説明

貴金属担持光触媒体粒子分散液の製造方法、貴金属担持光触媒体粒子分散液、親水化剤及び光触媒機能製品

【課題】高い光触媒活性を示し、且つ分散媒中で光触媒体粒子が沈降することのない安定
な分散性を有する貴金属担持光触媒体粒子分散液、その製造方法、親水化剤及び光触媒機能製品を提供することである。
【解決手段】光触媒体粒子の表面に貴金属が担持された貴金属担持光触媒体粒子が分散媒中に分散した貴金属担持光触媒体粒子分散液を製造する方法であり、前記分散媒中に前記光触媒体粒子が分散し、前記貴金属の前駆体が溶解した原料分散液のpHを2.8〜5.5の範囲に調整し、さらに前記原料分散液中の溶存酸素量を1.0mg/L以下にして、前記原料分散液に前記光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射し、その後、前記原料分散液に犠牲剤を添加してさらに前記光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射することにより、前記光触媒体粒子の表面に貴金属を担持させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は貴金属担持光触媒体粒子分散液の製造方法、貴金属担持光触媒体粒子分散液、並びに、この貴金属担持光触媒体粒子分散液を用いて得られる親水化剤及び光触媒機能製品に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体にバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光を照射すると、価電子帯の電子が伝導帯に励起され、価電子帯に正孔が生成する。このようにして生成した正孔は強い酸化力を有し、励起した電子は強い還元力を有することから、半導体に接触した物質に酸化還元作用を及ぼす。この酸化還元作用によりOHラジカルをはじめとする活性酸素種が生成し、有機物等を分解することができる。このような作用を示し得る半導体を光触媒体と呼んでおり、光触媒体として酸化タングステンが知られている。酸化タングステンは蛍光灯の照明下で高い光触媒作用を示す光触媒体である。
【0003】
粒子状の光触媒体である光触媒体粒子に貴金属を担持することにより、光触媒活性を高めた貴金属担持光触媒体粒子が知られており、その製造方法として、光触媒体粒子が分散した分散媒中に貴金属の前駆体を溶解して得られた原料分散液に、そのpHを調整することなく、犠牲剤存在下で光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射し、貴金属担持光触媒体粒子を得ることが知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「Solar Energy Materials and Solar Cells」、1998年、第51巻、第2号、p.203-209
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、かかる従来の製造方法で得られる貴金属担持光触媒体粒子は、分散媒中で沈降しやすく、貴金属担持光触媒体粒子の分散安定性に優れた貴金属担持光触媒体粒子分散液を得ることは難しいため、工業的に製造する場合に取り扱いが面倒であった。さらに、該貴金属担持光触媒体粒子は、可視光照射下でのOHラジカルの生成量が少ない為に十分な光触媒活性を示さなかった。
【0006】
このため、分散安定性に優れ、高い光触媒活性を示す光触媒体粒子分散液が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者らは、分散安定性に優れ、高い光触媒活性を示す光触媒体粒子分散液を開発すべく鋭意検討した結果、光触媒体粒子、分散媒、貴金属の前駆体を含む原料分散液のpHを2.8〜5.5の範囲に調整し、さらに原料分散液中の溶存酸素量を1.0mg/L以下にして、前記原料分散液に前記光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射し、その後、前記原料分散液に犠牲剤を添加してさらに前記光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射することにより、前記光触媒体粒子の表面に貴金属を担持させ、このようにして得られた貴金属担持光触媒体粒子分散液は、分散安定性に優れ、高い光触媒活性を示すことを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)光触媒体粒子の表面に貴金属が担持された貴金属担持光触媒体粒子が分散媒中に分散した貴金属担持光触媒体粒子分散液を製造する方法であり、前記分散媒中に前記光触媒体粒子が分散し、前記貴金属の前駆体が溶解した原料分散液のpHを2.8〜5.5の範囲に調整し、さらに前記原料分散液中の溶存酸素量を1.0mg/L以下にして、前記原料分散液に前記光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射し、その後、前記原料分散液に犠牲剤を添加してさらに前記光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射することにより、前記光触媒体粒子の表面に貴金属を担持させることを特徴とする貴金属担持光触媒体粒子分散液の製造方法。
(2)前記貴金属がCu、Pt、Au、Pd、Ag、Ru、Ir及びRhから選ばれる少なくとも1種類の貴金属である前記(1)に記載の貴金属担持光触媒体粒子分散液の製造方法。
(3)前記光触媒体粒子が酸化タングステンである前記(1)または(2)に記載の貴金属担持光触媒体粒子分散液の製造方法。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の貴金属担持光触媒体粒子分散液の製造方法で得られる貴金属担持光触媒体粒子分散液。
(5)光触媒体粒子100質量部に対して、貴金属原子を0.01質量部〜1質量部含有し、照度20000ルクスの白色発光ダイオードを光源とする可視光照射を20分間行うことにより、貴金属担持光触媒体粒子1g当たり7.5×1017個以上のOHラジカルを生成する前記(4)に記載の貴金属担持光触媒体粒子分散液。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、蛍光灯に含まれる可視光等の実用光源下で高い光触媒活性を発現し、分散安定性に優れた貴金属担持光触媒体粒子分散液を製造することができる。そのため、工業的に製造する場合に取り扱いが容易である。さらに、本発明によれば、優れた親水性を維持することができる親水化剤を提供することができる。また、本発明によれば、基材上に均一な膜質の光触媒体層を形成することができ、しかもこの光触媒体層は高い光触媒活性を示す光触媒機能製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例2の可視光照射下における親水性の経時変化を示すグラフである。
【図2】実施例3の可視光照射下における親水性の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の貴金属担持光触媒体粒子分散液の製造方法は、分散媒、光触媒体粒子および貴金属の前駆体を含む原料分散液中のpHおよび溶存酸素量を所定の範囲に調整して、該原料分散液に所定のエネルギーを有する光を照射し、その後、該原料分散液に犠牲剤を添加して、さらに光触媒体粒子の所定のエネルギーを有する光を照射することにより、高い光触媒活性を示し、かつ光触媒体粒子の表面に貴金属が担持された貴金属担持光触媒体粒子が分散媒中で沈降することのない安定な分散性を有する貴金属担持光触媒体粒子分散液を製造するものである。
【0012】
(光触媒体粒子)
本発明で使用する光触媒体粒子とは、粒子状の光触媒体をいう。光触媒体としては、金属元素と酸素、窒素、硫黄および弗素などとの化合物が挙げられる。金属元素としては、例えば、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pd、Bi、La、Ceなどが挙げられる。その化合物としては、これら金属元素の1種類または2種類以上の酸化物、窒化物、硫化物、酸窒化物、酸硫化物、窒弗化物、酸弗化物、酸窒弗化物などが挙げられる。なかでも、酸化タングステンは、可視光線(波長約400nm〜約800nm)を照射したとき、高い光触媒活性を示すことから、本発明に好適である。
【0013】
この光触媒体粒子の大きさは通常、平均分散粒子径が40nm〜250nmである。粒子径は小さいほど分散媒中での分散安定性は向上し、光触媒体粒子の沈降を抑制することが出来るので好ましく、例えば150nm以下が好ましい。
【0014】
かかる光触媒体粒子のうちで、酸化タングステン粒子は、例えばタングステン酸塩の水溶液に酸を加えることにより、沈殿物としてタングステン酸を得、得られたタングステン酸を焼成する方法により得ることができる。また、メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウムを加熱することにより熱分解する方法により得ることもできる。
【0015】
(分散媒)
分散媒としては通常、水を主成分とする水性媒体、具体的には水の含有量が分散媒全質量に対して50質量%以上のものが用いられる。分散媒の使用量は、光触媒体粒子に対して、通常3質量倍〜200質量倍である。分散媒の使用量が3質量倍未満では光触媒体粒子が沈降し易くなり、200質量倍を超えると容積効率の点で不利である。
【0016】
(貴金属の前駆体)
本発明で使用する貴金属の前駆体としては、分散媒中に溶解し得るものが使用される。かかる前駆体が溶解すると、これを構成する貴金属元素は通常、プラスの電荷を帯びた貴金属イオンとなって、分散媒中に存在する。そして、この貴金属イオンが、光の照射による光触媒体粒子の光触媒作用により0価の貴金属に還元されて、光触媒体粒子の表面に担持される。
貴金属としては、例えばCu、Pt、Au、Pd、Ag、Ru、IrおよびRhが挙げられる。その前駆体としては、これら貴金属の水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、有機酸塩、炭酸塩、リン酸塩などが挙げられる。これらの中でも高い光触媒活性を得る点から、貴金属は、Cu、Pt、Au、Pdが好ましい。
【0017】
Cuの前駆体としては、例えば、硝酸銅(Cu(NO3)2)、硫酸銅(CuSO4)、塩化銅(CuCl2、CuCl)、臭化銅(CuBr2,CuBr)、沃化銅(CuI)、沃素酸銅(CuI26)、塩化アンモニウム銅(Cu(NH4)2Cl4)、オキシ塩化銅(Cu2Cl(OH)3)、酢酸銅(CH3COOCu、(CH3COO)2Cu)、蟻酸銅((HCOO)2Cu)、炭酸銅(CuCO3)、蓚酸銅(CuC24)、クエン酸銅(Cu2647)、リン酸銅(CuPO4)などが挙げられる。
【0018】
Ptの前駆体としては、例えば、塩化白金(PtCl2、PtCl4)、臭化白金(PtBr2、PtBr4)、沃化白金(PtI2、PtI4)、塩化白金カリウム(K2(PtCl4))、ヘキサクロロ白金酸(H2PtCl6)、亜硫酸白金(H3Pt(SO3)2OH)、塩化テトラアンミン白金(Pt(NH3)4Cl2)、炭酸水素テトラアンミン白金(C21446Pt)、テトラアンミン白金リン酸水素(Pt(NH3)4HPO4)、水酸化テトラアンミン白金(Pt(NH3)4(OH)2)、硝酸テトラアンミン白金(Pt(NO3)2(NH3)4)、テトラアンミン白金テトラクロロ白金((Pt(NH3)4)(PtCl4))、ジニトロジアミン白金(Pt(NO2)2(NH32)などが挙げられる。
【0019】
Auの前駆体としては、例えば、塩化金(AuCl)、臭化金(AuBr)、沃化金(AuI)、水酸化金(Au(OH)2)、テトラクロロ金酸(HAuCl4)、テトラクロロ金酸カリウム(KAuCl4)、テトラブロモ金酸カリウム(KAuBr4)などが挙げられる。
【0020】
Pdの前駆体としては、例えば、酢酸パラジウム((CH3COO)2Pd)、塩化パラジウム(PdCl2)、臭化パラジウム(PdBr2)、沃化パラジウム(PdI2)、水酸化パラジウム(Pd(OH)2)、硝酸パラジウム(Pd(NO3)2)、硫酸パラジウム(PdSO4)、テトラクロロパラジウム酸カリウム(K2(PdCl4))、テトラブロモパラジウム酸カリウム(K2(PdBr4))、テトラアンミンパラジウム塩化物(Pd(NH34Cl2)、テトラアンミンパラジウム臭化物(Pd(NH34Br2)、テトラアンミンパラジウム硝酸塩(Pd(NH34(NO32)、テトラアンミンパラジウムテトラクロロパラジウム酸((Pd(NH34)(PdCl4))、テトラクロロパラジウム酸アンモニウム((NH42PdCl4)等が挙げられる。
【0021】
貴金属の前駆体は、それぞれ単独で、または2種類以上を組み合わせて使用される。その使用量は、貴金属原子に換算して、光触媒体粒子の使用量100質量部に対して、光触媒作用の向上効果が十分に得られる点で通常0.01質量部以上、コストに見合った効果が得られる点で通常1質量部以下であり、好ましくは0.05質量部〜0.6質量部である。
【0022】
(原料分散液)
本発明では、分散媒中に前記光触媒体粒子が分散され、前記貴金属の前駆体が溶解した原料分散液を用いる。
原料分散液は、分散媒中に光触媒体粒子を分散させて調製すればよい。光触媒体粒子を分散媒に分散させる際には湿式媒体撹拌ミルなどの公知の装置で分散処理を施すことが好ましい。
原料分散液を調製する際の、光触媒体粒子、貴金属の前駆体及び分散媒の混合順序は、特に制限されず、例えば、分散媒に光触媒体粒子を添加し、前述した分散処理をした後に、貴金属の前駆体を添加してもよいし、分散媒に光触媒体粒子および貴金属の前駆体を添加した後に前述した分散処理を行なってもよい。必要に応じて撹拌しながら行ってもよいし、加熱しながら行ってもよい。
【0023】
(犠牲剤)
本発明では、原料分散液に所定のエネルギーを有する光を照射した後に、犠牲剤を原料分散液に添加する。
犠牲剤としては、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール等のアルコール、アセトン等のケトン、蓚酸等のカルボン酸などが用いられる。犠牲剤が固体の場合、この犠牲剤を適当な溶媒に溶解して用いてもよいし、固体のまま用いてもよい。尚、犠牲剤は、原料分散液に一定時間光照射を行った後に添加し、さらに光照射を行う。
犠牲剤の量は分散媒に対して、通常0.001質量倍〜0.3質量倍、好ましくは0.005質量倍〜0.1質量倍である。犠牲剤の使用量が0.001質量倍未満では光触媒体粒子への貴金属の担持が不十分となり、0.3質量倍を超えると犠牲剤の量が過剰量となりコストに見合う効果が得られない。
【0024】
(光の照射)
本発明では、かかる原料分散液に光を照射する。原料分散液への光の照射は、撹拌しながら行ってもよい。透明なガラスやプラスチック製の管内を通過させながら管の内外から照射してもよく、これを繰り返してもよい。
光源としては、光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射できるものであれば特に制限はなく、具体例としては、殺菌灯、水銀灯、発光ダイオード、蛍光灯、ハロゲンランプ、キセノンランプ、太陽光などを用いることができる。
照射する光の波長は、光触媒体粒子によって適宜調整すればよく、通常、180nm〜500nmである。光照射を行う時間は、十分な量の貴金属を担持できることから、犠牲剤の添加前後において、通常20分以上、好ましくは1時間以上、通常24時間以下、好ましくは6時間以下である。24時間を越える場合、それまでに貴金属の前駆体の殆どは貴金属となって光触媒体粒子に担持されてしまい、光照射にかかるコストに見合う効果が得られない。また、犠牲剤の添加前に光照射を行わない場合、光触媒体粒子への貴金属の担持が不均一となり、高い光触媒活性が得られない。
【0025】
(pH調整)
本発明では、原料分散液のpHを2.8〜5.5、好ましくは3.0〜5.0に維持しながら光照射を行う。pHが2.8未満であると、光触媒体粒子が凝集して分散安定性が悪くなり、pHが5.5を越えると、例えば光触媒体粒子が酸化タングステンの場合、徐々に溶解していき、光触媒活性が損なわれることがある。
通常、光照射により貴金属が光触媒体粒子の表面に担持される際には原料分散液のpHが酸性に除々に変化するので、pHを本発明で規定する範囲内に維持するため、通常塩基を添加すればよい。これにより分散安定性に優れる貴金属担持光触媒体粒子分散液が得られる。
塩基としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化ランタン等の水溶液が挙げられるが、これらの中でもアンモニア水および水酸化ナトリウムを用いるのが好ましい。
【0026】
(溶存酸素量)
本発明では、原料分散液への光照射前もしくは光照射中に、原料分散液中の溶存酸素量を1.0mg/L以下、好ましくは0.7mg/L以下に調整する。溶存酸素量の調整は、例えば、原料分散液に酸素を含まないガスを吹き込むことにより行うことができ、前記ガスとしては、例えば、窒素、および希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン等)などがあげられる。溶存酸素量が1.0mg/Lを越える場合、貴金属の前駆体の担持のほかに、溶存酸素の還元反応が起こり、貴金属の担持が不均一となり、高い光触媒活性が得られない。
【0027】
(貴金属担持光触媒体粒子)
かくして原料分散液のpHを調整しながら、溶存酸素量を所定値以下にして、原料分散液に光照射を行い、犠牲剤添加後、さらに光を照射することにより、貴金属前駆体が貴金属となって光触媒体粒子の表面に担持されて、目的の貴金属担持光触媒体粒子を得ることができる。この貴金属担持光触媒体粒子は用いた分散媒中に、沈降することなく分散されている。
【0028】
(貴金属担持光触媒体粒子分散液)
この貴金属担持光触媒体粒子が分散された貴金属担持光触媒体粒子分散液は、貴金属担持光触媒体粒子の分散安定性に優れているため取り扱いやすく、しかも高い光触媒活性を発現する。
【0029】
(ラジカル生成量)
本発明の貴金属担持光触媒体粒子分散液は、可視光照射、例えば、照度20000ルクスの白色発光ダイオードを光源とする可視光照射を20分間行うことにより、貴金属担持光触媒体粒子1g当たり7.5×1017個以上、好ましくは7.8×1017個以上のOHラジカルを生成する。OHラジカルの生成量が7.5×1017個未満の場合、可視光照射下で高い光触媒活性が得られないことがある。また、白色発光ダイオードを光源とすることで、可視光線(波長約400nm〜約800nm)のみを貴金属担持光触媒体粒子分散液に照射することができる。
【0030】
本発明において、ラジカル生成量は、ラジカル捕捉剤であるDMPO(5,5-dimethyl-1-pyrroline-N-oxide)の存在下で貴金属担持光触媒体粒子分散液に可視光線を照射した後、ESRスペクトルを測定し、次いで、得られたスペクトルについてシグナルの面積値を求め、この面積値から算出する。
【0031】
ラジカル数の算出に際して、可視光線の照射は室温大気下で、白色発光ダイオードを光源とし、照度20000ルクスにて20分間行われる。
【0032】
ESRスペクトルの測定は、貴金属担持光触媒体粒子分散液に可視光線を20分間照射した後、5分以内に、「EMX‐Plus」(BRUKER製)を用いて、照度500ルクス未満の蛍光灯の光が室内光として当たった状態で行われる。
尚、ESRスペクトルの測定条件は、温度:室温、圧力:大気圧、Microwave Frequncy:9.86GHz、Microwave Power:3.99mW、Center Field:3515G、Sweep Width:100G、Conv. Time:20.00mSec、Time Const.:40.96ms、Resolution:6000、Mod.Amplitude:2G、Number of Scans:1、測定領域:2.5cm、磁場公正:テスラメーター使用である。
【0033】
ラジカル数の算出に際して、DMPOのOHラジカル付加体であるDMPO‐OHのESRスペクトルとラジカル数が既知の物質のESRスペクトルとを対比して行う。
【0034】
具体的には、以下の(1)〜(7)の手順で行う。
【0035】
前記DMPO‐OHの数を算出するため、まずESRスペクトルから求められる面積とラジカル種の数の関係式を以下の手順で求める。ラジカル数が既知の物質として、4-hydroxy-TEMPOを用いる。
(1)4-hydroxy-TEMPO(4-Hydroxy-2,2,6,6-tetramethyl-piperidine-1-oxyl)(純度98%)0.17621gを100mLの水に溶解する。得られた液を水溶液Aとする。水溶液Aの濃度は10mMである。
(2)水溶液Aを1mL取り、そこに水を加えて100mLにする。得られた液を水溶液Bとする。水溶液Bの濃度は0.1mMである。
(3)水溶液Bを1mL取り、そこに水を加えて100mLにする。得られた液を水溶液Cとする。水溶液Cの濃度は0.001mMである。
(4)水溶液Bを1mL取り、そこに水を加えて50mLにする。得られた液を水溶液Dとする。水溶液Dの濃度は0.002mMである。
(5)水溶液Bを3mL取り、そこに水を加えて100mLにする。得られた液を水溶液Eとする。水溶液Eの濃度は0.003mMである。
(6)水溶液C、D、Eの各液をフラットセルに充填し、ESRスペクトルの測定を行う。得られる3本のピーク(面積比1:1:1)の低磁場側の1本の面積を求め、これを3倍したものを4-hydroxy-TEMPOの各濃度における面積とする。尚、ピークの面積は、ESRスペクトル(微分形)を積分形に変換して求める。
(7)4-hydroxy-TEMPOは1分子当たりラジカルを1つ有することから、水溶液C〜Eに含まれる4-hydroxy-TEMPOのラジカル数を算出し、これと前記ESRスペクトルから求めた面積を用いて1次線形近似式を得ることができる。
【0036】
次に、DMPO‐OHのESRスペクトルと、既知濃度の4-hydroxy-TEMPOを用いて算出した前記1次線形近似式から、白色発光ダイオード照射後のOHラジカルの数y1を算出する。さらに、光照射前の貴金属担持光触媒体粒子分散液に含まれるOHラジカル数y2も同様に算出し、これらの差(y1−y2)が白色発光ダイオードの照射により生成したOHラジカルの数である。
【0037】
本発明の貴金属担持光触媒体粒子分散液は、本発明の効果を損なわない範囲で公知の各種添加剤を含んでいてもよい。
添加剤としては、例えば、非晶質シリカ、シリカゾル、水ガラス、アルコキシシラン、オルガノポリシロキサンなどのケイ素化合物、非晶質アルミナ、アルミナゾル、水酸化アルミニウムなどのアルミニウム化合物、ゼオライト、カオリナイトなどのアルミノケイ酸塩、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウムなどのアルカリ土類金属酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属水酸化物、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Os、Ir、Ag、Zn、Cd、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Bi、La、Ceなどの金属元素の水酸化物や酸化物、リン酸カルシウム、モレキュラーシーブ、活性炭、有機ポリシロキサン化合物の重縮合物、リン酸塩、フッ素系ポリマー、シリコン系ポリマー、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂などが挙げられる。これらの添加剤を添加して用いる場合、それぞれ単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
前記添加剤は、本発明の貴金属担持光触媒体粒子分散液を用いて基材の表面に光触媒体層を形成する際に、光触媒体粒子をより強固に基材の表面に保持させるためのバインダー等に用いることもできる(例えば、特開平8−67835号公報、特開平9−25437号公報、特開平10―183061号公報、特開平10―183062号公報、特開平10―168349号公報、特開平10―225658号公報、特開平11―1620号公報、特開平11―1661号公報、特開2002−80829号公報、特開2004―059686号公報、特開2004―107381号公報、特開2004―256590号公報、特開2004―359902号公報、特開2005―113028号公報、特開2005―230661号公報、特開2007―161824号公報、国際公開第96/029375号、国際公開第97/000134号、国際公開第98/003607号など参照)。
【0039】
(親水化剤)
本発明の親水化剤は、貴金属担持光触媒体粒子分散液からなり、この親水化剤から得られる塗膜は、蛍光灯中の可視光を照射することにより水に対する濡れ性が向上し、親水性を示す。具体的には、可視光を照射することにより塗膜上に付着した水は、水滴を形成せずに薄い水膜となり、水膜への入射光が乱反射しないために曇らない。さらに、塗膜上に疎水性有機物が付着した場合でも、可視光を照射することにより、生成するOHラジカルにより疎水性有機物が分解し、塗膜上の親水性は回復・維持される。
【0040】
(光触媒機能製品)
本発明の光触媒機能製品は、貴金属担持光触媒体粒子分散液または親水化剤を用いて形成された光触媒体層を表面に備えるものである。ここで、光触媒体層は、例えば、本発明の貴金属担持光触媒体粒子分散液または親水化剤を基材(製品)の表面に塗布した後に、分散媒を揮発させるなど、従来公知の成膜方法によって形成することができる。光触媒体層の膜厚は、特に制限されるものではなく、通常、その用途等に応じて、数百nm〜数mmまで適宜設定すればよい。光触媒体層は、基材(製品)の内表面または外表面であれば、どの部分に形成されていてもよいが、例えば、光(可視光線)が照射される面であって、かつ悪臭物質が発生する箇所や、病原菌が存在する箇所と連続または断続して空間的につながる面に形成されていることが好ましい。
なお、基材(製品)の材質は、形成される光触媒体層を実用に耐えうる強度で保持できる限り、特に制限されるものではなく、例えば、プラスチック、金属、セラミックス、木材、コンクリート、紙など、あらゆる材料からなる製品を対象にすることができる。尚、光触媒作用による光触媒体層と基材の密着性の劣化を抑制するために、光触媒体層と基材の間に、例えばシリカ成分等からなる公知のバリア層を形成することができる。
【0041】
前記プラスチックとしては、熱硬化性樹脂の場合には、例えば、アラミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、シリコーン樹脂、メラミンユリア樹脂などがあげられる。
また、前記プラスチックとしては、熱可塑性樹脂の場合には、例えば、縮重合系樹脂やビニルモノマーを重合して得られる樹脂などがあげられる。
【0042】
縮重合系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、生分解性ポリエステル、ポリエステル系液晶ポリマーなどのポリエステル系樹脂;エチレンジアミン−アジピン酸重縮合体(ナイロン−66)、ナイロン−6、ナイロン−12、ポリアミド系液晶ポリマーなどのポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキシド、ポリメチレンオキシド、アセタール樹脂などのポリエーテル系樹脂;セルロースおよびその誘導体などの多糖類系樹脂;などがあげられる。
【0043】
ビニルモノマーを重合して得られる樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン、ポリ−α−メチルスチレン、スチレン−エチレン−プロピレン共重合体(ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック共重合体)、スチレン−エチレン−ブテン共重合体(ポリスチレン−ポリ(エチレン/ブテン)ブロック共重合体)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)−ポリスチレンブロック共重合体)、エチレン−スチレン共重合体などの不飽和芳香族含有樹脂;ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアルコール系樹脂;ポリメチルメタクリレート、モノマーとしてメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、メタクリル酸アミド、アクリル酸アミドを含むアクリル系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどの塩素系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系樹脂;などがあげられる。
【0044】
本発明の光触媒機能製品は、屋外においては勿論のこと、蛍光灯、ナトリウムランプ、および白色発光ダイオードのような可視光源からの光しか受けない屋内環境においても、光照射によって高い光触媒作用を示す。したがって、本発明の貴金属担持光触媒体粒子分散液を、例えば、天井材、タイル、ガラス、壁紙、壁材、床等の建築資材、自動車内装材(自動車インストルメントパネル、自動車用シート、自動車用天井材)、冷蔵庫やエアコン等の家電製品、衣類やカーテン等の繊維製品、電車のつり革、エレベーターのボタン等、不特定多数の人が接触する基材表面などに塗布して乾燥させると、屋内照明による光照射によって、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどの揮発性有機物、アルデヒド類、メルカプタン類、アンモニアなどの悪臭物質、窒素酸化物の濃度を低減させ、黄色ブドウ球菌、大腸菌、炭疽菌、結核菌、コレラ菌、ジフテリア菌、破傷風菌、ペスト菌、赤痢菌、ボツリヌス菌、およびレジオネラ菌等の病原菌等を死滅、分解、除去することができ、さらに、ダニアレルゲンやスギ花粉アレルゲン等のアレルゲンを無害化することができる。また、本発明の光触媒機能製品は、紫外線はもとより、少なくとも可視光線を照射すれば、充分な親水性を発揮し、防曇性を発現するだけでなく、汚れに水をかけるだけで容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されるものではない。
【0046】
なお、各実施例における測定法は、以下の通りである。
【0047】
1.BET比表面積
光触媒体粒子のBET比表面積は、比表面積測定装置(湯浅アイオニクス(株)の製「モノソーブ」)を用い、窒素吸着法により測定した。
【0048】
2.平均分散粒子径(nm)
サブミクロン粒度分布測定装置(コールター社製の「N4Plus」)を用いて粒度分布を測定し、この装置に付属のソフトで自動的に単分散モード解析して得られた結果を平均分散粒子径とした。
【0049】
3.結晶型
X線回折装置(リガク社製の「RINT2000/PC」)を用いてX線回折スペクトルを測定し、そのスペクトルから結晶型を決定した。
【0050】
4.溶存酸素量
原料分散液の溶存酸素量は、溶存酸素計((株)堀場製作所製の「OM−51」)を用いて測定した。
【0051】
5.OHラジカルの生成量の測定
OHラジカルの生成量の測定
サンプル管(容量:13.5mL,内径:2cm,高さ:6.5cm(内溶液充填可能部高さ:5.5cm))に、攪拌子と水で濃度0.1質量%に調整した貴金属担持光触媒体粒子分散液2mL(貴金属担持光触媒体粒子2mg含有)を入れ、さらに濃度が100mMとなるようにDMPO(純度97%)23μLを入れた。その後、スターラーで攪拌後、上澄みをフラットセルに注入してESR測定を行った。これを光照射0分の試料とした。
次に、前記サンプル管の上部から白色発光ダイオード(東芝ライテック(株)製のLEDベッド灯「LEDA‐21002W‐LS1」(白色相当))で光照射を20分間行った。サンプル管内の液面での照度は20000ルクス(ミノルタ社製の照度計「T−10」で測定)であった。その後、上澄みをフラットセルに取り、生成したDMPO‐OH付加体のESR測定を行った。光照射0分と20分のDMPO‐OH付加体の数から可視光照射で生成したOHラジカルの数を算出し、これと貴金属担持光触媒体粒子の重量(2mg)から、貴金属担持光触媒体粒子1g当たりのOHラジカルの生成量を求めた。
【0052】
6.アセトアルデヒド分解能の測定
光触媒活性は、蛍光灯の光の照射下でのアセトアルデヒドの分解反応における一次反応速度定数を測定することにより評価した。すなわち、ガラス製シャーレ(外径70mm、内径66mm、高さ14mm、容量約48mL)に、得られた貴金属担持光触媒体粒子分散液を底面の単位面積あたりの固形分換算の滴下量が1g/m2となるように滴下し、シャーレの底面全体に均一に形成した。次いで、このシャーレを110℃の乾燥機内で大気中で1時間保持することにより乾燥させて、ガラス製シャーレの底面に光触媒体層を形成した。この光触媒体層に紫外線強度が2mW/cm2(トプコン社製の紫外線強度計「UVR−2」に同社製受光部「UD−36」を取り付けて測定)となるようにブラックライトからの紫外線を16時間照射して、これを光触媒活性測定用試料とした。
【0053】
次に、この光触媒活性測定用試料をシャーレごとガスバッグ(内容積1L)の中に入れて密閉し、次いで、このガスバッグ内を真空にした後、酸素と窒素との体積比が1:4である混合ガス0.6Lを封入し、さらにその中に1%アセトアルデヒドを含む窒素ガス3mLを封入して、暗所で室温下1時間保持した。その後、市販の白色蛍光灯を光源とし、アクリル樹脂板(日東樹脂工業(株)製の「N169」)を通して、測定用試料近傍での照度が1000ルクス(ミノルタ社製の照度計「T−10」で測定)となるようにガスバッグの外から可視光を照射し、アセトアルデヒドの分解反応を行った。蛍光灯の光照射を開始してから1.5時間毎にガスバッグ内のガスをサンプリングし、アセトアルデヒドの濃度をガスクロマトグラフ((株)島津製作所製の「GC−14A」)にて測定した。そして照射時間に対するアセトアルデヒドの濃度から一次反応速度定数を算出し、これをアセトアルデヒド分解能として評価した。この一次反応速度定数が大きいほど、アセトアルデヒドの分解能、すなわち光触媒活性が高いと言える。
【0054】
7.親水性能の評価
貴金属担持光触媒体粒子分散液を、縦80mm、横80mm、厚さ3mmの十分に脱脂したガラス板上に塗布し、スピンコーター(ミカサ製の「1H−D3」)を用いて、300rpmで180秒間、次いで3000rpmで10秒間回転させることにより過剰に塗布された分散液を取り除き、その後、130℃で15分間乾燥して、試験片を作製した。
【0055】
試験片の塗膜の上から、市販のブラックライトを光源として、室温、大気中で、一晩紫外線を照射した。このとき、塗膜近傍での紫外線強度が約2mW/cm2(トプコン社製の紫外線強度計「UVR−2」に、同社製受光部「UD−36」を取り付けて測定)となるようにした。
【0056】
次いで、紫外線照射後の試験片に、市販の白色蛍光灯を光源とし、アクリル樹脂板(日東樹脂工業(株)製の「N113」)を通して、試験片に塗膜の上から、蛍光灯に含まれる可視光が照射されるようにして行い、所定時間経過後の水滴の接触角θを接触角計(協和界面科学(株)製の「CA−A型」)を用いて測定した。水滴の接触角θの測定は、いずれの場合も、水滴(約0.4μL)を試験片の塗膜上に設置してから5秒後に行なった。なお、可視光の照射は、このとき、塗膜近傍での照度が1000ルクス(ミノルタ社製の照度計「T−10」で測定)となるようにした。
【0057】
8.疎水性有機物付着時の親水性能の評価
前述した親水性能の評価と同様にして試験片を作成し、得られた試験片の塗膜の上から、市販のブラックライトを光源として、室温、大気中で、一晩紫外線を照射した。このとき、塗膜近傍での紫外線強度が約2mW/cm2(トプコン社製の紫外線強度計「UVR−2」に、同社製受光部「UD−36」を取り付けて測定)となるようにした。
【0058】
次いで、オレイン酸の濃度が0.1容量%のn−ヘプタンを、試験片にディップコーター((株)SDI製の「DT−0303−S1」)で塗布した後、70℃で15分乾燥した。ディップコーターの引き上げ速度は10mm/秒で、浸漬時間は10秒であった。その後、このオレイン酸を塗布した試験片に、市販の白色蛍光灯を光源とし、アクリル樹脂板(日東樹脂工業(株)製の「N113」)を通して、試験片に塗膜の上から、蛍光灯に含まれる可視光が照射されるようにして行い、所定時間経過後の水滴の接触角θを接触角計(協和界面科学(株)製の「CA−A型」)を用いて測定した。水滴の接触角θの測定は、いずれの場合も、水滴(約0.4μL)を試験片の塗膜上に設置してから5秒後に行なった。なお、可視光の照射は、このとき、塗膜近傍での照度が1000ルクス(ミノルタ社製の照度計「T−10」で測定)となるようにした。
【0059】
(実施例1)
分散媒としてイオン交換水4kgに、酸化タングステン粒子(日本無機化学工業(株)製)1kgを加えて混合して混合物を得た。この混合物を湿式媒体撹拌ミル(コトブキ技研工業(株)製の「ウルトラアペックスミル UAM−1」)を用いて下記の条件で分散処理して酸化タングステン粒子分散液を得た。
【0060】
粉砕メディア:直径0.05mmのジルコニア製ビーズ1.85kg
撹拌速度 :周速12.6m/秒
流速 :0.25L/分
合計処理時間:約50分
【0061】
得られた酸化タングステン粒子分散液における酸化タングステン粒子の平均分散粒子径は118nmであった。また、この酸化タングステン粒子分散液の一部を真空乾燥して固形分を得たところ、得られた固形分のBET比表面積は、40m2/gであった。なお、分散処理前の混合物についても同様に真空乾燥して固形分を得、分散処理前の混合物の固形分と分散処理後の固形分について、X線回折スペクトルをそれぞれ測定して比較したところ、同じピーク形状であり、分散処理による結晶型の変化は見られなかった。この時点で、得られた酸化タングステン粒子分散液を20℃で24時間保持したところ、保管中に固液分離は見られなかった。
【0062】
この酸化タングステン粒子分散液にヘキサクロロ白金酸(H2PtCl6)の水溶液をヘキサクロロ白金酸が白金原子換算で酸化タングステン粒子の使用量100質量部に対して0.12質量部になるように加え、原料分散液としてヘキサクロロ白金酸含有酸化タングステン粒子分散液を得た。この原料分散液100質量部中に含まれる固形分(酸化タングステン粒子の量)は、17.6質量部(固形分濃度17.6質量%)であった。その後この原料分散液のpHは2.0であった。
【0063】
次いで、pH電極と、このpH電極に接続され、0.1質量%のアンモニア水を供給してpHを一定に調節する制御機構を有するpHコントローラ(pH=3.0に設定)と、窒素吹込み菅を備え、水中殺菌灯(三共電気(株)製の「GLD15MQ」)を設置したガラス管(内径37mm,高さ360mm)からなる光照射装置で、原料分散液1200gを、毎分1Lの速度で流通させながら、この原料分散液のpHを3.0にした。窒素の吹き込み量は毎分2Lの速度で行った。原料分散液中の溶存酸素量が0.5mg/Lになった後、引き続き窒素を吹き込み、原料分散液を流通させながら光照射(紫外線照射)を2時間行い、更にメタノールをその濃度が全溶媒の1質量%となるように加えて、窒素を吹き込み、原料分散液を流通させながら光照射を3時間行って白金担持酸化タングステン粒子分散液を得た。光照射前および光照射中に消費した0.1重量%アンモニア水の合計量は103gであった。光照射中、pHは3.0で一定であった。
【0064】
得られた白金担持酸化タングステン粒子分散液を20℃で24時間保管したところ、保管後に固液分離は見られなかった。また、この白金担持酸化タングステン粒子分散液の白色発光ダイオード照射下でのOHラジカル生成量を測定すると、白金担持酸化タングステン粒子1g当たり8.5×1017個であった。さらに、この白金担持酸化タングステン粒子分散液を用いて形成した光触媒体層の光触媒活性を評価したところ、一次反応速度定数は0.367h-1であった。
【0065】
(比較例1)
pHコントローラーによるアンモニア水の添加と、窒素の吹込みを行わない以外は、実施例1と同様に操作した。光照射前の原料分散液のpHは2.0であり、光照射後の原料分散液のpHは1.6であった。また、光照射中の原料分散液の溶存酸素量は8mg/Lであった。光照射後に得られた白金担持酸化タングステン粒子を有する混合液を20℃で24時間保管したところ、保管後に沈降物が見られた。また、この分散液の白色発光ダイオード照射下でのOHラジカル生成量を測定すると、白金担持酸化タングステン粒子1g当たり6.0×1017個であった。さらに、この白金担持酸化タングステン粒子分散液を用いて形成した光触媒体層の光触媒活性を評価したところ、一次反応速度定数は0.308h-1であった。
【0066】
(比較例2)
pHコントローラーによるアンモニア水の添加を行わない以外は、実施例1と同様に操作した。光照射前の原料分散液のpHは2.0であり、光照射後の原料分散液のpHは1.4であった。また、光照射中の原料分散液の溶存酸素量は0.5mg/Lであった。光照射後に得られた白金担持酸化タングステン粒子を有する混合液を20℃で24時間保管したところ、保管後に沈降物が見られた。また、この分散液の白色発光ダイオード照射下でのOHラジカル生成量を測定すると、白金担持酸化タングステン粒子1g当たり5.1×1017個であった。さらに、この白金担持酸化タングステン粒子分散液を用いて形成した光触媒体層の光触媒活性を評価したところ、一次反応速度定数は0.325h-1であった。
【0067】
(比較例3)
窒素の吹込みを行わない以外は、実施例1と同様に操作した。光照射中の原料分散液の溶存酸素量は8mg/Lであった。光照射中、pHは3.0で一定であった。光照射後に得られた白金担持酸化タングステン粒子を有する混合液を20℃で24時間保管したところ、保管後に沈降物は見られなかった。また、この分散液の白色発光ダイオード照射下でのOHラジカル生成量を測定すると、白金担持酸化タングステン粒子1g当たり6.9×1017個であった。さらに、この白金担持酸化タングステン粒子分散液を用いて形成した光触媒体層の光触媒活性を評価したところ、一次反応速度定数は0.299h-1であった。
【0068】
(比較例4)
メタノール添加前の光照射を行わず、添加後の光照射のみ行った以外は、実施例1と同様に操作した。光照射中の原料分散液の溶存酸素量は0.5mg/Lであった。光照射中、pHは3.0で一定であった。光照射後に得られた白金担持酸化タングステン粒子を有する混合液を20℃で24時間保管したところ、保管後に沈降物は見られなかった。また、この分散液の白色発光ダイオード照射下でのOHラジカル生成量を測定すると、白金担持酸化タングステン粒子1g当たり3.9×1017個であった。さらに、この白金担持酸化タングステン粒子分散液を用いて形成した光触媒体層の光触媒活性を評価したところ、一次反応速度定数は0.242h-1であった。
【0069】
(比較例5)
白金担持酸化タングステン粒子分散液の代わりに酸化タングステン粒子分散液(白金無担持)の分散液の白色発光ダイオード照射下でのOHラジカル生成量を測定すると、酸化タングステン粒子1g当たり3.2×1017個であった。さらに、この酸化タングステン粒子分散液を用いて形成した光触媒体層の光触媒活性を評価したところ、一次反応速度定数は0.223h-1であった。
【0070】
実施例1は、白色発光ダイオード照射下でのOHラジカルの生成量が白金担持酸化タングステン粒子1g当たり8.5×1017個と多く、しかも分散安定性に優れ、高い光触媒活性を示した。
【0071】
これに対し、比較例1、2では、OHラジカルの生成量が少なく実施例1よりも低い光触媒活性を示し、さらに固液分離が見られ分散安定性がないため、取り扱いが困難であった。また、比較例3、4では、実施例1と同様に分散安定性に優れるものの、OHラジカルの生成量が少なく実施例1よりも低い光触媒活性を示した。さらに、比較例5では、白金が担持されていない為にOHラジカルの生成量が最も少なく、光触媒活性も最も低かった。
【0072】
(実施例2)
実施例1の白金担持酸化タングステン粒子分散液を用いて形成した塗膜を有する試験片を作製し、可視光照射下における親水性の経時変化を、水滴の接触角θを測定することにより評価した。測定結果は、横軸に経過時間を、縦軸に水滴の接触角θをプロットしたグラフとして表し、図1に示した。
【0073】
(実施例3)
実施例1の白金担持酸化タングステン粒子分散液を用いて形成した塗膜を有する試験片を作製し、可視光照射下における疎水性有機物付着時の親水性の経時変化を、水滴の接触角θを測定することにより評価した。測定結果は、横軸に経過時間を、縦軸に水滴の接触角θをプロットしたグラフとして表し、図2に示した。
【0074】
図1から、実施例1の分散安定性に優れる白金担持酸化タングステン粒子分からなる塗膜は、蛍光灯中の可視光を照射することにより、水滴の接触角θが0°となり、高い親水性を示すことがわかった。さらに、この塗膜は、図2から、疎水性有機物であるオレイン酸やn−ヘプタンを分解し、水滴の接触角θが0°となり、高い親水性を示すことがわかった。
【0075】
(参考例1)
実施例1で得た貴金属担持光触媒体粒子分散液を、天井を構成する天井材の表面に塗布し乾燥させることにより、天井材の表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により屋内空間における揮発性有機物(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、トルエン等)や悪臭物質の濃度を低減することができ、黄色ブドウ球菌や大腸菌等の病原菌を死滅させることができ、また、ダニアレルゲンやスギ花粉アレルゲン等のアレルゲンを無害化することもできる。さらに、天井材の表面が親水化し、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【0076】
(参考例2)
実施例1で得た貴金属担持光触媒体粒子分散液を、屋内の壁面に施工されたタイルに塗布し乾燥させることにより、タイル表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により屋内空間における揮発性有機物(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、トルエン等)や悪臭物質の濃度を低減することができ、黄色ブドウ球菌や大腸菌等の病原菌を死滅させることもでき、また、ダニアレルゲンやスギ花粉アレルゲン等のアレルゲンを無害化することもできる。さらに、タイルの表面が親水化し、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【0077】
(参考例3)
実施例1で得た貴金属担持光触媒体粒子分散液を、窓ガラスの屋内側表面に塗布し乾燥させることにより、ガラス表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により屋内空間における揮発性有機物(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、トルエン等)や悪臭物質の濃度を低減することができ、黄色ブドウ球菌や大腸菌等の病原菌を死滅させることもでき、また、ダニアレルゲンやスギ花粉アレルゲン等のアレルゲンを無害化することもできる。さらに、窓ガラスの表面が親水化し、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【0078】
(参考例4)
実施例1で得た貴金属担持光触媒体粒子分散液を、壁紙に塗布し乾燥させることにより、壁紙の表面に光触媒体層を形成することができ、さらにこの壁紙を屋内の壁面に施工することによって、屋内照明による光照射により屋内空間における揮発性有機物(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、トルエン等)や悪臭物質の濃度を低減することができ、黄色ブドウ球菌や大腸菌等の病原菌を死滅させることもでき、また、ダニアレルゲンやスギ花粉アレルゲン等のアレルゲンを無害化することもできる。さらに、壁紙の表面が親水化し、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【0079】
(参考例5)
実施例1で得た貴金属担持光触媒体粒子分散液を、屋内の床面に塗布し乾燥させることにより、床面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により屋内空間における揮発性有機物(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、トルエン等)や悪臭物質の濃度を低減することができ、黄色ブドウ球菌や大腸菌等の病原菌を死滅させることもでき、また、ダニアレルゲンやスギ花粉アレルゲン等のアレルゲンを無害化することもできる。さらに、床面の表面が親水化し、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【0080】
(参考例6)
実施例1で得た貴金属担持光触媒体粒子分散液を、自動車用インストルメントパネル、自動車用シート、自動車の天井材、自動車用ガラスの車内側などの自動車内装材の表面に塗布し乾燥させることにより、これら自動車内装材の表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、車内照明による光照射により車内空間における揮発性有機物(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、トルエン等)や悪臭物質の濃度を低減することができ、黄色ブドウ球菌や大腸菌等の病原菌を死滅させることもでき、また、ダニアレルゲンやスギ花粉アレルゲン等のアレルゲンを無害化することもできる。さらに、自動車内装材の表面が親水化し、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【0081】
(参考例7)
実施例1で得た貴金属担持光触媒体粒子分散液を、エアコンの表面に塗布し乾燥させることにより、エアコンの表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により屋内空間における揮発性有機物(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、トルエン等)や悪臭物質の濃度を低減することができ、黄色ブドウ球菌や大腸菌等の病原菌を死滅させることもでき、また、ダニアレルゲンやスギ花粉アレルゲン等のアレルゲンを無害化することもできる。さらに、エアコンの表面が親水化し、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【0082】
(参考例8)
実施例1で得た貴金属担持光触媒体粒子分散液を、冷蔵庫の庫内に塗布し乾燥させることにより、冷蔵庫内に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明や冷蔵庫内の光源による光照射により冷蔵庫内における揮発性有機物(例えば、エチレン等)や悪臭物質の濃度を低減することができ、黄色ブドウ球菌や大腸菌等の病原菌を死滅させることもでき、また、ダニアレルゲンやスギ花粉アレルゲン等のアレルゲンを無害化することもできる。さらに、冷蔵庫の庫内の表面が親水化し、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。
【0083】
(参考例9)
実施例1で得た貴金属担持光触媒体粒子分散液を、電車のつり革、エレベーターのボタン等、不特定多数の人が接触する基材表面に塗布し乾燥させることにより、これら基材表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により屋内空間における揮発性有機物(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、トルエン等)や悪臭物質の濃度を低減することができ、黄色ブドウ球菌や大腸菌等の病原菌を死滅させることもでき、また、ダニアレルゲンやスギ花粉アレルゲン等のアレルゲンを無害化することもできる。さらに、基材表面が親水化し、汚れを容易に拭き取ることができるようになり、さらに帯電をも防止できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒体粒子の表面に貴金属が担持された貴金属担持光触媒体粒子が分散媒中に分散した貴金属担持光触媒体粒子分散液を製造する方法であり、
前記分散媒中に前記光触媒体粒子が分散し、前記貴金属の前駆体が溶解した原料分散液のpHを2.8〜5.5の範囲に調整し、さらに前記原料分散液中の溶存酸素量を1.0mg/L以下にして、
前記原料分散液に前記光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射し、その後、前記原料分散液に犠牲剤を添加してさらに前記光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射することにより、前記光触媒体粒子の表面に貴金属を担持させることを特徴とする貴金属担持光触媒体粒子分散液の製造方法。
【請求項2】
前記貴金属がCu、Pt、Au、Pd、Ag、Ru、Ir及びRhから選ばれる少なくとも1種類の貴金属である請求項1に記載の貴金属担持光触媒体粒子分散液の製造方法。
【請求項3】
前記光触媒体粒子が酸化タングステンである請求項1または2に記載の貴金属担持光触媒体粒子分散液の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の貴金属担持光触媒体粒子分散液の製造方法で得られる貴金属担持光触媒体粒子分散液。
【請求項5】
光触媒体粒子100質量部に対して、貴金属原子を0.01質量部〜1質量部含有し、照度20000ルクスの白色発光ダイオードを光源とする可視光照射を20分間行うことにより、貴金属担持光触媒体粒子1g当たり7.5×1017個以上のOHラジカルを生成する請求項4に記載の貴金属担持光触媒体粒子分散液。
【請求項6】
請求項4または5に記載の貴金属担持光触媒体粒子分散液を含む親水化剤。
【請求項7】
基材表面に光触媒体層を備える光触媒機能製品であって、前記光触媒体層が請求項4〜6のいずれかに記載の貴金属担持光触媒体粒子分散液を用いて形成されていることを特徴とする光触媒機能製品。
【請求項8】
少なくとも可視光の照射下で親水性を発現する、請求項7に記載の光触媒機能製品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−136325(P2011−136325A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133846(P2010−133846)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】