説明

貼付剤

【課題】 薬物としてリドカイン及び/又はその塩を含有する貼付剤であって、適度な付着性を有するのみならず、薬物含量安定性と薬物放出率安定性がともに優れる貼付剤を提供すること。
【解決手段】 支持体上に粘着剤層を備える貼付剤であって、前記粘着層は、リドカイン及びその薬学的に許容される塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の薬物とアルキルアルカノールとを含有する貼付剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は貼付剤に関し、より詳しくは、薬物としてリドカイン及び/又はその薬学的に許容できる塩を含有する貼付剤に関する。
【背景技術】
【0002】
局所麻酔作用を有するリドカインは、低用量で投与すると鎮痛効果が得られるため、術後疼痛や神経障害による痛みの治療に有効であることが知られており、筋肉内注射、静脈内注射、点滴、ゲル、貼付剤等による投与が行われている。この中でも、貼付剤による経皮投与方法は、投与の容易さや、コンプライアンスの向上、効果が持続的であるという利点から、有用な投与方法である。
【0003】
貼付剤を構成する粘着剤層は、通常、薬物と粘着基剤を含む混合物から形成される。粘着剤層に関しては、薬物の経皮吸収性の向上や、皮膚刺激性の低減等を目的として、リドカインに限らず様々な薬物において研究がなされている(特許文献1〜5)。
【特許文献1】特開2000−178186号
【特許文献2】特開2002−363070号
【特許文献3】特開2005−170938号
【特許文献4】特開2004−292379号
【特許文献5】特開2006−1859号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
貼付剤は皮膚等に貼り付けて使用することから、適度な付着性が求められるのはもちろんであるが、効果の持続性という観点から、薬物含量の安定性や薬物放出率の安定性が特に重要となる。しかしながら、上記公報を始め従来公知の方法を適用して、薬物含量と薬物放出量を同時に安定化させることは必ずしも容易でなかった。特に、局所麻酔用として近年重要性が高まっているリドカインについては、有効な手法が知られていないのが現状である。
【0005】
そこで、本発明の目的は、薬物としてリドカイン及び/又はその塩を含有する貼付剤であって、適度な付着性を有するのみならず、薬物含量安定性と薬物放出率安定性がともに優れる貼付剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、支持体上に粘着剤層を備える貼付剤であって、粘着層は、リドカイン及びその薬学的に許容される塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の薬物とアルキルアルカノールとを含有する貼付剤、を提供する。
【0007】
本発明では、リドカイン及び/又はその薬学的に許容される塩を含有する粘着剤層にアルキルアルカノールを含有させたことから、粘着剤層における薬物含量及び薬物放出率の安定性がともに向上する。このような効果が生じる理由は必ずしも明らかではないが、アルキルアルカノールが、リドカイン及び/又はその薬学的に許容される塩の溶解剤として有効に機能するとともに、粘着剤層を構成する他の成分との相溶性や親和性を向上させていることが、一因として想定される。
【0008】
アルキルアルカノールの含有量は、粘着剤層の全質量基準で4〜12質量%であることが好ましい。アルキルアルカノールの含有量をこの範囲にすることで、薬物含量及び薬物放出率を安定化できるのみならず、リドカイン及び/又はその薬学的に許容される塩の結晶化を抑制することができ、結晶化に伴う相分離や経皮吸収速度の低下等の問題が解消される。
【0009】
アルキルアルカノールのアルキル基の炭素数は1〜8がよく、オクチルドデカノール、イソステアリルアルコール、ヘキシルドデカノール及びデシルドデカノールからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。また、アルキルアルカノールは、2−アルキルアルカノールであるのが好適である。このようなアルキルアルカノールを用いることで、薬物含量及び薬物放出率の安定化が一段と高くなり、付着性にも優れるようになる。
【0010】
薬物に対するアルキルアルカノールの比は、質量比で0.8〜2であることが好ましい。すなわち、「アルキルアルカノールの質量/薬物の質量」の値は0.8以上2以下が好ましい。このような比でアルキルアルカノールを含有させることで、長期に亘って薬物含量及び薬物放出率を安定化させることができるようになる。
【0011】
粘着剤層は、熱可塑性エラストマーを含有することが好ましく、熱可塑性エラストマーとしては、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体が適用できる。粘着剤層をこのようなエラストマーで構成させることで、リドカイン及び/又はその薬学的に許容される塩やアルキルアルカノールとの相溶性が向上し、付着性のみならず、経皮吸収能の優れた貼付剤が提供できるようになる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、薬物としてリドカイン及び/又はその塩を含有する貼付剤であって、適度な付着性を有するのみならず、薬物含量安定性と薬物放出率安定性がともに優れる貼付剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の貼付剤の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中、特に断らない限り「%」とは「質量%」を意味する。
【0014】
実施形態に係る貼付剤は、支持体上に粘着剤層を備えるものであり、粘着剤層は支持体の主面の両面に形成されていても、片面に形成されていてもよい。粘着剤層は、アルキルアルカノールの他、粘着基剤と薬効成分とを少なくとも含有しており、薬効成分としてはリドカイン及び/又はその薬学的に許容される塩が少なくとも含まれる。粘着基剤は、それ自体粘着性のポリマー(アクリル系ポリマー等)からなるものであっても、他の成分(粘着付与剤等)と混合することにより粘着性を生じるポリマー(天然ゴム、熱可塑性エラストマー等)からなるものであってもよい。
【0015】
貼付剤の粘着剤層には、薬物として、リドカイン又はその薬学的に許容できる塩(リドカイン塩酸塩等)が単独で含まれていても、あるいは混合物として含まれていてもよいが、溶解状態で粘着剤層に含有させるために、リドカイン単独で含まれていることが好ましい。
【0016】
リドカイン及び/又はその薬学的に許容できる塩の配合量は、粘着剤層全体の質量に対して1〜10%であることが好ましい。リドカインの配合量を1%以上にすることによって、貼付剤としてリドカインによる十分な麻酔効果(鎮痛効果)が得ることができ、10%以下とすることによって、結晶析出による貼付剤自体の物性に対する悪影響を排除することができる。また、リドカインの配合量は、粘着剤残り及び薬物の結晶析出を防止する観点から、粘着剤層全体の質量に対して4〜6%がより好ましい。
【0017】
貼付剤の粘着剤層には、アルキルアルカノールが含まれ、これは主にリドカイン又はその薬学的に許容できる塩の溶解剤として機能する。アルキルアルカノールとしては、オクチルドデカノール、イソステアリルアルコール、ヘキシルドデカノール、デシルドデカノールから選択される少なくとも一種が好ましく、2−アルキルアルカノールが好ましい。アルキルアルカノールとして特に好ましいのは、オクチルドデカノールである。オクチルドデカノールは、異なる異性体の混合物でも特定の構造のみからなるものであってもよい。オクチルドデカノールとしては、2−オクチルドデカノールが挙げられる。
【0018】
粘着剤層における、リドカイン及び/又はその薬学的に許容できる塩と、アルキルアルカノールと、の配合比(質量比)は、前者:後者=1:0.8〜1:2であることが好ましい。アルキルアルカノールは、粘着剤層中に含まれるリドカインの溶解性及び皮膚への粘着力を十分に維持することを考慮すると、粘着剤層全体の質量に対して4〜12%(好ましくは、4〜10%)配合することが好ましい。
【0019】
粘着剤層は、上記に示した成分の他に粘着基剤を含有する。粘着基剤としては、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエンゴム、シリコーンゴム、アクリル系ポリマー(ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、酢酸ビニル、メタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、メトキシエチルアクリレート及びアクリル酸のうちの少なくとも2種類の共重合体等)、天然ゴム、ポリウレタン系ゴム等が挙げられる。粘着基剤としては、熱可塑性エラストマーが好ましく、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体等のスチレン系熱可塑性エラストマーがより好ましい。粘着基剤として特に好ましいものは、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体である。
【0020】
スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体の配合量は、粘着剤層全体の5〜40%が好ましく、10〜35%が特に好ましい。配合量が5%未満である場合は基剤の凝集性や保型性等が低下する傾向にあり、40%を超える場合は、基剤の凝集性が高まり粘着力の低下や作業性の低下等を招くおそれがある。
【0021】
粘着剤層には、粘着基剤と共に粘着付与剤を含有させてもよい。使用され得る粘着付与剤としては、脂環族飽和炭化水素樹脂、ロジン系樹脂、テルペン樹脂、マレイン酸レジン等が挙げられるが、粘着力や粘着基剤との相溶性の観点から脂環族飽和炭化水素樹脂が好ましい。
【0022】
粘着付与剤の配合量は、粘着剤層全体の40〜60%が好ましく、さらに好ましくは45〜55%である。
【0023】
粘着剤層には、可塑剤を含有させてもよい。このような可塑剤としては、流動パラフィン、石油系オイル(パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル等)、スクワラン、スクワレン、植物系オイル(オリーブ油、ツバキ油、ひまし油、トール油、ラッカセイ油等)、シリコーンオイル、二塩基酸エステル(ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等)、液状ゴム(ポリブテン、液状イソプレンゴム等)等が挙げられ、これらを2種以上混合して使用しても良いが、飽和炭化水素系可塑剤が好ましく、流動パラフィン単独で使用することが特に好ましい。
【0024】
可塑剤の配合量は、十分な透過性及び貼付剤としての凝集性の維持を考慮して、粘着剤層全体に対して5〜40%が好ましく、より好ましくは10〜30%である。
【0025】
粘着剤層には、必要に応じて、抗酸化剤、充填剤、架橋剤、防腐剤、紫外線吸収剤等の添加成分を配合してもよい。添加成分は、粘着剤層の全質量基準で、好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下、特に好ましくは2%以下の範囲で適宜配合される。
【0026】
上述した成分を含有する粘着剤層が形成される支持体は、薬物の放出に影響しないものが好ましく、伸縮性又は非伸縮性のものを用いることができる。使用可能な支持体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ナイロン、ポリウレタン等の合成樹脂のフィルム、シート、シート状多孔質体、シート状発泡体、織布又は不織布、紙、及びこれらの積層体もしくは複合体が挙げられる。皮膚に対する刺激性や追随性を考慮すると、伸縮性のあるものが好ましく、ポリエステル織布(編布)が特に好ましい。
【0027】
支持体上に形成される粘着剤層の厚みは50〜300μmであることが好ましく、より好ましくは80〜150μmである。なお、粘着剤層の厚みが50μm未満では粘着性や付着性の持続が低下する傾向にあり、300μmを超えると凝集力や保型性が低下する傾向がある。
【0028】
貼付剤は、粘着剤層の保護等のために、粘着層上に剥離ライナーを備えるものであってもよい。剥離ライナーとしては、粘着剤層からの十分な剥離性を有するものであれば特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルム等を用いることができる。
【0029】
貼付剤は、溶剤法、ホットメルト法等といった従来法により製造することができる。例えば、溶剤法により製造する場合には、配合される粘着基剤の有機溶剤溶液に、他の成分を添加、攪拌後、支持体に展延し、乾燥させ粘着剤層を形成することにより、貼付剤を得ることができる。また、配合される粘着基剤がホットメルト法により塗工可能である場合には、高温で粘着基剤を溶解させた後、他の成分を添加し、攪拌し、支持体に展延し粘着剤層を形成することにより、本発明の貼付剤を得ることができる。なお、支持体の代わりに剥離ライナーを用いて薬物層を形成した後に、支持体を貼り合わせることにより、本発明の貼付剤を得ることもできる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0031】
[貼付剤の作製]
表1に示す成分をトルエンに混合して、その混合物を攪拌して均一な溶解物を得た。次にこの溶解物をPETフィルム上に展延し、乾燥機によりトルエンを揮発除去させた後に支持体(PET編布)上にかぶせて粘着剤層を支持体上に圧着転写させて貼付剤を得た。なお、表1に示す処方の数値は「質量%」を指す。粘着基剤としてスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を、粘着付与剤として脂環族飽和炭化水素樹脂を、可塑剤として飽和炭化水素系可塑剤を、それぞれ使用した。
【表1】



【0032】
[薬物含量安定性試験]
実施例3及び比較例1の貼付剤の薬物含量安定性を以下の方法で評価した。すなわち、製剤を60℃で1ヶ月、40℃で1ヶ月及び3ヶ月、25℃で3ヶ月間それぞれ保存した後、保存後の製剤中におけるリドカインの含量を液体クロマトグラフィーにより測定し、処方量に対する薬物含有率(%)を算出した。なお、測定は3回繰り返して行い、得られた結果の平均値を表2に示す。表2の結果から明らかなように、溶解剤として2−オクチルドデカノールを添加することにより、薬物含量の低下が抑制されることが確認された。
【表2】



【0033】
[薬物放出率安定性試験]
実施例3及び比較例1の貼付剤の薬物放出率安定性を以下の方法で評価した。すなわち、製剤を60℃で1ヶ月もしくは40℃で1ヶ月それぞれ保存した後、溶出試験機を用いて(溶出液を精製水として)保存後の製剤からリドカインを12時間放出させた。回収した溶出液中のリドカインの含量を液体クロマトグラフィーにより測定し、処方量に対する薬物含有率(%)を算出した。なお、測定は5回繰り返して行い、得られた結果の平均値を図1及び図2に示す。溶解剤として2−オクチルドデカノールを添加することによって、薬物放出率の低下が抑制されることが確認された。
【0034】
[付着性試験]
実施例2〜6の貼付剤を用いて、フィンガータックにて付着性を以下の基準で評価した。得られた結果を表3に示す。
○:良好
△:やや弱い
×:弱い
【表3】



【0035】
[薬物結晶化試験]
表1の処方で作製した実施例1〜7、比較例1の貼付剤を、4℃にて7日間保存し、粘着剤層中の薬物の結晶化を評価した。結果を表4に示す。
【表4】



【0036】
[溶解性及び貼付剤性能の評価]
表5に示す化合物に対するリドカインの溶解度(25℃)を次の方法により測定した。すなわち、各溶解剤に飽和以上となるようにリドカインを添加して十分に攪拌した後、その混合液をろ過してろ液中のリドカイン濃度を液体クロマトグラフィーにより測定し、飽和溶解度(%)を算出した。なお、測定は3回繰り返して行い、得られた結果の平均値を表5に示した。
【0037】
次に、リドカインの溶解性が良好であった化合物(No.1〜9)については、基剤組成物全量に対して5質量%の溶解剤に対し、5質量%のリドカイン及び基剤溶液(粘着基剤、粘着付与樹脂、可塑剤をトルエンに混合し、攪拌した溶液)を混合し貼付剤を作製し、基剤からの染み出し、皮膚刺激性、薬物の皮膚透過性を評価し、表5に示した。なお、貼付剤は、各成分の混合物をPETフィルム上に展延し、乾燥機によりトルエンを揮発除去させた後に支持体(PET編布)上にかぶせて粘着剤層を支持体に圧着転写させて、作製した。
【表5】



【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例3の貼付剤の薬物放出安定性を示す図である。
【図2】比較例1の貼付剤の薬物放出安定性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に粘着剤層を備える貼付剤であって、
前記粘着剤層は、リドカイン及びその薬学的に許容される塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の薬物とアルキルアルカノールとを含有する貼付剤。
【請求項2】
前記アルキルアルカノールの含有量は、前記粘着剤層の全質量基準で4〜12質量%である請求項1記載の貼付剤。
【請求項3】
前記アルキルアルカノールのアルキル基の炭素数は、1〜8である請求項1又は2記載の貼付剤。
【請求項4】
前記アルキルアルカノールは、オクチルドデカノール、イソステアリルアルコール、ヘキシルドデカノール及びデシルドデカノールからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか一項に記載の貼付剤。
【請求項5】
前記アルキルアルカノールは、2−アルキルアルカノールである請求項1〜3のいずれか一項に記載の貼付剤。
【請求項6】
前記薬物に対する前記アルキルアルカノールの比は、質量比で0.8〜2である請求項1〜5のいずれか一項に記載の貼付剤。
【請求項7】
前記粘着剤層は、熱可塑性エラストマーを含有する請求項1〜6のいずれか一項に記載の貼付剤。
【請求項8】
前記熱可塑性エラストマーは、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体である請求項7記載の貼付剤。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−266198(P2008−266198A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−110712(P2007−110712)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(000160522)久光製薬株式会社 (121)
【Fターム(参考)】