説明

貯蔵安定性に優れたシリカの水性スラリー

【課題】 長期にわたる貯蔵安定性に優れ、水性塗料に配合されることにより、強度が高く、剥がれにくい塗膜を形成することが可能なシリカの水性スラリーを提供する。
【解決手段】 バーミキュライトの酸処理によって得られた非晶質シリカと、アニオン系又はノニオン系高分子凝集剤とを水中に分散してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカが水に懸濁分散された水性スラリーに関するものであり、より詳細には、水性塗料に配合され、塗膜強度を高めるために使用されるシリカの水性スラリーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種基材に塗膜を形成するための塗料には、大きく分けて、溶剤タイプと水性タイプとがある。溶剤タイプの塗料は、強度の高い塗膜を形成することができるという利点があるが、有機溶剤を使用するため、環境に対する安全性などに問題がある。一方、水性タイプの塗料(即ち、水性塗料)は、有機溶剤を使用せず、環境に対する安全性に優れているため、最近では、種々の分野に広く使用されるようになってきているが、溶剤タイプの塗料に比して、塗膜強度及び密着性が低く、塗膜が剥がれやすいという点で、その特性向上が求められている。
【0003】
従来、水性塗料の塗膜強度を高めるために、合成シリカなどの無機微粒子を水性塗料中に配合することが行われている。このようなシリカ微粒子等は、粉塵飛散などを考慮して、水性スラリーの形で要求されることが多い。この場合には、シリカが懸濁分散された水性スラリーの貯蔵安定性が求められている。
【0004】
貯蔵安定性が良好なシリカの水性スラリーとしては、種々提案されており、例えば特許文献1には、微粒子シリカ100重量部、水25〜300重量部、脂肪酸(塩)・油脂又は/及びその誘導体1〜200重量部、分散剤0〜10重量部、乳化剤0〜10重量部からなる微粒子シリカスラリーが提案されている。
【特許文献1】特開昭61−141613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1で提案されているシリカの水性スラリーは、その貯蔵安定性が未だ十分でなく、特に水性スラリー調製後、短時間で沈降を生じてしまい、実際に水性塗料に配合するときには、多くの場合、再度、攪拌を行い、再分散させることが必要であるという問題があった。
【0006】
従って本発明の目的は、長期にわたる貯蔵安定性に優れたシリカの水性スラリーを提供することにある。
本発明の他の目的は、水性塗料に配合され、強度が高く、剥がれにくい塗膜を形成することが可能なシリカの水性スラリーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、種々のシリカ微粒子の中でも、バーミキュライトを酸処理することにより得られた非晶質シリカが、水に懸濁分散させたときに、長期にわたって貯蔵安定な水性スラリーを形成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明によれば、バーミキュライトの酸処理によって得られた非晶質シリカと、アニオン系又はノニオン系高分子凝集剤とを水中に分散してなることを特徴とする水性スラリーが提供される。
【0009】
本発明においては、
(1)前記非晶質シリカがレーザ回折法で測定して中位径(D50)が0.1乃至5.0μmの範囲にあること、
(2)前記高分子凝集剤が、分子量が500万乃至2500万であるアニオン系高分子からなること、
(3)前記高分子凝集剤を、非晶質シリカ100重量部当り0.1乃至2.0重量部の量で含有していること、
(4)前記非晶質シリカが5乃至30重量%の量で分散されていること、
(5)下記式:
TI=η/η60
式中、ηは、回転数6rpmで1分後の粘度(25℃)であり、
η60は、回転数60rpmで1分後の粘度(25℃)である、
で表されるTI値が2.5以上であること、
が好ましい。
また、本発明においては、さらにコロイダルシリカが水中に分散されていることを特徴とする水性スラリーが提供され、
(1)前記コロイダルシリカは、前記非晶質シリカ100重量部当り5乃至240重量部の量で分散されていること、
(2)前記高分子凝集剤を、前記非晶質シリカ100重量部当り0.5乃至4.0重量部の量で含有していること、
が好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、バーミキュライトの酸処理によって得られた非晶質シリカを、アニオン系又はノニオン系高分子凝集剤と組合せて水に懸濁分散させているため、この水性スラリーの貯蔵安定性は極めて高い。例えば後述する実施例に示されているように、30日間経過後においても、本発明で用いた非晶質シリカの沈降は、ほとんど生じていない。
【0011】
また、本発明の水性スラリーに用いている上記のような非晶質シリカは、水性塗料に配合され、塗膜を形成したとき、塗膜中に層状に配向分散し、この結果、塗膜強度を有効に高めることができる。
【0012】
さらに、本発明において、上記のような非晶質シリカ及び高分子凝集剤に加えて、コロイダルシリカを分散させることにより、上述した貯蔵安定性を損なうことなく、塗膜の硬度、密着性、耐水性等の特性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[バーミキュライト]
本発明において用いる非晶質シリカの原料として使用されるバーミキュライト(vermiculite)は、バーミキュライト群粘土鉱物あるいは雲母群粘土鉱物に分類される加水雲母を主成分とする鉱物であり、蛭石とも呼ばれている。この鉱物を一定温度以上に急熱すると、面指数(001)の面に垂直な方向(C軸方向)に著しく延び、蛭に似た形態になるのが名前の由来となっている。このバーミキュライトには、基本的に下記式(1)で表わされる化学構造を有する3八面体型のものと、下記式(2)で表わされる化学構造を有する2八面体型のものとがあり、何れも使用することができる。
【0014】
{E0.6〜0.8・4〜5HO}(Mg,Fe3+,Fe2+,Al)
・[Si,Al]10(OH) …(1)
{E0.6〜0.8・nHO}(Al,Fe,Mg)・[Si,Al]
・O10(OH) …(2)
尚、上記式中、Eは層間イオンであり、主としてKやMgからなる。
【0015】
また、バーミキュライトの化学的組成は、産地等によっても相違するが、代表的な組成は以下の通りである。
SiO 35〜45重量%
Al 10〜20重量%
MgO 7〜30重量%
Fe 5〜22重量%
CaO 0〜3重量%
NaO 0〜1重量%
O 0〜10重量%
Fe以外の重金属含量(Pb,Cr,Cd等) 0.2重量%以下
灼熱減量(1050℃)3〜25重量%
【0016】
(非晶質シリカの製造)
本発明で用いる非晶質シリカは、上記のようなバーミキュライトを酸処理することにより得られる。このような酸処理を行うことにより、結晶構造が破壊され層剥離が生じ、且つ有色成分が除去されるため、塗料に配合した場合の着色が抑えられるだけでなく、優れた分散安定性を得ることができる。
【0017】
酸処理に使用される酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等の鉱酸が使用され、その使用量は、バーミキュライト中のFeを含む塩基性成分に対して過剰量である。また、酸濃度は、一般に、15乃至40重量%、特に20乃至35重量%とするのがよく、酸処理温度は、10乃至110℃の範囲とするのがよい。特に処理温度の高いほうが酸濃度を低くしても処理が短時間で行える。酸処理時間は、酸濃度や酸の使用量、温度等によっても異なり、一概に規定することはできないが、シリカ(SiO換算)含量が、82重量%以上、特に85重量%以上、白色度が85%以上、特に88%以上に高められる程度の時間、酸処理を行うのがよく、通常、6乃至48時間程度である。また、酸処理に先立って、200乃至500℃の温度で加熱処理を行うこともできる。この加熱処理は、膨積処理と呼ばれるものであり、バーミキュライトの層状構造をバラバラにするために行われ、特にアスペクト比の高い非晶質シリカを得るために有効である。
【0018】
このようにバーミキュライトを、必要により加熱処理した後、酸処理し、水洗、乾燥、粉砕、分級することにより、本発明で用いる非晶質シリカを得ることができる。
【0019】
(非晶質シリカ)
上記の方法で得られた非晶質シリカは、原料のバーミキュライトに由来して、葉片状または鱗片状と呼ばれる板状形状を有している。図1は、この非晶質シリカの電子顕微鏡写真を示している。図2は、このシリカが非晶質であることを示すX線回折図である。即ち、かかる非晶質シリカは、一般に、面方向最大寸法/厚みで定義されるアスペクト比が2乃至20の範囲にある。
【0020】
また、上記の非晶質シリカは、85%以上の白色度を有し、BET比表面積が200乃至600m/g、シリカ(SiO換算)含量が82重量%以上、OH基量が5mmol/g以上であり、且つ110℃乾燥物における灼熱減量(1050℃)が4.0乃至8.0重量%の範囲にある。
これは酸処理により、Al、重金属やアルカリ分が著しく低減されているため、高い白色度(85%以上、特に88%以上)を示し、塗膜の着色を抑えることができる。
【0021】
(高分子凝集剤)
本発明において、上記の非晶質シリカを水に安定に分散させるために用いる高分子凝集剤としては、カルボキシル基などを有するアニオン系又は極微量のアニオン性基を有するノニオン系のものを使用することができる。特に、少量添加で増粘効果のあるアニオン系の高分子凝集剤が好適である。即ち、水に分散させるべき上記の非晶質シリカは、表面にシラノール基が多数存在しているため、かかるシラノール基と同電荷を有するカルボキシル基などのアニオン性基を含むアニオン系の高分子凝集剤が、上記非晶質シリカに対して優れた分散性を示すからである。また、高分子凝集剤の中では、アクリル酸塩またはアクリルアミド系のものが好ましく、アニオン系の高分子凝集剤として、アクリル酸ナトリウム−アクリルアミド共重合体が最も好適に使用される。このアニオン系のアクリル酸ナトリウム−アクリルアミド共重合体は、下記式:
CH=CHCONH
で表されるアクリルアミドと、下記式:
CH=CHCOONa
で表されるアクリル酸ナトリウムとの共重合体であり、通常、コロイド滴定におけるアクリル酸ナトリウムの含有量が3乃至100モル%、好ましくは10乃至100モル%の範囲で含有している。また、特にこれらの高分子凝集剤の分子量(数平均分子量)は500万乃至2500万の範囲にあることが好ましい。
一方、第4級アンモニウム塩等を有するカチオン系、及びアクリル酸塩と第4級アンモニウム塩等の両方の系を有する両性高分子凝集剤は、非晶質シリカの凝集又はケーキングが生ずるため使用できない。これは、電気的中和が原因と推測される。
【0022】
(水性スラリー)
本発明のシリカスラリーは、上述したバーミキュライトの酸処理によって得られた微細非晶質シリカと、アニオン系又はノニオン系高分子凝集剤とを、所定量の水中に投入し、混合攪拌するか、又は、非晶質シリカの湿式粉砕スラリーにアニオン系又はノニオン系高分子凝集剤を溶解することにより、容易に調製される。
なお、非晶質シリカの分散性及び貯蔵安定性を高めるために、シリカスラリーにアンモニア水、苛性ソーダ水溶液又は珪酸ソーダ水溶液を添加して、pH(/20℃)を8.5乃至10.0に保持することが好ましい。
【0023】
かかる水性スラリーにおいて、用いる非晶質シリカは、レーザ回折法で測定して、中位径(D50)が0.1乃至5.0μm、特に0.1乃至3.0μmの範囲となるように粒度調整されていることが好ましい。中位径が上記範囲よりも小さいときは、塗料に添加した時に塗膜強度が向上しない。また、上記範囲よりも大きいときは、水性スラリーの貯蔵安定性が低下する傾向にある。さらに、面方向最大寸法/厚みで定義されるアスペクト比が2乃至20の範囲にあり、板状形状が保持されていることが特徴である(図3参照)。
【0024】
また、良好な貯蔵安定性を確保するため、アニオン系又はノニオン系高分子凝集剤は、非晶質シリカ100重量部当り0.1乃至2.0重量部の量で使用するのがよい。さらに水性スラリー中の非晶質シリカの濃度は、5乃至30重量%、特に8乃至25重量%の範囲にあるのがよい。該高分子凝集剤を上記よりも多く使用すると、塗料に用いた時に塗膜の耐水性が低下するので、好ましくない。
【0025】
上記のようにして調製されたシリカの水性スラリーは、非晶質シリカが安定に分散されており、極めて良好な貯蔵安定性を示し、例えば室温下で30日程度静置した場合にも非晶質シリカの沈降をほとんど生じない。このため、水性塗料に配合する際、再分散のための攪拌などを行うことなく、そのまま水性塗料に配合できるという顕著な利点を有している。勿論、非晶質シリカの沈降を生じたとしても易分散性のソフトケーキのため、再度の攪拌により、容易に安定な分散状態を確保することができる。
【0026】
また、かかる水性スラリーは、非ニュートン流体としての挙動を示すものであり、一般に、下記式:
TI=η/η60
式中、ηは、回転数6rpmで1分後の粘度(25℃)であり、
η60は、回転数60rpmで1分後の粘度(25℃)である、
で表されるTI値が2.5以上の範囲にある。従って、高粘性でせん断速度依存性を示す。
【0027】
さらに、上述した水性スラリーには、その用途に応じて増粘剤を配合し、粘度調整することもできる。
増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カゼイン酸ソーダ、カゼイン酸アンモニウム、アルギン酸ソーダ、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリベンジルアルコール共重合物、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリル酸(メタ)アクリル酸エステル共重合体、プルロニックポリエーテル、ポリエーテルジアルキルエステル、ポリエーテルジアルキルエーテル、ポリエーテルウレタン変性物、ポリエーテルエポキシ変性物、ビニルメチルエーテル−無水マレイン酸共重合物の部分エステル、乾性油脂脂肪酸アリルアルコールエステル−無水マレイン酸の反応物のハーフエステル、アセチレングリコール、ザンサンガム、珪酸塩(水溶性珪酸アルカリ)、モンモリロナイト、有機モンモリロナイト、アルミナゾル等を挙げることができる。
【0028】
[用途]
上述した本発明のシリカの水性スラリーは、水性塗料に配合され、その流動性を改質し、塗布時の流動性を高めることによって塗布性が向上し、例えば薄膜の形成を容易に行うことができる。また、塗布後の塗膜の垂れを有効に防止することができる。さらには、スラリー中に分散されている非晶質シリカが塗膜を形成したとき、塗膜中に層状に配向分布する。この結果、塗膜強度を高めることができる。
【0029】
また、本発明の水性スラリーが配合される水性塗料としては、水溶液型の塗料の他、自己乳化型或いは界面活性剤乳化型の塗料を使用することができる。水性塗料の重合体としては、水性媒体に水溶化された或いは自己乳化されたアルキド重合体、ポリエステル重合体、アクリル重合体、エポキシ重合体或いはこれらの2種以上を組合せて用いることができる。
【0030】
本発明の水性スラリーは、水性塗料の用途によっても異なるが、優れた塗膜強度向上効果や流動性改質効果を発現させるためには、水性スラリー中の非晶質シリカが、水性塗料の固形分当り、1乃至60重量%程度の量となるように水性塗料中に配合すればよい。
【0031】
さらに、本発明の水性スラリーを水性塗料の用途に使用する場合には、この水性スラリー中に、コロイダルシリカを分散させておくことが好ましい。即ち、コロイダルシリカは、粒径が150nm以下の著しく微細な粒子であるため、この水性スラリーを用いて塗膜を形成した場合、相乗効果により更に緻密な塗膜を形成することができ、塗膜の硬度、密着性、耐水性等の特性を高めることができる。このようなコロイダルシリカは、通常、非晶質シリカ100重量部当り5乃至240重量部、特に10乃至150重量部の量で配合することが好ましい。コロイダルシリカが必要以上に分散されていると、塗膜の硬度は上昇するものの、柔軟性が損なわれ、クラック等が発生し易くなる。
【0032】
コロイダルシリカとしては、アルカリ性で安定なタイプの物であれば何でも良く、例えば日本化学工業製シリカドール、日産化学工業製スノーテックス、触媒化成工業製カタロイド、旭電化工業製アデライト、クラリアントジャパン製クレボゾール、デュポン製ルドックス等の各グレードを挙げることができる。
【0033】
シリカスラリーにコロイダルシリカを添加する前に、アンモニア水、苛性ソーダ水溶液又は珪酸ソーダ水溶液を添加して、pH(/20℃)を8.5乃至10.0に保持することが好ましい。また、コロイダルシリカが添加されている系では、アニオン系又はノニオン系高分子凝集剤は、非晶質シリカ100重量部当たり0.5乃至4.0重量部の量で使用することが好ましい。
【実施例】
【0034】
以下に本発明を実施例により詳細に説明する。尚、実施例における測定方法は以下の通りである。
【0035】
(1)XRD測定
日本フィリップス(株)製のX線回折装置PW1830を用いて、Cu−Kαで測定した。
ターゲット Cu
フィルター Ni
検出器 プロポーショナルカウンター
電圧 40KVP
電流 30mA
走査速度 1°/min
スリット DS:1° RS:0.2mm SS:1°
照角 6°
なお、X線回折図の横軸は、逆格子の長さd−1で示した。
【0036】
(2)中位径(D50
Malvern社製Mastersizer2000を使用して、レーザ回折散乱法で測定した。
【0037】
(3)アスペクト比
日立(株)製走査電子顕微鏡S−570を用いて、制限視野像中の粒子について、面方向の最大径と、厚みをそれぞれ測り、面方向最大径/厚みを算術計算し、平均値をアスペクト比とした。
【0038】
(4)TI値
B型粘度計(東京計器製造所製)でローターNo.2を用いて、回転数6rpm及び60rpmそれぞれにおける1分後の粘度を測定し、下記式、
TI=η/η60
式中、ηは、回転数6rpmで1分後の粘度(25℃)であり、
η60は、回転数60rpmで1分後の粘度(25℃)である、
により、水性スラリーのTI値を求めた。
【0039】
(5)スラリー状態
高分子凝集剤を添加して調製直後の水性スラリーの状態を観察し、下記のようにスラリー状態を評価した。
○:流動性に優れ、シリカ又は高分子凝集剤の凝集粒が認められない。
×:シリカ又は高分子凝集剤の微細な凝集粒が認められる、又は、ケーキング現象に
より流動性が無いため、使用できる状態でない。
【0040】
(6)貯蔵安定性
水性スラリーを500mlポリエチレン製容器に充填し、室温で30日間静置した後、容器中の水性スラリーの状態を観察し、下記のように貯蔵安定性の評価を行った。
◎:固液分離及びシリカの沈殿が認められない。
○:わずかに固液分離はあるが、シリカの沈殿は認められない。
△:固液分離及びシリカの沈殿はあるが、容器を振とうすると容易に再分散できる。
×:かなり固液分離が見られ、シリカの沈殿が容器を振とうしても容易に再分散しな
い。
【0041】
以下の塗料試験1〜6は、実施例5〜9、比較例3〜6で行った。
(7)塗料試験1(試験片作成)
下記配合組成物を混合して、塗料の固形分濃度33.3重量%、固形分中のシリカ濃度が20重量%の水系塗料を作成した。
アクリルエマルジョン塗料*1 100g
水性スラリー(実施例参照) 50g
*1:大日本インキ化学工業製ボンコートEC−740EF(NV40%)
得られた塗料を、電気亜鉛メッキ鋼板(0.8×70×150mm)にバーコーター(Rod No.40)で2回塗りし、風乾して塗膜厚約50μmの試験片を得た。
なお、膜厚は、JIS−K−5600−1−7膜厚に準拠して、電磁厚み計(ケット科学研究所製)で測定した。得られた試験片について、下記の試験を行った。
【0042】
(8)塗料試験2(引っかき硬度)
JIS−K−5600−5−4引っかき硬度(鉛筆法)に準拠して、手かき法で塗膜硬度を測定した。
【0043】
(9)塗料試験3(付着性)
JIS−K−5600−5−6付着性(クロスカット法)に準拠して、カット間隔1mmにおけるクロスカット部分の表面状態を観察し、以下のように評価した。
○:剥離なし
△:若干剥離あり
×:著しい剥離あり
【0044】
(10)塗料試験4(耐水性)
JIS−K−5600−6−2耐液体性(水浸漬法)に準拠して、7日間水に浸漬した後の塗膜表面の膨れを観察し、以下のように評価した。なお、試験片の裏面及び端部を保護テープでシールしてから試験を行った。
○:ほとんど膨れ無し
△:わずかに膨れ有り
×:かなりの膨れ有り
【0045】
(11)塗料試験5(長期耐久性)
5×5cmのスクラッチを付けた試験片について、JIS−K−5600−7−1耐中性塩水噴霧性、及びJIS−Z−2371塩水噴霧試験方法に準拠して、100時間塩水噴霧試験機ST−ISO−3型(スガ試験機製)で塩水に暴露した後に腐食の状態を観察し、以下のように評価した。なお、試験片の裏面及び端部を保護テープでシールしてから試験を行った。
○:スクラッチ部に錆は発生するが、浸食はほとんど見られない。
△:スクラッチ部からの浸食がわずかに見られる。
×:スクラッチ部からの浸食がかなり見られる。
【0046】
(12)塗料試験6(ガラス板塗布)
水性スラリーを、100μmのフィルムアプリケーターを用いてガラス板に塗布した。乾燥後、塗膜の引っかき硬度と、耐水摩耗性を評価した。
引っかき硬度は、JIS−K−5600−5−4引っかき硬度(鉛筆法)に準拠して、手かき法で塗膜硬度を測定した。
耐水摩耗性は、水に浸した指で塗膜を50回擦り付けた後に塗膜を乾燥し、塗膜の状態を観察し、以下のように評価した。
○:塗膜に変化が見られない
△:塗膜に指で擦った後が付く
×:塗膜が溶脱して薄くなる
【0047】
(実施例1)
南アフリカ産バーミキュライト原石1.0kgに水5.2kg、98%硫酸2.3kgを加えて、95℃で20時間加熱した。次いで、ろ過、水洗、乾燥し、粉砕後分級して、中位径(D50)が6.0μmの非晶質シリカ2kgを得た。得られた非晶質シリカの電子顕微鏡写真を図1に、X線回折図を図2にそれぞれ示す。
次に、1mmφのアルミナボール4L及び水1.6Lを充填した10L磁製ポットミルに、非晶質シリカ0.5kgを投入して3hr湿式粉砕後に湿式粉砕スラリーを回収し、水を加えてシリカ固形分20重量%、中位径(D50)0.8μm、アスペクト比5の非晶質シリカスラリーを得た。このスラリー中の非晶質シリカの電子顕微鏡写真を図3に示す。
この非晶質シリカスラリーに、撹拌下に6N苛性ソーダ水溶液を注下してpH9.0/20℃に調整した後に、高分子凝集剤として、アニオン系高分子ミズフロック#200(水澤化学製、アニオン50モル%、分子量1500万)を3.2g添加、溶解して水性スラリーを得た。
この水性スラリーの測定結果を、表1に示す。
【0048】
(実施例2)
実施例1で用いた高分子凝集剤に替えて、アニオン系高分子のミズフロック#300(アニオン20モル%、分子量1800万)を3.2g添加した以外は、実施例1と同様にして水性スラリーを調製した。
この水性スラリーの測定結果を、表1に示す。
【0049】
(実施例3)
実施例1で用いた高分子凝集剤に替えて、アニオン系高分子のミズフロック#450(アニオン5モル%、分子量1700万)を6.4g添加した以外は、実施例1と同様にして水性スラリーを調製した。
この水性スラリーの測定結果を、表1に示す。
【0050】
(実施例4)
実施例1で用いた高分子凝集剤に替えて、ノニオン系高分子のミズフロック#500(アニオン3モル%、分子量1700万)を8.0g添加した以外は、実施例1と同様にして水性スラリーを調製した。
この水性スラリーの測定結果を、表1に示す。
【0051】
(比較例1)
実施例1で用いた高分子凝集剤に替えて、カチオン系高分子のミズフロック#735H(カチオン40モル%、分子量550万)を2.4g添加した以外は、実施例1と同様にして水性スラリーを調製したが、ケーキング現象を起こし、流動性が無く、使用できる状態ではなかった。
【0052】
(比較例2)
実施例1で用いた高分子凝集剤に替えて、両性タイプ高分子のミズフロック#875CA(分子量750万)を0.8g添加した以外は、実施例1と同様にして水性スラリーを調製したが、シリカ及び高分子凝集剤の微細な凝集粒が認められ、使用できる状態ではなかった。
【0053】
(参考例1)
実施例1記載の湿式粉砕工程を除いた以外は、実施例2と同様にして水性スラリーを調製した。
この水性スラリーについての測定結果を、表1に示す。
【0054】
(参考例2)
実施例1で用いた高分子凝集剤に替えて、ノニオン系高分子のミズフロック#550(アニオン0モル%、分子量1300万)を9.6g添加した以外は、実施例1と同様にして水性スラリーを調製した。
この水性スラリーの測定結果を、表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
(比較例3)
アクリルエマルジョン塗料に、水を加えて固形分濃度を33.3重量%とした水系塗料を得た(ブランク)。得た塗料の試験結果を、表3に示す。
【0057】
(実施例5)
塗料試験1記載の配合になるように、実施例1で得た水性スラリーを添加し、水系塗料を得た。得た塗料の試験結果を、表3に示す。
【0058】
(実施例6)
実施例1で得たシリカ固形分20重量%非晶質シリカスラリー1.8kgに、攪拌下に6N苛性ソーダ水溶液を滴下して、pH9.0/20℃に調整した後に、シリカ固形分濃度20重量%のコロイダルシリカ(日本化学工業製シリカドール20)0.2kgを混合した。
次に、アニオン系高分子ミズフロック#200(水澤化学製、アニオン50モル%、分子量1500万)を3.6g添加、溶解して水性スラリーを得た。この水性スラリーの測定結果を、表2に示す。
次に、塗料試験1記載の配合になるように、この水性スラリーを添加し、水系塗料を得た。得た塗料の試験結果を、表3に示す。
【0059】
(実施例7)
実施例6において、非晶質シリカスラリーを1.4kg、コロイダルシリカを0.6kgに変更した以外は、同様にして行い水性スラリーを得た。この水性スラリーの測定結果を、表2に示す。
次に、塗料試験1記載の配合になるように、この水性スラリーを添加し、水系塗料を得た。得た塗料の試験結果を、表3に示す。
【0060】
(実施例8)
実施例6において、非晶質シリカスラリーを1.0kg、コロイダルシリカを1.0kg、アニオン系高分子を4.0gに変更した以外は、同様にして行い水性スラリーを得た。この水性スラリーの測定結果を、表2に示す。
次に、塗料試験1記載の配合になるように、この水性スラリーを添加し、水系塗料を得た。得た塗料の試験結果を、表3に示す。
【0061】
(実施例9)
実施例6において、非晶質シリカスラリーを0.6kg、コロイダルシリカを1.4kg、アニオン系高分子を4.4gに変更した以外は、同様にして行い水性スラリーを得た。この水性スラリーの測定結果を、表2に示す。
次に、塗料試験1記載の配合になるように、この水性スラリーを添加し、水系塗料を得た。得た塗料の試験結果を、表3に示す。
【0062】
(比較例4)
水性スラリーの代わりに、シリカ固形分濃度20重量%のコロイダルシリカ(日本化学工業製シリカドール20)を塗料試験1記載の配合になるように添加し、水系塗料を得た。得た塗料の試験結果を、表3に示す。
【0063】
(比較例5)
実施例1において、非晶質シリカの代わりに、市販の非晶質シリカ(水澤化学製ミズカシルP−73)を用い、以下同様にして行い、中位径(D50)0.8μmの非晶質シリカスラリーを得た。得られた非晶質シリカスラリーを実施例1と同様に調製して、水性スラリーを得た。
次に、塗料試験1記載の配合になるように、この水性スラリーを添加し、水系塗料を得た。得た塗料の試験結果を、表3に示す。
【0064】
(比較例6)
比較例5で得た非晶質シリカスラリーを、実施例7において、非晶質シリカスラリーの代わりに用い、以下同様にして行い、水性スラリーを得た。
次に、塗料試験1記載の配合になるように、この水性スラリーを添加し、水系塗料を得た。得た塗料の試験結果を、表3に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の水性スラリーの調製に用いる非晶質シリカの電子顕微鏡写真(倍率:5000倍)である。
【図2】本発明の水性スラリーの調製に用いる非晶質シリカのX線回折図である。
【図3】本発明の水性スラリー中の非晶質シリカ(実施例1)の電子顕微鏡写真(倍率:10000倍)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バーミキュライトの酸処理によって得られた非晶質シリカと、アニオン系又はノニオン系高分子凝集剤とを水中に分散してなることを特徴とする水性スラリー。
【請求項2】
前記非晶質シリカがレーザ回折法で測定して中位径(D50)が0.1乃至5.0μmの範囲にある請求項1に記載の水性スラリー。
【請求項3】
前記高分子凝集剤が、分子量が500万乃至2500万であるアニオン系高分子凝集剤である請求項1または2に記載の水性スラリー。
【請求項4】
前記高分子凝集剤を、非晶質シリカ100重量部当り0.1乃至2.0重量部の量で含有している請求項1乃至3の何れかに記載の水性スラリー。
【請求項5】
前記非晶質シリカが5乃至30重量%の量で分散されている請求項1乃至4の何れかに記載の水性スラリー。
【請求項6】
下記式:
TI=η/η60
式中、ηは、回転数6rpmで1分後の粘度(25℃)であり、
η60は、回転数60rpmで1分後の粘度(25℃)である、
で表されるTI値が2.5以上である請求項1乃至5の何れかに記載の水性スラリー。
【請求項7】
さらにコロイダルシリカが水中に分散されている請求項1乃至6の何れかに記載の水性スラリー。
【請求項8】
前記コロイダルシリカは、前記非晶質シリカ100重量部当り5乃至240重量部の量で分散されている請求項7に記載の水性スラリー。
【請求項9】
前記高分子凝集剤を、前記非晶質シリカ100重量部当り0.5乃至4.0重量部の量で含有している請求項7または8に記載の水性スラリー。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れかに記載の水性スラリーからなる水性塗料用配合剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−62952(P2006−62952A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−215324(P2005−215324)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(000193601)水澤化学工業株式会社 (50)
【Fターム(参考)】