説明

貯水装置

【課題】 水の腐食や劣化を回避して貯水しつつ、被災時に良質の水を確実に提供し得ること。
【解決手段】 主管路20に並列に介装される貯水装置10であって、主管路20に接続し、内部に連続性を有する三次元の流路を形成した貯水束管ユニット30と、貯水束管ユニット30を収容する外殻40とを具備し、主管路20から引込んだ水を、前記貯水束管ユニット30内を通過させて主管路20へ還流可能に構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種自然災害や火災の被災時に給水可能な貯水装置に関し、殊に水の腐食や劣化を回避して貯水しつつ、被災時に良質の水を確実に提供し得る貯水装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
震災に備えた防火用水の確保は以前から行われているが、近時は上水道ラインの破損に備えた大規模な貯水施設が種々建設されている。
例えば特許文献1には、上水道ラインの途中に地下式貯水タンクを接続し、この貯水タンクの上部に手押しポンプと消火栓を接続して設け、被災時に貯水槽内の水を手押しポンプや消火栓を通じて地上へ揚水して使用する貯水装置が開示されている。
【0003】
また特許文献2には、貯水タンク内の水を活性化する手段として、貯水タンク内に給水管と排水管の各一方を案内し、給水管を通じて貯水タンク内で水を多角的に噴出して水を撹拌することが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平9−25654号公報
【特許文献2】特開平11−29963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の貯水装置にはつぎのような問題点がある。
(1)特許文献1に記載の貯水装置にあっては、流路径が上水道ラインから貯水タンクの入口で急激に拡張されるため、上水道ラインから貯水タンク内へ流入した水の流速が急激に低下する。
そのため、貯水タンク内の水が淀むだけでなく、タンク内壁や底部に水アカやコケ等の不純物が付着して水質が悪化するといった問題がある。
(2)特許文献2に記載の貯水装置にあっては、貯水タンク内の全域に緩やかな水流が発生するものの、この水流は貯水タンクが大径化するほど流速が低下するため、水アカやコケ等の不純物の付着や沈殿の問題を解消するまでには至っていない。
(3)両特許文献1,2に記載の貯水装置は共に、貯水タンクが地中に埋設されているため、地震時に大きな外力を受けるとタンクが破損を受ける。
万一、貯水タンクが破損すると、貯水機能を喪失してしまうだけでなく、外部からタンク内へ地下水等が逆流して良質水の確保ができなくなる。
(4)両特許文献1,2に記載の貯水装置は共に、定期的に貯水タンク内の清掃、又は故障部品の交換を簡易に行うことが可能な構造なっておらず、しかも好適なメンテナンス方法が未だ確立されていない。
仮に貯水タンク内に作業者が入れたとしても、貯水タンクが上水道ラインに介在されているため、作業時は上水道ラインを遮断しなければならず、その間上水道の使用停止を強いられるといった難点もある。
【0006】
本発明は以上の点に鑑みて成されたもので、その目的とするところは、次の少なくともひとつの貯水装置を提供することにある。
(1)水の腐食や劣化を回避して貯水しつつ、被災時に良質の水を確実に提供し得ること。
(2)メンテナンス性に優れていること。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の第1発明に係る貯水装置は、主管路に並列に介装される貯水装置であって、前記主管路に接続し、内部に連続性を有する三次元の流路を形成した貯水束管ユニットと、前記貯水束管ユニットを収容する外殻とを具備し、主管路から引込んだ水を、前記貯水束管ユニット内を通過させて主管路へ還流可能に構成したことを特徴とするものである。
本願の第2発明に係る貯水装置は、バイパス管路を介して主管路に並列に介装される貯水装置であって、前記主管路に接続し、内部に連続した蛇行流路を形成した貯水束管ユニットと、前記貯水束管ユニットを収容する外殻と、主管路から引込んだ水を、前記貯水束管ユニット内を通過させて主管路へ向けた還流を許容するようにバイパス管路に介装した逆止弁とを具備し、災害時に前記逆止弁がバイパス管路を遮断することを特徴とするものである。
本願の第3発明に係る貯水装置は、前記第2発明において、バイパス管路に管路の開閉が可能な開閉弁を追加して介装したことを特徴とするものである。
本願の第4発明に係る貯水装置は、前記第1発明乃至第3発明の何れかにおいて、前記貯水束管ユニットが、並列に配置した複数の直管と、隣り合う直管の間を接続するU字形の曲管とを組み合わせて連続性を有する蛇腹状(九十九折状)の管路を形成し、前記蛇腹状の管路の始端と終端が夫々主管路に接続し、蛇腹状の管路の終端部に縦向きの揚水管を形成したことを特徴とするものである。
本願の第5発明に係る貯水装置は、前記第4発明において、前記曲管の断面積が直管より小径であることを特徴とするものである。
本願の第6発明に係る貯水装置は、前記第1発明乃至第5発明の何れかにおいて、前記貯水束管ユニットが複数の分割ユニットで構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の貯水装置は、つぎの利点が得られる。
(1)コンパクトな設計が可能で、水の腐食や劣化を回避して貯水しつつ、被災時に良質の水を確実に提供することができる。
(2)外殻が内部の貯水束管ユニットを保護するので、災害時に貯水束管ユニットがダメージを受け難い。
(3)バイパス管路に逆止弁を設けるだけで、災害時に貯水装置を主管路から切り離して良質の水を貯水することができる。
(4)曲管を他の管と比べて小断面積にすることで流速を高めることができるので、曲管位置での異物の付着を防止できると共に、曲管の着脱作業がし易くなる。
(5)貯水装置を主管路に対して並列に配置したので、主管路を遮断せず水を流したまま貯水装置のメンテナンスを行える。
(6)貯水束管ユニットを分割ユニットで構成することで、貯水束管ユニットの製造品質や、運搬、組立性を改善できると共に、部品の交換やメンテナンスも分割ユニット単位で行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(1)上水道システム
図2に本発明に係る貯水装置10を組み込んだ上水道システムを示す。
主管路20の中途に引込管路21と放出管路22とよりなるバイパス管路が並列に設けられ、このバイパス管路に貯水装置10が介装されている。
両管路21,22の間の主管路20と、各管路21,22には、夫々開閉弁23〜25が設けてあって、開閉弁23〜25の開閉により主管路20とバイパス管路の各流路を択一的な切替え、または両流路の並存が可能になっている。
引込管路21の中途には、非常時の水の使用を円滑にするため図示しない空気の取込弁を接続しておく。
【0010】
好ましくは、引込管路21と放出管路22に、引込管路21から放出管路22へ向けた流れのみを許容する逆止弁26,27を夫々並設しておくとよい。
逆止弁26,27を追加して設けておくことで、非常時に開閉弁23〜25を操作せずに貯水装置10内に貯水することができる。
【0011】
(2)貯水装置
図1に示すように貯水装置10は、引込管路21と放出管路22とに接続した蛇腹状の貯水束管ユニット30と、貯水束管ユニット30を収容して保護する外殻40とにより構成される。
本例では貯水装置10を埋設した場合について説明するが、地上に静置することも勿論可能である。
【0012】
[貯水束管ユニット]
貯水束管ユニット30は、並列に配置した複数の直管31と、隣接する直管31の間を接続するU字形の曲管32とを組み合わせて三次元的な管路を形成するもので、これらの集合体に外装した結束体35によりその定形が維持されている。
この三次元的な管路の始端はバイパス管路の引込管路21と接続し、その終端は放出管路22と接続していて、引込管路21から高い位置で接続してそれ以降は順次水が自然降下するように水路が形成されている。
特に三次元的な管路の終端部は、前記蛇腹状の管路31,32より大径の管で構成し、その大径管を縦向きに配置した揚水管33として形成されている。
揚水管33を大径に形成したのは、非常時に揚水管33を井戸として使用するためである。
揚水管33の最上部には外部からの取水が可能な開栓および閉栓可能な栓体34が設けられている。
尚、本発明で言う直管31とは、厳密な意味での直線状の管を意味するものではなく、多少湾曲した形態も含むものである。
また貯水束管ユニット30を構成する管の素材は、金属系、樹脂系、セラミック系等の公知の素材を適用できる。
【0013】
貯水束管ユニット30の配管形態としては、図2,3と図4に例示する。
図2,3は水平面に沿って蛇腹状に形成した管路を上位から下位へ向けて階層的に形成すると共に、各階層の端部間に連続性を持たせて形成した場合について示し、図4は共通管路30a,30bを使用し、縦方向に沿って形成した各蛇腹状(九十九折状、又は往復折り曲げ状)の管路の始端と終端を各共通管路30a,30bへ接続した形態を示す。
【0014】
また貯水束管ユニット30を構成する複数の直管31はできるだけ隙間なく隣接させて配置するものとし、その配置形態としては、上下に位置する各直管31の中心を同一鉛直線上に揃えたり(図5)、上位と下位で斜めにずらして配置するとよい(図6)。
【0015】
また曲管32を用いて上下の直管31の間、または横方向に隣接する直管31の間を接続する形態としては、図7に示すように直管31と同径の曲管32を用いて接続するか、或いは図8に示すように直管31より小径の曲管32を用いて接続するものとする。
図8の形態で接続した場合、折れ曲り箇所の流路径が小さく変化することに伴い、流速が増して水垢等の異物の付着防止効果が高くなる。
曲管32は直管31に嵌合して接続したり、図示しない接続具を用いたりして接続していて、水流により容易に離脱しない形態になっている。
【0016】
要は、貯水束管ユニット30は複数の直管31群が隙間なく並設してあり、これらの複数の直管31と複数の曲管32とにより連続した流路が形成されていればよい。
【0017】
上記したように貯水束管ユニット30を直管31や曲管32等を組み合わせたユニット構造とプレハブ構造を採用したのは、これらの構成部材を製造環境の整った工場等で高品質に加工し、現地へ分解した形態で搬入して現場での単純作業で簡単に組み立てするためと、一定本数を一組の単位としておき、これらの組数を増加することで現場に応じた構築予定の貯水装置の規模に簡易に対処するためと、部品の交換やメンテナンスをし易くするためである。
【0018】
[外殻]
外殻40は貯水束管ユニット30の設置を容易にすると共に、地震等の外力から貯水束管ユニット30を保護することを主要な目的とするもので、揚水管33の延長線上に地上に露出する形態のマンホール41が設けてある。
外殻40の素材は、鋼やコンクリート等の剛性部材か、或いは外力を変形により吸収し得る変形素材、或いはこれを組み合わせた複合材で構成される。
【0019】
外殻40を非透水性の板体で構成した場合は、外殻40自身に水を蓄えられる貯水槽として機能する。
【0020】
外殻40は災害に強い強度を具備するが、使用目的によっては必ずしも遮水構造である必要はなく、浸透水により外殻40内が満水状態になっても、必要なときにドライな状態にできればよい。
【0021】
外殻40の構築方法としては、例えば開削によるドライ施工により構築したり、或いはオープンケーソン工法、矢板、イコス壁、SMW工法等により地中壁を構築した後に下床と上床を施工して構築することができる。
外殻40の素材や構築方法は、貯水装置の大きさや埋設深さ等を考慮して適宜選択するものとする。
【0022】
(3)使用方法
つぎに上記した貯水装置10の使用方法について説明する。
【0023】
[通常時]
貯水装置10は通常図2に示す開閉弁24と25が共に開弁している。
そのため、主管路20を流れる水は、引込管路21を通じて貯水装置10内の貯水束管ユニット30の始端部へ流入し、図1に示す貯水束管ユニット30を構成する蛇腹状の管31,32を経て揚水管33に至り、揚水管33から放出管路22を通じて元の主管路20へ戻る。
このように常時、主管路20を流れる水が貯水束管ユニット30内を通過させるようにしたので、貯水束管ユニット30の管路内で水が淀んだり、水垢等の異物が付着したりする心配がない。
【0024】
[非常時]
地震等の災害が発生した場合、この外力が貯水装置10に作用するが、貯水装置10を構成する外殻40の剛性により外力に対抗し、または外力を吸収して内部の貯水束管ユニット30へ伝達するのを防止する。
したがって、地震エネルギー等の外力が貯水束管ユニット30に直接作用させずに済み、貯水束管ユニット30が直接ダメージを受けることがない。
【0025】
主管路20の破損等により断水すると、バイパス流路に介装してある逆止弁26,27が機能して、貯水束管ユニット30の両端が遮断される。
その結果、蛇腹状に形成した貯水束管ユニット30内に水が貯水される。
貯水束管ユニット30を構成する管路は、その隙間を極力小さく抑制するように蛇腹状に形成してあるので、大量の水の貯水が可能となる。
【0026】
このような災害時においては、マンホール41を開けて、揚水管33の上部を開放し、揚水管33内の水を飲料用水や消防用水等の利用に供する。
揚水管33は大量の水を保持した蛇腹状の貯水束管ユニット30と連通しているため、揚水管33内の水の消費に伴い、同一水位を保ちながら貯水束管ユニット30内の水が揚水管33内へ補給される。
【0027】
[部品の交換時等]
部品の交換や清掃等のメンテナンス時においては、図2の主管路20の開閉弁23を開いたままで、バイパス管路の開閉弁24,25を閉じることで、貯水装置10内で部品交換や清掃等のメンテナンスを行うことができる。
開閉弁24,25を操作するたけで貯水装置10を主管路20から切り離すことができるので、主管路20を断水状態にする必要はない。
主管路20から切り離されるので、貯水装置10内の管路をユニット単位で交換するか、曲管32を取り外して管31,32内の清掃を行う等のメンテナンスをすることができる。
上記作業を行うには、予め外殻40の上床の一部に形成しておいたマンホール41やマンホール41とは別に設けておいた専用出入口を通じて作業員が出入するか、或いは取り外し自在に形成しておいた外殻40の上床を取り外す等の方法により、外殻40内で所定の作業を行うようにすればよい。
【0028】
(4)その他の実施の形態
以上は貯水束管ユニット30を構成する管31,32の断面形が円形である場合について説明したが、その断面形状はそれ以外に楕円形や多角形であってもよい。
図9は直管31の断面形状が大半を正六角形で構成し、その周囲を四角形と五角形のものを配置した組み合わせで構成した場合を示す。
また正六角形と正五角形を単独で、或いは組み合わせて構成してもよい。
本例の場合、曲管32は前記した実施の形態と同様に直管31の断面径(断面積)より小さく、断面形状が円形のものを使用できるが、多角形であってもよい。
【0029】
また単独の管でなく、複数の板を交差させて複数に仕切ることで貯水束管ユニット30を構成する場合もある。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る貯水装置の縦断面図
【図2】貯水装置を組み込んだ上水道システムの概念図
【図3】貯水束管ユニットの配管例を示す貯水装置のモデル図
【図4】貯水束管ユニットの他の配管例を示す貯水装置のモデル図
【図5】直管の配置形態を示した図1の断面図
【図6】直管の他の配置形態を示した図1の断面図
【図7】曲管の形態を示した説明図
【図8】曲管の他の形態を示した説明図
【図9】貯水束管ユニットの他の断面形状の組み合わせ例を示す本発明の他の実施の形態の説明図
【符号の説明】
【0031】
10・・・・・貯水装置
20・・・・・主管路
21・・・・・引込管路
22・・・・・放出管路
23〜25・・・・開閉弁
26,27・・・・逆止弁
30・・・・・貯水束管ユニット
31・・・・・直管
32・・・・・曲管
33・・・・・揚水管
40・・・・・外殻
41・・・・・マンホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主管路に並列に介装される貯水装置であって、
前記主管路に接続し、内部に連続性を有する三次元の流路を形成した貯水束管ユニットと、
前記貯水束管ユニットを収容する外殻とを具備し、
主管路から引込んだ水を、前記貯水束管ユニット内を通過させて主管路へ還流可能に構成したことを特徴とする、
貯水装置。
【請求項2】
バイパス管路を介して主管路に並列に介装される貯水装置であって、
前記主管路に接続し、内部に連続した蛇行流路を形成した貯水束管ユニットと、
前記貯水束管ユニットを収容する外殻と、
主管路から引込んだ水を、前記貯水束管ユニット内を通過させて主管路へ向けた還流を許容するようにバイパス管路に介装した逆止弁とを具備し、
災害時に前記逆止弁がバイパス管路を遮断することを特徴とする、
貯水装置。
【請求項3】
請求項2において、バイパス管路に管路の開閉が可能な開閉弁を追加して介装したことを特徴とする、
貯水装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかにおいて、前記貯水束管ユニットが、並列に配置した複数の直管と、隣り合う直管の間を接続するU字形の曲管とを組み合わせて連続性を有する蛇腹状の管路を形成し、前記蛇腹状の管路の始端と終端が夫々主管路に接続し、蛇腹状の管路の終端部に縦向きの揚水管を形成したことを特徴とする、貯水装置。
【請求項5】
請求項4において、前記曲管の断面積が直管より小径であることを特徴とする、貯水装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れかにおいて、前記貯水束管ユニットが複数の分割ユニットで構成されていることを特徴とする、貯水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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