使用後の解体撤去が高所作業で大変であった。
【0009】
また、特許文献3「タンク屋根の浮上時における傾斜修正装置」特開平10−102813号の発明は、傾斜計からの検知信号に基づいてガイドローラにブレーキを掛ける制御装置は、構造および制御機構が複雑で調整が大変で煩雑になった。
【0010】
この発明の目的は、上述のような従来技術が有する問題点に鑑みてなされたもので、バランス装置の構造が簡単で、準備と施工に時間と費用が掛からないようにし、浮上中の屋根の傾きを抑制する能力に優れた貯槽の屋根構築法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明に係る貯槽の屋根構築法は、貯槽の底板上に円筒状に組立てられた側板内部の底部で貯槽の屋根を組立て、屋根の下内部に空気を供給して屋根を側板に沿って浮上させ、側板上端部に結合する貯槽の屋根構築法であって、屋根中心直下の重心下方位置にウェイトを配置し、これを吊り材で屋根外周部全周に接続したバランス装置に形成し、このバランス装置を用いて屋根自体をパラシュートの傘状にして浮上させるものである。
【0012】
請求項2の発明に係る貯槽の屋根構築法は、上記バランス装置を用いて屋根自体をパラシュートの傘状にして浮上させる際に、底部で屋根を組立てる際に架台として使用する外周架台を屋根浮上時の平衡ガイド装置に使用するものである。
【0013】
請求項3の発明に係る貯槽の屋根構築法は、上記外周架台の水平方向に沿って設けた補強部材と、上記外周架台と屋根とを接続する接続部材と、上記外周架台の垂直支柱と側板の間に設けたガイドローラとで上記平衡ガイド装置を形成したものである。
【0014】
請求項4の発明に係る貯槽の屋根構築法は、上記屋根浮上時に使用した外周架台よりなる平衡ガイド装置を降下する際に、上記ウェイトと吊り材よりなるバランス装置を使用するものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明に係る貯槽の屋根構築法は、屋根中心直下の重心下方位置にウェイトを配置し、これを吊り材で屋根外周部全周に接続したバランス装置に形成し、このバランス装置を用いて屋根自体をパラシュートの傘状にして浮上させることにより、パラシュートの傘状の屋根が傾くと、向かい合う吊り材の張力に偏りが発生し、重心点周りに屋根を水平に戻す方向のモーメントMが生じるため、浮上中の屋根の傾きを抑制する能力に優れ、屋根が傾いた際に吊り材テンション、張力の調整が自然に容易に行われ、平衡状態を維持するように姿勢を修正することができるため安定性が良い。バランス装置の構造が極めて単純で、準備と施工に時間と費用が掛からない。貯槽本体と完全に縁切りされていて、治具跡等による貯槽本体の損傷が無い。
【0016】
請求項2の発明に係る貯槽の屋根構築法は、上記バランス装置を用いて屋根自体をパラシュートの傘状にして浮上させる際に、底部で屋根を組立てる際に架台として使用する外周架台を屋根浮上時の平衡ガイド装置に使用するので、屋根組立用部材の活用が図られ、屋根浮上時に重心を下方に確保できるため安定性が良く、貯槽の側板に沿って屋根全体を円滑に浮上させることができる。この平衡ガイド装置は、上記パラシュート構造を補完しウェイトおよび吊り材を軽減することができ、さらに屋根浮上初期に屋根が傾こうとする動きを矯正することができる。
【0017】
請求項3の発明に係る貯槽の屋根構築法は、上記外周架台の水平方向に沿って設けた補強部材と、上記外周架台と屋根とを接続する接続部材と、上記外周架台の垂直支柱と貯槽側板の間に設けたガイドローラとで上記平衡ガイド装置を形成したので、平衡ガイド装置の一体化補強と円滑浮上の機能性を向上させることができる。
【0018】
請求項4の発明に係る貯槽の屋根構築法は、上記屋根浮上時に使用した外周架台よりなる平衡ガイド装置を降下する際に、上記ウェイトと吊り材よりなるバランス装置を使用するので、降下時の外周架台が傾いて不安定になることなく、平衡ガイド装置をバランス良く安全に降下させて作業性良く撤去することができる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
この発明に係る貯槽の屋根構築法の実施形態について、図1乃至図5を参照して説明する。
図1は、貯槽の底部に設置した外周架台上で貯槽の屋根を組立てる状況を示す縦断面説明図、図2は、図1に続いて、屋根浮上施工法に使用するバランス装置および平衡ガイド装置を屋根に取付けた状況を示し、図3は、図2に続いて、屋根浮上施工法におけるバランス装置および平衡ガイド装置を用いて貯槽の屋根自体を浮上させる状況を示す。
図4は貯槽の屋根構築法における浮上時の屋根のバランス均衡状況を示し、図5は浮上時の屋根のバランス修正状況を示す。
【0020】
図1に示すように、貯槽本体1の側板3内の底板2上の外周近傍にリング状に外周架台5を設置し、この外周架台5の上で屋根4を組立てる。この外周架台5は、垂直の支柱6と傾斜する補強部材7などから形成する。
【0021】
図2は、屋根4をパラシュートの傘状にして浮上させる施工法に使用するバランス装置14および平衡ガイド装置15の構造を示す。
このパラシュート構造のバランス装置14は、屋根4外周部の少なくとも十字方向に吊り材12を接続し、この吊り材12の下端には吊りウェイト13Wを接続し、このウェイト13Wは屋根4の中心直下の重心位置Gより下方位置に配置する。
このバランス装置14に加えて、さらに浮上施工を円滑に行うための平衡ガイド装置15を用いる場合を示す。支柱6と補強材7とから形成される外周架台5を、バランス装置14の平衡ガイド装置15に形成する。
この平衡ガイド装置15は、外周架台5が内側に座屈することがないように、上部補強部材8と下部補強部材9を、外周架台5の上端部と下端部に設けて一体化する。また、外周架台5が水平を維持しながら滑らかに上方へ移動するように、外周架台5の支柱6にガイドローラ10を設置する。屋根4と外周架台5は接続部材11で接続し、屋根4の浮上時にバランス装置14と平衡ガイド装置15を一体化させてバランス平衡を得るようにする。
【0022】
図3は、図2に続いて、屋根4下部の気密空間に空気を送って(送風装置は図示省略)、屋根4をパラシュートの傘状にして、側板3に沿って屋根4を平衡ガイド装置15にガイドさせて浮上させる状況を示す。
空気圧を受けて屋根4が所定高さまで浮上した後に、円周方向に接続した吊り材12、12・・・で吊りウェイト13Wを吊った状態となり、屋根4はパラシュートの傘状となってさらに均衡を保って上昇する。
この場合、屋根重心G1の下方に平衡ガイド装置15を含む浮体重心Gが位置し、その垂直下方に錘となる吊りウェイト13Wが位置するため、バランス装置14の所定以上の揺れを防止することができる。
【0023】
平衡ガイド装置15は上記パラシュート構造を補完し、吊りウェイト13Wを軽くし、吊り材12を短くしてバランス装置14の規模を軽減することができる。
さらに屋根4浮上開始初期の低い位置では、屋根4が傾こうとする動きを平衡ガイド装置15が矯正することができる。
【0024】
図4は、図3の貯槽の屋根構築法の屋根4の浮上時のバランス平衡状況を拡大して示す。
吊り材12は浮体重心Gの対称に位置し、その垂直下方に吊りウェイト13Wが位置する。この状態の屋根4は左右対称に位置し、空気圧を受けてバランス良く平衡を保持している。
【0025】
図5は、貯槽の屋根構築法の屋根4の浮上時のバランス修正状況を示す。
屋根4が例えば図の右側へ傾いた際に、浮体重心Gとその下方の吊りウェイト13Wとの位置関係から、図の左方向に回転モーメントMを生じ、左側の吊り材12の張力Tが大きくなり、屋根4の左上端を下降させ、右側の吊り材12の張力Tは小さくなり、屋根4の右上端を上昇させる。その結果、屋根4は空気圧を受けて左側が下がり、姿勢を水平に矯正して平衡バランスを保持するようになる。
【0026】
屋根4自体をパラシュートの傘状にして浮上させる貯槽の屋根構築法は、次の通り機能性と簡素化に適合する。
このパラシュート構造のバランス装置14は、浮体重心Gに対して屋根4の傾斜を修正する方向に回転モーメントMを発生する構造で、従来施工法の大掛かりな吊り材と吊り材取り回しの滑車等を用いないので、極めて単純な設備といえる。
貯槽本体1の底板2および側板3と完全に縁切りされたバランス装置14であるため、底板2や側板3を治具跡等で傷める事は無い。
【0027】
また、上記バランス装置14に加えて、さらに屋根構築用の外周架台5を屋根4浮上用のバランス保持用の平衡ガイド装置15を使用する貯槽の屋根構築法は、パラシュート構造を補完しバランス装置14を軽減することができ、さらに屋根4浮上時の動きを矯正し円滑にガイドするため、安定性および安全性が一層向上する。
【0028】
また、上記貯槽の屋根構築法によって側板3上端へ屋根4を接続した後には、屋根4の下部に接続部材11によって接続されている外周架台5などの平衡ガイド装置15は、接続部材11および吊り部材(図示せず)を介して、吊り材12及び吊りウェイト13Wよりなるバランス装置14を使用して底板2上へ降下させる。このように降下時にもバランス装置14を使用することによって、平衡ガイド装置15は重心が確保されるため、傾くことなく円滑に降下し、吊り降ろし作業が煩雑になることなく、安全に作業性良く降下させて撤去することができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
この発明に係る貯槽の屋根構築法は、貯槽本体に与える損傷を少なくし、バランス装置の構造が簡単で、施工性と機能性と経済性に優れた貯槽の屋根構築法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明に係る貯槽の屋根構築法において、まず貯槽の底部に設置した外周架台上で貯槽の屋根を組立てる状況を示す縦断面説明図である。
【図2】図1に続いて、屋根浮上時に使用するバランス装置および平衡ガイド装置を屋根に取付けた状況を示す縦断面説明図である。
【図3】図2に続いて、屋根浮上時に使用するバランス装置および平衡ガイド装置を用いて屋根自体を浮上させる状況を示す縦断面説明図である。
【図4】この発明に係る貯槽の屋根構築法の浮上時のバランス均衡状況を示す縦断面説明図である。
【図5】この発明に係る貯槽の屋根構築法の浮上時のバランス修正状況を示す縦断面説明図である。
【図6】従来例の貯槽屋根構築のエアーレイジング工法の要点を示す縦断面説明図である。
【符号の説明】
【0031】
1 貯槽本体
2 底板
3 側板
4 屋根
5 外周架台
6 支柱
7 補強部材
8 上部補強部材
9 下部補強部材
10 ガイドローラ
11 接続部材
12 吊り材
13W 吊りウェイト
14 バランス装置
15 平衡ガイド装置
G1 屋根重心
G 浮体重心
M 回転モーメント
16 バランスワイヤ
17 滑車
18 固定部
19 貫通部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯槽の底板上に円筒状に組立てられた側板内部の底部で貯槽の屋根を組立て、屋根の下内部に空気を供給して屋根を側板に沿って浮上させ、側板上端部に屋根を結合する貯槽屋根の構築法であって、屋根中心直下の重心下方位置にウェイトを配置し、これを吊り材で屋根外周部全周に接続したバランス装置に形成し、このバランス装置を用いて屋根自体をパラシュートの傘状にして浮上させることを特徴とする貯槽の屋根構築法。
【請求項2】
上記バランス装置を用いて屋根自体をパラシュートの傘状にして浮上させる際に、底部で屋根を組立てる際に架台として使用する外周架台を屋根浮上時の平衡ガイド装置に使用することを特徴とする請求項1記載の貯槽の屋根構築法。
【請求項3】
上記平衡ガイド装置は、上記外周架台の水平方向に沿って設けた補強部材と、上記外周架台と屋根とを接続する接続部材と、上記外周架台の垂直支柱と側板の間に設けたガイドローラとで形成したことを特徴とする請求項2記載の貯槽の屋根構築法。
【請求項4】
上記屋根浮上時に使用した外周架台よりなる平衡ガイド装置を降下する際に、上記ウェイトと吊り材よりなるバランス装置を使用することを特徴とする請求項2乃至3記載の貯槽の屋根構築法。


【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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