説明

貯蔵容器の耐震安全性評価方法及び耐震安全性評価設備

【課題】非固定で貯蔵容器に外力が作用したときの貯蔵容器の挙動を解析するにあたり、適切な条件で安全性を評価する安全性評価方法を実現する。
【解決手段】放射性物質を収容し、非固定状態の架台に固定した貯蔵容器の耐震安全性評価方法であって、該架台を含む該貯蔵容器の解析用モデルを作成し、該貯蔵容器に地震荷重などの外力が働いたときの浮上り量を算出し、算出した該浮上り量に基づいて安全性を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯蔵容器の耐震安全性評価方法及び貯蔵容器の耐震安全性評価設備に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所施設の炉心で一定期間使用された燃料は、炉心より取り出されて使用済燃料プール等に一時保管される。この所定の冷却期間が終了した燃料は、最終的に再処理工場に搬出され、再処理されてウランとプルトニウムとを再資源として取り出し、再利用される。
【0003】
現在、原子力発電所で発生する使用済燃料は、発電需要と共に増大しているために、再処理工場が稼動しても国内で発生する使用済燃料は再処理工場での処理容量を上回ることになり、再処理されるまでの期間中、適切に管理・貯蔵される必要がある。
【0004】
原子力発電所の敷地内若しくは敷地外にて管理・貯蔵する方法として、乾式キャスク貯蔵、ボールト貯蔵、サイロ貯蔵、コンクリートキャスク貯蔵等の乾式貯蔵方式及び水プールの湿式貯蔵方式の各方式があるが、コスト的にも、また長期に亘る安定貯蔵を考えた場合においても、乾式貯蔵が注目されている。乾式貯蔵方式の内、現在国内で実用化されているキャスク貯蔵方式は、放射性物質収納容器である乾式キャスクの中に使用済燃料を収納し貯蔵する方法である。
【0005】
このキャスクには、金属キャスクとコンクリートキャスクとがあり、金属キャスクは搬送と貯蔵とを兼用できる。一方、コンクリートキャスクは、貯蔵用として用いられるキャスクであり、搬送時は使用済燃料をキャニスタと称する容器に収納し、該キャニスタを輸送用キャスクに収納して輸送する。貯蔵施設においては、金属キャスクは使用済燃料の移し替え等をせずにそのまま所定期間貯蔵される。
【0006】
一方、キャニスタは輸送用キャスクから引き抜かれ、予め用意しておいたコンクリートキャスクに装填されて所定期間貯蔵される。
【0007】
ここで、貯蔵施設内において、キャスクを天井クレーンによりトレーラから積み下ろしをして貯蔵位置まで搬送すると、天井クレーンの走行及び昇降スペースの確保のために、貯蔵建屋の階高が高くなり、キャスクの貯蔵容量に比較して貯蔵建屋が大型となる。また、通常、金属キャスクやコンクリートキャスクは非常に重く(例えば、約100〜200トン)、大型の天井クレーンが必要になる。
【0008】
この問題を解決するため、従来、貯蔵建屋の階高を低くできるエアパレット方式の搬送装置が提案されている。エアパレット搬送装置は、架台上に金属キャスクを設置して固定し、架台の下側に装着するエアパレットを有する自走可能な台車を備えて構成されている。そして、搬送時には、エアパレットを架台の下側に装着して台車側からエアパレットに空気を供給し、貯蔵容器を浮上させた状態で搬送するようにしている。
【0009】
ところが、エアパレット搬送装置を用いた貯蔵施設において、空気の供給が途絶えた場合には貯蔵容器が非固定状態になる場合も想定される。そして、この場合の貯蔵容器の耐震安全性を評価する手法が求められている。
【0010】
特許文献1には、非固定状態での貯蔵容器に加わる地震荷重の影響を非線形現象として評価する構造物の耐震設計方法が記載されている。しかし、この方法は、非線形の時刻歴解析によって評価する方法であり、地震力から与えられる内部エネルギーの増加に着目した評価ではない。
【0011】
使用済燃料の搬送中においても、地震等により傾きが発生しても、貯蔵容器の閉じ込め機能、遮へい機能、除熱機能、臨界防止といった基本的安全機能に影響を及ぼさないことが要求される。
【0012】
しかし、実機等による試験を行って地震等に対する安全性を評価するには、時間及びコストが膨大となることから現実的ではなく、シミュレーション等により非固定で貯蔵容器の挙動を解析して安全性を評価することが望ましい。
【0013】
ところが、非固定で貯蔵容器の地震時の挙動をシミュレーション等により解析する場合、適切な安全側の条件での安全性を評価することが、貯蔵システムの構築には必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2002−146718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、非固定で貯蔵容器に外力が作用したときの貯蔵容器の挙動を解析するにあたり、適切な条件で安全性を評価する安全性評価方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の貯蔵容器の耐震安全性評価方法は、放射性物質を収容し、非固定状態の架台に固定した貯蔵容器の耐震安全性評価方法であって、前記架台を含む前記貯蔵容器の解析用モデルを作成し、前記貯蔵容器に地震荷重のような外力が働いたときの浮上り量を算出し、算出した浮上り量に基づいて耐震安全性を評価することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、放射性物質を収容する貯蔵容器が非固定状態であって、地震荷重のような外力が作用したときの貯蔵容器の挙動を解析するにあたり、貯蔵容器に与えられる外力からのエネルギーの条件を過度に安全側に設定することなく、安全性を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明による安全性評価の対象である非固定状態の貯蔵容器を示す概要構成図である。
【図2A】本発明による安全性評価の対象である非固定状態の貯蔵容器の地震時における動きを示す概要図である。
【図2B】図2Aの貯蔵容器の地震時におけるエネルギー状態の変化を示すグラフである。
【図3】本発明による非固定状態の貯蔵容器の安全性評価方法に関する一実施例を示すフローチャートである。
【図4】本発明における非固定状態の貯蔵容器の浮上り状態を示す側面図である。
【図5】本発明における非固定状態の貯蔵容器の転倒限界を示す側面図である。
【図6】本発明による非固定状態の貯蔵容器の耐震安全性評価設備に関する一実施例を示す概略構成図である。
【図7】本発明による非固定状態の貯蔵容器の安全性評価方法を示すプログラムフローである。
【図8】本発明によるエネルギー時間蓄積量の算出結果を示すグラフである。
【図9】本発明による非固定状態の貯蔵容器の安全性評価における質点系振動モデルの一実施例を示す模式図である。
【図10】本発明による非固定状態の貯蔵容器の安全性評価における質点系振動モデルの他の実施例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、貯蔵容器の耐震安全性評価方法及び評価設備に関し、非固定状態の貯蔵容器の耐震安全性評価方法に関する。例えば、放射性物質を収納した貯蔵容器を固定した架台が非固定状態において地震等の外力が働いたときの挙動を解析して安全性を評価する技術に関する。
【0020】
本発明の最良の形態は、放射性物質を収容する貯蔵容器を非固定状態の架台に固定した貯蔵容器、すなわち架台を介して非固定状態の貯蔵容器の安全性評価方法であって、貯蔵容器の解析用モデルを作成し、非固定状態の貯蔵容器に外力が働いたときの挙動をエネルギーの付与の評価より算出し、算出した結果に基づいて安全性を評価することを特徴とする。この方法により、実機等による試験を実施しなくとも、解析によりマッチングさせて非固定状態の貯蔵容器の安全性を評価することができる。
【0021】
この解析によって非固定状態の貯蔵容器の安全性評価を実施する場合に、非固定状態の貯蔵容器に外力が作用したときの挙動を表現できる解析用モデルを設定する。
【0022】
また、非固定状態の貯蔵容器を構成する各部は、集中質量W、はり要素B、ばね要素Sといった簡単な要素を適用してモデル化する。これにより、貯蔵容器に付与された外力からのエネルギーより貯蔵容器の挙動を容易に評価することができる。
【0023】
図1に本発明の安全性評価の対象である非固定状態の貯蔵容器を示す概要構成図を示す。
【0024】
符号1は使用済みの燃料を収納した貯蔵容器であり、2は貯蔵容器1を搭載した架台である。貯蔵容器1は、固定金具(後述)を介して架台2に固定される。架台2の幅は、貯蔵容器1の直径よりも大きくしてあり、転倒しにくくなっている。ここで、非固定状態とは、固定されていない架台2に貯蔵容器1が固定された状態をいう。
【0025】
また、符号3は架台2が置かれた床面であり、4は架台2を含めた貯蔵容器1の重心を示す。さらに、破線201は、重心4の振動の支点5と重心4とを結ぶ線分である。ここで、この線分201の長さをaとする。
【0026】
非固定状態であるため、貯蔵容器1に地震荷重等の外力が働いた場合に、貯蔵容器1や架台2の挙動が基本的な安全性に影響を及ぼさないことを確認する必要がある。したがって、設計段階で、貯蔵容器1に外力が働いたときに非固定状態の貯蔵容器1の動きを評価し、十分な安全性を確保した設計をする必要がある。
【0027】
図2Aに貯蔵容器1に地震荷重のような交番荷重が与えられる場合の貯蔵容器1の挙動を示す。貯蔵容器1に交番荷重のような外力が働くと、架台2の1辺を支点にして他辺が浮き上がる。このとき、架台2に付与されたエネルギーは、貯蔵容器1の内部エネルギーの増分となる。そのため、この内部エネルギーは運動エネルギーあるいは位置エネルギーに変換され、貯蔵容器1及び架台2はロッキング振動を開始する。
【0028】
貯蔵容器1及び架台2は、固定金具により固定されて一体化されているため、全体を剛体とみなして取り扱うことができる。以後、特に区別して説明する場合を除き、単独で貯蔵容器1と記載した場合も、貯蔵容器1が、一体化された貯蔵容器1及び架台2の全体、すなわち架台2を含むものと解釈してよい。
【0029】
また、床面3と接する際、すなわち衝突する際には、振動している貯蔵容器1及び架台2の運動エネルギーの一部が散逸する。これは、剛球が降伏面に衝突した場合に、その衝突後の速度が衝突前の速度と一致しないことと同様な現象である。貯蔵容器1が置かれている床面3は、完全な非降伏面であることはないため、反発係数は1ではなく、架台2が床面に接した際にはエネルギーの散逸が観測される。
【0030】
本図において、(a)、(b)、(c)及び(d)は、貯蔵容器1及び架台2のロッキング振動の、異なる時刻における状態を表している。
【0031】
このときの位置エネルギー、運動エネルギー及び内部エネルギーの経時変化を図2Bに示す。ここで、図2Aの(a)、(b)、(c)及び(d)の状態に対応する時刻を図2Bの(a)、(b)、(c)及び(d)で示してある。
【0032】
(a)及び(c)においては、位置エネルギーが最小となり、運動エネルギーが極大となる。このとき、架台2が床面3に接する(衝突する)ため、衝突による内部エネルギーの散逸が起こる。ここでは、(a)及び(c)に対応する時刻をTi−1及びTで示す。また、(b)及び(d)では、位置エネルギーが極大となり、運動エネルギーが最小となる。
【0033】
地震等により貯蔵容器1及び架台2が付与されるエネルギーは、振動を繰り返しながら徐々に増加していく一方、床面3に接するたびに運動エネルギーを散逸することが知られている。
【0034】
図2Bにおいて、時刻Ti−1におけるエネルギーの散逸により内部エネルギーはpi−1となり、時刻Tで内部エネルギーはp’に達する。すなわち、時刻Ti−1から時刻Tまでの間に内部エネルギーはp’−pi−1だけ増加する。そして、時刻Tにおいてエネルギーの散逸により内部エネルギーはpになる。すなわち、衝突の瞬間に内部エネルギーはp’−pだけ減少する。
【実施例1】
【0035】
図3に本発明による非固定状態の貯蔵容器の耐震安全性評価方法に関する一実施例のフローチャートを示す。本実施例の安全性評価方法は、貯蔵施設、キャスク(貯蔵容器)及び架台の構造を含む設計情報を取り込む工程(S101)、キャスク(貯蔵容器)及び架台などの仕様(形状、重量等)や地震動の条件、すなわち貯蔵容器の振動特性を解析するための入力条件を設定する工程(S102)、スペクトル範囲及び振動エネルギーの算出を含む振動特性を評価する工程(S103)、貯蔵容器が付与されるエネルギーを評価する工程(S104)、並びに付与されたエネルギーから安全性の評価量である「浮上り量」を算出して安全性を評価する工程(S105)を含む。
【0036】
安全性の評価量をする工程(S105)では、浮上り量からは貯蔵容器の転倒の有無を判断する。
【0037】
図4は、本発明における非固定状態の貯蔵容器の浮上り状態を示す側面図である。
【0038】
本図において、貯蔵容器1及び架台2は支点5を軸として角度θだけ傾き、架台2の支点5と反対側の端部は高さhだけ浮上っている。
【0039】
また、図5は、本発明における非固定状態の貯蔵容器の転倒限界を示す側面図である。本図において、貯蔵容器1及び架台2の重心4が、架台2の一端の支点5を通る鉛直線6の外側に出ると転倒する。そこで、図4の状態における架台2の他端の浮上り量hの転倒限界条件をHとして設定し、算出した浮上り量hがH未満であれば転倒しないものとして安全性を評価する。このとき、図4における角度θをθと表すことにする。
【0040】
図6は、本発明による非固定状態の貯蔵容器の耐震安全性評価設備に関する一実施例を示す概略構成図である。
【0041】
符号8は計算機システムであり、基本的には、貯蔵容器の形状及び重心位置の情報(貯蔵容器情報)、並びに架台の形状及び重心位置の情報(架台情報)を入力し、地震波情報を入力するインプットポート81、CPU82、RAM83及びROM84を含む構成となっている。ROM84は、CPU82を制御するためのプログラムを格納した記録媒体を含む。この記録媒体を記憶部と呼ぶ。また、CPU82は、このプログラムに従って、貯蔵容器の形状や重心位置の情報、及び架台の形状や重心位置の情報を入力し、さらには、地震波情報を入力し、RAM83との間でデータの授受をしながら演算処理を行う。その演算処理の結果である耐震性をアウトプット処理部9に出力し、耐震性に関する判定を行う。
【0042】
図3に示す評価フローにおいて転倒を予測するプログラムフローの一実施例を図7に示す。
【0043】
図7に本発明による非固定状態の貯蔵容器の耐震安全性評価方法に関する一実施例のフローチャートを示す。本実施例の安全性評価方法は、振動特性を評価するための工程(S103)と、貯蔵容器が付与されるエネルギーを評価する工程(S104)と、付与されたエネルギーから安全性の評価量である「浮上り量」を算出して安全性を評価する工程(S105)とを含む。
【0044】
始めに、貯蔵施設、貯蔵容器1及び架台2の構造等の設計情報を取り込む(S101)。ついで、貯蔵容器の振動特性を解析するための入力条件102を設定する(S102)。入力条件としては、設計用地震動、貯蔵容器仕様(寸法、重量等)、架台仕様(寸法、重量等)等である。
【0045】
つぎに、振動解析を実施する(S103)。この振動解析(S103)は、2つのステップ、すなわち評価対象となる貯蔵容器の振動特性を評価するためのスペクトル範囲を設定する工程(S103a)、及びこのモデルに基づいて時刻歴解析を実施して振動エネルギーを算出する工程(S103b)を含む。
【0046】
さらに、振動エネルギーから貯蔵容器に付与するエネルギーを評価する工程(S104)は、5つのステップ、すなわち振動エネルギーの時間変化を算出する工程(S104a)、単位時間当たりの付与されたエネルギーの最大値を算出する工程(S104b)、付与されるエネルギーを定める累積時間幅を設定する工程(S104c)、累積したエネルギーを算出する工程(S104d)、及び最大累積エネルギーを算出する工程(S104e)を含む。ここで、(S104c)から(S104e)までの工程においては、反復計算を行って蓄積エネルギーの最大値を確定してもよい。
【0047】
そして、さらに、安全性の評価量をする工程(S105)は、蓄積エネルギーから浮上り量を算出する工程(S105a)、及び浮上り量から転倒評価を行う工程(S105b)を含む。浮上り量からは貯蔵容器の転倒の有無を判断する。
<振動特性の評価:S103>
非固定状態の貯蔵容器において、外力が働いたときの振動特性を評価する。ここで、図7の(S103a)で評価する振動特性(振動定数)は、参考文献(秋山ら、エネルギースペクトルを用いた剛体の転倒予測、日本建築学会構造系論文集488号、49−55号)に記載されているように、質点振動系の運動方程式より、一般的に式(1)のように表すことができる。
【0048】
【数1】

【0049】
また、上記参考文献には、剛体の振動特性において考慮するスペクトル幅は、T〜Tであり、T及びTは、ロッキング振動する構造物の床面接地面形状が矩形の場合に式(2)及び式(3)で求めることができる、と記載されている。
【0050】
【数2】

【0051】
【数3】

【0052】
したがって、振動特性の評価においては、式(1)で算出される振動特性も用い、式(2)及び式(3)より、振動エネルギーを評価する。
<付与されるエネルギーの評価:S104>
振動特性の評価(S103)で算出した非固定状態の貯蔵容器が地震エネルギーから付与されるエネルギー速度の時間変化EV(t)は、式(4)で表記できる。
【0053】
【数4】

【0054】
式(4)を微分することにより、単位時間当たりに付与されるエネルギー、すなわちエネルギー速度を式(5)のように算出できる。
【0055】
【数5】

【0056】
貯蔵容器に付与されるエネルギー速度で表記したエネルギーから貯蔵容器の転倒を予測するには、転倒に至る時間内で累積される付与エネルギー速度で評価することが適切である。このため、貯蔵容器に付与される時間累積のエネルギー速度は、単位時間当たりに付与されるエネルギー速度を、任意の時刻tからの時間幅Tで積分することで式(6)のように算出できる。ここで、tは地震の始まり(時刻0)をとってもよいが、計算時間の短縮の観点から、地震の揺れが大きくなり始めてから揺れのピークを迎えるまでの間で適切な時刻をあらかじめ定めておいてもよい。
【0057】
【数6】

【0058】
転倒の可否判断は、式(7)によって時間幅Tを考慮したエネルギー速度の最大値を求めて評価する。この場合に、t及びTをパラメータとしてエネルギー速度の最大値を算出する。
【0059】
【数7】

【0060】
<転倒の可否評価:S105>
図4は、貯蔵容器1の重心位置4と浮上り量hとの関係を示したものである。本図に示すように、ロッキング振動による浮上り量hは、地震力から付与される内部エネルギーの最大値Δ(max)が位置エネルギー増分に変換されると仮定して、重心の浮上り量hが次の式(8)により求められる。なお、gは重力加速度である。
【0061】
【数8】

【0062】
そして、重心位置4の浮上り量hが発生した時の架台端部の浮上り量hを算出し、図5に示す転倒条件である浮上り量Hと比較することにより、転倒の有無を評価することができる。
【0063】
図8は、図7のフローに従って算出した内部エネルギーの時間変化を模式的に示したグラフである。
【0064】
図8において、横軸は地震の経過時間とほぼ同等なスケールである時間であり、縦軸は地震時のエネルギーを等価に示す等価速度である。図中、エネルギー全蓄積量の時間変化は、内部エネルギーの散逸がないと仮定した場合の内部エネルギーの蓄積量であり、参考文献の考え方に従って式(4)を用いて算出するものである。これは増加関数となる。これは図7の(S103)で行う時刻歴解析である。ここで、算出した内部エネルギーの蓄積量は、衝突等によるエネルギーの散逸を考慮していないため、地震波等により付与されるエネルギー蓄積量の最大値が得られる。これを基準に転倒するか否かの安全性評価を行うと、貯蔵容器の安全な仕様を過度に要求する結果となり、貯蔵容器を含めた貯蔵設備が極めてコストの高いものとなる。
【0065】
実際には、エネルギーの散逸が生じるため、エネルギー蓄積量は上記の最大値に比べて低いものとなる。すなわち、エネルギーの散逸を考慮して安全性評価を行えば、貯蔵容器の安全な仕様のためのコストを大幅に低減することができるはずである。
【0066】
そこで、(S104)において、架台と床面との反発係数を含めたエネルギーの散逸の条件を考慮して解析を行う。
【0067】
エネルギー時間蓄積量の時間変化は、式(5)及び式(6)を用いて算出するものであり、本発明において新たに導入した考え方である。これは(S104)で行うものである。すなわち、図8におけるエネルギー時間蓄積量の時間変化は、地震から付与されるエネルギーを地震の全時間で累積評価したエネルギー全累積量を、時間幅を区切って評価し直した結果である。
【0068】
この(S104)で行う解析は、衝突等のエネルギーの散逸を考慮するため、初期の内部エネルギーが後期の内部エネルギー累積量に与える影響は軽微である。このため、上述の時刻tを、地震波が大きくなり始めてからの任意の時刻に設定することができる。これは解析時間を短縮する効果がある。
【0069】
そして、時間幅Tを適切な範囲で変化させて式(6)及び式(7)の計算を行い、安全性評価において重要な値である内部エネルギーの最大値Δ(max)を算出する。時間幅Tは、貯蔵容器が外力から付与されるエネルギーを算出する際に、貯蔵容器のロッキング振動の周期で定まる時間間隔を用いて設定してもよい。
【0070】
図9は、図7の評価フローにおいて振動特性を評価する工程(S103)で実施する質点系の振動モデルの一実施例を示したものである。
【0071】
この振動モデルにおいて、固定金具10によって架台2に固定された貯蔵容器1は、貯蔵容器1の重心41及び架台2の重心42で定めた質点と、架台2の振動現象をモデル化したバネ要素Sbと、バネ要素を結ぶ梁Bbとに変換される。
【0072】
本実施例の場合、条件を入力する工程(S102)において、貯蔵容器1及び架台2の仕様を個別に入力するためのモデルである。
【0073】
図10は、質点系の振動モデルに関する他の実施例を示したものである。
【0074】
本図の振動モデルは、貯蔵容器の上部に貯蔵容器1の蓋部301の質点43を設けた貯蔵容器の振動モデルである。
【0075】
本実施例の場合、条件を入力する工程(S102)において、貯蔵容器1、架台2及び蓋部301の仕様を個別に入力するためのモデルである。
【0076】
図9及び図10に示すモデルは、図1に示した解析に用いる全体の重心4の算出を自動化するものである。
【符号の説明】
【0077】
1:貯蔵容器、2:架台、3:床面、4:重心、5:支点、6:鉛直線、8:計算機システム、9:アウトプット処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性物質を収容し、非固定状態の架台に固定した貯蔵容器の耐震安全性評価方法であって、前記架台を含む前記貯蔵容器の解析用モデルを作成し、前記貯蔵容器に地震荷重のような外力が働いたときの浮上り量を算出し、算出した浮上り量に基づいて耐震安全性を評価し、且つ前記浮上り量の算出には、前記貯蔵容器に前記外力によって付与されるエネルギーを区切られた時間幅の範囲で算出し、この算出したエネルギーを用いることを特徴とする貯蔵容器の耐震安全性評価方法。
【請求項2】
放射性物質を収容し、非固定状態の架台に固定した貯蔵容器の耐震安全性評価方法であって、前記架台を含む貯蔵容器の解析用モデルを作成し、前記貯蔵容器に地震荷重のような外力が働いたときの浮上り量を、この貯蔵容器に前記外力によって付与されるエネルギーから算出し、算出した浮上り量に基づいて安全性を評価し、且つ前記エネルギーの算出に用いる時間幅を、前記貯蔵容器に生じるロッキング振動の周期で定まる時間間隔を用いて設定することを特徴とする貯蔵容器の耐震安全性評価方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−2823(P2012−2823A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188276(P2011−188276)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【分割の表示】特願2008−61254(P2008−61254)の分割
【原出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【出願人】(505428248)リサイクル燃料貯蔵株式会社 (5)