説明

質量分析装置

【課題】加圧送液方式によって少量の液体試料をイオン源に無駄なく送給する。
【解決手段】サンプルボトル10の上面開口を閉塞する閉塞栓11に取り付けたバイアル用配管保持部材40の下部に設けたバイアル取付用アダプタ40aにより、少量の液体試料30を収容したサンプルバイアル31をサンプルボトル10内空間に吊り下げ支持し、バイアル用配管保持部材40の内側に挿通させた試料吸い込み配管42の下端をサンプルバイアル31の内底部近傍に位置させる。バイアル取付用アダプタ40aには通気孔40bが設けられており、密封されたサンプルボトル10内に窒素ガスが供給されてガス圧が上昇すると、サンプルバイアル31内のガス圧も同様に上昇し、これによって液体試料32を試料吸い込み配管42及び試料導入用配管17を通して質量分析装置に送り込むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料を大気圧下でイオン化するイオン源を備える質量分析装置に関し、更に詳しくは、そのイオン源に分析対象である液体試料を導入する試料導入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフと質量分析装置とを組み合わせた液体クロマトグラフ質量分析装置では、液体試料から気体イオンを生成するためにエレクトロスプレイイオン化法(ESI)や大気圧化学イオン化法(APCI)などの大気圧イオン化法が一般に利用される。こうした大気圧イオン化質量分析装置への試料導入管は、目的試料を分析する際には、液体クロマトグラフのカラムの末端に接続され、カラムで成分分離された液体試料が試料導入管を通して質量分析装置の大気圧イオン源に導入されるようになっている。
【0003】
一方、質量分析装置自体の校正や調整などを行うためには成分の種類及び濃度が既知である標準試料を分析する必要があり、そのためには液体クロマトグラフのカラムから溶出した試料の代わりに標準試料を直接的にイオン源に導入する必要がある。こうした直接的な液体試料導入手法は一般にインフュージョン法と呼ばれる。インフュージョン法の1つとしては、シリンジ中に充填された液体試料をシリンジポンプの動作により送出して質量分析装置に導入する方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
この方法は、比較的少量の液体試料を導入するのに向いており、また試料の導入量を高精度で制御できるという利点がある。一方、シリンジに液体試料を吸引したり、液体試料を満たしたシリンジをシリンジポンプにセットしたりしなければならないために作業に手間が掛かる。特許文献1に記載の装置では切替バルブを介してシリンジと試料容器とを接続可能な構成を有しているため、上述したような作業の煩雑さは解消されるものの、装置が比較的大掛かりになり、その分、コストも高くなる。
【0005】
一方、別のインフュージョン法として、ガスによる加圧によって液体試料を送出するものが知られている(例えば特許文献2参照)。図5はこの加圧による試料導入を行う装置の概略構成図である。密封された容器70内には液体試料71が貯留され、この容器70の上部空間に、ガス導入流路72に設けられたバルブ73を通して窒素ガスが供給される。このとき、容器70内のガス圧は圧力センサ74でモニタされ、このガス圧が例えば100kPaとなるようにバルブ73の開閉が調節される。容器70内の液体試料71はガス圧により押し下げられるから、これに伴い液体試料71に一端が浸漬された試料導入管75を通して液体試料は送出され、質量分析装置のノズル52に到達する。
【0006】
こうした手法は、上述のシリンジポンプを用いた方法に比べて構成が簡単であって、高価な部品を使用しないので廉価で済むという利点がある。しかしながら、試料導入のために比較的多量の試料が必要である。具体的に言うと、上記のように容器70内を加圧して該容器70に貯留されている液体試料71を送出するためには、ガスの導入口や液の導出口を容器70の上面開口を塞ぐ栓部に配置する必要がある。そのため、容器70は構造上或る程度の大きさが必要となり、通常、適切に送液を行うには数十mL程度の液量が必要となる。
【0007】
安価な試料の場合には、このように比較的多量の試料を用意することが容易であるが、高価な試料や標準試料のないサンプル、例えば合成、精製、抽出を行って調製した試料などの場合には、こうした多量の試料を用意することは実際上不可能であることが多い。また、小型のバイアル瓶に収容した状態で販売されるものもあり、そうした試料を別の容器やシリンジに入れ替えると瓶やシリンジ内面に付着する分だけ試料が無駄になることが避けられない。
【0008】
【特許文献1】特開平9−159661号公報
【特許文献2】米国特許第5703360号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題に鑑みて成されたものであって、その目的とするところは、低廉なコストで少量の液体試料を無駄なくイオン源に導入することができる試料導入装置を備える質量分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明は、液体試料を大気圧下でイオン化するイオン源と、該イオン源に液体試料を導入する試料導入手段と、を備える質量分析装置において、前記試料導入手段は、
a)上面開口を有する容器、及び該上面開口を閉塞する閉塞栓、を含む密封容器と、
b)前記密封容器内に所定のガスを圧送するガス供給手段と、
c)前記密封栓に対して前記容器の内部に収容可能なサイズの小型容器を吊り下げ支持する小型容器支持手段と、
d)前記小型容器支持手段により液体試料が収容された小型容器が吊り下げ支持された状態において、前記ガス供給手段により供給されるガスによる加圧により押される前記液体試料を送出するために、一端が前記小型容器内の液体試料中に浸漬され、他端が前記容器の外部に位置する送液経路と、
を備えることを特徴としている。
【0011】
本発明に係る質量分析装置において、例えば上記小型容器支持手段は、閉塞栓に穿設された孔に圧入された棒状又は筒状の部材の下端に小型容器の上部を保持する保持部が設けられた構成とすることができる。また、この場合、上記送液経路の一部(少なくとも容器内に位置する部分)は閉塞栓に穿設された孔に圧入された筒状の部材の中に挿通された管路とすることができる。
【0012】
小型容器支持手段が小型容器を吊り下げ支持する際に、その小型容器の内部と密封容器の内部とは、例えば小型容器の上面開口を被覆する栓や蓋などに形成された開口部を通して連通する。従って、液体試料が収容された小型容器が小型容器支持手段により吊り下げ支持された状態であるとき、ガス供給手段により密封容器内にガスが供給され、該容器内のガス圧が高まると、小型容器内のガス圧も同様に高まる。そして、小型容器内の液体試料はガス圧により押し下げられ、液体試料は送液経路中に押し上げられて質量分析装置のイオン源に送出される。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る質量分析装置によれば、密封容器の容積よりも格段に内容積の小さな小型容器に収容されている少量の液体試料を加圧によりイオン源へ導入することができる。これにより、シリンジポンプのような比較的高価な装置を利用することなく、少量の液体試料の直接導入、つまりインフュージョン分析が可能となる。また、小型のバイアル瓶に収容されて市販されている試料(標準試料)などを別の容器やシリンジなどに移し替えることなく、小型のバイアル瓶のままで密封容器内にセットして試料導入に供することができる。従って、試料の無駄を減らして有効に試料を分析することができ、作業の手間も軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施例であるエレクトロスプレイイオン化質量分析装置について図面を参照して説明する。
【0015】
図4は本実施例の質量分析装置の要部の概略構成図である。この質量分析装置は、例えば図示しない液体クロマトグラフのカラム出口端に接続されるノズル52が配設されて成るイオン化室51と、四重極質量フィルタ62及びイオン検出器63が内設された分析室61との間に、それぞれ隔壁で隔てられた第1中間真空室54及び第2中間真空室58が設けられている。イオン化室51と第1中間真空室54との間は細径の脱溶媒パイプ53を介して、第1中間真空室54と第2中間真空室58との間は頂部に極小径の通過孔(オリフィス)57を有するスキマー56を介してのみ連通している。
【0016】
イオン源であるイオン化室51の内部は、ノズル52から連続的に供給される液体試料の気化分子によりほぼ大気圧雰囲気(約105[Pa])になっており、次段の第1中間真空室54の内部はロータリポンプ64により約102[Pa]の低真空状態まで真空排気される。また、その次段の第2中間真空室58の内部はターボ分子ポンプ65により約10-1〜10-2[Pa]の中真空状態まで真空排気され、最終段の分析室61内は別のターボ分子ポンプ66により約10-3〜10-4[Pa]の高真空状態まで真空排気される。即ち、イオン化室51から分析室61に向かって各室毎に真空度を段階的に高くした多段差動排気系の構成とすることによって、最終段の分析室61内を高真空状態に維持している。
【0017】
この質量分析装置の動作を概略的に説明する。液体試料はノズル52の先端から電荷を付与されながらイオン化室51内に噴霧(エレクトロスプレイ)され、液滴中の溶媒が蒸発する過程で試料分子はイオン化される。イオンが入り混じった液滴はイオン化室51と第1中間真空室54との差圧により脱溶媒パイプ53中に引き込まれ、加熱されている脱溶媒パイプ53を通過する過程で更に溶媒の気化が促進されてイオン化が進む。第1中間真空室54内には第1レンズ電極55が設けられており、それによって発生する電場により脱溶媒パイプ53を介してのイオンの引き込みを助けるとともに、イオンをスキマー56のオリフィス57近傍に収束させる。
【0018】
オリフィス57を通過して第2中間真空室58に導入されたイオンは、8本のロッド電極により構成されるオクタポール型の第2レンズ電極59により収束されて分析室61へと送られる。分析室61では、特定の質量(厳密には質量電荷比)を有するイオンのみが四重極質量フィルタ62の長軸方向の空間を通り抜け、それ以外の質量を持つイオンは途中で発散する。そして、四重極質量フィルタ62を通り抜けたイオンはイオン検出器63に到達し、イオン検出器63ではそのイオン量に応じたイオン強度信号を出力する。
【0019】
上記質量分析装置の校正を行ったり調整したりする際には、図4に示すように、ノズル52の前段に試料導入装置1を接続し、標準試料をノズル52に直接的に導入して質量分析を行う。この試料導入装置1は既に説明した図5に示したような加圧送液式のものであるが、大きな内容積を持つ容器からだけでなく、小型容器からも試料の送出が可能であるように特徴的な構造を有している。この点について、図1〜図3を参照して説明する。図1〜図3はいずれも、本実施例の質量分析装置が備える試料導入装置1における密封容器の上部の概略縦断面図である。
【0020】
数十mL(又はそれ以上)程度の内容積を有するサンプルボトル10は円形状の上面開口を有する。サンプルボトル10の上面開口の内側には、略円柱形状であって外周に略水平のフランジ11aが延設された、例えば合成樹脂製の閉塞栓11が、フランジ11aとサンプルボトル10の上縁端部との間に円環状のシール部材12を挟んで嵌入されている。さらに、その閉塞栓11の上には円環状で外周縁端に扁平円筒状部を有するキャップ13が、サンプルボトル10の上部に螺入されることで固定されている。このキャップ13を強く締め込むことにより、シール部材12が圧潰されるためにサンプルボトル10の密閉性は一層良好になり、後述するようなガス供給の際のガス漏れを軽減することができる。
【0021】
閉塞栓11には上下に貫通する略円柱形状の連通孔11bが形成されており、連通孔11bの上部にはガスチューブジョイント22を介してガスチューブ21が接続されている。これにより、ガスチューブ21、連通孔11bを通してサンプルボトル10内には所定のガス(ここでは窒素ガス)が供給されるようになっている。また、閉塞栓11には上下方向の略中央から上方及び下方に向かってそれぞれテーパ状に広がりを有する形状の連通孔11cが形成されている。連通孔11cには、筒状の配管保持部材18が上方から圧入され、その配管保持部材18の内側にはノズル52に至る試料導入用配管17が、その端面を閉塞栓11の上下方向のほぼ中央付近まで突出させた状態でナット19の締め付けにより固定されている。
【0022】
図1に示すように、サンプルボトル10内に収容された比較的多量の液体試料30を加圧送液する場合、連通孔11cには、上記配管保持部材18と同様の筒状の配管保持部材15が下方から圧入され、その配管保持部材15の内側には下端がサンプルボトル10の内底部近傍(図示しない)まで延びる試料吸い込み配管14が、その上端面を閉塞栓11の上下方向のほぼ中央付近まで突出させた状態でナット16の締め付けにより固定されている。このとき試料吸い込み配管14の上端面と試料導入用配管17の下面とは連通孔11c内の位置20で突き合わされた状態となっており、これによって試料吸い込み配管14と試料導入用配管17とは実質的に一体化されてサンプルボトル10内からノズル52まで至る送液経路を形成している。
【0023】
図1の状態でガスチューブ21、連通孔11bを通してサンプルボトル10内に窒素ガスが供給されてサンプルボトル10内のガス圧が上昇すると、図1中に白抜き矢印で示すように液体試料30に対しガスの押圧力が掛かり、液体試料30は試料吸い込み配管14中に押し上げられ、試料導入用配管17を経てノズル52まで送られる。これは、従来と同様の加圧送液動作である。
【0024】
内容積が1〜数mL程度の小型のサンプルバイアル31に収容されている液体試料32を加圧送液する場合には、図2に示すように、上記配管保持部材15の代わりに、バイアル取付用アダプタ40aを下部に備えるバイアル用配管保持部材40を用いる。バイアル取付用アダプタ40aの下端は、サンプルバイアル31の上面開口の内側に挿入され、外側から被せられたナット41をサンプルバイアル31の上端に螺合させることで、サンプルバイアル31を閉塞栓11に対し吊り下げ保持可能としている。また、バイアル取付用アダプタ40aにはその側周面と下面とを連通する通気孔40bが形成されており、サンプルバイアル31が吊り下げ保持された状態でサンプルバイアル31の内部空間とサンプルボトル10の内部空間とは通気孔40bを介して連通している。また、バイアル用配管保持部材40の内側にも試料吸い込み配管41が挿通されるが、その長さは下端がサンプルバイアル31の内底部付近に位置するように決められている。
【0025】
図2の状態でガスチューブ21、連通孔11bを通してサンプルボトル10内に窒素ガスが供給されてサンプルボトル10内のガス圧が上昇すると、通気孔40cを通してサンプルバイアル31の内部空間にも窒素ガスが送り込まれるから、サンプルボトル10内のガス圧とサンプルバイアル31内のガス圧とはほぼ同じとなる。これによって、図2中に白抜き矢印で示すように液体試料32に対してガスの押圧力が掛かり、液体試料32は試料吸い込み配管41中に押し上げられ、試料導入用配管17を経てノズル52まで送られる。即ち、サンプルバイアル31内に収容されている液体試料を質量分析装置のイオン化室51に送り込んで、質量分析に供することができる。
【0026】
なお、使用するサンプルバイアル31のサイズが複数ある場合には、それに合わせたバイアル取付用アダプタ40aを有するバイアル用配管保持部材40を用意して、適宜交換すればよい。
【0027】
また、場合によっては、より少量(例えばμLオーダー)の試料を扱うサンプルバイアルを用いる必要がある場合もあるが、その場合には、図3に示すように、そうした極少量用サンプルバイアル45自体を、閉塞栓11に対して吊り下げ支持されたサンプルバイアル31の内側に収容するようにすればよい。但し、試料吸い込み配管41の外径が大きいと極少量用サンプルバイアル45の底部に残った試料を適切に吸い上げられなくなるおそれがあるから、その場合には、少なくとも下端部の外径が小さくなるように径を絞った形状の試料吸い込み配管を用いるとよい。
【0028】
なお、上記実施例は本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正及び追加を行っても本発明に包含されることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る質量分析装置に含まれる試料導入装置の一実施例における密封容器の上部の概略縦断面図。
【図2】本発明に係る質量分析装置に含まれる試料導入装置の一実施例における密封容器の上部の概略縦断面図。
【図3】本発明に係る質量分析装置に含まれる試料導入装置の一実施例における密封容器の上部の概略縦断面図。
【図4】本実施例の質量分析装置の要部の概略構成図。
【図5】加圧送液によりイオン源への試料導入を行う装置の概略構成図。
【符号の説明】
【0030】
1…試料導入装置
10…容器
11…閉塞栓
11a…フランジ
11b、11c…連通孔
12…シール部材
13…キャップ
14、41…試料吸い込み配管
15…配管保持部材
16、19、41…ナット
17…試料導入用配管
18…配管保持部材
21…ガスチューブ
22…ガスチューブジョイント
30…液体試料
31…サンプルバイアル
32…液体試料
40…バイアル用配管保持部材
40a…バイアル取付用アダプタ
40b…通気孔
45…極少量用サンプルバイアル
51…イオン化室
52…ノズル
72…ガス導入流路
73…バルブ
74…圧力センサ
75…試料導入管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料を大気圧下でイオン化するイオン源と、該イオン源に液体試料を導入する試料導入手段と、を備える質量分析装置において、前記試料導入手段は、
a)上面開口を有する容器、及び該上面開口を閉塞する閉塞栓、を含む密封容器と、
b)前記密封容器内に所定のガスを圧送するガス供給手段と、
c)前記密封栓に対して前記容器の内部に収容可能なサイズの小型容器を吊り下げ支持する小型容器支持手段と、
d)前記小型容器支持手段により液体試料が収容された小型容器が吊り下げ支持された状態において、前記ガス供給手段により供給されるガスによる加圧により押される前記液体試料を送出するために、一端が前記小型容器内の液体試料中に浸漬され、他端が前記容器の外部に位置する送液経路と、
を備えることを特徴とする質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−281524(P2008−281524A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128125(P2007−128125)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】