赤外スペクトルからの酸点の量・強度算出方法
【課題】アルカリあるいはアルカリ土類型ゼオライトにおいてルイス酸点に吸着した NH3のIR−TPDを正確に算出する方法を提供する。
【解決手段】アンモニア吸着後373Kで測定したスペクトルをA(373)として、温度Tにおける吸着アンモニアのスペクトルに与える寄与をA(373)−A(T)と仮定し、A(373)−A(T)の1600cm−1付近の吸収バンド面積の温度による微分d{A(373)−A(T)}/dTによってルイス酸点に吸着したNH3のIR−TPDを求める。このIR−TPDと、ブレンステッド酸点に吸着したNH4のIR−TPDにそれぞれ適当な係数を乗じ、合計が質量分析計で測定した気相アンモニア濃度と一致させ、脱離アンモニア中のルイス酸の寄与分を知ることによってルイス酸点の量と強度を算出する。
【解決手段】アンモニア吸着後373Kで測定したスペクトルをA(373)として、温度Tにおける吸着アンモニアのスペクトルに与える寄与をA(373)−A(T)と仮定し、A(373)−A(T)の1600cm−1付近の吸収バンド面積の温度による微分d{A(373)−A(T)}/dTによってルイス酸点に吸着したNH3のIR−TPDを求める。このIR−TPDと、ブレンステッド酸点に吸着したNH4のIR−TPDにそれぞれ適当な係数を乗じ、合計が質量分析計で測定した気相アンモニア濃度と一致させ、脱離アンモニア中のルイス酸の寄与分を知ることによってルイス酸点の量と強度を算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸性質のうち、ブレンステッド・ルイス酸点それぞれの量と強度を決定するためのアンモニアIRMS−TPD(赤外−質量分析−昇温脱離)法のうち、アルカリあるいはアルカリ土類含有ゼオライトにおいてルイス酸点に吸着したNH3を定量し、ブレンステッド・ルイス酸点それぞれの量と強度を算出する分野に属する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアIRMS−TPD法は、例えばゼオライトや硫酸化ジルコニアに代表されるような固体酸の酸性質、詳しくはブレンステッド・ルイス酸点それぞれの量と強度を迅速・簡便・正確に測定できる唯一の方法であり、発明者らが開発したものである。
【0003】
この方法は、固体酸の薄い円盤を赤外測定セル内で前処理後、ヘリウム流中で373Kから773Kまで10K・min−1で昇温しながら赤外スペクトルを10K毎に測定してこれをN(T)とし、その後373Kでアンモニアを吸着させ、再びヘリウム流中で373Kから773Kまで10K・min−1で昇温しながら赤外スペクトルを10K毎に測定してこれをA(T)とし、A(T)−N(T)を図示して1600cm−1と1430cm−1付近に出現する吸着アンモニアに由来する吸収バンドの温度変化を観察し、1600cm−1がルイス酸点に吸着したNH3、1430cm−1がブレンステッド酸点に吸着したNH4に由来することを利用し、これらのバンド強度の温度による微分をIR−TPDとし、これらの酸点からのアンモニア脱離速度の温度依存性を図示する方法である。
【0004】
さらには、アンモニア吸着後に再び昇温する際に出口気体中のアンモニア濃度を質量分析計で測定し、これらのIR−TPDの合計が出口アンモニア濃度と一致するはずであることを利用して、これらのブレンステッド酸・ルイス酸それぞれの量とアンモニア脱離速度の温度依存性を算出し、アンモニア脱離速度の温度依存性から酸強度の指標となるアンモニア吸着熱を算出する方法である。赤外スペクトルにおいては1600cm−1と1430cm−1付近の他にも吸着アンモニアに由来するバンドが現れることがあり、これを用いた解析も可能である。
【0005】
アンモニアIRMS−TPD法のデータ解析は具体的にはつぎのように実施されている。まず、温度Tにおける固体酸の赤外スペクトルをN(T)とする。N(T)の例を図1に示す。温度Tにおけるアンモニア吸着後の固体の赤外スペクトルをA(T)とする。同じサンプルにおけるA(T)の例を図2に示す。また、吸着アンモニアの寄与分A(T)−N(T)を図3に示す。図3に示すように、NH3,NH4の吸収バンドがそれぞれ1600cm−1と1430cm−1付近に現れ、温度の上昇とともに消失している。これらのバンド強度をスペクトル上の面積から定量し、温度の関数として表す。
【0006】
つぎにこの関数をTで微分し、−d{A(T)−N(T)}/dTを図4のように図示する。これがNH3,NH4のIR−TPDである。NH3,NH4の2種についてのIR−TPDをそれぞれ、INH3,INH4とすると、AINH3+BINH4=Cg(ただし、Cg:気相アンモニア濃度、質量スペクトルから測定できる)となるはずである。そこでINH3,INH4,Cgを図に描き、全ての温度で最もよくフィットするA,Bを選ぶ。例を図5に示す。このA,Bはモル吸光係数の逆数に比例し、実験条件に依存する定数を含む係数である。このようにして得られたAINH3,BINH4を温度に対してプロットした図はそれぞれのアンモニア種の脱離速度を示しており、ピークの面積はそれぞれのアンモニア種の量(すなわち、それぞれのアンモニア種を生成した酸点の量)を、またピークの位置や形はそれぞれのアンモニア種の吸着熱(すなわち、酸点の強度)を示している(例えば非特許文献1参照)。
【0007】
以上のように、固体表面の種類(どのアンモニア種を生成するか:NH3はルイス型、NH4はブレンステッド型)の異なる酸点それぞれの量・強度を決定できる。ピーク面積や位置、形からの量や強度の計算方法の詳細は既に発表したとおりである(例えば非特許文献2参照)。
【非特許文献1】M. Niwa, K. Suzuki, N. Katada, T.Kanougi and T. Atoguchi, J. Phys. Chem., B, 109, 18749 (2005)
【非特許文献2】N. Katada, H. Igi, J.-H. Kim and M.Niwa, J. Phys. Chem., B, 101, 5969 (1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
Caなどアルカリあるいはアルカリ土類を含有するゼオライトの赤外スペクトルにおいては、図6および図7に示すように、アンモニアの存在しないときに1600cm−1付近にフェルミ共鳴による吸収バンドが現れる。一方、図8に示すようにアンモニア吸着後にはフェルミ共鳴が起きないのでこのピークは現れない。そこで、従来の技術をそのまま適用すると図9のように差スペクトルに大きな負ピークが現れ、これがNH3種と重なるので正確なIR−TPDの決定ができない。
【0009】
本発明はかかる点に着目してなされたものであり、アルカリあるいはアルカリ土類型ゼオライトにおいても1600cm−1付近の吸着アンモニアによる赤外吸収バンドの強度を正確に評価し、ルイス酸点に吸着したNH3のIR−TPDを正確に算出し、ブレンステッド・ルイス酸点それぞれの量と強度を算出する方法を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、アルカリあるいはアルカリ土類含有ゼオライトのアンモニアIRMS−TPD分析においてルイス酸点に吸着したNH3のIR−TPDを算出するに当たり、アンモニア吸着後373Kで測定したスペクトルをA(373)として、温度Tにおける吸着アンモニアのスペクトルに与える寄与をA(373)−A(T)と仮定し、A(373)−A(T)の1600cm−1付近の吸収バンド面積の温度による微分d{A(373)−A(T)}/dTによってルイス酸点に吸着したNH3のIR−TPDを求めることにより、フェルミ共鳴が現れる場合においてもその影響なく固体酸のブレンステッド・ルイス酸点それぞれの量と強度を算出する方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アルカリあるいはアルカリ土類型ゼオライトにおいてフェルミ共鳴による吸収バンドが現れる場合でも、1600cm−1付近の吸着アンモニアによる赤外吸収バンドの強度を正確に評価し、ルイス酸点に吸着したNH3のIR−TPDを正確に算出でき、ブレンステッド・ルイス酸点それぞれの量と強度を算出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
アルカリあるいはアルカリ土類含有ゼオライトの薄い円盤を赤外測定セル内で前処理後、373Kでアンモニアを吸着させ、ヘリウム流中で373Kから773Kまで10K・min−1で昇温しながら赤外スペクトルを10K毎に測定してこれをA(T)とする。CaHYゼオライトにおける例を図8に示す。
【0013】
アンモニア吸着直後373Kで測定されたスペクトルをA(373)として、A(373)−A(T)を算出する。同じサンプルで算出したA(373)−A(T)を図10に示す。A(373)−A(T)は温度Tまでに脱離したアンモニア種の赤外スペクトルに対する寄与であり、アンモニア吸着後にはフェルミ共鳴は現れないからその影響は全くないはずである。そこで従来法の−d{A(T)−N(T)}/dTに代え、d{A(373)−A(T)}/dTを用いてその後の解析を行うと、フェルミ共鳴が現れる場合においてもその影響なくルイス酸点上のNH3のIR−TPDを求められるはずである。
【0014】
図10に示したスペクトルには、1600−1700cm−1にNH3、1350−1500cm−1にNH4種が観察される。図3とは違い、脱離が進むほどベースラインとの差が開く図である。図10にはフェルミ共鳴の影響が見られず、NH4種のバンド強度(ピーク面積)を正確に評価できることを示している。
【0015】
図10において、各温度のスペクトルA(373)−A(T)の1600−1700cm−1区間の面積を図から測定し、その温度による微分d{A(373)−A(T)}/dTを算出し、温度に対してプロットする。図11にNH3と記した線はこのようにして求めたNH3のIR−TPDである。一方、各温度のスペクトルA(373)−A(T)の1350−1500cm−1区間の面積を図から測定し、その温度による微分d{A(373)−A(T)}/dTを算出し、温度に対してプロットする。図11にNH4と記した線はこのようにして求めたNH4のIR−TPDである。
【0016】
このように、d{A(373)−A(T)}/dTを採用することによってNH3に対してもIR−TPDを算出することができる。
【0017】
このようにして求めたIR−TPDから、次の方法でルイス・ブレンステッド酸点それぞれの量と強度を求めることができる。
【0018】
NH3,NH4の2種についてのIR−TPDをそれぞれ、INH3,INH4とすると、AINH3+BINH4=Cg(ただし、Cg:気相アンモニア濃度、質量スペクトルから測定できる)となるはずである。そこでINH3,INH4,Cgを図に描き、全ての温度でAINH3+BINH4=TとCgが最もよくフィットするようなA,Bを選ぶ。例を図12に示す。このA,Bはモル吸光係数の逆数に比例し、実験条件に依存する定数を含む係数である。このようにして得られたAINH3,BINH4を温度に対してプロットした図はそれぞれのアンモニア種の脱離速度を示しており、ピークの面積はそれぞれのアンモニア種の量(すなわち、それぞれのアンモニア種を生成した酸点の量)を、またピークの位置や形はそれぞれのアンモニア種の吸着熱(すなわち、酸点の強度)を示している。
【0019】
図12に示すようなルイス・ブレンステッド酸点からの脱離ピークの面積、位置、形を基に、次の方法でルイス・ブレンステッド酸点それぞれの量とアンモニア吸着熱を算出することができる。
【0020】
脱離ピークの面積にF/βWを乗じると酸量A0が得られる。ここで、Fは測定時のキャリアガスの流量、βは昇温速度、Wは試料重量である。
【0021】
また、図からピーク頂点温度Tmと、ピーク頂点における被覆率(ピーク頂点より右側のピーク面積の全面積に対する比率)θmを読みとると、lnTm−ln(A0W/F)=ΔH/RTm+ln[{β(1−θm)2(ΔH−RTm)}/(P0eΔS/R)]の関係を用いてΔH(アンモニア吸着熱)を算出することができる。ここで、Rは気体定数8.314J・K−1・mol−1、P0は標準状態の圧力105Pa、ΔSはピーク頂点における吸着エントロピーである。ΔSは45J・K−1・mol−1−R{lnx+(1−x)/xln(1−x)}で求めることができる。xはCgmRTm/Pで求めることができる。ここでCgmはピーク頂点のCgで、図から読みとることができる。Pは測定時の系内圧力である。
【0022】
1430cm−1付近のNH4種のIR−TPDを求めるに当たっては、フェルミ共鳴の影響を受けないので、従来法(例えば非特許文献1参照)によって行うこともできる。すなわち、(A)1600cm−1付近のNH3種のIR−TPDを本発明によって算出し、1430cm−1付近のNH4種のIR−TPDを従来法によって算出する方法と、(B)
1600cm−1付近のNH3種と1430cm−1付近のNH4種の両方のIR−TPDを本発明によって算出する方法のどちらでもよい。
【実施例】
【0023】
以下に、CaHY型ゼオライトにおける本発明の実施例を示す。ただし本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
触媒化成工業株式会社製造のNaY型ゼオライトを既報(N.Katada,Y.Kageyama
and M.Niwa,J.Phys.Chem.,B,104,7561(2000))に従いNH4型にイオン交換した後、その1gを0.0011mol・dm−3のCa(NO3)2水溶液500cm3に投じ、湯浴中353Kで4時間攪拌し、室温まで放冷し、吸引濾過した。得られた固体をイオン交換水で洗浄した後、373Kで乾燥してCaNH4Y型ゼオライトを得た。
【0025】
CaNH4Y型ゼオライトの7.6mgを直径10mmの赤外分光試料作成用のディスク成型器を用いて直径10mm、厚さ数百μm程度のディスク(円盤)に成形した。ディスクを有限会社幕張理化学硝子製作所製造販売の赤外用横型セルにセットし、セルをPerkin Elmer社製造販売の赤外分光計Spectrum Oneの試料室に固定した。これらの操作は既に公開したとおり(非特許文献2参照)である。
【0026】
セル内を真空脱気した後にセル付属の電気炉を用いて773Kまで加熱し、773Kで1時間保った。赤外スペクトルによるとこの過程でアンモニアが脱離し、CaHY型ゼオライトが得られたことがわかった。温度を373Kまで下げ、ヘリウムを0.08mmol・s−1の速度で供給しつつ、セル出口を真空ポンプで吸引し、セル内の圧力を3.3kPaに保った。ヘリウムを供給しつつ、温度を10K・min−1の速度で773Kまで昇温し、1分毎、すなわち10K毎に赤外分光計で赤外スペクトルを測定した。温度Tで測定されたスペクトルをN(T)とした。
【0027】
温度を373Kまで下げ、セル内を真空脱気し、セル内に気体アンモニアを圧力が13.3kPaになるまで導入し、系内を密閉して30分保った。その後セル内を真空脱気し、ヘリウムを0.08mmol・s−1の速度で供給しつつ、セル出口を真空ポンプで吸引し、セル内の圧力を3.3kPaに保った。ヘリウムを供給しつつ、温度を10K・min−1の速度で773Kまで昇温し、1分毎、すなわち10K毎に赤外分光計で赤外スペクトルを測定した。温度Tで測定されたスペクトルをA(T)とした。同時に出口気体中のアンモニア濃度を測定し、気相アンモニア濃度CgのTに対する変化を記録した。
【0028】
本実施例におけるA(T)を図8に示す。
アンモニア吸着直後373Kで測定されたスペクトルをA(373)として、A(373)−A(T)を算出した。A(373)−A(T)を図10に示す。図10に示したスペクトルには、1600−1700cm−1にNH3、1350−1500cm−1にNH4種が観察された。図10において、各温度のスペクトルA(373)−A(T)の1600−1700cm−1区間の面積を図から測定し、その温度による微分d{A(373)−A(T)}/dTを算出し、温度に対してプロットした。図11のNH3と記した線はこのようにして求めたNH3のIR−TPDである。一方、各温度のスペクトルA(373)−A(T)の1350−1500cm−1区間の面積を図から測定し、その温度による微分d{A(373)−A(T)}/dTを算出し、温度に対してプロットした。図11のNH4と記した線はこのようにして求めたNH4のIR−TPDである。
【0029】
NH3,NH4の2種についてのIR−TPDをそれぞれ、INH3,INH4とした。つぎにAINH3+BINH4=Tとして、全温度域にわたってもっともよくTとCg(ただし、Cg:気相アンモニア濃度、質量スペクトルから測定)が一致するA,Bを選んだ。A=5.10×10−5、B=1.80×10−5とすると、図12に示すようにTとCgがよく一致した。
【0030】
このようにして求めたAINH3のピーク面積は、図から読みとると5.68×10−3mol・K−1であった。実験条件からF=6.08×10−5m3・s−1、β=0.167K・s−1、W=7.6×10−6kgなので、ルイス酸量A0は5.68×10−3×6.08×10−5/(0.167×7.6×10−6)=0.27mol・kg−1であることがわかった。
【0031】
また、図から読みとるとTm=433K、Cgm=2.1×10−4mol・m−3であった。R=8.314J・K−1・mol−1、実験条件からP=3.3×103Paであるから、x=2.1×10−4×8.314×433/3.3×103=2.62×10−4である。したがってΔS=45−8.314{ln2.62×10−4+(1−2.62×10−4)/2.62×10−4ln(1−2.62×10−4)}=122J・K−1・mol−1である。ここでP0=105Paとし、ΔH=97.9kJ・mol−1=9.79×104J・mol−1を仮定すると、lnTm−ln(A0W/F)=9.46、ΔH/RTm+ln[{β(1−θm)2(ΔH−RTm)}/(P0eΔS/R)]=9.46となって、lnTm−ln(A0W/F)=ΔH/RTm+ln[{β(1−θm)2(ΔH−RTm)}/(P0eΔS/R)]の関係が成立するから、ΔH=97.9kJ・mol−1であることがわかった。
【0032】
以上のように、この試料のルイス酸の酸量は0.27mol・kg−1、アンモニア吸着熱は97.9kJ・mol−1であることがわかった。
【0033】
同様に、BINH4のピーク面積からブレンステッド酸量が1.05mol・kg−1、ピーク頂点温度、ピーク頂点における被覆率、ピーク頂点のCgからブレンステッド酸点のアンモニア吸着熱が113kJ・mol−1であることがわかった。このようにルイス・ブレンステッド酸点それぞれの量とアンモニア吸着熱を算出することができた。
【比較例】
【0034】
赤外スペクトルに対するアンモニアの寄与分を図示するため、従来の方法(非特許文献1)に基づいて、実施例で示した測定から、A(T)−N(T)を求め、図9に示す。1620cm−1付近に偽の負ピークが現れ、NH3種の吸収バンドに重なっているので、従来法によってはバンド面積を求めるのが不可能であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によって固体酸のブレンステッド・ルイス酸点の量と強度を算出することができ、これを元に固体酸触媒の研究開発が促進される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】in−situ調製HYゼオライトを773Kで脱気後、He流(0.08mmol・s−1)中で373Kから10K・min−1で773Kまで昇温中に得られたIRスペクトルN(T)。
【図2】図1の測定後、373Kでアンモニアを吸着させ、その後He流(0.08mmol・s−1)中で373Kから10K・min−1で773Kまで昇温中に得られたIRスペクトルA(T)。
【図3】図2-図1の差スペクトルA(T)−N(T)。
【図4】両種のIRバンド面積の減少速度−d{A(T)−N(T)}/dTの温度に対するプロット。
【図5】2.81×10−4INH3(L)、2.14×10−5INH4(B)、これらの合計(T)、Cgそれぞれの温度と気相アンモニア濃度の関係を示す図。
【図6】in−situ CaHYゼオライトを773Kで脱気後、He流(0.08mmol・s−1)中で373Kから10K・min−1で773Kまで昇温中に得られたIRスペクトルN(T)。
【図7】図6の拡大図。1620cm−1付近の、低温のみに現れるピークがフェルミ共鳴。
【図8】図7の測定後、373Kでアンモニアを吸着させ、その後He流(0.08mmol・s−1)中で373Kから10K・min−1で773Kまで昇温中に得られたIRスペクトルA(T)。
【図9】図8-図7の差スペクトル。1620cm−1付近に偽の負ピークが現れ、NH3種の正バンドを妨害して定量的な解析が不可能となっている。
【図10】図7のスペクトルを基にしたA(373)−A(T)。
【図11】両種のA(373)−A(T)バンド面積の増加速度d{A(373)−A(T)}/dTの温度に対するプロット。
【図12】5.10×10−5INH3(L)、1.80×10−5INH4(B)、これらの合計(T)、Cgそれぞれの温度と気相アンモニア濃度の関係を示す図。
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸性質のうち、ブレンステッド・ルイス酸点それぞれの量と強度を決定するためのアンモニアIRMS−TPD(赤外−質量分析−昇温脱離)法のうち、アルカリあるいはアルカリ土類含有ゼオライトにおいてルイス酸点に吸着したNH3を定量し、ブレンステッド・ルイス酸点それぞれの量と強度を算出する分野に属する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアIRMS−TPD法は、例えばゼオライトや硫酸化ジルコニアに代表されるような固体酸の酸性質、詳しくはブレンステッド・ルイス酸点それぞれの量と強度を迅速・簡便・正確に測定できる唯一の方法であり、発明者らが開発したものである。
【0003】
この方法は、固体酸の薄い円盤を赤外測定セル内で前処理後、ヘリウム流中で373Kから773Kまで10K・min−1で昇温しながら赤外スペクトルを10K毎に測定してこれをN(T)とし、その後373Kでアンモニアを吸着させ、再びヘリウム流中で373Kから773Kまで10K・min−1で昇温しながら赤外スペクトルを10K毎に測定してこれをA(T)とし、A(T)−N(T)を図示して1600cm−1と1430cm−1付近に出現する吸着アンモニアに由来する吸収バンドの温度変化を観察し、1600cm−1がルイス酸点に吸着したNH3、1430cm−1がブレンステッド酸点に吸着したNH4に由来することを利用し、これらのバンド強度の温度による微分をIR−TPDとし、これらの酸点からのアンモニア脱離速度の温度依存性を図示する方法である。
【0004】
さらには、アンモニア吸着後に再び昇温する際に出口気体中のアンモニア濃度を質量分析計で測定し、これらのIR−TPDの合計が出口アンモニア濃度と一致するはずであることを利用して、これらのブレンステッド酸・ルイス酸それぞれの量とアンモニア脱離速度の温度依存性を算出し、アンモニア脱離速度の温度依存性から酸強度の指標となるアンモニア吸着熱を算出する方法である。赤外スペクトルにおいては1600cm−1と1430cm−1付近の他にも吸着アンモニアに由来するバンドが現れることがあり、これを用いた解析も可能である。
【0005】
アンモニアIRMS−TPD法のデータ解析は具体的にはつぎのように実施されている。まず、温度Tにおける固体酸の赤外スペクトルをN(T)とする。N(T)の例を図1に示す。温度Tにおけるアンモニア吸着後の固体の赤外スペクトルをA(T)とする。同じサンプルにおけるA(T)の例を図2に示す。また、吸着アンモニアの寄与分A(T)−N(T)を図3に示す。図3に示すように、NH3,NH4の吸収バンドがそれぞれ1600cm−1と1430cm−1付近に現れ、温度の上昇とともに消失している。これらのバンド強度をスペクトル上の面積から定量し、温度の関数として表す。
【0006】
つぎにこの関数をTで微分し、−d{A(T)−N(T)}/dTを図4のように図示する。これがNH3,NH4のIR−TPDである。NH3,NH4の2種についてのIR−TPDをそれぞれ、INH3,INH4とすると、AINH3+BINH4=Cg(ただし、Cg:気相アンモニア濃度、質量スペクトルから測定できる)となるはずである。そこでINH3,INH4,Cgを図に描き、全ての温度で最もよくフィットするA,Bを選ぶ。例を図5に示す。このA,Bはモル吸光係数の逆数に比例し、実験条件に依存する定数を含む係数である。このようにして得られたAINH3,BINH4を温度に対してプロットした図はそれぞれのアンモニア種の脱離速度を示しており、ピークの面積はそれぞれのアンモニア種の量(すなわち、それぞれのアンモニア種を生成した酸点の量)を、またピークの位置や形はそれぞれのアンモニア種の吸着熱(すなわち、酸点の強度)を示している(例えば非特許文献1参照)。
【0007】
以上のように、固体表面の種類(どのアンモニア種を生成するか:NH3はルイス型、NH4はブレンステッド型)の異なる酸点それぞれの量・強度を決定できる。ピーク面積や位置、形からの量や強度の計算方法の詳細は既に発表したとおりである(例えば非特許文献2参照)。
【非特許文献1】M. Niwa, K. Suzuki, N. Katada, T.Kanougi and T. Atoguchi, J. Phys. Chem., B, 109, 18749 (2005)
【非特許文献2】N. Katada, H. Igi, J.-H. Kim and M.Niwa, J. Phys. Chem., B, 101, 5969 (1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
Caなどアルカリあるいはアルカリ土類を含有するゼオライトの赤外スペクトルにおいては、図6および図7に示すように、アンモニアの存在しないときに1600cm−1付近にフェルミ共鳴による吸収バンドが現れる。一方、図8に示すようにアンモニア吸着後にはフェルミ共鳴が起きないのでこのピークは現れない。そこで、従来の技術をそのまま適用すると図9のように差スペクトルに大きな負ピークが現れ、これがNH3種と重なるので正確なIR−TPDの決定ができない。
【0009】
本発明はかかる点に着目してなされたものであり、アルカリあるいはアルカリ土類型ゼオライトにおいても1600cm−1付近の吸着アンモニアによる赤外吸収バンドの強度を正確に評価し、ルイス酸点に吸着したNH3のIR−TPDを正確に算出し、ブレンステッド・ルイス酸点それぞれの量と強度を算出する方法を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、アルカリあるいはアルカリ土類含有ゼオライトのアンモニアIRMS−TPD分析においてルイス酸点に吸着したNH3のIR−TPDを算出するに当たり、アンモニア吸着後373Kで測定したスペクトルをA(373)として、温度Tにおける吸着アンモニアのスペクトルに与える寄与をA(373)−A(T)と仮定し、A(373)−A(T)の1600cm−1付近の吸収バンド面積の温度による微分d{A(373)−A(T)}/dTによってルイス酸点に吸着したNH3のIR−TPDを求めることにより、フェルミ共鳴が現れる場合においてもその影響なく固体酸のブレンステッド・ルイス酸点それぞれの量と強度を算出する方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アルカリあるいはアルカリ土類型ゼオライトにおいてフェルミ共鳴による吸収バンドが現れる場合でも、1600cm−1付近の吸着アンモニアによる赤外吸収バンドの強度を正確に評価し、ルイス酸点に吸着したNH3のIR−TPDを正確に算出でき、ブレンステッド・ルイス酸点それぞれの量と強度を算出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
アルカリあるいはアルカリ土類含有ゼオライトの薄い円盤を赤外測定セル内で前処理後、373Kでアンモニアを吸着させ、ヘリウム流中で373Kから773Kまで10K・min−1で昇温しながら赤外スペクトルを10K毎に測定してこれをA(T)とする。CaHYゼオライトにおける例を図8に示す。
【0013】
アンモニア吸着直後373Kで測定されたスペクトルをA(373)として、A(373)−A(T)を算出する。同じサンプルで算出したA(373)−A(T)を図10に示す。A(373)−A(T)は温度Tまでに脱離したアンモニア種の赤外スペクトルに対する寄与であり、アンモニア吸着後にはフェルミ共鳴は現れないからその影響は全くないはずである。そこで従来法の−d{A(T)−N(T)}/dTに代え、d{A(373)−A(T)}/dTを用いてその後の解析を行うと、フェルミ共鳴が現れる場合においてもその影響なくルイス酸点上のNH3のIR−TPDを求められるはずである。
【0014】
図10に示したスペクトルには、1600−1700cm−1にNH3、1350−1500cm−1にNH4種が観察される。図3とは違い、脱離が進むほどベースラインとの差が開く図である。図10にはフェルミ共鳴の影響が見られず、NH4種のバンド強度(ピーク面積)を正確に評価できることを示している。
【0015】
図10において、各温度のスペクトルA(373)−A(T)の1600−1700cm−1区間の面積を図から測定し、その温度による微分d{A(373)−A(T)}/dTを算出し、温度に対してプロットする。図11にNH3と記した線はこのようにして求めたNH3のIR−TPDである。一方、各温度のスペクトルA(373)−A(T)の1350−1500cm−1区間の面積を図から測定し、その温度による微分d{A(373)−A(T)}/dTを算出し、温度に対してプロットする。図11にNH4と記した線はこのようにして求めたNH4のIR−TPDである。
【0016】
このように、d{A(373)−A(T)}/dTを採用することによってNH3に対してもIR−TPDを算出することができる。
【0017】
このようにして求めたIR−TPDから、次の方法でルイス・ブレンステッド酸点それぞれの量と強度を求めることができる。
【0018】
NH3,NH4の2種についてのIR−TPDをそれぞれ、INH3,INH4とすると、AINH3+BINH4=Cg(ただし、Cg:気相アンモニア濃度、質量スペクトルから測定できる)となるはずである。そこでINH3,INH4,Cgを図に描き、全ての温度でAINH3+BINH4=TとCgが最もよくフィットするようなA,Bを選ぶ。例を図12に示す。このA,Bはモル吸光係数の逆数に比例し、実験条件に依存する定数を含む係数である。このようにして得られたAINH3,BINH4を温度に対してプロットした図はそれぞれのアンモニア種の脱離速度を示しており、ピークの面積はそれぞれのアンモニア種の量(すなわち、それぞれのアンモニア種を生成した酸点の量)を、またピークの位置や形はそれぞれのアンモニア種の吸着熱(すなわち、酸点の強度)を示している。
【0019】
図12に示すようなルイス・ブレンステッド酸点からの脱離ピークの面積、位置、形を基に、次の方法でルイス・ブレンステッド酸点それぞれの量とアンモニア吸着熱を算出することができる。
【0020】
脱離ピークの面積にF/βWを乗じると酸量A0が得られる。ここで、Fは測定時のキャリアガスの流量、βは昇温速度、Wは試料重量である。
【0021】
また、図からピーク頂点温度Tmと、ピーク頂点における被覆率(ピーク頂点より右側のピーク面積の全面積に対する比率)θmを読みとると、lnTm−ln(A0W/F)=ΔH/RTm+ln[{β(1−θm)2(ΔH−RTm)}/(P0eΔS/R)]の関係を用いてΔH(アンモニア吸着熱)を算出することができる。ここで、Rは気体定数8.314J・K−1・mol−1、P0は標準状態の圧力105Pa、ΔSはピーク頂点における吸着エントロピーである。ΔSは45J・K−1・mol−1−R{lnx+(1−x)/xln(1−x)}で求めることができる。xはCgmRTm/Pで求めることができる。ここでCgmはピーク頂点のCgで、図から読みとることができる。Pは測定時の系内圧力である。
【0022】
1430cm−1付近のNH4種のIR−TPDを求めるに当たっては、フェルミ共鳴の影響を受けないので、従来法(例えば非特許文献1参照)によって行うこともできる。すなわち、(A)1600cm−1付近のNH3種のIR−TPDを本発明によって算出し、1430cm−1付近のNH4種のIR−TPDを従来法によって算出する方法と、(B)
1600cm−1付近のNH3種と1430cm−1付近のNH4種の両方のIR−TPDを本発明によって算出する方法のどちらでもよい。
【実施例】
【0023】
以下に、CaHY型ゼオライトにおける本発明の実施例を示す。ただし本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
触媒化成工業株式会社製造のNaY型ゼオライトを既報(N.Katada,Y.Kageyama
and M.Niwa,J.Phys.Chem.,B,104,7561(2000))に従いNH4型にイオン交換した後、その1gを0.0011mol・dm−3のCa(NO3)2水溶液500cm3に投じ、湯浴中353Kで4時間攪拌し、室温まで放冷し、吸引濾過した。得られた固体をイオン交換水で洗浄した後、373Kで乾燥してCaNH4Y型ゼオライトを得た。
【0025】
CaNH4Y型ゼオライトの7.6mgを直径10mmの赤外分光試料作成用のディスク成型器を用いて直径10mm、厚さ数百μm程度のディスク(円盤)に成形した。ディスクを有限会社幕張理化学硝子製作所製造販売の赤外用横型セルにセットし、セルをPerkin Elmer社製造販売の赤外分光計Spectrum Oneの試料室に固定した。これらの操作は既に公開したとおり(非特許文献2参照)である。
【0026】
セル内を真空脱気した後にセル付属の電気炉を用いて773Kまで加熱し、773Kで1時間保った。赤外スペクトルによるとこの過程でアンモニアが脱離し、CaHY型ゼオライトが得られたことがわかった。温度を373Kまで下げ、ヘリウムを0.08mmol・s−1の速度で供給しつつ、セル出口を真空ポンプで吸引し、セル内の圧力を3.3kPaに保った。ヘリウムを供給しつつ、温度を10K・min−1の速度で773Kまで昇温し、1分毎、すなわち10K毎に赤外分光計で赤外スペクトルを測定した。温度Tで測定されたスペクトルをN(T)とした。
【0027】
温度を373Kまで下げ、セル内を真空脱気し、セル内に気体アンモニアを圧力が13.3kPaになるまで導入し、系内を密閉して30分保った。その後セル内を真空脱気し、ヘリウムを0.08mmol・s−1の速度で供給しつつ、セル出口を真空ポンプで吸引し、セル内の圧力を3.3kPaに保った。ヘリウムを供給しつつ、温度を10K・min−1の速度で773Kまで昇温し、1分毎、すなわち10K毎に赤外分光計で赤外スペクトルを測定した。温度Tで測定されたスペクトルをA(T)とした。同時に出口気体中のアンモニア濃度を測定し、気相アンモニア濃度CgのTに対する変化を記録した。
【0028】
本実施例におけるA(T)を図8に示す。
アンモニア吸着直後373Kで測定されたスペクトルをA(373)として、A(373)−A(T)を算出した。A(373)−A(T)を図10に示す。図10に示したスペクトルには、1600−1700cm−1にNH3、1350−1500cm−1にNH4種が観察された。図10において、各温度のスペクトルA(373)−A(T)の1600−1700cm−1区間の面積を図から測定し、その温度による微分d{A(373)−A(T)}/dTを算出し、温度に対してプロットした。図11のNH3と記した線はこのようにして求めたNH3のIR−TPDである。一方、各温度のスペクトルA(373)−A(T)の1350−1500cm−1区間の面積を図から測定し、その温度による微分d{A(373)−A(T)}/dTを算出し、温度に対してプロットした。図11のNH4と記した線はこのようにして求めたNH4のIR−TPDである。
【0029】
NH3,NH4の2種についてのIR−TPDをそれぞれ、INH3,INH4とした。つぎにAINH3+BINH4=Tとして、全温度域にわたってもっともよくTとCg(ただし、Cg:気相アンモニア濃度、質量スペクトルから測定)が一致するA,Bを選んだ。A=5.10×10−5、B=1.80×10−5とすると、図12に示すようにTとCgがよく一致した。
【0030】
このようにして求めたAINH3のピーク面積は、図から読みとると5.68×10−3mol・K−1であった。実験条件からF=6.08×10−5m3・s−1、β=0.167K・s−1、W=7.6×10−6kgなので、ルイス酸量A0は5.68×10−3×6.08×10−5/(0.167×7.6×10−6)=0.27mol・kg−1であることがわかった。
【0031】
また、図から読みとるとTm=433K、Cgm=2.1×10−4mol・m−3であった。R=8.314J・K−1・mol−1、実験条件からP=3.3×103Paであるから、x=2.1×10−4×8.314×433/3.3×103=2.62×10−4である。したがってΔS=45−8.314{ln2.62×10−4+(1−2.62×10−4)/2.62×10−4ln(1−2.62×10−4)}=122J・K−1・mol−1である。ここでP0=105Paとし、ΔH=97.9kJ・mol−1=9.79×104J・mol−1を仮定すると、lnTm−ln(A0W/F)=9.46、ΔH/RTm+ln[{β(1−θm)2(ΔH−RTm)}/(P0eΔS/R)]=9.46となって、lnTm−ln(A0W/F)=ΔH/RTm+ln[{β(1−θm)2(ΔH−RTm)}/(P0eΔS/R)]の関係が成立するから、ΔH=97.9kJ・mol−1であることがわかった。
【0032】
以上のように、この試料のルイス酸の酸量は0.27mol・kg−1、アンモニア吸着熱は97.9kJ・mol−1であることがわかった。
【0033】
同様に、BINH4のピーク面積からブレンステッド酸量が1.05mol・kg−1、ピーク頂点温度、ピーク頂点における被覆率、ピーク頂点のCgからブレンステッド酸点のアンモニア吸着熱が113kJ・mol−1であることがわかった。このようにルイス・ブレンステッド酸点それぞれの量とアンモニア吸着熱を算出することができた。
【比較例】
【0034】
赤外スペクトルに対するアンモニアの寄与分を図示するため、従来の方法(非特許文献1)に基づいて、実施例で示した測定から、A(T)−N(T)を求め、図9に示す。1620cm−1付近に偽の負ピークが現れ、NH3種の吸収バンドに重なっているので、従来法によってはバンド面積を求めるのが不可能であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によって固体酸のブレンステッド・ルイス酸点の量と強度を算出することができ、これを元に固体酸触媒の研究開発が促進される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】in−situ調製HYゼオライトを773Kで脱気後、He流(0.08mmol・s−1)中で373Kから10K・min−1で773Kまで昇温中に得られたIRスペクトルN(T)。
【図2】図1の測定後、373Kでアンモニアを吸着させ、その後He流(0.08mmol・s−1)中で373Kから10K・min−1で773Kまで昇温中に得られたIRスペクトルA(T)。
【図3】図2-図1の差スペクトルA(T)−N(T)。
【図4】両種のIRバンド面積の減少速度−d{A(T)−N(T)}/dTの温度に対するプロット。
【図5】2.81×10−4INH3(L)、2.14×10−5INH4(B)、これらの合計(T)、Cgそれぞれの温度と気相アンモニア濃度の関係を示す図。
【図6】in−situ CaHYゼオライトを773Kで脱気後、He流(0.08mmol・s−1)中で373Kから10K・min−1で773Kまで昇温中に得られたIRスペクトルN(T)。
【図7】図6の拡大図。1620cm−1付近の、低温のみに現れるピークがフェルミ共鳴。
【図8】図7の測定後、373Kでアンモニアを吸着させ、その後He流(0.08mmol・s−1)中で373Kから10K・min−1で773Kまで昇温中に得られたIRスペクトルA(T)。
【図9】図8-図7の差スペクトル。1620cm−1付近に偽の負ピークが現れ、NH3種の正バンドを妨害して定量的な解析が不可能となっている。
【図10】図7のスペクトルを基にしたA(373)−A(T)。
【図11】両種のA(373)−A(T)バンド面積の増加速度d{A(373)−A(T)}/dTの温度に対するプロット。
【図12】5.10×10−5INH3(L)、1.80×10−5INH4(B)、これらの合計(T)、Cgそれぞれの温度と気相アンモニア濃度の関係を示す図。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリあるいはアルカリ土類含有ゼオライトのアンモニアIRMS−TPD分析においてルイス酸点に吸着したNH3のIR−TPDを算出するに当たり、アンモニア吸着後373Kで測定したスペクトルをA(373)として、温度Tにおける吸着アンモニアのスペクトルに与える寄与をA(373)−A(T)と仮定し、A(373)−A(T)の1600cm−1付近の吸収バンド面積の温度による微分d{A(373)−A(T)}/dTによってルイス酸点に吸着したNH3のIR−TPDを求めることにより、フェルミ共鳴が現れる場合においてもその影響なく固体酸のブレンステッド・ルイス酸点それぞれの量と強度を算出することを特徴とする赤外スペクトルからの酸点の量・強度算出方法。
【請求項1】
アルカリあるいはアルカリ土類含有ゼオライトのアンモニアIRMS−TPD分析においてルイス酸点に吸着したNH3のIR−TPDを算出するに当たり、アンモニア吸着後373Kで測定したスペクトルをA(373)として、温度Tにおける吸着アンモニアのスペクトルに与える寄与をA(373)−A(T)と仮定し、A(373)−A(T)の1600cm−1付近の吸収バンド面積の温度による微分d{A(373)−A(T)}/dTによってルイス酸点に吸着したNH3のIR−TPDを求めることにより、フェルミ共鳴が現れる場合においてもその影響なく固体酸のブレンステッド・ルイス酸点それぞれの量と強度を算出することを特徴とする赤外スペクトルからの酸点の量・強度算出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−292366(P2008−292366A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−139277(P2007−139277)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【Fターム(参考)】
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