説明

貼合せ加飾材ポリエステルフィルム

【課題】 焼却時に環境問題を生じることがなく、耐熱性や耐溶剤性などに優れ、精密な絵付けが可能で、複雑な立体形状への成型性が良好な貼合せ加飾材用ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】 融点(TmB)が180〜230℃の範囲にあるB層の少なくとも片側に、融点(TmA)が200〜255℃の範囲にあるA層を有し、A層およびB層のそれぞれが主たる構成成分以外の共重合成分を1種以上含有する積層ポリエステルフィルムであり、少なくとも一方の面に塗布層を有し、下記式(1)〜(4)を同時に満足することを特徴とする貼合せ加飾材用ポリエステルフィルム。
△Tm≧5℃ …(1)
E‘≦1500MPa …(2)
Ra≦40nm …(3)
S≦4.2% …(4)
(上記式中、△TmはA層の融点とB層の融点との差、E‘は80℃におけるフィルムの弾性率、Raは塗布層表面の表面粗度、Sは150℃で3分間加熱処理後の縦横両方向の熱収縮率である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貼合せ加飾材ポリエステルフィルムに関するものであり、家具や台所製品のキャビネットなどの表面加飾の加工性に優れた貼合せ加飾材のポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
家具や台所製品のキャビネットなど加飾用において木質系材料、無機系材料、合成樹脂系材料、鋼板など、金属系材料の各種材料からなる基材の表面に塩化ビニル樹脂やアクリル樹脂を基材上に木目調柄や印刷絵柄を施した加飾フィルムを用い接着剤で貼合わせて表面を装飾化することで高級感を与え商品価値を高めている。
【0003】
基材と絵柄印刷層との間に使用されるフィルムとしては、塩化ビニル樹脂が最も一般的である。しかしながら、塩化ビニル樹脂を使用した場合、当該シートに配合された可塑剤が貼合わせ面の接着剤層に移行して接着不良の原因となり、また、塩化ビニル樹脂の熱寸法安定性が悪いため、熱による伸縮が生じてシワの発生原因になる等の問題がある。さらに近年、焼却時の環境問題から、塩化ビニル樹脂を使用しない加飾用基材の要望が高まっている。
【0004】
貼合せ加飾材フィルムの特性において、耐候性、耐光性、耐熱性、耐水性、耐溶剤性、表面硬度、耐摩耗性、耐擦傷性などが要求されている。しかしながら、他の加飾材フィルムとして塩化ビニル樹脂以外にアクリル樹脂フィルムが使用されている。しかしながら、アクリル樹脂フィルムは耐熱性や耐溶剤性が劣るため印刷材料や用途範囲が限定されるなどの欠点がある。さらに、近年、その意匠性の多様化が進み、表面の精密な絵柄が施されたものや複雑な立体形状に馴染むことのできる成型性(柔軟性)と耐熱性を兼ね備えた貼合せ用に最適な基材フィルムが求められるようになってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−182929号公報
【特許文献2】特開2004−106411号公報
【特許文献3】特開2007−210270号公報
【特許文献4】特開2006−160848号公報
【特許文献5】特開002−52604号公報
【特許文献6】特開平9−221556号公報
【特許文献7】特開2007−181978号公報
【特許文献8】特開2002−194186号公報
【特許文献9】特開2007−118224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その解決課題は、焼却時に環境問題を生じることがなく、耐熱性や耐溶剤性などに優れ、かつ精密な絵付けが可能で、複雑な立体形状に成型性が良好な貼合せ加飾材ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の構成を有するポリエステルフィルムによれば、上記課題を容易に解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、融点(TmB)が180〜230℃の範囲にあるB層の少なくとも片側に、融点(TmA)が200〜255℃の範囲にあるA層を有し、A層およびB層のそれぞれが主たる構成成分以外の共重合成分を1種以上含有する積層ポリエステルフィルムであり、少なくとも一方の面に塗布層を有し、下記式(1)〜(4)を同時に満足することを特徴とする貼合せ加飾材用ポリエステルフィルムに存する。
【0009】
△Tm≧5℃ …(1)
E‘≦1500MPa …(2)
Ra≦40nm …(3)
S≦4.2% …(4)
(上記式中、△TmはA層の融点(TmA)とB層の融点(TmB)との差(TmA−TmB)であり、E‘は80℃におけるフィルムの弾性率であり、Raは塗布層表面の二次元表面粗度(nm)であり、Sは150℃乾燥オーブン中で3分間加熱処理後の縦横両方向の熱収縮率(%)である)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた貼合せ成型性、耐熱性および加飾適性を有する、貼合せ成型加飾に適したフィルムが得られ、これまで難しいとされていた種々用途にも適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のフィルムを構成するポリエステルは、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を必須とするものであり、これらの他に、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの公知のジカルボン酸の一種以上を、共重合成分として含んでいてもよい。また、ジオール成分として、エチレングリコールを必須とするものであり、これらの他に、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、ネオペンチルグリコールなどの公知のジオールの一種以上を、共重合成分として含んでいてもよい。
【0012】
本発明において、ポリエステルの構成成分としては、上記のジカルボン酸成分およびジオール成分の他、種々の酸成分およびアルコール成分を含むことができる。例えば、p−オキシ安息香酸の様なオキシカルボン酸、安息香酸、ベンゾイル安息香酸、メトキシポリアルキレングリコールなどの一官能性化合物は修飾成分として、トリメシン酸、トリメリト酸、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの多官能性化合物は共重合成分として、生成物となるポリエステルが実質的に線状の高分子を保持し得る範囲内で、使用することができる。
【0013】
次に本発明におけるA層を構成するポリエステル樹脂は、上述の多価カルボン酸と多価アルコールの重縮合により得られるポリエステルが好ましく用いられる。耐熱性、寸法安定性の観点から、エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするものであることが必要であり、好ましくは共重合成分含有量を20モル%以下とする。
【0014】
また、B層を構成するポリエステル樹脂も、上述の多価カルボン酸と多価アルコールの重縮合により得られるポリエステルが好ましく用いられる。耐熱性、寸法安定性の観点から、エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするものであることが必要であるが、貼合せ成型性の観点から、共重合成分含有量が10モル%以上30モル%以下の範囲にあることも必要である。共重合成分として、イソフタル酸や1,4−シクロヘキサンジメタノールを用いることが特に好ましいが、上述の多価カルボン酸と多価アルコールに該当する物であれば、これに限定されるものではない。また、ポリエステル樹脂は1種で特定範囲の共重合体である場合でもよく、共重合量の多いポリエステルと少ないポリエステルとを配合してもよい。いずれにしてもその結果、共重合成分の含有量と融点とが満足されればよい。
【0015】
本発明において、耐熱性、成型性、貼合せ適性の観点から、A層の融点(TmA)は200℃以上、好ましくは220℃以上、かつ255℃以下、好ましくは250℃以下の範囲であり、B層の融点(TmB)は180℃以上、好ましくは185℃以上、かつ230℃以下、好ましくは220℃以下の範囲であり、それぞれの融点の差(TmA−TmB)が5℃以上、好ましくは10℃以上あることが必要である。A層の融点が200℃未満である場合は、耐熱性、貼合せ適性に劣り、B層の融点が180℃未満の場合は耐熱性に劣り、A層の融点が255℃を超える場合またはB層の融点が230℃を超える場合は、成型性、生産性が劣るため好ましくない。また、それぞれの融点の差(TmA−TmB)が5℃未満である場合は、上記した成型性、生産性、耐熱性、貼合せ適性を同時に高度に満足させることができなくなる。
【0016】
また、本発明において、弾性率E’が80℃で1500MPa以下、好ましくは1400MPa以下である必要がある。弾性率が80℃で1500MPaを超えると貼合せ成型性が劣り、部分破れの発生や成型しわが起きやすくなり好ましくない。
【0017】
本発明において、フィルムの面配向係数ΔPは、通常0.020〜0.150の範囲であり、0.030〜0.140の範囲であることが好ましい。面配向係数ΔPが0.150を超える場合は、成型性に劣る傾向があり、0.020未満である場合は、耐熱性に劣る傾向がある。
【0018】
また、本発明において、フィルムの複屈折率Δnは、通常0.020以下であり、0.015以下であることが好ましい。Δnが0.020を超える場合は、成型時の伸び率にばらつきが生じ、印刷歪みの原因となることがある。
【0019】
さらに本発明において、150℃にて3分間加熱処理後の加熱収縮率が、縦、横両方ともに4.2%以下である。縦あるいは横の加熱収縮率が4.2%を上回るフィルムは加工工程中の加熱区間においてフィルムの縮みが大きく、操作上好ましくない。
【0020】
本発明において、フィルムの易滑性向上等を付与するために、粒子を添加することも好ましい。例えば、フィルムの易滑性を向上させるためには、ポリエステル組成物は、有機、無機の微粒子を配合したものが好ましく、必要に応じて紫外線吸収剤、着色剤、酸化防止剤、界面活性剤、マット化剤、帯電防止剤などの添加剤をさらに配合してもよい。滑り性を付与する微粒子は、配合の方法に従い、外部粒子と内部粒子とに大別される。前者の例としては、カオリン、クレー、各種炭酸カルシウム、酸化ケイ素、テレフタル酸カルシウム、α−、γ−、δ−、θ−等の酸化アルミニウム、酸化チタン、リン酸カルシウム、フッ化リチウム、カーボンブラックなどの公知の不活性外部粒子が挙げられる。また、後者の例としては、ポリエステルの溶融製膜に際して不溶な高融点有機化合物、単分散球状有機粒子、粉砕型の有機粒子、架橋ポリマーおよびポリエステル合成時に使用する金属化合物触媒、例えばアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物などによってポリエステル製造時にポリマー内部に形成される内部粒子などが挙げられる。これらの微粒子は、フィルム中の表面を構成する層に対する含有量が通常0.002〜2.0重量%の範囲内であり、平均粒径が0.001〜3.5μmの範囲内にあるのが好ましい。
【0021】
また、本発明のフィルムの表面粗度Raは40nm以下であり、35nm以下であることが好ましい。Raが40nmを超える場合は、表面の凹凸により貼合せ成型品の表面光沢が失われる。
【0022】
次に、本発明のフィルムの製造法を具体的に説明するが、本発明の構成要件を満足する限り、以下の例示のみに限定されるものではない。
【0023】
滑り剤として、有機、無機の微粒子を適量配合してチップ化したポリエステル組成物を、ホッパードライヤー、パドルドライヤー、オーブンなどの、通常用いられる乾燥機または真空乾燥機を用いて乾燥する。前段で、チップを結晶化させて相互の融着が起こらないように(予備結晶化ともいう)、また後段で、水分量を十分に減少させるように(本乾燥ともいう)、乾燥を行う。このように乾燥した後、200〜320℃でシートに押出す。押出しに際しては、ポリエステルの溶融押出機を2台または3台以上用いて、いわゆる共押出法により2層または3層以上の積層フィルムとすることができる。層の構成としては、A原料とB原料とを用いたA/B構成、またはA/B/A構成、さらにC原料を用いてA/B/C構成またはそれ以外の構成のフィルムとすることができる。例えばA原料として特定の粒子を用いてA層の表面形状を設計し、B原料としては粒子を含有しない原料を用い、A/BまたはA/B/A構成のフィルムとすることができる。この場合B層の原料を自由に選択できることからコスト的な利点などが大きい。また当該フィルムの再生原料をB層に配合しても表層であるA層により表面粗度の設計ができるので、さらにコスト的な利点が大きくなる。次いで、溶融したポリマーをダイから押出し、回転冷却ドラム上でガラス転移温度以下の温度になるように急冷固化し、実質的に非晶状態の未延伸シートを得る。この場合、シートの平面性を向上させるため、シートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、本発明においては静電印加密着法および/または液体塗布密着法が好ましく採用される。
【0024】
本発明において、このようにして得られた未延伸シートを2軸方向に延伸してフィルム化する。延伸条件について具体的に述べると、前記未延伸シートを縦方向に70〜145℃で2〜6倍に延伸し、縦1軸延伸フィルムとした後、横方向に90〜160℃で2〜6倍に延伸し、150℃〜240℃で1〜600秒間熱処理を行うことが好ましい。さらにこの際、熱処理の最高温度ゾーンおよび/または熱処理出口のクーリングゾーンにおいて、縦方向および/または横方向に0.1〜20%弛緩する方法が好ましい。また、必要に応じて再縦延伸、再横延伸を付加することも可能である。
【0025】
本発明のフィルムの厚さは、通常10〜200μmであり、好ましくは30〜100μmである。
【0026】
本発明のフィルムは、貼合せ用加工層構成からなる印刷層を設けることが通常であるが、ポリエステルフィルム自体は一般的に不活性であることから接着性に乏しい。このため印刷層とポリエステル基材との接着を目的とした塗布層を設ける必要がある。
【0027】
かかる塗布層を形成する方法としては、テンター入口前(横延伸工程前)にコートしてテンター内で乾燥する、いわゆるインラインコート法が好ましい。また、必要に応じ、フィルムの製造後にオフラインコートで各種のコートを行ってもよい。このようなコートは片面、両面のいずれでもよい。コーティングの材料としては、オフラインコーティングの場合は水系または溶媒系のいずれでもよいが、インラインコーティングの場合は、水系または水分散系が好ましい。
【0028】
本発明のフィルムの塗布層としては、架橋剤と各種バインダー樹脂との組み合わせからなるものが好ましく、バインダー樹脂としては接着性の観点から、ポリエステル、ポリウレタンおよびアクリル系ポリマーの中から選ばれた少なくとも1つ以上のポリマーを併用することが好ましい。上記のポリマーは、それぞれそれらの誘導体を含むものであってもよい。ここでいう誘導体とは、他のポリマーとの共重合体、官能基に反応性化合物を反応させたポリマーを指す。なお、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリオレフィン等も強靭な被膜を形成し上塗り剤と良好な接着性を示すが、これらの化合物は塩素を含有する為、燃焼時に塩素を含む有害なダイオキシン化合物を発生する可能性があり、この点で好ましくない。また、塗布フィルムのスクラップを再利用する際に、着色、腐食性ガスの発生という問題があり、この点でも好ましくない。
【0029】
架橋剤樹脂としては、メラミン系、エポキシ系、オキサゾリン系樹脂が一般に用いられるが、塗布性、耐久接着性の点で、メラミン系樹脂が特に好ましい。メラミン系樹脂は、特に限定される物ではないが、メラミン、メラミンとホルムアルデヒドを縮合して得られるメチロール化メラミン誘導体、メチロール化メラミンに低級アルコールを反応させて部分的あるいは完全にエーテル化した化合物およびこれらの配合物などを用いることができる。
【0030】
メラミン系樹脂としては、単量体あるいは2量体以上の多量体からなる縮合物のいずれであってもよく、あるいはこれらの配合物を用いてもよい。
【0031】
前記エーテル化に用いる低級アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノールなどを好ましく使用することができる。官能基としては、イミノ基、メチロール基、あるいはメトキシメチル基やブトキシメチル基等のアルコキシメチル基を1分子中に有するもので、イミノ基型メチル化メラミン樹脂、メチロール基型メラミン樹脂、メチロール基型メチル化メラミン樹脂、完全アルキル型メチル化メラミン樹脂などを用いることができる。その中でもメチロール化メラミン樹脂が最も好ましい。さらに、メラミン系架橋剤の熱硬化を促進するため、例えばp−トルエンスルホン酸などの酸性触媒を用いることもできる。
【0032】
塗布剤中におけるメラミン樹脂の配合量は、通常1〜50重量%、好ましくは5〜30重量%の範囲である。架橋剤樹脂の配合量が1重量%未満の場合は、耐久接着性が十分発揮されないことであり、耐溶剤性の改良効果が不十分となる傾向があり、50重量%を超える場合は、十分な接着性が発揮されない恐れがある。
【0033】
本発明において、滑り性、固着性などをさらに改良するため、塗布層中に無機系粒子や有機系粒子を含有させることが好ましい。塗布剤中における粒子の配合量は、通常0.5〜10重量%、好ましくは1〜6重量%である。かかる配合量が0.5重量%未満では、耐ブロッキング性が不十分となる場合があり、10重量%を超えると、貼合せ成型品の印刷層の鮮明度が落ちる傾向がある。
【0034】
無機粒子としては、二酸化ケイ素、アルミナ、酸化ジルコニウム、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化バリウム、カーボンブラック、硫化モリブデン、酸化アンチモン等が挙げられる。これらの中では、二酸化ケイ素が安価かつ粒子径が多種あるので、利用しやすい。
【0035】
有機粒子としては、炭素-炭素二重結合を一分子中に2個以上含有する化合物(例えばジビニルベンゼン)により架橋構造を達成したポリスチレンまたはポリアクリレートポリメタクリレートが挙げられる。
【0036】
上記無機粒子および有機粒子は表面処理されていてもよい。表面処理剤としては、例えば、界面活性剤、分散剤としての高分子、シランカップリング剤、チタンカップリング剤などが挙げられる。
【0037】
また、塗布層は帯電防止剤、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤、染料、顔料などを含有していてもよい。
【0038】
塗布剤は、水を主たる媒体とする限りにおいて、水への分散を改良する目的または造膜性能を改良する目的で少量の有機溶剤を含有していてもよい。有機溶剤は、水に溶解する範囲で使用することができる。有機溶剤としては、n-ブチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、メチルアルコール等の脂肪族または脂環族アルコール類、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類、n-ブチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコール誘導体、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、酢酸メチル、酢酸アミン等のエステル類、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類、N-メチルピロリドン等のアミド類が挙げられる。これらの有機溶剤は、必要に応じて二種類以上を併用してもよい。
【0039】
塗布剤の塗布方法としては、例えば、原崎勇次著、槙書店、1979年発行、「コーティング方式」に示されるような、リバースロールコーター、グラビアコーター、ロッドコーター、エアドクターコーターまたはこれら以外の塗布装置を使用することができる。
【0040】
塗布層は、片面だけに形成してもよいし、両面に形成してもよい。片面にのみ形成した場合、その反対面には必要に応じて上記の塗布層と異なる塗布層を形成して他の特性を付与することもできる。なお、塗布剤のフィルムへの塗布性や接着性を改良する為、塗布前にフィルムに化学処理や放電処理を施してもよい。また、表面特性をさらに改良する為、塗布層形成後に放電処理を施してもよい。
【0041】
塗布層の厚みは、最終的な乾燥厚さとして、通常0.02〜0.5μm、好ましくは0.03〜0.3μmの範囲である。塗布層の厚さが0.02μm未満の場合は、本発明の効果が十分に発揮されない恐れがある。塗布層の厚さが0.5μmを超える場合は、フィルムが相互に固着しやすくなったり、特にフィルムの高強度化の為に塗布処理フィルムを再延伸する場合は、工程中のロールに粘着しやすくなったりする傾向がある。上記の固着の問題は、特にフィルムの両面に同一の塗布層を形成する場合に顕著に現れる。
【0042】
本発明のフィルムは、帯電による印刷工程でのはじきやムラの発生を防止すること、火花発生による引火の危険を防止する観点から、上記接着性を付与する塗布層の反対面(背面)に必要に応じ帯電防止の塗布層を形成することが好ましい。また加飾材用フィルムとしたときの取り扱い性向上や汚れ防止等の効果を得るためには表面固有抵抗値を1×10〜1×1012Ω/□の範囲とすることが好ましく、より好ましくは1×10〜1×1011Ω/□の範囲、さらに好ましくは1×10〜1×1010Ω/□の範囲である。表面固有抵抗値が1×1012Ω/□を超える場合は、上記した効果が不足する傾向がある。一方、表面固有抵抗値が1×10Ω/□未満の場合、もはや効果が飽和しており、これ以上の向上は見られないことに加え、帯電防止剤が多量に必要となって塗布層の耐久性が不足し、加飾フィルムの耐久性が不足したり、特殊な帯電防止剤の使用により印刷層の色目に悪影響を及ぼしたりすることがある、またフィルム自身の色調が所望のものにならないなどの問題が発生することがある。
【0043】
本発明におけるかかる表面固有抵抗値は、フィルムの表面に設けた塗布層に帯電防止剤を含有させることが好ましい。帯電防止剤とは、有機物が吸湿して静電気を逃がす化合物であり、ノニオン系、アニオン系、カチオン系、両性の化合物の中から選ばれる化合物である。ノニオン系帯電防止剤としては、ポリエーテル化合物、またはその誘導体が挙げられ、具体的には例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリオキシエチレンジアミン、ポリエーテル/ポリエステル/ポリアミドブロック共重合体がこれに該当する。アニオン系帯電防止剤としては、スルホン酸、カルボン酸、リン酸、ホウ酸およびそれらの塩を持つ化合物が挙げられる。中でも、その帯電防止性の強さと工業的に入手しやすいことから、スルホン酸系帯電防止剤がよく使用される。例えば、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸リチウム、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸カリウム、ポリスチレンスルホン酸セシウム、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム等である。もちろん、他の共重合できるモノマーと、スチレンスルホン酸およびその塩、との共重合体も含まれる。また、低分子のスルホン酸系化合物も有効である。例えば、アルキルスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル等を挙げられる。例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、α−オレフィンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸エステルナトリウム塩、セチル硫酸エステルナトリウム塩、ステアリル硫酸エステルナトリウム塩、オレイル硫酸エステルナトリウム塩等である。カチオン系帯電防止剤としては、低分子化合物として、第1級アミンの塩酸塩、第2級アミンの塩酸塩、第3級アミンの塩酸塩、第4級アンモニウム塩が代表的である。用いられるアミンとしては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ラウリルアミン、ジラウリルアミン、ラウリルジメチルアミン、ステアリルアミン、ジステアリルアミン、ステアリルジメチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、アミノエチルエタノールアミン、ピリジン、モルホリン、グアニジン、ヒドラジン等が挙げられる。また第4級アンモニウム塩の例としては、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、セチルピリジニウムクロリド、セチルピリジニウムブロミド、ステアラミドメチルピリジニウムクロリド、ラウリルトリメチルアンモニウムメトサルフェート等が挙げられる。高分子カチオン系帯電防止剤としては、第4級アンモニウム塩型スチレン重合体、第4級アンモニウム塩型アミノアルキル(メタ)アクリレート重合体、第4級アンモニウム塩型ジアリルアミン重合体、等が挙げられる。具体的には、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、ポリジメチルアミノエチルメタクリレートの4級化物、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド等である。両性系帯電防止剤としては、アミン塩型カチオンを有するカルボン酸塩型両性界面活性剤、第4級アンモニウム塩型のカチオンを有するカルボン酸塩型両性界面活性剤(いわゆるベタイン型両性界面活性剤)が有名である。例えば、ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン等が挙げられる。
【0044】
有機電子伝導性の化合物としては、ポリアセチレン、ポリ(p−フェニレン)、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリ(アリレンビニレン)、ポリアセン等が挙げられる。これらは、従来高価であり、また通常溶媒への溶解性があまりよくない。しかし、例えば、スルホン酸残基を導入する等して水に溶解するタイプも開発されている。
【0045】
導電性微粒子としては、カーボンブラック、金属微粉末、金属酸化物微粉末が挙げられる。例えば、銀、銅、ニッケル等の微粉末、または酸化アンチモン、酸化インジウムなどの微粉末である。
【0046】
本発明においては、かかる帯電防止剤の中でも特にカチオン系のものが好ましく用いられる。カチオン系の場合、特にフィルム表面に設けた塗布層の帯電防止効果が、加飾シートあるいとした時の表面にも及ぶという点で優れ、その効果が高度に達成される。
カチオン系帯電防止剤の中でも、特に本発明の用途においては、主鎖にピロリジウム環を有するポリマーを用いることが好ましく、具体例として、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド/ジメチルアンモニウムクロリド/N−メチロールアクリルアミド)などが挙げられる。
【0047】
本発明における塗布層は、インラインコーティングにより設けられるのが好ましい。インラインコーティングは、ポリステルフイルム製造の工程内で塗布を行う方法であり、具体的には、ポリエステルを溶融押出ししてから二軸延伸後熱固定して巻き上げるまでの任意の段階で塗布を行う方法である。通常は、溶融・急冷して得られる実質的に非晶状態の未延伸シート、その後に長手方向(縦方向)に延伸された一軸延伸フィルム、熱固定前の二軸延伸フィルムの何れかに塗布する。これらの中では、一軸延伸フィルムに塗布した後に横方向に延伸する方法が優れている。斯かる方法によれば、製膜と塗布乾燥を同時に行うことができるために製造コスト上のメリットがあり、塗布後に延伸を行うために薄膜塗布が容易であり、塗布後に施される熱処理が他の方法では達成されない高温であるために塗膜とポリエステルフィルムが強固に密着する。
【0048】
塗布層の厚さは、乾燥後の厚さとして、通常0.001〜10μm、好ましくは0.010〜5μm、さらに好ましくは0.015〜2μmである。塗布層の厚さが0.001μm未満の場合は、帯電防止効果が十分に改良されない場合がある。塗布層の厚さが10μmを超える場合は、塗布層が粘着剤のような作用してロールに巻き上げたフィルム同士が相互に接着する、いわゆる謂ブロッキングを生じることがある。
【実施例】
【0049】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、フィルムの諸物性の測定および評価方法を以下に示す。
【0050】
(1)融点(Tm)
TA Instruments社製の示差走査熱量計「DSC−2920型」を使用し、試料5mgを0℃から300℃まで20℃/min.の速度で昇温させた際に得られる融解に伴う吸熱ピークの温度をTmとした。
上述の方法により得た融解ピーク温度の内、B層融点は、製膜したフィルムの表層(A層)を除去したフィルムから得られた融解ピーク温度とし、A層融点は、B層融点と異なる融解ピーク温度とした。
【0051】
(2)弾性率(E‘)
アイティー計測制御社製動的粘弾性測定装置(DVA−200型)を使用した。幅5mmのフィルムをチャック間20mmとなるように測定装置にセットし、0℃から300℃まで10℃/min.の速度で昇温させながら、周波数10Hzで粘弾性の推移を測定した。この測定結果より80℃の貯蔵弾性率を求めた。
【0052】
(3)面配向度(ΔP)、複屈折率(Δn)
アタゴ製アッベ式屈折計を使用した。ヨウ化メチレンをマウントして、試料フィルムを測定面が下になるようにプリズムに密着させ、単色光ナトリウムD線(589nm)を光源として長手方向、幅方向、厚み方向の屈折率(それぞれnX、nY、nZ)を測定した。得られた値から下記式により各層の面配向度ΔPを求めた。なお、測定試料は製品マスターロールの中央部分より採取した。
ΔP=(nX+nY)/2−nZ
Δn=nX―nY
【0053】
(4)二次元表面粗さ(Ra)
表面粗度Ra(μm)をもって表面粗さとする。(株)小坂研究所社製表面粗さ測定機(SE−3F)を用いて次のようにして求めた。すなわち、フィルム断面曲線からその中心線の方向に基準長さL(2.5mm)の部分を抜き取り、この抜き取り部分の中心線をx軸、縦倍率の方向をy軸として粗さ曲線 y=f(x)で表わしたとき、次の式で与えられた値を〔μm〕で表わす。表面粗度の測定面は、接着塗布層側を測定数10本の断面曲線を求め、これらの断面曲線から求めた抜き取り部分の表面粗度の平均値で表わした。なお、触針の先端半径は2μm、荷重は30mgとし、カットオフ値は0.08mmとした。
【0054】
【数1】

【0055】
(5)極限粘度
測定試料をフェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量部)の溶媒に溶解させて濃度c=0.01g/cm3の溶液を調製し、30℃にて溶媒との相対粘度ηを測定し、極限粘度[η]を求めた。
【0056】
(6)150℃フィルム熱収縮率(HS)
熱風循環炉(田葉井製作所製)を使用し、無張力状態のフィルムを150℃の雰囲気中で3分間熱処理し、フィルムの縦方向および横方向の熱処理前後の長さを測定し、下記式にて計算し、5本ずつの試料についての平均値で表した。
熱収縮率(%)=(L−L)×100/L
(上記式中、Lは熱処理前のサンプル長さ(mm)、Lは熱処理後のサンプル長さ(mm)を表す)
【0057】
(7)フィルム積層厚さ、および塗布層厚さ
透過型電子顕微鏡(TEM)によるフィルム断面の観察にて行った。すなわち、フィルムサンプルの小片を、エポキシ樹脂に硬化剤、加速剤を配合した樹脂に包埋処理し、ウルトラミクロトームにて厚み200nmの切片を作成し、観察用サンプルとした。得られたサンプルを日立(株)製透過型電子顕微鏡(H−9000)にて観察した。その断面のうちフィルム表面とほぼ平行に、明暗によってその界面が観察される。その界面とフィルム表面までの距離を透過型電子顕微鏡写真1枚について平均し、表層厚さ、および塗布層厚さを求めた。ただし、加速電圧は300kV、倍率は表層厚みに応じ、1〜10万倍の範囲で設定した。少なくとも50枚の写真について行い、測定値の厚い方から10点、薄い方から10点削除して30点を平均して測定値とした。
【0058】
(8)印刷適正
ロール状のフィルムサンプルを8MPaのテンションで巻出し、4色のグラビア印刷を施したあと、180℃にて30秒間乾燥することにより、絵柄印刷加飾フィルムを作成した。得られた絵柄印刷を目視観察し、以下の基準にて判定した。
○:印刷ズレ(フィルムの伸び)の発生がなく、またインキはじきも観察されない
△:僅かに印刷ズレもしくはインキはじきが観察されるが、実用上使用可能なレベルである
×:印刷ズレ、インキはじきが観察され、著しく外観が悪い
【0059】
(9)接着性
東洋インキ製造社製セロカラー用印刷インキCCST39藍を用い、乾燥後の塗膜厚さが1.5μmになるようにフィルム表面に塗布し、80℃で1分間熱風乾燥し、評価用フィルムを得た。評価用フィルムを温度23℃、湿度50%RHにて24時間調温調湿し、フィルムのインキ塗布面にニチバン社製セロテープ(登録商標)(18mm幅)を気泡の入らぬように7cmの長さに貼り、この上を3kgの手動式荷重ロールで一定の荷重を与えた。フィルムを固定し、セロハンテープの一端を500gの錘に接続し、錘が45cmの距離を自然落下後に、180℃方向の剥離試験が開始する方法で評価した。接着性は、次の3段階の基準で評価した。
○:フィルム面からインキが全く剥離しない
△:フィルム面からインキが剥離するが、剥離する面積は10%未満である
×:10%以上の面積でインキが剥離する
実用的には○または△であれば問題なく使用できる。
【0060】
(10)表面固有抵抗(Ω)
横河・ヒューレット・パッカード社の内側電極50mm径、外側電極70mm径の同心円型電極である16008A(商品名)を23℃、50%RHの雰囲気下で試料に設置し、100Vの電圧を印加し、同社の高抵抗計である4329A(商品名)で試料の表面固有抵抗を測定した。
【0061】
(11)加飾材適正(防汚性)
前記(8)にて作成した加飾材を、印刷面を内側にして通常の室内に同じ高さで置き、1ヶ月後の塵埃等による汚れの付着状態を比較した。汚れ付着の程度は、次の3段階の基準で評価した。
○:汚れの付着が全く認められない
△:汚れの付着は僅かに認められるが実用上使用可能なレベル
×:汚れの付着が多く認められ、実用上実害となる可能性がある
【0062】
(12)加飾材適正(成型性)
前記(8)にて作成した加飾材を、オスメス金型を用いて、底面直径50mm、深さ5mmの円筒状に100個/分の速度で連続貼合せ成型した。得られたサンプルの状態を目視観察し、以下の基準にて判定した。
○:100個中、成型不良が5個以下
△:100個中、成型不良が15個以下
×:100個中、成型不良が16個以上
実用的には○または△であれば問題なく使用できる。
【0063】
(13)加飾材適正(光沢性)
前記(11)にて貼合せ成型後の印刷面が所望する光沢感が損なわれていないか、印刷光沢性を目視観察し、以下の基準にて判定した。
○:印刷面が所望する光沢感が得られている
△:僅かに光沢感が低下しているものの、実用上問題ない
×:光沢感の低下が認められ、実用上問題となる可能性がある
【0064】
(14)総合評価
印刷適正および加飾板適正を総合的に評価し、加飾材用フィルムとして優れているものを○、十分ではないが実用上使用可能なものを△、不十分なもの×とした。
【0065】
次に実施例に使用するポリエステル原料について説明する。
<ポリエステル(1)の製造法>
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒として酢酸マグネシウム・四水塩0.09重量部を反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応配合物にエチルアシッドフォスフェート0.04部を添加した後、三酸化アンチモン0.03部を加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.680に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させた。得られたポリエステル(1)の極限粘度は0.680であった。
【0066】
<ポリエステル(2)の製造法>
出発原料をテレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール54重量部と1,4−シクロヘキサンジメタノール25重量部とし、触媒としてテトラブトキシチタネート0.011重量部を反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とし、さらに1時間反応を継続した。その後、温度を230℃から徐々に昇温すると共に圧力を常圧より徐々に減じ、最終的に温度を280℃、圧力を0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.70に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させた。得られたポリエステル(2)の極限粘度は0.700、1,4−シクロヘキサンジメタノールの含有量は33モル%であった。
【0067】
<ポリエステル(3)の製造法>
ポリエステル(1)の製造方法において、エチルアシッドフォスフェート0.04部を添加後、エチレングリコールに分散させた平均粒子径2.2μmのシリカ粒子を0.3部、三酸化アンチモン0.03部を加えて、極限粘度0.610に相当する時点で重縮合反応を停止した以外は、ポリエステル(1)の製造方法と同様の方法を用いてポリエステル(3)を得た。得られたポリエステル(3)は、極限粘度0.610であった。
【0068】
<ポリエステル(4)の製造法>
ポリエステル(1)の製造方法において、出発原料のジカルボン酸をテレフタル酸ジメチル80重量部、イソフタル酸ジメチル20重量部としたこと以外はポリエステル(1)の製造方法と同様の方法を用いてポリエステル(4)を得た。得られたポリエステル(4)は、極限粘度0.670であった。
【0069】
<接着層塗布液の組成>
下記表1に示す水性塗料原液を下記表2に示す割合で配合してP1〜P3の水性塗布液を作成した。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
<帯電防止層塗布液の組成>
下記表3に示す水性塗料原液を下記表4に示す割合で配合してQ1〜Q4の水性塗布液を作成した。
【0073】
【表3】

【0074】
【表4】

【0075】
実施例1:
前記ポリエステル(1)、(3)、(4)をそれぞれ5%、35%、60%の割合で配合した配合原料をA層の原料とし、ポリエステル(1)、(2)、(4)をそれぞれ10%、50%、40%の割合で同様に配合した配合原料をB層の原料として、2台の押出機に各々を供給し、各々280℃で溶融した後、A層を最外層(表層)、B層を中間層として、キャスティングドラム上に、2種3層(A/B/A)の層構成で共押出し、静電印加法を適用して急冷固化させて無定形シートを得た。得られたシートを縦方向に80℃で3.4倍延伸した後、片面に表2の接着層を塗布し、反対面に表4の帯電防止層を塗布した。続いて100℃で横方向に3.4倍延伸し、5%の幅方向の弛緩を行ないながら194℃で熱処理を行なった。得られたフィルム厚のA層/B層/A層をそれぞれ5/40/5(μm)の層構成からなる50μmの積層ポリエステルフィルムを得た。また接着層と帯電防止層の塗布層の各厚さは、いずれも0.1μmであった。このときのA層、B層におけるポリエステル原料の配合率と各塗布層の組成および得られたフィルムの特性および評価結果を下記の表5と表6に示す。
【0076】
実施例2〜5、比較例1〜5:
実施例1において、A層、B層で使用したポリエステル原料とその配合比、製膜時に塗布層を形成し、実施例1と同様な方法でフィルムを得た。このときのA層、B層におけるポリエステル原料の配合率と各塗布層の組成および得られたフィルムの特性および評価結果を下記の表5〜7に示す。
【0077】
【表5】

【0078】
【表6】

【0079】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のフィルムは、貼合せ加飾材用フィルムとして好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点(TmB)が180〜230℃の範囲にあるB層の少なくとも片側に、融点(TmA)が200〜255℃の範囲にあるA層を有し、A層およびB層のそれぞれが主たる構成成分以外の共重合成分を1種以上含有する積層ポリエステルフィルムであり、少なくとも一方の面に塗布層を有し、下記式(1)〜(4)を同時に満足することを特徴とする貼合せ加飾材用ポリエステルフィルム。
△Tm≧5℃ …(1)
E‘≦1500MPa …(2)
Ra≦40nm …(3)
S≦4.2% …(4)
(上記式中、△TmはA層の融点(TmA)とB層の融点(TmB)との差(TmA−TmB)であり、E‘は80℃におけるフィルムの弾性率であり、Raは塗布層表面の二次元表面粗度(nm)であり、Sは150℃乾燥オーブン中で3分間加熱処理後の縦横両方向の熱収縮率(%)である)

【公開番号】特開2011−167872(P2011−167872A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31923(P2010−31923)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】