説明

貯水槽

【課題】内部の水の流れを最適化することによって供給される水の滞留を防止し、効率よく貯水槽の中の水を入れ替えることのできる貯水槽を提供する。
【解決手段】本発明の貯水槽1は、略円筒状の筒状部3並びに筒状部の両端を封止する第1の鏡板部4及び第2の鏡板部5からなるタンク本体2と、タンク本体2に装着された流入管6および流出管7とを備えている。流入管6のタンク内端部は、第1の鏡板部4と対向するように配置され、流出管7のタンク内端部は、第2の鏡板部5に対向するように配置されている。流入管6のタンク内端部8には、供給される水をタンク本体2の第1の鏡板部4の内面に向かって、放射状に放出させるための整流手段であるディストリビュータ10が設けられている。流出管7のタンク内端部には、円錐形の集水部9が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯水槽に関する。特に、内部に貯蔵する水の水質を維持することのできる貯水槽に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各地で、耐震性を備えた貯水槽の設置が進められている。耐震性を備えた貯水槽を設置することで、例えば地震等の災害によって水道管が破損して長時間断水した場合でも、被災者に対して飲料水を供給することができる。また、地震等の二次災害で火災が発生した場合の初期消火のための水源を確保することができる。
【0003】
貯水槽の水を災害時の飲料水として利用するためには、貯水槽に蓄えられる水を、飲用に適した水質に常時維持しておく必要がある。そこで、貯水槽を水道本管の経路上又は近傍に配置し、水道本管と貯水槽とを流入管と流出管の2本の配管で接続し、貯水槽に常時水道水を供給する技術が知られている。水道本管から流入管を経由して貯水槽に供給された水道水は、貯水槽の中を通過し、最後に流出管から水道本管に流れ出す。このような貯水槽は、内部を常時新鮮な水道水が通過しているために、特別な管理作業を行わなくとも中の水質を維持しやすいと考えられている。
【0004】
水道本管に接続されている貯水槽の水質を維持するためには、供給される水道水が滞留することを防止することが特に重要である。貯水槽の中にたとえ一部でも水が滞留する領域が存在すると、その領域で水の中の塩素濃度が低下して雑菌が繁殖し、水質が悪化して飲用に適さなくなる恐れがある。そこで、貯水槽の中の水流を最適化して滞留を防ぎ、貯水槽の中の全ての水が新たな水道水と確実に入れ替わっていくための試みが種々なされている。特許文献1には、流出管の先端部を円錐形に形成する技術が開示されている。流出管の先端部を円錐形に形成することで、貯水槽の下流の流れが改善される効果が予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−129735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
災害時の飲料水を供給するための貯水槽は、衛生的で飲用に適した水を常に貯蔵している必要がある。特に、水道本管に接続されており、水道水が常時供給され流出する常時入れ替え型の貯水槽では、供給された水道水が貯水槽の内部に滞留せずに新たな水道水と確実に入れ替わっていくように、貯水槽の中の水流を最適化する技術が求められている。
【0007】
本願発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、内部の水の流れを最適化することによって供給される水の滞留を防止し、貯水槽の中の水が効率よく入れ替わる貯水槽を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、貯水槽に関する。本発明の貯水槽は、略円筒状の筒状部並びに該筒状部の両端を封止する第1及び第2の鏡板部を有するタンク本体と、そのタンク本体に装着された流入管および流出管と、を備えている。本発明の貯水槽は、流入管のタンク内端部が第1の鏡板部と対向するように配置され、且つ流出管のタンク内端部が第2の鏡板部に対向するように配置されている。また流入管のタンク内端部には、流入管を介してタンク本体に導入される水をタンク本体内においてその半径方向に放射状に放出させるための整流手段が設けられており、流出管のタンク内端部には、円錐形の集水部が設けられていることを特徴とする。
【0009】
本発明の貯水槽の流入管に設けられた整流手段は、円筒状のタンク本体の第1の鏡板部近傍に配置されており、整流手段から放出された水は、タンクの鏡板部の周縁部に到達する。鏡板部の周縁部は曲面となっているため、水はこの曲面に沿って円滑に移動して筒状部に到達する。更に水は筒状部と平行な流れとなって流出管側に流れ、最終的に流出管の集水部から効率よく流出する。
【0010】
好ましくは、本発明の貯水槽のタンク内端部に配置される整流手段は、円筒箱型のディストリビュータで構成される。このディストリビュータは、流入管を取り囲むと共に複数の開口が形成された円筒状の周壁部を有していることを特徴とする。流入管のタンク内端部からディストリビュータに流入した水道水は、周壁部に形成された複数の開口によってタンク本体の半径方向に向かって方向付けされ、放射状の好ましい流れを形成する。
【0011】
更に好ましくは、本発明のディストリビュータは、周壁部と、周壁部と流入管とを接続する環状板部と、周壁部の終端部を閉鎖する円板部と、周壁部の内側を等間隔に区画する複数の支持プレートとを備えることができる。
【0012】
また、本発明のディストリビュータを、周壁部と、複数の開口が形成されており周壁部の内部にその周壁部と同心円筒状に形成された円筒状の内壁部と、周壁部及び内壁部と流入管とを接続する環状板部と、周壁部及び内壁部の終端部を閉鎖するように接続された円板部とを備えるように構成することができる。周壁部の内側に更に内壁部を備えることで、流入管から供給される水道水の流れを更に制御した状態でディストリビュータの周囲に流出させることが可能となる。
【0013】
本発明の貯水槽の第1及び第2の鏡板部は、それぞれ湾曲した内面を備えている。そして本発明の貯水槽の整流手段および円錐形の集水部は、第1鏡板部の湾曲内面の中心と第2鏡板部の湾曲内面の中心とを結ぶタンク本体の筒状部の中心軸線上に位置するように配置されることが好ましい。更に、本発明のディストリビュータの開口は、第1の鏡板部の湾曲した内面に対向していることが好ましい。
【0014】
本発明の貯水槽は、流入管のタンク外端部および流出管のタンク外端部がそれぞれ水道本管に接続されることで、水道本管の経路の途中に設置される常時入れ替え型の貯水槽であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の貯水槽は、流入管のタンク内端部がタンク本体の第1の鏡板部と対向するように配置されており、且つ流入管のタンク内端部に、水をタンク本体内においてその半径方向に放射状に放出させるための整流手段が設けられていることにより、供給される水のタンク本体部における流れが最適化される。この結果、供給された水はタンク本体の中に滞留することなく円滑にタンク本体の内部を移動し通過して、流出管から効率よく流出する。
【0016】
本発明の貯水槽は、流出管に集水部が設けられていることにより、第2の鏡板部周辺の水流がより円滑になり、供給された水は、一層迅速にタンク本体内を通過して流出する。
【0017】
本発明の貯水槽の流入管に設けられた整流手段であるディストリビュータは、タンク本体に供給される水を好ましい向きに方向付けすることが可能であるために、供給された水はタンク本体との衝突による噴流や旋回流を発生させることなく、効率よくタンク本体の内部を移動して通過することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の実施例1の耐震性貯水槽1の縦断面図である。
【図2】図2(a)は、流入管6のタンク内端部8に接続されたディストリビュータ(整流手段)10の上面図であり、図2(b)は、流入管6のタンク内端部8に接続されているディストリビュータ10の側面図である。
【図3】図3は、本発明の実施例2に係るディストリビュータ20の縦断面図である。
【図4】図4は、実施例1の貯水槽1について、流体解析の結果を元にタンク本体2内部の定常状態における流れの方向を模式的に示した図である。
【図5】図5は、実施例1の貯水槽1のタンク本体2の水道水Wの拡散解析の結果を示す図である。
【図6】図6は、比較例の貯水槽について、流体解析の結果を元にタンク本体2内部の定常状態における流れの方向を模式的に示した図である。
【図7】図7は、実施例1の貯水槽1と比較例の貯水槽における水の入れ替わり度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、発明を実施するための形態として、本発明の貯水槽を、ステンレス鋼で形成された地上設置型の飲料水兼用耐震性貯水槽に適用した実施例について説明する。以下の実施例において、本発明の貯水槽は水道本管の経路上に接続されており、水道水の供給を常時受けることが可能となっている。
【実施例1】
【0020】
以下に、図面を参照しつつ、本実施例の貯水槽の構成と作用について詳細に説明する。図1に本実施例の貯水槽1の縦断面図を示す。本実施例の貯水槽1は、タンク本体2と、流入管6と、流出管7とを備えている。また貯水槽1は、2本の脚部31によって地上に設置固定されている。これに加えて貯水槽1は、タンク本体2の内部の水を外部に給水するために、タンク本体2の下部に設けられた給水管35を備えている。地上に設置される貯水槽1は、従来の地下に埋設する耐震性貯水槽と比較すると、埋設用の穴を掘る作業が不要であり、且つ配管等の工事がより容易となるために、短期間での設置が可能でより安価に設置することが可能となる。また設置場所が地域住人に認識され易いために、災害発生時の飲料水と初期消火の用水として活用される機会を増やすことができる。
【0021】
本実施例におけるタンク本体2は、略円筒状の筒状部3と、第1の鏡板部4と、第2の鏡板部5とで構成されている。鏡板部4,5は、フランジ部の内径が筒状部3の内径と一致するように成型された半楕円体形鏡板(断面半楕円形の湾曲した鏡板)である。筒状部3と、鏡板部4,5とは、全てステンレス鋼で形成されており、溶接によって一体化されて水密性の高いタンク本体2を構成している。
【0022】
ステンレス鋼を溶接することで形成された本実施例のタンク本体2は、充分な強度を備えており、耐震性に優れている。また、タンク本体2の筒状部3と鏡板部4,5とが共に塗膜のないステンレス鋼で形成されていることで、タンク本体2全体の経年劣化がほとんどなく、耐震性が認定される程度の充分な強度を長期間維持することが可能である。またタンク本体2は、塗装等の維持管理作業が不要となっている。
【0023】
タンク本体2には、ステンレス鋼で形成された流入管6と流出管7とが装着されている。流入管6と流出管7とは、筒状部3の上部を貫通した状態で溶接により筒状部3に固定されている。タンク本体2の外部に突出している流入管6のタンク外端部16の終端には補修弁32が設けられている。補修弁32は急速空気弁42に接続されている。また流入管6のタンク外端部16は、補修弁32の手前において水道本管40と接続されており、水道本管から流入管6には常時水道水Wが供給される。地震等の災害時に水道本管40が破損した場合、タンク本体2の内部の水道水Wがサイホン現象により徐々に逆流して流出する現象が発生する可能性があるが、急速空気弁42はこのような水道水Wの流出に対応するために、流入管6のタンク外端部16を経由して水道本管40の内部に空気を供給し、タンク本体2内部に貯蔵された水の流出を防止するように機能する。
【0024】
一方、タンク本体2の外部に突出している流出管7のタンク外端部17にもまた急速空気弁42に接続された補修弁32が設けられている。流出管7のタンク外端部17は、補修弁32の手前において水道本管41と接続されている。流出管7に接続されている水道本管41は流入管6に接続されている水道本管40よりも下流側にあり、流入管6から供給された水道水Wは、タンク本体2を通過して最終的には流出管7から水道本管41に流出する。補修弁32を介して流出管7に接続されている急速空気弁42もまた、地震等の災害時に水道本管41が破損した場合に、流出管7のタンク外端部17を経由して水道本管41の内部に空気を供給し、タンク本体2内部に貯蔵された水の流出を防止するように機能する。
【0025】
流出管7の、タンク本体2の内部に配置された端部であるタンク内端部には、円錐形の集水部9が配置されている。本実施例の集水部9は、ステンレス鋼からなり周縁部に近づくに従ってその径が徐々に大きくなるように形成された円錐形状(ラッパ状)の部材であり、流出管7のタンク内端部に溶接により固定されている。この集水部9は、その中心軸が前記第1鏡板部4の湾曲した内面の中心と前記第2鏡板部の湾曲した内面の中心とを結ぶ筒状部3の中心軸線Cと一致するように配置されており、且つ集水部9の終端部に設けられた開口と、第2の鏡板部5とが対向するように配置されている。本実施例の集水部9は、集水部9の周縁部から第2の鏡板部5の内面までの距離が均一となるように配置されており、この空間を水道水Wが通過することができる。
【0026】
流入管6の、タンク本体2の内部に配置された端部であるタンク内端部8には、整流手段である円筒箱形のディストリビュータ10が、第1の鏡板部4に対向するように溶接されて接続されている。図2(a)に、ディストリビュータ(整流手段)10の上面図を示し、図2(b)に、流入管6のタンク内端部8に接続された状態のディストリビュータ10の側面図を示す。ディストリビュータ10は、流入管6のタンク内端部8を取り囲むように配置される円筒状の周壁部11と、周壁部11と流入管6のタンク内端部8との間を接続する環状板部12と、周壁部11の終端部を閉鎖する円板部13と、周壁部11の内側を等間隔に区画する1以上の支持プレート15を備えている。ディストリビュータ10は、全ての部材がステンレス鋼で形成されており、長期間水中で使用しても錆びることがなく、耐久性に優れている。本実施例におけるディストリビュータ10の周壁部11は、複数の円形の開口14が均一な間隔で形成されたパンチングメタルを円筒状に加工して形成されている。
【0027】
本実施例のディストリビュータ10は、円筒状の周壁部11の中心軸が前記第1鏡板部4の湾曲した内面の中心と前記第2鏡板部の湾曲した内面の中心とを結ぶ筒状部3の中心軸線Cと一致するように流入管6に接続されており、且つ周壁部11に設けられた開口14が第1の鏡板部4の内面と対向する位置に配置されている。即ち本実施例におけるディストリビュータ10は、円板部13の周縁部から第1の鏡板部4の内面までの距離が均一となるようにタンク本体2の内部に配置されている。
【0028】
以下に於いては、流入管6に接続されたディストリビュータ10と、流出管7に接続された集水部9とによって制御されるタンク本体2内部の水の流れを説明する。水道本管40から供給された水道水Wは、流入管6を経由して、ディストリビュータ10に到達する。ディストリビュータ10の内部の支持プレート15によって、供給された水道水Wは、周壁部11の内側全体に均等に供給される。水道水Wは、周壁部11に設けられた開口14によって方向付けがなされ、周壁部11の半径方向に放射状に均等な流量で放出される。放出された水道水Wは、タンク本体2の第1の鏡板部4に衝突する。第1の鏡板部4は半楕円体形であり、全体に曲面となっているため、第1の鏡板部4に衝突した水道水Wは、この曲面に沿うように円滑に方向を変えて移動する。
【0029】
ディストリビュータ10から放出され、タンク本体2の第1の鏡板部4に衝突した水道水Wの大部分は、筒状部3の内部に移動して、矢印51に示すように筒状部3と平行な流れとなって第2の鏡板部5側に移動する。そして筒状部3の内部を移動した水道水Wは、第2の鏡板部5の内部に入る。筒状部3の中心線(C)周辺を移動した水道水Wの流れは、矢印53に示すように集水部9の円錐状の背面に沿ってこれを回り込むように流れの向きを変え、最終的には集水部9から流出管7に流れ込む。筒状部3の内壁に沿って移動した水道水Wの流れは、矢印54に示すように、筒状部3に連なる第2の鏡板部5の壁面に沿って流れ、同様に最終的には集水部9から流出管7に流れ込む。集水部9が貯水槽1の中心軸上に配置されており、集水部9と第2の鏡板部5との間の距離が均一であるため、水道水Wが集水部9の周縁に到達するときの速度は一定となる。このため集水部9付近の水道水Wは、脈流等が発生せずに効率よく集水部9から流出管7に流れ込む。
【0030】
以上のように、本実施例の貯水槽1は、水道水Wを流入管6のタンク内端部7に接続されたディストリビュータ10からタンク本体2の内部に供給することによって、タンク本体2の内部の水道水Wの流れが最適化されており、水道水Wはタンク本体2の中を非常に円滑に移動する。この結果、本実施例の貯水槽1は、水道水Wを滞留させることなく集水部9に到達させて流出部7から外部に流出させることができる。以下に、本実施例の貯水槽1について、流体解析(シミュレーション)と実験により、タンク本体2内部の水道水Wの流れを検証した結果について詳細に説明する。
【0031】
図4は、流体解析の一手法である定常解析を行うことによって、タンク本体2内部の定常な流れ場を解析した結果を元に、水道水Wの流れの方向を矢印によって模式的に示した図である。尚、ここでいう定常な流れ場の解析とは、水道水Wの供給が開始されてから充分な時間が経過し、水道水Wの流れの物理量が時間的に変化しなくなった時点におけるタンク本体2内部の水道水Wの流速と流れの方向とを数値演算によって求めた結果である。ディストリビュータ10から供給された水は、第一の鏡板4の近傍と流入管6の周囲で若干の旋回流が発生する。しかし旋回流の下流では、筒状部3の下部から上部へと移動する水流が発生して流れが乱れなくなり、更に下流の筒状部3の中央部から第二の鏡板5にかけての領域では、集水部9に向かって円滑に流れている。またこのときのタンク本体2内部の水道水Wの流速は、第一の鏡板部4と流入管6の周囲では若干早くなる一方で、筒状部3と第二の鏡板部5との間ではほぼ一定となる。この流れの方向と流速に関するシミュレーション結果は、タンク本体2を用いた実験によってその精度が検証されており、実施例1の貯水槽1の内部の流れが、押し出し流れとなっていることが確認されている。
【0032】
図5に、上記の定常な流れ場の解析結果を元に、本実施例のタンク本体2の中の水の拡散解析を行い、水道水Wの供給開始から一定の時間が経過したときのタンク本体2の内部の水の入れ替わり状況を解析した結果を示す。図5においてタンク本体2内部の入れ替わり状況の指標に用いたスカラー変数とは、予めタンク本体2に充填されていた水道水が、一定の時間が経過した後に新しく供給された水道水Wと入れ替わった割合を示す値であり、その数値が1に近いほど入れ替わった割合は高くなっている。今回の拡散解析の結果によると、本実施例におけるタンク本体2の内部ではスカラー変数が全ての領域で0よりも大きな値を示しており、水道水の滞留する部分が全く発生していないことが確認された。また本実施例のタンク本体2の内部では、ディストリビュータ10に距離が近い位置ほど新しく供給された水道水Wの割合が高く、集水部9に近づくに従って新しい水道水Wの割合が低くなることが確認され、このことからも本実施例のタンク本体2の中では、流れが最適化されていることが明らかとなった。
【0033】
更に、拡散解析の結果に基づいて、解析の開始時から新たに供給された水道水Wの積算量(体積)と、流出口から流出する水の中に含まれる新しく供給された水道水Wの濃度の体積%との関係を求めて、これを貯水槽の水の入れ替わり度とした。図7に、実施例1の貯水槽1の水の入れ替わり度の解析結果を示す。ここで、図7の横軸に示している置換倍率とは、タンク本体の容量に対する新たに供給された水道水Wの積算量の割合である。図7に示すように、新しい水道水Wの供給開始から置換倍率が0.4となるまでの間、実施例1の貯水槽1の流出口7から流出する水道水の中に新しく供給された水道水Wは含まれない。しかしながらその後、流出口7から流出する水の中に含まれる新しく供給された水道水Wの割合は急激に増加し、置換倍率が2.72となった時点で、流出口7から流出する新しく供給された水道水Wの割合は99%となる。即ちタンク本体2の容量の2.72倍に相当する新たな水道水Wが供給された時点で、タンク本体2の中の水道水1の入れ替えはほぼ完了する。この入れ替わり度の結果についても、タンク本体2を用いた実験によって精度が確認された。
【0034】
以上の全ての流体解析と実験による検証の結果から、本実施例の貯水槽1では、供給された水道水Wが先に蓄えられていた水を押し出すような最適化された押し出し流れが形成されており、タンク本体2に供給された水道水Wが滞留することなくタンク本体2の内部を移動して流出口7から流出することで、タンク2の内部の水道水Wが迅速に入れ替わっていることが明らかとなった。
【実施例2】
【0035】
本実施例の貯水槽には、第1実施例のディストリビュータ10とは異なる構造を有するディストリビュータ20が配置されている。その他の構成及び貯水槽内のディストリビュータ20の配置については第1実施例と同一であり、同一符号を付して重複説明を割愛する。
【0036】
図3に、ディストリビュータ20の縦断面図を示す。ディストリビュータ20は、流入管6のタンク内端部8を取り囲むように配置される円筒状の周壁部21と、周壁部21の内部に同心円筒状に配置される内壁部25と、周壁部21及び内壁部25と、タンク内端部8との間の間を接続する環状板部22と、周壁部21及び内壁部25の終端部を閉鎖する円板部23とを備えている。ディストリビュータ20の全ての部材はステンレス鋼で形成されている。周壁部21は、複数の開口24が均一な間隔で形成されたパンチングメタルを円筒状に加工して形成されている。内壁部25も同様に、複数の開口26が均一な間隔で形成されたパンチングメタルを円筒状に加工して形成されている。
【0037】
周壁部21と内壁部25とは、同一のパンチングメタルを使用することが可能であるが、内壁部25の開口26から放出される水道水Wが周壁部21の内面に衝突するように、開口26の配置を調節することが好ましい。流入管6から供給された水道水Wは、内壁部25の開口26から流出した直後に周壁部21に衝突するので、周壁部21の内部で一旦混合攪拌されてその流速が均一化する。その後水道水Wは、周壁部21の開口24から、流れの方向と流速が一層制御した状態でディストリビュータ20の周囲に流出することとなる。
【0038】
(比較例)
比較例として、流出管のタンク内端部に集水部が設けられている一方で、流入管のタンク内端部にディストリビュータを設けていない貯水槽について、流体解析と実験により内部の流れを検証した結果を以下に示す。比較例の貯水槽の流入管は、水道本管の接続位置から同一の径を保った状態でタンク内に導入されており、その端部は第1の鏡板部と対向するように配置されている。比較例の貯水槽と実施例1の貯水槽1とは、ディストリビュータの有無がその構成の最も大きな違いであり、両者を比較することによって、ディストリビュータの効果が明らかとなる。
【0039】
図6は、流体解析の一手法である定常解析を行うことによって、タンク本体2内部の定常な流れ場を解析した結果を元に、水道水Wの流れの方向を矢印によって模式的に示した図である。図6に示すように、比較例において流入管から供給された水道水は、第一の鏡板4の近傍と流入管6の周囲で様々な方向に向かって流れており、流れが乱れた状態を形成する。その後筒状部の下部では筒状部に平行な流れとなる一方で、筒状部の中心線付近から上部にかけての流れは一定の流れとならず、渦の発生が認められる。このような上部の流れの乱れは、集水部とこれに対向する第二の鏡板の周囲でも発生しており、結果として、円滑な流れはタンク本体の下部にしか認められない。また定常状態での水道水Wの流速は、筒状部と第二の鏡板部との間で速くなる一方、筒状部と第二の鏡板部の中心線付近から上部では遅くなっており、流れの速度が不均一となっていることが確認されている。
【0040】
比較例の貯水槽について、実施例1の貯水槽1と同様の拡散解析を行った。そしてその結果に基づいて、比較例の貯水槽の水の入れ替わり度を解析した。図7に、実施例1の貯水槽1と共に、比較例の貯水槽の水の入れ替わり度を示す。比較例の貯水槽では、新しい水道水Wの供給開始直後から、流出口から流出する水道水の中に約10%の新しく供給された水道水Wが含まれる一方で、供給される水道水Wの量に対する流出口から流出する水道水の中に含まれる新しく供給された水道水Wの増加割合は、緩やかにしか増加しない。比較例では、置換倍率が10.75となった時点で、流出口7から流出する新しく供給された水道水Wの割合は99%となる。即ち比較例では、タンク本体の容量の10.72倍に相当する新たな水道水Wが供給された時点で、貯水槽の中の入れ替わりがほぼ完了する。この入れ替わり度の結果についても、比較例の貯水槽を用いた実験によって検証がなされた。以上の結果から、比較例の貯水槽の中の水道水の入れ替わりには、実施例1の貯水槽1の約4倍の水道水Wの供給が必要となり、入れ替わりに要する時間もまた長くなることが明らかとなった。
【0041】
以上の流体解析と実験の結果から、流入管のタンク内端部にディストリビュータを設けない比較例の貯水槽の場合には、供給された水道水Wが貯水槽の下部と上部とで異なる流速と流れの方向を示す混合流れが形成されており、タンク内の水道水Wの流れが最適化されていないために、実施例1の貯水槽と比較して水道水Wが入れ替わるまでに大量の水道水Wの供給が必要であり、またそのためには著しく長い時間を要することが明らかとなり、ディストリビュータ10を流入管6のタンク内端部16に設けることの効果は明確となった。
【0042】
以上、実施例において本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば実施例では、第1及び第2の鏡板部4,5の形状を半楕円体形鏡板であるとしたが、鏡板部の形状は、整流手段と集水部に対向する内面の部分が曲面であればよく、皿形鏡板、全半球形鏡板等が利用可能である。また実施例では、ディストリビュータ10と流入管6の接続方法を溶接であるとしたが、ねじ止めその他の金属の接続方法によってディストリビュータ10を流入管6に固定することが可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 貯水槽
2 タンク本体
3 筒状部
4 第1の鏡板部
5 第2の鏡板部
6 流入管
7 流出管
8 流入管のタンク内端部
9 集水部
10,20 ディストリビュータ
11,21 周壁部
14,24,26 開口
25 内壁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円筒状の筒状部並びに該筒状部の両端を封止する第1及び第2の鏡板部を有するタンク本体と、そのタンク本体に装着された流入管および流出管と、を備える貯水槽であって、
前記流入管のタンク内端部が前記第1の鏡板部と対向するように配置され、且つ前記流出管のタンク内端部が前記第2の鏡板部に対向するように配置されており、
前記流入管のタンク内端部には、当該流入管を介してタンク本体に導入される水をタンク本体内においてその半径方向に放射状に放出させるための整流手段が設けられ、
前記流出管のタンク内端部には、円錐形の集水部が設けられていることを特徴とする貯水槽。
【請求項2】
前記整流手段は、円筒箱型のディストリビュータであり、このディストリビュータは、前記流入管を取り囲むと共に複数の開口が形成された円筒状の周壁部を有している、ことを特徴とする請求項1に記載の貯水槽。
【請求項3】
前記ディストリビュータが、
前記周壁部と、
前記周壁部と前記流入管とを接続する環状板部と、
前記周壁部の終端部を閉鎖する円板部と、
前記周壁部の内側を等間隔に区画する複数の支持プレートとからなることを特徴とする請求項2に記載の貯水槽。
【請求項4】
前記ディストリビュータが、
前記周壁部と、
複数の開口が形成されており、前記周壁部の内部にその周壁部と同心円筒状に形成された円筒状の内壁部と、
前記周壁部及び前記内壁部と、前記流入管とを接続する環状板部と、
前記周壁部及び前記内壁部の終端部を閉鎖するように接続された円板部とからなることを特徴とする請求項2に記載の貯水槽。
【請求項5】
前記第1及び第2の鏡板部はそれぞれ湾曲した内面を有しており、
前記第1鏡板部の湾曲内面の中心と前記第2鏡板部の湾曲内面の中心とを結ぶ前記タンク本体の筒状部の中心軸線(C)上に位置するように、前記ディストリビュータおよび前記円錐形集水部が設けられており、
前記ディストリビュータの前記周壁部に形成された前記開口が、前記第1の鏡板部の湾曲した内面に対向していることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の貯水槽。
【請求項6】
前記貯水槽は、前記流入管のタンク外端部および前記流出管のタンク外端部がそれぞれ水道本管に接続されることで、水道本管の経路の途中に設置される常時入れ替え型の貯水槽である、ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の貯水槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図5】
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